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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1308152
審判番号 不服2014-9089  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-16 
確定日 2015-12-08 
事件の表示 特願2012-502419「抗ヒトデスレセプターDR5モノクローナル抗体AD5-10により認識される抗原決定基、その誘導体およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月 7日国際公開、WO2010/111842、平成24年 9月27日国内公表、特表2012-522492〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成21年(2009年)4月3日を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成25年12月26日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】SEQ ID NO:7に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原審の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願出願前の2009年2月12日に頒布された刊行物である特表2009-505676号公報(以下、「引用例1」という。)には、
(i)「【請求項109】配列番号94、配列番号95及び配列番号96から選択される少なくとも1個のアミノ酸配列から本質的になる、ポリペプチド。
【請求項110】配列番号94、配列番号95及び配列番号96から選択される少なくとも1個のアミノ酸配列と結合する、抗体又は抗原結合ドメイン。
【請求項111】配列番号94、配列番号95及び配列番号96から選択される少なくとも1種類のポリペプチドを動物に投与すること、及びTR-2に結合する抗体を動物から得ることを含む、TR-2に結合する抗体を得る方法。」(請求項109?111、注:下線は当審で付与した。以下同じ。)、と記載されている。

そして、実施例1?5には、C末端ヘキサヒスチジンタグを有する組換えヒトTR-2(TR-2-His)でマウスを免疫するXenoMax又はハイブリドーマ法によって、17種類の抗TR-2抗体(抗体A-Q)を取得し、全ての抗体の遺伝子をクローニングして、重鎖及び軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を決定したことが記載されている。

さらに、実施例6には、
(ii)【実施例6】
エピトープマッピング
記載したある抗TR-2抗体との結合に重要であるTR-2の特定の領域を特定するために、エピトープマッピング試験を実施した。テンプレート源から成熟TR-2のコード配列(MacFarlane、1997)をPCR増幅し、HindIII部位に挿入されると、TR-2配列がアビジン配列のC末端に結合するように配向したニワトリアビジン配列を含むpCEP4ベクター(Invitrogen)にそれをクローニングすることによって、N-アビジン-TR-2構築体を作製した。
・・・・(途中省略)・・・・
N-アビジンを含む12種類の分子、及びヒトTR-2の切断型を以下に示すように合成した。3種類の分子は、ヒトTR-2のC末端のみが切り詰められ(TR-2-1からTR-2-3)、9種類の分子は、ヒトTR-2のN末端とC末端の両方が切り詰められた(TR-2-4からTR-2-13)(図23に模式的に示す。)。」(段落【0280】?【0284】)、
(iii)「2種類のヒト抗TR-2抗体と、ヒトTR-2切断型の各々、ヒトTR-2、及びカニクイザル由来のTR-2との結合を評価した。結合アッセイを以下のように実施した。 ・・・・(途中省略)・・・・ 結果を図24に示す。
2種類の抗体の実測結合パターンは類似していた。観測された最強の結合は、正の対照、ヒトTR-2との結合であり、平均蛍光強度は7349であった。抗体との(蛍光強度で測定した)観測された結合は、切断型TR-2-2で6561-6693であり、切断型TR-2-3及びTR-2-5で3158-3866であり、切断型TR-2-6で1959-2202であり、切断型TR-2-1で662-759であった。抗体とカニクイザル由来の完全長TR-2との(蛍光強度で測定した)結合は666-764であった。結合が実験のバックグラウンドと類似したことから判断して、抗体は、マウス若しくはラットTR-2、切断型TR-2-4、TR-2-7、TR-2-9、TR-2-10、TR-2-11、TR-2-12又はTR-2-13と結合しなかった。
・・・・(途中省略)・・・・ これらの結果によれば、アミノ酸1から15(配列番号94;【化99】ALITQQDLAPQQRAA)及び44から85(配列番号95;【化100】(アミノ酸配列は省略)の領域中の1個以上の残基が、これら2種類のヒト抗TR-2抗体及びヒトTR-2の結合に重要である。」(段落【0400】?【0404】)、と記載されている。

そうすると、上記引用例1記載事項(i)及び(iii)からみて、引用例1には、「TR-2のアミノ酸1から15の配列番号94のアミノ酸配列(ALITQQDLAPQQRAA)からなるポリペプチド」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

また、同じく原審の拒絶の理由で引用文献4として引用された本願出願前の2008年4月3日に頒布された刊行物である特表2008-509938号公報(以下、「引用例4」という。)には、
(iv)「本発明は、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand,TRAIL)受容体(death receptor 5,DR5)に対するモノクローナル抗体(以下、AD5-10と称す)に関する。」(段落【0001】前半)、
(v)「本発明の長所および効果は、マウスをDR5細胞外領域の組み換えタンパク質およびハイブリドーマ技術によって免疫することによって、前記未発表のDR5に対するモノクローナル抗体が得られることである。前記モノクローナル抗体のサブタイプは、IgG3κであり、重鎖および軽鎖のCDR領域に新規なアミノ酸配列を有する。前記モノクローナル抗体は体外(in vitro)において、ヒト原発性正常リンパ球に毒性を与えることなく、各種腫瘍細胞にアポトーシスを誘発することができ、また、体内(in vivo)で動物の臓器に毒性および副作用を与えることなく、ヒトの肝臓癌、肺癌および白血病細胞の形成及び成長の抑制に顕著な活性を示す。さらに、前記モノクローナル抗体は安全で効果的な、新規の抗腫瘍薬、および抗AIDS薬として開発される可能性があることを示している。
他の国内および外国において特許化された同様の生産物と比較して、サブタイプがIgG3κであり、TRAILと非競合的にDR5と結合し、TRAILと共に相乗的に殺腫瘍活性を高める、前記モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の新規アミノ酸配列は、まだ報告されておらず、当業者にとって容易ではない。」(段落【0038】?【0039】)、と記載されている。

3.対比
本願明細書の段落【0009】には、
「発明の概要
本発明の第1局面は、コアペプチド:QDLAP (SEQ ID No: 1)と名付けられたアミノ酸配列を含むポリペプチドおよびその誘導体を提供することであり、前記ポリペプチドおよびその誘導体は、デスレセプターDR5のN末端領域内のアミノ酸残基番号8?12と同一の配列を共有しているか、または前記ポリペプチドおよびその誘導体は前記アミノ酸配列のN末端から、DR5のアミノ酸配列に従って該アミノ酸配列のC末端へと伸長する。そして、その伸長したアミノ酸配列は、SEQ ID NO:3?8から選択されるアミノ酸配列を有する。前記ポリペプチドとその誘導体は、モノクローナル抗体AD5-10により認識されるヒトDR5のエピトープを含む。そして、SEQ ID NO:3?8の配列は、以下のとおりである。」と記載され、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列として、LITQQDLAPQQRAが示されている。
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明のTR-2とはTRAIL受容体2の略語であり、TRAIL受容体2の別名はDR5であるから、両者は、DR5のN末端領域のアミノ酸配列であるLITQQDLAPQQRAを含むポリペプチドである点で共通するが、前者は、LITQQDLAPQQRAからなるポリペプチドであるのに対して、後者は、さらに両末端にAが付加されたALITQQDLAPQQRAAという、DR5のアミノ酸1から15のポリペプチドである点で相違する。

4.当審の判断
上記引用例1記載事項(ii)には、「抗TR-2抗体との結合に重要であるTR-2の特定の領域を特定するために、エピトープマッピング試験を実施した」ことが記載され、その結果、上記引用例1記載事項(iii)には、ある抗体が、TR-2のアミノ酸1から43からなる切断型TR-2-1には結合したものの、TR-2のアミノ酸16から43からなる切断型TR-2-4に結合しなかったことから、TR-2のアミノ酸1から15の領域中の1個以上の残基が、これら2種類のヒト抗TR-2抗体及びヒトTR-2の結合に重要であると結論付けている。
引用例1の上記記載は、TR-2(DR5)のエピトープが、アミノ酸1から15の領域中に含まれている可能性が高いことを意味するものであるから、引用例1の上記記載に接した当業者であれば、アミノ酸1から15のポリペプチドを合成して、既知の抗TR-2抗体あるいは抗TR-2血清との結合を確認することは、容易に想到し得ることであり、その際、アミノ酸1から15のペプチドの両端から1つずつアミノ酸を欠失させたポリペプチドを合成して、抗体との結合性によりエピトープ部分を特定することは、当業者が必要に応じて適宜行う事項にすぎず、そのようにして、本願発明のポリペプチドは当業者が容易に得られるものである。

そして、本願発明において奏される効果は、DR5のN末端のポリペプチドの免疫原性を確認したこと、それにより得られた抗体が、引用例4に記載のAD5-10と同じエピトープを認識することであり、新たなエピトープに結合する有利な抗体が得られたわけではなく、既知の抗体のエピトープを含む領域を特定したものにすぎないから、引用例1及び4の記載から予測できない程の格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用例1及び4の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.審判請求人の主張
審判請求人は平成26年5月16日付審判請求書において、
(イ)「さらに、引用例1、3及び4には、本願発明に係るポリペプチドが、DR5エピトープを認識する抗体を産生するための免疫原として十分なものであることも示されていません。
本願発明に係る「SEQ ID NO:7に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」は、完全な細胞外ドメインを含まず、さらに13アミノ酸という長さが短いものであるにもかかわらず、免疫原として強力に作用し、AD5-10抗体のようなTRAILと共に相乗的に作用する有用な抗体(例えば、モノクローナル抗体Adie-1及びAdie-2等)をさらに産生することを可能にするものであります。
例えば、本願の実施例4及び図4には、本願発明に係るポリペプチドが、D5-10抗体によって認識されるのに十分であることが示されています。また、本願の実施例2及び図2には、Adie-1及びAdie-2がヒト大腸癌細胞HCT116に対して殺腫瘍活性を有することが示されています。
請求人は、本願SEQ ID NO:7に示される配列からなるポリペプチドが、TRAILと共に相乗効果を示すDR5エピトープを認識する抗体を産生するための免疫原として十分であることは、引用例1、3及び4の開示から予測し得ない顕著な効果であると確信いたします。」、
(ロ)「原査定においては、引用例1につき、「当該配列番号94で示されるアミノ酸配列(ALITQQDLAPQQRAA)は、本願請求項1に記載の配列番号7で示されるアミノ酸配列(LITQQDLAPQQRA)と比較して、DR5の細胞外ドメインに沿ってN末端及びC末端のアミノ酸が1残基延長しているのみである。」と指摘がありますが、本願のSEQ ID No:7の配列と引用例1の配列番号94の配列は同一ではありません。引用例1には、配列番号94の配列の両末端から1残基を欠失することにつき記載も示唆もありません。一次配列は空間的構造に影響し、最終的にペプチドやタンパク質の活性及び機能に影響することが知られており、配列における僅かな変更によって活性が劇的に変化する可能性を考慮すれば、当業者であれば、ポリペプチドから2つの残基を欠失した場合に、適切なエピトープの立体構造に折り畳まれるかどうかを合理的に予測することが困難なことを容易に理解すると思量いたします。」、と主張している。

以下、上記主張について検討する。
まず、上記(イ)の主張については、本願発明は、「LITQQDLAPQQRAからなるポリペプチド」に係るものであり、引用例1でエピトープ部分を含む可能性が高いとされている引用発明の「ALITQQDLAPQQRAAからなるポリペプチド」の両端の1アミノ酸を欠失させたものにすぎず、本願発明が引用発明から当業者が何ら創意工夫なくなし得たものであることは、上記4.で述べたとおりである。

さらに、審判請求人が上記審判請求書に添付した添付資料2は、本願の出願日から約10年前に頒布された学術文献であり、DR5の細胞外領域とリガンドであるTRAILとの複合体の結晶構造が示されている。そこには、1から130アミノ酸からなるDR5の細胞外領域のうち、アミノ酸1から20のアミノ酸についてはその結晶構造に示されておらず、このことは、結晶構造及び立体構造解析に示されていないDR5のN末端の1から20の部分は、よく動く即ち三次構造の内部にはないことを示したものに他ならない。そして、このような三次構造の内部にはないフリーのN末端領域が免疫原として好適であることは、本願出願当時の技術常識であった。
そうすると、このような本願出願時の技術水準の下、TR-2のエピトープが、アミノ酸1から15の領域中に含まれる可能性が高いことを記載した上記引用例1の記載に接した当業者であれば、免疫原性ペプチドとして好適であるフリーのN末端領域であるTR-2のN末端のポリペプチドを、キーホールリンペットヘモシアニンと結合させて免疫ペプチドとして抗体を作成することは、自然な発想であり、その際、免疫ペプチトとして、N末端のアミノ酸1から15のポリペプチドでなく、それより少し短いペプチドを用いることも、当業者が必要に応じて適宜なし得たことであるから、そのようにしても、本願発明のポリペプチドは当業者が容易に得られるものである。

このような発明特定事項自体の推考が当業者にとって極めて容易であると認められる発明に対して、効果を根拠に進歩性を認めるためには、その効果は発明特定事項から予測あるいは発見することの困難なもの、よほど顕著なものでなければならないというべきである。(特許実用新案審査基準、第II部 第2章 新規性進歩性 2.5論理付けの具体例(3)参照)
しかしながら、上述した理由により、本願出願時の技術常識を考慮すれば、本願発明に係るポリペプチドが、DR5エピトープを認識する抗体を産生するための免疫ペプチドとなる得ることは予測できる範囲のことであり、しかも、得られた抗体も、引用例4に記載のAD5-10と同じエピトープを認識する抗体にすぎず、それにより進歩性が認められるほど顕著なものということはできないから、審判請求人の上記(イ)の主張は、採用できない。

次に上記(ロ)の主張については、上述したように、フリーのN末端領域が免疫原として好適であることは、本願出願当時の技術常識であり、フリーのN末端に含まれているのは、ほとんどが連続エピトープあるから、連続エピトープを欠失させない範囲において、そのエピトープを含むポリペプチドの末端の数アミノ酸残基を欠失させても、免疫ペプチドとして機能することは、本願出願時の技術常識である。
そうすると、本願発明のポリペプチドが免疫原性を有するのであれば、引用発明のポリペプチドも同じく免疫原性を有すると推認できるから、ポリペプチドから2つの残基を欠失した場合に、適切なエピトープの立体構造に折り畳まれるかどうかを合理的に予測することが困難であるという審判請求人の上記(ロ)の主張も、採用できない。

6.むすび
以上のとおりであるから、、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-15 
結審通知日 2015-07-16 
審決日 2015-07-28 
出願番号 特願2012-502419(P2012-502419)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 ▲高▼ 美葉子
長井 啓子
発明の名称 抗ヒトデスレセプターDR5モノクローナル抗体AD5-10により認識される抗原決定基、その誘導体およびその使用  
代理人 春名 雅夫  
代理人 大関 雅人  
代理人 五十嵐 義弘  
代理人 佐藤 利光  
代理人 新見 浩一  
代理人 井上 隆一  
代理人 川本 和弥  
代理人 小林 智彦  
代理人 刑部 俊  
代理人 清水 初志  
代理人 山口 裕孝  

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