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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02B
管理番号 1308154
審判番号 不服2014-13308  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-09 
確定日 2015-12-07 
事件の表示 特願2013- 5923「船舶用推進システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月25日出願公開、特開2013- 76409〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年10月5日を国際出願日とする特願2008-528350号(以下、「原出願」という。)の一部を平成22年8月3日に新たな特許出願(特願2010-174188号)とし、さらにその一部を平成25年1月17日に新たな特許出願としたものであって、同年11月21日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月10日付けで拒絶査定がされ、同年7月9日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成27年4月9日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年5月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は、平成27年5月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
1つ又は複数のターボチャージャ(17)と、
掃気受(18)と、
前記1つ又は複数のターボチャージャがシリンダを掃気する高エンジン負荷時に対する低エンジン負荷時に前記シリンダの掃気を補助するための1つ又は複数の補助ブロワであって、それぞれ前記1つ又は複数のターボチャージャのいずれかと前記掃気受との間に設けられる補助ブロワ(18a)と、
電気モーター及び/又は別個のディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプまたはポンプステーションであって、少なくとも1つの可変容量型ポンプを含む油圧ポンプまたはポンプステーションと、
前記1つ又は複数の補助ブロワを駆動する1つ又は複数の可変ストローク型容積式油圧モーターであって、前記油圧ポンプまたは前記ポンプステーションから油圧の供給を受けるように構成される容積式油圧モーターと、
を備えるターボ過給式クロスヘッド型大型多気筒2サイクルディーゼルエンジン。」

第3 引用文献の記載等
1 引用文献1の記載等
(1)引用文献1の記載
当審拒絶理由で引用された、原出願の国際出願日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開昭61-83453号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「補助掃気ポンプ」に関して、図面とともに概ね次の記載(以下、「記載1a」という。)がある。

1a 「〔従来の技術〕
第5図は従来のクロスヘッド式2サイクルエンジンでかつユニフロー掃気方式の構造を示す。シリンダジャケット11は掃気孔12を下部に持つライナ13を支持しておりその上には排気弁14を有するシリンダカバー15が締め付けられている。ライナ13の内面をピストンロッド16に支えられたピストン17が揺動し、ピストンロツド16の下端はクロスヘッド18で支持されクランク軸22を駆動する。シリンダジャケット11の下部には掃気孔12に掃気を供給する掃気溜19が設けられている。
シリンダカバー15、ライナ13およびピストン17で燃焼室21を形成する。燃焼室21内の作動ガスは排気弁14の開弁とともに排気管23へ流出し、排気ターボ過給機30の排気タービン31を駆動したのち大気へ放出される。排気タービン31は同軸上のコンプレッサ32を回転させ大気を圧縮して高温高圧の掃気をつくる。この高温高圧の掃気は、空気冷却器33で冷却されたのち、さらに電動モータで駆動される遠心式の補助ブロア34で加圧されて掃気溜19へ供給される。
またシリンダカバー15には始動弁41が取り付けられており、エンジンの始動時には空気溜42からの高圧空気が、弁43およびエンジンのカム軸上に取り付けられた始動管制弁44をへて配管46を通り、始動弁41に作用し同弁41を開弁する。
第6図にこの始動弁41の詳細構造を示す。始動弁棒47は弁ばね48の力で常時引き上げられ閉鎖されている。ところが始動管制弁44からの高圧空気が始動弁棒47の上端の駆動ピストン49に作用するとこの空気圧が弁ばね48の力に打勝つて始動弁棒47を押し下げ開弁する。その結果始動空気配管45の高圧空気が燃焼室21へ流入する。
次に前記従来例の作用について説明する。
第5図においてピストン17が上死点付近に達すると、燃焼室内にチャージされた空気は高温高圧に圧縮され、この中に燃料噴射弁から高圧燃料が噴射されると着火燃焼し、この燃焼ガスがピストン17を押し下げクランク軸22を回して動力を発生する。ピストン17が下死点に近づくと、まず排気弁14が開き高温高圧の作動ガスが排気管23へ排出され、排気タービン31を駆動するとともにライナ13の圧力が低下し、掃気溜19内の掃気圧力よりも低くなる。このときピストン17が掃気孔12を開くため、掃気がライナ13内に流入し排気弁14から燃焼後の作動ガスを押し出し、ライナ13内に新しい空気が充てんされる。
クランク軸22の回転に従い下死点を過ぎるとピストン17は上昇しはじめ掃気孔12を閉じるとともに、排気孔14も閉じて圧縮行程が始まる。このときライナ13内の圧力はほぼ掃気圧力と等しくなる。ところがエンジンの負荷が60%以上では排気タービン31の出力が充分大きくなるため、第5図の補助ブロア34を駆動しなくても高い掃気圧力を得ることができる。その結果、圧縮始めのライナ13内の圧力は高くなり、十分に新しい空気がライナ13内に確保される。
しかしエンジンの負荷が50%以下になると、補助ブロア34を駆動しない場合には排気タービン31の出力が不足し、掃気圧力が低くなって圧縮始めとライナ13内に充分な新しい空気が確保できなくなる。その結果、第4図に破線aで示すように排気弁14の燃焼室21側の下面温度T_(C)が600℃を越し、排気弁14の吹抜け等不具合を生じるようになる。そこで50%以下の負荷では補助ブロア34を駆動し掃気圧力を高め、第4図に一点鎖線bで示すようにT_(C)を下げて不具合を生じるのを防ぐようにしている。」(第1ページ左下欄第18行ないし第2ページ左下欄第7行)

(2)引用文献1の記載事項
記載1a及び図面の記載から、引用文献1には、次の事項(以下、順に、「記載事項1b」ないし「記載事項1g」という。)が記載されていると認める。

1b 記載1aの「燃焼室21内の作動ガスは排気弁14の開弁とともに排気管23へ流出し、排気ターボ過給機30の排気タービン31を駆動したのち大気へ放出される。」(第1ページ右下欄第11ないし14行)及び図面によると、引用文献1には、排気ターボ過給機30が記載されている。

1c 記載1aの「シリンダジャケット11の下部には掃気孔12に掃気を供給する掃気溜19が設けられている。」(第1ページ右下欄第7ないし9行)及び図面によると、引用文献1には、掃気溜19が記載されている。

1d 記載1aの「しかしエンジンの負荷が50%以下になると、補助ブロア34を駆動しない場合には排気タービン31の出力が不足し、掃気圧力が低くなって圧縮始めとライナ13内に充分な新しい空気が確保できなくなる。その結果、第4図に破線aで示すように排気弁14の燃焼室21側の下面温度T_(C)が600℃を越し、排気弁14の吹抜け等不具合を生じるようになる。そこで50%以下の負荷では補助ブロア34を駆動し掃気圧力を高め、第4図に一点鎖線bで示すようにT_(C)を下げて不具合を生じるのを防ぐようにしている。」(第2ページ右上欄第17行ないし左下欄第7行)及び図面によると、引用文献1には、エンジンの負荷が50%以下になると、排気タービン31の出力が不足し、掃気圧力が低くなって圧縮始めとライナ13内に充分な新しい空気が確保できなくなるので、掃気圧力を高めるために駆動される補助ブロア34が記載されている。

1e 記載1aの「排気タービン31は同軸上のコンプレッサ32を回転させ大気を圧縮して高温高圧の掃気をつくる。この高温高圧の掃気は、空気冷却器33で冷却されたのち、さらに電動モータで駆動される遠心式の補助ブロア34で加圧されて掃気溜19へ供給される。」(第1ページ右下欄第14ないし19行)、記載事項1bないし1d及び図面によると、引用文献1には、排気ターボ過給機30と掃気溜19との間に設けられる補助ブロア34が記載されている。

1f 記載1aの「この高温高圧の掃気は、空気冷却器33で冷却されたのち、さらに電動モータで駆動される遠心式の補助ブロア34で加圧されて掃気溜19へ供給される。」(第1ページ右下欄第16ないし19行)、記載事項1bないし1e及び図面によると、引用文献1には、補助ブロア34を駆動する電動モータが記載されている。

1g 記載1aの「第5図は従来のクロスヘッド式2サイクルエンジンでかつユニフロー掃気方式の構造を示す。」(第1ページ左下欄第19及び20行)及び「シリンダカバー15、ライナ13およびピストン17で燃焼室21を形成する。燃焼室21内の作動ガスは排気弁14の開弁とともに排気管23へ流出し、排気ターボ過給機30の排気タービン31を駆動したのち大気へ放出される。」(第1ページ右下欄第10ないし14行)並びに図面によると、引用文献1には、排気ターボ過給機30を有するクロスヘッド式2サイクルエンジンが記載されている。

(3)引用発明
記載1a、記載事項1bないし1g及び図面の記載を整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「排気ターボ過給機30と、
掃気溜19と、
エンジンの負荷が50%以下になると、排気タービン31の出力が不足し、掃気圧力が低くなつて圧縮始めとライナ13内に充分な新しい空気が確保できなくなるので、掃気圧力を高めるために駆動される補助ブロア34であって、前記排気ターボ過給機30と前記掃気溜19との間に設けられる補助ブロア34と、
前記補助ブロア34を駆動する電動モータと、
を備える排気ターボ過給機30を有するクロスヘッド式2サイクルエンジン。」

2 引用文献2の記載
当審拒絶理由で引用された、原出願の国際出願日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開昭56-154394号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「船舶における補助推進器駆動装置」に関して、図面とともに概ね次の記載(以下、「引用文献2の記載」という。なお、下線は当審で付したものである。他の文献も同様。)がある。

・「本発明は船舶における旋回式スラスト、或いはサイドスラスト等の補助推進器の駆動装置に関する。
船舶において、旋回式スラスト等の補助推進器を装備する場合、その所要動力を大きくすればする程その効果は増大する。
しかし、そのための動力源として新な原動機を設備することは必ずしも経済的ではない。
一方、前記のような補助推進器が使用される条件では主推進器は低負荷か、停止状態にあり、主機関には充分な余力がある。従つて、補助推進器の動力源としてこの主機関の動力を取出して利用するのは極めて合理的手段であるといえる。
特に主機関にデイーゼルエンジンが使用される場合、デイーゼルエンジンは定トルク機関といわれるところから、第1図に示す如く図中の矢印部分が動力取出可能域で主機関の低回転時には相当大きな動力取出しが可能であることがわかる。
しかしながら、デイーゼルエンジンに排気タービン形式の過給機が装備され、その過給度が向上してくると、特にその部分負荷状態における給気量が著しく不足となり、第1図に示すような定トルク特性は実現不能となり、動力取出可能な出力は著しく制限される場合があり、このため、補助推進器容量も充分なものが使用できないことが起る。
本発明は上記したような問題を解決し、主機関を使用して所望容量の補助推進器の適切なる運転を実現したものである。
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。第2図において(1)は補助推進器であり、これは例えば、旋回式スラスタで、本船の微速や横進を行うために使用される主推進器(A)以外のものである。(2)は、補助推進器駆動用油圧モータで、静油圧定容量モータが使用される。(3)は主機関(B)とするデイーゼルエンジンにより駆動される油圧ポンプで、これには例えば、アクシヤルプランジヤ形の静油圧可変容量ポンプを使用し、その斜軸(3a)の傾転角を変更して吐出油量の変更を行い導管(4)により前記モータ(2)に圧油を供給する。(5)はサーボモータで、そのピストンロツド(5a)を前記ポンプ(3)の斜軸(3a)に連結し、該斜軸(3a)の傾転角の変更によりポンプ吐出油量を変える。(6)はサーボモータ(5)に対する圧油の給排を行う配圧弁で、そのハウジング(6a)およびスプールバルブ(6b)は相対的に変位可能とする。(7)は油圧変位部材で、ベローズ(7a)を組み入れた可変油室(7b)を有し、ベローズ(7a)を連杆(8)を介して配圧弁(6)のスプールバルブ()6b)に連結し、油室(7b)は前記導管(4)から分岐した導管(9)を以つて油圧ポンプ(3)に連結し、該ポンプ(3)からの吐出油圧をベローズ(7a)の変位に変更する。(10)はハンドル(11)に連結したカムで、このカム(10)にはその回転角に直線関係で変位する接触子(12)をスプリング(12a)圧を付与して係合させ、これを連杆(13)を介して前記配圧弁(6)のハウジング(6a)に連結し、該ハウジング(6a)の変位を行う。また、カム(10)にはその回転角に直線関係なく2次曲線で示される変位をなすもう1つの接触子(14)をスプリング(14a)圧を付与して係合させ、これを連杆(15)を介して流動制御弁(16)を連結している。(17)は主機関Bへの給気を行う常備過給機、(18)はこの常備過給機(17)の前段に直列にして吸気口遮断弁(19)を介装して設けたブースト過給機である。ブースト過給機(18)は主機関(B)からの動力取出時において常備過給機(17)の給気不足分を補給するものであり、このブースト過給機(18)は油圧モータ(20)により駆動される。この油圧モータ(20)には静油圧定容量モータが使用され、前記導管(4)から分岐した導管(21)で途中に前記流量制御弁(16)を介装して油圧ポンプ(3)と連結し、補助推進器駆動用油圧モータ(2)に比べ低い油圧のもとに作動する。(22)は補助油圧ポンプで導管(23)により配圧弁(6)と連結するとともに、この導管(23)から分岐する導管(24)で電磁切換弁(25)を介して前記吸気口遮断弁(19)に連結する。電磁切換弁(25)は図示はしてないが例えばカム(10)部に取付けたマイクロスイツチにより自動操作し、ブースト過給機(18)の給気量が常備過給機(17)の吸気量を上廻る点で遮断弁(19)に対し圧油を供給して吸気口(19a)の遮断を行うものである。尚、図中(26)はブースト過給機(18)と油圧モータ(20)の連結に用いる増速機で、通常油圧モータ(20)の回転よりブースト過給機(18)の所要回転数が高速であるために用いる。(27)は主機関(B)と油圧ポンプ(3)との連結に用いるクラツチである。」(第1ページ右下欄第4行ないし第2ページ右下欄第11行)

3 引用文献3の記載
当審拒絶理由で引用された、原出願の国際出願日前に日本国内において、頒布された刊行物である実願平5-13549号(実開平6-71399号)のCD-ROM(以下、「引用文献3」という。)には、「旋回式スラスタ及びその給電装置」に関して、図面とともに概ね次の記載(以下、「引用文献3の記載」という。)がある。

・「【0016】
【実施例】
以下、本考案の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は本考案に係る旋回式スラスタの全体構成を示す側断面図であり、図示するように、ストラットS上部に設けた旋回ギヤ1と、油圧モータ3の軸に設けた旋回ピニオン2とが噛合しており、この油圧モータ3には油圧バルブユニット4からの配管を接続している。そして、この油圧バルブユニット4には、制御装置であるリモートコントロール装置14と油圧モータ3の駆動源である圧油を供給するための油圧ポンプ5を接続しており、この油圧ポンプ5は電動モータ6により駆動している。この実施例では、上記油圧モータ3,油圧バルブユニット4,油圧ポンプ5,電動モータ6により電動油圧旋回駆動手段Oを構成している。」(段落【0016】)

4 引用文献4の記載
当審拒絶理由で引用された、原出願の国際出願日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開平2-64224号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「ターボ過給エンジン」に関して、図面とともに概ね次の記載(以下、「引用文献4の記載」という。)がある。

・「本発明は、ターボチャージャのタービンを排気ガスによって駆動することにより、前記タービンのコンプレッサで吸気を圧縮してシリンダに供給するようにしたエンジンにおいて、前記ターボチャージャに油圧モータを設け、油圧ポンプで加圧された圧油を前記油圧モータに供給するようになし、しかも前記油圧ポンプを電動モータで駆動するようにしたものであって、さらに必要に応じて電動モータをスタータモータと兼用し、あるいはまた油圧ポンプと油圧モータとの間に7ギユムレータを接続するようにしたものである。」(第2ページ右上欄第12行ないし左下欄第3行)

5 引用文献5の記載
当審拒絶理由で引用された、原出願の国際出願日前に日本国内において、頒布された刊行物である実願昭62-158785号(実開平1-63731号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献5」という。)には、「過給機の潤滑装置」に関して、図面とともに概ね次の記載(以下、「引用文献5の記載」という。)がある。

・「本考案の実施例は、・・・(略)・・・潤滑油(システム油)は、電動モータ(4a)で駆動される潤滑油ポンプ(4)により潤滑油循環管路(3)を経て内燃機関(1)へ循環されて潤滑し、・・・(略)・・・潤滑油ポンプ(11)の油圧モータ(11a)は、・・・(略)・・・潤滑油循環管路(3)中の潤滑油によって駆動される。」(明細書第5ページ第17行ないし第6ページ第16行)

6 引用文献6の記載
当審拒絶理由で引用された、原出願の国際出願日前に日本国内において、頒布された刊行物である実願平3-49893号(実開平5-3299号)のCD-ROM(以下、「引用文献6」という。)には、「高所作業車の操作装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「【0002】
【従来の技術】
高所作業車には、その車両の走行用エンジンや車載された専用のエンジンに油圧ポンプを機械的に連結し、このエンジンからの動力で油圧ポンプを駆動するものがある。」(段落【0002】)

7 引用文献7の記載
当審拒絶理由で引用された、原出願の国際出願日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2000-44194号公報(以下、「引用文献7」という。)には、「蓄圧装置を備えた作業車輌」に関して、図面とともに概ね次の記載(以下、「引用文献7の記載」という。)がある。

・「【0005】油圧ポンプ54はシリンダ52c等の油圧作動機器に作動油を供給するもので、たとえばベーンタイプとした場合にはベーンドラムを回転駆動して作動油を油圧回路に送り出す。そして、この油圧ポンプ54自身の駆動のため専用の低騒音エンジン55が作業車輛51に搭載される。」(段落【0005】)

8 引用文献8の記載
当審拒絶理由で引用された、原出願の国際出願日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2001-208038号公報(以下、「引用文献8」という。)には、「2行程クロスヘッドエンジン」に関して、図面とともに概ね次の記載(以下、「引用文献8の記載」という。)がある。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、船舶内に少なくとも1つのクランク軸と、プロペラ軸とを備える軸装置を具備する2行程クロスヘッドエンジンであって、多数のシリンダと、最大連続定格(MCR)とを有し、エンジンの軸装置が1つのノードを有する捩れ振動に対する固有振動数を有した、2行程クロスヘッドエンジンに関する。」(段落【0001】)

・「【0012】図1には、例えば、油及びガスの両者又はその何れか一方を燃料として使用することのできるディーゼル型の大口径の大形低速クロスヘッドエンジン1が図示されている。・・・(略)・・・」(段落【0012】)

9 引用文献9の記載
当審拒絶理由で引用された、原出願の国際出願日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2004-251313号公報(以下、「引用文献9」という。)には、「船舶推進用の中間駆動軸」に関して、図面とともに概ね次の記載(以下、「引用文献9の記載」という。)がある。

・「【0004】・・・(略)・・・本出願人による冊子、L. BryndumおよびS. B. Jacobsenによる「2サイクル低速ディーゼルエンジンの振動特性」第2版・・・(略)・・・に記載されている。」(段落【0004】)

・「【0016】
【実施例】
図1は、貨物室2および機関室3を有する従来型の船舶の船体1を示している。クロスヘッド式の大型5シリンダ2サイクルエンジン4が、機関室3を貨物室2から隔てる壁のすぐ後ろに設置されている。」(段落【0016】)

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。

引用発明における「排気ターボ過給機30」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「1つ又は複数のターボチャージャ(17)」に相当し、以下、同様に、「掃気溜19」は「掃気受(18)」に、「エンジンの負荷が50%以下になると、排気タービン31の出力が不足し、掃気圧力が低くなつて圧縮始めとライナ13内に充分な新しい空気が確保できなくなるので、掃気圧力を高めるために駆動される補助ブロア34」は「前記1つ又は複数のターボチャージャがシリンダを掃気する高エンジン負荷時に対する低エンジン負荷時に前記シリンダの掃気を補助するための1つ又は複数の補助ブロワ」に、「前記排気ターボ過給機30と前記掃気溜19との間に設けられる補助ブロア34」は「それぞれ前記1つ又は複数のターボチャージャのいずれかと前記掃気受との間に設けられる補助ブロワ(18a)」に、それぞれ、相当する。
また、引用発明における「前記補助ブロア34を駆動する電動モータ」は、本願発明における「前記1つ又は複数の補助ブロワを駆動する1つ又は複数の可変ストローク型容積式油圧モーターであって」「電気モーター及び/又は別個のディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプまたはポンプステーションであって、少なくとも1つの可変容量型ポンプを含む油圧ポンプまたはポンプステーション」「から油圧の供給を受けるように構成される容積式油圧モーター」と、「前記1つ又は複数の補助ブロワを駆動する1つ又は複数のモーター」という限りにおいて一致する。
さらに、引用発明における「排気ターボ過給機30を有するクロスヘッド式2サイクルエンジン」は、本願発明における「ターボ過給式クロスヘッド型大型多気筒2サイクルディーゼルエンジン」と、「ターボ過給式クロスヘッド型2サイクルエンジン」という限りにおいて一致する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致する。

「1つ又は複数のターボチャージャと、
掃気受と、
前記1つ又は複数のターボチャージャがシリンダを掃気する高エンジン負荷時に対する低エンジン負荷時に前記シリンダの掃気を補助するための1つ又は複数の補助ブロワであって、それぞれ前記1つ又は複数のターボチャージャのいずれかと前記掃気受との間に設けられる補助ブロワと、
前記1つ又は複数の補助ブロワを駆動する1つ又は複数のモーターと、
を備えるターボ過給式クロスヘッド型2サイクルエンジン。」

そして、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点1>
「前記1つ又は複数の補助ブロワを駆動する1つ又は複数のモーター」に関して、本願発明においては、「前記1つ又は複数の補助ブロワを駆動する1つ又は複数の可変ストローク型容積式油圧モーターであって」「電気モーター及び/又は別個のディーゼルエンジンによって駆動される油圧ポンプまたはポンプステーションであって、少なくとも1つの可変容量型ポンプを含む油圧ポンプまたはポンプステーション」「から油圧の供給を受けるように構成される容積式油圧モーター」であるのに対し、引用発明においては、「前記補助ブロア34を駆動する電動モータ」である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
「ターボ過給式クロスヘッド型2サイクルエンジン」に関して、本願発明においては、「ターボ過給式クロスヘッド型大型多気筒2サイクルディーゼルエンジン」であるのに対し、引用発明においては、「排気ターボ過給機30を有するクロスヘッド式2サイクルエンジン」である点(以下、「相違点2」という。)。

第5 相違点に対する判断
そこで、相違点について、以下に検討する。

1 相違点1について
引用文献2の記載を整理すると、引用文献2に記載された「ブースト過給機(18)」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「補助ブロワ」に相当し、以下、同様に、「静油圧可変容量ポンプ(3)」は、本願発明における「可変容量型ポンプを含む油圧ポンプ」に相当し、「静油圧定容量モータが使用され」る「油圧モータ(20)」は、本願発明における「可変ストローク型容積式油圧モーター」と「容積式油圧モーター」という限りにおいて一致するから、引用文献2には、過給機の給気不足分を補うための補助ブロワの駆動を可変容量型ポンプを含む油圧ポンプにより油圧の供給を受ける容積式油圧モーターにより行うという技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されていると認める。
ところで、一般に、クロスヘッド式2サイクルエンジンは、舶用機関として利用されるものであり、また、船舶においては、船の推進原動力となる主機関とは別に補機を駆動する機関を設けるものである(必要であれば、下記(1)及び(2)を参照。以下、「技術常識」という。)。したがって、引用発明は、舶用機関として利用されるものであって、補機を駆動するための引用発明とは別に設けられた機関と共に使用されるものというべきであるし、そもそも、引用発明は、「電動モータ」という主機関とは別の機関を備えている。
さらに、油圧ポンプの駆動源を何にするかは当業者が適宜決めるべき設計的事項であるし、油圧ポンプの駆動源を電気モーターにすることや別個のエンジンとすることは周知でもある(必要であれば、前者については、引用文献3ないし5の記載を、後者については、引用文献6及び7の記載を参照。以下、それぞれ、「周知技術1」及び「周知技術2」という。)。
さらにまた、容積式油圧モーターとして、可変ストローク型容積式油圧モーターは周知であり、容積式油圧モーターとして、可変ストローク型容積式油圧モーターを採用するかどうかは、当業者にとって設計的事項に過ぎない。
そして、引用発明及び引用文献2記載の技術は、何れも、過給機の給気不足分を補うためのものであるから、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用して、「補助ブロア34」の駆動を可変ストローク型容積式油圧モーターで行い、該容積式油圧モーターを少なくとも1つの可変容量型ポンプを含む油圧ポンプまたはポンプステーションから油圧の供給を受けるようにし、その際、技術常識並びに周知技術1及び2を考慮して、少なくとも1つの可変容量型ポンプを含む油圧ポンプまたはポンプステーションの駆動を主機関とは別に設けられた電気モーター及び/又は別個のディーゼルエンジンで行うようにして、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(1)特開昭61-85518号公報の記載
特開昭61-85518号公報には、「2サイクルクロスヘツドエンジン」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「内燃機関において、ピストン上面に受けるガス圧を連接棒を介してクランクシャフトへ伝える機構には、トランクピストン形とクロスヘッド形の2種類があるが、クロスヘッド形は大型で過給機を備えた舶用2サイクル低速デイーゼル機関等で用いられているだけで、自動二輪車用等の中高速2サイクルガソリン機関においてはもっぱらトランクピストン形が採用されている。」(第1ページ右下欄第3ないし10行)

(2)八田桂三,浅沼強,「内燃機関ハンドブック」,株式会社朝倉書店,昭和37年1月30日,p579及び587の記載
八田桂三,浅沼強,「内燃機関ハンドブック」,株式会社朝倉書店,昭和37年1月30日,p579及び587には、概ね次の記載がある。

・「1912年にディーゼル機関が初めて舶用機関として利用せられて以来、上記の諸条件によって進歩発達し,現在では一応2サイクル単動クロスヘッド過給機付の溶接構造の機関がほとんど標準型となっている。」(p579第13ないし15行)

・「舶用としては船の推進原動力となる主機関と,船内発電機,コンプレッサなどを駆動する補機用とがあるが,後者は陸用発電機関とほとんど同一であるからここでは省略する。」(p587第15ないし17行)

2 相違点2について
引用発明における「クロスヘッド式2サイクルエンジン」は、その構造からみて、大型で多気筒のディーゼルエンジンであることは明らかであるから、引用発明における「排気ターボ過給機30を有するクロスヘッド式2サイクルエンジン」は本願発明における「ターボ過給式クロスヘッド型大型多気筒2サイクルディーゼルエンジン」に相当するといえるので、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、「クロスヘッド式2サイクルエンジン」を、大型で多気筒のディーゼルエンジンとすることは周知である(必要であれば、引用文献8及び9の記載を参照。以下、「周知技術3」という。)。
したがって、引用発明において、周知技術3を適用し、「排気ターボ過給機30を有するクロスヘッド式2サイクルエンジン」を「ターボ過給式クロスヘッド型大型多気筒2サイクルディーゼルエンジン」として、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

3 効果について
そして、本願発明を全体としてみても、本願発明が、引用発明、引用文献2記載の技術、技術常識並びに周知技術1及び2からみて又は引用発明、引用文献2記載の技術、技術常識及び周知技術1ないし3からみて格別顕著な効果を奏するともいえない。

第6 請求人の主張について
1 主張1について
請求人は、平成27年5月19日提出の意見書において、「しかし、この御判断は妥当ではなかったと考えます。その理由は、引用文献2には、主機関とは別個の原動機を設置することが、不利益なことであると教示しているからです。
引用文献2には、補助推進器の駆動源として、別個の原動機を用いることは経済的ではないことが教示されております(第1頁右下欄10-11行)。引用文献2は、全体として、主機関を使用して補助動力を取り出すための好適な構成を開示しており、補助推進器1のみならず、ブースト過給器18も、主機関から取り出した動力によって運転されます。その効果として、「新たな原動機等の設備を要せず、船内設備を簡素化し、且つ、設備の利用度を高めることができる」ことが記載されております(第4頁左上欄14-19行)。さらに、ブースト過給器を主機関の出力に基づいて動作させることや、ブースト過給器と補助推進器とを共に主機関の出力に基づいて動作させることの利点も記載されております(第4頁右上欄14行-左下欄3行)。
このように、引用文献2には、主機関とは別個の原動機を設置することが不利益であり、ブースト過給器や補助推進器の動力源としても主機関を使うことが有利であることを教えています。
従って、引用文献2の教示を参考にして、引用文献1記載の発明の補助ブロワの駆動構成を変更するならば、その駆動源は主機関であるべきです。別個の原動機ではなかったはずであります。すなわち、本願請求項1記載の「電気モーター及び/又は別個のディーゼルエンジン」ではなかったはずであります。」旨主張(以下、「主張1」という。)している。
そこで、検討するに、引用文献2には、「しかし、そのための動力源として新な原動機を設備することは必ずしも経済的ではない。」(第1ページ右下欄第10及び11行)及び「(1)主機関の低回転時においてもその出力から最大限の動力取出しを実現してこれを補助推進器の駆動に利用できるところから新たな原動機等の設備を要せず、船内設備を簡素化し、且つ、設備の利用度を高めることができる。」(第4ページ左上欄第15ないし19行)と記載されているように、動力源として新たな原動機を設備することは経済的でない、即ち不利益であることが記載されているといえるが、既に設備された主機関以外の機関を動力源として利用することを排除する記載はない。
したがって、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用する場合に、「補助ブロア34」の駆動を主機関以外の既に設備された機関により行うことに格別困難性はなく、主張1は採用できない。

2 主張2について
請求人は、平成27年5月19日提出の意見書において、「なお、引用文献2の記載のブースト過給器は、引用文献1や本願請求項に記載の「補助ブロワ」とは異なるものであることも、強調されるべき事項であります。引用文献1や本願請求項に記載の「補助ブロワ」は、ターボチャージャと掃気受との間に設けられるブロワであります。そのようなブロワは引用文献2には記載も示唆もされておりません。引用文献2に記載のブースト過給器18は、ターボチャージャ17の前段に設けられるもので、引用文献1や本願請求項に記載の「補助ブロワ」とは異なります。このため、そのようなブロワを駆動するための構成も、引用文献2には何ら開示されておりません。むろん、そのようなブロワの駆動に関する課題や効果についても、何ら記載されておりません。本願明細書0040に記載のような、補助ブロワの運転に関わってエネルギー効率を改善するという課題や効果についても、もちろん記載も示唆もされておりません。」旨主張(以下、「主張2」という。)している。
そこで、検討するに、引用発明における「補助ブロア34」と引用文献2記載の技術における「ブースト過給機」は、設けられる位置が、過給機の下流か上流かで相違するものの、何れも、過給機の給気不足分を補うためのものである点で共通し、機能上、格別相違はない。
そして、引用文献2記載の技術を引用発明に適用する動機付けは、上記第5 1に記載したとおりであるから、主張2は採用できない。

3 主張3について
請求人は、平成27年5月19日提出の意見書において、「引用文献2の静油圧定容量モータ20は、増速機26を介してブースト過給器18を駆動しています。また、「静油圧定容量モータ20」との記載から明らかなように、これは「可変ストローク型」の油圧モーターではありません。従って、引用文献2記載の静油圧定容量モータ20を引用文献1記載の発明に適用しても、この相違点を埋めることができません。
また、本願明細書の段落0046に記載されるように、「可変ストローク型」との構成により、「エネルギー効率の観点から補助ブロワの容量を最適に決めること」を可能にするという効果を提供します。
かかる効果は、引用文献1,2のいずれにも記載も示唆もされておりません。」旨主張(以下、「主張3」という。)している。
そこで、検討するに、引用文献2記載の技術は、「可変容量型ポンプを含む油圧ポンプ」により「容積式油圧モーター」に油圧を供給するものであって、「可変容量型ポンプを含む油圧ポンプ」によりブースト過給機の容量を決めるものといえるが、引用文献2記載の技術において、「可変容量型ポンプを含む油圧ポンプ」を備えたままで、「可変ストローク型」でない「容積式油圧モーター」を「可変ストローク型容積式油圧モーター」に代えたとしても、ブースト過給機の容量を決めることができることは明らかであり、「可変ストローク型」でない「容積式油圧モーター」を「可変ストローク型容積式油圧モーター」にするかどうかは当業者が適宜決めるべき設計的事項である。
したがって、引用発明において、引用文献2記載の技術を適用して、「電動モータ」に代えて「可変ストローク型容積式油圧モーター」とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるので、主張3は採用できない。

第7 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2記載の技術、技術常識並びに周知技術1及び2に基づいて又は引用発明、引用文献2記載の技術、技術常識及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-14 
結審通知日 2015-07-16 
審決日 2015-07-28 
出願番号 特願2013-5923(P2013-5923)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中川 康文出口 昌哉  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 加藤 友也
佐々木 訓
発明の名称 船舶用推進システム  
代理人 川守田 光紀  

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