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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1308279
審判番号 不服2014-11231  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-13 
確定日 2015-12-01 
事件の表示 特願2009-112361号「締め付け具を備えた外科用器具」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月 7日出願公開、特開2010-000341号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成21年5月1日(パリ条約による優先権主張:2008(平成20)年5月5日、アメリカ合衆国;2009(平成21)年4月27日、アメリカ合衆国)の特許出願であって、平成25年7月2日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月3日に意見書とともに手続補正書が提出され特許請求の範囲について補正がなされたが、平成26年2月14日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成26年6月13日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲についてさらに補正がなされたものである。

第2 平成26年6月13日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年6月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
平成26年6月13日付けの手続補正(以下「本件補正」という)は、平成25年10月3日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<補正前>
「 【請求項1】
外科的に組織を接合するための外科用ステープリング器具であって、該外科用ステープリング器具は、
ハンドル部分と、
該ハンドル部分から遠位方向に延び、第1の長手方向軸を画定する内視鏡的部分と、
該内視鏡的部分の遠位端に隣接して配置され、そこから概ね遠位方向に延びる一対の顎部材であって、該顎部材のうちの少なくとも一方は、それらの間で身体組織を係合するため、開いた位置と接近した位置との間で他方に対して可動であり、該一対の顎部材は、アンビルアセンブリとカートリッジアセンブリとを備え、該カートリッジアセンブリは、複数の外科用ステープルを収納し、該複数の外科用ステープルは、該第1の長手方向軸に対して横方向に、該アンビルアセンブリに向かって排出されるように配列されており、該顎部材は、該内視鏡的部分の該第1の長手方向軸に対して湾曲している、一対の顎部材と、
該顎部材に隣接して配置され、該内視鏡的部分から概ね遠位方向に延びる締め付け具であって、該締め付け具は、身体組織を係合するため、開いた位置と接近した位置との間で可動であり、該締め付け具は、該顎部材に対して独立して可動であり、該締め付け具は、該顎部材の湾曲に対応するように該内視鏡的部分の該第1の長手方向軸に対して湾曲している、締め付け具と
を備えている、外科用ステープリング器具。」

(2)<補正後>
「 【請求項1】
外科的に組織を接合するための外科用ステープリング器具であって、該外科用ステープリング器具は、
ハンドル部分と、
該ハンドル部分から遠位方向に延び、第1の長手方向軸を画定する内視鏡的部分と、
該内視鏡的部分の遠位端に隣接して配置され、そこから概ね遠位方向に延びる一対の顎部材であって、該顎部材のうちの少なくとも一方は、それらの間で身体組織を係合するため、開いた位置と接近した位置との間で他方に対して可動であり、該一対の顎部材は、アンビルアセンブリとカートリッジアセンブリとを備え、該カートリッジアセンブリは、複数の外科用ステープルを収納し、該複数の外科用ステープルは、該第1の長手方向軸に対して横方向に、該アンビルアセンブリに向かって排出されるように配列されており、該顎部材は、該内視鏡的部分の該第1の長手方向軸に対して湾曲しており、該顎部材は、内側および外側を有している、一対の顎部材と、
該顎部材の該内側に隣接して配置され、該内視鏡的部分から概ね遠位方向に延びる締め付け具であって、該締め付け具は、身体組織を係合するため、開いた位置と接近した位置との間で可動であり、該締め付け具は、該顎部材に対して独立して可動であり、該締め付け具は、該顎部材の湾曲に対応するように該内視鏡的部分の該第1の長手方向軸に対して湾曲している、締め付け具と
を備えている、外科用ステープリング器具。」

2 補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、補正前の請求項1の「顎部材」について、「内側および外側を有している」点を付加し、「締め付け具」について、顎部材の「該内側に」隣接して配置される点を付加するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮(特許法第17条の2第5項第2号)を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、同法同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件に適合するか否かについて検討する。

(1)補正発明
補正発明は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記1(2)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「外科用ステープリング器具」であると認める。

(2)刊行物
これに対して、原審の平成25年7月2日付け拒絶の理由に引用された、本件の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-337120号公報(以下「刊行物1」という)、及び、特開平6-30944号公報(以下「刊行物2」という)には、以下の発明あるいは技術事項が記載されていると認められる。

(2-1)刊行物1
ア 刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「縫合器」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】 複数個のステープルを有するカートリッジに対して開閉操作されるアンビルを備えた縫合部材が設けられ、前記カートリッジとアンビルとを閉塞して縫合対象組織を把持した状態で、前記カートリッジ内のステープルを前記組織内に打出し、前記組織を前記各ステープルによって縫合するとともに、前記カートリッジとアンビルとの間に把持された縫合対象組織を切断する切断手段が前記縫合部材に設けられた縫合器において、前記縫合部材に設けられ、前記切断手段に対して少くとも一方側に前記ステープルによる縫合部を配置するとともに、前記切断手段に対する他方側に前記切断手段による切断面に沿って前記組織の切断部分の絞り糸を取付ける手段を設けたことを特徴とする縫合器。」

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は腹壁等を貫通して体腔内に挿入し、体腔内の生体組織を縫合する縫合器に関する。」

(ウ)「【0014】
【実施例】以下、本発明の第1の実施例を図1?図9を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施例の縫合器の概略構成を示すものである。1は操作部で、この操作部1には挿入部2の基端部が回転自在に連結されている。
【0015】挿入部2の先端部には図2(A)?(C)に示す縫合部材3が設けられている。この縫合部材3にはカートリッジ4とアンビル5とが設けられている。さらに、操作部1には縫合部材3を開閉する開閉操作部6とステープル操作部7とが設けられている。」

(エ)
「【0016】また、縫合部材3のカートリッジ4およびアンビル5の幅方向の中間部には図3?図5に示すように長手方向に亘ってカッタガイド溝8,9が設けられている。このカッタガイド溝8,9の内部にはカートリッジ4とアンビル5との間に把持された縫合対象組織Hを切断するカッタ(切断手段)10がスライド可能に装着されている。
【0017】カートリッジ4およびアンビル5の内面4a,5aには図3に示すようにカッタガイド溝8,9を挟んで片側にステープル縫合部11が配置され、反対側にはカッタ10による切断面に沿って組織切断部分の絞り糸取付け部(絞り糸取付け手段)12が設けられている。」

(オ)
「【0018】ここで、カートリッジ4のステープル縫合部11には図5に示すように複数のスリット13…が2列に略千鳥状に配置されている。これらのスリット13…には図6に示すようにプッシャ13aが突没自在に収納されている。
【0019】また、各プッシャ13aの上面には略コ字状のステープル14が1個づつ、脚部14aを上向きにし、しかも上方へ突出自在に収納されている。さらに、カートリッジ4の内部にはプッシャ13a…に対向してプレートガイド溝が設けられ、このプレートガイド溝の内部をプッシャプレート15がスライドするようになっている。」

(カ)
「【0031】プッシャプレート15の前進に伴ってカートリッジ4の内部のプッシャ13aはプッシャプレート15の先端の傾斜面15aによって押し上げられる。そのため、スリット13の内部のステープル14は突出し、縫合対象組織Hに打ち出される。打ち出されたステープル14の脚部14aは生体組織を貫通し、その脚部14aはアンビル5に設けられた成形溝16によって互いに内側に折り曲げられ、縫合対象組織Hがステープル14によって縫合される。」

(キ)
「【0062】また、図22および図23は縫合器のさらに別の変形例を示すものである。これは、挿入部2の先端に縫合器の縫合部材91に並べて把持部材92を設けたものである。この場合、縫合部材91にはカートリッジ93とアンビル94とが設けられているとともに、把持部材92には一対の挾持アーム95,96が設けられている。
【0063】そして、上記構成のものにあっては把持部材92により、縫合対象組織Hを把持し、縫合対象組織Hを平たく潰すことができる。さらに、ここで平たく潰された組織Hは続いて縫合部材91のカートリッジ93とアンビル94との間で挟み、ステープルにより縫合したのち、切断される。
【0064】そこで、上記構成のものにあってはあらかじめ把持部材92により、縫合対象組織Hが平たく潰されるので、組織Hを縫合部材91のカートリッジ93とアンビル94との間で挟みやすくすることができ、作業能率の向上を図ることができる。・・・(後略)」




イ 刊行物1発明
(ク)
上記記載事項(ウ)並びに図1及び図22,23に示される「挿入部2」 は、技術常識を踏まえ合理的に考えれば、操作部から遠位方向に延び、長手方向軸を画定する挿入部、ということができる。

(ケ)
上記記載事項(キ)及び図22,23に示される「縫合部材91」については、記載事項(キ)及び図22,23記載の変形例が、上記記載事項(ウ)ないし(オ)記載の基本形態の変形例であることを踏まえ、一対の縫合部材であり、縫合部材のうちの少なくとも一方は、それらの間で縫合対象組織を把持するため、開閉可能である、ということができる。

(コ)
上記記載事項(オ)の「カートリッジ4のステープル縫合部11には図5に示すように複数のスリット13…が2列に略千鳥状に配置されている」との記載、及び上記記載事項(カ)に、「打ち出されたステープル14の脚部14aは・・・アンビル5に設けられた成形溝16によって互いに内側に折り曲げられ」とあることから、カートリッジは、複数のステープルを収納し、該複数のステープルは、アンビルに向かって排出されるように配列されている、ということができる。

(サ)
上記記載事項(キ)に「把持部材92により、縫合対象組織Hを把持し、・・・平たく潰された組織Hは続いて縫合部材91のカートリッジ93とアンビル94との間で挟み」とあることから、把持部材92は、縫合対象組織Hを把持するため、開いた位置と接近した位置との間で可動であり、縫合部材91に対して独立して可動であると認められる。

そこで、上記記載事項(ア)ないし(キ)及び上記認定事項(ク)ないし(サ)を、特に図22及び図23に示された実施例に着目して、技術常識を踏まえ補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認める。(以下「刊行物1発明」という)
「外科的に組織を縫合するための縫合器であって、該縫合器は、
操作部と、
該操作部から遠位方向に延び、長手方向軸を画定する挿入部と、
該挿入部の遠位端に隣接して配置され、そこから概ね遠位方向に延びる一対の縫合部材であって、該縫合部材のうちの少なくとも一方は、それらの間で縫合対象組織を把持するため、開閉可能であり、該一対の縫合部材は、アンビルとカートリッジとを備え、該カートリッジは、複数のステープルを収納し、該複数のステープルは、該アンビルに向かって排出されるように配列されている、一対の縫合部材と、
該縫合部材に並べて配置され、該挿入部から概ね遠位方向に延びる把持部材であって、該把持部材は、縫合対象組織を把持するため、開いた位置と接近した位置との間で可動であり、該把持部材は、該縫合部材に対して独立して可動である、把持部材と
を備えている、縫合器。」

(2-2)刊行物2
ア 刊行物2に記載された事項
刊行物2には、「縫合装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

(ア)
「【0017】図1?図10は第1の実施例で、図1は縫合装置の全体構成を示す。1は操作部本体で、この操作部本体1には挿入部2の基端部が矢印方向に回転自在に連結されている。挿入部2の先端部にはカートリッジ3とアンビル4とからなる縫合器本体5が設けられている。
【0018】操作部本体1には縫合器本体5を開閉する開閉操作部6とステープル操作部7が設けられている。さらに、操作部本体1には縫合器本体5に電気的に接続する高周波電流入力部としての高周波接続ピン32が外部に突出して設けられている。」

(イ)
「【0023】したがって、前記挿入部2の内筒8にはカートリッジ3とアンビル4がその基端部を支点として上下方向に回動(開閉)自在であり、カートリッジ3は継手10の弾性力によって、アンビル4は板ばね15の弾性力によって開方向に付勢され、内筒8に対して進退自在な外筒9を前進することにより、カートリッジ3とアンビル4の基端部が外筒9に嵌合して縫合器本体5が閉じられるように構成されている。
【0024】さらに、カートリッジ3とアンビル4とからなる縫合器本体5は、その長手方向の略中間部から挿入部2の軸方向に対して略90゜湾曲している。そして、このカートリッジ3とアンビル4の幅方向の中間部には長手方向に亘ってカッタガイド溝18,19が湾曲して設けられ、このカッタガイド溝18,19の内部を後述するワイヤカッタ20がスライドするようになっている。」

(ウ)
「【0025】前記カートリッジ3の内面にはカッタガイド溝18を挟んで両側には複数のスリット21…が2列配置され、これらスリット21…にはプッシャ21aが突没自在に収納され、このプッシャ21aの上面には縫合部材としてのステープル22が1個づつ脚部22aを上向きにし、しかも上方へ突出自在に収納されている。さらに、カートリッジ3の内部にはプッシャ21a…に対向してプレートガイド溝23が設けられ、このプレートガイド溝23の内部を後述するプッシャプレート24がスライドするようになっている。」

(エ)
上記記載事項(イ)に「カートリッジ3とアンビル4とからなる縫合器本体5は、その長手方向の略中間部から挿入部2の軸方向に対して略90゜湾曲している」とあるところ、縫合器本体5は湾曲している以上、自ずと内側および外側を有するものと認められる。

そこで、上記記載事項(ア)ないし(ウ)及び上記認定事項(エ)を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認める。(以下「刊行物2事項」という)
「カートリッジとアンビルとからなる縫合器本体が、挿入部の軸方向に対して湾曲しており、内側および外側を有すること。」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1発明の「組織を縫合する」は、補正発明の「組織を接合する」に相当することは明らかであり、以下同様にそれぞれの機能及び技術常識を踏まえれば、「操作部」は「ハンドル部分」に、「長手方向軸」は「第1の長手方向軸」に、「挿入部」は「内視鏡的部分」に、「縫合部材」は「顎部材」に、「縫合対象組織を把持する」は「身体組織を係合する」に、「開閉可能」は「開いた位置と接近した位置との間で他方に対して可動」に、「アンビル」は「アンビルアセンブリ」に、「カートリッジ」は「カートリッジアセンブリ」に、「ステープル」は「外科用ステープル」に、「並べて」は「隣接して」に、「把持部材」は「締め付け具」に相当することも明らかである。
また、刊行物1発明の「縫合器」は、「ステープルを収納」「排出」するものであるから、補正発明の「外科用ステープリング器具」に相当といえる。

次に、補正発明の「複数の外科用ステープルは、該第1の長手方向軸に対して横方向に、該アンビルアセンブリに向かって排出されるように配列されており」との記載のうち特に「第1の長手方向軸に対して横方向に」なる特定事項に関連する本件明細書の記載としては、「【0025】 外科用器具は、長手方向軸に対して横方向に排出される外科用ステープルを有し得る。・・・」、「【0052】・・・ステープルは、装置の内視鏡的シャフトまたは内視鏡的部分の長手方向軸に対して横方向、アンビルアセンブリのステープル形成ポケットまたはリセスに向かう方向に駆動される。」と記載されていることからすれば、補正発明における「第1の長手方向軸に対して横方向」とは、カートリッジアセンブリ側からアンビルアセンブリ側へ向かう方向と解される。そうすると、刊行物1発明の「該複数のステープルは、該アンビルに向かって排出されるように配列されて」いるという事項は、上記対応関係も踏まえ、補正発明の「該複数の外科用ステープルは、該第1の長手方向軸に対して横方向に、該アンビルアセンブリに向かって排出されるように配列されて」いることに相当するということができる。

したがって、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「外科的に組織を接合するための外科用ステープリング器具であって、該外科用ステープリング器具は、
ハンドル部分と、
該ハンドル部分から遠位方向に延び、第1の長手方向軸を画定する内視鏡的部分と、
該内視鏡的部分の遠位端に隣接して配置され、そこから概ね遠位方向に延びる一対の顎部材であって、該顎部材のうちの少なくとも一方は、それらの間で身体組織を係合するため、開いた位置と接近した位置との間で他方に対して可動であり、該一対の顎部材は、アンビルアセンブリとカートリッジアセンブリとを備え、該カートリッジアセンブリは、複数の外科用ステープルを収納し、該複数の外科用ステープルは、該第1の長手方向軸に対して横方向に、該アンビルアセンブリに向かって排出されるように配列されている、一対の顎部材と、
該顎部材に隣接して配置され、該内視鏡的部分から概ね遠位方向に延びる締め付け具であって、該締め付け具は、身体組織を係合するため、開いた位置と接近した位置との間で可動であり、該締め付け具は、該顎部材に対して独立して可動である、締め付け具と
を備えている、外科用ステープリング器具。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
<相違点1>
補正発明の顎部材は、内視鏡的部分の第1の長手方向軸に対して湾曲しており、内側および外側を有しているのに対し、刊行物1発明の顎部材(縫合部材)は、そのような湾曲形状ではない点。
<相違点2>
補正発明の締め付け具は、顎部材の湾曲に対応するように内視鏡的部分の該第1の長手方向軸に対して湾曲して、顎部材の内側に配置されているのに対し、刊行物1発明の締め付け具(把持部材)は、顎部材(縫合部材)に並べて配置されているものの、湾曲形状ではない点。

(4)相違点の検討
ア 相違点1について
上記(2-2)にて指摘したように、刊行物2事項は、「カートリッジとアンビルとからなる縫合器本体が、挿入部の軸方向に対して湾曲しており、内側および外側を有すること。」というものであるところ、これを補正発明の用語に倣って表現すれば、刊行物2事項の「カートリッジ」は補正発明の「カートリッジアセンブリ」に相当し、同様に「アンビル」は「アンビルアセンブリ」に、「縫合器本体」に「顎部材」に、「挿入部の軸方向」は「内視鏡的部分の第1の長手方向軸」に相当するといえるから、刊行物2事項は、「カートリッジアセンブリとアンビルアセンブリとからなる顎部材が、内視鏡的部分の第1の長手方向軸に対して湾曲しており、内側および外側を有すること。」と言い改めることができる。
ここで、刊行物1発明と刊行物2事項は、いずれも縫合器である点で技術分野が共通しており、刊行物2に接した当業者がこれを刊行物1発明に適用することを試みることに格別困難性はない。そうすると、刊行物1発明に刊行物2事項を適用して、顎部材(縫合部材)を長手方向軸に対して湾曲させて内側および外側を有する形状として、相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものというべきである。

イ 相違点2について
上記アにて指摘したように、刊行物1発明において、顎部材(縫合部材)を長手方向軸に対して湾曲させて内側および外側を有する形状とすることは刊行物2事項の適用により想到容易というべきであるところ、そのように顎部材を湾曲させた場合、該顎部材に並べて配置される締め付け具(把持部材)もそれに対応するように湾曲させる方が、実用上好ましいことは明らかである。
そして、湾曲させた締め付け具を湾曲形状の顎部材に並べて配置する際は、顎部材の内側または外側のいずれかに配置することとなるが、内側に配置するか外側に配置するかはそもそも択一的選択であるところ、複雑なステープル機構を有する顎部材に比べて締め付け具は単純な構造で小型化しやすいことからすれば、これを内側に配置することは、当業者がごく自然に選択し得るものと解するのが相当である。
よって、相違点2に係る補正発明の構成も、刊行物1発明に刊行物2事項を適用することによって、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

ウ 小括
したがって、補正発明は、刊行物1発明及び刊行物2事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本件出願の発明について
1 本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたところ、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という)は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、平成25年10月3日付けの手続補正書により補正された上記第2の1(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの「外科用ステープリング器具」であると認める。

2 刊行物
これに対して、原審の拒絶の理由に引用された刊行物は、上記第2の2(2)に示した刊行物1及び刊行物2であり、その記載事項は上記第2の2(2)のとおりである。

3 対比・検討
本件出願の発明は、上記第2の2で検討した補正発明の「顎部材」について、実質的に「内側および外側を有している」という限定を削除し、「締め付け具」について顎部材の「該内側に」隣接して配置されるという限定を削除したものである。
そうすると、本件出願の発明より狭い範囲を特定事項とする補正発明が、上記第2の2で検討したとおり想到容易である以上、それよりも広い範囲を特定事項とする本件出願の発明も、刊行物1発明及び刊行物2事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということになる。

4 むすび
以上のとおり、本件出願の発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-09 
結審通知日 2015-07-10 
審決日 2015-07-22 
出願番号 特願2009-112361(P2009-112361)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 哲男  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 長屋 陽二郎
平瀬 知明
発明の名称 締め付け具を備えた外科用器具  
代理人 大塩 竹志  

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