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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1308288
審判番号 不服2014-24921  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-05 
確定日 2015-11-30 
事件の表示 特願2010-217906「3次元地図表示システム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月12日出願公開、特開2012- 73397〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成22年 9月28日 特許出願
平成26年 2月26日付け 拒絶理由の通知(同年3月4日発送)
平成26年 4月11日 意見書の提出
平成26年 4月11日 手続補正書の提出
平成26年10月22日付け 拒絶査定(同年同月27日送達)
平成26年12月 5日 審判請求書の提出

第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、各請求項に記載された発明は、いずれも、その出願前に日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

引用刊行物
・特開平9-281889号公報(以下、「引用例1」という。)
・特開2009-271732号公報(以下、「引用例2」という。)
・特開2007-26200号公報(以下、「周知例3」という。)

第3 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明は、平成26年4月11日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「地物を3次元的に表現した3次元地図を描画する3次元地図表示システムであって,
前記地物を透視投影法で3次元的に描画して前記3次元地図の背景画像を生成するための3次元ポリゴンデータと,前記背景画像中に所定の名称を表示するための文字列および表示位置を特定する文字データとを格納する地図データベースと、
前記3次元ポリゴンデータを用いて地物を透視投影法で3次元的に描画して前記背景画像を生成する背景描画部と、
前記文字データを用いて前記背景画像中に前記所定の名称を表す文字列を表示する文字表示部とを備え、
前記文字表示部は、
各名称の文字列について、該文字列を外接するように包含する文字枠が前記透視投影法における視点からの奥行きに応じて該透視投影法における表示比率とは異なる表示比率で、かつ奥行きが所定値以下の範囲では前記透視投影法よりも緩やかな表示比率で、小さくなるよう、該文字列の文字サイズおよび文字間隔の少なくとも一方を変化させて、前記文字列の表示を行う3次元地図表示システム。」(以下、「本願発明」という。)

第4 引用例の記載、引用発明及び技術事項
1 引用例1
(1) 引用例1には、次の事項(a)ないし(e)が図面とともに記載されている。(なお、下線は、当審が付与した。)
(a)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表示装置の画面上に、3次元地図と当該三次元地図を構成する地図構成物の関連情報とを表示する地図表示装置及び地図表示方法に関するものである。」
(b)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような画面表示処理上の工夫は、二次元の地図データを基になされている。したがって、たとえば、立体交差点や坂道、あるいは、建物が立ち並ぶ道路の状況等は、二次元(平面)的に表示される。このため、近年、現在地周辺や目的地周辺の状況をより把握し易くするために、三次元地図(実際には、三次元地図の投影図)を画面上に表示するナビゲーション装置の実現が要望されている。
【0005】ところで、三次元地図表示のナビゲーション装置を実現した場合、二次元地図を画面上に表示する場合に比べて、建物、道路、地形等の地図構成物の関連情報(名称、案内等の情報)の視認性が低下するという問題が生じることが予測される。すなわち、二次元地図表示では、画面上に表示された地図構成物に単純に重ねて対応する関連情報を表示していた。しかし、三次元地図表示では、視線を変化させて斜めから眺めた風景を表示することもあるので、地図構成物が他の地図構成物に陰影されたり、眺める方向によって形状が変化したりする。このため、関連情報を常に見やすい位置に表示することができない。
【0006】本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、地図構成物の関連情報の視認性が低下するのを防ぐことができる三次元地図表示装置及び三次元表示方法を提供することを目的とするものである。」
(c)
「【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、表示装置の画面上に、地図と当該地図を構成する地図構成物の関連情報とを表示する地図表示装置において、地図構成物の三次元情報が記憶された地図情報記憶手段と、前記地図情報記憶手段に記憶されている地図構成物の関連情報が記憶された関連情報記憶手段と、前記地図情報記憶手段に記憶された情報を基に、三次元座標上に地図構成物が配置された三次元地図を作成する三次元地図作成手段と、前記三次元地図作成手段で作成された三次元地図の投影図を作成する際の視点位置を設定する視点設定手段と、前記三次元地図作成手段で作成された三次元地図を前記視点設定手段で設定された視点位置から眺めたときに得られる投影図を作成する投影図作成手段と、前記投影図作成手段で作成された投影図に表示されている地図構成物に対応する関連情報を前記関連情報記憶手段から読み出す読出し手段と、前記投影図作成手段で作成された投影図に表示されている地図構成物の前記投影図上における表示領域を検出する表示領域検出手段と、前記表示領域検出手段によって検出された地図構成物の表示領域に基づいて、当該地図構成物に対応する関連情報の前記投影図上における表示領域を設定する表示領域設定手段と、前記表示領域設定手段によって設定された関連情報の表示領域上に、当該関連情報を付記する付記手段と、前記付記手段によって関連情報が付記された前記投影図を、前記画像装置の画面上に表示する表示手段と、を有することを特徴とするものである。
【0008】ここで、地図構成物とは、建物、道路等の他、山、川等の地形をも含む。
【0009】地図構成物の関連情報とは、地図構成物の名称、案内等を含む。」
(d)
「【0044】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の第一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0045】先ず、本実施形態が適用されたナビゲーション装置の表示画面について説明する。
【0046】図1は本実施形態による処理が実行されたナビゲーション装置の表示画面のイメージを示す。図1において、符号21は、モニタ等の表示画面、符号22?26は、マンションやホテルなどの建物、符号27は、道路を示す。尚、本実施形態では、上記の建物や道路の他、山、川等の地形をも含め、これ等の地図構成物を、一括してオブジェクトと称している。
【0047】本実施形態では、原則として、文字情報は、当該文字情報に対応するオブジェクト表示領域(実際にオブジェクトが表示画面上に表示されている領域)内に表示される。図1に示す例では、オブジェクト22?25について、「○○ビル」、「△△マンション」等の文字情報が対応するオブジェクト表示領域内に表示されている。
【0048】本実施形態において、オブジェクト表示領域内に文字情報が表示できないと判断した場合、文字情報は、そのオブジェクト表示領域の近傍に表示される。図1に示す例では、オブジェクト26について、文字情報「××医院」が引き出し線を用いてオブジェクト26の表示領域近傍に表示されている。」
(e)
「【0073】図8に示すフローでは、ステップ64において、文字情報が文字表示領域Sc内に表示できないと判断した場合、文字サイズ/アスペクト/文字間隔/行間隔等の文字の表示属性を変更できるか否かを判定する(ステップ81)。尚、文字の表示属性の変更には、文字が小さくて読みにくくなるなどの限界があるので、人間工学的な問題を考慮し、文字の表示属性の変更に一定の制限値を設定しておく。ステップ81において、変更できると判断した場合、文字の表示属性を変更する(ステップ82)。一方、変更できないと判断した場合、オブジェクトの表示領域内に文字情報を展開することをあきらめ、ステップ67に移行する。」

・前記記載(c)には、
(ア)「表示装置の画面上に、地図と当該地図を構成する地図構成物の関連情報とを表示する地図表示装置において、地図構成物の三次元情報が記憶された地図情報記憶手段と、前記地図情報記憶手段に記憶されている地図構成物の関連情報が記憶された関連情報記憶手段と、前記地図情報記憶手段に記憶された情報を基に、三次元座標上に地図構成物が配置された三次元地図を作成する三次元地図作成手段と、前記三次元地図作成手段で作成された三次元地図の投影図を作成する際の視点位置を設定する視点設定手段と、前記三次元地図作成手段で作成された三次元地図を前記視点設定手段で設定された視点位置から眺めたときに得られる投影図を作成する投影図作成手段と、前記投影図作成手段で作成された投影図に表示されている地図構成物に対応する関連情報を前記関連情報記憶手段から読み出す読出し手段と、前記投影図作成手段で作成された投影図に表示されている地図構成物の前記投影図上における表示領域を検出する表示領域検出手段と、前記表示領域検出手段によって検出された地図構成物の表示領域に基づいて、当該地図構成物に対応する関連情報の前記投影図上における表示領域を設定する表示領域設定手段と、前記表示領域設定手段によって設定された関連情報の表示領域上に、当該関連情報を付記する付記手段と、前記付記手段によって関連情報が付記された前記投影図を、前記画像装置の画面上に表示する表示手段と、を有し、
ここで、地図構成物とは、建物、道路等の他、山、川等の地形をも含み、
地図構成物の関連情報とは、地図構成物の名称、案内等を含」むとの技術事項が記載されている。

・前記記載(d)から、
(イ)「名称とは、「○○ビル」、「△△マンション」、「××医院」等の文字情報である」との技術事項が読み取れる。

・前記記載(e)から、
(ウ)「文字情報が文字表示領域Sc内に表示できないと判断した場合、文字サイズ/アスペクト/文字間隔/行間隔等の文字の表示属性を変更できるか否かを判定し、尚、文字の表示属性の変更には、文字が小さくて読みにくくなるなどの限界があるので、人間工学的な問題を考慮し、文字の表示属性の変更に一定の制限値を設定しておき、変更できると判断した場合、文字の表示属性を変更する」との技術事項が読み取れる。

・前記記載(a)には、本発明は、
(エ)「地図表示装置」の発明であることが記載されている。

(2) 引用発明
以上の技術事項(ア)ないし(エ)を総合すると、引用例1から次の発明(以下、「引用発明」という。)を認定することができる。

「表示装置の画面上に、地図と当該地図を構成する地図構成物の関連情報とを表示する地図表示装置において、地図構成物の三次元情報が記憶された地図情報記憶手段と、前記地図情報記憶手段に記憶されている地図構成物の関連情報が記憶された関連情報記憶手段と、前記地図情報記憶手段に記憶された情報を基に、三次元座標上に地図構成物が配置された三次元地図を作成する三次元地図作成手段と、前記三次元地図作成手段で作成された三次元地図の投影図を作成する際の視点位置を設定する視点設定手段と、前記三次元地図作成手段で作成された三次元地図を前記視点設定手段で設定された視点位置から眺めたときに得られる投影図を作成する投影図作成手段と、前記投影図作成手段で作成された投影図に表示されている地図構成物に対応する関連情報を前記関連情報記憶手段から読み出す読出し手段と、前記投影図作成手段で作成された投影図に表示されている地図構成物の前記投影図上における表示領域を検出する表示領域検出手段と、前記表示領域検出手段によって検出された地図構成物の表示領域に基づいて、当該地図構成物に対応する関連情報の前記投影図上における表示領域を設定する表示領域設定手段と、前記表示領域設定手段によって設定された関連情報の表示領域上に、当該関連情報を付記する付記手段と、前記付記手段によって関連情報が付記された前記投影図を、前記画像装置の画面上に表示する表示手段と、を有し、
ここで、地図構成物とは、建物、道路等の他、山、川等の地形をも含み、
地図構成物の関連情報とは、地図構成物の名称、案内等を含み、
名称とは、「○○ビル」、「△△マンション」、「××医院」等の文字情報であり、
文字情報が文字表示領域Sc内に表示できないと判断した場合、文字サイズ/アスペクト/文字間隔/行間隔等の文字の表示属性を変更できるか否かを判定し、尚、文字の表示属性の変更には、文字が小さくて読みにくくなるなどの限界があるので、人間工学的な問題を考慮し、文字の表示属性の変更に一定の制限値を設定しておき、変更できると判断した場合、文字の表示属性を変更する、
地図表示装置。」

2 引用例2
(1) 引用例2には、次の事項(a)ないし(c)が表、数式、図面とともに記載されている。(なお、下線は、当審が付与した。)
(a)
「【0020】
また、本発明に係る情報提示装置では、カメラが対象物を撮影する視点位置と対象物の位置情報との距離に応じて、付加情報の表示態様を変化させる。具体的には、距離が大きくなるにつれて、付加情報を構成する文字フォントのサイズを変更する。すなわち、カメラの視点位置から近い物体ほどその付加情報の文字を大きく表示し、遠くなるにつれて文字を小さく表示するようにする。
【0021】
このように、スルー画像に含まれる対象物に関連する付加情報を、カメラで対象物を撮影した視点位置から対象物が近いのか遠いのかという位置関係に基づいて、重畳表示する際の表示位置や文字の大きさを決定するので、ユーザにとって、提示された付加情報に対応する対象物への距離感を直感的に理解し易くなるであろう。」
(b)
「【0043】
付加情報は、例えば建物の名称や周辺スポット情報などを記述した文字情報からなる。文字フォントのサイズで最も大切なことは、近ければ大きく、遠ければ小さい、ということである。基本的には、カメラ撮影部11の視点位置から被写体となる対象物までの距離に応じて、対応する付加情報を構成する文字フォントのサイズを変更する。すなわち、カメラ撮影部11の視点位置から近い対象物ほどその付加情報の文字を大きく表示し、遠くなるにつれて文字を小さく表示するようにする。但し、通常は表示可能な文字フォントのサイズは上限並びに下限があるとともに離散的な値をとることから、距離と単純に比例させて付加情報のサイズを決定する必要はない。」
(c)
「【0055】
図5には、カメラ撮影部11の視点位置から対象物までの距離に応じて、各対象物について表示する付加情報の文字フォントのサイズを調整して提示した様子を示している。」
【図5】

また、
表1(段落0048)及び表2(段落0051)において、距離5.0kmのときに5pt、10kmのときに20ptという例が記載されている。
数1(段落0050)には、対象物までの距離distが大きくなるほどフォント・サイズsizeが大きくなるという正の傾きの1次関数が記載されている。
数2(段落0054)には、値nが大きくなるほど、即ち対象物が遠くなるほど、フォント・サイズsizeが大きくなるという正の傾きの1次関数が記載されている。

(2) 引用例2に記載された技術事項
以上、上記記載(a)、(b)から、引用例2には次の技術事項が読み取れる。

「付加情報は、例えば建物の名称や周辺スポット情報などを記述した文字情報からなり、
ユーザにとって、提示された付加情報に対応する対象物への距離感を直感的に理解し易くなるように、
表示可能な文字フォントサイズに上限や下限があり、点位置から近い対象物ほどその付加情報の文字を大きく表示し、遠くなるにつれて文字を小さく表示するようにする。」(以下、「引用例2に記載された技術事項」という。)

なお、表1、2や数1、2には、対象物が遠くなるほど、フォント・サイズsizeが大きくなる関係を表すものが記載されているが、引用例2の上記(a)(b)の記載、周知例3の下記(a)(b)の記載、特開2008-85555号公報の「【0081】なお、距離による文字サイズの決定については、基本的に距離が遠くなるほど文字サイズを小さくすればよく、たとえば、5m以内では12ポイント、100m程度では6ポイントなどとし、あとは、検出領域の距離算出結果に応じて、直線補完で文字サイズを求めてもよい。」との記載、及び、特開平10-111139号公報「【0034】次に、目印の位置がL2より手前か否かの判定する(S23)。すなわち、図6における直線L2の右側(視点Aに近い)領域にあるか否かを判定する。ここで、図において四角で示した範囲が拡大図において表示される範囲である。そして、S23においてYES、すなわち交差点の手前に目印があれば、大きい目印フォントでこの目印を拡大図上に配置する(S24)。一方、S23の判定においてNOであれば、小さい目印フォントでこの目印を拡大図上に配置する(S25)。」との記載があるように、距離が遠くなるほどフォントサイズを小さく表示することは、周知慣用の技術事項であることに鑑みれば、引用例2の表1、2や数1、2の記載は、誤りであると認められる。

3 周知例3
(1) 周知例3には、次の事項(a)ないし(b)が記載されている。(なお、下線は、当審が付与した。)
(a)
「【0003】
ところで、カーナビゲーション装置のディスプレイ画面上には、道路や建造物の他に、サービスステーション等の施設や目的地を示すアイコンや名称文字等の様々な表示物が存在する。このような表示物を3D地図において表示する場合、従来の手法は大まかに以下の2種類があった。」
(b)
「【0025】
このように、アイコン等の2D表示物については、視点から近い距離にあるものは固定の最大描画サイズで描画するので、近づいたときに大き過ぎてディスプレイ画面に対して邪魔な表示になってしまうということがなくなり、遠い距離では認識可能な最小描画サイズで描画するので、小さくなり過ぎて認識できないということがなくなる。また、その中間の距離の場合は距離に応じて描画サイズが変化するため、遠近感を表現することができる。更に、所定距離以上では表示物の表示を行わないため、表示物が多くなり過ぎるのを防止することができる。」

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを、主たる構成要件ごとに順次対比する。
(1)
本願明細書の発明の詳細な説明には、「【0005】・・・地物とは、建造物、信号機、案内板、橋、街路樹など、地上に配置される種々の対象物、および道路、山、川、海などを言う。文字データとは、背景画像中に所定の名称を表示するための文字列および表示位置を特定するデータである。表示すべき名称としては、例えば、地物等の名称、交差点の名称、地名、住所、通り名、行き先案内などが挙げられる。」との記載がある。
してみると、引用発明における、建物、道路等の他、山、川等の地形をも含む「地図構成物」は、本願発明における、建造物、信号機、案内板、橋、街路樹など、地上に配置される種々の対象物、および道路、山、川、海などを言う「地物」に相当する。
(2)
引用発明において、「地図構成物の関連情報とは、地図構成物の名称、案内等を含み、名称とは、「○○ビル」、「△△マンション」、「××医院」等の文字情報である」から、引用発明の「名称」等の「文字情報」は、本願発明における「所定の名称を表示するための文字列および表示位置を特定する文字データ」とは、「所定の名称を表示するための文字列を特定する文字データ」である点で共通する。
(3)
引用発明における「地図構成物の三次元情報」は、本願発明における「前記地物を透視投影法で3次元的に描画して前記3次元地図の背景画像を生成するための3次元ポリゴンデータ」に相当する。
(4)
引用発明における「地図構成物の三次元情報が記憶された地図情報記憶手段と、前記地図情報記憶手段に記憶されている地図構成物の関連情報が記憶された関連情報記憶手段」は、本願発明における、「3次元ポリゴンデータ」と「文字データ」とを格納する「地図データベース」に相当する。
(5)
引用発明における「前記地図情報記憶手段に記憶された情報を基に、三次元座標上に地図構成物が配置された三次元地図を作成する三次元地図作成手段と、前記三次元地図作成手段で作成された三次元地図の投影図を作成する際の視点位置を設定する視点設定手段と、前記三次元地図作成手段で作成された三次元地図を前記視点設定手段で設定された視点位置から眺めたときに得られる投影図を作成する投影図作成手段」は、本願発明における「前記3次元ポリゴンデータを用いて地物を透視投影法で3次元的に描画して前記背景画像を生成する背景描画部」に相当する。
(6)
引用発明において、「前記投影図作成手段で作成された投影図に表示されている地図構成物に対応する関連情報を前記関連情報記憶手段から読み出す読出し手段と、前記投影図作成手段で作成された投影図に表示されている地図構成物の前記投影図上における表示領域を検出する表示領域検出手段と、前記表示領域検出手段によって検出された地図構成物の表示領域に基づいて、当該地図構成物に対応する関連情報の前記投影図上における表示領域を設定する表示領域設定手段と、前記表示領域設定手段によって設定された関連情報の表示領域上に、当該関連情報を付記する付記手段と、前記付記手段によって関連情報が付記された前記投影図を、前記画像装置の画面上に表示する表示手段」は、地図構成物の関連情報とは、地図構成物の名称である「○○ビル」、「△△マンション」、「××医院」等の文字情報であるから、本願発明における「前記文字データを用いて前記背景画像中に前記所定の名称を表す文字列を表示する文字表示部」に相当する。
(7)
引用発明における「文字情報が文字表示領域Sc内に表示できないと判断した場合、文字サイズ/アスペクト/文字間隔/行間隔等の文字の表示属性を変更できるか否かを判定し、尚、文字の表示属性の変更には、文字が小さくて読みにくくなるなどの限界があるので、人間工学的な問題を考慮し、文字の表示属性の変更に一定の制限値を設定しておき、変更できると判断した場合、文字の表示属性を変更する」と、本願発明における「前記文字表示部は、各名称の文字列について、該文字列を外接するように包含する文字枠が前記透視投影法における視点からの奥行きに応じて該透視投影法における表示比率とは異なる表示比率で、かつ奥行きが所定値以下の範囲では前記透視投影法よりも緩やかな表示比率で、小さくなるよう、該文字列の文字サイズおよび文字間隔の少なくとも一方を変化させて、前記文字列の表示を行う」とは、「前記文字表示部は、該文字列の文字サイズおよび文字間隔の少なくとも一方を変化させて、前記文字列の表示を行う」点で共通する。
(8)
引用発明は、「前記三次元地図作成手段で作成された三次元地図を前記視点設定手段で設定された視点位置から眺めたときに得られる投影図を作成する投影図作成手段」を有するから、引用発明の「地図表示装置」は、本願発明における「3次元地図表示システム」に相当する。

2 してみると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「地物を3次元的に表現した3次元地図を描画する3次元地図表示システムであって,
前記地物を透視投影法で3次元的に描画して前記3次元地図の背景画像を生成するための3次元ポリゴンデータと,前記背景画像中に所定の名称を表示するための文字列を特定する文字データとを格納する地図データベースと、
前記3次元ポリゴンデータを用いて地物を透視投影法で3次元的に描画して前記背景画像を生成する背景描画部と、
前記文字データを用いて前記背景画像中に前記所定の名称を表す文字列を表示する文字表示部とを備え、
前記文字表示部は、
該文字列の文字サイズおよび文字間隔の少なくとも一方を変化させて、前記文字列の表示を行う3次元地図表示システム。」

(相違点1)
本願発明の「文字データ」は、文字列および表示位置を特定するものであるのに対し、引用発明の「文字情報」は、「○○ビル」、「△△マンション」、「××医院」等の文字列の情報のほかに「表示位置」を特定する情報を有しているか明らかでない点。

(相違点2)
文字列の表示を、文字列の文字サイズおよび文字間隔の少なくとも一方を変化させるのは、本願発明において、「各名称の文字列について、該文字列を外接するように包含する文字枠が前記透視投影法における視点からの奥行きに応じて該透視投影法における表示比率とは異なる表示比率で、かつ奥行きが所定値以下の範囲では前記透視投影法よりも緩やかな表示比率で、小さくなるよう」に行われるのに対し、引用発明は、透視投影法における視点からの奥行きに応じて行われるものではない点。

第6 判断
1 相違点1について
地図に表示する文字の情報として、文字列の表示位置を特定する情報を含むようにすることは、周知慣用の技術事項であり(例えば、特開平11-161159号公報「【0066】文字列データ取得91は、地図データに記録された文字列の描画座標位置,文字数及び文字コード、ないし記号の描画座標位置,記号コード及びシンボルイメージを読み出す。」等参照。なお下線は、当審が付与した。)、引用発明の文字情報として、文字列の表示位置を特定する情報を含ませることに困難性は見いだせず、相違点1に係る構成のようにすることは、当業者が適宜なし得ることである。

2 相違点2について
引用例2には、
「付加情報は、例えば建物の名称や周辺スポット情報などを記述した文字情報からなり、
ユーザにとって、提示された付加情報に対応する対象物への距離感を直感的に理解し易くなるように、
表示可能な文字フォントサイズに上限や下限があり、点位置から近い対象物ほどその付加情報の文字を大きく表示し、遠くなるにつれて文字を小さく表示するようにする。」との技術事項が記載されている。
そして、引用例2に記載された技術事項の「点位置から近い対象物ほどその付加情報の文字を大きく表示し、遠くなるにつれて文字を小さく表示する」ことは、引用例2の図5(「カメラ撮影部11の視点位置から対象物までの距離に応じて、各対象物について表示する付加情報の文字フォントのサイズを調整して提示した様子を示している」(段落【0055】))から明らかなとおり、遠くなるにつれて文字及び文字列は小さくなっており、また、その文字列の表示される領域に外接する矩形の領域(本願発明の「文字枠」に相当)は、表示されていないものの、遠くなるにつれて小さくなっているから、本願発明が「文字列を外接するように包含する文字枠」が「支点からの奥行きに応じて」「小さくなるよう、該文字列の文字サイズ」「を変化させて」いることに相当する技術事項であるといえる。
そして、引用発明と引用例2に記載された技術とは、パース(透視投影法)に従って表示された画面内の対象物に、文字によって付加情報を表示する技術である点で共通するから、引用発明に引用例2に記載された技術を適用し、引用発明において、「文字サイズ/アスペクト/文字間隔/行間隔等の文字の表示属性を変更」し、近い対象物、つまり近い地図構成物ほど、その付加情報の文字、つまり名称の文字を大きく表示し、遠くなるにつれて文字を小さく表示し、名称の文字情報を外接するように包含する文字枠が遠くなるにつれて小さくなるようにすることは当業者が容易になし得たことである。
さらに、
(1)引用例1の段落「【0073】に「図8に示すフローでは、ステップ64において、文字情報が文字表示領域Sc内に表示できないと判断した場合、文字サイズ/アスペクト/文字間隔/行間隔等の文字の表示属性を変更できるか否かを判定する(ステップ81)。尚、文字の表示属性の変更には、文字が小さくて読みにくくなるなどの限界があるので、人間工学的な問題を考慮し、文字の表示属性の変更に一定の制限値を設定しておく。ステップ81において、変更できると判断した場合、文字の表示属性を変更する(ステップ82)。一方、変更できないと判断した場合、オブジェクトの表示領域内に文字情報を展開することをあきらめ、ステップ67に移行する。」と記載されているとおり、文字を縮小して所定領域内(つまり、本願発明でいう「文字列を外接するように包含する文字枠」)に表示するとき、表示文字の小ささには可読の限界があること、
(2)大平幸輝,尾川一行,RETAS STUDIO TECHNIQUE,初版,株式会社ビー・エヌ・エヌ新社,2009年6月25日,p.31に、
「ときには嘘パースも必要
背景は、最初に消失点を設定し、そのパースに合わせて背景やBOOKを描きます。しかし演出上どうしてもBOOKが邪魔だったり、キャラクターが小さすぎるといったことがありますが、その場合はパースを無視した描き方をすることもあります。パースを無視することでイメージが大きく狂っては意味がありませんが、演出を優先した上でイメージが損なわなければ、嘘のパースに従って描くことも重要です。」
と記載されているとおり、パース(透視投影法)は絶対的なものではなく、演出を優先した上でパースを無視した描き方をすることは、よく用いられている手法であること、
を考慮すれば、3次元的に表現した画面内に文字情報を表示する画面表示をデザインする際、文字の読みやすさを優先し、表示文字の大きさが可読の限界となるまでの所定の範囲内では、文字情報に対し、正確なパース(透視投影法)を無視し、表示文字が小さくて読みにくくならないような嘘のパースを用いることは、当業者が必要に応じ適宜採用しうる程度の慣用的な知識であると認められ、また、引用発明が対象とする「ナビゲーション装置」では、文字情報の読みやすさを優先すべきであることも、普通に知られていることである。
よって、上記のとおり引用発明に引用例2に記載された技術を適用し、引用発明において、近い対象物、つまり、近い地図構成物ほど、その付加情報の文字、つまり名称の文字を大きく表示し、遠くなるにつれて文字を小さく表示し、名称の文字情報を外接するように包含する文字枠が、遠くなるにつれて小さくなるようにする際、文字情報の読みやすさを優先し、表示文字の大きさが可読の限界となるまでの所定の範囲内では、遠くなるにつれて、文字情報を、正確なパース(透視投影法)に依らず、表示文字が読みにくくならない程度の表示比率、つまり、正確なパース(透視投影法)よりも緩やかな表示比率によって表示し、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明、引用例2に記載された技術事項及び周知慣用の技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された技術事項及び周知慣用の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-05 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-19 
出願番号 特願2010-217906(P2010-217906)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武田 悟  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 中塚 直樹
森 竜介
発明の名称 3次元地図表示システム  
代理人 加藤 光宏  

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