• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01M
管理番号 1308309
審判番号 不服2014-8187  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-02 
確定日 2015-12-04 
事件の表示 特願2009-261355「解析情報表示方法及び解析情報表示用コンピュータプログラム、並びに解析情報表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 2日出願公開、特開2011-106930〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成21年11月16日に出願された特許出願であって、平成25年10月29日付けで拒絶理由が通知され、この通知に対して同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年1月31日付けで拒絶査定がなされ、同拒絶査定の謄本は同年2月4日に請求人に送達された。
これに対し、同年5月2日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、それと同時に手続補正がなされた。そして、その後、当審により平成27年6月23日付けで拒絶理由が通知され、同年8月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について

本願請求項1ないし8に係る発明は、平成27年8月28日付け手続補正により適正に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
回転体であるタイヤの解析結果に関する情報をコンピュータが表示手段に表示させるにあたり、
前記コンピュータが、解析対象の前記タイヤを複数の節点で構成される複数の要素に分割して解析モデルを作成する手順と、
前記コンピュータが、前記解析モデルの解析を実行する手順と、
前記コンピュータが、解析が終了した後の解析モデルから、前記表示手段に表示させる前記解析モデルの断面の物理量を取得する手順と、
前記コンピュータが、前記断面と、前記断面の物理量が転写される表示用モデルとの間における転写条件を求める手順と、
前記コンピュータが、得られた前記転写条件に基づき、転写モデルへ前記断面の物理量を転写する手順と、
前記コンピュータが、前記断面の物理量が転写された前記転写モデルを前記表示手段へ表示する手順と、
を含み、
前記転写モデルは、表示対象断面を含む前記タイヤの子午線断面形状をトレッドセンター部、ショルダー部、サイド部、ビード部に大別しそれぞれの部分を複数の転写領域に分割して作成された複数個の表示要素により構成され、
前記コンピュータは、前記表示手段に表示させる前記解析モデルの異なる断面の物理量を、それぞれ異なる前記転写モデルへ転写するとともに、前記物理量が転写された後のそれぞれの前記転写モデルを、連続して前記表示手段へ表示し、各表示要素がそれぞれ対応する前記物理量の大きさ毎に異なる色又は異なる大きさのシンボルで前記転写モデルに転写された前記物理量を前記表示手段に表示することを特徴とする解析情報表示方法。」

第3 引用文献について

1 引用文献に記載された事項
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開2006-240600号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が図面と共に記載されている。
(下線は当審により引用発明の認定に直接用いた記載に付加した。)

(引-1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、有限要素法を用いてタイヤの性能を予測するタイヤ性能予測方法及びタイヤ性能予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤ(以下、タイヤ)などの設計方法において、有限要素法(Finite ElementMethod(FEM))を用いて、当該タイヤを有限個の要素でモデル化したタイヤモデルの性能(例えば、走行性能や耐亀裂性能)をシミュレーションすることが知られている。」

(引-2)「【0019】
(タイヤ性能予測装置の構成)
本実施形態におけるタイヤ性能予測装置200について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態におけるタイヤ性能予測装置200の構成を示す図である。
【0020】
図1に示すように、タイヤ性能予測装置200は、タイヤを有限個の要素でモデル化したタイヤモデル100(図1においては不図示、図3参照)の性能をシミュレーションするときに必要な情報を入力する入力部211と、当該タイヤモデル100の性能を解析する処理部212(CPU)と、当該処理部212により処理を実行するためのプログラムなどを記憶する記憶部213と、処理部212により評価された結果を表示する表示部214とを備えている。
【0021】
ここで、「要素」とは、処理部212により数値解析が可能なデータに基づいて生成されたものである。例えば、各要素には、2次元の3角形・4角形などからなる膜要素などや、3次元の4面体・5面体・6面体からなるシェル要素やソリッド要素などがある。また、要素を生成するデータには、座標データ、タイヤの特性(例えば、材料の性質や剛性、歪み量)などが定義されている。また、「タイヤモデル100の性能」とは、走行性能や操縦安定性、乗り心地性、耐亀裂性能など総合的な性能を示す。
【0022】
処理部212は、タイヤモデル作成部212a(タイヤモデル作成手段)と、各種情報設定部212bと、性能予測部212c(性能予測手段)と、結果出力部212dとを備えている。
【0023】
タイヤモデル作成部212aは、記憶部213に記憶されたタイヤ形状や構造、トレッドパターンなどのデータを示す設計データに基づいて、タイヤを有限個の要素でモデル化したタイヤモデル100を作成する。」

(引-3)「【0024】
ここで、タイヤの外表面の所定の位置に対応するタイヤモデル100の外表面に位置する外側要素101a,101b,101c・・・(図1においては不図示、図4参照)は、タイヤの外表面よりも内側に対応するタイヤモデル100の外表面よりも内側に位置する内側要素200a,200b,200c・・・(図1においては不図示、図4参照)よりも小さい。なお、「所定の位置」とは、タイヤの性能(例えば、表面歪み)を予測する際に大きく影響するタイヤのタイヤ最大幅の位置を含むサイドウォール(いわゆる、文字表記位置)を示す。
【0025】
各種情報設定部212bは、入力部211により入力された各種情報に基づいて、記憶部213に記憶されたプログラムを設定する。「各種情報」とは、タイヤに備えられるゴムやコード等の密度、弾性力等の材料の特性値や、ドライ路面又はウエット路面等の路面情報、空気圧や荷重、キャンバー角、スリップ角、速度等の境界条件などである。
【0026】
性能予測部212cは、有限要素法(FEM)を用いて、タイヤモデル作成部212aにより作成されたタイヤモデル100をシミュレーションし、当該タイヤモデル100の性能を予測する。結果出力部212dは、性能予測部212cにより予測されたタイヤモデル100の性能を表示部214において表示させる。」

(引-4)「【0027】
(タイヤ性能予測方法)
次に、図2を参照して、タイヤ性能予測方法について説明する。図2は、本実施形態におけるタイヤ性能予測方法を示すフロー図である。
【0028】
図2に示すように、まず、ステップ10において、処理部212は、記憶部213に記憶された設計データに基づいて、タイヤを有限個の要素でモデル化してタイヤモデル100を作成する。
【0029】
ここで、タイヤモデル100は、図3に示すように、各要素100a,100b,100c・・・(後述する内側要素及び外側要素を含む)によりモデル化されたものである。・・・・・」

(引-5)「【0032】
また、予測精度と計算精度とをバランスよく向上させる上で、外側要素101a,101b,101c・・・を内側要素200a,200b,200c・・・よりも小さくすることのみではなく、タイヤ周方向で各要素を分割することこと(当審注:「ことこと」は「こと」の誤記と認める。)がさらに好ましい。例えば、図5に示すように、タイヤモデル全体におけるタイヤ周方向での分割数を44分割以上とすることが好ましい。
【0033】
また、タイヤモデル100と仮想路面Rとの接触領域及びその近傍である領域Aにおいて、タイヤモデル100の回転軸Oを中心とした所定の角度θ1を2度以下とすることが好ましい。このタイヤモデル全体におけるタイヤ周方向での分割が不等であるタイヤモデル100を不等分割モデルと称する。なお、必ずしも不等分割モデルである必要はなく、図6に示すように、タイヤモデル全体におけるタイヤ周方向での分割が等しい等分割モデルであっても勿論よい。」

(引-6)「【0035】
次に、ステップ20において、処理部212は、入力部211により入力された各種情報に基づいて、記憶部213に記憶されたプログラムを設定する。なお、ステップ10の後にステップ20を行う順序となっているが、この順序は逆でもよい。
【0036】
次に、ステップ30において、処理部212は、有限要素法(FEM)を用いて、ステップ10で作成されたタイヤモデル100をシミュレーションし、タイヤの性能を予測する。例えば、タイヤの歪み量を予測する場合、処理部212は、基準タイヤのリム組み時、内圧時、荷重時及び転動時でのそれぞれの歪み量を基準値として設定し、当該基準値からタイヤモデル100のリム組み時、内圧時、荷重時及び転動時でのそれぞれの歪み量の値を所定の時間(例えば、1msec)毎に演算することにより算出することができる。
【0037】
次に、ステップ40において、処理部212は、ステップ30で予測されたタイヤの性能を表示部214において表示させる。このとき、図7に示すように、表示部214がタイヤ幅方向断面における歪み分布を表示するため、外側要素101a,101b,101c・・・の大きさは、内側要素200a,200b,200c・・・大きさよりも小さいことが分かる。」

(引-7)「【0043】
(変形例)
次に、上述した実施形態における変形例について説明する。上述した実施形態では、所定の位置が、タイヤの性能(例えば、表面歪み)を予測する際に大きく影響するタイヤ最大幅の位置を含むサイドウォールSWである(すなわち、外側要素101a,101b,101c・・・が、サイドウォールSWの外表面に位置する)ものとして説明したが、これに限定されるものではない。
【0044】
例えば、所定の位置は、タイヤの接地端部とタイヤ最大幅の位置との略中間部から前地端部までを示すバットレス部(図4参照)であってもよい。すなわち、外側要素101a,101b,101c・・・が、バットレス部の外表面に位置していてもよい。このことにより、高荷重下でタイヤが変形する際に大きく影響するバットレス部を効率よくかつ高精度で予測することができる。」

(引-8)「【0053】
また、上述した実施形態では、所定の位置がサイドウォールSWであり、変形例では、所定の位置がバットレス部であるものして説明したが、これに限定されるものではなく、所定の位置がタイヤモデルの全体であっても勿論よい。すなわち、タイヤモデルの全体の外表面に位置する外側要素が、内側要素よりも小さいことであってもよい。」

(引-9)「【図1】



(引-10)「【図2】



(引-11)「【図3】



(引-12)「【図4】



(引-13)「【図5】



(引-14)「【図7】



2 引用文献に記載された発明について

(1)上記摘記事項(引-6)及び(引-14)からは、「表示部214」がタイヤ幅方向断面における歪み分布を表示する際に、歪み量の大きさ毎に異なる濃度で表示された複数の表示要素からなるタイヤ幅方向断面形状のモデルを表示することが把握できる。

(2)上記摘記事項(引-3)、(引-6)、(引-12)及び(引-14)を参照すると、評価範囲として「表示部214」に歪み分布が表示されるタイヤ幅方向断面の部分は、「タイヤ」の「所定の位置に対応するタイヤモデル100」であると認められる。さらに、上記摘記事項(引-8)には、この「所定の位置」を「タイヤモデルの全体」とすることが記載されている。
以上のことを総合すると、引用文献には、「表示部214」にタイヤ幅方向全体の断面の歪み分布を表示することが示されているといえる。

(3)上記摘記事項(引-1)ないし(引-14)、上記(1)及び(2)に照らし、引用文献には、
「処理部212(CPU)が、記憶部213に記憶された設計データに基づいて、空気入りタイヤ(以下、タイヤ)を有限個の要素でモデル化してタイヤモデル100を作成するステップ10と、
処理部212が、記憶部213に記憶された設計データに基づいて、有限要素法(FEM)を用いて、ステップ10で作成されたタイヤモデル100をシミュレーションし、タイヤの歪み量を予測するステップ30と、
処理部212が、ステップ30で予測されたタイヤの歪み量を表示部214において、タイヤ幅方向断面における歪み分布として表示させるステップ40と、
を含み、
処理部212が表示部214に、タイヤのタイヤ幅方向全体の断面の歪み分布を表示する際に、歪み量の大きさ毎に異なる濃度で表示された複数の表示要素からなるタイヤ幅方向断面形状のモデルを表示するタイヤ性能予測方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

第4 対比・判断

1 本願発明と引用発明との対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「空気入りタイヤ」は、本願発明の「回転体であるタイヤ」に相当する。

(2)引用発明においては、「有限要素法(FEM)」を用いて「タイヤモデル100」をシミュレーションしているが、有限要素法は、解析領域(モデル)内部を小さな有限範囲の要素に分割し、要素の境界に節点を配置し、要素内部の物理量を各節点に対応する形状関数と節点の値の積の和として表現するものであるから、引用発明の「有限要素法(FEM)」を用いた「シミュレーション」に供される「タイヤを有限個の要素でモデル化」した「タイヤモデル100」は、タイヤを複数の節点で構成される複数の要素に分割した解析モデルであることは、技術常識から明らかである。

(3)上記(1)及び(2)に照らして、引用発明の「処理部212(CPU)が、記憶部213に記憶された設計データに基づいて、タイヤを有限個の要素でモデル化してタイヤモデル100を作成するステップ10」は、本願発明の「前記コンピュータが、解析対象の前記タイヤを複数の節点で構成される複数の要素に分割して解析モデルを作成する手順」に相当する。

(4)引用発明の「処理部212が、記憶部213に記憶された設計データに基づいて、有限要素法(FEM)を用いて、ステップ10で作成されたタイヤモデル100をシミュレーションし、タイヤの歪み量を予測するステップ30」は、本願発明の「前記コンピュータが、前記解析モデルの解析を実行する手順」に相当する。

(5)引用発明の「表示部214」に表示される「歪み量の大きさ毎に異なる濃度で表示された複数の表示要素からなるタイヤ幅方向断面形状のモデル」と、本願発明の「前記断面の物理量が転写された前記転写モデル」とは、「断面の物理量が示されたモデル」という点で共通している。

(6)上記(5)に照らすと、引用発明の「ステップ40」において、「表示部214」に表示する「タイヤ幅方向断面における歪み分布」は、「断面の物理量が示されたモデル」であるといえる。すると、引用発明の「処理部212が、ステップ30で予測されたタイヤの歪み量を表示部214において、タイヤ幅方向断面における歪み分布として表示させるステップ40」と、本願発明の「前記コンピュータが、前記断面の物理量が転写された前記転写モデルを前記表示手段へ表示する手順」とは、「コンピュータが、断面の物理量が示されたモデルを表示手段へ表示する手順」という点で共通している。

(7)引用発明の「タイヤ幅方向断面」は、本願発明の「タイヤの子午線断面」に相当する。

(8)上記(7)に照らし、引用発明の「タイヤのタイヤ幅方向全体の断面の歪み分布を表示する」ための「複数の表示要素からなるタイヤ幅方向断面形状のモデル」と、本願発明の「表示対象断面を含む前記タイヤの子午線断面形状をトレッドセンター部、ショルダー部、サイド部、ビード部に大別しそれぞれの部分を複数の転写領域に分割して作成された複数個の表示要素により構成され」た「転写モデル」とは、「表示対象断面を含むタイヤの子午線断面形状」であって、「タイヤ幅方向全体」を「複数個の表示要素」により構成した「モデル」という点で共通する。

(9)上記(7)に照らし、引用発明の「処理部212が表示部214にタイヤ幅方向全体の断面における歪み分布を表示する際に、歪み量の大きさ毎に異なる濃度で表示された複数の表示要素からなるタイヤ幅方向断面形状のモデルを表示する」ことと、本願発明の「前記コンピュータは、前記表示手段に表示させる前記解析モデルの異なる断面の物理量を、それぞれ異なる前記転写モデルへ転写するとともに、前記物理量が転写された後のそれぞれの前記転写モデルを、連続して前記表示手段へ表示し、各表示要素がそれぞれ対応する前記物理量の大きさ毎に異なる色又は異なる大きさのシンボルで前記転写モデルに転写された前記物理量を前記表示手段に表示すること」とは、「コンピュータは、表示手段に表示させる解析モデルの断面の物理量を、表示対象断面を含むタイヤの前記モデルに、各表示要素がそれぞれ対応する物理量の大きさ毎に異なる表現で前記表示手段に表示すること」で共通している。

(10)引用発明の「ステップ30」において「処理部212が、記憶部213に記憶された設計データに基づいて、有限要素法(FEM)を用いて、ステップ10で作成されたタイヤモデル100をシミュレーション」して「予測」された「タイヤの歪み量」は、本願発明の「回転体であるタイヤの解析結果に関する情報」である。すると、引用発明において、「ステップ40」で「処理部212が、ステップ30で予測されたタイヤの歪み量を表示部214において、タイヤ幅方向断面における歪み分布として表示させる」ことは、「回転体であるタイヤの解析結果に関する情報をコンピュータが表示手段に表示させる」ことであるといえる。
以上のことを総合すると、引用発明の「ステップ30」及び「ステップ40」を備えた「タイヤ性能予測方法」は、本願発明の「回転体であるタイヤの解析結果に関する情報をコンピュータが表示手段に表示させる」「解析情報表示方法」に相当するといえる。

(11)してみると、本願発明と引用発明とは、以下に示す一致点で一致し、以下に示す各相違点で相違する。

《一致点》
「回転体であるタイヤの解析結果に関する情報をコンピュータが表示手段に表示させるにあたり、
前記コンピュータが、解析対象の構造物を複数の節点で構成される複数の要素に分割して解析モデルを作成する手順と、
前記コンピュータが、前記解析モデルの解析を実行する手順と、
前記コンピュータが、前記断面の物理量が表示されたモデルを前記表示手段へ表示する手順と、
を含み、
前記モデルは、表示対象断面を含むタイヤの子午線断面形状であって、タイヤ幅方向全体が複数個の表示要素により構成されており、
前記コンピュータは、前記表示手段に表示させる前記解析モデルの断面の物理量を、表示対象断面を含むタイヤの前記モデルに、各表示要素がそれぞれ対応する物理量の大きさ毎に異なる表現で前記表示手段に表示する解析情報表示方法。」
である点。

《相違点1》
本願発明が「コンピュータが、解析が終了した後の解析モデルから、表示手段に表示させる解析モデルの断面の物理量を取得する手順」を有しているのに対して、引用発明は、こうした手順を備えることが明記されていない点。

《相違点2》
本願発明が「コンピュータ」が、「断面と」、「断面の物理量が転写される表示用モデルとの間における転写条件を求める手順」と、「コンピュータが、得られた」「転写条件に基づき、転写モデルへ」「断面の物理量を転写する手順」とを有しているのに対して、引用発明は、こうした各手順を有しているのか明記されていない点。

《相違点3》
本願発明の「転写モデル」は、「表示対象断面を含む前記タイヤの子午線断面形状をトレッドセンター部、ショルダー部、サイド部、ビード部に大別しそれぞれの部分を複数の転写領域に分割して作成された複数個の表示要素により構成され」ているのに対して、引用発明の「表示手段」に表示させる「モデル」はタイヤ幅方向全体のタイヤの子午線断面形状が複数個の表示要素により構成されているものの、トレッドセンター部、ショルダー部、サイド部、ビード部に大別しそれぞれの部分を複数の領域に分割して作成されたものであるのか不明である点。

《相違点4》
本願発明は、「コンピュータ」が「前記表示手段に表示させる前記解析モデルの異なる断面の物理量を、それぞれ異なる前記転写モデルへ転写するとともに、前記物理量が転写された後のそれぞれの前記転写モデルを、連続して前記表示手段へ表示し、各表示要素がそれぞれ対応する前記物理量の大きさ毎に異なる色又は異なる大きさのシンボルで前記転写モデルに転写された前記物理量を前記表示手段に表示する」のに対して、引用発明では、「処理部212が表示部214にタイヤ幅方向断面における歪み分布を表示する際に、歪み量の大きさ毎に異なる濃度で表示された複数の要素からなるタイヤ幅方向断面形状のモデルを表示する」ものの、「タイヤ」の異なる断面について、物理量の表示を行っているか不明である点。

2 当審の判断

(1)相違点についての検討

ア 相違点1について
引用発明は、「ステップ30」において、「処理部212が、有限要素法(FEM)を用いて、ステップ10で作成されたタイヤモデル100をシミュレーションし、タイヤの歪み量を予測」し、その後、「ステップ40」において、「処理部212が、ステップ30で予測されたタイヤの歪み量を表示部214において、タイヤ幅方向断面における歪み分布として表示させ」ているのであるから、「ステップ40」において、「ステップ30」で予測した「タイヤの歪み量」を表示するためには、その予測した「タイヤの歪み量」を何らかの形であれ、取得する手順を備える必要があることは明らかである。そして、このタイヤの歪み量を取得する手順は、本願発明の「コンピュータが、解析が終了した後の解析モデルから、表示手段に表示させる解析モデルの断面の物理量を取得する手順」に相当するものであるといえるから、相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
上記摘記事項(引-4)、(引-6)及び(引-11)により、「ステップ10において」、「記憶部213に記憶された設計データに基づいて、タイヤを有限個の要素でモデル化して」「作成」され、「有限要素法(FEM)を用いて」「タイヤの性能」が予測される「タイヤモデル100」は、タイヤ全体がモデル化された3次元的なモデルであると認められる。すると、この3次元的な「タイヤモデル100」を用いてタイヤの歪み分布を有限要素法によって解析して、所定の「タイヤ幅方向断面」の歪み分布を表示するにあたり、解析後に要素に生じる幾何学的なゆがみを補償するために、各要素と「表示部214」に表示される任意の「タイヤ幅方向断面」との間の対応関係が必要となることは技術常識から明らかである。そして、この対応関係は本願発明の転写条件に対応するものといえるから、相違点2は実質的な相違点ではない。
また、有限要素法により構造物解析を行うにあたり、解析対象の構造物を複数の節点で構成される複数の要素に分割して解析用モデルを生成し、この解析用モデルを用いて解析計算を行って物理量データを出力すると共に、表示用モデルを生成し、解析用モデルから表示用モデルに物理量データを転写する転写条件を求め、この転写条件に則り、物理量データを表示用モデルに転写することは、広く行われていることであり、例えば、本願出願前に頒布された刊行物である特開平09-305651号公報(以下、「周知例1」という。)には、表示用メッシュの節点n1における物理量w1を、解析用メッシュE1の形状関数を用いて、解析用メッシュの節点N1、N2、N3に対応する物理量W1、W2、W3を内挿して求めることが記載されており(特に、公報【0018】段、【0024】段?【0026】段、【図9】及び【図10】参照。)、また、本願出願前に頒布された刊行物である特開平05-282407号公報(以下、「周知例2」という。)には、解析モデルの要素の中心に出力された計算結果を内挿して、簡易表示モデルの要素の中心での値を求めることが記載されている(特に、公報【0016】段?【0030】段参照。)。ここで、引用発明を具体化するにあたり、「タイヤモデル100」を構成する「有限個の要素」の歪みデータを、「表示部214」に「タイヤ幅方向断面における歪み分布」として表示するための手法として、こうした解析結果表示技術を採用し、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることであるともいえる。

ウ 相違点3について
コンピュータを使用して車両用タイヤの性能解析を行う際に、タイヤモデルとして、タイヤの子午線断面を、トレッドセンター部、ショルダー部、サイド部、ビード部に大別し、各部を複数の領域(要素)に分割したものを使用して数値解析を行うことは、本願出願前に頒布された刊行物である特開2007-091017号公報(以下、「周知例3」という。特に、公報【0016】段及び【図3】参照。)及び特開2002-356106号公報(以下、「周知例4」という。特に、【0025】段及び【図3】参照。)にそれぞれ記載されているように周知のタイヤ解析技術にすぎない。そして、上記イにおいて説示したように、構造物の解析結果を表示する際に、解析用モデルを使用して得た解析結果を、表示用モデルに転写することは周知技術であるが、この解析用モデルと表示用モデルとは、解析用の要素と表示用の要素との間に対応関係があり、構造的に大きく変化するものではないことは技術常識であるといえる。
よって、引用発明に上記周知のタイヤ解析技術を適用し、「表示部214」に表示され、「タイヤ幅方向断面形状」であって「タイヤ幅方向全体の断面」が「複数の表示要素」により構成される「モデル」として、「タイヤの子午線断面を、トレッドセンター部、ショルダー部、サイド部、ビード部に大別し、各部を複数の領域に分割したタイヤモデル」を使用し、歪み分布の表示を行うことにより、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

エ 相違点4について
引用発明には、タイヤモデルについて、タイヤ周方向に関しても分割を行うことが記載されており(特に、(引-5)及び(引-13)参照。)、さらに、解析シミュレーションに基づく内部構造の可視化において、解析結果の異なる断面を連続して表示手段に表示することは、例えば、本願出願前に頒布された刊行物である特開2007-80015号公報(以下、「周知例5」という。特に、公報【0067】段?【0072】段及び【図6】参照。)に開示されているように周知の表示技術である。
また、引用発明において、「表示部214」に表示されるタイヤ幅方向断面での歪み量の違いを濃度で表現するか、色またはシンボルの大きさで表現するかは当業者によって適宜選択される設計的事項であるといえる。
してみると、引用発明に、上記各周知の解析結果表示技術を適用し、上記相違点4に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(2)本願発明の奏する作用・効果に関する検討
本願発明によってもたらされる作用・効果は、引用文献の記載事項及び上記各周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって、格別なものではない。

第5 結語

以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された上記引用文献に記載された発明及び上記各周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-25 
結審通知日 2015-09-29 
審決日 2015-10-19 
出願番号 特願2009-261355(P2009-261355)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01M)
P 1 8・ 537- WZ (G01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 秋田 将行萩田 裕介  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 平田 佳規
信田 昌男
発明の名称 解析情報表示方法及び解析情報表示用コンピュータプログラム、並びに解析情報表示装置  
代理人 高村 順  
代理人 酒井 宏明  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ