• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1308322
審判番号 不服2014-16390  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-19 
確定日 2015-12-04 
事件の表示 特願2012-172964「接着剤及びそれを用いた接続構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月10日出願公開、特開2013- 7040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,国際出願日である平成20年8月29日(先の出願に基づく優先権主張 平成19年9月5日)にされたとみなされる特許出願(特願2009-531210号)の一部を新たに特許出願したものであって,平成26年3月7日付けで拒絶理由が通知され,同年5月9日に意見書が提出され,同年6月4日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年8月19日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1?5に係る発明は,本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載されている事項により特定されるとおりのものであると認められ,そのうち,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「(a)熱可塑性樹脂,(b)30℃以下で固体であるラジカル重合性化合物,及び(c)ラジカル重合開始剤を含有してなる回路部材接続用接着剤であって,
(b)30℃以下で固体であるラジカル重合性化合物がエポキシアクリレートを含み,
(b)30℃以下で固体であるラジカル重合性化合物の含有量が(a)熱可塑性樹脂100質量部に対して,5?33.3質量部である回路部材接続用接着剤。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1: 特開2003-268346号公報

第4 合議体の認定,判断
1 引用発明
(1) 査定の理由で引用された引用文献1には,次の記載がある。(下線は審決で付記。以下同じ。)
・「【請求項1】不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分,不飽和二重結合を有しない樹脂成分,リン酸含有樹脂成分及びラジカル重合開始剤を主成分とすることを特徴とする低温硬化型接着剤。…
【請求項4】請求項1乃至3記載の低温硬化型接着剤中に導電粒子が分散されていることを特徴とする異方導電性接着剤。…」(【特許請求の範囲】)
・「【発明の属する技術分野】本発明は,例えば回路基板同士の電気的な接続に用いられる絶縁性接着剤及び異方導電性接着剤に関し,特に低温で硬化可能な絶縁性接着剤及び異方導電性接着剤に関する。」(【0001】)
・「また,接着性,耐湿性,タック性,その他種々の特性を改良する目的でこれらに各種樹脂,例えば,熱硬化性エラストマーや熱可塑性エラストマー,熱硬化性樹脂,熱可塑性樹脂,粘着付与剤,フィラー,カップリング剤などを配合するものもある。」(【0008】)
・「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,このような硬化剤を用いた従来の異方導電性接着フィルムにあっては,マイクロカプセルの破壊や溶融,ブロック剤の解離に150℃以上の圧着温度が必要であるため上記要求を満足せず,また,150℃以下の温度で接続可能な硬化剤は異方導電性接着フィルムの使用可能な時間(フィルムライフ)が短く,実際の製造においては使用しにくいものであった。…
本発明は,このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので,低温硬化性,高接着力,高信頼性を満足する絶縁性接着剤フィルム及び異方導電性接着フィルムを提供することを目的とする。」(【0009】?【0011】)
・「【課題を解決するための手段】本発明者等は,前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果,不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分と,不飽和二重結合を有しない樹脂成分と,リン酸含有樹脂成分とを配合することによって,低温で硬化可能で,接着力及び信頼性の高い接着剤が得られることを見い出し,本発明を完成するに至った。かかる知見に基づいてなされた本発明は,請求項1に記載されているように,不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分,不飽和二重結合を有しない樹脂成分,リン酸含有樹脂成分及びラジカル重合開始剤を主成分とすることを特徴とする低温硬化型接着剤である。」(【0012】)
・「ここで,不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分としては,例えば,少なくとも1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート樹脂やこれらの変性物,不飽和ポリエステルジアリルフタレート樹脂,ビニルエステル樹脂,ビスマレイミド樹脂等やこれらの変性物,粘度調整用各種モノマー等があげられる。」(【0026】)
・「これらのうちでも,以下に示すエポキシアクリレートの硬化物は,耐薬品性,強靱性,接着性の点から特に好ましいものである。
【化1】

」(【0027】?【0028】)
・「また,不飽和二重結合を有しない樹脂成分としては,フェノキシ樹脂やその変性物,ウレタン樹脂やその変性物,アクリルゴムやその変性物,ポリビニルブチラール,ポリビニルアセタールやこれらの変性物,セルロース誘導体やその変性物,ポリオール樹脂やその変性物,ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレン(SIS),ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン(SBS),ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレン(SEBS),ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレン(SEPS)等のゴム性状樹脂やこれらの変性物等があげられる。」(【0029】)
・「一方,リン酸含有樹脂成分としては,リン酸含有(メタ)アクリレートや,リン含有ポリエステル樹脂等があげられる。」(【0032】)
・「また,ラジカル重合開始剤としては,…有機過酸化物のほか,光開始剤を使用することもできる。」(【0037】?【0038】)
・「本発明の場合,上述した目的をより効果的に達成するためには,絶縁性接着剤樹脂6に対する不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分,不飽和二重結合を有しない樹脂成分,リン酸含有樹脂成分の配合比率は,不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分が15?85重量%,不飽和二重結合を有しない樹脂成分が30?90重量%,リン酸含有樹脂成分が0.01?20重量%であることが好ましく,さらに好ましい配合比率は,不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分が30?70重量%,不飽和二重結合を有しない樹脂成分が30?80重量%,リン酸含有樹脂成分が0.05?10重量%である。」(【0045】)
・「【実施例】以下,本発明に係る異方導電性接着フィルムの実施例を比較例とともに詳細に説明する。
<実施例1>以下の比率の各成分を混合して得られた溶液を,厚さ50μmのPTFEフィルム上に塗布し,残留溶剤が1%以下になるように溶剤を揮発させて厚さ15μmの異方導電性接着フィルムを得た。なお,以下の樹脂のうち固形状のものは適宜溶剤メチルエチルケトン(MEK)によって溶解しながら混合させた。
・液状エポキシアクリレート(共栄社化学社製 3002A)25重量%
・固形エポキシアクリレート(昭和高分子社製 -60) 25重量% (審決注:上記「昭和高分子社製 -60」は,【0053】の記載からみて,「昭和高分子社製 VR-60」の誤記と認められる。)
・フェノキシ樹脂(東都化成社製 YP50) 40重量%
・リン酸アクリレート(日本化薬社製 PM2) 4重量%
(審決注:リン酸アクリレートの配合量について,【0053】の記載からみて,上記「4重量%」は「3重量%」の誤記と認められる。)
・ビニルシランカップリング剤
(パーオキシケタール 日本油脂社製 パーヘキサ3M) 3重量%
(審決注:ビニルシランカップリング剤として「モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 A-172」という製品が従来から知られていること,「日本油脂社製 パーヘキサ3M」は有機過酸化物として従来から知られているものであること,ビニルシランカップリング剤はそもそも有機過酸化物とはいえないこと,並びに【0053】の記載からみて,「ビニルシランカップリング剤」に係る上記記載は次の誤記と認められる。
「・ビニルシランカップリング剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 A-172) 1重量%
・有機過酸化物(パーオキシケタール 日本油脂社製 パーヘキサ3M) 3重量%」)
・導電粒子(ソニーケミカル社製 Ni/Auめっきアクリル樹脂粒子) 3重量%」(【0051】?【0052】)
・「【表1】

」(審決注:表1には【0053】)
・「【表2】

」(【0059】)
・「(評価)
〔接着強度〕上記実施例及び比較例の異方導電性接着フィルム(幅2mm)を用い,ピッチ200μmのプラスチック液晶パネルと,フレキシブルプリント基板とを表2に示す条件によって圧着し,接着強度評価用サンプルを得た。
ここで,フレキシブルプリント基板は,ポリイミドからなる基材と銅からなる導体の間に接着剤層のない,いわゆる2層フレキシブルプリント基板を使用した。また,導体は,厚さが12μmのものを用いた。
そして,熱圧着直後,及び温度60℃,相対湿度95%,500時間の条件で耐湿熱信頼性試験を行った後の接着強度を測定した。その結果を表2に示す。
〔導通抵抗〕エッチングを施さないITO基板とフレキシブルプリント基板と各異方導電性接着フィルムを用い,初期及び四端子法(JIS C 5012)によって熱圧着直後及び上記耐湿熱信頼性試験後の導通抵抗を測定した。その結果を表2に示す。
表2に示すように,実施例1?4の異方導電性接着フィルムは,接着強度及び導通抵抗すべて良好な結果が得られた。」(【0060】?【0064】)

(2) 上記(1)の摘記,特に実施例1の記載から,引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「液状エポキシアクリレート(共栄社化学社製3002A)25重量%,固形エポキシアクリレート(昭和高分子社製VR-60)25重量%,フェノキシ樹脂(東都化成社製YP50)40重量%,リン酸アクリレート(日本化薬社製PM2)3重量%,ビニルシランカップリング剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製A-172)1重量%,有機過酸化物(日本油脂社製パーヘキサ3M)3重量%及び導電粒子(ソニーケミカル社製Ni/Auめっきアクリル樹脂粒子)3重量%を混合して得られた溶液をPTFEフィルム上に塗布し,残留溶剤が1%以下になるように溶剤を揮発することで得られる厚さ15μmの異方導電性接着フィルム。」

2 対比
本願発明と引用発明を対比すると,引用発明の「フェノキシ樹脂」は本願発明の「(a)熱可塑性樹脂」に,「固形エポキシアクリレート」は「エポキシアクリレートを含」むとされる「(b)30℃以下で固体であるラジカル重合性化合物」に,「有機過酸化物」は「(c)ラジカル重合開始剤」にそれぞれ相当するといえる。
また,引用発明の「異方導電性接着フィルム」は,引用文献1の【0001】からみて,回路基板同士の電気的な接続に用いられるものといえるのであるから,本願発明の「回路部材接続用接着剤」に相当するものである。
なお,本願発明は液状のラジカル重合性化合物を含むものを排除しないから,引用発明が「液状エポキシアクリレート」を含有してなることは,両発明の相違点とはならない。
そうすると,両発明の一致点,相違点はそれぞれ次のとおりと認めることができる。
・ 一致点
「熱可塑性樹脂,30℃以下で固体であるラジカル重合性化合物及びラジカル重合開始剤を含有してなる回路部材接続用接着剤であって,30℃以下で固体であるラジカル重合性化合物がエポキシアクリレートを含む回路部材接続用接着剤。」である点。
・ 相違点1
30℃以下で固体であるラジカル重合性化合物(固形エポキシアクリレート)の含有量について,本願発明は「熱可塑性樹脂100質量部に対して,5?33.3質量部である」と特定するのに対し,引用発明はフェノキシ樹脂(熱可塑性樹脂)40重量%に対して固形エポキシアクリレート25重量%であること,すなわち,フェノキシ樹脂100重量部に対して固形エポキシアクリレートが「62.5重量部」(=25重量%/40重量%×100)である点。

3 相違点1についての判断
(1)ア 上記1(2)及び2で認定のとおり,引用発明の異方導電性接着フィルム(接着剤)に含有される「固形エポキシアクリレート(30℃以下で固体であるラジカル重合性化合物)」の含有量は,構成成分の配合比率として「25重量%」,すなわちフェノキシ樹脂(熱可塑性樹脂)100重量部に対する割合として「62.5重量部」であり,本願発明が特定する割合(5?33.3質量部)よりも大きいものである。
ところで,引用文献1の記載によれば(上記1(1)。例えば【0009】?【0011】,【0059】参照),引用発明の異方導電性接着フィルムは,回路基板同士の電気的な接続に用いるときに低温硬化性,高接着力,高信頼性を満足させるとの課題解決を図るものであるが,このような課題は,その構成成分として,不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分(引用発明の「液状エポキシアクリレート」及び「固形エポキシアクリレート」。)とともに,不飽和二重結合を有しない樹脂成分,リン酸含有樹脂成分及びラジカル重合開始剤を主成分とすることで解決できるものであり(例えば【請求項1】,【0012】参照),上記ラジカル重合性樹脂成分の含有量,さらにいえば,引用発明の「固形エポキシアクリレート」の配合比率を変更しても,上記課題は解決できると当業者は理解すると解される。
そうすると,引用発明において,上記課題の解決を損なわない範囲で,固形エポキシアクリレートの配合比率を変更すること,あるいは,そのような配合比率をフェノキシ樹脂100重量部に対する固形エポキシアクリレートの含有量(含有割合)として特定し,当該含有割合を変更することは,当業者であれば想到容易であるといえる。そして,その含有割合を引用発明の「62.5重量部」から本願発明の範囲である「5?33.3質量部」に変更する程度のことは,単なる設計事項にすぎない。
イ また,引用文献1には,不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分と不飽和二重結合を有しない樹脂成分(フェノキシ樹脂)についてではあるが,これら成分の配合比率について,「不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分が15?85重量%,不飽和二重結合を有しない樹脂成分が30?90重量%」が好ましい旨の記載があるところ(【0045】),不飽和二重結合を有するラジカル重合性樹脂成分の構成比が引用発明と同じ「液状エポキシアクリレート:固形エポキシアクリレート」=「1:1」で構成されるものであるとしたとき,引用文献1の上記摘記から算出される範囲には本願発明の上記範囲(5?33.3質量部)と重複する部分が存在する。
さすれば,上記相違点1に係る本願発明の構成は,上記重複する部分について,フェノキシ樹脂100重量部に対する固形エポキシアクリレートの含有量として単に特定したにすぎないものともいえる。

(2)ア(ア) 請求人は,本願の明細書の記載を参考に,固体ラジカル重合性化合物(VR-60)の配合量を25質量部(熱可塑性樹脂(ポリウレタン樹脂及びフェノキシ樹脂ZX-1356-2)100質量部に対して41.7質量部)に変更し,且つ液状ラジカル重合性化合物(M-215)を7.5質量部,同(UA-6100)を7.5質量部追加したこと以外は実施例1(審決注:「参考例1」の誤記と認められる。)と同様にしてフィルム状接着剤を製造し,その特性を評価したとする「参考例A」の実験結果に基づいて,高温高湿試験前後における接着強度について,(b)成分の含有量がその上限値である33.3質量部を超えると明らかに劣るものになる旨主張する(意見書2頁,審判請求書6?7頁)。
(イ) そこで検討するに,本願の願書に最初に添付された明細書(以下「本願当初明細書」という。)には,次の記載がある。
・「本発明は…低温かつ短時間(例えば,160℃で10秒間)で硬化して,回路部材を接続した場合であっても優れた接着強度を有する回路部材の接続構造体を得ることができ,かつ得られる接続構造体の高温高湿環境下における接続信頼性の低下を十分に抑制することができ,さらには取り扱い性にも優れる接着剤,及びそれを用いた回路部材の接続構造体を提供することを目的とする。…」(【0010】)
・「(b)ラジカル重合性化合物の添加量は,(a)熱可塑性樹脂100質量部に対して,好ましくは1?200質量部であり,より好ましくは5?100質量部である。添加量が1質量部未満の場合,硬化後の耐熱性低下とともにフィルムの表面タック増加に伴って取扱い性が低下するおそれがある。また,200質量部を超える場合には,フィルムとして使用する場合にフィルム形成性が低下するとともに,硬化後の膜質が脆化して接着力が低下するおそれがある。本発明において,取扱い性の指標としては,25?30℃における表面タック力を用いることができ,接着剤の取り取扱い性や被着体の仮固定性の点から,表面タック力が50gf以下であることが望ましい。」(【0038】)
・「【表1】

」(【0078】)
・「【表2】

」(【0082】)
また,上記【表1】の記載から,本願の明細書に記載された各参考例,実施例及び比較例における熱可塑性樹脂100質量部に対する固体ラジカル重合性化合物の含有量は,次のとおり算出される。
参考例1 66.7重量部
実施例2 33.3重量部
実施例3 16.7重量部
参考例4 66.7重量部
実施例5 33.3重量部
実施例6 16.7重量部
参考例7 66.7重量部
実施例8 33.3重量部
実施例9 16.7重量部
比較例1 0重量部
比較例2 0重量部
比較例3 0重量部
(ウ) 上記(イ)の摘記から明らかなように,本願当初明細書には,上記含有量が上限値である33.3質量部を超えると接着強度が劣るものとなるとの請求人の上記主張の根拠となる記載はなく,むしろ,本願当初明細書の【0038】の記載からすると,上記含有量が「1?200質量部」の範囲であれば,優れた接着強度の発現を含め本願発明の課題(【0010】など)が解決できるとの記載があると認められる。
請求人の上記主張は,本願発明の上記含有量について,「5?33.3質量部」としたものが,上限値である「33.3重量部」を境界に,その上限値を超えたものに比し接着強度の点で有利な効果を発揮することを出願の後に補充した実験結果(参考例A)を踏まえてするものであるところ,このような発明の効果は,上述のとおり本願当初明細書において明らかにしていなかった事項であり,しかも本願当初明細書に当業者において当該効果を認識できる程度の記載やこれを推論できる記載があると認められないので,上記実験結果を参酌することは許されない。
参考例Aの実験結果に基づく請求人の上記主張は,その前提において採用できない。
(エ) ところで,参考例(参考例1,4及び7)と実施例(実施例2,3,5,6,8及び9)との対比から,上記含有量が本願発明の範囲外の「66.7重量部」である参考例は,本願発明の実施例に比し,接着強度の点でやや劣る事実を認めることができるので,この点について若干考察を加える。
比較例1?3も上記含有量について本願発明の範囲外であるところ,これらのうち,比較例2?3は接着強度の点では実施例と同程度の遜色ない効果を奏するものであるのに対し,比較例1は接着強度に劣るものである。そして,比較例1と比較例2?3との間における構成上の差異は,ウレタンアクリレート(UA6100)を含有させているか否かにすぎない。
また,上記参考例と実施例の構成成分に着目すると,実施例は上記ウレタンアクリレートを含有しているのに対し,接着強度にやや劣る参考例は上記ウレタンアクリレートを含有しないものである。
以上,本願当初明細書に開示されている技術事項を総合すると,優れた接着強度を有する接着剤を提供するとの本願発明の課題を解決することと上記含有量を「5?33.3質量部」にすることとの間には,何ら関連性はないといわざるを得ない(むしろ,ウレタンアクリレートの存否が影響を及ぼしていると理解するのが合理的であるといえる。)。しかも,出願の後に補充した実験結果(上記参考例A)を参酌して本願当初明細書に開示されている技術を理解することが許されないのは,上記(ウ)で述べたとおりである。
以上のことからも,本願発明は,高温高湿試験前後における接着強度について,上記含有量が本願発明の上限値である33.3質量部を超えたものより優れているとの請求人の主張は,根拠がなく採用できない。
イ また,請求人は,上記含有量が本願発明の上限値と同じ実施例2,5及び8のものは優れた取り扱い性及び高温高湿環境下における接続信頼性等を有しているから,本願発明の上記含有量についての数値範囲は臨界的意義を有する旨主張する(意見書2頁)。
しかし,上記数値範囲外の「66.7重量部」である参考例1,4及び7も,取り扱い性及び接続信頼性の点で,実施例2,5及び8のものと同程度の効果を奏するものである。しかも,取り扱い性(表面タック力)についてみれば,参考例の方がむしろ優れた効果を有しているといえる。
請求人の上記主張は,採用の限りでない。

4 小括
以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

第5 むすび
したがって,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明を主たる引用発明として,この引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
原査定の拒絶の理由は,妥当である。
そうすると,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-30 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-19 
出願番号 特願2012-172964(P2012-172964)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 前田 寛之
須藤 康洋
発明の名称 接着剤及びそれを用いた接続構造体  
代理人 古下 智也  
代理人 城戸 博兒  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 池田 正人  
代理人 清水 義憲  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ