• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1308339
審判番号 不服2014-26588  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-25 
確定日 2015-12-04 
事件の表示 特願2011-108041「放射線撮像装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月 6日出願公開、特開2012-235961〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年5月13日の出願であって、平成26年6月19日付けで拒絶理由が通知され、同年8月22日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年9月30日付けで拒絶査定がなされたのに対し、同年12月25日に拒絶査定不服審判が請求され、それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年12月25日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年12月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(下線は補正箇所を示す。)。

「被験者の乳房が載せられる撮影台と、
前記撮影台に載せられた乳房に放射線を照射する放射線源と、
前記撮影台に乳房を押し付ける押圧板と、
装置本体の内部から外部に露出した部分に前記押圧板が取り付けられると共に、前記撮影台に対して前記押圧板を近接又は離間させるように前記押圧板を支持する筐体と、
前記装置本体の内部に配置され、前記押圧板の前記撮影台に対する近接離間方向に延びるネジシャフト部材と、
前記ネジシャフト部材にねじ込まれ、外周面に前記筐体を支持する軸受部材が取り付けられ、前記近接離間方向への移動力だけを前記軸受部材を介して前記筐体に伝達するナット部材と、
前記ネジシャフト部材を前記ネジシャフト部材の周方向に回転させる駆動源と、
少なくとも一部が前記筐体の内部に設けられ、手動で前記ナット部材を前記周方向に回転させる手動回転機構と、
を備える放射線撮像装置。」

2 本件補正の目的について
本件補正は、補正前の請求項1における「前記近接離間方向への移動力だけが前記筐体に伝達されるように軸受部材を介して前記筐体が取り付けられるナット部材」を「外周面に前記筐体を支持する軸受部材が取り付けられ、前記近接離間方向への移動力だけを前記軸受部材を介して筐体に伝達するナット部材」に変更するものである。すなわち、「ナット部材」における「軸受部材」との連携箇所を「外周面」に限定すると共に、「軸受部材を介して筐体が取り付けられるナット部材」から「筐体を支持する軸受部材が取り付けられ」る「ナット部材」に変更するものである。
ここで、「軸受部材を介して筐体が取り付けられるナット部材」、すなわち、ナット部材に筐体が取り付けられている態様を、「筐体を支持する軸受部材が取り付けられ」る「ナット部材」、すなわち、ナット部材は筐体を支持する態様へと変更するものとなっており、「取り付けられる」ことと「支持する」ことは、異なる意味・概念であるから、このような補正が発明を特定するために必要な事項を限定するものに該当するものといえないことは明らかである。
ゆえに、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものとはいえないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮に該当しないことが明らかであり、同条第5項第1号(請求項の削除)、第3号(誤記の訂正)、第4号(明りょうでない記載の釈明)のいずれにも該当しない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件について
上記2の補正却下に係る補正の目的が、仮に、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、すなわち、本件の特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて念のため検討しておく。

(1)刊行物の記載事項
本願出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-57833号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面の図示と共に、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

ア 「【背景技術】
【0002】
マンモグラフィ装置は、患者の胸部の画像を撮るのに用いられる。実際には、装置は、画像を撮ることができるように、患者が本人の胸部を置く胸部支持トレーを支える垂直な支柱を含む。胸部支持トレーの下側には、感光フィルムカートリッジである検出器と共に、画像における望ましくない影響を制限するための様々な装置が配置される。支柱の上端には、その射線がカートリッジの方へ向けられたX線管のような放射線を放射するための手段が支持される。」

イ 「【0010】
本発明の実施形態において、キャリッジに固定されたナットプレートは、可動のナットプレートに置き換えられる。それ自体の周りで回転することができるホイールが、固定されたナットプレートと置き換えられる。最初の押圧段階では、ナットホイールは、固定された状態に保たれ、それ自体の周りで回転することはできない。モータが循環ねじロッドを駆動すると、ナットホイールは、循環ねじロッドに沿って下降され、同時に、キャリッジ及び該キャリッジに取付けられたパッドにより押圧力が与えられる。モータ駆動の押圧力が閾値に到達したとき又は操作員の希望に応じて閾値に到達する前に、モータが停止され、操作員はナットホイール自体を操作する。ナットホイールがそれ自体の周りで回転されることにより、ナットホイールを循環ねじロッドに沿って移動させる。」

ウ 「【0013】
図1は、マンモグラフィ装置の部分図である。マンモグラフィ装置は、胸部支持トレー(図示せず)を支える支柱1を含む。例えば、胸部支持トレーは、高さ設定装置により位置を変えることができるが、支柱1の下端部2内の選択された高さに位置決めされる。押圧パッド(図示せず)は、キャリッジ3により運ばれて、胸部を押圧するように胸部支持トレーの方向へ垂直方向に動くことができる。X線放射装置は、支柱1の周りに設置されたケーシング4内に置かれる。一部の機構では、支柱1は、それ自体が水平方向に回転することができて、該支柱が支える全ての装置をそれ自体と共に運ぶようになっている。
【0014】
キャリッジ3は、循環ねじロッド6を回転駆動するモータ5により補助されて移動する。ナットプレート7は、一方で、キャリッジ3に固定結合され、また他方で、循環ねじロッド6と係合する。モータ5が作動しているときは、循環ねじロッド6は、それ自体の周りで回転する。この目的のために、循環ねじロッド6は、例えば、それぞれブラケット10及び11により支柱1に支持された玉軸受8及び9により保持される。キャリッジ3は2本の案内棒12及び13を含む案内システムにより案内されているので、該キャリッジ3は、支柱1に対して平行に移動する。」

エ 「【0017】
図3は、ナットプレート・ホイール7の実施形態の断面図を示す。ナットプレート・ホイール7は、例えばプラスチックで作られたナット15を有し、ロッド6のねじ山16にねじ込まれる。更に、ナット15は、例えば連結ねじ17によってホイール18に固定結合される。例えば銅又は青銅で作ることができるホイール18は、循環ねじロッド6の軸線と同一直線上にある軸線19を中心として、キャリッジ3の構造体に対してそれ自体の周りで回転することができる。ホイール18は、その1つの面上に、該ホイールに固定結合されたスリーブ20を有する。スリーブ20は、円形でかつ中空であり、その中央部分の内側にナット15の延長部を有する。スリーブ20には円形段部21が設けられる。スリーブ20は、段部21によって玉軸受22に支持される。玉軸受22は、アンギュラ玉軸受であることが好ましい。玉軸受22は、段部21に1側面を平らに当てて、クリップ23として知られる固定リングをその他側面に位置させることによって配置される。クリップ23は、スリーブ20の下端部に取付けられる。段部21及びリング23によって、スリーブ20、従ってホイール18は、玉軸受22の内リング24に支持される。
【0018】
玉軸受22の外リング25は、その一部が、軸線19と同一直線上にあるキャリッジ3の円形の空洞26内に保持される。空洞26は、外リング25の1つの端縁が寄りかかる肩部27を有する。外リング25の他の端縁は、第2のクリップ28上に載置される。図3に示す組立体の場合には、ロッド6に沿うナット15の動きはホイール18の動きを駆動し、このホイール18の動きによってキャリッジ3の動きを駆動することが分かる。段部21及び肩部27の位置は、逆にすることができる。これらの形状は両方共、クリップを用いる組立体によって置き換えられることができる。
【0019】
1つの実施形態では、ナットプレート・ホイール18(当審注:「ナットプレート・ホイール18」は誤記であり、「ナットプレート・ホイール7」とも「ホイール18」とも解し得るものと認められる。)は、その外周に歯を有しており、その歯は、軸線19に対して放射状に延びかつこの軸線19に対して平行に置かれる歯29を備える。この実施形態では、ホイール7(当審注:「ホイール7」は誤記であり、「ナットプレート・ホイール7」とも「ホイール18」とも解し得るものと認められる。)は、軸線31を中心としてそれ自体の周りで回転することができる、図2に示す第2の循環ねじロッド30により動かされるようにされることができる。軸線31は、軸線19に実質的に直角である。第2の循環ねじロッド30は、ねじが切られたロッドを有する。ロッド30のねじが切られた部分は、ホイール18の歯29と接触状態になるように設計された区域に限定することができる。これらのロッド30のねじ山は、歯29と噛み合う。ロッド30はまた、玉軸受によりキャリッジ3に取付けられた軸受32及び33を有する。第2の循環ねじ30は、1端において、大歯車35と噛み合っている小歯車34を有する。大歯車35は、歯付きハンドル(図2には図示せず)によってベルト36を介して駆動される小歯車にそれ自体が固定結合される。ハンドルには、軸線31に対して平行な軸線37に沿ったキャリッジ3上の、該ハンドルの回転シャフトが係合している。図1は、ベルト36を駆動するハンドル38を示す。穴40内で移動できる軸受39の形態で示されているテンショナが、ハンドル38及び該ハンドルが駆動する別の歯車の外周におけるベルト36の滑り摩擦を与える。
【0020】
機構14は、以下のように機能する。第1の段階では、モータ5が作動され、キャリッジ3は、パッド及び胸部支持トレーにより患者の胸部を押圧する働きをする。公知の方法におけるように、キャリッジ3又はパッドは、その構造中の適当な位置に歪み計を有する。歪み計は、押圧力により生じる応力が200ニュートンに相当したときに信号を送信する。このタイミング位置で、モータ5は停止されるが、循環ねじロッド6はブレーキ装置によりブロックされるのが好ましい。次に、操作員は、ハンドル38を掴み該ハンドルをそれ自体の周りで回転させ、ナットプレート・ホイール7の回転不能な循環ねじロッド6の周りで、第2の循環ねじロッド30の回転、従ってそれ自体の周りでの回転を生じさせる。」

上記のア?エから、刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。

「画像を撮ることができるように、患者が本人の胸部を置く胸部支持トレーは、支柱1の下端部2内の選択された高さに位置決めされ、キャリッジ3に取付けられた押圧パッドは、キャリッジ3により運ばれて、胸部を押圧するように胸部支持トレーの方向へ垂直方向に動くことができ、X線放射装置は、支柱1の周りに設置されたケーシング4内に置かれる、マンモグラフィ装置であって、
キャリッジ3は、循環ねじロッド6を回転駆動するモータ5により補助されて移動し、
循環ねじロッド6は、ブラケット10及び11により支柱1に支持された玉軸受8及び9により保持され、
ナットプレート・ホイール7は、ナット15を有し、循環ねじロッド6のねじ山16にねじ込まれ、ナット15は、連結ねじ17によってホイール18に固定結合され、ホイール18は、その1つの面上に、該ホイールに固定結合されたスリーブ20を有し、スリーブ20は、その中央部分の内側にナット15の延長部を有し、玉軸受22の内リング24に支持され、玉軸受22の外リング25は、その一部が、キャリッジ3の円形の空洞26内に保持されるものであり、
循環ねじロッド6に沿うナット15の動きはホイール18の動きを駆動し、このホイール18の動きによってキャリッジ3の動きを駆動するものであり、
ホイール18は、その外周に歯29を備え、ナットプレート・ホイール7は、第2の循環ねじロッド30により動かされるようにされ、第2の循環ねじロッド30のねじ山は、歯29と噛み合い、第2の循環ねじロッド30は、キャリッジ3に取付けられた軸受32及び33を有し、1端において、大歯車35と噛み合っている小歯車34を有し、大歯車35は、歯付きハンドル38によってベルト36を介して駆動される小歯車34にそれ自体が固定結合され、ハンドル38にはキャリッジ3上の、ハンドル38の回転シャフトが係合しており、
操作員が、ハンドル38を掴み該ハンドルをそれ自体の周りで回転させ、ナットプレート・ホイール7の回転不能な循環ねじロッド6の周りでの回転を生じさせる、
マンモグラフィー装置。」(以下「引用発明」という。)

(2)補正発明と引用発明との対比
ア 引用発明の「画像を撮ることができるように、患者が本人の胸部を置く胸部支持トレー」が、補正発明の「被験者の乳房が載せられる撮影台」に相当する。

イ 引用発明において、「マンモグラフィー装置」であれば、「X線放射装置」が「胸部支持トレー」に「置」かれた「胸部」に放射線であるX線を照射することは明らかである。よって、引用発明の「X線放射装置」は、補正発明の「前記撮影台に載せられた乳房に放射線を照射する放射線源」に相当する。

ウ 引用発明の「胸部を押圧するように胸部支持トレーの方向へ垂直方向に動くことができ」る「押圧パッド」と、補正発明の「前記撮影台に乳房を押し付ける押圧板」とは、「前記撮影台に乳房を押し付ける押圧」体の点で共通する。

エ 引用発明の「押圧パッド」が「キャリッジ3により運ばれて、胸部を押圧するように胸部支持トレーの方向へ垂直方向に動くこと」は、「胸部支持トレー」に対して「押圧パッド」を近接又は離間させることであることは明らかである。
したがって、引用発明の「キャリッジ3により運ばれて、胸部を押圧するように胸部支持トレーの方向へ垂直方向に動くことができ」る「押圧パッド」が「取付けられた」「キャリッジ3」と、補正発明の「装置本体の内部から外部に露出した部分に前記押圧板が取り付けられると共に、前記撮影台に対して前記押圧板を近接又は離間させるように前記押圧板を支持する筐体」とは、「前記押圧」体「が取り付けられると共に、前記撮影台に対して前記押圧」体「を近接又は離間させるように前記押圧」体「を支持する」支持体の点で共通する。

オ 引用発明において、「循環ねじロッド6に沿うナット15の動きはホイール18の動きを駆動し、このホイール18の動きによってキャリッジ3の動きを駆動する」ことから、「キャリッジ3の動き」は「循環ねじロッド6に沿う」ものといえ、「循環ねじロッド6」は、「キャリッジ3の動き」の方向に延びるものであることは自明である。
そして、ここでの「押圧パッドは、キャリッジ3により運ばれて、胸部を押圧するように胸部支持トレーの方向へ垂直方向に動く」ことから、「キャリッジ3の動き」の方向は、「押圧パッド」の「胸部支持トレー」に対する近接又は離間させる方向であることは明らかである。
してみると、引用発明の「循環ねじロッド6」と、補正発明の「前記装置本体の内部に配置され、前記押圧板の前記撮影台に対する近接離間方向に延びるネジシャフト部材」とは、「前記押圧」体「の前記撮影台に対する近接離間方向に延びるネジシャフト部材」である点で共通する。

カ 引用発明は「ナットプレート・ホイール7は、ナット15を有し」、「ナット15は、連結ねじ17によってホイール18に固定結合され、ホイール18は、その1つの面上に、該ホイールに固定結合されたスリーブ20を有」するものであるので、「ナット15」と、「ナット15」が「固定結合される」「ホイール18」と、「該ホイールに固定結合され」る「スリーブ20」とからなるものは一体の「ナットプレート・ホイール7」といえる。よって、この「ナット15」と、「ナット15」が「固定結合される」「ホイール18」と、「該ホイールに固定結合され」る「スリーブ20」とからなる一体の「ナットプレート・ホイール7」は、補正発明の「ナット部材」に相当する。
また、補正発明の「ナット部材に」「前記筐体を支持する軸受部材が取り付けられ」ることは、明細書の段落【0039】及び図5の記載によれば、筐体たるケース78とナット部材74との間に、軸受部材80が設けられており、この軸受部材80によりケース38が支持されてその軸受部材80がナット部材74に取り付けられていることを意味すると解されるから、引用発明の「ナットプレート・ホイール7」の「スリーブ20」が「玉軸受22の内リング24に支持され、玉軸受22の外リング25の一部がキャリッジ3の円形の空洞内に保持される」「ナットプレート・ホイール7」と、補正発明の「前記筐体を支持する軸受部材が取り付けられ」る「ナット部材」とは、支持体「を支持する軸受部材が取り付けられ」る「ナット部材」の点で共通する。
さらに、引用発明の「ナットプレート・ホイール7」の「スリーブ20」が「玉軸受22の内リング24に支持され、玉軸受22の外リング25の一部がキャリッジ3の円形の空洞内に保持される」「ナットプレート・ホイール7」であって、「循環ねじロッド6のねじ山にねじ込まれ」「循環ねじロッド6に沿うナット15の動き」が「ホイール18の動きを駆動し、このホイール18の動きによってキャリッジ3の動きを駆動する」ものは、「ホイール18の動き」が「玉軸受22」を介して「キャリッジ3の動きを駆動する」ことは明らかであるから、上記エの認定も踏まえれば、補正発明の「前記ネジシャフト部材にねじ込まれ」「前記近接離間方向への移動力だけを前記軸受部材を介して前記筐体に伝達するナット部材」とは、「前記ネジシャフト部材にねじ込まれ」「前記」支持体「を支持する軸受部材が取り付けられ」「るナット部材」の点で共通する。

キ 引用発明の「循環ねじロッド6を回転駆動するモータ5」は、本願発明の「前記ネジシャフト部材を前記ネジシャフト部材の周方向に回転させる駆動源」に相当する。

ク 引用発明の「ホイール18は、その外周に歯29を備え、ナットプレート・ホイール7は、第2の循環ねじロッド30により動かされるようにされ、第2の循環ねじロッド30のねじ山は、歯29と噛み合い、第2の循環ねじロッド30は、キャリッジ3に取付けられた軸受32及び33を有し、1端において、大歯車35と噛み合っている小歯車34を有し、大歯車35は、歯付きハンドル38によってベルト36を介して駆動される小歯車にそれ自体が固定結合され、ハンドル38にはキャリッジ3上の、ハンドル38の回転シャフトが係合しており、操作員が、ハンドル38を掴み該ハンドルをそれ自体の周りで回転させ、ナットプレート・ホイール7の回転不能な循環ねじロッド6の周りでの回転を生じさせる」機構と、本願発明の「少なくとも一部が前記筐体の内部に設けられ、手動で前記ナット部材を前記周方向に回転させる手動回転機構」とは、「手動で前記ナット部材を前記周方向に回転させる手動回転機構」の点で共通する。

ケ 引用発明の「X線放射装置」を備える「マンモグラフィ装置」は、本願発明の「放射線撮像装置」に相当する。

そうすると、両者は
「被験者の乳房が載せられる撮影台と、
前記撮影台に載せられた乳房に放射線を照射する放射線源と、
前記撮影台に乳房を押し付ける押圧体と、
前記押圧体が取り付けられると共に、前記撮影台に対して前記押圧体を近接又は離間させるように前記押圧体を支持する支持体と、
前記押圧体の前記撮影台に対する近接離間方向に延びるネジシャフト部材と、
前記ネジシャフト部材にねじ込まれ、外周面に前記支持体を支持する軸受部材が取り付けられ、前記近接離間方向への移動力だけを前記軸受部材を介して前記支持体に伝達するナット部材と、
前記ネジシャフト部材を前記ネジシャフト部材の周方向に回転させる駆動源と、
手動で前記ナット部材を前記周方向に回転させる手動回転機構と、
を備える放射線撮像装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
撮影台に乳房を押し付ける押圧体が、補正発明では押圧「板」であるのに対し、引用発明では押圧「パッド」である点。

(相違点2)
押圧部材が取り付けられると共に、撮影台に対して押圧部材を近接又は離間させるように押圧部材を支持する支持体であって、「軸受部材」によって「支持」され、「前記近接離間方向への移動力だけを前記軸受部材を介して」「伝達」される支持体が、補正発明では「装置本体の内部から外部に露出した部分に前記押圧」体「が取り付けられる」「筐体」であるのに対し、引用発明ではそのようなものではない点。

(相違点3)
ネジシャフト部材が、補正発明では「前記装置本体の内部に配置され」るのに対し、引用発明ではそのようなものではない点。

(相違点4)
手動回転機構について、補正発明では「少なくとも一部が前記筐体の内部に設けられ」るのに対し、引用発明ではそのようなものではない点。

(3)相違点についての検討・判断
(相違点1について)
撮影台に乳房を押し付ける押圧体として押圧板を用いることは周知技術であり、コストの削減等のために、引用発明の押圧パッドに代えて、より簡素な押圧板を採用することは当業者が容易になし得たというべきである。

(相違点2?4について)
一般に、機械装置において、美観の向上、作動機構への接触防止等の観点から、歯車、チェーン、送りねじ、ナット、電動モータ等の作動機構をむき出しにせずに筐体内に収めることは常套手段である。
そして、マンモグラフィー装置においても、乳房の圧迫する圧迫板を駆動するための歯車、チェーン、送りねじ、ナット、電動モータ等の作動機構を筐体内に収めることは、例えば、特開2010-179030号公報(撮影用基部4内にスプロケット14a、14b、チェーン15、電動機16が収納されていること、及び、可動体19内にラチェット機構21、23が収納されていることは自明である。)、特開2010-142328号公報(圧迫板移動部51、例えば電動モータと、電動モータの出力軸に固定された送りねじと、圧迫板30に固定され送りねじと噛み合っているナットが、ハウジング13内に収納されていることは自明である。)に記載されているように周知技術である。
そこで、美観の向上や作動機構への接触防止等を目的として、引用発明における作動機構を筐体内に収めようとすることは容易に想起し得るものであって、引用発明の「キャリッジ3の動きを駆動する」ための作動機構である「循環ねじロッド6」を装置本体内部に収納して相違点3に係る補正発明の如く構成することは当業者が容易になし得たというべきである。
また、同様の目的で、引用発明において、「循環ねじロッド6を回転駆動する」ことにより「移動」する「キャリッジ3」側の、「ナットプレート・ホイール7」に連携する手動回転機構たる「第2の循環ねじロッド30」、「歯29」、「軸受32及び33」、「大歯車35」、「小歯車34」、歯付きハンドル38の歯」、「ベルト36」等を筐体に収納して、相違点4に係る補正発明の如く構成することは当業者が容易になし得たというべきである。
そして、引用発明において、「キャリッジ3に取り付けられる押圧パッド」は胸部を押圧することができるように装置本体外部に露出させて設ける必要があることは明らかであり、また、装置本外外部に露出された筐体に押圧体を取り付けることも、例えば、上記特開2010-179030号公報(筐体たる可動体19に圧迫板19が取り付けられている。【0023】参照。)及び上記特開2010-142328号公報(図1?図3から、圧迫板30が自動露出制御パネル24及び手動操作用つまみ38を備える筐体に取り付けられているのが見てとれる。)に記載されているように周知技術であることに鑑みれば、引用発明の手動回転機構を筐体に収納しようとする場合に、玉軸受22を保持するキャリッジ3に代えて、玉軸受22を保持すると共に手動回転機構を収納する筐体として構成し、筐体の押圧パッドへの取付部分を装置本体外部に露出させて、相違点2に係る補正発明の如く構成することは当業者が容易になし得たというべきである。

(効果について)
補正発明の効果は、引用発明及び周知技術から予測し得る範囲内のものであり、格別顕著なものとはいえない。

(4)請求人の主張について
請求人は,審判請求書において、補正発明では、ナット部材の外周面に筐体を支持する軸受部材が取り付けられているのに対し、引用発明では、ナット15の下端側の部分に固定されたスリーブ20の外周面にキャリッジ3を支持する玉軸受22が取り付けられている点で両者が相違する旨、主張するが、上記「2」の「カ」で述べたとおり、引用発明の「ナット15」と「ホイール18」と「スリーブ20」とからなる一体の「ナットプレート・ホイール7」が、補正発明の「ナット部材」に相当するから、引用発明のスリーブ20の外周面に玉軸受22が取り付けられていることと、補正発明のナット部材の外周面に軸受部材が取り付けられていることとは、相違しない。
なお、仮に、「ナット15」と「ホイール18」と「スリーブ20」が別体であるとしても、一般に、部品の加工し易さ、組み立て易さ、部品コスト等を勘案して一つの部品とするか複数の部品の組立体とするかは当業者が適宜選択し得る設計的事項であることに鑑みれば、引用発明においても、例えば、部品点数を減らして組立て易さを向上するために、ナット15と、ホイール18と、スリーブ20とからなる構成に代えて、これらを一つのナット部材として形成し、そのナット部材のスリーブ20に相当する部分に軸受部材を取り付けることは当業者が容易になし得たというべきである。

また、請求人は、引用発明では、ナット15と、キャリッジ3及び玉軸受22とが鉛直方向で離れているため、キャリッジ3に負荷された荷重は、玉軸受22及びスリーブ20を介してナット15の下端側の部分に伝達され、例えば、水平方向の荷重がキャリッジ3に負荷された場合には、ナット15がネジロッド6の軸方向に対して傾くような荷重としてナット15に伝達されるのに対し、補正発明では、ナット部材の外周面に筐体を支持する軸受部材が取り付けられており、ナット部材と、筐体及び軸受部材とが鉛直方向で離れておらず、これにより、例えば、水平方向の荷重が筐体に負荷された場合には、引用発明と比して、ナット部材がネジシャフト部材の軸方向に対して傾くのが抑制されることで、例えば、ナット部材とネジシャフト部材との摺動を滑らかにすることができ、筐体から伝達される荷重により、ナット部材がネジシャフト部材の軸方向に対して傾くのが抑制されるという引用発明にはない効果を奏する旨、主張する。
しかしながら、補正発明においては、ナット部材と、筐体及び軸受部材との鉛直方向で離れていないような位置関係、例えば、図5に示されるような複数個の軸受部材80がナット部材74の鉛直方向でほぼ均等に分散して位置づけられているような構成は、請求項の記載として何ら規定されていない。その結果、補正発明は、図5においてナット部材の下端側のみに軸受部材80を取り付けた場合、すなわち、引用発明のナット15、ホイール18及び中央部分内側にナット15の延長部を有するスリーブ20を一つの部品として形成したときのスリーブ20に相当する部分が軸受部材の取り付け位置となる場合を含み得るものであり、このような場合に、上記のような請求人の主張する効果が奏されるものと理解することはできず、請求人の効果についての主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではないから採用することはできない。

(5)小括
したがって、補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4 まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであり、仮に、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮に該当するとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明に対する判断
1 本願発明の認定
平成26年12月25日付けの手続補正は、上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年8月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「被験者の乳房が載せられる撮影台と、
前記撮影台に載せられた乳房に放射線を照射する放射線源と、
前記撮影台に乳房を押し付ける押圧板と、
装置本体の内部から外部に露出した部分に前記押圧板が取り付けられると共に、前記撮影台に対して前記押圧板を近接又は離間させるように前記押圧板を支持する筐体と、
前記装置本体の内部に配置され、前記押圧板の前記撮影台に対する近接離間方向に延びるネジシャフト部材と、
前記ネジシャフト部材にねじ込まれると共に、前記近接離間方向への移動力だけが前記筐体に伝達されるように軸受部材を介して前記筐体が取り付けられるナット部材と、
前記ネジシャフト部材を前記ネジシャフト部材の周方向に回転させる駆動源と、
少なくとも一部が前記筐体の内部に設けられ、手動で前記ナット部材を前記周方向に回転させる手動回転機構と、
を備える放射線撮像装置。」

2 刊行物
原査定の拒絶理由で引用された刊行物、及び、その記載事項は、前記「第2」の「3」の「(1)」に記載したとおりである。

3 判断
本願発明は、前記「第2」の「2」で検討した補正発明の「軸受部材」が「ナット部材」の「外周面に」「取り付けられる」ことの限定を省き、補正発明の「筐体を支持する軸受部材が取り付けられ」る「ナット部材」を「軸受部材を介して筐体が取り付けられるナット部材」に変更したものである。
ここで、本願発明の「軸受部材を介して筐体が取り付けられる」ことは、明細書の段落【0039】及び図5の記載によれば、ケース78とナット部材74との間に、軸受部材80が設けられることを意味すると解されるから、引用発明のナットプレート・ホイール7のスリーブ20が、玉軸受22の内リング24に支持され、玉軸受22の外リング25の一部がキャリッジ3の円形の空洞内に保持されることと、本願発明の「軸受部材を介して筐体が取り付けられ」ることとは、「軸受部材を介して」支持「体が取り付けられる」点で共通し、本願発明が「筐体」であるのに対し、引用発明が「キャリッジ」である点、すなわち、上記(相違点2)の点で相違するだけであるから、新たな相違点を生じるものではない。
そうすると、新たな相違点を生じない、「筐体を支持する軸受部材が取り付けられ」る「ナット部材」を「軸受部材を介して筐体が取り付けられるナット部材」に変更した点を除き、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する補正発明が前記「第2」の「3」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-05 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-19 
出願番号 特願2011-108041(P2011-108041)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南川 泰裕泉 卓也  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤田 年彦
信田 昌男
発明の名称 放射線撮像装置  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ