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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1308782
審判番号 不服2015-5366  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-20 
確定日 2015-12-17 
事件の表示 特願2011- 54826「車両用制輪子及び摩擦材料」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月 4日出願公開、特開2012-189175〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成23年3月11日の出願であって、平成26年4月28日付けで拒絶理由が通知され、平成26年7月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年12月17日付け(発送日:平成26年12月22日)で拒絶査定され、これに対し、平成27年3月20日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正されたものである。

第2 平成27年3月20日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成27年3月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成27年3月20日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の下記(1)に示す記載を下記(2)に示す記載へと補正することを含むものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、
前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子において、
前記制動ブロックが、セラミックス及びナノカーボンを含有することを特徴とする、車両用制輪子。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、
前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子において、
前記制動ブロックが、多孔質ブロックであり、セラミックス及びカーボンナノチューブを含有し、
前記セラミックスが、アルミナを含有することを特徴とする、車両用制輪子。」

2 本件補正の目的
本件補正は、補正前の請求項2、3及び7に記載された発明特定事項を請求項1に付加した上で、さらに、「カーボンナノチューブ又はグラフェン」を「カーボンナノチューブ」に限定するものであり、かつ、その補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正の請求項1に関する補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用刊行物
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された特開2001-246455号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、以下のアないしカが記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄道車両のブレーキ装置を構成する鉄道ブレーキ用複合鋳鉄制輪子およびその製造方法に関する。」

イ 「【0003】制輪子の機構には踏面方式とディスク方式があり、一部の高速車両を除いた在来線には車輪の踏面に制輪子を押し付けてブレーキ力を得る踏面方式が採用されている。」

ウ 「【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明による鉄道ブレーキ用複合鋳鉄制輪子およびその製造方法の実施の形態を図面に基づき詳述する。先ず、本実施の形態の製造方法により製造した鉄道ブレーキ用複合鋳鉄制輪子を図1および図2に示す。図において、1は鉄道ブレーキ用複合鋳鉄制輪子(以下、制輪子1という)を示す。2は該制輪子1を構成する鋳鉄製の制輪子本体で、該制輪子本体2は凹状に湾曲した前側面が制動摩擦面2Aになり、凸状に湾曲した後面2Bの長手方向中央には略台形状のコッタ部2Cが突出した縦長の湾曲角柱状をなしている。そして、制輪子本体2は、予め成分調整された合金鋳鉄により成形してある。
【0023】3は前記制輪子本体2に鋳ぐるまれて制輪子1を構成するバックメタルを示す。該バックメタル3は例えば軟鋼板を制輪子本体2の後面2B側に制輪子本体2とほぼ同様の曲率に湾曲させて成形した縦長矩形状の板体3Aと、該板体3Aの後部中央に一体に突出形成され、制輪子本体2のコッタ部2Cに位置する略口型の連結環3Bと、該板体3Aの前部に一定間隔で取り付けられた、または一定間隔で一体に突出形成されたブロック止め3C、3C、…とから構成してある。
【0024】4、4、…は、無数の連通空隙4A、4A、…からなるセラミックスブロックを示す。該各セラミックスブロック4、4、…はポリウレタン発泡体にセラミックスの泥しょうをコーティングして一定の厚みを確定後、乾燥・焼成して網目状に成形されており、一側面4B、4B、…を制輪子本体2の制動摩擦面2Aに露出させた状態で、該各連通空隙4A、4A、…を含む該各セラミックスブロック4、4、…全体が鋳鉄により鋳ぐるまれている(図6参照)。」

エ 「【0028】また、セラミックスブロック4、4、…は、鉄、ニッケル、銅、アルミニウムおよび錫等からなる1種または2種以上の金属または合金を焼結体中に結合材として含んでもよく、または開気孔に溶融金属を予め含浸してもよい。結合材として上述した金属または合金を用いることで、セラミックスブロック4、4、…の靭性を向上させると共に、溶融鋳鉄との濡れ性を改善する。また同様に、連通空隙4A、4A、…内を含むセラミックスブロック4、4、…全体の表面に存在する開気孔に溶融金属を予め含浸させることで、セラミックスブロック4、4、…の靭性を向上させると共に、溶融鋳鉄との濡れ性を改善する。
【0029】また、セラミックスブロック4、4、…は、連通空隙4A、4A、…内を含む該セラミックスブロック4、4、…全体の表面に、ニッケル、クロムおよび銅等の金属メッキを施してもよい。金属メッキを施すことにより、セラミックスブロック4、4、…の靭性を向上させると共に、溶融鋳鉄との濡れ性を改善する。
【0030】
【実施例】以下に、実施例として制輪子本体2の合金鋳鉄成分例(単位:重量%)を示す(表1)。ただし、酸化アルミニウム(A28Sと記す)、炭化珪素(SiCと記す)を実施例としたセラミックスブロック4を下記合金鋳鉄成分例と複合化した制輪子1の名称は、A28S/YHC1、SiC/YHC1、A28S/YHC2、SiC/YHC2、A28S/YHC3、SiC/YHC3とする。」

オ 「【0031】図7は、A28S/YHC2制輪子の走査型電子顕微鏡観察例である。このように、網目状セラミックス構造体を予め成分調整した溶融鋳鉄で鋳ぐるむことにより、連通空隙4A、4A、…内に鋳鉄が充填された状態でセラミックスブロック4、4、…を制輪子本体2と一体化することができる(図6参照)。また、Pの分布は制輪子本体2の一部を構成するステダイト組織の分布を示しているが、細部に至るまで分散していることからも制輪子本体2とセラミックスブロック4、4、…との一体化が検証できる。」

カ 「【0033】図8および図9に、各試験片の試験1回あたりの摩耗体積および制動距離について比較する。ただし、押付力は1MPaとする。合金鋳鉄成分およびセラミックスブロック4の材質によって多少のばらつきはあるものの、セラミックスブロック4、4、…を制輪子本体2と一体化することで、耐摩耗性、制動性ともに良好な結果を得ることができた。これは、セラミックスブロック4、4、…が制動摩擦面2Aに一部が露出していることにより、ブレーキ時にセラミックス粒子が分離して該制動摩擦面2Aに適度に供給されて制輪子と車輪との摩擦性能向上に寄与すると共に、制輪子と車輪との摩擦による該制動摩擦面2Aの塑性変形を抑制することで制輪子1の耐摩耗性向上に寄与することによる。」

キ 上記アの「【発明の属する技術分野】本発明は、鉄道車両のブレーキ装置を構成する鉄道ブレーキ用複合鋳鉄制輪子およびその製造方法に関する。」との記載、上記イの「【0003】制輪子の機構には踏面方式とディスク方式があり、一部の高速車両を除いた在来線には車輪の踏面に制輪子を押し付けてブレーキ力を得る踏面方式が採用されている。」との記載、及び上記ウの「【発明の実施の形態】以下、本発明による鉄道ブレーキ用複合鋳鉄制輪子およびその製造方法の実施の形態を図面に基づき詳述する。先ず、本実施の形態の製造方法により製造した鉄道ブレーキ用複合鋳鉄制輪子を図1および図2に示す。図において、1は鉄道ブレーキ用複合鋳鉄制輪子(以下、制輪子1という)を示す。」との記載から、「制輪子1」は「鉄道車両用」であると解される。

ク 上記ウの「【0024】4、4、…は、無数の連通空隙4A、4A、…からなるセラミックスブロックを示す。該各セラミックスブロック4、4、…はポリウレタン発泡体にセラミックスの泥しょうをコーティングして一定の厚みを確定後、乾燥・焼成して網目状に成形されており、一側面4B、4B、…を制輪子本体2の制動摩擦面2Aに露出させた状態で、該各連通空隙4A、4A、…を含む該各セラミックスブロック4、4、…全体が鋳鉄により鋳ぐるまれている(図6参照)。」との記載から、セラミックスブロック4は、多孔質であると解される。

ケ 上記エの「セラミックスブロック4、4、…の靭性を向上させる」との記載(段落【0028】、【0029】参照)から、セラミックスブロック4は、「靭性を向上させる」という技術的課題を有していると解される。

コ 上記アないしクの記載事項、認定事項及び図示内容を総合して、本件補正発明に則って整理すると、刊行物には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「制動摩擦面2Aを有する鋳鉄製の制輪子本体2と、
前記制輪子本体2に鋳ぐるまれており、一側面4Bが前記制動摩擦面2Aに露出するセラミックスブロック4とを有する、鉄道車両用制輪子1において、
前記セラミックスブロック4が、多孔質ブロックであり、セラミックスを含有し、
前記セラミックスが、酸化アルミニウムを含有する、車両用制輪子1。」

(2)特開2010-189214号公報
原査定の拒絶査定に例示された、本件出願前に頒布された特開2010-189214号公報には、以下のアないしウが記載されている。

ア 「ナノメートルサイズの高機能材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」という)のようなナノカーボン材料が知られている。CNTに代表されるナノカーボン材料は、高い導電性や高強度等、高機能が要求される種々の材料に添加され、利用されている。」(段落【0002】)

イ 「セラミックス粒子としてのアルミナは、低温焼結性アルミナ(大明化学、ダイミクロンTM-DAR)を用いた。」(段落【0045】)

ウ 「破壊靱性を向上させるためには、CNTの含有量を0.1重量%?3.0重量%の範囲内とすればよい。これについては、ある程度のCNTの含有量においては、CNTにより形成されるネットワークにより、破断面の伝播の阻止や、破断面の迂回現象を誘発させることによる破断面の進行の阻止が生じ、焼結体内部におけるセラミックス粒子間の切断が抑制されていると考えられる。」(段落【0058】)

(3)国際公開第2007/029588号
本件出願前に頒布された国際公開第2007/029588号には、以下のア及びイが記載されている。

ア 「機械的性質が改善された例として、アルミナの微粉を使い、10vol%の多層カーボンナノチューブと混合して得られた複合材料の靭性値は、アルミナ単身のそれに比べて24%増加しているとの報告がある」(段落[0006])

イ 「そのために、複数のアルミナ-シリカ系セラミックスのナノ結晶を、カーボンナノチューブが橋渡す形で結合する、絡み合った状態のナノ複合体が形成される。このナノ複合体中のセラミックスのナノ結晶が収縮すると、それと絡み合っているカーボンナノチューブは変形できるため、複合材料中に発生する残留応力は少なくなり、複合材料全体の靭性と強度とを向上できる。」(段落[0014])

(4)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「制動摩擦面2A」は本件補正発明の「制動摩擦面」に相当し、以下同様に、「制輪子本体2」は「制輪子本体」に、「鋳ぐるまれて」は「埋め込まれて」に、「セラミックスブロック4」は「制動ブロック」に、「セラミックスブロック4」の「一側面4B」は「制動ブロック」の「一部」に、「鉄道車両用」は「車両用」に、「制輪子1」は「制輪子」に、「酸化アルミニウム」は「アルミナ」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、
「制動摩擦面を有する鋳鉄製の制輪子本体と、
前記制輪子本体に埋め込まれており、一部が前記制動摩擦面に露出する制動ブロックとを有する、車両用制輪子において、
前記制動ブロックが、多孔質ブロックであり、セラミックスを含有し、
前記セラミックスが、アルミナを含有する、車両用制輪子。」
で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
本件補正発明では、制動ブロックが「セラミックス及びカーボンナノチューブを含有」するのに対し、引用発明のセラミックスブロックは、カーボンナノチューブを含有しない点。

(5)当審の判断
そこで、相違点について検討する。

刊行物の上記(1)ケの認定事項から、引用発明のセラミックスブロック4は、「靭性を向上させる」という技術的課題を有しているといえる。
そして、アルミナを含有するセラミックスにカーボンナノチューブを含有させて、靭性を向上させることは、本願出願前に周知の技術手段(例えば、前記特開2010-189214号公報のアないしウ、前記国際公開第2007/029588号ア及びイ参照。)である。
そうであれば、引用発明のセラミックブロック4について、「靭性を向上させる」という技術的課題を解決するために、上記周知の技術手段を適用し、セラミックスブロック4に「セラミックス」及び「カーボンナノチューブ」を含有させることは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本件補正発明が奏する効果は、引用発明及び上記周知の技術手段から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び上記周知の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明の内容
平成27年3月20日付けの手続補正は上記のように却下されたので、本件出願の請求項1ないし12に係る発明は、平成26年7月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(1)に記載したとおりである。

2 引用刊行物
原査定の拒絶理由に引用された刊行物(特開2001-246455号公報)の記載事項及び引用発明は、前記第2[理由]3(1)に記載したとおりである。

3 対比、判断
本件補正発明は、前記第2[理由]2で検討したように、本願発明の発明特定事項を限定したものに相当する。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記第2[理由]3(4)及び(5)に記載したとおり、引用発明及び上記周知の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び上記周知の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のことから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-15 
結審通知日 2015-10-20 
審決日 2015-11-02 
出願番号 特願2011-54826(P2011-54826)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16D)
P 1 8・ 121- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷口 耕之助  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
発明の名称 車両用制輪子及び摩擦材料  
代理人 伊藤 温  
代理人 伊藤 温  
代理人 伊藤 温  
代理人 伊藤 温  

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