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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1308815
審判番号 不服2014-8341  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-07 
確定日 2015-12-09 
事件の表示 特願2010-515158「抗体-エンドスタチン融合タンパク質及びそのバリアント」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月31日国際公開、WO2009/003145、平成22年 9月30日国内公表、特表2010-531666〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年6月26日(パリ条約による優先権主張2007年6月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年4月22日付けで手続補正がなされたが、平成25年12月19日付で拒絶査定がされ、これに対し、平成26年5月7日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成26年5月7日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年5月7日付の手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「キメラ融合タンパク質が抗HER2抗体からの抗原結合ドメインと、少なくとも1個のエンドスタチンタンパク質、このペプチド、変異体、バリアント又は断片とを含み、前記抗原結合ドメインは単離された抗体、この断片又はアプタマーを含み、前記少なくとも1個のエンドスタチンはヒトエンドスタチンの125番目のアミノ酸部位にプロリンからアラニンへの置換を含むことを特徴とする、腫瘍を治療するための医薬品を製造するためのキメラ融合タンパク質の使用。」
から、
「キメラ融合タンパク質が抗HER2抗体からの抗原結合ドメインと、少なくとも1個のエンドスタチンタンパク質を含み、前記抗原結合ドメインは単離された抗体又はこの断片を含み、前記少なくとも1個のエンドスタチンはヒトエンドスタチンの125番目のアミノ酸部位にプロリンからアラニンへの置換を含むことを特徴とする、腫瘍を治療するための医薬品を製造するためのキメラ融合タンパク質の使用。」
へと補正された。

2 補正の適否
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「エンドスタチンタンパク質」について「変異体、バリアント又は断片」という選択肢を削除し、「抗原結合ドメイン」について「アプタマー」という選択肢を削除するものであって、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。

(1)引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2005/0008649号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次のとおりの記載がある。
(1-1)「要約 エンドスタチンと免疫グロブリン(Ig)分子全体又は一部とを含むキメラ分子が腫瘍の治療に用いられる。抗HER2/neu抗体の免疫グロブリンドメインに融合されたエンドスタチンを含むキメラ分子は、そのままのエンドスタチンと比較してより長い血清半減期及び安定性を示す。125Iでラベルされた抗HER2/neuIgG3-エンドスタチンキメラ分子及び抗HER2/neuIgG3はCT26-HER2腫瘍に優先的に局在した。・・・抗HER2/neuIgG3-エンドスタチンは、エンドスタチンのみ、抗HER2/neuIgG3抗体、又は、抗体とエンドスタチンの組み合わせのいずれよりも、より効果的に腫瘍の増殖を阻害した。」(表紙右欄5?21行)
(1-2)「好ましい態様において、この発明は、抗原結合ドメイン及び治療用機能ドメインを含むキメラ融合分子を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、医薬組成物はガンの治療に用いられる。」(1頁右欄段落[0009])
(1-3)「好ましい態様において、治療用機能ドメインはエンドスタチン、アンギオスタチン、・・又はアレスチンである。」(2頁左欄段落[0013])
(1-4)「他の好ましい態様において、抗体ドメインは腫瘍抗原に結合する。腫瘍抗原は、好ましくはHER2/neuである。」(2頁左欄段落[0015])
(1-5)「付加的に、キメラ分子を患者に投与する方法を実行するための指示も提供される。」(2頁右欄段落[0029])
(1-6)「実施例・・・
材料と方法・・・
抗HER2/neuIgG3-エンドスタチン融合タンパク質の構築、発現、及び特性
実験用のマウスエンドスタチン遺伝子が、pFLAG-CMV-1エンドスタチンからプライマー5’-CCCCT・・・(配列番号2)を用いたPCRにより得られた。・・・構築物を完成させるために、IgG3-エンドスタチン重鎖定常領域が、組換えヒト化モノクローナル抗体4D5-8(rhuMAb HER2、ハーセプチン;ジェネンテック、カリフォルニア州サンフランシスコ)の抗HER2/neuの可変領域に連結された。PCR産物はp-GEM-Tイージーベクター(プロメガ社、ウィスコンシン州マディソン)にサブクローン化され、確認のため配列決定された。サブクローン化されたエンドスタチン遺伝子は、以前記載したとおり(シンSUら・・・)、ヒトIgG3の重鎖定常領域(CH3)のカルボキシル末端に連結された。抗HER2/neuIgG3-エンドスタチン融合タンパク質全体を組み立てるために、完成した抗HER2/neu重鎖IgG3-エンドスタチン構築ベクターがエレクトロポレーションにより抗HER2/neuK軽鎖を安定的に発現するSp2/0細胞に導入された。・・・融合タンパク質は、セファロース4Bファストフロー上に固定されたプロテインAを用いて細胞培養上清から精製された。」(21頁左欄段落[0213]?[0218])
(1-7)「実施例5
抗HER2/neuIgG3-エンドスタチンの産生と特徴付け
完全に組み立てられたH2L2形態として予測したとおりの分子量の抗HER2/neu抗体-エンドスタチン融合タンパク質が、安定的に組み替えられたSp2/0細胞から産生され、分泌された(図6)。分泌された35Sメチオニンでラベルされた抗HER2/neuIgG3-エンドスタチンは、非還元状態で、2分子のエンドスタチン(25kDa)が結合した完全な抗体(170kDa)として予測されるサイズ、約220kDaの分子量を有する(図6B)。還元状態では、予測される分子量のH鎖とL鎖が観察された(図6C)。エンドスタチン部分が抗HER2/neu抗体-エンドスタチンタンパク質中に存在することを確認するために、精製した抗HER2/neu抗体-エンドスタチンとエンドスタチンが非還元状態で分離された(図6D)。ウェスタンブロッティングで、抗ヒトIgG抗体又は抗エンドスタチン抗体により、抗HER2/neu抗体-エンドスタチンが220kDano分子量で同定された。還元すると抗HER2/neu抗体-エンドスタチンからの重鎖のバンドが予期されるサイズである85kDaへ移動した。」(27頁段落[0276])
(1-8)図6


原査定の拒絶の理由に引用されたInt.J.Cancer, vol.111, p.839-848(2004)(以下、「引用文献2」という。)は「ヒトエンドスタチン変異体へのインテグリン結合配列の付加は腫瘍増殖の阻害を改善する」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
(2-1)「腫瘍の血管は、高レベルのαvβ3/αvβ5及びα5β1インテグリンを発現する。したがって、インテグリンのリガンドに存在するRGD(Arg-Gly-Asp)配列を含むペプチドは、治療剤を腫瘍血管内皮細胞に標的化するのに効果的である。本研究において、我々は、インテグリン標的化配列の付加によりエンドスタチンの生物学的活性が増強され得るかどうかを調べた。点変異を有するP125Aエンドスタチンのアミノ末端あるいはカルボキシル末端にRGD配列が付加された。以前、我々は、P125A変異はエンドスタチンの生物学的活性に影響を与えないものの、野生型分子と比較すると、実際に優れた抗血管新生活性を発揮することを示した。RGD配列を用いたP125Aエンドスタチンへのさらなる修飾は、内皮細胞への特異的かつ増強した結合性を発揮し、増強した結合性は抗血管新生活性の改善と符号する。」(839頁左欄1?16行)

原査定の拒絶の理由に引用されたBritish J.Cancer, vol.90, p.1627-1635(2004)(以下、「引用文献3」という。)は、「1アミノ酸置換を有するエンドスタチン変異体の改善された生物学的活性」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
(3-1)「ヒトエンドスタチンは、125位のプロリンに引き続き、126?128位に内在性のAsn-Gly-Arg(NGR)モチーフを有する。Asn-Gly-Argを有するペプチドは、腫瘍血管に指向しアミノペプチダーゼNの活性を阻害することが既に示されている。我々は、以前、野生型エンドスタチンとプロリンからアラニンへの変異を有するエンドスタチン(P125Aエンドスタチン)のin vitro及びin vivoでの生物学的活性を比較し、P125Aエンドスタチンの方が野生型エンドスタチンよりも内皮細胞増殖及びヒト卵巣ガン細胞増殖の両方の阻害能が優れているが、アミノペプチダーゼNについてはそうではないことを示した。変異体の増強した生物学的活性が、下流のNGR配列の露出によるものなのかどうかを決定するため、アミノペプチダーゼN活性に関するエンドスタチンの効果が研究された。・・・これらの結果は、野生型エンドスタチンも変異体エンドスタチンも内在性のNGR部位はアミノペプチダーゼNに接近可能ではなく、この活性はP125Aの増強した生物学的活性には含まれないことを示唆する。P125Aエンドスタチンは野生型エンドスタチンよりも効率的に内皮細胞に結合し、内皮細胞の増殖だけでなく移動も、より強く阻害する。P125Aエンドスタチンは、また、野生型エンドスタチンよりも高度に腫瘍組織中に局在し、無胸腺マウス中の大腸ガンの増殖をより強く阻害する。リアルタイムPCR分析は、野生型とP125Aエンドスタチンの両方が血管新生を促進する鍵となる増殖因子の発現を低減することを示した。血管内皮細胞増殖因子及びアンギオポエチンIは変異体によってより強く下方制御された。これらの知見は、P125近辺の領域がエンドスタチンの生物学的活性を改良するために修飾され得ることを示唆する。」(1627頁要約の1?13行)

原査定の拒絶の理由に引用されたInt.J.Cancer, vol.101, p.224-234(2002)(以下、「引用文献4」という。)は、「ヒトエンドスタチン変異体による、C3(1)/SV40トランスジェニックマウスにおける乳腺ガンの血管新生スイッチの阻害」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。
(4-1)「エンドスタチンによる血管新生阻害に基づくガン治療が最近開発されている。我々は、ヒトエンドスタチンの変異体(P125A)がC3(1)/Tag乳ガンモデルにおける血管新生スイッチを阻害し得ることを示す。P125Aは、野生型エンドスタチンよりも、内皮細胞増殖に対して強い阻害活性を有する。」(224頁左欄1?6行)

(3)引用発明
上記摘記事項(1-6)?(1-8)のとおり、引用文献1の実施例では、N末側から順に、ヒト化モノクローナル抗体4D5-8の抗HER2/neu可変領域、ヒトIgG3定常領域及びマウスエンドスタチンが連結してなる重鎖2本と、抗HER2/neuK軽鎖2本とが組み合わせられてなる、図6Aのとおりのキメラ融合タンパク質が製造された。そして、これは、上記摘記事項(1-2)のとおり、腫瘍治療のための医薬品として用いることを前提とした発明の実施例であるのだから、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「N末側から順に、ヒト化モノクローナル抗体4D5-8の抗HER2/neu可変領域、ヒトIgG3定常領域及びマウスエンドスタチンが連結してなる重鎖2本と、抗HER2/neuK軽鎖2本とが組み合わせられてなる、図6Aのとおりのキメラ融合タンパク質の、腫瘍を治療するための医薬品を製造するための使用。」(以下、「引用発明」という。)

(4)対比
技術常識からみて、引用発明のキメラ融合タンパク質を構成する抗HER2/neuK軽鎖は、抗HER2/neu抗体の軽鎖であって、抗HER2/neu可変領域及びK定常領域とからなるものであるから、このキメラ融合タンパク質には、重鎖の抗HER2/neu可変領域及び軽鎖の抗HER2/neu可変領域とから形成される2つの抗原結合ドメインが含まれ、それぞれの重鎖に結合された合計2つのマウスエンドスタチンが含まれていると認められる。また、HER2/neuはHER2の別名であるから(例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=2064[uid]には、HER-2/neu、HER2、NEUが同じ遺伝子及びその産物を示すことが記載されている。また、本願の実施例でも、抗HER2抗体として引用文献1に「抗HER2/neu抗体」の具体物として記載された「ヒト化モノクローナル抗体4D5-8(rhuMAb HER2、ハーセプチン;ジェネンテック、カリフォルニア州サンフランシスコ)」を用いている。)、引用発明の「抗HER2/neu」は本願補正発明の「抗HER2」と同義である。したがって、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
一致点: キメラ融合タンパク質が抗HER2抗体からの抗原結合ドメインと、2個のエンドスタチンタンパク質を含み、前記抗原結合ドメインは単離された抗体の断片であることを特徴とする、腫瘍を治療するための医薬品を製造するためのキメラ融合タンパク質の使用。
相違点: エンドスタチンタンパク質が、本願補正発明では125番目のアミノ酸部位にプロリンからアラニンへの置換を含むヒトエンドスタチンであるのに対して、引用発明ではマウスエンドスタチンである点。

(5)判断
引用文献1は、キメラ融合タンパク質を医薬組成物の有効成分とし(上記摘記事項(1-2))、投与対象を「患者」と表現していること(上記摘記事項(1-5))、実施例で用いた抗HER2/neu抗体が、「ハーセプチン」の商品名で既に市販された医薬抗体であること(上記摘記事項(1-6))に照らせば、引用文献1が開示するキメラ融合タンパク質は、医薬品としてヒトに適用することを念頭においていることが明らかであり、同種の生物由来のペプチドが最も免疫原性が低いことは技術常識であるから、引用発明のキメラ融合タンパク質においてマウスに由来するエンドスタチンをヒトのものに置換することには動機がある。
ヒトエンドスタチンは、本願優先日前から、その抗腫瘍作用に着目した研究がなされており、引用文献2?4に記載されたとおり、125位のプロリンをアラニンに置換したP125A変異型は、野生型よりも、抗血管新生活性が強く(上記摘記事項(2-1)、(4-1))、内皮細胞やガン細胞の増殖阻害能に優れること(上記摘記事項(3-1)、(4-1))が知られていた。そして、引用発明のキメラ融合タンパク質においてエンドスタチン部分は治療用機能ドメインであるのだから(上記摘記事項(1-3))、用いるヒトエンドスタチンとして、引用文献2?4に記載され、野生型よりも、抗血管新生活性や細胞増殖阻害活性のような抗腫瘍作用の点で優れたものとして知られたP125A変異型を選択することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲内のことである。
また、発明の詳細な説明の実施例1には、本願補正発明にあたるアルファHER2-huEndo-P125Aが、エンドスタチンにアミノ酸置換を有さない点でのみ異なるアルファHER2-huEndoと比較して、in vitroでの内皮細胞増殖や管形成をより強く阻害したこと、ヒト乳癌細胞を移植したマウスにおいて腫瘍増殖をより強く阻害し、生存率を高めたことが記載されているが、いずれも引用文献2?4に記載された、野生型よりも優れたP125Aの特性から予測し得る効果にすぎない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2?4の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)審判請求人の主張について
平成26年5月7日付審判請求書及び審尋に対する平成27年1月27日付回答書における審判請求人の主張について、以下、検討する。
ア 審判請求人は、引用文献2?4の記載事項を指摘して、P125Aが野生型よりも優れた効果を有するものであるとはいえないから、引用発明のエンドスタチンをP125Aエンドスタチンに置換する動機はないし、本願補正発明の効果は予想を超えた格別顕著なものである旨主張する。
まず、引用文献2について、審判請求人は、図5にP125Aエンドスタチンが腫瘍増殖を有意に阻害しないことが示されている旨主張する。しかし、図5は、P125Aエンドスタチン、N末端にRGD配列を付加したP125エンドスタチン及びPBSの腫瘍増殖抑制効果を比較した実験の結果を示すものであって、これに関して、本文中に、腫瘍増殖をP125Aが約30%、N末端にRGD配列を付加したP125Aエンドスタチンが78%抑制した旨記載されている(第845頁左欄第3?8行)から、審判請求人の上記主張は当たらない。そもそも、上記摘記事項(2-1)のとおり、引用文献2は、P125Aエンドスタチンが野生型よりも優れた抗血管新生活性を有するという著者らが既に示した知見に基づき、さらなる改善のためのRGD配列による修飾について検討した結果を報告する論文であって、野生型と比較したP125Aエンドスタチンの優位性を前提とするものである。
次に、引用文献3について、審判請求人は、図2、図4A、B、D及び図5において野生型とP125Aエンドスタチンの有意な差が認められない旨主張する。しかし、題名が示し、上記摘記事項(3-1)の記載から明らかなとおり、引用文献3は、野生型よりもP125Aの方が、抗腫瘍作用に結びつく様々な活性が優れていることを、明らかな有意差のあるデータ(図1、図2、図4B及び図5のVEGR及びAng1)をもって報告する論文であるから、審判請求人が指摘するように、有意差の認められないデータが部分的にあったとしても、P125Aの優位性が否定されるわけではない。
さらに、引用文献4について、審判請求人は、図1Cにおいて野生型とP125Aとで腫瘍サイズ抑制効果に有意差が認められない旨指摘する。しかし、図1Cからは、野生型よりもP125A投与群の方が腫瘍サイズの平均値が小さいことが優に見て取れる。また、図1Bには内皮細胞増殖抑制作用に関して有意差のあるデータが記載されており、引用文献4に接した当業者であれば野生型よりもP125Aエンドスタチンの方が優れた抗腫瘍作用を発揮すると十分認識できるものである。
以上により、審判請求人の上記主張は失当である。
イ 審判請求人は、シン博士及びウェイナー博士の宣誓書を提出し、当業者は、引用発明に引用文献2及び3の記載事項を組み合わせても、機能的で有効な分子が実際に得られるとは予期できない旨主張する。
しかし、上記摘記事項(1-1)及び(1-6)のとおり、引用文献1において、エンドスタチン部分がマウス由来である点でのみ本願補正発明と相違する引用発明のキメラ融合タンパク質が組換え細胞を用いて機能的分子として得られたこと、及びマウス及びヒトは共に哺乳動物であるからエンドスタチンの相同性は十分高いと考えられ、少なくとも同様の方法で機能的分子として得られないと予測するほどの事情は見いだせないことに照らすと、引用発明のキメラ融合タンパク質のエンドスタチン部分を引用文献2及び3に記載されたP125Aヒトエンドスタチンに置換しても機能的分子が得られると考える方が自然である。シン博士の宣誓書及びウェイナー博士の宣誓書をみても、それを覆すに足りる根拠は見いだせない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用することができない。

(7)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、159条1項で準用する53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年5月7日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年4月22日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「キメラ融合タンパク質が抗HER2抗体からの抗原結合ドメインと、少なくとも1個のエンドスタチンタンパク質、このペプチド、変異体、バリアント又は断片とを含み、前記抗原結合ドメインは単離された抗体、この断片又はアプタマーを含み、前記少なくとも1個のエンドスタチンはヒトエンドスタチンの125番目のアミノ酸部位にプロリンからアラニンへの置換を含むことを特徴とする、腫瘍を治療するための医薬品を製造するためのキメラ融合タンパク質の使用。」

2 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1?4、及びその記載事項は、前記第2 の2(1)に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明において、「エンドスタチンタンパク質」について「変異体、バリアント又は断片」という選択肢を加え、「抗原結合ドメイン」について「アプタマー」という選択肢を加えたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含む本願補正発明が、前記第2の2(5)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるのだから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-03 
結審通知日 2015-07-07 
審決日 2015-07-24 
出願番号 特願2010-515158(P2010-515158)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 潤也  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 植原 克典
長井 啓子
発明の名称 抗体-エンドスタチン融合タンパク質及びそのバリアント  
代理人 牛木 護  
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