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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1308826
審判番号 不服2014-12607  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-01 
確定日 2015-12-09 
事件の表示 特願2012-224671「酸化ジルコニウム酸素センサを校正するための校正技術及び校正されたセンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 9日出願公開、特開2013- 83650〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年10月10日(パリ条約による優先権主張 2011年10月10日、米国)の出願であって、平成25年8月2日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月13日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年2月27日付けで拒絶査定されたのに対し、同年7月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
平成26年7月1日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項6の先行する請求項を引用する「・・・請求項1又は2に記載の方法。」という記載を、「・・・請求項2に記載の方法。」と補正するものであり、請求項1を引用する請求項6に係る発明を削除するものであるから、請求項の削除であり、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる事項を目的とするものである。

そして、本願の請求項1?8に係る発明は、本件補正後の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「既知の酸素モル分率を有する基準ガスと既知の酸素モル分率を有する測定ガスとを用いて酸化ジルコニウムセンサを校正する方法であって、
同一の酸素モル分率を有し且つ異なる酸素分圧を有する基準ガスと測定ガスとを用い、
基準ガスと測定ガスとは周囲の大気であり、
センサとの流体連通を検出している間に基準ガスと測定ガスとの全圧における違いを生じることによって、基準ガスと測定ガスとが同一の酸素モル分率を有しているとしても、基準ガスと測定ガスとに異なる酸素分圧を生じる方法。」

第3 引用例とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2005-172726号公報(以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線部は当審が参考のために付したものである。)

1 「【0015】
請求項6では、酸素濃度計の校正方法であり、濃淡電池型のセンサを有し、被測定ガスと比較ガスとの酸素濃度の差に応じた起電力を発生する酸素濃度計の校正方法において、校正動作時には既知の酸素濃度を有する基準ガスを前記センサにおける被測定ガス流路に供給するステップと、このセンサに供給する基準ガスの圧力を調整するとともにその時の酸素分圧に応じた酸素濃度値を利用して校正を行うステップとを有することを特徴とする。」

2 「【0025】
次に、校正動作時においては、スパンガス8が制御弁10を介して、ジルコニア式センサ1の比較ガス流路に供給されるとともに、制御弁13は校正ガス側に切り換えられ、スパンガス8が圧力調整手段20を介して、ジルコニア式センサ1の被測定ガス流路に供給される。
【0026】
ここで、圧力調整手段20が被測定ガス(スパンガス8)になんら圧力変化を与えることはなく、ほぼ大気圧のままの状態を維持したとすると、比較ガスと被測定ガスとの酸素濃度差はなく、この時のセンサ出力に対しては、スパン校正が行われる。
【0027】
また、圧力調整手段20が被測定ガス(スパンガス8)の圧力を0.01Paに調整したとすると、ジルコニア式センサ1内における被測定ガス(スパンガス8)の酸素分圧は、

0.01Pa×0.206=0.00206Pa (1)
但し、0.206 はスパンガス8中の酸素含有率(0.206%)

となり、ジルコニア式センサ1により検出される酸素濃度は、1気圧のスパンガス8に換算して、

0.00206Pa/101.325×1000Pa=2.03ppm (2)
但し、1気圧=101.325kPa

となる。
【0028】
したがって、この時のセンサ出力を利用して校正を行えば、2.03ppmの酸素濃度に対応した校正(ゼロ校正)を行うことができる。
【0029】
このように、圧力調整手段20により被測定ガス(スパンガス8)の圧力を調整し、その時の酸素分圧に応じた酸素濃度値を利用して校正を行うようにすると、一種類の基準ガス(スパンガス8)により、スパン校正およびゼロ校正を行うことができる。
また、校正する点は、スパンおよびゼロの2点に限らず、圧力調整手段20の圧力値により、2点以上の任意の点が可能である。
【0030】
なお、上記の説明においては、基準ガスとして供給するスパンガス8に空気を使用した場合を例示したが、既知の酸素濃度を有するガスであれば、必ずしも空気に限られるものではない。」

3 「【0034】
ゼロ校正を行う際には、絞りバルブ205、206およびリーク用バルブ207は全て閉じられ、ジルコニア式センサ1内の被測定ガスQ2(スパンガス8)は吸引ポンプ201により吸引される。被測定ガスQ2(スパンガス8)の圧力を所定の値に調整するためには、吸引ポンプ201の吸引力や絞りバルブ206の開度を制御する。例えば、吸引ポンプ201の動作により、圧力を最小の値まで低下させ、後に、絞りバルブ206の開度を制御して、圧力を所望の値まで上昇させる。
また、スパンガス8に空気を使用している場合には、リーク用バルブ207を開けて、外部空気を導入し、被測定ガスQ2(スパンガス8)の圧力を上昇させても良い。」

4 「【実施例3】
【0036】
図3は、本発明の酸素濃度計およびその校正方法の他の実施例を示す構成図である。図において、前記図1と同様のものは同一符号を付して示す。14は計装エアであり、図に示す例は、計装エア14を基準ガス(スパンガス)として使用したものである。酸素濃度計が使用されるような計装プラントにおいては、プラント内に計装用のエア配管が設置されている場合が多く、この計装エア14を利用すれば、基準ガス(スパンガス)用のボンベを用意する必要がなくなる。」

上記摘記1?4を含む引用例全体の記載を総合すると、「スパンガス」、及び「基準ガス(スパンガス)」が同一の「スパンガス」を指していることは明らかであり、引用例には次の発明が記載されていると認められる。
「ジルコニア式センサを備えた酸素濃度計の校正方法であって、
スパンガスが制御弁10を介して、ジルコニア式センサの比較ガス流路に供給されるとともに、制御弁13は校正ガス側に切り換えられ、スパンガスが圧力調整手段を介して、ジルコニア式センサの被測定ガス流路に供給され、圧力調整手段により被測定ガス(スパンガス)の圧力を調整し、その時の酸素分圧に応じた酸素濃度値を利用して校正を行い、一種類のスパンガスにより、スパン校正およびゼロ校正を行うものであり、
スパンガスとして既知の酸素濃度を有する計装エアを使用するものである校正方法。」(以下「引用発明」という。)

第4 対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。

1 引用発明の「ジルコニア式センサ」が、本願発明の「酸化ジルコニウムセンサ」に相当する。

2 引用発明において、「スパンガス」は、「既知の酸素濃度を有する計装エア」であるから、酸素モル分率も既知である。そして、この「スパンガス」は、「比較ガス流路に供給される」ものであり、「被測定ガス(スパンガス)」は「スパンガス」を「圧力調整手段を介して、ジルコニア式センサの被測定ガス流路に供給」するものである。そうすると、引用発明の「スパンガス」及び「被測定ガス(スパンガス)」は、本願発明の「既知の酸素モル分率を有する基準ガス」及び「既知の酸素モル分率を有する測定ガス」にそれぞれ相当する。
また、「計装エア」は、一般的に周囲の大気をコンプレッサなどで圧縮して供給されるものであるから、引用発明の「スパンガス」が「計装エア」であることは、本願発明の「基準ガスと測定ガスとは周囲の大気」であることに相当する。

3 引用発明の「被測定ガス(スパンガス)」と「比較ガス流路に供給される」「スパンガス」は、「一種類のスパンガス」であるが、「被測定ガス(スパンガス)」は、「圧力調整手段により」「圧力を調整」され、全圧が変化するので、「比較ガス流路に供給される」「スパンガス」とは全圧に違いが生じるものである。そして、両ガスは、「一種類のスパンガス」であるから、酸素モル分率が同一であることは明らかであり、全圧の違いにより、それぞれの酸素分圧が異なることも明らかである。してみれば、引用発明の「圧力調整手段により被測定ガス(スパンガス)の圧力を調整」することは、本願発明の「センサとの流体連通を検出している間に基準ガスと測定ガスとの全圧における違いを生じることによって、基準ガスと測定ガスとが同一の酸素モル分率を有しているとしても、基準ガスと測定ガスとに異なる酸素分圧を生じる」ことに相当する。また、引用発明の「比較ガス流路に供給される」「スパンガス」と「圧力を調整された」「被測定ガス(スパンガス)」は、本願発明の「同一の酸素モル分率を有し且つ異なる酸素分圧を有する基準ガスと測定ガス」に相当する。

4 よって、本願発明と引用発明は、
「既知の酸素モル分率を有する基準ガスと既知の酸素モル分率を有する測定ガスとを用いて酸化ジルコニウムセンサを校正する方法であって、
同一の酸素モル分率を有し且つ異なる酸素分圧を有する基準ガスと測定ガスとを用い、
基準ガスと測定ガスとは周囲の大気であり、
センサとの流体連通を検出している間に基準ガスと測定ガスとの全圧における違いを生じることによって、基準ガスと測定ガスとが同一の酸素モル分率を有しているとしても、基準ガスと測定ガスとに異なる酸素分圧を生じる方法。」
の点で一致し、相違点はない。
してみると、本願発明と引用発明は同一であり、本願発明は引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

5 また、仮に、引用発明の「計装エア」である「スパンガス」が、「周囲の大気」に相当しないとしても、引用例には、上記第3の3の摘記のとおり圧力調整時に「外部空気」(本願発明の「周囲の空気」に相当する。)を導入することが記載されており、引用発明において、スパンガスのコスト等を考慮して、スパンガスとして外部空気を用いることは当業者が容易に想到しうることである。
そして、本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。
このため、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 請求人の主張についての検討
請求人は、審判請求の理由において、「両者を比較すると、本願請求項1に係る発明は、基準ガス及び測定ガスとして周囲の(圧力調整されていない)大気を利用しているのに対し、引用文献1においては、ボンベに貯留されたガス(空気でも可)又は計装エアを基準ガスとして用いている点において異なっています。」と相違点を主張し、この相違点による本願発明の効果として「本願請求項1に係る発明においては、そのような加圧は必要としていないため、基準ガスを貯留するボンベを省略できるのに併せて、基準ガスを加圧する工程も省略することができます。」、「引用文献1には、ボンベに貯留されたスパンガス8の代わりに計装エア14を用いる実施例3が開示されていますが、計装エアは一般に加圧された空気であるため、計装エアを得るためには当然に加圧するための装置が必要であり、単に周囲の空気を用いる本願発明と比べて設備投資等の負担が大きいことが明らかです。」と主張している。
しかし、本願発明は、「基準ガス」と「測定ガス」に圧力調整しないことを発明特定事項とするものではなく、校正に用いる設備に関する限定も何らなされていない。そのため、本願発明は、基準ガスが加圧されていないものに限定されているとはいえず、設備に関する上記主張は、請求項の記載に基づくものではないので、採用できない。
更にいえば、上記主張において、本願発明が「測定ガスとして周囲の(圧力調整されていない)大気を利用している」と主張しているが、本願発明は「測定ガス」について、「同一の酸素モル分率を有し且つ異なる酸素分圧を有する基準ガスと測定ガスとを用い」と特定されている。測定ガスと基準ガスが、ともに圧力調整されていない大気であれば、両ガスの酸素モル分率及び酸素分圧がともに同一となることは技術常識からして明らかであり、本願の発明の詳細な説明の段落0021には「測定ガスは、加熱されたZrO_(2)のセラミックチューブの外面と流体連通する基準ガスの圧力とは異なる既知の圧力において加熱されたZrO_(2)のセラミックチューブの内面と流体連通される。これは、基準ガスをZrO_(2)のセラミックチューブの内部空間に導入して、前記内部空間を密閉し、その後に所望の低減した圧力が得られるまで減圧することによって最も容易に実現できる。」と測定ガスを圧力調整することが記載されている。してみれば、本願発明の「同一の酸素モル分率を有し且つ異なる酸素分圧を有する基準ガスと測定ガスとを用い、基準ガスと測定ガスが周囲の大気であり」という特定が、圧力調整されていないものに限定されるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-09 
結審通知日 2015-07-14 
審決日 2015-07-27 
出願番号 特願2012-224671(P2012-224671)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 113- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 将志櫃本 研太郎  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 松本 隆彦
藤田 年彦
発明の名称 酸化ジルコニウム酸素センサを校正するための校正技術及び校正されたセンサ  
代理人 特許業務法人岡田国際特許事務所  

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