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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B26B
管理番号 1309007
審判番号 不服2012-14640  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-30 
確定日 2015-11-18 
事件の表示 特願2009-49448「鋭利に刃をつけた切削工具」拒絶査定不服審判事件〔平成21年8月6日出願公開、特開2009-172391〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯
本願は、2002(平成14)年3月7日を国際出願日とする特願2003-503412号の一部を平成21年3月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年3月7日、アメリカ合衆国)に新たな特許出願としたものであって、平成23年10月4日付けで拒絶理由が通知され、平成24年3月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年4月4日付けて拒絶査定がなされた。
上記査定を不服として平成24年7月30日付けで本件審判が請求され、同時に手続補正書が提出された。当審からの平成25年1月15日付け審尋に対し、平成25年5月16日付けで回答書が提出された。当審から平成25年6月6日付けで拒絶理由が通知され、平成25年11月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、続いて当審から平成26年2月21日付け拒絶理由が通知され、平成26年5月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに当審から平成26年10月3日付けで拒絶理由が通知され、平成26年12月26日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

2. 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明は、上記平成26年12月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであると認められ、そのうち、請求項2には以下の事項が記載されている(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項2】
鋭く研いだ切刃を有するブレード部とボディ部とを含む切削工具であって、
前記ブレード部と前記ボディ部のうちの少なくとも一方が、下記の分子式:
(Zr,Ti)a(Ni,Cu,Fe)b(Be,Al,Si,B)c(Nb,V,Co)dで表される組成を有するバルク状の非晶質合金から作られており、
原子%で、aは30?75、bは5?60、cは0?50、dは0?20であり、
前記バルク状の非晶質合金は、Zr、Ti、Ni、Cu、Fe、並びに、Nb及びVの少なくともいずれかを少なくとも含み、
前記バルク状の非晶質合金は、硬度値が4Gpa以上であり、弾性限が1.5%以上である切削工具。」

3. 平成26年10月3日付け拒絶理由
上記平成26年12月26日付け手続補正書による補正の前後を対比すると、本願発明は、当該補正前の請求項1に係る発明と同じものであり、それに対して上記平成26年10月3日付けで通知された拒絶理由は以下のとおりである。

「 【理由1】 本件出願は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成26年5月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの以下のものと認める。

『【請求項1】 ・・・(当審注:この箇所は上記本願発明の特定事項が記載されている。)・・・』

上記請求項1で特定された『前記バルク状の非晶質合金は、Zr、Ti、Ni、Cu、Fe、並びに、Nb及びVの少なくともいずれかを少なくとも含み、』との事項に関して、請求人は、本件審判請求書において、以下のとおり主張している。

『請求項1に『前記バルク状の非晶質合金は、Zr、Ti、Ni、Cu及びFeを少なくとも含み、』との事項を付加しました。補正前の請求項1に記載のバルク状の非晶質合金は、(Zr,Ti)a(ただし、aは30?75原子%)と表現されるように、Zr及びTiのうちの少なくとも1つを含んでいました。すなわち、補正前の請求項1に記載のバルク状の非晶質合金は、ZrとTiとの双方を含むものと、Zrを含みTiを含まないものと、Zrを含まないがTiを含むものとの3種のものを含んでいました。今回の補正は、その3種のうちの最初のもの、すなわち、ZrとTiとの双方を含むものに限定しました。同様に、今回の補正で、請求項1に記載のバルク状の非晶質合金を、(Ni,Cu,Fe)b(ただし、bは5?60原子%)と表現される、Ni、Cu及びFeのうちの少なくとも1つを含むもののうちで、Ni、Cu及びFeの全てを含むものに限定しました。』(3ページ17行ないし4ページ3行)

また、請求人は、上記特定事項に関して、平成25年11月1日付け意見書においては、以下のとおり主張している。

『[補正事項1]
請求項1の『バルク状の非晶質合金』について、『(Zr,Ti)a(Ni,Cu,Fe)b(Be,Al,Si,B)c(Nb,Cr,V,Co)dで表される組成』を『(Zr,Ti)a(Ni,Cu,Fe)b(Be,Al,Si,B)c(Nb,V,Co)dで表される組成』と補正し、『Zr、Ti、Ni、Cu及びFeを少なくとも含み』を『Zr、Ti、Ni、Cu、Fe、並びに、Nb及びVの少なくともいずれかを少なくとも含み』と補正しました。
当該補正事項1の補正は、当初明細書の段落0028の記載に基づいて、補正前のバルク状の非晶質合金から、構成元素としてCrを含むものを除外し、かつ、構成元素としてNb及びVの少なくともいずれかを含むものに限定するものですから、新たな内容を追加するものではありません。』(平成25年11月1日付け意見書、1ページ40行ないし2ページ4行)

そうすると、上記特定事項は、『分子式:(Zr,Ti)a(Ni,Cu,Fe)b(Be,Al,Si,B)c(Nb,V,Co)dで表される組成を有するバルク状の非晶質合金』のうち、Zr、Ti、Ni、Cu、Feの全てを必ず含み、Nb及びVのうち少なくともいずれかを必ず含むものである、と解される。しかし、本願明細書には、『Zr、Ti、Ni、Cu、Feの全てを必ず含み、Nb及びVのうち少なくともいずれかを必ず含む』実施例が全く記載されていない。

請求人は、平成26年5月22日付け意見書において、『また、米国特許第5288344号明細書(1994年2月22日発行)の13欄の表1、14欄の表3には、4Gpa以上の硬度値に対応する約400Hv以上のビッカース硬さを有するバルク状の非晶質合金が多数示されています。』(2ページ26行ないし3ページ2行)と主張している。しかし、上記米国特許第5288344号明細書の13欄の表1、14欄の表3においても、『Zr、Ti、Ni、Cu、Feの全てを必ず含み、Nb及びVのうち少なくともいずれかを必ず含む』ものは全く記載されていない。

請求人が平成26年5月22日付け意見書において述べているように、『合金分野では有機化合物分野と並んで実際に製造してみなければどのようなものができるのかを想到することが容易ではなく、したがって、合金分野では通常よりもより詳しい開示が求められる』(3ページ3ないし5行)ものであるから、当該実施例の記載を欠いている本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。そして、上記実施例の記載を欠いているものを特定事項としている特許請求の範囲の請求項1と請求項1を直接間接に引用する請求項2ないし7に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるともいえない。」

4. 発明の詳細な説明の記載

本願明細書には、分子式:(Zr,Ti)a(Ni,Cu,Fe)b(Be,Al,Si,B)c(Nb,V,Co)dが包含される組成を有するバルク状の非晶質合金について、次の記載がある。

(1)
「【0015】
本発明の主題は、バルク状に凝固する非晶質合金で作られたブレード及びメスのような、改良された鋭く刃がつけられた切削工具である。すなわち、本発明は、向上させた鋭利性と耐久性とが要求される切削ブレードまたは工具を包含する。」

(2)
「【0028】
適切なバルク状に凝固する非晶質合金の一つの典型的な系列は、次の分子式、(Zr、Ti)a(Ni、Cu、Fe)b(Be、Al、Si、B)cによって記載され、at%で表して、aは約30?75の範囲であり、bは約5?60の範囲であり、且つcは約0?50の範囲にある。上記式はバルク状非晶質合金の全てのクラスを包含するものでないと理解すべきである。上記式はバルク状の非晶質合金の全てのクラスを包含するものでないと理解すべきである。例えば、このようなバルク状の非晶質合金は、別の遷移金属をかなりの濃度含むことができ、Nb、Cr、V、Coのような遷移金属を約20原子%までも含むことができる。一つの典型的なバルク状の非晶質合金系列は、分子式、(Zr、Ti)a(Ni、Cu)b(Be)cによって記載され、at%で表して、aは約40?75の範囲であり、bは約5?50の範囲であり、且つcは約5?50の範囲にある。一つの典型的な非晶質合金の組成物は、Zr_(41)Ti_(14)Ni_(10)Cu_(12.5)Be_(22.5)である。
【0029】
具体的なバルク状に凝固する非晶質合金を上述するとはいえ、いずれの適切なバルク状の非晶質合金も、永久変形または破損せずに1.5%まで以上の歪を発現することができ、及び/または約10ksi√インチ以上さらに具体的には約20ksi√インチ以上の高い破壊靭性を有し、及び/または約4GPa以上さらに具体的には約5.5GPa以上の高い硬度値を有するものを使用することができる。慣用の材料との比較では、現状のチタン合金を超える約2GPa及びそれ以上の降伏強度値を有する。その上、本発明のバルク状非晶質合金は4.5?6.5g/ccの範囲の密度を有し、それらは重量比にたいして高強度を与える。さらに望ましい機械的性質に対しては、バルク状に凝固する非晶質合金は、非常に優れた耐食性を示す。」

5. 判断
上記4.の摘記事項(1)及び(2)から、本願明細書には、バルク状に凝固する非晶質合金で鋭い刃が付けられた切削工具を得ることを目的とするものであって、そのような非晶質合金の典型的なものは、「分子式、(Zr、Ti)a(Ni、Cu、Fe)b(Be、Al、Si、B)cによって記載され、at%で表して、aは約30?75の範囲であり、bは約5?60の範囲であり、且つcは約0?50の範囲にある」もので、さらに、「別の遷移金属をかなりの濃度含むことができ、Nb、Cr、V、Coのような遷移金属を約20原子%までも含むことができる」ものであって、少なくとも「1.5%以上の歪み」及び「約4GPa以上の硬度値」を呈するものが適していること、そして「一つの典型的な非晶質合金の組成物」として、「Zr_(41)Ti_(14)Ni_(10)Cu_(12.5)Be_(22.5)」が唯一具体的に記載されているといえる。
一方、本願発明の特定事項である非晶質合金の組成は、分子式:(Zr,Ti)a(Ni,Cu,Fe)b(Be,Al,Si,B)c(Nb,V,Co)dで表される組成を有するバルク状の非晶質合金から作られており、原子%で、aは30?75、bは5?60、cは0?50、dは0?20であり、前記バルク状の非晶質合金は、Zr、Ti、Ni、Cu、Fe、並びに、Nb及びVの少なくともいずれかを少なくとも含む」ものであるから、上記明細書に記載された分子式で特定された範囲内のものであり、かつ、Zr、Ti、Ni、Cu及びFeを必ず含み、NbあるいはVの少なくとも何れかを含むものである。 しかし、少なくともFeを含む非晶質合金の具体的な組成は、上記摘記事項(1)及び(2)を含む本願明細書には一切記載されていない。また、請求人が、平成26年5月22日付け意見書において「4Gpa以上の硬度値に対応する約400Hv以上のビッカース硬さを有するバルク状の非晶質合金」が多数示されている文献として記載した、米国特許第5288344号明細書の13欄の表1及び14欄の表3は、以下のとおりであるが、『Zr、Ti、Ni、Cu、Feの全てを必ず含み、Nb及びVのうち少なくともいずれかを必ず含む』ものは全く記載されていないから、当該組成の持つバルク状非晶質合金が本願優先日前に技術常識であったということはできない。
当該表1及び3には、Feを含有する組成として、表1に「Zr_(41.2)Ti_(13.8)Cu7._(5)Be_(22.5)Fe_(15)」(表1の下から11行)が、表3に「Tr_(41.2)Ti_(13.8)Fe_(22.5)Be_(22.5)」(表3の下から15行)が記載されているのみである。しかし、両者に対するビッカース硬さは記載されておらず、一方、ビッカース硬さが記載されている組成は、その値がいずれも請求人が主張する本願発明の特定事項である「4GPa以上」に対応する400Hv以上であるところ、Feを含む上記2組成の非晶質合金のビッカース硬さが記載されていないから、米国特許第5288344号明細書の表1及び3の記載から、「Fe」を少なくとも含むバルク状非晶質合金において、「4GPa以上の硬度値」を有するものが記載あるいは示唆されているとはいえない。
そうすると、請求人の上記主張のとおり、「合金分野では有機化合物分野と並んで実際に製造してみなければどのようなものができるのかを想到することが容易ではなく、したがって、合金分野では通常よりもより詳しい開示が求められる」から、本願明細書の記載事項から、当業者は本願発明に特定される組成で、かつ本願発明に特定される「硬度値」及び「弾性限」を有する具体的なバルク状非晶質合金を、本願明細書の発明の詳細な説明から把握することは著しく困難であるといえるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。また、本願発明で特定される組成の非晶質合金が、発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできず、仮に組成が記載されていたとしても、「硬度値」が「4GPa以上」のものまで記載されているということはいえないから、本願発明は本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということはいえない。

【米国特許第5288344号明細書の表1】



【米国特許第5288344号明細書の表3】


6. まとめ
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶すべきものである。また、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-23 
結審通知日 2015-06-26 
審決日 2015-07-08 
出願番号 特願2009-49448(P2009-49448)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B26B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 卓行上田 真誠  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 刈間 宏信
三澤 哲也
発明の名称 鋭利に刃をつけた切削工具  
代理人 下山 治  
代理人 西川 恵雄  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  
代理人 高柳 司郎  
代理人 永川 行光  
代理人 大塚 康弘  
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