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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1309059
審判番号 不服2014-12737  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-02 
確定日 2015-12-24 
事件の表示 特願2012-502296「データフレームを送信及び受信するシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月30日国際公開,WO2010/111628,平成24年 9月20日国内公表,特表2012-522434〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,2010年3月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年3月27日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成26年2月25日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


2 補正の適否
平成26年7月2日付けの手続補正は,請求項6,12,18,24,30,36,42,48を独立形式に書き換えて新請求項1-8とし,請求項1?5,7?11,13?17,19?23,25?29,31?35,37?41,43?47を削除するものである。したがって,明らかに,特許法第17条の2第3項,4項に違反するものではなく,特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。したがって,上記補正は適法なものである。


3 本願発明
本願発明は,平成26年7月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
データフレームを送信する方法であって,
プリアンブルを送信することと,
物理層コンバージェンスプロトコル(PLCP)ヘッダを送信することと,
複数のMACプロトコルデータユニット(MPDU)を送信することと,ここで,各MPDUはそのMPDUの後の畳み込みデコーダ状態をリセットするための受信機用のインジケータを含む,
失敗したMPDUに関する誤り通知を受信することと,
前記失敗したMPDUを再送信することと,
を備える方法。」

2 引用発明及び周知事項
[引用発明]
原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-135486号公報には,「無線送信方法,無線送信機および無線LANシステム」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0003】
このMIMO方式を用いた場合,図31に示すように,DATA部の伝送速度は向上する一方,1つの無線パケットあたり一定の情報量を伝送する場合には,プリアンブル部が送信アンテナ数に応じて長くなり,かつDATA部は伝送速度が向上する分短くなるため,時間的に見てデータ送信に使う割合が少なくなる。すなわち,データの伝送効率が悪くなるという問題がある。このように,MIMO方式を用いた場合に,プリアンブル部が送信アンテナ数に応じて長くなることは,特開2002-374224,や特開2003-060604にも記載されている。
【0004】
そこで,上記MIMO方式を適用した無線LANにおいては,図32に示すように,1つの無線パケットで複数のPSDUを連結し送信することによりデータの伝送効率を上げる方法が検討されている。また,上記の例と同じように,複数のMSDU(MAC Service Data Unit)を連結し,1つのMPDU(MAC Protocol Data Unit)として送信を行なう方法が,特開2003-324445でも提案されている。
【0005】
ここで,図33に示すように,「PSDU」および「MSDU」については,IEEE802.11aの仕様書であるIEEE Std 802.11a-1999記載の通り,MACに入力されるデータの単位をMSDUと呼び,これを暗号化した後MAC Header,CRC(Cyclic Redundancy Check,またはFCS(Frame Check Sequence))を付加したものをMPDUと呼び,これをPHYに出力したものをPSDUと呼ぶ。このPSDUに対しスクランブル,誤り訂正符号の処理を行ない,復調時に必要となるプリアンブル,signal field(変調方式などの情報を含む)を付加し,変調を行ない,無線媒体に送信可能な形にした後(以下,これを「無線パケット」と呼称する。),信号の送信を行なうものとする。なお,このような無線パケットを構成するそれぞれのデータのまとまりを,データユニットと呼称する。
【0006】
また,無線LANの規格の一つであるIEEE802.11eにおける「MAC」の構成は,以下の通りである。図34に示すように,MAC310への入力データは,buffer311に蓄積され,buffer311からはscheduler312の指示により適切なタイミングで適切なAC(Access Category)に属するデータが出力される。この出力データは,暗号化部313により暗号化処理をされた後,MACHeader付加部314によりMAC Headerが付加され,FCS付加部315によってFrame Check Sequenceが付加された後,PHYにデータが出力される。controller316は,制御信号の処理や各ブロックの制御を行なう。また,scheduler312は,タイマに従い,各ブロックの制御を行なう。
【0007】
また,上記buffer311は図35に示すように構成されている。buffer311に入力されたDATAは,Access Category毎にマッピング処理を行なうMCA部311aにより,AC毎に用意されたキュー311b?311eに蓄積される。図34に示すscheduler312から送信可能を示す信号が入力された場合は,これら各キューに蓄積されたデータが各CSMA/CA311f?311iにおける動作により競争を行った後,Internal Collision Resolution311kにより複数キューの送信タイミングが重なった場合には,優先度の高いほうを送信する。なお上記動作の詳細は,IEEE P802.11e/D6.0 November 2003に記載されている通りである。また上記キュー311b?311eに蓄積されたデータは,ACKにより受信成功が確認された後,消去されるものとする。なお,ここで述べるACとは,Best Effort,Video Probe,Video,VoiceなどQoSのクラスを示すものである。
【0008】
次に,上記buffer311の動作について図36に示すフローチャートを用いて説明する。先ず,buffer311にデータが入力されると(ステップF1),この入力されたデータをAC毎に用意されたキューに振り分ける(ステップF2)。次に,ACKにより,受信成功が確認された送信データをキューから削除し(ステップF3),スケジューラから送信可能信号を受信したかどうかを判断する(ステップF4)。スケジューラから送信可能信号を受信していない場合は,ステップF1へ移行し,スケジューラから送信可能信号を受信した場合は,キュー毎にCSMA/CAの動作を行ない,送信データを選択する(ステップF5)。この後,ステップF5において選択されたデータを送信し(ステップF6),ステップF1へ移行する。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら,従来の技術のように複数のMSDUを連結した場合には,パケットを無線媒体に送信するまでに多くのMSDUをバッファに蓄えておく必要があるため,図37に示すように,伝送遅延が大きくなる欠点がある。すなわち,図37に示すように,MSDUが1個である場合は,MSDUをバッファに蓄積する必要がないため,処理遅延が少ないのに対し,MSDUを複数連結させる場合は,多くのMSDUをバッファに蓄積させる必要があるため,処理遅延が大きくなってしまう。特に,ストリーミングなど伝送遅延が,伝送品質に大きな影響を与えるものに関しては,伝送遅延を極力小さくする必要がある。伝送遅延を小さくするには,QoS(Quality of Service)を考慮したMSDUの連結数の決定が不可欠となる。
【0010】
本発明は,このような事情に鑑みてなされたものであり,QoSを考慮してMSDUの連結数を決定することにより,伝送の効率化を図ることができる無線送信方法,無線送信機および無線LANシステムを提供することを目的とする。」(4?6ページ)


(2)「【0013】
(2)また,本発明に係る無線送信方法は,入力された各データユニットの長さを示すデータユニット長情報に基づいて,前記データユニット毎に誤り訂正符号化を行い,前記誤り訂正符号化後の各データユニットを連結させることを特徴としている。
【0014】
この構成により,複数のデータユニットを連結させて一つの無線パケットを効率的に生成することができる。また,データユニット毎に誤り訂正符号化を行なうので,データパケット毎に誤り訂正符号を終端させることができ,データパケットの間での誤りの伝搬を生じにくくさせることが可能となる。」(6ページ)

(3)「【0066】
次に,図1におけるPHY部20について説明する。図8は,PHY部20の概略構成を示す図である。PHY部20は,図8に示すように,MAC部10から出力されたデータを,FEC encoder21においてPSDU単位で誤り訂正符号化する。つまり,FEC encoder21において,図9に示すように,各PSDUの最後尾に「tail bit」をつけ,PSDU毎に誤り訂正符号を終端させる。そして,複数のC-PSDUを作成し,modulator22に出力する。modulator22からの出力をIFFT23に出力し,IFFT23からの出力をfilter24に出力する。filter24から出力された信号は,無線送信部(RF)30において無線信号に変換され送信アンテナ40から送信される。
【0067】
このとき,MAC部10からPHY20のcontoroller25へは,図9に示すように,連結パラメータとして,length(連結後のPSDUの総ビット数),PSDU#1 length(PSDU#1のビット数),PSDU#2 length(PSDU#2のビット数),PSDU#3 length(PSDU#3のビット数)を出力するものとする。また,FEC encoder21では,PSDU#1 length, PSDU#2 length, PSDU#3 lengthを基に,controller25からtailビット挿入位置を指示するものとする。また,controller25はlengthを基に各ブロックを制御し複数のPSDUを連結して1つの無線パケットを作成するものとする。
【0068】
続いて,図10において,FEC encoder21の内部動作について説明する。FEC encoder21は,上述の連結パラメータ(データユニット長情報)に基づいて,tailビットの挿入,つまり誤り訂正符号のための終端処理を行う終端処理部21aと,終端処理部21aから出力された信号を誤り訂正し出力する誤り訂正符号化部21bと,からなるものとする。
【0069】
なお,上記は3つのPSDUを連結する場合を例に挙げているが,これがs個(sは自然数)のPSDUを連結する場合であっても,手順は変わらない。
【0070】
このようにPHY部20を構成することにより,図11に示すように複数のMSDUを連結し,1つの無線パケットを生成することが可能となる。また,PSDU毎に誤り訂正符号を終端させておくことは,PSDU間で誤りが伝搬しにくくなる効果がある。」(13ページ)


(4)「【0111】
図25は,上記の手順を用いて,MSDU連結数yを決定した一例を示す図である。図25では,
n=4,
Delay Bound=1[ms],Nominal MSDU Size=2000[オクテット],
Mean Data Rate=48M[bit/sec],と仮定している。また,PSDU#1,PSDU#7,PSDU#8がそれぞれ一回ずつ誤ると仮定している。これらのパラメータを,図24に示す手順に適用すると,
x=Delay Bound/n=0.25[ms],
y=Mean Data Rate*x/(Nominal MSDU Size*8)=3[個](再送なしの場合),
y=3+p(再送ありの場合),
となり,
図22に示すように,0.25ms毎に,再送データがない場合にはMSDUを3個連結した無線パケットが,再送データがある場合には,再送MSDUと新規のMSDU3個を連結して送信することになる。」(20?21ページ)



上記各記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,
a 上記(1)?(4)の記載によれば,引用例には,明らかに,データを送信する方法に関する事項が記載されているといえる。
そして,上記(3)の記載及び図11によれば,PHY部20にて図11に示される「PLCP Preamble」,「OFDM symbol #1?6」により構成される無線パケットが作成され,無線送信部(RF)30において無線信号に変換され送信アンテナ40から送信されることが見て取れる。そして,図11によれば,「OFDM symbol #1」は「PHY Header」に対応し,「OFDM symbol #2?6」は複数のMPDU(MAC Protocol Data Unit)に対応することは明らかである。したがって,OFDM symbol #1を送信することは「PHY Headerを送信する」といえ,OFDM symbol #2?6を送信することは,「複数のMPDU(MAC Protocol Data Unit)を送信する」といえる。

b 上記(3)の【0066】の記載及び図11によれば,各PSDUの最後尾に「tail bit」をつけ,PSDU毎に誤り訂正符号を終端させることにより,PSDU単位で誤り訂正符号化するものである。そして,上記(1)の【0005】の記載によれば,MACに入力されるデータの単位をMSDUと呼び,これを暗号化した後MAC Header,CRC(Cyclic Redundancy Check,またはFCS(Frame Check Sequence))を付加したものをMPDUと呼び,これをPHYに出力したものをPSDUと呼ぶのであるから,各MPDUは各PSDUに対応することは明らかである。したがって,各MPDUに対応する各PSDUには当該PSDU単位で誤り訂正符号化するためのtail bitが付加されているといえる。

c 上記(4)の記載及び図25によれば,Packet#1にて送信されたPSDU#1?3のうち誤ったPSDU#1のみを再送信していることが見て取れる。そして,上記(1)の【0007】,【0008】によれば,送信側は受信側からACKを受信していることは明らかであり,送信側は受信側でPacket#1が誤りであったことを認識しているといえる。したがって,引用例には,誤ったPSDUを認識することと前記誤ったPSDUを再送信することが記載されていると認められる。

以上を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「データを送信する方法であって,
PLCP Preambleを送信することと,
PHY Headerを送信することと,
複数のMPDU(MAC Protocol Data Unit)を送信することと,ここで,各MPDUに対応する各PSDUには当該PSDU単位で誤り訂正符号化するためのtail bitが付加され,
誤ったPSDUを認識することと,
前記誤ったPSDUを再送信することと,
を備える方法。」

[周知事項]
(周知例1)
同じく原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2008/069245号(以下,「周知例1」という。)には,「無線通信システム,無線端末局,無線基地局および無線通信方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

(5)「[0030] MAC制御部30は,データの送信タイミングを決定するスケジューラー部31と,受信したフレームの内容を解析するフレーム解析部32と,受信フレームの再送が必要な場合にフレームの再送を指示する再送制御部33とを含む。変復調部40は,送信データの誤り訂正および変調を行う送信部41と,受信データを解析し,復調および誤り訂正を行う受信部42と,受信部42からの受信電力,S/N,C/Nなどの情報から受信したフレームの品質を測定する品質測定部43とを含む。
(中略)
[0038] 図3は,無線基地局0と各無線端末局1?3との間でやり取りされるPHYフレームフォーマットの一例を示す図である。PHYフレームは,時間同期/周波数同期/AGC,キャリア検出などを行うPLCP(Physical Layer Convergence Protocol)プリアンブル部と,PSDU(PLCP Protocol Data Unit)を復調するための情報が含まれるPLCPヘッダ(PLCP Header)部と,フレームボディ(Frame Body)部と,必要に応じて付加されるTailビットとPadビットから構成されるPSDU部と,により構成される。
[0039] PLCPヘッダ部には,PSDU部を復調するためのRate情報,PSDU長を示すLength情報,プリアンブルタイプ情報,などを含んだPHYヘッダ(PHY Header),指向性ビーム番号情報(Beam Num),および,必要に応じて付加されるMACヘッダ(MAC Header),FCS(Frame Chacke Sequence),Tailビット(Tail Bits)が含まれている。なお,データの受信側では,PHYヘッダに含まれるRate情報,Length情報,スクランブラ初期値(Scrambler Init)およびプリアンブルタイプ(Preamble Type)に基づいて,その後のPSDU部の復調を行う。なお,“Beam Num”,“A-MPDU Aggregation”,“A-MSDU Aggregation”,“Relay”は,PLCPヘッダではなく,MACヘッダまたは情報要素(Information Element)に含んでも構わない。また,PLCPヘッダの情報要素については,このフォーマットに限るものではなく,一部のパラメータを高効率化のために削除しても構わないし,必要な情報が含まれるものであればこのフォーマットでなくてもよい。上記指向性ビーム番号情報は,MACヘッダに含まれる“MAC ID”と共に情報記憶部(基地局であれば図2に示した情報記憶部20)に記憶される。
[0040] PSDU部は,MACフレームのフレームボディと,Tailビットと,Padビットとを含む。さらに,PLCPヘッダ部がMACヘッダを含んでいない場合には,MACヘッダを含む。」(11ページ,12?13ページ)

[図3]


(6)「[0166] とりわけ,本発明では,各フレームに対して必要なヘッダ部とFCS部を付加することが出来,その結果,部分的にA-MPDU Subframeがフェージング,干渉,衝突などの要因によって欠落したとしても,欠落したA-MPDU Subframe以外のA-MPDU Subframeを切り分けて受信することが可能になるために,数Kbyte?数十Kbyteの長いフレームを作成した場合にも,フレーム全体を再送する必要はなく,必要に応じて部分的に選択再送することにより,再送効率を向上することが可能である。また,送達確認フレームであるACKフレームを必要としないケースにおいても,フレーム全体が欠落するのではなく,部分的にデータが欠落するだけになるので,多少のパケットエラーは強要できるが,遅延を許容できないようなストリーミング,音声などに対して非常に効率的なデータ配送が可能となる。
(中略)
[0178] また,図41に示したように,PSDUに対して個別にアグリゲーションヘッダ(Aggregation Header)を追加することも可能である。この場合,アグリゲーションヘッダは,サブフレームの個数を示すサブフレーム数(Subframe Count)と,それぞれのサブフレーム長を示す複数個のレングスフィールド(Length Set)と,必要に応じてデータ長を予め決めたbyte長でBoundaryするためのPaddingと,から構成される。なお,このサブフレーム内のレングス(Length Set)は,A-MPDUヘッダ内のレングスと重複するため,排他的に利用するようにしてもよい。すなわち,サブフレーム内のレングスと,A-MPDUヘッダ内のレングスのどちらかを削除することが可能である。
[0179] なお,実施の形態5で示した図31および図34では,A-MSDUサブフレームがLen,Frg ControlおよびMSDUから構成されるフレームについて示したが,フレーム先頭位置を検出するためのデリミタ,サブフレーム単位のFCSおよびPaddingが挿入された構成としてもよい。すなわち,図42または図43に示したような構成としてもよい。この場合,回路規模を削減するためにフレームボディのFCSを省略してもよい。」(43ページ,46ページ)

(周知例2)
本件優先日前に公知となったStandard ECMA-368 3rd edition,2008年12月,URL,http://www.ecma-international.org/publications/files/ECMA-ST/ECMA-368.pdfbvm=bv.4592112(以下,「周知例2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
([当審注]:周知例2は,拒絶理由通知にて一部の従属請求項の進歩性を否定するために引用されたが,手続補正に伴い該当する請求項が削除されたため拒絶査定では用いられていない。ここでは,周知例として提示するものである。)

(7)

(9ページ)
([当審仮訳]:
図2は,PHYフレームの構造を定義する。
・2種類のプリアンブル(:標準及びバースト)がある。
・MAC及びPHYヘッダを含むPLCPヘッダは,ヘッダチェックシーケンス(HCS)により保護されている。
・フレームペイロードの後に,そのフレームチェックシーケンス(FCS)が続く。
(図2は省略。) )

(8)

(中略)

(16ページ,53?55ページ)
([当審仮訳]:
10 PLCPサブレイヤ
この節は,PPDUにPSDUを変換するための方法を提供する。送信中,PPDUを作成するために,PSDUにはPLCPプリアンブル及びPLCPヘッダが前に付加される。受信機では,PLCPプリアンブル及びPLCPヘッダは,PSDUの復調,復号化,および配信の助けとなる。
(中略)
10.4.1 パッドビット
PSDUが10.8で定義されたビットインターリーバの境界に位置合わせされることを確実にするために,スクランブリング及び符号化の前に,6テールビットの後にパッドビットが付加される。 (中略) 付加されたパッドビットはゼロに設定され,残りPSDUとともにスクランブルされる。
(中略)
10.6 テールビット
テールビットフィールドは,畳み込み符号化器を「ゼロ状態」に戻すために必要とされる。この手順は,メッセージストリームを復号する際に将来のビットに依存する畳み込み復号器の誤り率を改善する。PHYヘッダ及びHCS後に続くテールビットフィールドは,6つの非スクランブル・ゼロで構成され,リードソロモンパリティビットフィールドの後に続くテールビットフィールドは4つの非スクランブル・ゼロからなるパンクチャされたテールビット列で構成される。
スクランブルされたフレームチェックシーケンスの後に続くテールビットフィールドは,6つのスクランブルされたゼロ・ビットを6つの非スクランブル・ゼロ・ビットで置換することにより生成される。 )

(9)

(175?176ページ)
([当審仮訳]:
16.7 集約されたデータフレーム
集約されたデータフレームでは,ペイロードは集約ヘッダと複数のMSDU,各4オクテット境界に位置合わせが含まれる。集約されたデータフレームのペイロードは,図59に定義されている。
集約されたデータフレームのフレームペイロードのサイズは,任意のフレームペイロードと同じ最大サイズの対象となる。
集約ヘッダフィールドは,図60で定義されている。
MSDUカウントフィールドは,集約されたフレームに含まれているMSDUの数を含む。
集約ヘッダフィールドの長さフィールドは,対応するMSDUの長さをオクテッドで示す。当該長さは,パッドのオクテットを含まない。 )

上記(5)?(9)の記載によれば,「プリアンブル,物理層コンバージェンスプロトコル(PLCP)ヘッダ,複数のMACプロトコルデータユニット(MPDU)を備えるパケットを送信すること。」は,周知であると認められる(以下,「周知事項1」という。)。

(周知例3)
本件優先日前に頒布された刊行物である特開2006-325007号公報(以下,「周知例3」という。)には,「通信装置,当該装置における受信方法,コーデック,デコーダ,通信モジュール,通信部及びデコード方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

(10)「【0006】
このヘッダ部300は,無線フレームにおけるフレームの長さ,データ転送レート,その他のPHY層としての無線フレーム情報を保持するPHYヘッダ部400と,MACプロトコルに関わる端末識別子などを保持するMACヘッダ部401を含む。更に,PHYヘッダ部400とMACヘッダ部401との間には,送信機における畳み込み符号器及び受信機におけるビタビ復号器を初期状態に戻すためにTAILビット402が配置される。またPHYヘッダ部400或はMACヘッダ部401に発生した誤りを検出或は訂正するためのチェックサムとして,HCS403が末尾に付加される。ここで使用されるチェックサムは,生成多項式G(X)=X^(16)+X^(12)+X^(5)+1による巡回冗長検証(CRC)符号である。このようなHCSの符号特性を用いて,ヘッダ部300に発生したビット誤りを検出し,また訂正することが可能である。」(5ページ)

(周知例4)
本件優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2008/085755号(以下,「周知例4」という。)には,「METHOD AND APPARATUS FOR SUPPORTING COMMUNICATION IN PICO NETWORKS」([当審仮訳]:ピコネットワークにおける通信をサポートするための方法及び装置)([当審注]:当審仮訳は,周知例5のパテントファミリーである特表2010-516092号公報の記載に基づく。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(11)「[0082] PLCP header 1020 includes a PHY header field 1022, a tail bit field 1023, a MAC header field 1024, a header check sequence (HCS) field 1026, and a tail bit field 1028. Field 1022 carries a PHY header, which may convey information such as data rate, length of the frame payload in the PSDU, information for the data scrambler, etc. Field 1023 carries tail bits used to reset an encoder at a transmitting station and a decoder at the receiving station to known states after the PHY header. Field 1024 carries a MAC header, which may convey information such as a piconet ID, a source address, a destination address, a protocol version, acknowledgement (ACK) policy, etc. Field 1026 carries a header check sequence, which may be generated based on fields 1022 and 1024 and used by the receiving station to determine whether the PLCP header is decoded correctly or in error. Field 1028 carries tail bits used to reset the encoder and decoder to known states after the MAC header.
[0083] PSDU 1030 includes a frame payload field 1032, a frame check sequence (FCS) field 1034, a tail bit field 1036, and a pad bit field 1038. Field 1032 carries data for PPDU 1000 and may be variable in length. Field 1034 carries a frame check sequence, which may be generated based on field 1032 and used by the receiving station to determine whether the data is decoded correctly or in error. Field 1036 carries tail bits used to reset the encoder and decoder to known states. Field 1038 carries padding bits used to obtain an integer number of octets for PPDU 1000. 」(19?20ページ)
([当審仮訳]:
[0082] PLCPヘッダ1020は,PHYヘッダフィールド1022,テールビットフィールド1023,MACヘッダフィールド1024,ヘッダチェックシーケンス(HCS)フィールド1026及びテールビットフィールド1028を含む。フィールド1022は,PHYヘッダを運び,このPHYヘッダは,データレート,PSDU内のフレームペイロードの長さ,データスクランブラに関する情報等の情報を伝達することができる。フィールド1023は,テールビットを運び,PHYヘッダの後に送信局の符号器及び受信局の復号器を既知の状態にリセットするために使用される。フィールド1024は,MACヘッダを運び,このMACヘッダは,ピコネットID,ソースアドレス,あて先アドレス,プロトコルバージョン,肯定応答(ACK)ポリシー等の情報を伝達することができる。フィールド1026は,ヘッダチェックシーケンスを伝達し,このヘッダチェックシーケンスは,フィールド1022及び1024に基づいて生成され,PLCPヘッダが正確に復号されたか,或いは誤って復号されたかを判断するために受信局によって使用されることができる。フィールド1028は,MACヘッダの後に符号器及び復号器を既知の状態にリセットするために使用されるテールビットを運ぶ。
[0083] PSDU1030は,フレームペイロードフィールド1032,フレームチェックシーケンス(FCS)フィールド1034,テールビットフィールド1036及びパッドビットフィールド1038を含む。フィールド1032は,PPDU1000用のデータを運び,長さに関して可変であることができる。フィールド1034は,フレームチェックシーケンスを運び,このフレームチェックシーケンスは,フィールド1032に基づいて生成され,データが正確に復号されたか,或いは誤って復号されたかを判断するために受信局によって使用されることができる。フィールド1036は,符号器及び復号器を既知の状態にリセットするために使用されるテールビットを運ぶ。フィールド1038は,PPDU1000がオクテットの整数倍(an integer number of octets)になるように使用されるパディングビット(padding bits)を運ぶ。)


(周知例5)
本件優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2009/031808号(以下,「周知例5」という。)には,「FRAME STRUCTURE FOR FAST WIRELESS COMMUNICATION SYSTEM AND APPARATUS FOR FAST WIRELESS COMMUNICATION USING THE FRAME」([当審仮訳]:高速無線通信のためのフレーム構成方法およびこれを用いた高速無線通信装置)([当審注]:当審仮訳は,周知例5のパテントファミリーである特表2010-538568号公報の記載に基づく。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(12)「The convolutional encoder may initialize a status using six 0 (zero) bits inserted in the inputted streams.
(中略)
Referring to FIG. 3, the signal symbol configuration may include at least one Modulation and Code rate Symbol (MCS) field 301 of a subcarrier, a byte number field 305, a scrambler seed field 307 of the fast wireless communication frame, a cyclic redundancy check (CRC) parity bit field 311, and a tail bit field 313 for initialization of the convolution demodulator.
(中略)
The tail field 313 is padded with six 0s. A CRC error detector (not illustrated) may be aware of termination of decoding operation through six Os padding the tail field 313. 」(8ページ25?26行,11ページ16行?12ページ2行,12ページ25?27行)
([当審仮訳]:
畳込み符号化器は,入力ストリームに挿入された6個の0(zero)ビットによって状態を初期化することができる。
(中略)
図3を参照すれば,信号シンボルは,副搬送波の変調方式およびチャネルコード率(MCS:Modulation and Code rate Symbol)フィールド301,バイト数フィールド305,前記高速無線通信フレームのスクランブラシード値(scrambler seed)フィールド307,CRCパリティビット(cyclic redundancy check parity)フィールド311,畳込みデコーダの初期化のためのテールビット(Tail bit)フィールド313を含んで構成してもよい。
(中略)
テールビットフィールド313は,6個の0が満たされる。受信端でCRCエラー検出機(図示せず)は,テールビットフィールド313に満たされる6個の0によって復号動作の終了を知ることができる。)

(周知例6)
本件優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2009/022817号(以下,「周知例6」という。)には,「TIME DIVISION MULTIPLEXING COMMUNICATION SYSTEM WITH PARALLEL STRUCTURE AND METHOD FOR THE SAME」([当審仮訳]:並列構造を有する時間分割多重通信システム及び方法)には,図面とともに以下の事項が記載されている。

(13)「1.3 Signal symbol structure
The signal symbol structure, as shown in FIG. 14, may be devised for transmitting information needed for modulating receiving packets such as Modulation and Code rate Symbol (MCS, 3 bits), a number of bytes included in the frame (length: 16 bits), scrambler seed (7 bits), CRC parity (12 bits), tail for initialization of a convolutional decoder (6 bits), and the like.
(中略)
A CRC creation polynomial is X^(12) + X^(11) + X^(3) + X^(2) + X + 1 . '0' of six-tail bits is received in a CRC error detector from the end of CRC decoding of the signal symbol, thereby terminating the decoding operation. 」(31ページ)
([当審仮訳]:
1.3 信号シンボル構造
図14に示されるように,信号シンボル構造は,変調及び符号化レートシンボル(MCS,3ビット),フレームに含まれるバイト数(長さ:16ビット),スクランブラ・シード(7ビット),CRCパリティ(12ビット),畳込み復号器を初期化するためのテール(6ビット)などのように,受信パケットを変調するために必要な情報を送信するために工夫されてもよい。
(中略)
CRC生成多項式はX^(12) + X^(11) + X^(3) + X^(2) + X + 1である。「0」の6つのテールビットは,信号シンボルのCRC復号の終わりでCRC誤り検出器で受信され,それにより復号動作を終了する。)

(周知例7)
原査定の拒絶の理由に引用された特表2002-523927号公報(以下,「周知例7」という。)には,「CDMA無線ネットワークのためのフレキシブルなフレーム構造」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。

(14)「【0027】
フレーム構造50は,サブフレーム動作をサポートする要素の階層構造を提供する。この構造は,物理層フレーム52,インターリーバーブロック54,FECブロック56,および自動再送要求(ARQ)ブロック58を備える。一般に,インターリーバーブロック54は,複数の物理層フレーム52を含むことができ,または,物理層フレームは,複数のインターリーバーブロックを含むことができる。従来のシステムでは,いずれの物理層フレームも,一群の情報ビットおよびオーバーヘッド・ビットを有しており,該オーバーヘッド・ビットには,誤り検出のための巡回冗長符号(CRC)ビット,テール(tail)・ビット(たとえばゼロビット)等などが含まれる。簡単にするため,および理解しやすいように,以下のの開示においては,物理層フレーム52およびインターリーバーブロック54が同じ長さであると仮定する。
(中略)
【0034】
畳み込みFEC符号の場合には,ARQブロック58のゼロビットにより,畳み込み符号が効率的に区切られる。すなわち,ゼロビットの数は,畳み込み符号のメモリ要素の数に等しい。FECブロック56の長さが,複数のARQブロックを含むよう構成される場合でさえ,このことは当てはまる。この点をより良く例示するため,表1の第3の行を検討してみる。符号器は,第1のARQブロック58を受け取り,続けて第2のARQブロックを受け取り,受け取った順番にそれぞれを符号化する。それぞれのARQブロックは,360個の情報ビットに続き,16個のCRCビットおよび8個のゼロビットから成る。第1のARQブロックの8個のゼロビットは,次の第2のARQブロックに対する畳み込み符号化を効率的に中断させる。なぜなら,第2のARQブロックについてのFEC符号の出力ビットが,第1のARQブロックから独立しているからである。こうして,両方のARQブロックを同時に復号化することに関し,パフォーマンスの損失なく,それぞれのARQブロックを独立的に復号化することができる(オーバーヘッドを除く)。」(11?12ページ,14ページ)

上記(10)?(14)の記載によれば,「テールビットは,畳込み符号器及び畳込み復号器を既知の初期状態にリセット(初期化)するために使用される。」ことは,技術常識ともいえる周知事項であると認められる(以下,「周知事項2」という。)。

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,
(1)引用例には「データフレーム」なる用語は用いられていないが,本件明細書の【0021】によれば図2に記載されたものがデータフレームであるところ,引用例の図11に記載されたものは,本願の図2と同様にプリアンブル,ヘッダ及びペイロードからなる単位であるから,以下の相違点1は別として,本願発明の「データフレーム」に相当するといえる。したがって,引用発明は「データフレームを送信する方法」といえる。

(2)引用発明の「PLCP Preambleを送信すること」は,明らかに「プリアンブルを送信すること」に含まれる。また,本願発明の「物理層コンバージェンスプロトコル(PLCP)ヘッダを送信すること」と引用発明の「PHY Headerを送信すること」とは,以下の相違点1は別として,「物理層ヘッダを送信すること」の点で共通している。

(3)引用発明の「複数のMPDU(MAC Protocol Data Unit)を送信すること」は,本願発明の「複数のMACプロトコルデータユニット(MPDU)を送信すること」に相当する。
また,本件明細書の【0004】によれば,本願発明の「各MPDUの後の畳み込みデコーダをリセットするためのインジケータ」は,例えば,「テールビット」を含むものである。一方,引用例の【0005】の記載(上記2[引用発明](1)参照。)及び図11並びに技術常識に照らせば,引用発明の物理層としてのPSDUはMAC層としてのMPDUに対応することは明らかであり,MAC層における情報単位であるMPDUが物理層にてPSDUにtail bitが付加されて伝送されるのであるから,引用発明の「各MPDUに対応する各PSDUには当該PSDU単位で誤り訂正符号化するためのtail bitが付加され」は,「各MPDUは,対応する各PSDU単位で誤り訂正符号化するためのtail bitを含む」といえる。
してみれば,本願発明の「各MPDUはそのMPDUの後の畳み込みデコーダ状態をリセットするための受信機用のインジケータを含む」と,引用発明の「各MPDUに対応する各PSDUには当該PSDU単位で誤り訂正符号化するためのtail bitが付加され」とは,以下の相違点2は別として,「各MPDUはテールビットを含む」点で共通している。

(4)上記(3)で述べたように,引用発明の物理層としてのPSDUはMAC層としてのMPDUに対応することは明らかであるから,引用発明の「誤ったPSDUを認識することと,前記誤ったPSDUを再送信すること」は,MAC層としてみれば「誤ったMPDUを認識することと,前記誤ったMPDUを再送信すること」といえる。
そして,本件明細書の【0006】によれば,本願発明の「失敗したMPDU」は,「完全には送信しないMPDU,全く送信しないMPDU,送信の間にドロップされたMPDU,送信の間に失われた(lost)MPDU,受信の間にドロップされたMPDU,受信の間に失われたMPDU,悪くなった(corrupted)MPDU,他の理由で失敗したMPDU,またはこれらの組み合わせを含み得る。」から,引用発明の「誤ったPSDU」は,本願発明の「失敗したMPDU」に相当する。
そして,本願発明の「失敗したMPDUに関する誤り通知を受信すること」と引用発明の「誤ったPSDUを認識すること」とは,以下の相違点3は別として「失敗したMPDUを認識すること」の点で共通している。

したがって,本願発明と引用発明とを対比すると,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「データフレームを送信する方法であって,
プリアンブルを送信することと,
物理層ヘッダを送信することと,
複数のMACプロトコルデータユニット(MPDU)を送信することと,ここで,各MPDUはテールビットを含む,
失敗したMPDUを認識することと,
前記失敗したMPDUを再送信することと,
を備える方法。」

(相違点1)
一致点の「物理層ヘッダを送信すること」に関し,本願発明は物理層ヘッダとして「物理層コンバージェンスプロトコル(PLCP)ヘッダ」を送信するものであるに対し,引用発明は,プリアンブルは「PLCP Preamble」であるものの,「PHY Header」は「物理層コンバージェンスプロトコル(PLCP)ヘッダ」であるのか否か不明である点。

(相違点2)
一致点の「各MPDUはテールビットを含む」に関し,本願発明は「各MPDUはそのMPDUの後の畳み込みデコーダ状態をリセットするための受信機用のインジケータを含む」であるのに対し,引用発明は「各MPDUはMPDUに対応するPSDU単位で誤り訂正符号化するためのtail bitを含む」であり,当該tail bitは畳み込みデコーダ状態をリセットするためのものであることは明らかでない点。

(相違点3)
一致点の「失敗したMPDUを認識すること」に関し,本願発明は「失敗したMPDUに関する誤り通知を受信すること」であるのに対し,引用発明は,ACKを受信することは読み取れるものの,誤ったMPDUを認識するための具体的動作は明らかにされていない点。

以下,上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
周知技術1のとおり,プリアンブル,PLCPヘッダ及び複数のMPDUに対応するペイロードからなるデータフレームは周知であるから,引用発明のデータフレームを当該周知のデータフレームとすることは適宜なし得ることである。

(相違点2について)
引用発明は,各PSDUの最後尾に「tail bit」をつけてPSDU毎に誤り訂正符号を終端させることにより,PSDU単位で誤り訂正符号化するものであり,それにより,データパケットの間での誤りの伝搬を生じにくくさせることが可能とするものであることは,引用例の記載(上記2[引用発明](2)の【0014】,同(3)の【0070】参照。)から明らかである。そして,tail bitによりPSDU単位で誤り訂正符号化するからこそ,受信側ではtail bitによりPSDU単位で誤り訂正復号化することができ,その結果,PSDU単位に再送が可能となることは,当業者に明らかである。
ここで,誤り訂正符号化として畳込み符号化は周知慣用のものであり,周知事項2のとおり,畳込み符号化においては「テールビットは,畳込み符号器及び畳込み復号器を既知の初期状態にリセット(初期化)するために使用される。」ことは,技術常識ともいえる周知事項である。
してみれば,引用例には誤り訂正符号化として具体的にどのようなものを用いるのか明らかにされていないが,引用発明において誤り訂正符号化として周知の畳込み符号化を採用することは適宜なし得ることであり,その場合,テールビットは「MPDUの後の畳み込みデコーダ状態をリセットするための受信機用のインジケータ」として機能することは明らかである。
したがって,相違点2は当業者が容易に想到し得ることにすぎない。

(相違点3について)
本件明細書には【0043】,【0052】及び図5によれば,肯定応答(ACK)を受信することは記載されているが,否定応答(NACK)を受信することは記載されておらず,ACKが受信されないことをもって失敗したことを認識することは普通に行われていることに鑑みれば,本願発明の「失敗したMPDUに関する誤り通知を受信すること」は,ACKが受信されないことを含むと解するのが自然である。したがって,引用発明はACKを受信することを含む以上,相違点3には実質的な相違はない。
また,ACKのみを受信すること,NACKのみを受信すること,ACK/NACKを受信することは,いずれも普通に行われていることであるから,本願発明の「失敗したMPDUに関する誤り通知を受信すること」が失敗したMPDUに関するNACKを受信することであるとしても,引用発明をそのようにすることは格別困難なことではなく,容易になし得ることに過ぎない。


なお,請求人は,審判請求書にて「しかしながら,文献1のtail bitは,本願発明のように,すなわち,そのMPDUの後の畳み込みデコーダ状態をリセットするための受信機用のインジケータを含むように,使用されていませんし,使用されると示唆されてもいません。文献1の段落0066の記載は,各PSDUの最後尾にtail bitをつけ,PSDU毎に誤り訂正符号を終端させることを要求しています。文献1の段落0066のこの記載は,符号化中の動作,すなわち,PSDUの符号化中に,PSDUにtail bitをつけ,誤り訂正符号処理を終端させること,を説明しているものであると思料いたします。一方,本願の請求項は,そのMPDUの後の畳み込みデコーダ状態をリセットするための受信機用のインジケータを記載しています。これは,送信後の動作,すなわち,リモート受信機で実行される機能です。したがって,審判請求人は,審査官殿による「引用文献1,2に記載の「tail bit」は畳み込みデコーダ状態をリセットするためのインジケータであることは明らかであり(本願明細書第4段落も参照のこと。)」とのご指摘に同意することはできません。」と主張するが,受信側の誤り訂正復号化は送信側でなされた誤り訂正符号化の単位でなされると解するのが自然であり,各PSDUの最後尾に「tail bit」をつけてPSDU毎に誤り訂正符号を終端させることにより,PSDU単位で誤り訂正符号化するものであり,それにより,データパケットの間での誤りの伝搬を生じにくくさせることが可能とするものである(上記2[引用発明](2)の【0014】,同(3)の【0070】参照。)ことに鑑みれば,受信側の動作が明記されていなくとも,tail bitはPSDU単位で誤り訂正符号化/復号化するためのものと認められる。また,tail bitが畳み込み符号化器,畳込み復号化器の双方の状態をリセットするものであることは上記周知事項2のとおりである。したがって,上記主張は採用できない。
また,請求人は,上申書にて前置報告書で提示された文献5?7(周知例4,6,7)のtail bitは,本願発明の「そのMPDUの後の畳み込みデコーダ状態をリセットするための受信機用のインジケータ」に対応するものではない旨主張しているが,これらの文献はtail bitが畳み込みデコーダ状態をリセットするためのものであることが周知であること(すなわち,周知事項2。)を示すためのものであり,そのMPDUの後の畳み込みデコーダ状態をリセットすることまで必要とされているわけではない。したがって,上記主張は採用できない。


4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。


よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-24 
結審通知日 2015-07-28 
審決日 2015-08-11 
出願番号 特願2012-502296(P2012-502296)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷岡 佳彦  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 菅原 道晴
高野 美帆子
発明の名称 データフレームを送信及び受信するシステム及び方法  
代理人 岡田 貴志  
代理人 福原 淑弘  
代理人 井関 守三  
代理人 野河 信久  
代理人 砂川 克  
代理人 堀内 美保子  
代理人 井上 正  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 直樹  
代理人 佐藤 立志  

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