• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1309062
審判番号 不服2014-14019  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-18 
確定日 2015-12-24 
事件の表示 特願2010-541532「乾癬の治療における化合物の長期的効力の予測」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 9日国際公開、WO2009/086550、平成23年 3月31日国内公表、特表2011-510267〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年12月31日(パリ条約による優先権主張 平成20年1月3日 米国(US)、平成20年5月20日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成25年5月16日付けで拒絶理由が通知され、同年11月28日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年3月11日付けで拒絶査定されたのに対し、同年7月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年7月18日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年7月18日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?31に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲に記載されるとおりであり、請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、以下のとおりである。(下線部は、補正箇所である。)

「【請求項1】
乾癬治療用の化合物の効力を予測するための方法であって、
前記化合物の薬物動態学的プロファイルを示す薬物動態学的モデルを準備し、前記薬物動態学的モデルは1-コンパートメントモデルであり、
該化合物の薬動力学的モデルを準備し、前記薬動力学的モデルは2段階間接モデルであり、
前記薬物動態学的モデルおよび前記薬動力学的モデルからの乾癬指標に関する値を計算し、それにより該乾癬治療用の前記化合物の効力を予測することを含んでなる方法。」

(2) 本件補正の内容
本件補正は、請求項1の「薬動力学的モデル」を「2段階間接モデル」に限定する補正を含むものである。
この補正事項は、補正前の請求項1に係る発明の限定的減縮を目的としており、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。
そこで、次に、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

2 引用例及びその記載事項
(1) 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物であるBenjamin Wu et al, "The application of mechanism-based PK/PD modeling in pharmacodynamic-based dose selection of muM17, a surrogate monoclonal antibody for efalizumab", Journal of Pharmaceutical Sciences, 2006, Vol.95, No.6, pages 1258-1268(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加したものである)。

ア 「Psoriasis is an autoimmune disease mediated by T-lymphocytes and characterized by hyperproliferation of keratinocytes and accumulation of activated T-lymphocytes in the epidermis and dermis of psoriatic lesions. Leukocyte function-associated antigen-1 (LFA-1), expressed on activated T-lymphocytes, binds with intracellular adhesion molecule 1 (ICAM-1), facilitating processes related to the pathogenesis of psoriasis, including migration of T-lymphocytes from the circulation into the dermis and epidermis of psoriatic lesions, with subsequent reactivation.

Efalizumab is a recombinant humanized IgG1 kappa isotype monoclonal antibody (mAb) that selectively binds to the alpha subunit of LFA-1 (CD11a). Efalizumab was recently approved in the United States and Europe for treatment of adults 18 years and older with moderate to severe plaque psoriasis. In an earlier report, efalizumab demonstrated dose-dependent nonlinear pharmacokinetics (PK) in patients with psoriasis, which can be explained by its saturable binding to its cell surface receptor, CD11a. Efalizumab caused a rapid reduction in the expression of CD11a on circulating lymphocytes, typically to 25%-30% of pretreatment levels. The cell-surface CD11a remained at these reduced levels until efalizumab levels decreased below 3 μg/mL, then the drug was rapidly cleared from the circulation and the expression of CD11a return to baseline within 7-10 days.」(第1258頁左欄第2行?第1259頁左欄第8行)
(当審仮訳:乾癬はTリンパ球によって介在される自己免疫疾患であり、乾癬病変におけるケラチノサイトの過剰増殖、並びに表皮及び真皮中の活性化Tリンパ球の蓄積によって特徴付けられる。リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)は、活性化Tリンパ球上に発現し、その後の再活性化を伴う循環から乾癬病変の真皮と表皮へのTリンパ球の遊走を含む、乾癬の発症に関連するプロセスを促進する、細胞内接着分子1(ICAM-1)と結合する。

エファリズマブは、選択的にLFA-1のαサブユニット(CD11a)に結合する組換えヒトIgG1κアイソタイプモノクローナル抗体(mAb)である。エファリズマブは最近、中程度の18歳以上の成人の、重度尋常性乾癬の治療のために、米国と欧州で承認された。以前の報告では、エファリズマブは、細胞表面受容体、CD11aへの結合の飽和によって説明することができる乾癬患者における用量依存性の非線形の薬物動態(PK)を示した。エファリズマブは、典型的には、処置前レベルの25%-30%まで、循環リンパ球上のCD11aの発現の急速な減少を引き起こした。細胞表面のCD11aは、エファリズマブが3μg/mLを下回るまで減少しても、この減少したレベルを維持し、薬剤が循環系から急激にクリアされると、CD11aの発現は、7-10日以内にベースラインに戻った。)

イ 「To complete a more comprehensive safety assessment, a chimeric rat anti-mouse CD11a antibody, muM17, was developed and evaluated as a species-specific surrogate molecule for efalizumab. muM17 binds mouse CD11a with specificity and affinity similar to those of efalizumab to human. In addition, muM17 in mice was demonstrated to have similar pharmacological activities as that of efalizumab in human.」(第1259頁左欄第16?24行)
(当審仮訳:より包括的な安全性評価を完了するために、キメララット抗マウスのCD11a抗体、muM17が開発され、エファリズマブのための種特異的代用分子として評価された。 muM17は、エファリツマブのヒトに対する特異性及び親和性と同様の特異性及び親和性でマウスのCD11aに特異的に結合する。)

ウ 「PK/PD Modeling

The mechanism-based PK/PD model for efalizumab in human was used to describe the PK/PD profile of muM17 in mice. In brief, the PK/PD model of muM17 assumes that the clearance of muM17 and efalizumab by CD11a receptors from the systemic circulation is a saturable process via the Michaelis-Menten equation (see Fig. 1). This model also takes into account that the clearance of mAb simultaneously results in dynamic changes of CD11a receptors on T-lymphocytes.
The differential equations for the PK/PD model are below.

(1)

(2)

(3)

(4)

where X_(1), X_(2), and X_(sc) are the amounts of muM17 in plasma, and the peripheral and dosing compartments, respectively. k_(01) is the first-order absorption-rate constant for SC dosing. k_(12) and k_(21) are the rates of distribution to and from the peripheral compartment. k_(10) is the nonspecific elimination rate of muM17 from the plasma compartment.

In addition, muM17 is cleared by binding to CD11a receptor on T-lymphocyte with its V_(max) and K_(m). For the PD component, K_(03) is the rate of CD11a synthesis. CD11a is eliminated nonspecifically at the rate of k_(30). CD11a is also cleared by binding to muM17 with its own V_(max) (or V_(max2)) but with the same K_(m) as that for muM17.

These parameters were estimated using NONMEM (Version V, University of California, San Francisco, CA) with Compaq Visual Fortran 6.5 (Palo Alto, CA). FO method was used for the minimization process. The model simultaneously fits both IV and SC single-dose data. The PK/PD model for muM17 was validated by visual comparison of simulated versus observed data from an external PK/PD dataset. In this study, two subcutaneous doses of 3 mg/kg muM17 were administered into mice a week apart (Days 1 and 7) and blood samples for PK and PD were collected on Days 3, 7 (predose), 14, 21, 28, 35, and 49.

The validated model was then used to simulate PD profile with multiple dosing regimens. The dose levels of muM17 simulated were 1, 3, 5, 10, and 30 mg/kg/wk SC for 12 weeks. The area under the CD11a-expression curve from Day 0 to 84 (PD suppression period) and from Day 84 to 168 (PD recovery period) were calculated using the trapezoidal rule for both murine and human PD profiles. A Kruskal-Wallis one-way ANOVA with multiple comparisons (Dunn's method) was used to compare the simulated PD profiles in the mouse versus those observed in humans.」(第1261頁左欄第9行?同頁右欄第43行)
(当審仮訳:PK / PDモデリング

ヒトにおけるエファリズマブのメカニズムベースPK / PDモデルは、マウスにおけるmuM17のPK / PDプロファイルを記述するために使用された。要するに、muM17のPK / PDモデルは、全身循環からのCD11aレセプターによるmuM17とエファリズマブのクリアランスが、ミカエリス - メンテンの式(図1参照)を介して、飽和プロセスであることを想定している。このモデルは、モノクローナル抗体のクリアランスが、同時にTリンパ球上のCD11a受容体の動的な変化をもたらすことを考慮している。
PK / PDモデルの微分方程式は以下の通りである。
(数式(1)?(4)を省略)
ここで、X_(1)、X_(2)、およびX_(SC)は、それぞれ血漿、末梢および投薬の区画のmuM17の量である。k_(01)は、SC投与のための一次吸収速度定数である。k_(12)およびk_(21)は、末梢コンパートメントへと末梢コンパートメントからの分布の割合である。 k_(10)は、プラズマ室からmuM17の非特異的な除去率である。

また、muM17は、そのV_(max)とK_(m)で、Tリンパ球上のCD11a受容体に結合することによってクリアされる。 PDコンポーネントの場合、K_(03)はCD11a合成の速度である。CD11aは、k_(30)の割合で非特異的に除去される。CD11aは、独自のV_(max)(またはV_(max2))であるがmuM17と同じK_(m)でmuM17に結合することによってクリアされる。

これらのパラメータはコンパックVisual Fortranの6.5(カリフォルニア州パロ アルト)でNONMEM(バージョンV、カリフォルニア大学、サンフランシスコ、CA)を用いて推定した。 FO法は最小化プロセスのために使用した。モデルは、同時にIVおよびSC単回投与データの両方に適合する。 muM17のためのPK / PDモデルは、外部のPK / PDデータセットからの観測データに対してシミュレートを視覚的に比較することによって検証した。本研究では、3ミリグラム/ kgのmuM17の2回の皮下投与は1週間空けて(日1,7)マウスに投与し、PKおよびPDのための血液サンプルは3、7(投与前)、14、21、28 35、および49日目に収集した。

検証モデルは、複数の投薬投与計画とPDプロファイルをシミュレートするために使用された。シミュレートしたmuM17の投与レベルは、1、3、5、10、及び30mg / kg /週SCを12週間であった。 0?84日(PDの抑制期間)および84?168日の(PDの回復期間)のCD11a発現曲線の下の面積は、マウスおよびヒトPDプロファイルの両方に対して台形則を用いて計算した。多重比較でのクラスカル-ワリス一元配置ANOVA(ダンの方法)は、ヒトで観察されたものに対するマウスの模擬PDプロファイルの比較に用いられた。)

エ 「

Figure 1. Mechanism-based PK/PD model of muM17.」
(当審仮訳:図1 muM17のメカニズムベースのPK / PDモデル。)

上記摘記エの図1に記載のPK / PDモデル中のPKコンポーネントは、「Central」(当審仮訳:中枢)と「Peripheral」(当審仮訳:末梢)の2つのコンパートメントを有する2-コンパートメントモデルであり、一般的にPK / PDモデルは薬効をシミュレートするものであるから、上記各摘記を含む引用例全体の記載を総合すると、引用例には、
「PKコンポーネントとPDコンポーネントを有し、PKコンポーネントが2-コンパートメントモデルであるmuM17のPK/PDモデルを用いて、CD11a発現曲線の下の面積を求めて、muM17の薬効をシミュレートする方法。」(以下「引用発明」という。)
が記載されているといえる。

3 対比
(1)本件補正発明と引用発明を対比する。

ア 引用例の上記摘記アに記載されているとおり、エファリズマブは乾癬の発症に関連しているCD11aの発現を抑制するものであり、上記摘記イに記載されているとおり、「muM17」はCD11aに対してエファリズマブと同様の特異性と親和性をもって結合し、エファリズマブの代用分子として評価されるものであるから、引用発明における「muM17」は、本件補正発明の「乾癬治療用の化合物」に相当する。

イ PKはpharmacokineticsの略であり、薬物動態学を意味し、PDはpharmacodynamicsの略であり、薬力学(本願では、「薬動力学」と表現されている)を意味するから、引用発明の「PKコンポーネント」及び「PDコンポーネント」は、本件補正発明の「薬物動態学的モデル」及び「薬動力学的モデル」にそれぞれ相当する。本件補正発明における「薬物動態学的プロファイル」は、化合物の薬物動態学的特性全体を意味し、引用発明の「PKコンポーネント」は、muM17の薬物同期理学的特性を反映しようとするモデルであり、引用発明において「PK/PDモデル」が準備されることは明らかであるから、引用発明の「PKコンポーネントとPDコンポーネントを有し、PKコンポーネントが2-コンパートメントモデルであるmuM17のPK/PDモデル」が準備されることと、本件補正発明の「前記化合物の薬物動態学的プロファイルを示す薬物動態学的モデルを準備し、前記薬物動態学的モデルは1-コンパートメントモデルであり、該化合物の薬動力学的モデルを準備し、前記薬動力学的モデルは2段階間接モデル」であることとは、「化合物の薬物動態学的プロファイルを示す薬物動態学的モデルを準備し、該化合物の薬動力学的モデルを準備」することで共通する。

ウ 引用発明の「CD11a発現曲線の下の面積」は、CD11aの積算発現量を表すから、本件補正発明の「乾癬指標に関する値」に相当し、引用発明の「muM17のPK/PDモデルを用いて、CD11a発現曲線の下の面積を求めて、muM17の薬効をシミュレートする」ことは、本件補正発明の「前記薬物動態学的モデルおよび前記薬動力学的モデルからの乾癬指標に関する値を計算し、それにより該乾癬治療用の前記化合物の効力を予測すること」に相当する。

以上から、本件補正発明と引用発明とは、次の(2)に記載する点で一致し、続く(3)に記載する2点で相違する。

(2) 一致点
「乾癬治療用の化合物の効力を予測するための方法であって、
前記化合物の薬物動態学的プロファイルを示す薬物動態学的モデルを準備し、
該化合物の薬動力学的モデルを準備し、
前記薬物動態学的モデルおよび前記薬動力学的モデルからの乾癬指標に関する値を計算し、それにより該乾癬治療用の前記化合物の効力を予測することを含んでなる方法。」

(3)相違点
相違点1:薬物動態学的モデルについて、本件補正発明は、1-コンパートメントモデルであるのに対して、引用発明は、2-コンパートメントモデルである点。
相違点2:薬動力学的モデルについて、本件補正発明は、2段階間接モデルであるのに対して、引用発明は、2段階間接モデルではない点。

4 当審の判断
(1)相違点1について
薬物動態のモデルとして一般的な1-コンパートメントモデルと2-コンパートメントモデルから実測データに対応するモデルを選択することは周知(例えば、原審の拒絶の理由に引用された、小田裕,「麻酔薬の薬物動態 ?基本的な考え方、臨床使用にあたって何に気をつけるべきか?」,日本臨床麻酔学会誌,2005,Vol.25,No.5,pages 447-454等を参照。)である。シミュレーションにおいて、より現実の現象を反映した結果を得ることは周知な課題であり、より実測データに近づくよう、公知のいろいろなモデルを検討することは、当業者であれば容易になし得る課題解決手法にすぎないから、引用発明において、より実測データに合致するか否かを検討するために1コンパートメントモデルを選択することは当業者が容易になしうることである。

(2)相違点2について
薬力学モデルとして、投与から薬効が表れるまでの時間差や薬効の持続時間を反映させることにおいて、より実測データに合致させるために多段階間接モデルを用いることは周知(例えば、Yu-Nien Sun and William J. Jusko,"Transit compartments versus gamma distribution function to model signal transduction processes in pharmacodynamics",Journal of Pharmaceutical Sciences,1998,Vol.87,No.6,pages 732-737の特にTheoretical Sectionの項、及び、D Groenendaal et al,"Influence of biophase distribution and P-glycoprotein interaction on pharmacokinetic-pharmacodynamic modelling of the effects of morphine on the EEG",British Journal of Pharmacology,2007,Vol.151,No.5,pages 713-720の特に715頁のExtended catenary biophase distribution model.及びFigure 1(b)等を参照。)である。シミュレーションにおいて、より現実の現象を反映した結果を得ることは周知な課題であり、現実の薬効発現においては様々な要因が関係していることは当業者にとって自明であるから、引用発明において、時間的要因を反映した、より実測データに合致するモデルを得ようとして上記周知技術を適用して、多段階間接モデルの一つである2段階間接モデルを薬力学モデルとして用いることは当業者が容易になし得ることである。

(3)効果について
本件補正発明が奏する効果は、引用例に記載の事項及び上記各周知技術から当業者が十分に想到しうる程度のものである。

(4)請求人の主張について
請求人は、審判請求の理由において、
「上記したように、当該引用文献および参考文献のいずれにおいても、「2段階間接モデル」と「1-コンパートメントモデル」の組み合わせを用いて「乾癬治療用の化合物の効力を予測する」ことについては、開示も示唆もされていない。」、及び
「既に提出した意見書で述べているとおり、本願発明者らは1-コンパートメントモデルを「乾癬治療用の化合物」の「薬物動態学的プロファイルを示す」ためのものとして構築し、そしてそのモデリングから「実測されたものに非常に類似」した予測結果を得ており、そこから1-コンパートメントモデルこそが薬物動態学的モデルにとって適切であることにも想到している(本願明細書段落0156?0187および0200の記載を参照)。
上述したような所定の「薬物動態学的モデル」と「薬動力学的モデル」との組み合わせのもたらす効果については、いずれの引用文献および参考文献にも何らの示唆すらされていない。」
と主張している。
しかし、引用発明において、「1-コンパートメントモデル」及び「2段階間接モデル」を採用することの容易性については、上記相違点1及び相違点2について検討したとおりである。また、これらのモデルの組み合わせが「乾癬治療用の化合物」に対して適切であることについて、本願の発明の詳細な説明には、MTXに関しては、モデルが適切であることを裏付けようとする記載は存在するが、乾癬治療用の化合物には、ステロイド内用薬、ビタミンD3外用薬、レチノイド、免疫抑制薬、抗体医薬など多種多様なものが存在するが、これらが全て同じ作用機序で薬効を生じるとはいえず、作用機序が異なれば適切なPK/PDモデルが異なることは技術常識である。
してみれば、本件補正発明は、「1-コンパートメントモデル」及び「2段階間接モデル」をMTX以外の他の乾癬治療用の化合物を含む化合物に適用するものであるから、請求人の主張するように全ての乾癬治療用の化合物について適切な予測結果を得ているものとはいえず、全ての乾癬治療用の化合物の効力の予測に、「1-コンパートメントモデル」及び「2段階間接モデル」を用いることが、格別顕著な効果をもたらすものとはいえない。

(5)小括
よって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?31に係る発明は、平成25年11月28日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載されたとおりであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
乾癬治療用の化合物の効力を予測するための方法であって、
前記化合物の薬物動態学的プロファイルを示す薬物動態学的モデルを準備し、前記薬物動態学的モデルは1-コンパートメントモデルであり、
該化合物の薬動力学的モデルを準備し、
前記薬物動態学的モデルおよび前記薬動力学的モデルからの乾癬指標に関する値を計算し、それにより該乾癬治療用の前記化合物の効力を予測することを含んでなる方法。」

2 引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例とその記載事項は、上記第2の3に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は、上記第2の4及び5で対比・検討した本件補正発明から「前記薬動力学的モデルは2段階間接モデルであり、」という限定事項を削除したものであるから、本願発明は、本件補正発明を内包する。
そうすると、本件補正発明と同様に、本願発明も引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-27 
結審通知日 2015-07-28 
審決日 2015-08-12 
出願番号 特願2010-541532(P2010-541532)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 将志赤坂 祐樹  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 松本 隆彦
渡戸 正義
発明の名称 乾癬の治療における化合物の長期的効力の予測  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ