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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1309071
審判番号 不服2014-18192  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-11 
確定日 2015-12-24 
事件の表示 特願2010-172040「燃料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月16日出願公開、特開2012- 31283〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年7月30日の出願であって、出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成26年 3年20日付 拒絶理由通知
同年 6月 2日 意見書・手続補正書提出
同年 6月13日付 拒絶査定
同年 9月11日 審判請求書・手続補正書提出
同年10月 6日付 前置報告

第2 平成26年9月11日付け手続補正についての補正の却下の決定

1 補正の却下の決定の結論

平成26年9月11日付け手続補正を却下する。

2 理由

(1) 請求項1についてする補正の内容
ア 平成26年9月11日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1についてする補正を含むところ、本件補正前後の請求項1の記載は次のとおりである(なお、下線は、補正箇所を示す。)。
・本件補正前の請求項1の記載
「【請求項1】
塩ビ含有廃プラスチックと有機物含有粉粒体を、全処理物中に有機物含有粉粒体が20?60質量%となるよう混合し、攪拌しながら水蒸気を充満させた熱処理装置内で、常圧で220?300℃で処理することを特徴とする燃料の製造方法。」
・本件補正後の請求項1の記載
「【請求項1】
塩ビ含有廃プラスチックと有機物含有粉粒体を、全処理物中に有機物含有粉粒体が20?60質量%となるよう混合し、攪拌しながら水蒸気を充満させた熱処理装置内で、常圧で220?250℃で処理することを特徴とする燃料の製造方法。」
イ 上記の請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である処理温度の数値範囲「220?300℃」を「220?250℃」に限定するものであり、また、当該補正は、請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2) 独立特許要件の検討
ア 上記のとおり、請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に適合することを要する。)。
そこで検討するに、当審は、本願補正発明は原査定にて引用された引用文献2に記載された発明及び周知の技術的事項(原査定にて引用された引用文献3記載の技術常識及び原査定にて引用された引用文献4ないし6記載の周知技術)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであると判断する。
その理由は以下のとおりである。
イ 主となる引用刊行物とその記載事項
原査定において、引用文献2として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-263871号公報(以下、単に「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア) 「【請求項3】 窒素原子又はハロゲン原子を含む廃有機物を微粉砕し、200?350℃の温度で水蒸気と接触させることを特徴とする窒素原子又はハロゲン原子含有廃有機物の処理方法。」
(イ) 「【0016】請求項3記載の方法は、窒素原子又はハロゲン原子を含む廃有機物を微粉砕し、200?350℃の温度で水蒸気と接触させることを特徴とする。
【0017】この方法は、窒素原子又はハロゲン原子が廃有機高分子の置換基に含有されている場合に特に適用される。水蒸気の分圧は0.1気圧以上であることが望ましい。また、この方法では、窒素原子又はハロゲン原子を含む有機物を微粉砕し、200?350℃の温度で、前記廃棄物の重量減少が80%を越えない時間、前記粉砕された有機物を水蒸気と接触させることにより、残留物は窒素原子又はハロゲン原子のない炭化水素となり、燃料等としてリサイクルすることができる。」
(ウ) 「【0028】(実施例3、比較例2)図1は、これらの実施例に使用した処理装置である。
【0029】この実施例では、ロータリーキルンにより廃棄物を攪拌して廃棄物と水蒸気を接触させた。廃プラ1は、ロータリーキルンの投入部2から装置に入り、ロータリ部3に送られ攪拌される。水蒸気は、水蒸気入り口11から装置に入り、水蒸気出口12から出て行く。廃棄物の移動する方向と逆の方向に水蒸気は流れ、相互に接触する。水蒸気処理の完了した廃棄物1aは出口部4に仮貯蔵される。
【0030】この実施例の装置を使用して、実際に回収された一般廃プラスチックを脱ハロゲン処理、再利用のための処理を行った。この廃プラスチックの中には、2重量%の塩素が含まれていた。その内の10重量%程度は、水溶性の塩等として含まれており、これをまず水洗で分離した後、以下の方法で処理した。
【0031】水洗後の廃プラスチックを、粉砕機で3?5mmに粉砕して、前述した装置で処理を行った。処理条件は次のとおりである。
【0032】・処理温度 350℃
・廃棄物のロータリー部の滞留時間 10分(ロータリーの長さ15m、回転数10rpm、角度4度)
・水蒸気/廃棄物比 500L(水蒸気:気体の状態で)/1kg(廃棄物) 装置の温度が設定の温度になってから、廃棄物を装置へ投入した。
・・・
【0038】次に実施例で処理した廃棄物を固形燃料化し、これを燃焼させた。」
「【図1】


(エ) 「【0075】(実施例6)図4に示す装置で、紙等のPVC以外の塩素が含まれる物質も混入した廃プラスチックから塩素を脱離させるための水蒸気を添加する実験を行った。
【0076】窒素の流量は室温で流量コントローラにより行った。水(水蒸気)の流量は、水流量ポンプにより室温で一定の流量の水を100℃以上に加熱した気化器に送り蒸発させた。
【0077】試料を挿置する反応管41は電気炉42を貫通するように挿入され上部から窒素ガスと蒸発させた水(水蒸気)を混合したガスが送り込まれ、発生するガスは、アルカリ吸収液の入った吸収瓶43a、43b、43cの3本と、溶剤の入った吸収瓶1本44に吸収される。
【0078】反応管41へ試料46を挿入し流量コントローラー45により水蒸気分圧の調整された混合ガスを反応管41へ流し、反応管41は電気炉42で加熱し、試料の温度と電気炉の炉内温度を測定する温度計TC_(1) と試料温度を測定する温度計TC_(2) の温度をモニターして所定の温度にコントロールした。所定の設定温度で一定時間、試料とガスを接触させ脱塩素を進行させる。
【0079】この実施例では、実際に回収された廃プラスチック(紙等が混入している)を自然乾燥させ、メッシュ7mmふるいを装着した破砕機で粗破砕した後、液体窒素で冷却し微破砕して、20?100μmの粉状とした試料を使用した。
【0080】まず、粗粉砕した廃プラスチック5gを外観により分別した。
【0081】分別した廃プラスチックの重量構成比と含有塩素濃度を表15に示す。
【0082】
【表15】

この廃プラスチックには2?4重量%の塩素が含まれていたが、その内の7?15重量%程度は温水洗浄により容易に廃プラスチック粉より除去された。
【0083】シート類、菓子の包み、バルクプラスチックに含まれる塩素はPVCによるものと思われる。紙に含まれる塩素は次塩素酸(塩)による漂白工程でセルロースのOH基が塩素で置換されたものと思われる。
【0084】微粉砕した試料を反応管に1g仕込み、水蒸気を室温換算で1L/minの流量で流し試料を水蒸気処理した。
【0085】試料から放出された塩素の量は、各吸収液に含まれる塩素量をIC(イオンクロマトグラフ)、GC(ガスクロマトグラフ)により分析したのと、また、実験後の配管に付着した塩素の分析を行った。
【0086】試料の中に残留する塩素は、試料を化学分解し水に吸収させて分析した。
【0087】残留塩素濃度の温度依存性を図5に示す。
【0088】温度270℃から380℃(340℃?360℃)付近で残留塩素濃度に極小値が存在する。図6に重量減少量の処理温度依存性を調べた結果を示す。温度200付近から重量は減少し、300℃を超えると熱分解により顕著な重量の減少が認められる。残留塩素濃度が極小値をとるのは、200℃以上に温度を上げると試料から塩素が抜け残留塩素濃度は低下していくが、350℃から400℃にかけて塩素の放出量は鈍ってくる。しかし、熱分解により350℃以上では激しく重量が減少していく。そのために、300℃から380℃以上では温度が高いほど実質的に試料の残留塩素濃度が上昇する。340℃?360℃で残留塩素濃度は一番低い。」
「【図4】


「【図5】


「【図6】


ウ 周知例AないしDとそれらの記載事項
(ア) 周知例A(プラスチックの軟化・溶融・熱分解特性に関する技術常識)
原査定において、引用文献3として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-101841号公報(以下、「周知例A」という。)には、プラスチックの熱分解特性などに関して以下のように記載されている。
・「【0011】また図1に各種プラスチックの熱分解における重量減少率を示す{三菱重工技報、10(5)P787(1973)}。本図より明らかな如く、熱可塑性プラスチックは、一般に約120?230℃で軟化・溶融し、それ以上の高温で熱分解する。熱硬化樹脂は軟化・溶融せずに加熱によりそのまま熱分解する。塩素を含有するプラスチックとしては、ポリ塩化ビニール(PVC)、ポリ塩化ビニリデンがある。これらの塩素含有プラスチックは、約170℃?350℃の領域で大半の塩素を塩化水素として脱離し、その後高温になると他成分の熱分解が進行する。」
・「【図1】


(イ) 周知例B(融着防止に関する周知技術)
原査定において、引用文献4として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-253037号公報(以下、「周知例B」という。)には、以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】 塩素含有合成樹脂と廃木材を混合して250℃?350℃の温度で加熱し、塩素含有合成樹脂を熱分解させて、塩素が除去された可燃性の処理物を得ることを特徴とする塩素含有合成樹脂の脱塩素処理方法。」
・「【0020】塩素含有合成樹脂を脱塩素処理するための加熱温度は250℃?350℃、望ましくは300℃?350℃にするのが好ましい。
【0021】塩素含有合成樹脂から塩素が脱離する反応は250℃付近から始まり、約350℃までの間で起こる。この温度範囲において、処理する塩素含有合成樹脂に他の種類の合成樹脂が含まれている場合には、その合成樹脂の分解反応も起こるが、塩素含有合成樹脂以外の合成樹脂が分解する度合いは小さい。又、塩素含有合成樹脂の熱分解によって発生する塩化水素は装置に使用されている鋼材に対する腐食作用が大きなものであるが、温度範囲によって腐食の度合いが異なり、150℃以下の低温域と、350℃以上の高温域において、腐食速度が大きくなることが知られているので、装置の腐食の度合いも小さい。このため、塩素含有合成樹脂の脱塩素処理は、塩素の脱離反応が活発に行われる温度範囲であり、かつ装置の腐食の度合いが小さい300℃?350℃で行うことが好ましい。」
・「【0022】本発明においては、塩素含有合成樹脂を熱分解させる際に、廃木材を添加するが、廃木材は比重が合成樹脂と同程度であるので、塩素含有合成樹脂類と混合して加熱する際に、被処理物である合成樹脂とよく混じり合う。このため、合成樹脂が炉壁に融着する問題や合成樹脂同士が融着して塊状化する問題の発生が抑制される。」
・「【0044】(実施例)
a.脱塩素化処理試験
塩素含有合成樹脂を脱塩素化処理する試験を行った。この試験においては、塩素含有合成樹脂の試験材として塩ビ樹脂配管廃材を粒径が2mm?4mmになるように破砕したもの、廃木材の試験材として建築用廃木材を粒径が4mm以下になるように破砕したもの使用した。試験装置は図3に示す構成による装置を用いた。
・・・
【0047】試験条件は、表1に示す通りにした。
・・・
【0049】
【表1】


・「【図3】


(ウ) 周知例C(融着防止に関する周知技術)
原査定において、引用文献5として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-259273号公報(以下、「周知例C」という。)には、以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】 塩素含有合成樹脂と固体熱媒体を、250℃以上350℃以下で間接的に、及び熱風により直接的に加熱して熱分解し、主に塩化水素と熱分解残渣を得ることを特徴とする塩素含有合成樹脂の処理方法。」
・「【0012】塩素含有合成樹脂の脱塩素過程は塩素含有合成樹脂の軟化から始まり、さらに加熱されると脱塩素が開始される。」
・「【0023】・・・本発明において、塩素含有合成樹脂は通常破砕された塩化ビニル等であり、固体熱媒体は所定の大きさに破砕されたコークス、石炭、石油コークス等である。固体熱媒体は、塩素含有合成樹脂が加熱により軟化して溶融状態となった場合に熱分解炉である回転炉の内壁に付着するのを防止する作用がある。」
・「【0030】通路4内において加熱される塩素含有合成樹脂類の温度は250?350℃、望ましくは300℃前後とすることが好ましい。その温度が250℃未満では塩化水素の脱塩素反応が効率的に行われず、一方、350℃を超えるとガスおよび液状炭化水素の熱分解が起りはじめる。」
・「【0033】
【実施例】図2に示す装置を用い、塩素含有合成樹脂の脱塩化水素処理を実施した。・・・
【0034】その他の条件は図4に示す通りである。
・「【図2】


・「【図4】


(エ) 周知例D(融着防止に関する周知技術)
原査定において、引用文献6として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-259273号公報(以下、「周知例D」という。)には、以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】 ロータリキルン方式の塩素除去装置を用い、ロータリーキルンの通路内に一部または全部が含塩素高分子樹脂材からなる被処理材を熱媒体とともに供給し、且つ同じ通路内に加熱ガスを流して含塩素高分子樹脂材の脱塩素処理を行う含塩素高分子樹脂の塩素除去方法において、被処理材とともに供給すべき熱媒体として、炉の鉄源、鉄源還元剤、燃料または副原料として使用できる粉粒物の中から選ばれる1種以上の粉粒物を用いることを特徴とする含塩素高分子樹脂の塩素除去方法。
【請求項2】 熱媒体として用いる粉粒物が、粉コークス、粉鉱石、焼結粉および粉粒状熱硬化性樹脂の中から選ばれる1種以上の粉粒物であることを特徴とする請求項1に記載の含塩素高分子樹脂の塩素除去方法。」
・「【0011】・・・また、固体熱媒体は被処理樹脂材を加熱するだけでなく、被処理樹脂材中に分散して被処理樹脂材どうしの融着、塊状化を抑制し、これらにより脱塩素効率を向上させる。被処理樹脂材はキルンの回転により熱媒体と混合されつつ加熱され、この加熱によって含塩素高分子樹脂材中の塩素分が塩化水素として脱離する反応が生じ、塩化水素ガスが発生する。」
・「【0014】通路4内における被処理樹脂材の加熱温度は250?350℃、望ましくは300℃前後とすることが好ましい。加熱温度が250℃未満では塩化水素の脱離反応が効率的に行われず、一方、350℃を超えると樹脂材のガス状および液状炭化水素への熱分解が起こり始める。」
・「【0018】
【実施例】図3に示す構造の塩素除去装置を用い、塩化ビニル樹脂材の脱塩化水素処理を行った。・・・熱媒体としては、本発明例では粒径10mm以下粉コークスを、また比較例では砂を用いた。
【0020】○ 本発明例1及び比較例1
樹脂材供給量と熱媒体供給量の重量比を1/1で一定とした上で、樹脂材供給量を変えて脱塩素処理を行い、樹脂材の脱塩素率を調べた。その結果を図4に示す。
○ 本発明例2及び比較例2
樹脂材供給量を100kg/hrで一定とした上で、熱媒体供給量を変えて脱塩素処理を行い、樹脂材の脱塩素率および低級炭化水素への分解率を調べた。その結果を図5に示す。
【0021】図4および図5によれば、熱媒体に粉コークスを用いた本発明例ではロータリーキルン内での熱媒体の偏析が防止されるため、熱媒体に砂を用いた比較例に較べ高効率に脱塩素処理を行うことができ、また、樹脂材の低級炭化水素への分解率(ガス化率)も比較例に較べ低く抑えられている。」
・「【図3】


・「【図4】


・「【図5】


エ 引用発明
引用刊行物には、上記イ(ア)に「窒素原子又はハロゲン原子を含む廃有機物を微粉砕し、200?350℃の温度で水蒸気と接触させることを特徴とする窒素原子又はハロゲン原子含有廃有機物の処理方法。」が記載され(【請求項3】)、上記イ(イ)によると、当該処理方法は、窒素原子又はハロゲン原子含有廃有機物を、最終的に燃料等としてリサイクルするためのものであるといえるから(【0017】)、該処理方法は燃料の製造方法であるということができる。
そして、具体的には、上記イ(ウ)に、実施例3として、実際に回収された一般廃プラスチックを脱ハロゲン処理し(【0030】)、固形燃料化すること(【0038】)が記載され、さらに上記イ(エ)には、実施例6として、実際に回収された廃プラスチック(紙等が混入している)から塩素を脱離させるための水蒸気を添加する実験(【0075】、【0079】)が示されているところ、これらの実施例における廃プラスチックは、実際に回収された一般廃棄物であって、上記イ(エ)には、塩素がPVC(ポリ塩化ビニル)由来のものである旨記載されている(【0083】)。そうすると、上記処理方法は、窒素原子又はハロゲン原子含有廃有機物として、主に塩ビ含有廃プラスチックを対象とし、その脱ハロゲン処理(塩素の脱離処理)に主眼を置くものと考えるのが合理的である。
してみると、引用刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「塩ビ含有廃プラスチックを微粉砕し、200?350℃の温度で水蒸気と接触させて塩素を脱離処理する、塩ビ含有廃プラスチックから燃料を製造する方法。」
オ 周知の技術的事項の整理
(ア) まず、プラスチックの軟化・溶融・熱分解特性に関する技術常識について整理しておくと、上記周知例Aの段落【0011】、【図1】によれば、熱可塑性プラスチックは、一般に約120?230℃で軟化・溶融し、それ以上の高温で熱分解すること(なかでもPVCは熱分解の開始温度が低いことを【図1】から看取できる。)、及び、特にPVCのような塩素含有プラスチックは、約170?350℃の領域で大半の塩素が脱離することを理解することができる。
そうすると、PVCのような塩素含有プラスチックの脱塩素の過程においては、初期に該プラスチックの軟化・溶融が進行し、その後、170℃付近から塩素の脱離が顕在化するものと解される(周知例C【0012】も参照した。)。
(イ) 次に、融着防止に関する周知技術について整理する。
上記周知例BないしDには、塩素含有合成樹脂に、廃木材、固体熱媒体(粉砕されたコークス等)、熱媒体(粉コークス等)といった材料を混合することが開示されているところ(各周知例の【請求項】)、これらは、該塩素含有合成樹脂の脱塩素過程において、当該塩素含有合成樹脂の炉壁への融着あるいは該塩素含有合成樹脂同士の融着を防止することを期待して使用されるものであって(周知例B【0022】、周知例C【0023】、周知例D【0011】)、一般に、融着防止剤などと呼称されるものである。そして、当該融着防止剤の作用の結果、脱塩素効率が向上することも既に知られたところといえる(周知例D【0011】。ただし、上記融着が回避されれば、脱塩素処理がスムーズに進行することは明らかであるから、脱塩素効率の向上は当然の帰結であるともいえる。)。さらに、当該融着防止剤を、塩素含有合成樹脂と同程度の割合、すなわち全処理物の約50質量%に当たる割合で用いることも、各周知例の具体例からみて、当業者が既に認知する事項というべきである(周知例B【表1】、周知例C【図4】、周知例D【0020】、【図5】)。
なお、周知例BないしDにおいては、上記した脱塩素処理を250℃以上の温度範囲にて行う旨記載されているが(各周知例の【請求項】)、これは、脱塩素効率を考慮してのことであって(周知例B【0021】、周知例C【0030】、周知例D【0014】)、250℃以上でないと上記融着防止剤の効果が発揮されないというものではない。また、当該融着防止剤が、重量減少率(ガス化率、歩留まり)を悪化させるものでもない(周知例Dの【0021】、【図5】によれば、熱媒体(粉コークス等)の供給により樹脂材の低級炭化水素へのガス化率はむしろ好転している。)。
カ 本願補正発明と引用発明との対比
ここで、本願補正発明と引用発明を対比すると、両者は、「塩ビ含有廃プラスチックを水蒸気と接触させて処理する、燃料の製造方法。」である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。
・相違点1:本願補正発明は、「攪拌しながら水蒸気を充満させた熱処 理装置内で、常圧で220?250℃で処理する」のに対 して、引用発明は「200?350℃の温度で水蒸気と接 触させて塩素を脱離処理する」点。
・相違点2:本願補正発明は、「塩ビ含有廃プラスチックと有機物含有 粉粒体を、全処理物中に有機物含有粉粒体が20?60質 量%となるよう混合し」て処理するのに対して、引用発明 は「塩ビ含有廃プラスチックを微粉砕し」て処理する点。
キ 相違点1についての検討
(ア) まず、引用発明における処理に使用する処理装置についてみると、引用刊行物の上記イ(ウ)の実施例3には、具体例としてロータリーキルンが示されており(【0029】、【図1】)、これは本願補正発明における熱処理装置に相当するところ、特にその内部の圧力を調整する旨の記載は見当たらないから、当該ロータリーキルン内での処理は常圧下でのものと解することができる。また、該ロータリーキルン内では、投入された廃プラスチックがロータリ部にて攪拌されるとともに(【0029】)、【図1】の水蒸気の出入口の配置からみて、該ロータリーキルン内(ロータリ部)に水蒸気が充満していると推認することができる。
そうすると、上記相違点1に係る、本願補正発明の「攪拌しながら水蒸気を充満させた熱処理装置内で、常圧で処理する」という処理形態(処理温度以外の形態)は、既に、引用発明が具体的に想定する形態にすぎないというべきであるから、引用発明において当該処理形態を採用することに格別の創意は認められない。
(イ) 次に、処理温度についてみると、引用発明は、当該処理温度の範囲を「200?350℃」としており、本願補正発明が規定する「220?250℃」という温度範囲と重複するものの、引用刊行物には、具体例として、350℃の処理温度しか例示がない(上記イ(ウ)の【0032】)。
そこで、引用発明が処理温度範囲を「200?350℃」と規定する理由についてみるに、引用刊行物の上記イ(エ)には、実施例6の実験結果として、残留塩素濃度に関しては、200℃以上に温度を上げると試料から塩素が抜け残留塩素濃度は低下していくが、350℃から400℃にかけて塩素の放出量は鈍ってくること(【0088】、【図5】)、及び、重量減少率に関しては、200℃付近から重量は減少し、熱分解により300℃を超えると顕著な重量の減少が認められ、350℃以上では激しく重量が減少していくこと(【0088】、【図6】)が記載されているから、引用発明が、上記処理温度範囲を「200?350℃」に規定しているのは、上記残留塩素濃度と重量減少率のバランスを考えてのことと解される。
一方、本願補正発明における「220?250℃」という処理温度範囲は、本願明細書の実施例1(参考例)の実験結果(【表1】、【0027】)に基づき、歩留まり(引用発明における重量減少率と同等の指標)と、塩素残量あるいは脱塩率(引用発明における残留塩素濃度と同等の指標)の数値がともに好適なものとなるように選択されたものと理解できる。そうすると、本願補正発明における処理温度範囲は、引用発明と同じ観点で設定されたものであるということができる。
上記の点を併せ考えると、引用発明における「200?350℃」という処理温度範囲は、所望する残留塩素濃度と重量減少率に応じて(これらのバランスを考えながら)、その温度範囲全域にわたって選択可能であると解すべきであり、特に、そのうちの「220?250℃」の温度範囲を除外する理由も見当たらないから、本願補正発明が規定する「220?250℃」という処理温度範囲は既に引用発明が予定するものといえ、この点に本質的な差異があるとはいえない。また、仮にそうでないとしても、引用発明と本願補正発明とは、上記のとおり処理温度の設定理由が同じであることから、引用発明における処理温度を本願補正発明の範囲に設定することは、単なる設計的事項にすぎないといわざるを得ない。
(ウ) 以上のとおりであるから、当該相違点1は、実質的なものでないか、当業者の容易想到の範疇のことといえる。
ク 相違点2についての検討
(ア) はじめに、本願補正発明が有機物含有粉粒体を混合している意義について確認しておくと、本願明細書には、以下の記載がある。
・「【0016】
本発明においては、塩ビ含有廃プラスチックを処理する際、有機物含有粉粒体を混合して処理することができる。
上記のような処理により、廃プラスチック中の塩ビから塩素が分離し、HClとして水蒸気といっしょに排気される。しかし、廃プラスチックの種類等によっては、処理中に溶融し、処理装置に付着してトラブルを起こしやすい場合があり、また、一度溶融した廃プラスチックは、排出されるときには塊となってしまい、粉砕されにくくなる場合もある。
そのような場合に、有機物含有粉粒体を混合して処理すると、粉粒体が廃プラスチックの融着防止効果を発揮して、安定した処理が可能になるとともに、被粉砕性の良い処理物を得ることができる。
【0017】
かかる有機物含有粉粒体としては、例えば、乾燥下水汚泥、下水汚泥炭化物、コークスダスト、木くず等が挙げられる。
有機物含有粉粒体は、廃プラスチック由来の灰分と有機物含有粉体との合計で、全処理物中に20?60質量%、特に30?50質量%となるよう、混合されるのが好ましい。」
・「【0028】
実施例2
原料の温度が所定の処理温度になるよう、外熱式キルン(プロパンガスを熱源とした外熱式ロータリーキルン(内径500mm×長さ4950mm(加熱部分長3000mm))を加熱し、外熱式キルンのフードから水蒸気を送入した。滞留時間は、キルンの回転数により調整した。容器包装胚プラスチック再商品化残渣(以下、容リ残渣という)及び乾燥下水汚泥を、以下の条件で処理し、歩留まり、塩素残量及び脱塩率を、実施例1と同様にして求めた。結果を表2に示す。
【0029】
(1)処理条件:
処理温度:250℃
滞留時間:60分
(2)材料:
容リ残渣:比重分離残渣(重質残渣) 塩素=3.2%、水分8%
粉粒体:乾燥下水汚泥 塩素0.06%、水分1.2%
【0030】
【表2】

【0031】
容リ残渣は、主に塩ビ、あるいはオレフィン系樹脂にアルミが付着したもので構成されており、容リ残渣のみを処理すると、溶融した樹脂がキルンに付着し、排出不良となる傾向があった。
これに対し、容リ残渣80質量部に乾燥下水汚泥を20?60質量部の割合で配合した場合、キルンへの付着は解消された。」
上記記載からみて、本願補正発明における有機物含有粉粒体は、コークスダストや木くずなどであって(【0017】)、廃プラスチックの融着防止効果を期待するものであること(【0031】)が理解できる。
そうすると、当該有機物含有粉粒体は、上記オ(イ)にて整理した周知の融着防止剤にほかならないということができる。
そして、本願補正発明が、当該有機物含有粉粒体を用い、これを全処理物中に20?60質量%の割合で混合したのは、上記実施例2の実験結果(特に【表2】の排出不良の結果)を踏まえてのこと、すなわち、容リ残渣のキルンへの付着解消という融着防止効果自体を期待してのことであって、特に、「220?250℃」という処理温度を前提にするものではないとみるのが妥当である。
(イ) 上記した本願補正発明における有機物含有粉粒体の意義と、上記オにて整理した周知の技術的事項を踏まえて、上記相違点2に係る技術的事項の容易想到性について検討する。
引用刊行物には、確かに、融着防止に関連する記載は見当たらないが、上記オ(ア)にて整理した技術常識を踏まえると、引用発明における脱塩素処理温度にあっては、既に、塩ビ含有廃プラスチック(少なくともそのうちのPVC)は溶融状態にあると解されることから、上記オ(イ)にて整理した周知技術をよく知る当業者は、引用発明においても、このように溶融状態にある廃プラスチックが炉壁に融着し、あるいは当該廃プラスチック同士が融着する恐れがあることを当然に予想し、このような融着に係る課題が、引用発明に内在していることを当然に認識するものと解するのが合理的である。また、当業者は、当該課題への対処法として、上記オ(イ)のとおり、融着防止剤を塩ビ含有廃プラスチックと同程度混合することを認知しているのであるから、引用発明において当該周知の対処法を採用し、上記相違点2に係る技術的事項を想起することは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。
そして、上記オ(イ)にて説示したとおり、周知例BないしDは、250℃以上でないと融着防止剤の効果が発揮されないことを示すものではないし、当該融着防止剤は、重量減少率(ガス化率、歩留まり)を悪化させるものでもないから、引用発明において、上記周知の融着防止剤を適用することを阻害する要因及びその適用困難性を認めるに足りる根拠は見い出せない。
ケ 相違点の検討のまとめ
上記のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められる。
コ 独立特許要件の検討の小括
以上の検討のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正却下についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明

平成26年9月11日付けの上記本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成26年6月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 (1)ア」に示した本件補正前のものであって、再掲すると次のとおりである。
「【請求項1】
塩ビ含有廃プラスチックと有機物含有粉粒体を、全処理物中に有機物含有粉粒体が20?60質量%となるよう混合し、攪拌しながら水蒸気を充満させた熱処理装置内で、常圧で220?300℃で処理することを特徴とする燃料の製造方法。」

第4 原査定の拒絶理由

原査定の拒絶の理由は、「平成26年 3月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由」であって、要するに、本願発明は、下記引用文献2に記載された発明及び引用文献4ないし6に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という拒絶理由を含むものである。
<<引用文献>>
・・・
2.特開平11-263871号公報
・・・
4.特開2003-253037号公報
5.特開平11-19622号公報
6.特開平10-259273号公報

第5 引用文献の記載事項

原査定の拒絶の理由において引用された「引用文献2」は、上記「第2 2(2)イ」における「引用刊行物」であり、その記載事項についても、上記「第2 2(2)イ」に摘記したとおりである。
また、原査定の拒絶の理由において引用された引用文献4ないし6は、上記「第2 2(2)ウ」における「周知例BないしD」であり、そこには、上記「第2 2(2)オ(イ)」のとおり、塩素含有合成樹脂の脱塩素にあたって、融着防止剤を使用することが記載されている。
なお、上記「第2 2(2)オ(ア)」にて、周知例Aに基づいて整理した技術常識は、単に当業者の知識レベルを示すものである。

第6 当審の判断

1 引用発明

上記引用文献2の摘記事項から認定し得る引用発明は、上記「第2 2(2)エ」に記載したとおりのものである。

2 対比・検討

上記「第2 2(1)イ」にて説示したとおり、本願補正発明(上述の本件補正後の発明)は、本願発明(上述の本件補正前の発明)を特定するために必要な事項である処理温度の数値範囲「220?300℃」を「220?250℃」に限定するものであるから、本願発明は、本願補正発明の数値範囲を包含するものということができる。
そうすると、本願発明よりも処理温度の数値範囲を限定した本願補正発明が、上記「第2 2(2)」にて検討したとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないのであるから、本願発明も、同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-22 
結審通知日 2015-10-27 
審決日 2015-11-09 
出願番号 特願2010-172040(P2010-172040)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C10L)
P 1 8・ 121- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 日比野 隆治
菅野 芳男
発明の名称 燃料の製造方法  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 高野 登志雄  
代理人 村田 正樹  
代理人 山本 博人  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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