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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1309087 |
審判番号 | 不服2014-24666 |
総通号数 | 194 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-12-03 |
確定日 | 2015-12-24 |
事件の表示 | 特願2011- 55620「受光素子、その製造方法および検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月 4日出願公開、特開2012-191135〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年3月14日の出願であって、平成26年3月11日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月5日付けで意見書が提出され、同年8月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。 第2 本件補正 平成26年12月3日付けの手続補正による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書の補正を行うものであり、本件補正前の請求項1及び本件補正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する本件補正前の請求項2ないし4及び7ないし8、補正前の請求項5及び補正前の請求項5を直接的又は間接的に引用する請求項6ないし8を削除し、本件補正前の請求項1を引用する請求項6を、本件補正後の請求項1とし、本件補正前の請求項2ないし4を引用する請求項6を、本件補正後の請求項2ないし4とし、本件補正前の請求項6を直接的又は間接的に引用する請求項7及び8を、本件補正後の請求項5及び6とし、本願補正前の請求項9ないし11の項番号を、本願補正後の請求項7ないし9に繰り上げたものである。 したがって、本願補正は、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当し、さらに、本願補正は新規事項を追加するものではないから適法になされたものである。 第3 本願の請求項7に係る発明 本願の請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年12月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項7に記載されたとおり、次のように特定されるものである。 「近赤外波長領域に受光感度を有するIII-V族半導体による受光素子の製造方法であって、 InP基板に、受光部に対応する位置に凹部を開口する工程と、 前記凹部に、前記InP基板よりも小さいバンドギャップエネルギを有する受光層を形成する工程とを備えることを特徴とする、受光素子の製造方法。」 第4 引用例 1 原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物であるS. Miura, "Planar Embedded InP/GaInAs p-i-n Photodiode for Very High-Speed Operation", Journal of Lightwave Technology, Vol. LT-5, No. 10 (October 1987), P. 1371-1376(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。仮訳は当審で行った。(なお、下記「2 引用例1に記載された発明の認定」に直接関与する記載に下線を付した。) (1)1372ページ左欄第23行目から同右欄第15行目 これらの検討事項を考慮し、我々は平面埋め込みのInP/GaInAsのp-i-nフォトダイオードを組み立てる技術を開発した。[12]平坦化技術の主要手順が図2に示されている。まず、既に報告されているように、フォトレジストマスクを用いた選択イオンビームエッチングを活用した、傾斜段階プロセスを使うことで、縞形状のウェルが半絶縁性(semi-insulating)のInP基板の<011>の方向に形成される。[13]、[14]そのウェルを形成した後、イオンビームでエッチングされた表面から損傷を取り除くために、短時間の化学エッチングが実施される。そして、図2(a)に示されるように、塩化物気相エピタクシー(VPE)により段を有する基板表面にフォトダイオード層を成長させる。成長の後、図2(b)に示されるように、ウェルを埋めるように二層のフォトレジスト層(AZ-4620、Shipley)の輪郭が描かれる。最初のフォトレジスト層は側壁の上端と合致するように形成される。そして、段差領域でスムーズな移行模様を得るために、200℃で焼かれる。イオンビームエッチングにより段差領域のフォトレジストの表面プロファイルは基板に転移されるため、マスク形成プロセスにおいて、フォトレジストの厚さは正確に制御される。第二のフォトレジスト層はウェルの底を保護するために形成される。そして、段差領域のフォトレジストパターンを転移させるとともに、基板表面の上面の不必要なフォトダイオード層をエッチングで取り除くために、再度イオンビームエッチングを実施する[15]、[16]。イオンビームエッチング処理においては、イオンエネルギー及びイオン電流密度はそれぞれ500eV、0.41A/cm^(2)が選択された。これらの処理条件は、なめらかで欠陥のない表面を生み出した。さらに、凹凸などの欠陥を減らすために、基板表面は、イオンビームに対して十分に傾けられた;イオンビームの入射角は75°が選択された[14]。この平坦化技術を使うことにより、平坦な平面が再現性良く得られた。 (2)1372ページ右欄第17行目から同第30行目 平面埋め込みのInP/GaInAsのp-i-nフォトダイオードの概略断面図が図3に示されている。フォトダイオード層が、半絶縁性のInP基板のウェルに埋め込まれている。低キャパシタンス(ダイオード I)と高速度(ダイオード II)の要請に対してフォトダイオード構造を最適化するために二種類のフォトダイオード層が成長させられている。厚いn^(-)層構造は低キャパシタンスp-i-nフォトダイオードのために使用され、薄いn^(-)層構造は高速度への適用のために用いられている。ウェハは以下の層で構成されている。;n^(-)InP窓層(1.5μm 1×10^(16)cm^(-3))、n^(-)Ga_(0.47)In_(0.53)As光吸収層(1.8又は0.5μm 1.5×10^(15)cm^(-3))、n^(-)InP(6又は3μm 1×10^(15)cm^(-3))、n^(+)InP接触層(2μm 1×10^(17)cm^(-3))。 (3)1373ページ左欄第35行目から同第38行目 (仮訳) 厚さの厚い及び薄いn^(-)層を有するARで被覆されたフォトダイオードのそれぞれの量子効率は、1.3μmの波長において、厚い方が85%、薄い方が40%であった。 (4)「Fig.2 Fig.3 Fig.4 」 2 引用例1に記載された発明の認定 上記摘記事項(4)の図4の左の写真から、縞形状のウェルは、長辺側のみならず短辺側も基板内に埋め込まれているのが見て取れる。 上記の点を含めて、引用例1の記載事項(図面の記載を含む)を総合すると、 「平面埋め込みのInP/GaInAsのp-i-nフォトダイオードを組み立てる技術であって、 フォトレジストマスクを用いた選択イオンビームエッチングを活用した、傾斜段階プロセスを使うことで、縞形状のウェルが半絶縁性のInP基板の<011>の方向に形成され、 短時間の化学エッチングが実施され、 塩化物気相エピタクシー(PVE)により段を有する基板表面にフォトダイオード層を成長させ、 ウェルを埋めるように二層のフォトレジスト層(AZ-4620、Shipley)の輪郭が描かれ、 200℃で焼かれ、 再度イオンビームエッチングを実施されるものであって、 フォトダイオード層が、半絶縁性のInP基板のウェルに埋め込まれ、 フォトダイオード構造を最適化するために二種類のフォトダイオード層が成長させられ、 厚いn^(-)層構造は低キャパシタンスp-i-nフォトダイオードのために使用され、 薄いn^(-)層構造は高速度への適用のために用いられ、 厚いn^(-)層構造は、n^(-)InP(6又は3μm 1×10^(15)cm^(-3))で、 薄いn^(-)層構造は、n^(-)Ga_(0.47)In_(0.53)As光吸収層(1.8又は0.5μm 1.5×10^(15)cm^(-3))で構成され、 厚さの厚い及び薄いn^(-)層を有するARで被覆されたフォトダイオードのそれぞれの量子効率は、1.3μmの波長において、厚い方が85%、薄い方が40%であり、 縞形状のウェルは、長辺側のみならず短辺側も基板内に埋め込まれた 平面埋め込みのInP/GaInAsのp-i-nフォトダイオードを組み立てる技術」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 第5 本願発明と引用発明の対比及び当審の判断 1 本願補正発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明を対比する。 引用発明の「InP/GaInAsのp-i-nフォトダイオード」は、本願発明の「受光素子」に相当する。 また、引用発明の「薄いn^(-)層構造」である「n^(-)Ga_(0.47)In_(0.53)As光吸収層」及び、「厚いn^(-)層構造」である「n^(-)InP」は、いずれも上記の「InP/GaInAsのp-i-nフォトダイオード」の構成要素であって、集合として、本願発明の「III-V族半導体」に相当する。そして、引用発明に於いて、「n^(-)Ga_(0.47)In_(0.53)As光吸収層」及び「n^(-)InP」である「n^(-)層を有するARで被覆されたフォトダイオード」は、近赤外波長領域に含まれる、1.3μmの波長において、「厚い方が85%、薄い方が40%」の量子効率を示すことから、引用発明の「n^(-)Ga_(0.47)In_(0.53)As光吸収層」及び「n^(-)InP」は集合として、本願発明の「近赤外波長領域に受光感度を有するIII-V族半導体」に相当する。 さらに、引用発明の「組み立てる技術」は、本願発明の「製造方法」に相当する。 してみると、引用発明の「n^(-)Ga_(0.47)In_(0.53)As光吸収層」及び「n^(-)InP」を備えた「InP/GaInAsのp-i-nフォトダイオード」を「組み立てる技術」は、本願発明の「近赤外波長領域に受光感度を有するIII-V族半導体による受光素子の製造方法」に相当する。 また、引用発明の「InP基板」は、本願発明の「InP基板」に相当する。また、引用発明の「縞状のウェル」は、本願発明の「凹部」に相当する。そして、引用発明に於いて、当該「縞状のウェル」が、「半絶縁性のInP基板の<011>の方向に形成」されているところ、該ウェルは「長辺側のみならず短辺側も基板内に埋め込まれ」ていることから、当該ウェルは、周囲を囲まれた穴であって、InP基板に「開口」されている。 そして、引用発明の「n^(-)Ga_(0.47)In_(0.53)As光吸収層」と、「n^(-)InP」とを備えた「フォトダイオード層」は、本願発明の「受光部」に相当する。そして、引用発明の当該「フォトダイオード層」が、「半絶縁性のInP基板のウェルに埋め込まれている」構成は、本願発明の「凹部」が「受光部に対応する位置」に設けられた構成に相当する。 してみると、引用発明の「長辺のみならず短辺側も基板内に埋め込まれ」る「縞形状のウェルが半絶縁性のInP基板の<011>の方向に形成される」工程は、本願発明の「InP基板に、受光部に対応する位置に凹部を開口する工程」に相当する。 そして、引用発明の「フォトダイオード層」の「薄いn^(-)層」である「Ga_(0.47)In_(0.53)As光吸収層」は、本願発明の「InP基板よりも小さいバンドギャップエネルギを有する受光層」に相当するところ、引用発明の「塩化物気相エピタクシー(PVE)により段を有する基板表面にフォトダイオード層を成長させ、ウェルを埋めるために二層のフォトレジスト層(AZ-4620、Shipley)の輪郭が描かれ、200℃で焼かれ、再度イオンビームエッチングを実施し、フォトダイオード層が、半絶縁性のInP基板のウェルに埋め込まれ」る工程は、本願発明の「前記凹部に、前記InP基板よりも小さいバンドギャップエネルギを有する受光層を形成する工程」に相当する。 2 一致点及び相違点 よって、本願発明と引用発明は、 「近赤外波長領域に受光感度を有するIII-V族半導体による受光素子の製造方法であって、 InP基板に、受光部に対応する位置に凹部を開口する工程と、 前記凹部に、前記InP基板よりも小さいバンドギャップエネルギを有する受光層を形成する工程とを備える、受光素子の製造方法。」 の発明である点で一致し、両者に格別相違することが存在しない。 3 当審の判断 よって、本願発明は引用発明であるということができるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができない。 第6 結語 以上のとおり、本願発明は引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない。したがって、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 |
審理終結日 | 2015-10-19 |
結審通知日 | 2015-10-21 |
審決日 | 2015-11-06 |
出願番号 | 特願2011-55620(P2011-55620) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 濱田 聖司 |
特許庁審判長 |
森林 克郎 |
特許庁審判官 |
今浦 陽恵 井口 猶二 |
発明の名称 | 受光素子、その製造方法および検出装置 |
代理人 | 後 利彦 |
代理人 | 二島 英明 |
代理人 | 木村 成利 |
代理人 | 緒方 大介 |
代理人 | 小村 修 |