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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1309092
審判番号 不服2015-166  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-05 
確定日 2015-12-24 
事件の表示 特願2011-129055「視差画像情報処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月27日出願公開、特開2012-255922〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下,「本願」という。)は,平成23年6月9日を出願日とする特許出願であって,その手続の経緯の概略は,以下のとおりである。
平成25年4月22日:拒絶理由通知(同年同月30日発送)
平成25年7月1日:手続補正書(以下,「補正1」という。),意見書
平成25年12月24日:拒絶理由通知(平成26年1月7日発送)
平成26年3月10日:意見書
平成26年9月24日:拒絶査定(同年同月30日送達)
平成27年1月5日:手続補正書(以下,「本件補正」という。)
平成27年1月5日:審判請求書

第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は,本件補正前,すなわち補正1の特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含む。なお,下線は補正箇所を示す。
(本件補正前)
「 液晶パネルの各縦画素に対して2視差以上の視差画像情報を割り当て,前記液晶パネルの前面に設けられた視差バリアの複数のスリットを介して立体画像を観賞する際の視差画像情報処理方法であって,
各視差画像情報を,各縦画素のそれぞれに対して,所定の分配の割合で割り当てることを特徴とする視差画像情報処理方法。」

(本件補正後)
「 液晶パネルの各縦画素に対して2視差以上の視差画像情報を割り当て,前記液晶パネルの前面に設けられた視差バリアの複数のスリットを介して立体画像を観賞する際の視差画像情報処理方法であって,
各視差画像情報を,前記液晶パネルと,前記視差バリアと,前記立体画像の鑑賞者の視点との位置関係に依存して,各縦画素を構成する複数のサブピクセルにまたがって,前記視差画像情報の分配される値を算出することを特徴とする視差画像情報処理方法。」

2 補正の適否(補正の目的要件)について
本件補正は,本件補正前の請求項1で特定されていた「各視差画像情報を,各縦画素のそれぞれに対して,所定の分配の割合で割り当てること」について,「各視差画像情報を,前記液晶パネルと,前記視差バリアと,前記立体画像の鑑賞者の視点との位置関係に依存して,各縦画素を構成する複数のサブピクセルにまたがって,前記視差画像情報の分配される値を算出すること」と限定したものである。
よって,請求項1についての本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 補正の適否(独立特許要件)について
そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(本件補正後)に記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項,引用発明
ア 引用例1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に頒布された刊行物である,特表2009-500648号公報(発明の名称:最適視距離への適合を伴うオートステレオスコピック表示の方法およびデバイス,出願人:アルティスティック イマージュ,公表日:平成21年1月8日,以下,「引用例1」という。)には,次の事項(a)ないし(g)が図面とともに記載されている。なお,下線は,当審が付与した。
(a)
「【0003】
現在,眼鏡なしのオートステレオスコピック表示用のデバイスを作成する方法が知られている。これらのデバイスは,一方では,例えば液晶テクノロジまたはプラズマ・テクノロジに基づく2次元画面と,他方では,その2次元画面から短い距離に配置された2D-3D変換画面から成る。この変換画面は,例えば,不透明の微細な帯および透明の微細な帯の交番からなるパララックス・バリヤ(parallax barrier),または,互いに平行な半円柱レンズの層を含むレンティキュラ(lenticular)ネットワークのいずれかから成るものとすることができる。
【0004】
変換画面は,オートステレオスコピック表示デバイスを見る人の右目および左目に異なる情報を送ることを可能にする,2次元画面の画素の角度選択を可能にし,2次元表示画面の連続する画素が,同一シーンの角度的に僅かにオフセットしたP個の視点を符号化する場合に,見る人に立体の印象を与える。
【0005】
オートステレオスコピック表示デバイスの最適視距離Doptは,前記オートステレオスコピック・デバイスの構成要素の幾何学的特性,および,物理的特性に依存する。見る人とオートステレオスコピック・デバイスとの間の距離DがDoptと大きく異なれば異なるほど,見る人によって知覚される3次元イメージがぼけ,見るのに不快になる。」
(b)
「【0009】
本発明の課題は,オートステレオスコピック・デバイスを構成する要素の1つを移動することなく,オートステレオスコピック・デバイスの最適視距離Doptを適合させる方法を提案することにある。」
(c)
「【0011】
用語「イメージ画素」は,単一の視点に関するマトリックス・イメージの単色情報,または,カラー情報の画素を指す。用語「3Dイメージ画素」は,P個の視点を組み合わせるマトリックス・イメージ上の情報の画素を指し,P個のイメージ画素が,1つの3Dイメージ画素を形成する。用語「画面画素」は,表示画面の物理的な画素を指す。単一画面上で,画面画素のすべてが,同一の色を有するものとすることができ,あるいは,例えば赤,緑,および,青など,異なる色の複数のセルを含むことができる。これらのカラー・セルは,必ずしも接続されない。カラー情報は,イメージ画素と画面画素との間ですべての色について同一の形で渡される。すべてがP個の視点を含む複数の画面画素が,1つの3D画面画素を形成する。」
(d)
「【0018】
本発明による表示画面は,プラズマ・テクノロジ,液晶(LCD),または,任意の他のマトリックス・テクノロジを含む電子画面を含むことができる。
【0019】
本発明による変換画面は,例えば,レンティキュラ・ネットワーク,または,パララックス・バリヤを含むことができる。」
(e)
「【0021】
まず,図1を参照して,従来技術によるオートステレオスコピック表示デバイスの例を説明する。
【0022】
従来技術のオートステレオスコピック表示デバイス1は,マトリックス表示画面2と,平行な半円柱レンズの層を含むレンティキュラ変換ネットワーク3とを含む。この変換ネットワーク3は,前記表示画面2の前で,前記レンティキュラ変換ネットワーク3の半円柱レンズの焦点距離fとほぼ等しい距離に配置される。
【0023】
レンティキュラ変換ネットワーク3は,表示画面2によって送られるマトリックス・イメージを受け取り,光学的に処理するように配置され,前記マトリックス・イメージは,同一シーンの複数P個の視点を一体化するために符号化され,前記表示画面2は,それぞれが3つのカラー・セルを含む画面画素のマトリックスを含む。処理されたイメージによって,オートステレオスコピック表示デバイスを見る人4の左目LEおよび右目REは,異なる情報を受け取り,したがって,見る人に立体の印象を与える。
【0024】
最適視距離Doptは,見る人の目が,レンティキュラ・ネットワークを介して表示画面全体で単一の視点を見る距離である。目が有限の距離にある時に,同時に見られる画面画素(表示画面2上の小さい暗い正方形の形で図示)は,画面から目を隔てる距離Dに依存する。したがって,レンティキュラ・ネットワークおよび表示画面の寸法が,所与のDopt距離で最適になるように計画される場合に,これらは,別の距離では最適ではない。
【0025】
マトリックス・イメージをマトリックス表示画面上で符号化することが望ましい。立体効果は,必ず,目の形態学に起因して,水平効果でなければならない。したがって,実体映像の符号化は,必ず水平でなければならない。これが,下で表示画面の画面画素の2Dマトリックスの水平線を考慮する理由である。本発明を例示するために,次の場合を検討する。
-マトリックス・イメージは,同一シーンのP個の視点を一体化してイメージ画素を構成し,P個のイメージ画素が,P個の異なる視点を一体化する3Dイメージ画素を形成する。Vj(k-3D)は,k番目の3Dイメージ画素のj番目の視点のイメージ画素を定義する。
-表示画面は,一定の幅pxの画面画素のマトリックスを含み,複数の画面画素のすべてが,1つの3D画面画素を形成する同一シーンのP個の視点を含む。P(i)は,i番目の画面画素を定義する。
-変換画面は,互いに平行な半円柱レンズの層を含むレンティキュラ・ネットワークであり,この半円柱レンズは,prlと等しい幅およびfと等しい焦点距離を有する。」
(f)
「【0028】
オートステレオスコピック・デバイスを変更せずに,レンティキュラ・ネットワークのピッチprl,半円柱レンズの焦点f,または,表示画面の画面画素の幅pxを変更することは,不可能である。しかし,オートステレオスコピック・デバイスの最適視距離を値Doptから新しい値NDoptに適合させることが望ましい場合には,見る人によって見られる3D画面画素の幅p3Dを新しい値Np3Dによって計算的に変更することが可能である。
【0029】
これらの量は,次の関係によって関連する。
Np3D=prl*(NDopt+f)/NDopt
【0030】
より正確には,望まれる見かけの画素ピッチを用いて得られる情報が,画面画素に送られる。このことは,帰するところ,画面画素に,見る人に与えられる情報の位置を物理的に変更するためのビューのパーセンテージを送ることになる。
-NDopt>Doptの場合には,Np3D<p3Dであり,見掛けのサイズを減らす必要があり,3D画面画素あたりの縮小率は,
(p3D-Np3D)/px
になる。
-NDopt<Doptの場合には,Np3D>p3Dであり,見掛けのサイズを増やす必要があり,3D画面画素あたりの増大率は,
(Np3D-p3D)/px
になる。
【0031】
図3には,P=9であり,3D画面画素の見掛けの水平サイズが,単一の画面画素のサイズの10%だけ減らされる(3D画面画素の見掛けのサイズの約1.1%の縮小)場合が示されている。この例では,3D画面画素の10%のサイズ縮小は,3Dイメージ画素(この図では灰色)のそれぞれの最初の視点に帰せられる。実行される動作は,次の通りである。
P(1)=0.9*V1(1-3D)+0.1*V2(1-3D)
P(2)=0.9*V2(1-3D)+0.1*V3(1-3D)
P(3)=0.9*V3(1-3D)+0.1*V4(1-3D)
P(4)=0.9*V4(1-3D)+0.1*V5(1-3D)
P(5)=0.9*V5(1-3D)+0.1*V6(1-3D)
P(6)=0.9*V6(1-3D)+0.1*V7(1-3D)
P(7)=0.9*V7(1-3D)+0.1*V8(1-3D)
P(8)=0.9*V8(1-3D)+0.1*V9(1-3D)
P(9)=0.9*V9(1-3D)+0.1*V1(2-3D)
P(10)=0.8*V1(2-3D)+0.2*V2(2-3D)
P(11)=0.8*V1(2-3D)+0.2*V3(2-3D)

P(18)=0.8*V9(2-3D)+0.2*V1(3-3D)
P(19)=0.7*V1(3-3D)+0.3*V2(3-3D)

P(45)=0.5*V9(5-3D)+0.5*V1(6-3D)
P(46)=0.4*V1(6-3D)+0.6*V2(6-3D)
P(47)=0.4*V2(6-3D)+0.6*V3(6-3D)
【0032】
したがって,この場合においては,縮小は,3D画面画素ごとに実行される。」
(g)
「【0037】
もちろん,本発明は,上で説明した例に限定されず,多数の変更を,本発明の範囲を超えずにこれらの例に対して行うことができる。具体的に言うと,1つまたは複数のイメージ画素を1つまたは複数の画面画素と組み合わせる多数の形があり,さらに,後者を,同一のオートステレオスコピック・デバイス内で互いに組み合わせることができる。最後に,本発明を,多数のタイプのマトリックス構造表示画面またはパララックス・バリヤなどの他のタイプの変換画面と共に実施することができる。」

イ 引用発明
以上の引用例1に記載された事項から,引用例1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)を認定することができる。なお,参考のため,括弧内に引用箇所の段落番号を付記する。

「(【0009】)オートステレオスコピック・デバイスを構成する要素の1つを移動することなく,オートステレオスコピック・デバイスの最適視距離Doptを適合させる方法であって,
(【0011】)用語「イメージ画素」は,単一の視点に関するマトリックス・イメージの単色情報,または,カラー情報の画素を指し,
用語「3Dイメージ画素」は,P個の視点を組み合わせるマトリックス・イメージ上の情報の画素を指し,
用語「画面画素」は,表示画面の物理的な画素を指し,単一画面上で,画面画素のすべてが,同一の色を有するものとすることができ,あるいは,例えば赤,緑,および,青など,異なる色の複数のセルを含むことができ,
(【0018】)表示画面は,液晶(LCD)を含む電子画面を含み,
(【0025】)マトリックス・イメージは,同一シーンのP個の視点を一体化してイメージ画素を構成し,
Vj(k-3D)は,k番目の3Dイメージ画素のj番目の視点のイメージ画素を定義し,
表示画面は,一定の幅pxの画面画素のマトリックスを含み,複数の画面画素のすべてが,1つの3D画面画素を形成する同一シーンのP個の視点を含み,
P(i)は,i番目の画面画素を定義し,
変換画面は,互いに平行な半円柱レンズの層を含むレンティキュラ・ネットワークであり,
(【0023】)レンティキュラ変換ネットワーク3は,表示画面2によって送られるマトリックス・イメージを受け取り,光学的に処理するように配置され,前記マトリックス・イメージは,同一シーンの複数P個の視点を一体化するために符号化され,前記表示画面2は,それぞれが3つのカラー・セルを含む画面画素のマトリックスを含み,処理されたイメージによって,オートステレオスコピック表示デバイスを見る人4の左目LEおよび右目REは,異なる情報を受け取り,したがって,見る人に立体の印象を与え,
(【0005】)オートステレオスコピック表示デバイスの最適視距離Doptは,前記オートステレオスコピック・デバイスの構成要素の幾何学的特性,および,物理的特性に依存し,
(【0028】)オートステレオスコピック・デバイスの最適視距離を値Doptから新しい値NDoptに適合させることが望ましい場合には,見る人によって見られる3D画面画素の幅p3Dを新しい値Np3Dによって計算的に変更することが可能であり,
(【0030】)
NDopt>Doptの場合には,Np3D<p3Dであり,見掛けのサイズを減らす必要があり,
NDopt<Doptの場合には,Np3D>p3Dであり,見掛けのサイズを増やす必要があり,
(【0031】)
P=9であり,3D画面画素の見掛けの水平サイズが,単一の画面画素のサイズの10%だけ減らされる場合,実行される動作は,次の通りである,
P(1)=0.9*V1(1-3D)+0.1*V2(1-3D)
P(2)=0.9*V2(1-3D)+0.1*V3(1-3D)
P(3)=0.9*V3(1-3D)+0.1*V4(1-3D)
P(4)=0.9*V4(1-3D)+0.1*V5(1-3D)
P(5)=0.9*V5(1-3D)+0.1*V6(1-3D)
P(6)=0.9*V6(1-3D)+0.1*V7(1-3D)
P(7)=0.9*V7(1-3D)+0.1*V8(1-3D)
P(8)=0.9*V8(1-3D)+0.1*V9(1-3D)
P(9)=0.9*V9(1-3D)+0.1*V1(2-3D)
P(10)=0.8*V1(2-3D)+0.2*V2(2-3D)
P(11)=0.8*V1(2-3D)+0.2*V3(2-3D)

P(18)=0.8*V9(2-3D)+0.2*V1(3-3D)
P(19)=0.7*V1(3-3D)+0.3*V2(3-3D)

P(45)=0.5*V9(5-3D)+0.5*V1(6-3D)
P(46)=0.4*V1(6-3D)+0.6*V2(6-3D)
P(47)=0.4*V2(6-3D)+0.6*V3(6-3D)
方法。」

(3)対比

本件補正発明と引用発明とを,主たる構成要件毎に順次対比する。

引用発明において,「表示画面は,液晶(LCD)を含む電子画面を含」むことから,引用発明の「表示画面」は,本件補正発明の「液晶パネル」に相当する。

この相当関係,及び,液晶パネルの表示画素は,縦,横のマトリックスに配置された画素からなることを踏まえると,引用発明における「用語「画面画素」は,表示画面の物理的な画素を指し,単一画面上で,画面画素のすべてが,同一の色を有するものとすることができ,あるいは,例えば赤,緑,および,青など,異なる色の複数のセルを含む」ことの,「表示画面の物理的な画素」及び「赤,緑,および,青など,異なる色の複数のセル」は,それぞれ,本件補正発明の「液晶パネルの各縦画素」及び「各縦画素を構成する複数のサブピクセル」に相当する。

以上の相当関係及びレンティキュラ・ネットワークもパララックス・バリヤ(視差バリア)も変換画面であること(引用例1段落0019参照)を踏まえると,引用発明の「レンティキュラ変換ネットワーク3は,表示画面2によって送られるマトリックス・イメージを受け取り,光学的に処理するように配置され,前記マトリックス・イメージは,同一シーンの複数P個の視点を一体化するために符号化され,前記表示画面2は,それぞれが3つのカラー・セルを含む画面画素のマトリックスを含み,処理されたイメージによって,オートステレオスコピック表示デバイスを見る人4の左目LEおよび右目REは,異なる情報を受け取り,したがって,見る人に立体の印象を与え」ることをする「方法」と,本件補正発明の「液晶パネルの各縦画素に対して2視差以上の視差画像情報を割り当て,前記液晶パネルの前面に設けられた視差バリアの複数のスリットを介して立体画像を観賞する際の視差画像情報処理方法」とは,共に,「液晶パネルの各縦画素に対して2視差以上の視差画像情報を割り当て,前記液晶パネルの前面に設けられた変換画面を介して立体画像を観賞する際の視差画像情報処理方法」の点で,共通する。

引用発明において,「オートステレオスコピック表示デバイスの最適視距離Doptは,前記オートステレオスコピック・デバイスの構成要素の幾何学的特性,および,物理的特性に依存」するから,「見る人とオートステレオスコピック・デバイスとの間の距離D」(引用例1段落0005参照。)が変われば,表示画面(液晶を含む電子画面)と変換画面(互いに平行な半円柱レンズの層を含むレンティキュラ・ネットワーク)との幾何学的関係が変わることになる。そして,最適視距離Doptから新しい値NDoptになると,例えば,NDopt>Doptの場合(見る人とオートステレオスコピック・デバイスとの間の距離Dが長くなる場合),見る人によって見られる3D画面画素の幅p3Dを新しい値Np3Dによって計算的に変更し,見掛けのサイズを減らし,NDopt<Doptの場合(見る人とオートステレオスコピック・デバイスとの間の距離Dが短くなる場合),見る人によって見られる3D画面画素の幅p3Dを新しい値Np3Dによって計算的に変更し,見掛けのサイズを増やし,3D画面画素の見掛けの水平サイズに応じて,P(i)(i番目の画面画素)を算出している。
例えば,P=9であり,3D画面画素の見掛けの水平サイズが,単一の画面画素のサイズの10%だけ減らされる場合,
P(4)=0.9*V4(1-3D)+0.1*V5(1-3D)
P(5)=0.9*V5(1-3D)+0.1*V6(1-3D)
P(6)=0.9*V6(1-3D)+0.1*V7(1-3D)
のように実行され,1番目の3Dイメージ画素の5番目の視点のイメージ画素(V5(1-3D))に注目すれば,画面画素P(5)に1対1対応するのではなく,P(5)の一部(V5(1-3D)の9割)とP(4)の一部(V5(1-3D)の1割)にまたがって分配されている。そして,5番目の画面画素P(5)に注目すれば,3Dイメージ画素の5番目の視点のイメージ画素の9割と6番目の視点のイメージ画素の1割の合計として算出される。そして,前記分配の比率は,「見る人とオートステレオスコピック・デバイスとの間の距離D」に応じて変化し,オートステレオスコピック・デバイスの構成要素の幾何学的関係から決まるものであることは,当業者ならば明らかである。

そして,画面画素が「赤,緑,および,青など,異なる色の複数のセルを含む」,つまり,複数のサブピクセルからなることを踏まえると,引用発明の「オートステレオスコピック・デバイスの最適視距離を値Doptから新しい値NDoptに適合させることが望ましい場合には,見る人によって見られる3D画面画素の幅p3Dを新しい値Np3Dによって計算的に変更することが可能であり,NDopt>Doptの場合には,Np3D<p3Dであり,見掛けのサイズを減らす必要があり,NDopt<Doptの場合には,Np3D>p3Dであり,見掛けのサイズを増やす必要があり,」「3D画面画素の見掛けの水平サイズ」に応じて,P(i)(i番目の画面画素)を算出することは,本件補正発明の「各視差画像情報を,前記液晶パネルと,前記視差バリアと,前記立体画像の鑑賞者の視点との位置関係に依存して,各縦画素を構成する複数のサブピクセルにまたがって,前記視差画像情報の分配される値を算出する」とは,共に,「各視差画像情報を,前記液晶パネルと,前記変換画面と,前記立体画像の鑑賞者の視点との位置関係に依存して,各縦画素を構成する複数のサブピクセルにまたがって,前記視差画像情報の分配される値を算出する」点で,共通する。


以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(一致点)
「 液晶パネルの各縦画素に対して2視差以上の視差画像情報を割り当て,前記液晶パネルの前面に設けられた変換画面を介して立体画像を観賞する際の視差画像情報処理方法であって,
各視差画像情報を,前記液晶パネルと,前記変換画面と,前記立体画像の鑑賞者の視点との位置関係に依存して,各縦画素を構成する複数のサブピクセルにまたがって,前記視差画像情報の分配される値を算出することを特徴とする視差画像情報処理方法。」

(相違点)
変換画面について,本件補正発明は,複数のスリットのある「視差バリア」であるのに対し,引用発明は,「互いに平行な半円柱レンズの層を含むレンティキュラ・ネットワーク」である点。

(4)判断
以下,相違点について検討する。
引用例1には、不透明の微細な帯および透明の微細な帯の交番からなるパララックス・バリヤなどの他のタイプの変換画面と共に実施することができる(【0003】,【0037】)ことが記載されている。
ここで,「不透明の微細な帯および透明の微細な帯の交番からなる」ことは,「複数のスリット」を意味するものであるから,引用発明における「互いに平行な半円柱レンズの層を含むレンティキュラ・ネットワーク」を「不透明の微細な帯および透明の微細な帯の交番からなるパララックス・バリヤ」にすること,つまり,変換画面として,複数のスリットのある「視差バリア」を採用し,本願補正発明のようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

よって,本件補正発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)請求人の主張について


審判請求人は,「引用文献1には,この構成の具体的手法として,最適視距離の変更に伴って,3D画面画素の幅p3Dを新しい値Np3Dによって計算的に変更することで3D画面画素の見掛けのサイズの縮小や拡大を行うこと(段落[0028]?[0032]が記載されていますが,これは,3D画面画素の幅「p3D」や「Np3D」を変更する際の算出そのものが記載されているものであり,この記載自体が特定の構成を表しているものではありません。」と主張している。(審判請求書第8頁末行から第9頁第8行まで)

しかしながら,引用例1には,視点の数が9個(P=9)の場合のP(i)(i番目の画面画素)を求める式が記載されていることから,3D画面画素の幅「p3D」や「Np3D」を変更する際の算出にとどまるものではない。
そして,P(i)(i番目の画面画素)を求める式は,最適視距離の変更に伴ってオートステレオスコピック・デバイスの構成要素の幾何学的関係から決まるものであり,特定の構成を表しているといえる。
よって,上記審判請求人の主張は採用できない。


審判請求人は,引用発明は,「スリット」の幅を変更する構成を備え,問題があるとする主張をしている。(審判請求書第9頁第9行から下から2行まで)
しかしながら,引用発明は,「オートステレオスコピック・デバイスを構成する要素の1つを移動することなく,オートステレオスコピック・デバイスの最適視距離Doptを適合させる方法」であるから,距離に応じて実際のスリットの幅を変更するということは,想定していない。
よって,引用発明は,「スリット」の幅を変更する構成を備え,問題があるとする主張自体が妥当ではなく,採用することはできない。


審判請求人は,引用文献1には,パララックス・バリヤ方式に適用する,具体的な記載も示唆もないと主張している。(審判請求書第9頁末行から第10頁下から第7行まで)

しかしながら,引用発明において「変換画面は,オートステレオスコピック表示デバイスを見る人の右目および左目に異なる情報を送ることを可能にする,2次元画面の画素の角度選択を可能にし,2次元表示画面の連続する画素が,同一シーンの角度的に僅かにオフセットしたP個の視点を符号化する場合に,見る人に立体の印象を与え」るものであり,「互いに平行な半円柱レンズの層を含むレンティキュラ・ネットワーク」及び「不透明の微細な帯および透明の微細な帯の交番からなるパララックス・バリヤ」は,両者とも同様の機能を果たすものである。
また,両者とも、「見る人とオートステレオスコピック・デバイスとの間の距離D」(引用例1段落0005参照。)が変化すれば,表示画面(液晶を含む電子画面)と変換画面との幾何学的関係が変化するものであり、パララックス・バリヤ方式を採用した場合においても,見る人との間の距離と,表示画面と,「不透明の微細な帯および透明の微細な帯の交番からなるパララックス・バリヤ」との幾何学的関係を考慮して,分配の比率やP(i)(i番目の画面画素)を算出することは,当業者ならば容易に行えることである。
そして,引用例1(段落0037)には,パララックス・バリヤ方式を適用することの示唆が明確に記載されており,具体的な記載はなくとも,当業者ならば,パララックス・バリヤ方式を適用し得るものと認められるから,上記審判請求人の主張は採用できない。

4 補正の適否についてのまとめ
上記「3 補正の適否(独立特許要件)について」のとおり,本件補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし5に係る発明は,補正1の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであり,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,上記「第2 1(本件補正前)」に記載したとおりの

ものである。

2 引用例記載の事項,引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例に記載の事項,引用発明は,上記「第2 3(2)」に記載したとおりである。

3 対比,判断
本願発明は,本件補正発明の,「各視差画像情報を,前記液晶パネルと,前記視差バリアと,前記立体画像の鑑賞者の視点との位置関係に依存して,各縦画素を構成する複数のサブピクセルにまたがって,前記視差画像情報の分配される値を算出すること」の「視差画像情報の分配」について、「前記液晶パネルと,前記視差バリアと,前記立体画像の鑑賞者の視点との位置関係に依存」する点、及び「複数のサブピクセルにまたが」る点を削除し,「値を算出すること」から、算出する工程が特定されていない「それぞれに対して」「割合で割り当てる」に変更したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,上記「第2 3 (3),(4)」に記載したとおり,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-22 
結審通知日 2015-10-27 
審決日 2015-11-10 
出願番号 特願2011-129055(P2011-129055)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 575- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 仁之  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 森 竜介
堀 圭史
発明の名称 視差画像情報処理方法  
代理人 佐野 弘  
代理人 石井 明夫  

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