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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02G
管理番号 1309095
審判番号 不服2015-1306  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-23 
確定日 2015-12-24 
事件の表示 特願2011-208573「合成樹脂製のケーブル・配管類保護案内部材」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月18日出願公開、特開2013- 70552〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成23年9月26日の出願であって、平成26年2月18日付けの拒絶理由通知に対して、同年3月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年1月23日に拒絶査定を不服とする審判の請求がなされたものである。

第2.本願発明に対する判断
1.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、出願時の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されている事項によって特定されるものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「ケーブル・配管類のケーブル長手方向に沿って延在する帯状基部と該帯状基部の左右両側縁に沿って一体に連続成形されてケーブル・配管類をケーブル長手方向に沿って保持する周壁部で囲繞されたチューブ状のケーブル収容空間内にケーブル・配管類を配置するとともに、前記ケーブル・配管類をU字状に屈曲させながら保護案内する合成樹脂製のケーブル・配管類保護案内部材であって、
前記周壁部が、ケーブル収容空間をケーブル長手方向と直交する方向に切断するような切り込み部分を介した状態で配置され、
前記帯状基部が、前記ケーブル・配管類の直線姿勢を保持した状態で前記周壁部の左右両側縁の間に配置されてケーブル収容空間の内側へ膨らんだアーチ状曲面を形成することを特徴とする合成樹脂製のケーブル・配管類保護案内部材。」

2.引用例の記載事項と引用発明
(1)引用例
本願の出願前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶理由通知で引用された刊行物である、特開2008-44490号公報(以下「引用例」という。)には、「スライドドア用給電装置」(発明の名称)に関して、図1?図16とともに、以下の事項が記載されている。(下線は、参考のため、当審において付したものである。以下同じ。)。

ア.「【0025】
本実施形態のスライドドア用給電装置100では、配線体130及び外装チューブ131が弛んだときにもガイドレール収納部143から外部にはみ出さないよう、外装チューブ131を図3に示すような構造としている。図3は、外装チューブ131の(a)平面図、(b)側面図、及び(c)A-A線における断面図、をそれぞれ示している。外装チューブ131は、上面132、下面133、及び2つの側面134で囲まれた中空部135が長手方向に形成されており、この中空部135の中に配線体130を収納する構造となっている。外装チューブ131の材料として、例えばポリプロピレン等の合成樹脂を用いることができる。以下、他の実施形態でも同様の材料を用いて外装チューブを形成することができる。」

イ.「【0041】
本発明の第6の実施形態に係るスライドドア用給電装置を、図14に示す実施例を用いて説明する。図14は、本実施形態のスライドドア用給電装置で用いる外装チューブ631の構造を示しており、(a)は外装チューブ631の平面図、(b)は側面図、及び(c)はA-A線における断面図、をそれぞれ示している。
【0042】
本実施形態の外装チューブ631は、図14(c)に示すように、上面632及び下面633の断面がともに上に凸に膨らんだ円弧の形状を有するものである。断面が図14(c)に示すような円弧を形成することにより、外装チューブ631は屈曲しにくい形状となる。特に、円弧状に膨らんでいる上面632を内側にして屈曲するのが困難な形状となっており、屈曲する場合には上面632を外側にして屈曲する。外装チューブ631を屈曲させた1実施例を図15に示す。
【0043】
図15は、外装チューブ631が円弧状に膨らんだ上面632を外側にして屈曲したときの曲折部636の例を示している。外装チューブ631を屈曲させると、曲折部636で円弧が平坦になって鋭角状に屈曲する。すなわち、本実施形態の外装チューブ631でも、第5の実施形態の外装チューブ531と同様に、曲折部636が鋭角に折れ曲がるようになる。このように、本実施形態の外装チューブ631でも、鋭角に折れ曲がることで外装チューブ631が膨らんでガイドレール収納部の外部に露出するのを防止することができる。
【0044】
上記説明の通り、本発明のスライドドア用給電装置のいずれの実施形態においても、外装チューブを上記のような構造とすることにより、スライドドアの開閉中は曲折部が一つだけ形成されるようにすることができ、外装チューブ及びこれに収納される配線体をガイドレール収納部の内部で安定に移動させることが可能となる。」

ウ.「第6の実施形態に係る外装チューブの構造を示す図」である図14には、外装チューブ631は、長手方向に延在する下面633、上面632、及び、2つの側面で囲まれた、長手方向に延在する中空部を有すること、及び、外装チューブ631が直線状態のとき、短手方向の断面が湾曲していることが示されている。

(2)引用発明
ア.上記2.(1)ウで指摘した図14の図示態様から、引用例には、外装チューブ631が、長手方向に延在する下面633、上面632、及び、2つの側面で囲まれた、長手方向に延在する中空部を有することが記載されている。

イ.引用例の段落【0044】の「上記説明の通り、本発明のスライドドア用給電装置のいずれの実施形態においても、外装チューブを上記のような構造とすることにより、スライドドアの開閉中は曲折部が一つだけ形成されるようにすることができ、外装チューブ及びこれに収納される配線体をガイドレール収納部の内部で安定に移動させることが可能となる。」という記載から、引用例には、「外装チューブ」及びこれに「収納」される「配線体」が記載されている。すなわち、引用例には、「外装チューブ」に「配線体」を「収納」することが記載されている。

ウ.引用例の段落【0025】の「外装チューブ131の材料として、例えばポリプロピレン等の合成樹脂を用いることができる。以下、他の実施形態でも同様の材料を用いて外装チューブを形成することができる。」という記載から、引用例には、「外装チューブ」の材料として「合成樹脂」を用いることが記載されている。

エ.上記2.(1)ウで指摘した図14の図示態様から、引用例には、外装チューブ631が直線状態のとき、短手方向の断面が湾曲していることが記載されている。
また引用例の段落【0042】の「本実施形態の外装チューブ631は、図14(c)に示すように、上面632及び下面633の断面がともに上に凸に膨らんだ円弧の形状を有するものである。」という記載から、引用例には、「下面633」の断面が「上に凸」に膨らんだ円弧の形状を有することが記載されている。
以上をまとめると、引用例には、外装チューブ631は、直線状態のとき、短手方向の断面が湾曲しており、「下面633」の断面が「上に凸」に膨らんだ円弧の形状を有することが記載されている。

オ.引用例の段落【0044】の「上記説明の通り、本発明のスライドドア用給電装置のいずれの実施形態においても、外装チューブを上記のような構造とすることにより、スライドドアの開閉中は曲折部が一つだけ形成されるようにすることができ、外装チューブ及びこれに収納される配線体をガイドレール収納部の内部で安定に移動させることが可能となる。」という記載から、引用例には、「スライドドアの開閉中」、「外装チューブ」及びこれに「収納」された「配線体」は「ガイドレール収納部」の内部で「移動」することが記載されている。
また上記段落【0044】の「外装チューブを上記のような構造とすることにより、スライドドアの開閉中は曲折部が一つだけ形成されるようにすることができ、」という記載から、引用例において、「スライドドアの開閉中」、「外装チューブ」が屈曲していることは明らかである。
以上をまとめると、引用例には、「スライドドアの開閉中」、「外装チューブ」は屈曲し、「外装チューブ」及びこれに「収納」された「配線体」は「ガイドレール収納部」の内部で「移動」することが記載されている。

カ.以上のア?オの開示内容を総合すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「長手方向に延在する下面633、上面632、及び、2つの側面で囲まれた、長手方向に延在する中空部を有し、配線体を収納した、材料として合成樹脂を用いる外装チューブ631であって、
前記外装チューブ631は、直線状態のとき、短手方向の断面が湾曲しており、前記下面633の断面が上に凸に膨らんだ円弧の形状を有し、
スライドドアの開閉中、前記外装チューブ631は屈曲し、前記外装チューブ631及びこれに収納された前記配線体はガイドレール収納部の内部で移動する、外装チューブ631。」

3.対比
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア.引用発明において、「外装チューブ631」は「配線体」を「収納」していることから、「外装チューブ631」の「長手方向」と「配線体」の「長手方向」が等しいことは明らかであり、引用発明における「下面633」は、本願発明における「帯状基部」に相当し、引用発明における「上面632、及び、2つの側面」は、本願発明における「周壁部」に相当する。
そして、引用発明の「外装チューブ631」は「長手方向に延在する下面633」だけでは中空部を形成できないところ、「上面632、及び、2つの側面」を備えることにより中空部が形成されるものであり、配線体は該中空部に収納されることで長手方向に沿って保持されるものと認められる。
したがって、引用発明における「長手方向に延在する下面633、上面632、及び、2つの側面で囲まれた、長手方向に延在する中空部を有し、配線体を収納」することと、本願発明における「ケーブル・配管類のケーブル長手方向に沿って延在する帯状基部と該帯状基部の左右両側縁に沿って一体に連続成形されてケーブル・配管類をケーブル長手方向に沿って保持する周壁部で囲繞されたチューブ状のケーブル収容空間内にケーブル・配管類を配置する」こととは、「ケーブル・配管類のケーブル長手方向に沿って延在する帯状基部とケーブル・配管類をケーブル長手方向に沿って保持する周壁部で囲繞されたチューブ状のケーブル収容空間内にケーブル・配管類を配置する」という点で共通する。

イ.引用発明において、「外装チューブ631」は「配線体」を「収納」していることから、「外装チューブ631」が「配線体」を保護する機能を有していることは明らかである。
また引用発明において、外装チューブ631及びこれに収納された配線体はガイドレール収納部の内部で移動していることから、「外装チューブ631」はこれに収納される「配線体」を案内しているものと認められる。
したがって、引用発明における「スライドドアの開閉中、前記外装チューブ631は屈曲し、前記外装チューブ631及びこれに収納された前記配線体はガイドレール収納部の内部で移動」することと、本願発明における「前記ケーブル・配管類をU字状に屈曲させながら保護案内する」こととは、「前記ケーブル・配管類を屈曲させながら保護案内する」という点で共通する。

ウ.引用発明における「外装チューブ631の材料として合成樹脂を用いる」ことは、本願発明における「合成樹脂製」に相当する。

エ.上記イに記載したとおり、引用発明における「外装チューブ631」は「配線体」を保護案内しているものである。
したがって、引用発明における「外装チューブ631」は、本願発明における「ケーブル・配管類保護案内部材」に相当する。

オ.引用発明において、長手方向に延在する「中空部」は、長手方向に延在する「下面633」、「上面632」、及び、「2つの側面」で囲まれていることから、「下面633」が「2つの側面」の間に配置されていることは明らかである。
また引用発明において、「下面633」の断面が「上に凸」に膨らんでいることから、「下面633」は「中空部」の内側へ膨らんでいるものと認められる。
したがって、引用発明における「前記外装チューブ631は、直線状態のとき、短手方向の断面が湾曲しており、前記下面633の断面が上に凸に膨らんだ円弧の形状を有」することは、本願発明における「前記帯状基部が、前記ケーブル・配管類の直線姿勢を保持した状態で前記周壁部の左右両側縁の間に配置されてケーブル収容空間の内側へ膨らんだアーチ状曲面を形成する」ことに相当する。

(2)一致点と相違点
したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。

≪一致点≫
「ケーブル・配管類のケーブル長手方向に沿って延在する帯状基部とケーブル・配管類をケーブル長手方向に沿って保持する周壁部で囲繞されたチューブ状のケーブル収容空間内にケーブル・配管類を配置するとともに、前記ケーブル・配管類を屈曲させながら保護案内する合成樹脂製のケーブル・配管類保護案内部材であって、
前記帯状基部が、前記ケーブル・配管類の直線姿勢を保持した状態で前記周壁部の左右両側縁の間に配置されてケーブル収容空間の内側へ膨らんだアーチ状曲面を形成することを特徴とする合成樹脂製のケーブル・配管類保護案内部材。」

≪相違点1≫
本願発明は、「周壁部」が「帯状基部の左右両側縁に沿って一体に連続形成」されているのに対して、引用発明では、「上面632、及び、2つの側面」と「下面」がどのように形成されたものか特定されていない点。

≪相違点2≫
本願発明は、「ケーブル・配管類」を「U字状」に「屈曲」させるのに対し、引用発明ではその点が特定されていない点。

≪相違点3≫
本願発明は、「周壁部」が、「ケーブル収容空間をケーブル長手方向と直交する方向に切断するような切り込み部分を介した状態で配置され」るのに対し、引用発明ではその点が特定されていない点。

4.当審の判断
(1)相違点1に対する判断
ア.引用発明は、長手方向に延在する「下面633」、「上面632」、及び、「2つの側面」で囲まれた、長手方向に延在する「中空部」を有していることから、「2つの側面」が「下面633」の左右両側縁に沿っていることは明らかである。

イ.また、筒状部材を一体に連続形成する技術は、以下に示す周知例1?2に記載されるように周知である。

ウ.周知例1:特開2000-227145号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2000-227145号公報には、「ケーブルキャリア」(発明の名称)に関して、次の記載がある。

a.「【0011】上記のケーブルキャリアAはまず細長筒状体1を押出成形し、その後にカッターやプレス機によって切り込み部2を形成すればよい。筒状体1の材料としてはヒンジ特性に優れるポリプロピレンや強度に優れるナイロン、あるいは滑り特性に優れるポリエチレンなどがよいが、ポリプロピレンに潤滑剤を混入して滑りを良くすることもでき、これらの材料に限定されるものではない。」

エ.周知例2:特開平10-174248号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平10-174248号公報には、「ハーネス用プロテクタ」(発明の名称)に関して、図2とともに、次の記載がある。

a.「【0021】この実施形態では、前記プロテクタ本体29は、可撓性材料として、成形後に充分な可撓性を発揮できるオレフィン系エラストマーにより形成してある。前記プロテクタ本体29はオレフィン系エラストマーをダイスにより図2に示す角筒状の断面形状に押し出し成形し、その後に、使用に適した長さに切断することで形成される。なお、プロテクタ本体29は、曲げ易いように、上下に偏平にした筒体で、筒壁29aは両側部が厚肉にされており、この厚肉の両側部に前記塑性棒31が埋設されている。」

オ.引用発明における「外装チューブ631」は筒状部材であるから、引用発明に上記周知技術を適用して、長手方向に延在する下面633、上面632、及び、2つの側面を、一体に連続形成することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(2)相違点2、3に対する判断
ア.ケーブルを収納する部材において、当該部材の3面にケーブル収容空間をケーブル長手方向と直交する方向に切断するような切り込み部分を設ける技術は、以下に示す周知例3?4に記載されるように周知である。

イ.周知例3:特開2009-291060号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2009-291060号公報には、「ダクトの蓋又は連結具等の嵌合係止を容易にする嵌合係止構造。」(発明の名称)に関して、図1、2、4、5とともに、次の記載がある。

a.「【0017】
本発明の実施例を図面に基づいて説明すると、図1及び図2において、1はケーブルダクトで、該ケーブルダクト1は、端面略四角形状に折り曲げ形成した長手方向に連続する中空体で、該四角形状のケーブルダクト下面部1a中央に嵌合係止体2を設け、またその左右にケーブルダクト側面部1b、1cと、その上部側にケーブルダクト上面部1dをそれぞれ形成している。
【0018】
そして、該ケーブルダクト側面部1b、1cの下部近傍に穴部3、3を開設すると共に該穴部3、3を終端とする両側面からケーブルダクト上面部1dに至る間にスリット4を形成し、また長手方向に連続するそのケーブルダクト1に、上述した穴部3、3とスリット4を一組として所定間隔を持って形成することで、屈曲可能なケーブルダクト1として形成している。」

b.「【0024】
そして、屈曲可能なケーブルダクトとする場合は、図4に示すように、ケーブルダクト下面部1a、1aを屈曲開脚させ、ケーブルダクト上面部1dとケーブルダクト側面部1b、1cと共に略平面状態に保持し、その状態で、図5に示すように穴部3、3とスリット4を一組として、プレス加工機などで穴の開設及びスリットを形成すると共に同様のパターンを長手方向に所定間隔を持って形成し、または押出成形された略台形状のケーブルダクト1を、上述のようにプレス加工機などで穴の開設及びスリットを形成せず、ケーブルダクト1を押出成形されたそのままの状態の直線状ケーブルダクトとしての使用と、それぞれ用途により選ばれ使用する。
なお、図中13は、端面略四角形状に折り曲げた中空体に形成するための折り曲げ用のV溝で、該V溝13から折り曲げて端面略四角形状の中空体として形成する。」

ウ.周知例4:特開2010-7807号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2010-7807号公報には、「屈曲性外装部品」(発明の名称)に関して、図2?図4とともに、次の記載がある。

a.「【0002】
図4は、従来の屈曲性外装部品の一形態を示すものである(特許文献1参照)。
【0003】
この外装部品31は、合成樹脂材を押し出し成形して可撓性の長形の板材を形成し、板材をプレスで打ち抜き成形して長手直交方向の複数のスリット32とスリット端の孔部33とを等ピッチで並列に形成し、板材を矩形筒状に折り曲げ成形して、板材の側端部同士を突起34aと孔部34bとの差し込みで係止させ、底壁35aのみスリットのない可撓性の二重壁とし、底壁35aを除く部分を各スリット32で長手方向に分離して複数のコの字状の周壁36とし、底壁35aを屈曲内側として各周壁36を各スリット32からV字状に開かせて屈曲自在としたものである。
【0004】
外装部品31の内側空間には電線やホース等の線条材(図示せず)が屈曲自在に収容保護される。外装部品31は例えば車両用ドア開閉装置や車両用スライドシートや車両用伝導サンルーフ等に適用される。電線で電力を供給し、ホースで圧縮空気等を供給する。外装部品は例えばポリプロピレン製の樹脂フィルムで形成される。係止用の突起34aと孔部34bは何れも矩形状のものであり、突起34aは底壁35aの端部に設けられ、孔部34bは一側壁35bに設けられている。」

b.「【0027】
図2の押し出し成形後に、図3(b)の如く、右端の樹脂板部6’に係止用の複数の突起8が等ピッチで並列に打ち抜き成形され、左端の樹脂板部7’に係合用の複数の孔部9が等ピッチで並列に打ち抜き成形され、それらと同時に、または時間差をあけて、中央とその左右両側の樹脂板部10’?12’とヒンジ用の軟質樹脂部13’とに連続して横断方向の複数のスリット5が等ピッチで並列に打ち抜きないし切断形成され、且つ各スリット5の両端に円形の孔部14が打ち抜き形成される。」

エ.また、スリットを入れることで、円滑な屈曲が可能となることは、以下に示す周知例4?5に記載されるように周知である。

オ.周知例4:特開2010-7807号公報
上記4.(3)ウに記載した周知例4には、図1とともに、次の記載がある。

a.「【0018】
図1の如く、この屈曲性外装部品1は、合成樹脂を材料として、収容空間(物品挿通空間)2の三方を囲む断面略コの字状の複数の周壁3を屈曲内側の可撓性の二重壁4を基準として各スリット5から一方向に屈曲自在としたもので、二重壁4は内側の壁部6に略鉤状の突起8を有し、外側の壁部7に、突起8を係合させる略凸字状の孔部9を有したものである。」

カ.周知例5:特開2008-75726号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2008-75726号公報には、「折り曲げ式ケーブル類保護案内装置」(発明の名称)に関して次の記載がある。

a.「【0013】
そして、合成樹脂製テープが、直線移動時にテープ長手方向で隣接係合するとともに屈曲移動時にテープ長手方向の所定ピッチで相互に分離拡開する外周壁形成部分と左右一対の側壁形成部分と有していることにより、屈曲移動時に外周壁形成部分と左右一対の側壁形成部分とが屈曲移動半径に応じて分離拡開するため、円滑な屈曲移動を達成できる。」

キ.そしてケーブルを収納する部材に、剛性が高く変形しにくいという課題が内在していることは技術常識であることを踏まえれば、引用発明に上記課題を解決するための上記周知技術を適用して、外装チューブ631の上面632、及び、2つの側面に、ケーブル収容空間をケーブル長手方向と直交する方向に切断するような切り込み部分を設けることは、当業者であれば容易に想到し得たものと認められ、また、そのような切り込み部分を設けると、当該部材の屈曲部はU字状になるものと認められる。
よって、引用発明に上記周知技術を適用することで、相違点2及び3の構成とすることは、当業者が容易に発明できたものである。

(4)審判請求人の主張
ア.審判請求人は、審判請求書において、
「 そうしてみると、
上記から引用文献1には、以下の2つの課題がある。
(1)「配線体が見える」ことによる見栄えが悪くなる点。
(2)配線体ケーブルガイドに収納されているだけでは、配線を踏んで破損する点。
(中略)
*上記(1)の課題について*
同引用文献1の[0017]には、[効果]として、
「本発明によれば、スライドドアへの給電を行う配線体が外部に露出しないように配索されたスライドドア用給電装置を提供することができる。本発明のスライドドア用給電装置は、スライドドアの開閉に伴って配線体を収納する外装チューブがガイドレール収納部内を移動するように構成されていることから、配線体が外部に露出して破損したり見栄えを悪化させるのを防止することができる。」との記載がある。
そうしてみると、「配線体を収納する外装チューブがガイドレール収納部内を移動するように構成されている」点は、上述のとおり上記(2)の課題に対する解決手段であり、上記(1)の課題に対する解決手段ではない。
なぜなら、上記(1)の課題は、「配線体が見える」ことによる見栄えが悪くなる点を問題視しているものであり、いくら外装チューブをガイドレール内に収納して移動するように構成しても、外装チューブ自体にスリットが入っていれば、ガイドレール内を移動する配線体は、乗車者から見えてしまうので上記(1)の課題を解決することはできない。
なお、ガイドレールは、引用文献1の全文の何処にも四面(上下左右)をガードした密閉型である記載が無く、図1・図2・図5のどれを見ても、ガイドレール141内に収納された外装チューブ131は実線で描かれている点、外装チューブ131内に収納された配線体130は破線で描かれている点、図1・図2は平面図であり、図5も図1・図2と同じ絵であることから平面図であると推定できる点から、ガイドレール141は、乗車者から見える上面部分は開放されている構造であることが自明である。よって、外装チューブは、ガイドレール内に収納されている状態であっても、乗車者から見える。
従って[効果]に記載されている内容は、上記(2)の課題に対する解決手段のみが記載されており、上記(1)の課題に対する解決手段は記載されていない。
その点を踏まえて引用文献1全文を見ると、
「(1)「配線体が見える」ことによる見栄えが悪くなる点」に対する解決手段が何であるかの明記は何処にもない。
しかしながら、引用文献1の全文は、全て外装チューブをスリットレスで形成した場合において曲折部136、236,336,436,536,636でいかに外装チューブを曲がりやすく出来るかについて言及している。
そこを考えると、引用文献1の「(1)「配線体が見える」ことによる見栄えが悪くなる点」の問題点に対する解決手段は、外装チューブをスリットレスにし、配線体が見えてしまう見栄えの問題を解決しているとしか考えられない。
従って、引用文献1の外装チューブは、スリットレスであることが課題解決のために必須であるといえる。」
と主張している。

イ.引用例には以下の事項が記載されている。

a.「【0006】
しかしながら、特許文献1?3に記載のいずれのスライドドア用給電装置においても、スライドドアの開閉時に乗車者から配線体が見えてしまうため、見栄えが悪いといった問題があった。また、スライドドアを全開して乗下車する際に、配線体を踏んでしまう恐れもあった。配線体がケーブルガイドに収納されている特許文献3のスライドドア用給電装置では、ケーブルガイドを踏んで破損してしまう恐れがあった。」

b.「【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スライドドアへの給電を行う配線体が外部に露出しないように配索されたスライドドア用給電装置を提供することができる。本発明のスライドドア用給電装置は、スライドドアの開閉に伴って配線体を収納する外装チューブがガイドレール収納部内を移動するように構成されていることから、配線体が外部に露出して破損したり見栄えを悪化させるのを防止することができる。」

c.「【0019】
本発明の第1の実施の形態に係るスライドドア用給電装置の平面図を図1に示す。本実施形態のスライドドア用給電装置100は、スライドドアを開閉するために車体に設置されたガイドレール141の近傍に配設される。スライドドア周辺の車両構造の1例を図2に示す。同図では、スライドドア150の前方下部に設置されたブラケット151と、図示しない前方上部に設置された別のブラケット、及びスライドドア150の後方に設置されたさらに別のブラケットで、スライドドア150が支えられている。
【0020】
車体140側には、スライドドア入り口部にステップ142が設けられており、その下にガイドレール141が設置されている。ガイドレール141が設置されているガイドレール収納部143(図2の斜線で示す)は、ブラケット151を通過させるための空間となっている。ブラケット151の車体側先端に取付けられた図示しないローラーがガイドレール141を移動することで、スライドドア150が開閉する構造となっている。」

d.「【0023】
本実施形態のスライドドア用給電装置100は、ガイドレール収納部143に設置された車体側固定部110と、ブラケット151に設置されたブラケット側固定部120と、車体140側からスライドドア150側に給電する配線体130と、配線体130を収納してこれを保護している外装チューブ131とを備えている。配線体130は、直接あるいは外装チューブ131を介して車体側固定部110とブラケット側固定部120とで把持されている。本実施形態では、スライドドア150の開閉中に配線体130及び外装チューブ131がガイドレール収納部143からはみ出すことのないよう、外装チューブ131の構造に特徴を持たせている。」

e.スライドドア周辺の車両構造を示す平面図である図2には、平面視において、斜線で示されたガイドレール収納部143がステップ142に内包されることが示されている。

ウ.引用例の段落【0020】の「ガイドレール141が設置されているガイドレール収納部143(図2の斜線で示す)は、ブラケット151を通過させるための空間となっている。」という記載、及び、上記4.(4)イ.eに記載した図2の図示態様から、引用例の「ガイドレール収納部143」は、「ガイドレール141」が設置され、「ブラケット151」を通過させるための空間であって、平面視において、「ステップ142」に内包される空間であるといえる。
また引用例の段落【0020】の「車体140側には、スライドドア入り口部にステップ142が設けられており、その下にガイドレール141が設置されている。」という記載、及び、段落【0020】の「ブラケット151の車体側先端に取付けられた図示しないローラーがガイドレール141を移動することで、スライドドア150が開閉する構造となっている。」という記載から、「ガイドレール141」、及び、「ガイドレール141」を移動する図示しないローラーが取り付けられた「ブラケット151」の車体側先端は、「ステップ142」の下側であるといえる。
以上をまとめると、引用例において、「ガイドレール収納部143」は、「ガイドレール141」が設置され、「ブラケット151」を通過させるための空間であって、平面視において、「ステップ142」に内包される空間であり、「ステップ142」の下側の空間であるといえる。すなわち、「ガイドレール収納部143」は、平面視において、「ステップ142」に内包される空間であり、「ステップ142」の下側の空間であるといえる。
したがって、引用例において、「ガイドレール収納部143」が「ステップ142」の上側から見えないことは明らかである。

エ.引用例の段落【0023】の「本実施形態では、スライドドア150の開閉中に配線体130及び外装チューブ131がガイドレール収納部143からはみ出すことのないよう、外装チューブ131の構造に特徴を持たせている。」という記載から、引用例には、スライドドア150の開閉中に「配線体130」及び「外装チューブ131」が「ガイドレール収納部143」からはみ出すことがないようにすることが記載されている。
また上記4.(4)ウに記載したとおり、引用例において、「ガイドレール収納部143」が「ステップ142」の上側から見えないことは明らかであるから、「ガイドレール収納部143」からはみ出さないものは、「ステップ142」の上側から見えないことは明らかである。
したがって、引用例には、スライドドア150の開閉中に「配線体130」及び「外装チューブ131」が「ガイドレール収納部143」からはみ出すことがないようにすることで、スライドドア150の開閉中に「配線体130」及び「外装チューブ131」が「ステップ142」の上側から見えないようにすることが記載されているといえる。

オ.以上より、引用例において、段落【0006】に記載された「スライドドアの開閉時に乗車者から配線体が見えてしまうため、見栄えが悪い」という課題に対する解決手段は、段落【0017】に記載された「スライドドアの開閉に伴って配線体を収納する外装チューブがガイドレール収納部内を移動する」という構成であると認められる。

カ.上記4.(4)イ?オを踏まえて、上記4.(4)アに記載した審判請求人の主張について検討する。
審判請求人は、審判請求書において、「いくら外装チューブをガイドレール内に収納して移動するように構成しても、外装チューブ自体にスリットが入っていれば、ガイドレール内を移動する配線体は、乗車者から見えてしまうので上記(1)の課題を解決することはできない。」と主張している。
しかしながら、上記4.(4)エに記載したとおり、「外装チューブ」及び「配線体」は「ガイドレール」内に収納されて移動するものではなく、「ガイドレール収納部143」内を移動するものである。また、上記4.(4)エに記載したとおり、スライドドアの開閉中、「配線体130」及び「外装チューブ131」は「ステップ142」の上側から見えないものである。したがって、出願人の主張は当を得ていない。
また審判請求人は、審判請求書において、「ガイドレール141は、乗車者から見える上面部分は開放されている構造であることが自明である。よって、外装チューブは、ガイドレール内に収納されている状態であっても、乗車者から見える。」と主張している。
しかしながら、上記4.(4)ウに記載したとおり、「ガイドレール141」は「ステップ142」の下側に設けられているため、「ステップ142」の上側から見えないことは明らかである。また、上記4.(4)エに記載したとおり、「外装チューブ」は「ガイドレール」内に収納されるものではなく、「ガイドレール収納部143」内を設けられるものである。また、上記4.(4)エに記載したとおり、スライドドアの開閉中、「配線体130」及び「外装チューブ131」は「ステップ142」の上側から見えないものである。したがって、出願人の主張は当を得ていない。
また審判請求人は、審判請求書において、「従って[効果]に記載されている内容は、上記(2)の課題に対する解決手段のみが記載されており、上記(1)の課題に対する解決手段は記載されていない。」、及び、「そこを考えると、引用文献1の「(1)「配線体が見える」ことによる見栄えが悪くなる点」の問題点に対する解決手段は、外装チューブをスリットレスにし、配線体が見えてしまう見栄えの問題を解決しているとしか考えられない。従って、引用文献1の外装チューブは、スリットレスであることが課題解決のために必須であるといえる。」と主張している。
しかしながら、上記4.(4)オに記載したとおり、段落【0006】に記載された「スライドドアの開閉時に乗車者から配線体が見えてしまうため、見栄えが悪い」という課題に対する解決手段は、段落【0017】に記載された「スライドドアの開閉に伴って配線体を収納する外装チューブがガイドレール収納部内を移動する」という構成であると認められ、外装チューブをスリットレスにすることは「スライドドアの開閉時に乗車者から配線体が見えてしまうため、見栄えが悪い」という課題解決のために必須の構成ではない。したがって、出願人の主張は当を得ていない。

4.小括
以上のとおりであるから、相違点1乃至3は、周知技術を勘案すれば、引用発明から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められる。

第3.結言
以上の通り、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-26 
結審通知日 2015-10-27 
審決日 2015-11-11 
出願番号 特願2011-208573(P2011-208573)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 太郎  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 中田 剛史
鈴木 匡明
発明の名称 合成樹脂製のケーブル・配管類保護案内部材  
代理人 加藤 来  
代理人 加藤 来  
代理人 津野 孝  
代理人 津野 孝  

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