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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1309112 |
審判番号 | 不服2014-22203 |
総通号数 | 194 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-31 |
確定日 | 2015-12-22 |
事件の表示 | 特願2013-519821「改良されたピン層スタックを利用した磁気記憶素子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月19日国際公開、WO2012/009524、平成25年 9月 5日国内公表、特表2013-534735〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成23年7月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年7月16日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年1月15日付けで手続補正書の提出がなされ、平成26年2月14日付けで拒絶理由の通知がなされ、同年5月26日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、同年6月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月31日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成26年5月26日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。 「底部ピン層、結合層、および上部ピン層を含む複数の層から形成される、スピン注入トルク磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(STT-MRAM)に組み込まれたピン層スタックと、 前記底部ピン層または前記上部ピン層に配置された第1の機能層と を含み、 前記第1の機能層が、ハフニウム、タンタル、またはルテニウムを含む材料から形成されている、磁気トンネル接合(MTJ)記憶素子。」 3 引用文献 原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-81216号公報(以下、「引用文献」という。)には、下記の事項が記載されている。 A 「【0002】 近年、新しい原理に基づいて情報を記録する固体メモリが多数提案されている。中でも、固体磁気メモリとして、トンネル磁気抵抗効果(以下、TMR(tunneling magneto resistance)ともいう)を利用する磁気ランダムアクセスメモリ(以下、MRAM(magnetoresistive random access memory)ともいう)が知られている。MRAMは、磁気抵抗効果を発現する磁気抵抗効果素子(以下、TMR素子ともいう)をメモリセルの記憶素子として用いて、TMR素子の磁化の状態によってメモリセルが情報を記憶する。」 B 「【0013】 本発明によれば、磁化自由層を低電流で磁化反転させることを可能とする低抵抗なスピン注入書き込み方式の磁気抵抗効果型素子とそれを用いた磁気ランダムアクセスメモリを提供することができる。」 C 「【0090】 (第7実施例) 図9に、本発明の第7実施例によるTMR素子の断面を示す。本実施例のTMR素子は、第6実施例のTMR素子において、磁化固着膜2dを単層の磁性膜からシンセティック構造を有する磁化固着層3に置き換えた構成となっている。すなわち、磁化固着層3は、磁性膜(界面磁性膜)3a、磁性膜3cとの間に非磁性膜3bを設けた積層構造を有しており、磁性膜3aと磁性膜3cとは、非磁性膜3bを介して反強磁性結合をしている。そして、磁化固着層3は、反強磁性層7によって磁化固着される。磁化固着層3の磁化方向は、界面磁性膜2aとともに膜面に垂直であってもよいし、膜面に平行であってもよい。 【0091】 反強磁性層7としては、実用的には、FeMn合金、PtMn合金、IrMn合金、NiMn合金、PdMn合金、RhMn合金、PtCr合金、PtCrMn合金などが上げられる。膜厚は5nm以上20nm以下で最適化される。 【0092】 シンセティック構造では、界面磁性膜3aと磁性膜3cとの間に非磁性膜3bが挿入される。非磁性膜3bとしては、Ru、Os、Irが用いられ、その膜厚は0.5nmから3nmで最適化される。層間結合を利用しており、反強磁性結合がピークとなる膜厚を利用する。シンセティック構造では、界面磁性膜3aと磁性膜3cの磁化方向が反平行である。 【0093】 図9に示す第7実施例において、界面磁性膜中に結晶化促進膜2bが挿入され、界面磁性膜が界面磁性膜2aと界面磁性膜3aに分断される。バリア層4に近い界面磁性膜2aの膜厚は上下層のミキシングの影響を考慮すると1nm以上必要である。界面磁性膜2aと界面磁性膜3aの磁化方向の関係は平行である。 【0094】 面内磁化で用いられる代表的なTMR素子の第8乃至第12実施例の積層構造を示す。」 D 「【0096】 (第9実施例) 本実施例は、図9に示す第7実施例の一具体例となっており、以下の積層構造を有している。 キャップ層14/CoFeB(3nm)からなる磁化自由層6/MgO(1nm)からなる中間層(バリア層)4/CoFeB(1.5nm)からなる界面磁性膜2a/Ta(0.2nm)からなる結晶化促進膜2b/CoFeB(1.5nm)からなる界面磁性膜3a/Ru(0.85nm)からなる非磁性膜3b/CoFe(2.5nm)からなる磁性膜3c/PtMn(10nm)からなる反強磁性層7/下地層12/熱酸化Si基板」 E TMR素子の断面が示された図9には、界面磁性膜2a、結晶化促進膜2b、界面磁性膜3a、磁性膜3b、磁性膜3cの積層部分を磁化参照層2と呼ぶことが記載されている。 ここで、上記引用文献の記載事項について検討する。 F 記憶素子について 上記Aには、「MRAMは、磁気抵抗効果を発現する磁気抵抗効果素子(以下、TMR素子ともいう)をメモリセルの記憶素子として用いて、TMR素子の磁化の状態によってメモリセルが情報を記憶する」ことが記載され、上記Bには、「本発明によれば、磁化自由層を低電流で磁化反転させることを可能とする低抵抗なスピン注入書き込み方式の磁気抵抗効果型素子とそれを用いた磁気ランダムアクセスメモリを提供する」ことが記載され、上記Cには、「第7実施例」として、TMR素子の断面の構成が記載されている。 よって、引用文献には、TMR素子の書き込み方式が「スピン注入書き込み方式」であり、該TMR素子が「磁気ランダムアクセスメモリ」に用いられることが記載されている。 G TMR素子の積層構成について 上記Dから、図9には、TMRの積層構造として、上から、キャップ層14、CoFeBからなる磁化自由層6、MgOからなるバリア層4、CoFeBからなる界面磁性膜2a、Taからなる結晶化促進膜2b、CoFeBからなる界面磁性膜3a、Ruからなる非磁性膜3b、CoFeからなる磁性膜3c、PtMnからなる反強磁性層7、下地層12の順の積層構造が記載されている。 また、上記Eから、図9には、界面磁性膜2a、結晶化促進膜2b、界面磁性膜3a、磁性膜3b、磁性膜3cが磁化参照層2とされることが記載されている。 H TMR素子内の界面磁性膜3aと磁性膜3cと結合について 上記Cには、「界面磁性膜3aと磁性膜3cとの間に非磁性膜3bが挿入」され、「非磁性膜3b」は、「層間結合を利用し」、「反強磁性結合がピークとなる膜厚」とすることで、「界面磁性膜3aと磁性膜3cの磁化方向が反平行」とされることが記載されている。 I 界面磁性膜への結晶化促進膜2bの形成について 上記Cには、「界面磁性膜中に結晶化促進膜2bが挿入され、界面磁性膜が界面磁性膜2aと界面磁性膜3aに分断される」ことが記載されているので、引用文献には、「界面磁性膜は結晶化促進膜2bが挿入されて、界面磁性膜2aと界面磁性膜3aに分断される」ことが記載されているといえる。 よって、A乃至I及び図面9の記載から、引用文献には、実質的に下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「磁気ランダムアクセスメモリに用いられるスピン注入書き込み方式のTMR素子であって、 前記TMR素子は、上からキャップ層14、磁化自由層6、バリア層4、CoFeBからなる界面磁性膜2a、Taからなる結晶化促進膜2b、CoFeBからなる界面磁性膜3a、Ruからなる非磁性膜3b、CoFeからなる磁性膜3c、反強磁性層7、下地層12の順の積層構造を有し、 前記界面磁性膜2a、前記結晶化促進膜2b、前記界面磁性膜3a、前記磁性膜3b、前記磁性膜3cから磁化参照層2が形成され、 前記非磁性膜3bは、前記界面磁性膜3aと前記磁性膜3cの反強磁性結合がピークとなる膜厚とされ、 界面磁性膜は前記結晶化促進膜2bが挿入されて、前記界面磁性膜2aと前記界面磁性膜3aに分断された、 TMR素子。」 4.対比 (1)本願発明と引用発明との対応関係について ア 本願発明と引用発明の記憶素子について 引用発明の記憶素子は「TMR素子」であり、磁化自由層6と磁合参照層2の間にトンネルバリア層を介在させた構造であるから、本願発明の「磁気トンネル接合(MTJ)記憶素子」に相当している。 イ 本願発明と引用発明の書き込み方式について 本願明細書の段落【0002】には、「スピン注入トルク磁気抵抗ランダムアクセスメモリ」について、「スピンモーメント注入(SMT-RAM)としても知られている」と記載されているのに対し、引用文献の段落【0005】には、「スピン注入書き込み方式」について、「スピン角運動量移動(SMT(spin-momentum-transfer))を用いた書込み(スピン注入書き込み)方式」であることが記載されている。 よって、引用発明の「スピン注入書き込み方式」により書き込みが行われる「TMR素子」は、「磁気ランダムアクセスメモリに用いられ」るものであるから、「スピン注入トルク磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(STT-MRAM)に組み込まれた」ものであるともいえる。 ウ 本願発明と引用発明のピン層スタックについて MRAMにおいては、一般に、書き込みにより磁化の方向が変化しない層を「ピン層」または「参照層」と呼び、書き込みにより磁化の方向が変化する層を「フリー層」または「自由層」と呼んでいる。 よって、引用発明の「磁化参照層2」である、「前記界面磁性膜2a、前記結晶化促進膜2b、前記界面磁性膜3a、前記磁性膜3b、前記磁性膜3c」の積層は、本願発明の「ピン層スタック」に相当している。 エ 本願発明と引用発明の底部ピン層について 引用発明の磁化参照層2において、反強磁性層7側を積層方向の下側とした場合、「磁性膜3c」は磁化参照層2の下側に位置する層であるから、「底部ピン層」と呼び得るものである。 また、本願明細書の段落【0020】には、「底部ピン層206(例えば、CoFeおよび/またはCoFeB)」と記載され、図4には、「底部ピン層206」がAF(反強磁性)層の上に形成されたものであることが記載されており、この構成は、引用発明の「CoFeからなる磁性膜3c」が反強磁性層7上に形成された構成に相当したものでもある。 よって、引用発明の「磁性膜3c」は、本願発明の「底部ピン層」に相当している。 オ 本願発明と引用発明の結合層について 引用発明の「非磁性膜3b」は、界面磁性膜3aと磁性膜3cを反強磁性結合させるものであるから、「結合層」と呼び得るものである。 よって、引用発明の「Ruからなる非磁性膜3b」は、本願発明の「結合層」に相当している。 カ 本願発明と引用発明の上部ピン層について 引用発明の磁化参照層2において、反強磁性層7側を積層方向の下側とした場合、「界面磁性膜2a」及び「界面磁性膜3a」からなる「界面磁性膜」は、磁化参照層2において上側に位置する層であるから、「上部ピン層」と呼び得るものである。 また、本願明細書の段落【0020】には、「第1の上部ピン層210a(TP1)(例えば、CoFeおよび/またはCoFeB)と、第2の上部ピン層210b(TP2)(例えば、CoFeおよび/またはCoFeB)」と記載され、図4には、「TP1(上部ピン層210a)」は「結合層208」の上に形成され、「TP2(上部ピン層210b)」は「トンネルバリア212」の下に形成されたものであることが記載されており、この構成は、引用発明の「CoFeBからなる界面磁性膜3a」が結合層である「非磁性膜3b」の上に形成され、「CoFeBからなる界面磁性膜2a」が「バリア層4」の下に形成された構成に相当するものでもある。 よって、引用発明の「界面磁性膜2a」及び「界面磁性膜3a」からなる「界面磁性膜」は、本願発明の「上部ピン層」に相当している。 キ 本願発明と引用発明の第1の機能層について 本願発明は、「前記底部ピン層または前記上部ピン層に配置された第1の機能層とを含」むものであるから、本願発明の「第1の機能層」は、「底部ピン層に配置された」ものか、または、「上部ピン層に配置された」ものかの、択一的な配置構成となっている。 また、本願発明は、「前記第1の機能層が、ハフニウム、タンタル、またはルテニウムを含む材料から形成」されているものであるから、本願発明の「第1の機能層」は、「ハフニウム」、「タンタル」、「ルテニウム」のいずれかを含む材料から形成された択一的な構成となっている。 これに対して、引用発明の「Taからなる結晶化促進膜2b」は、「CoFeBからなる界面磁性膜2a」と「CoFeBからなる界面磁性膜3a」の間に配置されたものである。そして、上記カの検討事項である、引用発明の「界面磁性膜2a」及び「界面磁性膜3a」は「界面磁性膜」を構成するものであり、本願発明の「上部ピン層」に相当するものであることを踏まえれば、引用発明の「Taからなる結晶化促進膜2b」は、「上部ピン層に配置された」ものであり、「タンタルを含む材料から形成」されたものであるということができる。 してみると、引用発明の「Taからなる結晶化促進膜2b」は、本願発明の「第1の機能層」における択一的な記載において、配置構成を「上部ピン層に配置された」ものに相当し、材料を「タンタル」としたものに相当している。 よって、引用発明の「Taからなる結晶化促進膜2b」は、本願発明における、「前記底部ピン層または前記上部ピン層に配置された第1の機能層」に相当し、かつ、「ハフニウム、タンタル、またはルテニウムを含む材料から形成されている」「第1の機能層」に相当している。 (2)本願発明と引用発明の一致点について 上記の対応関係から、本願発明と引用発明は、 「底部ピン層、結合層、および上部ピン層を含む複数の層から形成される、スピン注入トルク磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(STT-MRAM)に組み込まれたピン層スタックと、 前記底部ピン層または前記上部ピン層に配置された第1の機能層と を含み、 前記第1の機能層が、ハフニウム、タンタル、またはルテニウムを含む材料から形成されている、磁気トンネル接合(MTJ)記憶素子。」 である点で一致し、相違点はない。 5.当審の判断 したがって、本願発明は、引用発明と同一のものであるから、引用文献に記載された発明である。 よって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-07-23 |
結審通知日 | 2015-07-27 |
審決日 | 2015-08-11 |
出願番号 | 特願2013-519821(P2013-519821) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 境 周一 |
特許庁審判長 |
鈴木 匡明 |
特許庁審判官 |
河口 雅英 飯田 清司 |
発明の名称 | 改良されたピン層スタックを利用した磁気記憶素子 |
代理人 | 黒田 晋平 |
代理人 | 村山 靖彦 |