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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1309199
審判番号 不服2014-21759  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-28 
確定日 2015-12-28 
事件の表示 特願2012-234354「大型2サイクルディーゼルエンジン用クロスヘッド軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月28日出願公開、特開2013- 57400〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年5月18日を国際出願日とする特願2007-508733号(以下、「原出願」という。)の一部を新たな特許出願とした特願2009-205661号の一部を平成24年10月24日に新たな特許出願としたものであって、平成25年10月28日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年1月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月8日付け(発送日:同年7月17日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年10月28日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に、明りょうでない記載の釈明を目的とする手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成26年10月28日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであって、そのうち、本願の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】
コネクティングロッド(7)と一体の軸受サドル(11)と、
前記軸受サドル(11)に支持される単一の軸受面を有する、単一の下部軸受シェル(12)と、
前記下部軸受シェル(12)の軸受面、または前記下部軸受シェル(12)に面するクロスヘッドジャーナル(4)の表面に2つ設けられる、軸方向に走る潤滑溝(22)または潤滑用列孔と、
前記軸受サドル(11)に固定される軸受キャップ(6)と、
を備える大型2サイクルエンジン用クロスヘッド軸受(1)であって、
前記クロスヘッド軸受(1)はクロスヘッドジャーナル(4)の周りに回動可能であり、前記クロスヘッドジャーナル(4)は、圧力下で供給される潤滑油を通すための軸方向の孔(5)を有すると共に、前記軸受キャップ(6)に面する前記ジャーナルの表面へと前記軸方向の孔(5)から径方向に延びる孔(15)を有し、ただし前記径方向の孔(15)は、前記コネクティングロッド(7)の揺動過程の少なくとも一部において、前記下部軸受シェル(12)の前記軸方向の潤滑溝(22)または潤滑用列孔に達する少なくとも1つの流路(16,18,19,20,20',21)に接続するように設けられ、
前記流路(16,18,19,20,20',21)は、前記軸方向の孔(5)から前記潤滑溝(22)または前記潤滑用列孔へ潤滑油を届けるべく、該軸方向の孔(5)から該潤滑溝(22)または該潤滑用列孔へと走り、また前記流路(16,18,19,20,20',21)は、前記軸受面に隣接しており、および/または、上部又は下部軸受シェルのいずれかの背面側に隣接しており、
前記2つの前記潤滑溝(22)または前記潤滑用列孔は、前記軸受面において最も大きな荷重がかかる部分によって互いに隔てられており、該部分は連続的な軸受面となっている、
クロスヘッド軸受。」

第3 刊行物に記載された事項
1 原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の出願前に日本国内において頒布された特開昭53-6745号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「ピストン機関、特にディーゼル内燃機関のクロスヘッドジャーナル」に関し、図面(特に、Fig.1及びFig.2参照)とともに、次の事項が記載されている。なお、拗音及び促音は、小文字で表記した。

ア 第2頁左下欄第9行?第3頁左上欄第1行
「本発明によるクロスヘッドジャーナルは、ジャーナル孔からの潤滑剤の受領のためおよび分配のために使われる流動路が高度負荷される軸受サドルの軸受面の減少を惹起しないという長所を有する。すなわち軸受サドルの軸受面内には開放された移送溝は配置されていないからである。この方法によって高度負荷される軸受部分内に最適の比圧関係が生ずる。
以下図面によって本発明の実施例を詳述する。
第1図と第2図においては以下第1軸受部分1と称される2部分から成る軸受カバーが以下第2軸受部分2と称される軸受サドルとねじ連結棒3によって固く結合されている。第1軸受部分1内に形成された第1の軸受面4は第2軸受部分2内に形成された第2の軸受面5と共に軸受孔を形成し、軸受孔の中にはジャーナル6がねじれ可能に配置されている。
ピストン棒8のエンドジャーナル7はジャーナル6の直径孔9を貫通して延びかつジャーナル6と、ねじナット10によって固く結合されている。ジャーナル6はその軸線に対し横に経過する横孔11を有し、横孔は給油ポンプ12と連絡しかつ稼働に際しこの給油ポンプから潤滑油を受領する。さらにジャーナル6は軸方向孔13を有し、軸方向孔は直径孔9とエンドジャーナル7との間に備えられた間隙15を経て横孔11と連絡しかつその両端は夫々1個の閉鎖栓14 によって閉鎖されている。さらにジャーナル6は4個の放射方向孔16を有し、その各は軸方向孔13から出発しかつジャーナル6の表面にいたるまで延びている。各放射方向孔16は第1の軸受面4の周囲方向に経過する関連している周囲溝17の中に開口している。」

イ 第3頁左上欄第6行?同頁右上欄第12行
「第2軸受部分2内に形成された軸受面5は溝21を含み、この溝は軸受箱22の中に形成されており、かつジャーナル6に対する軸受孔の軸線方向に経過している。流出孔20は潤滑剤用の流動路の別の部分を経て給入ダクト23と連絡している。潤滑剤流動路の部分はねじ付押し棒3とその通過孔との間に存在する通過室24を含み、各通過室は流出孔20と連絡しかつ第1軸受部分1から第2軸受部分2へ通じている。また潤滑剤流動路の部分は横孔25を含み、この横孔はクロスヘッド軸受の横方向に経過しかつ通過室24を給入孔23と連絡させている。
さらに第2軸受部分2の軸線方向に経過し、横孔25相互を連結する軸方向孔26およびこの軸方向孔から出発し連接棒28の内部を下方の連接棒軸受(図示れていない)の方向に延びている供給孔がこの軸受に潤滑剤を補給するため備えられている。
稼動の場合第1軸受面の潤滑のため潤滑油は給油ポンプ12から1点鎖線で示唆された給油導管29を通り矢印で示唆された流動路に沿い、続いて横孔11および間隙15を継て軸方向孔13の中へかつジャーナル6の放射方向孔16を通って周囲溝17の中へ流れる。第2軸受面の補給のため潤滑油は溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23を通り軸受面5内の溝21に流れる。」

ウ 第3頁右上欄第15行?同頁左下欄第4行
「本発明は前記の実施例だけに制限されない。すなわち(省略)通過室24の代りに、第1と第2の軸受部分からの潤滑剤の移送のため唯一に使われる特殊の孔を備えることも可能であろう。」

エ Fig.1、Fig.2


オ 上記ア、イの記載事項によれば、エから、連接棒28と第2軸受部分2と、第2軸受部分2に支持される第2軸受面5を有する、軸受箱22と、軸受箱22の第2軸受面5の表面に4つ設けられる、軸方向に走る溝21と、第2軸受部分2に固定される第1軸受部分1と、を備えているクロスヘッドジャーナルが看てとれる。

カ 上記ア、イ、エから、クロスヘッドジャーナルはジャーナル6の周りに回動可能であり、ジャーナル6は、圧力下で供給される潤滑油を通すための軸方向孔13を有すると共に、第1軸受部分1に面するジャーナル6の表面へと軸方向孔13から径方向に延びる放射方向孔16を有すること及び放射方向孔16は、連接棒28の揺動過程の少なくとも一部において、軸受箱22の軸方向の溝21に達する周囲溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23に接続するように設けられていることがわかる。

キ 上記エから、周囲溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23は、軸方向孔13から溝21へ潤滑油を届けるべく、該軸方向孔13から該溝21へと走り、また周囲溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23は、軸受箱22の背面側に隣接していることが看てとれる。

これらの記載事項、図示内容及び上記認定事項を総合して、本願発明に則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「連接棒28と第2軸受部分2と、
前記第2軸受部分2に支持される第2軸受面5を有する、軸受箱22と、
前記軸受箱22の第2軸受面5に4つ設けられる、軸方向に走る溝21と、
前記第2軸受部分2に固定される第1軸受部分1と、
を備えている内燃機関のクロスヘッドジャーナルであって、
前記クロスヘッドジャーナルはジャーナル6の周りに回動可能であり、前記ジャーナル6は、圧力下で供給される潤滑油を通すための軸方向孔13を有すると共に、前記第1軸受部分1に面する前記ジャーナル6の表面へと前記軸方向孔13から径方向に延びる放射方向孔16を有し、ただし前記放射方向孔16は、前記連接棒28の揺動過程の少なくとも一部において、前記軸受箱22の前記軸方向の溝21に達する周囲溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23に接続するように設けられ、
前記周囲溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23は、前記軸方向孔13から前記溝21へ潤滑油を届けるべく、該軸方向孔13から該溝21へと走り、また前記周囲溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23は、前記軸受箱22の背面側に隣接している、
クロスヘッドジャーナル。」

2 同じく引用された、原出願の出願前に日本国内において頒布された特開昭61-248913号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「クロスヘツドピンの軸受」に関し、図面(特に、Fig.1ないしFig.3b図参照)とともに、次の事項が記載されている。

ク 第2頁左上欄第13行?同欄第16行
「従来技術と問題点」として、「相互に近接した潤滑孔が圧力を分断するため多数の『圧力頂部』か作られ、これに対応して軸受面に局所的な荷重が掛かり、軸受材料の疲労を早める。」(Fig.3b参照)

ケ 第1頁左下欄第4行?同欄第12行
上記の「問題点」を解決する手段として、
「特許請求の範囲
(1)潤滑ラインを通して加圧供給される潤滑油によって潤滑される、往復機関、特にジーゼル機関のクロスヘツドピンの軸受において、軸受内に設けられる少なくとも2つの潤滑ポケツト(20、21、25、26、29、30、31、32、33、34、35)が直接軸受面(6)に延び、そして該潤滑ライン(12、15、17、18)に結合されることを特徴とする軸受。」(Fig.1及びFig.2参照)

コ 第2頁右上欄第13行?同頁右下欄第10行
「ホ.実施例
次に添付図面に示す実施例を参照に本発明の更に詳細な説明を続ける。
第1図に示されるように、ジーゼル機関のクロスヘツドピンの軸受は周知のようにしてピストン棒1に結合され、そして中空のクロスヘツドピン2、軸受ケーシング3、及び連接棒4を備える。軸受メタルで作られる軸受面6をもツた軸受シエル5がケーシング3内に周知のようにして設置される。クロスヘツドピン2の両端部でカバー10がそのピン2の中空内部8を閉じる。ケーシング3は孔5により周知のようにして潤滑ライン12に結合される。このライン内には潤滑ポンプ13が設置されている。その結合は、例えば枢動管または可撓ホースを有する周知の可動継手によつて行うことができよう。
潤滑油は孔15を通つて周縁溝17に入る。この溝に半径方向孔18,19がつながつている。これら孔18,19はまた、シエル5の軸受面6に設けられた2つの潤滑ポケツト20,21に連通する。これらポケツトは、孔18,19を通して供給される潤滑油を受ける。潤滑油はポケツト20,21から周知の方法で軸方向に押出されて油留めに受けられるか、またはポンプ13へ戻される。
第3図で分かるように、面6内へ直接延びるポケツト20,21は実質的にその面の縁区域に設けられる。それら隣合うポケツト20と21の間の角度間隔αは少なくとも40°である(第2図)
第3a図に示されるように、ポケツト20,21間の『圧力頂部』24は連続的であり、その最高圧力Aの大きさは比較的小さい。これに対し第3b図に示される従来技術の構造では、その潤滑孔20’の間に複数個の『圧力頂部』24′が作られ、その最高圧力A′も相当大きくなる。
また、第3a図の圧力勾配の傾斜Sも第3b図の傾斜S′より相当小さく、従つてそれだけ軸受に掛かる応力を小さくする。」

サ Fig.1、Fig.2、Fig.3、Fig.3a、Fig.3b


シ 上記コの記載によれば、上記サのFig.1及びFig.2から、連接棒4には、それと一体となってクロスヘッドピン2の軸線から下半分を支持する部分(以下、「軸受サドル」という。)及び該軸受サドルの上部にあってクロスヘッドピン2を内包する軸受ケーシング3が存在することが看てとれる。

ス 上記コの記載によれば、Fig.2から、クロスヘッドピン2の軸受は、クロスヘッドピン2の周りに回動可能であり、軸受シェル5の軸方向の潤滑ポケット20、21に達する孔15、周縁溝17及び孔18、19(以下、孔15、周縁溝17及び孔18、19を「流路」という。)が設けられ、該流路は、軸受シェル5の背面側に隣接しており、2つの潤滑ポケット20、21は、軸受面6において最も大きな荷重がかかる部分によって互いに隔てられており、該部分は連続的な軸受面となっている軸受が看てとれる。

これらの記載事項、図示内容及び上記認定事項を総合して、本願発明に則って整理すると、刊行物2には、次の技術事項(以下、「刊行物2に記載された事項」という。)が記載されているものと認められる。

「連接棒4と一体の軸受サドルと、
前記軸受サドルに支持される単一の軸受面6を有する、単一の軸受シェル5と、
前記軸受シェル5の軸受面6に2つ設けられる、軸方向に走る潤滑ポケット20、21と、
前記軸受サドルの上部にある軸受ケーシング3と、
を備える軸受であって、
前記軸受はクロスヘッドピン2の周りに回動可能であり、前記軸受シェル5の前記軸方向の潤滑ポケット20、21に達する流路が設けられ、前記流路は、軸受シェル5の背面側に隣接しており、前記2つの潤滑ポケット20、21は、前記軸受面6において最も大きな荷重がかかる部分によって互いに隔てられており、該部分は連続的な軸受面となっている軸受。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「連接棒28」は、その機能、構造からみて、本願発明の「コネクティングロッド(7)」に相当する。同様に、引用発明の「第2軸受部分2」、「第2軸受面5」、「軸受箱22」、「軸方向に走る溝21」、「ジャーナル6」、「第1軸受部分1」、「クロスヘッドジャーナル」、「軸方向孔13」、「径方向に延びる放射方向孔16」、「周囲溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23」は、本願発明の「軸受サドル(11)」、「軸受面」、「下部軸受シェル(12)」、「軸方向に走る潤滑溝(22)または潤滑用列孔」、「クロスヘッドジャーナル(4)」、「軸受キャップ(6)」、「クロスヘッド軸受(1)」、「軸方向の孔(5)」、「径方向に延びる孔(15)」、「流路(16,18,19,20,20',21)」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「内燃機関の」クロスヘッドジャーナルと本願発明の「大型2サイクルエンジン用」クロスヘッド軸受(1)は、エンジンに用いられる限りで共通する。
さらに、引用発明の「前記周囲溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23は、前記軸方向孔13から前記溝21へ潤滑油を届けるべく、該軸方向孔13から該溝21へと走り、また前記周囲溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23は、前記軸受箱22の背面側に隣接している」ことと本願発明の「前記流路(16,18,19,20,20',21)は、前記軸方向の孔(5)から前記潤滑溝(22)へ潤滑油を届けるべく、該軸方向の孔(5)から該潤滑溝(22)へと走り、また前記流路(16,18,19,20,20',21)は、前記下部軸受シェルの背面側に隣接して」いることとは、流路が軸方向の孔から潤滑溝へ潤滑油を届けるべく、軸方向の孔から潤滑溝へと走り、また前記流路は、下部軸受シェルの背面側に隣接している限りで共通する。

以上の点からみて、本願発明と引用発明とは、

[一致点]
「コネクティングロッドと軸受サドルと、
前記軸受サドルに支持される軸受面を有する、下部軸受シェルと、
前記下部軸受シェルの軸受面に設けられる、軸方向に走る潤滑溝と、
前記軸受サドルに固定される軸受キャップと、
を備えるエンジンに用いられるクロスヘッド軸受であって、
前記クロスヘッド軸受はクロスヘッドジャーナルの周りに回動可能であり、前記クロスヘッドジャーナルは、圧力下で供給される潤滑油を通すための軸方向の孔を有すると共に、前記軸受キャップに面する前記ジャーナルの表面へと前記軸方向の孔から径方向に延びる孔を有し、ただし前記径方向の孔は、前記コネクティングロッドの揺動過程の少なくとも一部において、前記下部軸受シェルの前記軸方向の潤滑溝に達する少なくとも1つの流路に接続するように設けられ、
前記流路は、前記軸方向の孔から前記潤滑溝へ潤滑油を届けるべく、該軸方向の孔から該潤滑溝へと走り、また前記流路は、前記下部軸受シェルの背面側に隣接している、
クロスヘッド軸受。」
である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点]
相違点1
本願発明では、コネクティングロッドと軸受サドルは一体であり、軸方向に走る潤滑溝または潤滑用列孔は、単一の下部軸受シェルの単一の軸受面に2つ設けられ、2つの潤滑溝または潤滑用列孔は、軸受面において最も大きな荷重がかかる部分によって互いに隔てられており、軸受面において最も大きな荷重がかかる部分は、連続的な軸受面となっているのに対して、引用発明では、連接棒28と第2軸受部分2は別体であり、軸方向に走る溝21は、単一でない軸受箱22の単一でない第2軸受面5に4つ設けられ、4つの溝21は、第2軸受面5において最も大きな荷重がかかる部分によって互いに隔てられているか不明であり、第2軸受面5において最も大きな荷重がかかる部分は連続的な軸受面となっていない点。

相違点2
本願発明では、下部軸受シェルの軸方向の潤滑溝または潤滑用列孔に達する少なくとも1つの流路が前記軸受面に隣接しており、および/または、上部又は下部軸受シェルのいずれかの背面側に隣接しているのに対して、引用発明では、当該構成が明らかでない点。

相違点3
クロスヘッド軸受の用途に関して、本願発明では、大型2サイクルエンジン用であるのに対して、引用発明では、内燃機関に用いられるものである点。

第5 判断
1 相違点1について
引用発明は、「高度負荷される軸受部分内に最適の比圧関係が生ずる」内燃機関のクロスヘッドジャーナルに関するものであるところ(記載事項ア)、刊行物2に記載された事項も、「第3a図に示されるように、ポケット20,21間の『圧力頂部』24は連続的であり、その最高圧力Aの大きさは比較的小さい」クロスヘッドピンの軸受に関するものである(記載事項ク及びコ)から、両者は、同一の技術分野において、共通の課題を解決するものである。
引用発明と刊行物2に記載された事項は、かかる共通の課題を解決するために、軸受に供給される潤滑油の潤滑作用を用いるという本質的な点で同一であるし(前者につき記載事項ア、後者につき記載事項ケ参照)、両者は、軸受に供給される潤滑油をポンプによる圧力で送給する点でも同一である(前者につき記載事項ア及びFig.1、後者につき記載事項コ及びFig.2参照)。
また、軸受を構成する部品を一体のものにするか別体ものにするか、軸受面の潤滑溝の数、軸受面の単一性につき、同一の技術分野の共通の課題を解決する手段を適宜選択することは当業者の通常の創作能力の発揮にとどまる。
さらに、引用発明の「軸受箱22の軸方向の溝21に達する周囲溝17から流出孔20、通過室24、横孔25および給入孔23」(以下、「引用発明の流路」という。)を適宜変更することも刊行物1に開示ないし示唆されている(記載事項ウ)。
したがって、引用発明に刊行物2に記載された事項を適用する動機づけはあるというべきである。
そうすると、刊行物2に記載された事項は、上記第3の2で認定したように、相違点1に係る発明特定事項を備えているから、引用発明に刊行物2に記載された事項を適用して相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

2 相違点2について
本願発明の「流路(16,18,19,20,20',21)は、前記軸受面に隣接しており、および/または、上部又は下部軸受シェルのいずれかの背面側に隣接しており」において、「および/または」及び「又は」のそれぞれの後者を選択すると、該「流路」は、下部軸受シェルの背面側に隣接していることになる。
そして、引用発明の流路について検討するに、引用発明の流路の末端である給入孔23は、軸受箱22のの背面側に隣接していることは明らかであるから(Fig.2)、当該流路は、軸受箱22の背面側に隣接しているといえる。
そうすると、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。
仮に、相違するとしても、相違点1で検討したように、引用発明に刊行物2に記載された事項を適用することができるから、上記相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

3 相違点3について
引用発明も内燃機関に用いられるものであるから、これを周知の大型2サイクルエンジン用とする程度のことは、当業者が適宜なし得ることである。

4 そして、本願発明による効果も、引用発明及び刊行物2に記載された事項から当業者が予測し得た程度のものである。

5 したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-22 
結審通知日 2015-07-29 
審決日 2015-08-11 
出願番号 特願2012-234354(P2012-234354)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河端 賢  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 内田 博之
小柳 健悟
発明の名称 大型2サイクルディーゼルエンジン用クロスヘッド軸受  
代理人 川守田 光紀  

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