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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02B
管理番号 1309428
審判番号 不服2015-5135  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-17 
確定日 2016-01-07 
事件の表示 特願2010-242540「電動アシストターボチャージャ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月17日出願公開、特開2012- 92799〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成22年10月28日の出願であって、平成26年5月7日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して平成26年6月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年12月18日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年3月17日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。


第2 平成27年3月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年3月17日付けの手続補正を却下する。
[理由]
〔1〕本件補正の内容
平成27年3月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成26年6月30日に提出された手続補正書により補正された)下記の(A)に示す請求項1及び2を、下記の(B)に示す請求項1及び2と補正するものである。
(A)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び2
「 【請求項1】
排気ガスにより回転されるタービンホイールを有する排気タービンと、
回転により空気を圧縮するコンプレッサホイールを有する吸気コンプレッサと、
前記タービンホイールと前記コンプレッサホイールとに一体化され排気タービン側から吸気コンプレッサ側へ回転を伝達するターボ軸と、
前記ターボ軸に同軸に取り付けられたドリブンギアと、
前記ドリブンギアに噛み合い前記ドリブンギアよりも歯数が多いドライブギアと、
追い越し運転時に前記ドライブギアを回転させて前記ターボ軸の回転を補助する電気モータとを備えたことを特徴とする電動アシストターボチャージャ。
【請求項2】
前記ドライブギアの歯数は、前記ドリブンギアの歯数の5倍以上であることを特徴とする請求項1記載の電動アシストターボチャージャ。」

(B)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び2
「 【請求項1】
排気ガスにより回転されるタービンホイールを有する排気タービンと、
回転により空気を圧縮するコンプレッサホイールを有する吸気コンプレッサと、
前記タービンホイールと前記コンプレッサホイールとに一体化され排気タービン側から吸気コンプレッサ側へ回転を伝達するターボ軸と、
前記ターボ軸に同軸に取り付けられたドリブンギアと、
前記ドリブンギアに噛み合い前記ドリブンギアよりも歯数が多いドライブギアと、
前記ドライブギアが取り付けられると共に、前記ドライブギアを回転させて前記ターボ軸の回転を補助する電気モータとを備え、
前記電気モータは、銅損の割合よりも鉄損の割合が大きくなる状況に対応した前記電気モータの回転速度となる追い越し運転時に、前記ターボ軸の回転を補助する
ことを特徴とする電動アシストターボチャージャ。
【請求項2】
前記ドライブギアの歯数は、前記ドリブンギアの歯数の5倍以上であることを特徴とする請求項1記載の電動アシストターボチャージャ。」(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

〔2〕本件補正の目的要件について
本件補正は、本件補正前の請求項1における「追い越し運転時に前記ドライブギアを回転させて前記ターボ軸の回転を補助する電気モータとを備えた」という記載を、「前記ドライブギアが取り付けられると共に、前記ドライブギアを回転させて前記ターボ軸の回転を補助する電気モータとを備え、
前記電気モータは、銅損の割合よりも鉄損の割合が大きくなる状況に対応した前記電気モータの回転速度となる追い越し運転時に、前記ターボ軸の回転を補助する」とするものであり、本件補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項である「電気モータ」について、「前記ドライブギアが取り付けられると共に」という事項を加えて、電気モータとドライブギアとの接続関係を限定し、また、「追い越し運転時に前記ドライブギアを回転させて前記ターボ軸の回転を補助する電気モータ」であったものを、「前記ドライブギアを回転させて前記ターボ軸の回転を補助する電気モータ」であって、「前記電気モータは、銅損の割合よりも鉄損の割合が大きくなる状況に対応した前記電気モータの回転速度となる追い越し運転時に、前記ターボ軸の回転を補助する」として、電気モータの機能をさらに限定するものといえる。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

〔3〕本願補正発明の独立特許要件について
1.本願補正発明
本願補正発明は、平成27年3月17日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、上記〔1〕(B)の【請求項1】に示したとおりのものである。

2.引用刊行物
(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-254073号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】ワンウェイクラッチを軸受けとした歯車(A)と、歯車(A)と連動する歯車(B)を設け、電動型のモーターにて歯車(B)を駆動する。以上の如く構成された電動アシスト式ターボチャージャー。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

イ 「【0001】
【発明に属する技術分野】本発明は自動車用のエンジン排気圧を利用したターボチャージャーに関する。
【0002】
【従来の技術】従来の自動車用の大きなタービンを持ったターボチャージャーでは、エンジンが低回転時には十分にタービンの回転数を上げることができず、エンジン出力が上がらなかった。
【0003】一度アクセルをOFFし、エンジン回転数を下げ、車体を減速させてから再度アクセルONしても、瞬時にはタービンの回転数が上がらないターボラグが発生していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】大きなタービンでは、エンジンが低回転時にはタービンの回転数を上げられず、結果的に過給圧を上げることが困難である。
【0005】小さなタービンでは、エンジンが低回転時からタービンの回転数を上げることができるが、高回転時では十分な過給圧を得ることは困難であった。
【0006】本発明は上記した欠点を除き、ターボチャージャーの過給性能を向上させることができるようにすることを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、請求項1記載の発明の手段は、高回転型の電動型モーターをモーターブラケットと断熱カラーを介して、ローターハウジングに固定し、電動型モーターの出力軸とカップリングによって連結され、且つオイルシールで密閉され、ラジアルベアリング(A)によって支持された回転シャフトによって歯車(B)を駆動し、これに連動するワンウェイクラッチで支持される歯車(A)によって、タービンローターを回転駆動させる。」(段落【0001】ないし【0007】)

ウ 「【0008】
【発明の実施の形態】図1はこの発明のタービンローター16と直角方向の断面図であり、高回転型の電動型モーター1は、モーターブラケット2と断熱カラー3を介してローターハウジング19に固定され、オイルシール6とラジアルベアリング(A)7で支持される回転シャフト5はカップリング4によってモーター出力軸と連結される。回転シャフト5には歯車(B)9が固定されており、ワンウェイクラッチ10で支持される歯車(A)8に連動され、ローターシャフト11を回転駆動させることにより、エンジン低回転域でのターボチャージャーによる過給圧を増大させる。エンジンの回転が上がるにつれて、排気によるローターシャフト11の回転数が電動型モーター1による回転数を上回った時に、ワンウェイクラッチ10がスリップをお越し、電動型モーター1の回転による影響を無くし、排気だけによってタービンローター16を回転駆動させる。
【0009】歯車(A)8と歯車(B)9の歯数比を変え、電動型モーター1のトルクが許す限り増速させることにより、エンジン低回転域でのタービンローター16の回転数を更に上げることができる。」(段落【0008】及び【0009】)

エ 「【符号の説明】
1 電動型モーター
2 モーターブラケット
3 断熱カラー
4 カップリング
5 回転シャフト
6 オイルシール
7 ラジアルベアリング(A)
8 歯車(A)
9 歯車(B)
10 ワンウェイクラッチ
11 ローターシャフト
12 ラジアルベアリング(B)
14 スラストベアリング
15 コンプレッサーローター
16 タービンローター
19 ローターハウジング」(【符号の説明】)

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)アないしウ及び図1の記載(特に、【請求項1】の記載)によれば、引用刊行物には、電動アシスト式ターボチャージャーが記載されていることが分かる。

イ 上記(1)イには、「【発明に属する技術分野】本発明は自動車用のエンジン排気圧を利用したターボチャージャーに関する。」という記載があり、自動車用のエンジン排気圧を利用したターボチャージャーは、エンジンの排気経路に設けられた排気用のタービンと、エンジンの吸気経路に設けられた吸気用のコンプレッサーとを備え、排気用のタービンによりエンジンの排気から回収した動力を、空気を圧縮する吸気用のコンプレッサーの駆動に用いるものであるから、引用刊行物に記載された電動アシスト式ターボチャージャーにおいても、排気用のタービンと、吸気用のコンプレッサーとを備え、排気用のタービンによりエンジンの排気から回収した動力を、空気を圧縮する吸気用のコンプレッサーの駆動に用いるものであることは明らかである。

ウ 上記イの事項と、上記(1)ウの記載(特に、段落【0008】の「排気だけによってタービンローター16を回転駆動させる。」という記載)及び上記(1)エの記載(特に、「15 コンプレッサーローター」という記載及び「16 タービンローター」という記載)、並びに、図1の記載とを合わせて考慮すると、引用刊行物に記載された電動アシスト式ターボチャージャーは、排気により回転されるタービンローター16を有する排気用のタービンと、回転により空気を圧縮するコンプレッサーローター15を有する吸気用のコンプレッサーと、を備えることが分かる。

エ 上記イの事項と、上記(1)ウの記載及び図1の記載とを合わせて考慮すると、引用刊行物に記載された電動アシスト式ターボチャージャーは、タービンローター16と前記コンプレッサーローター15とに一体化され排気用のタービン側から吸気用のコンプレッサー側へ回転を伝達するローターシャフト11を備えることが分かる。

オ 上記(1)ウ及び図1の記載(特に、段落【0008】における「回転シャフト5には歯車(B)9が固定されており、ワンウェイクラッチ10で支持される歯車(A)8に連動され、ローターシャフト11を回転駆動させることにより、エンジン低回転域でのターボチャージャーによる過給圧を増大させる。」という記載)によれば、引用刊行物に記載された電動アシスト式ターボチャージャーは、歯車(B)9が回転シャフト5に固定されると共に、歯車(B)8を回転させてローターシャフト11の回転を補助する電動型モーター1を備えることが分かる。

カ 上記(1)ウの記載及び図1の記載によれば、引用刊行物に記載された電動アシスト式ターボチャージャーは、ローターシャフト11に同軸にワンウェイクラッチ10で支持された歯車(A)8と、歯車(A)8に噛み合い歯車(A)8よりも歯数が多い歯車(B)9と、を備えることが分かる。
ここで、引用刊行物の段落【0009】における「歯車(A)8と歯車(B)9の歯数比を変え、電動型モーター1のトルクが許す限り増速させることにより、エンジン低回転域でのタービンローター16の回転数を更に上げることができる。」という記載によれば、タービンローター16とコンプレッサーローター15とに一体化されたローターシャフト11にワンウェイクラッチ10で支持された歯車(A)と、電動型モーター1の回転シャフト5に固定された歯車(B)9の歯数比が、タービンローター16の回転数を増速させるように設定されているのであるから、歯車(B)9が歯車(A)8よりも歯数が多いことは明らかである。

キ 上記(1)イ及びウ、並びに、図1の記載(特に、段落【0008】における「回転シャフト5には歯車(B)9が固定されており、ワンウェイクラッチ10で支持される歯車(A)8に連動され、ローターシャフト11を回転駆動させることにより、エンジン低回転域でのターボチャージャーによる過給圧を増大させる。エンジンの回転が上がるにつれて、排気によるローターシャフト11の回転数が電動型モーター1による回転数を上回った時に、ワンウェイクラッチ10がスリップをお越し、電動型モーター1の回転による影響を無くし、排気だけによってタービンローター16を回転駆動させる。」という記載)によれば、引用刊行物に記載された電動アシスト式ターボチャージャーにおける電動型モーター1は、エンジンが低回転域で過給圧を上げる時に、ローターシャフト11の回転を補助することが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)を総合して、本願補正発明の表現に倣って整理すると、引用刊行物には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「排気により回転されるタービンローター16を有する排気用のタービンと、
回転により空気を圧縮するコンプレッサーローター15を有する吸気用のコンプレッサーと、
前記タービンローター16と前記コンプレッサーローター15とに一体化され排気用のタービン側から吸気用のコンプレッサー側へ回転を伝達するローターシャフト11と、
前記ローターシャフト11に同軸にワンウェイクラッチ10で支持された歯車(A)8と、
前記歯車(A)8に噛み合い前記歯車(A)8よりも歯数が多い歯車(B)9と、
前記歯車(B)9が回転シャフト5に固定されると共に、前記歯車(B)9を回転させて前記ローターシャフト11の回転を補助する電動型モーター1とを備え、
前記電動型モーター1は、エンジンが低回転域で過給圧を上げる時に、前記ローターシャフト11の回転を補助する電動アシスト式ターボチャージャー。」

3.対比
本願補正発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者における「排気」は、前者における「排気ガス」に相当し、以下同様に、「タービンローター16」は「タービンホイール」に、「排気用のタービン」は「排気タービン」に、「コンプレッサーローター15」は「コンプレッサホイール」に、「吸気用のコンプレッサー」は「吸気コンプレッサ」に、「ローターシャフト11」は「ターボ軸」に、「歯車(A)8」は「ドリブンギア」に、「歯車(B)9」は「ドライブギア」に、「固定される」は「取り付けられる」に、「電動型モーター1」は「電気モータ」に、「電動アシスト式ターボチャージャー」は「電動アシストターボチャージャ」に、それぞれ相当する。
・後者における「ローターシャフト11に同軸にワンウェイクラッチ10で支持された歯車(A)8」は、前者における「ターボ軸に同軸に取り付けられたドリブンギア」に相当する。
・後者における「前記電動型モーター1は、エンジンが低回転域で過給圧を上げる時に、前記ローターシャフト11の回転を補助する」は、前者における「前記電気モータは、銅損の割合よりも鉄損の割合が大きくなる状況に対応した前記電気モータの回転速度となる追い越し運転時に、前記ターボ軸の回転を補助する」に、「前記電気モータは、所定の運転時に、前記ターボ軸の回転を補助する」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「排気ガスにより回転されるタービンホイールを有する排気タービンと、
回転により空気を圧縮するコンプレッサホイールを有する吸気コンプレッサと、
前記タービンホイールと前記コンプレッサホイールとに一体化され排気タービン側から吸気コンプレッサ側へ回転を伝達するターボ軸と、
前記ターボ軸に同軸に取り付けられたドリブンギアと、
前記ドリブンギアに噛み合い前記ドリブンギアよりも歯数が多いドライブギアと、
前記ドライブギアが取り付けられると共に、前記ドライブギアを回転させて前記ターボ軸の回転を補助する電気モータとを備え、
前記電気モータは、所定の運転時に、前記ターボ軸の回転を補助する電動アシストターボチャージャ。」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
電気モータに関し、本願補正発明においては、「電気モータは、銅損の割合よりも鉄損の割合が大きくなる状況に対応した前記電気モータの回転速度となる追い越し運転時に、前記ターボ軸の回転を補助する」ものであるのに対して、引用発明においては、「電動型モーター1は、エンジンが低回転域で過給圧を上げる時に、前記ローターシャフト11の回転を補助する」ものである点。(以下、「相違点」という。)。

4.判断
上記相違点について検討する。
車両用の電動アシストターボチャージャにおいて、高速道路の追越し運転時に、電動機には高速回転領域(約10万rpmないし約20万rpm)での加速のための駆動が要求されることは、本件出願前に周知の事項である(以下、「周知事項」という。必要であれば、特開2005-42684号公報(特に、段落【0006】)及び特開2008-240585号公報(特に、段落【0007】)を参照。)。
また、電気モータが、高速回転領域において鉄損の割合が大きくなる状況になることは、本件出願の明細書中に「【0007】
ところが、図4に示されるように、一般の電気モータには、回転速度が低い領域に銅損が大きい領域があり、回転速度が高い領域に鉄損が大きい領域がある。銅損は、巻線に流れる電流によるものである。鉄損は、鉄心に流れる渦電流により電気エネルギが消費されるために生じる。さらに詳しくは、鉄損には、渦電流損とヒステリシス損とがあるが、両者とも回転速度に応じて大きくなる。渦電流損は、式(1)により求めることができる。
【0008】
・・・ 中略 ・・・
【0009】
式(1)中、運転周波数fが回転速度に比例している。式(1)のf2の項から、回転速度が高くなると渦電流損が増大することが分かる。
【0010】
このように、一般の電気モータは、回転速度が高いと鉄損が大きいので、数千rpmから2万rpmの範囲が適切な使用回転速度とされている。」と記載されているように、文献を例示するまでもなく、本件出願前に技術常識である。
そうすると、引用発明において、周知事項に基づき、電動型モーター1(電気モータ)は、銅損の割合よりも鉄損の割合が大きくなる状況に対応した電動型モーター1の回転速度となる追い越し運転時にも、ローターシャフト11(ターボ軸)の回転を補助するようにし、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
なお、請求人は、平成26年6月30日に提出された意見書において「引用文献1記載の技術では、排気によるロータシャフトの回転が高回転数になると、ワンウェイクラッチがスリップを起こすため、電動型モータでロータシャフトの回転を補助することはできません。」(【意見の内容】〔3〕)と主張するとともに、審判請求書において「引用文献1記載の技術は、鉄損の割合が銅損の割合よりも大きくなる状況に対応した電気モータの回転速度では、ターボ軸がモータの回転速度を上回ることがあるので、ワンウェイクラッチによりターボ軸がドライブギアを駆動することができない。」(【請求の理由】の(3))と主張するが、引用発明において、排気用のタービン(排気タービン)により駆動されるローターシャフト11(ターボ軸)の回転速度が、電動型モーター1(電気モータ)により歯車(B)9を介して駆動される歯車(A)8(ドリブンギア)の回転速度を上回り、ワンウェイクラッチにより電動型モーター1でローターシャフト11の回転を補助することができない回転速度の領域を、単に、鉄損の割合が銅損の割合よりも大きくなる状況に対応した電動型モーター1の回転速度となる追越し運転時において、電動型モーター1がローターシャフト11の回転を補助することができるような所定の回転速度を上回る部分に設定すればよいのであって、特段、ワンウェイクラッチ自体が電動型モーター1で高回転域でのローターシャフト11の回転を補助することを阻害するとまではいえないから、請求人の主張は採用することができない。

そして、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明及び周知事項から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

〔4〕むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成26年6月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、前記第2[理由]〔1〕(A)の【請求項1】に示したとおりのものである。

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物及びその記載事項、並びに、引用発明は、前記第2[理由]〔3〕2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]〔3〕で検討した本願補正発明において、発明特定事項である「電気モータ」について、その限定事項である「前記ドライブギアが取り付けられると共に」という事項を削除し、また、「前記ドライブギアを回転させて前記ターボ軸の回転を補助する電気モータ」であって、「前記電気モータは、銅損の割合よりも鉄損の割合が大きくなる状況に対応した前記電気モータの回転速度となる追い越し運転時に、前記ターボ軸の回転を補助する」とされたものを、「追い越し運転時に前記ドライブギアを回転させて前記ターボ軸の回転を補助する電気モータ」として、電気モータの機能を上位概念化したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を実質的に全て含む本願補正発明が、前記第2[理由]〔3〕に記載したとおり、引用発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-09 
結審通知日 2015-11-10 
審決日 2015-11-24 
出願番号 特願2010-242540(P2010-242540)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02B)
P 1 8・ 121- Z (F02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 真一  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 松下 聡
槙原 進
発明の名称 電動アシストターボチャージャ  
代理人 絹谷 信雄  

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