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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1309524
審判番号 不服2014-14680  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-28 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 特願2012-155592「消化器不全治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月11日出願公開、特開2012-193201〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成14年10月7日に出願した特願2002-293904号の一部を平成24年7月11日に新たな特許出願としたものであって、平成25年11月19日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対し、平成26年1月6日に意見書が提出されたが、同年5月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明について

本願の請求項1?5に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】
A.コール酸
B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体
C.クルクミン
のA、BおよびCの成分を含むことを特徴とする消化器不全治療剤。」


第3 原査定の理由

原査定の拒絶理由の概要は、本願請求項1-5に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項に規定により特許を受けることができないというものである。


第4 当審の判断

1.引用例の記載
本願出願日前に頒布された刊行物には、それぞれ次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付加した。

(1)特開2002-205998号公報(原査定の拒絶理由で引用された引用文献1と同じ。以下、「引用例1」という。)

(1a)「【請求項1】 コール酸を含むことを特徴とする栄養剤、消化器剤。
【請求項2】 イソフラボンおよび/またはイソフラボン配糖体を含むことを特徴とする請求項1に記載の栄養剤、消化器剤。
【請求項3】 イソフラボンおよびイソフラボン配糖体が大豆イソフラボンおよび大豆イソフラボン配糖体であることを特徴とする請求項2に記載の栄養剤、消化器剤。
【請求項4】 ビタミン剤を加えることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の栄養剤、消化器剤。
【請求項5】 生薬を加えることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の栄養剤、消化器剤。」(【特許請求の範囲】)

(1b)「【従来の技術】 中国伝統医学は身体を常に正常な状態に保つことを一つの基本としているが、その目的を達成するための「気血水」という概念があり、また、その概念に基づいた具体的な手段手法もあることは昔から知られていた。・・・(中略)・・・気血水なる概念に含まれていた科学について簡単に説明すると、「気」という言葉に含まれている科学とは、人体が持つ総ての機能をしっかりと作動させることであり、「血」という言葉に含まれている科学とは、それらの機能を発揮するために必要な物質を血管を通じて体中に供給することであり、又、「水」という言葉に含まれている科学とは、血管で運ばれたそれらの必要物質をさらに血管のない部分にも十分供給することであるが、この時の必要物質の搬路は体の内から外に向かって形成されている水分の流れである。・・・(中略)・・・
【0003】
【発明が解決しようとする課題】・・・中略・・・この出願発明者は、コール酸(Cholic acid)が血管を通じて人体機能発揮に必要な物質の体内配送を保証するために有効成分であることを見い出した。また、この出願発明者は、イソフラボンおよびイソフラボン配糖体、とくに、大豆イソフラボンおよび大豆イソフラボン配糖体が、血管で運ばれた機能発揮のための必要物質を更に血管のない体内各部へ供給するための手段である体内の水流を促進する作用を持つものであることを見い出した。さらに、この出願発明者は、コール酸とイソフラボンおよび/またはイソフラボン配糖体、とくに、大豆イソフラボンおよび/または大豆イソフラボン配糖体とを併用することにより相乗効果のある優れた栄養剤、消化器剤であることを見い出した。この出願発明は、この新しい医学理論を基に、古来、中国伝統医学が達成していた効果に近い極めて有効な医薬品を提供することを目的とする。」(【0002】?【0003】)

(1c)「【発明の実施の形態】この出願発明の医薬品は、どのようにして摂取してもよいが、病気の予防は総ての健康人が望むところであり、自然治癒力はあらゆる病気に対して患者の体自身が発揮する力であって、総ての病人が従来の西洋医学的治療と共に自然治癒能力を発揮することを望むところであり、又、病後の回復は、西洋医学的病状を脱却した病後の人総てが望むところであるから、この出願発明の医薬品は、日常的に摂取することが望ましい。」(【0005】)


(1d)「この出願発明は、コール酸、とくに、コール酸とイソフラボンおよび/またはイソフラボン配糖体が含まれていればよいが、その他の成分として、医薬品の場合には、医薬品一般が使用され、ビタミン類、抗生物質、抗ガン剤、ヘム鉄、プルーンエキス、生薬としては自律神経に支配される器官、腺、血管の機能を賦活するもの、消化を助けるものその他を混合してもよい。」(【0009】)

(1e)「両成分の予備的な使用実験でコール酸単独摂取者の数人に血の科学に関連すると思われる飲酒によるトラブルの改善が見られ、大豆イソフラボンおよび大豆イソフラボン配糖体群の単独摂取者の数人に水に含まれる科学に関連すると思われる便通改善が特徴的に見られた。また、さらに、この出願発明の両者併用の効果を立証するためにコール酸単独、大豆イソフラボン配糖体の単独、コール酸と大豆イソフラボン配糖体との複合の三種のサンプルをそれぞれ30人の被験者に2か月間服用させた結果を調査し、その結果をつぎの表に示した。
【0027】
【表】
酒が美味 二日酔いが 大便量が 便通が 顕著な疲労
しくなった なくなった 増加した 楽になった 回復

大豆イソ 2名 1名 5名 3名 0名
フラボン
配糖体群

コール酸 8名 4名 0名 1名 0名

コール酸+ 25名 23名 26名 20名 28名
大豆イソフ
ラボン配糖
体群
【0028】この表から明らかなように、大豆イソフラボン配糖体群とコール酸とを混合した場合には、大部分が顕著な疲労回復を示しており、この結果は、大豆イソフラボン配糖体群とコール酸とを混合した場合には、大豆イソフラボン配糖体群とコール酸とを単独で使用した場合に比べて、各々の単独成分では見られなかった新しい効果があることを示している。また、大豆イソフラボンについても大豆イソフラボン配糖体と同様の結果が得られた。表に現れたこれらの結果は、二つの成分の組み合わせによって、二つの成分のそれぞれのもつ効果が相乗的に現れたことを示している。中国伝統医学の効果は科学の力を越える場合があり上表の結果の完全解釈はできないが、科学の観点からのみ見てもうなづける結果である。即ち、コール酸には、人体各部での機能発揮に必要な物質を血管を通して搬送する作用があり、大豆イソフラボンおよび大豆イソフラボン配糖体群には血管から先の血管の通っていない部分、例えば組織、体液などの血管の占める体積をはるかに越える人体の大部分へ配送する作用があることは既に説明したが、二つのどちらかが阻害されても、又、どちらかの作用のみ賦活されても機能発揮に必要な物質の人体隅々までの配送は達成できない。」(【0026】?【0028】)

(1f)「各種の病気に対する急速な改善効果は各病気に対して直接的な治療効果を発揮したのではなく、人体が正常状態に近づいたために病気が自然消滅したか、体が総合的な自然治癒力を発揮して病気を根本的に治そうとしたかの何れかであって西洋医学のようにその病気の一面に対してだけの限定的な効果を発揮した結果ではない。」(【0029】)

(1g)「【発明の効果】 この出願発明により、病気の予防、自然治癒能力の増強、病後の回復促進を同時に達成することができる。」(【0031】)


(2)特開平10-114649号公報(原査定の拒絶理由で引用された引用文献2と同じ。以下、「引用例2」という。)

(2a)「【請求項1】 下記一般式(I)で表される化合物及び/又はその生理的に許容される塩からなる、津液改善剤。
【化1】


[式(I)中、R1、R3はそれぞれ独立に低鎖長アルキル基、低鎖長アルキルオキシ基、水酸基又は水素原子を表し、R2は低鎖長アシルオキシ基又は水酸基を表し、R4は窒素原子又は芳香族基を有していてもよいカルボニルアルケニル基もしくはアルケニルカルボニル基を表す。]」

【請求項2】 前記一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(II)で表されるカプサイシン、下記一般式(III)で表されるシナピン、もしくは下記一般式(IV)で表されるクルクミン又はこれらのアシル化物である、請求項1記載の津液改善剤。
【化2】(省略)
【化3】(省略)
【化4】

【請求項3】 請求項1又は2記載の津液改善剤を含有する、経口投与用組成物。
【請求項4】 食品である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】 医薬である、請求項3記載の組成物。
【請求項6】 津液作用の改善に用いられる、請求項3?5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】 前記津液作用が、・・・消化液分泌促進作用、発汗促進作用、便通促進作用、及び利尿作用からなる群から選ばれる作用である、請求項6記載の組成物。」

(2b)「【従来の技術】漢方思想における気、血、水の考え方は、その薬理作用の捉え方のユニークさと、漢方薬選択時の合理的な指標であるために、古くより研究されてきた。これらの内、気、血の意味するものについては、多くのことが解明されてきた。例えば、血とは酸素、栄養等エネルギーを中心とする補給・代謝を表すキーワードであり、気とは生命活動の恒常性機構の活動状況と生命活動の原動力の状況を表すキーワードであることが知られている。
【0003】しかし、水(津液)の働きについては老廃物の代謝・排泄作用のみしか知られておらず、気・血・水の論理体型において遅れて認識された為、その真の作用(津液作用)の解明は未完であった。また、津液作用と現代医学で認識されている種々の薬理作用等との関係や津液の現代医学における役割などはあまり知られておらず、現代医学の分野における津液作用の解明及び津液作用の改善をもたらす食品や医薬等の開発が望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような状況を踏まえてなされたものであり、津液の真の作用を明らかにし、津液作用を改善しうる物質及びそれを含有する食品、医薬等の経口投与用組成物を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、このような状況に鑑み、津液の真の作用を求めて鋭意研究を重ねた結果、津液作用が、ある種の物質の働きによって水分の体外への分泌を司る器官を刺激し、体内水分の体外への分泌を促進させる作用を意味していることを見いだした。そして、そのような分泌器官を刺激し津液作用を促進・改善しうる物質である津液改善剤を見出し、本発明を完成した。」(【0002】?【0005】)

(2c)「本発明の津液改善剤とは、水分の体外への分泌を司る器官を刺激して体内水分の体外への分泌を促し津液作用を促進・改善する作用、すなわち津液改善作用を有する物質をいう。本発明者らは、津液作用が真皮から表皮への水分分泌を促進し表皮に十分な水分を保持させることによって起こる美肌作用、アトピー性皮膚炎、湿疹、皮膚真菌症、疣贅、色素沈着症、尋常性乾癬、老人性乾皮症、老人性角化腫、火傷等の各種皮膚疾患治療作用、発毛促進作用、発汗促進作用、胃壁、腎臓、腸管での水分分泌を促進させることによって起こる消化液分泌促進作用、利尿作用、便通促進作用にかかわる作用であることを見出した。」(【0010】)

(2d)「津液作用は、その発現形態としてしゃ下作用、利水作用、補陰作用、消導作用として生体に発現することが知られている。これらの作用を有する漢方生薬としては、しゃ下作用であれば、ダイオウ、バンシャヨウ、ロカイ、マシニン、ケンゴシ、カンスイ、ゲンカ、ゾクズイシ、ウキュウコンピ等が知られており、利水作用を有する漢方生薬としては、チョレイ、ブクリョウ、タクシャ、インチンコウ、ヨクイニン、トウカニン、ジフシ、トウキヒ、キンセンソウ等が知られており、補陰作用を有する漢方生薬としては、シャジン、セイヨウジン、テンモンドウ、バクモンドウ、セッコク、ギョクチク、ヒャクゴウ、ソウキセイ、カンレンソウ、ジョテイシ、ゴマ、コクズ、キバン、ベッコウ等が知られており、消導作用を有する漢方生薬としては、サンザシ、クレンコンピ、ヒシ、カクシツ、ライガン、ビンロウジ、ナンカシ、タイサン等が知られている。」(【0024】)

(2e)「(2)本発明の経口投与用組成物
本発明の経口投与用組成物は、上記津液改善剤から選ばれる1種乃至は2種以上を含有することを特徴とする。」(【0028】)

(2f)「【実施例1?5】
<配合例>表1に示す成分を用 いその処方に従って錠剤を作成した。即ち、処方成分をグラッド造粒装置に秤込み、50重量部の20%エタノール水溶液を噴霧しながら混合して、粗顆粒を作成した。粗顆粒を40℃で48時間送風乾燥して、打錠機で打錠して250mgの錠剤を得た。尚、表1中の数値の単位は重量部である。
【0033】
【表1】

」(【0032】?【0033】)

(2g)「【実施例20】
<試験例5:胃液分泌促進作用>麻酔犬を用いて胃液の分泌促進を見た。即ち、ペントバルビツールで麻酔した犬の胃に投与装置付き内視鏡を導入し、本発明の津液改善剤10mgを生理食塩水10mlに溶解又は分散させて投与し、その前後の胃液の分泌を観察した。対照は生理食塩水のみを用いた。観察の基準は、++(評点4):対照に比べて著しく胃液分泌が増大、+(評点2):対照に比べて胃液分泌が増大、±(評点1):対照に比べてやや分泌が増大、-(評点0):分泌が対照に比べて増大せずであった。結果を表5に示す。これより、本発明の津液改善剤は胃液分泌促進作用に優れることがわかる。
【0047】
【表8】

」(【0046】?【0047】。当審注:段落【0046】の「表5」は、【表8】を示すものと認められる。)

(2h)「【実施例21】
<試験例6:便通・排尿の促進作用>
ICRマウスを代謝ケージで飼育した。投与群は上記実施例1?3の組成物を1g/1匹朝夕2回0.5gずつ経口投与した。夕方の投与後24時間の尿と糞の量をモニターした。コントロール群は検体を投与しなかった。各サンプル1群10匹とした。検体投与群の尿量の総和をコントロール群の尿量の総和で除した値と検体投与群の糞量の総和をコントロール群の糞量の総和で除した値とを表6に示す。これより本発明の一般式(I)で表される化合物及び/又はその生理的に許容される塩は便通促進作用及び排尿促進作用(利尿作用)に優れることがわかる。
【0049】
【表9】


(【0048】?【0049】当審注:段落【0048】の「表6」は、【表9】を示すものと認められる。)

(2i)「【発明の効果】本発明によれば、・・・(中略)・・・消化液分泌促進作用、発汗促進作用、便通促進作用、及び利尿作用からなる群から選ばれる津液作用を改善する効果を有する津液改善剤を提供することができる。」(【0050】)


2.対比

上記引用例1の特に(1a)の記載を考慮すると、引用例1には、「コール酸と、大豆イソフラボンおよび/または大豆イソフラボン配糖体を含む消化器剤」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

本願発明と引用発明とを対比すると、両者は「A.コール酸、 B.大豆イソフラボンまたは大豆イソフラボン配糖体を含むことを特徴とする剤」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は成分Cとしてクルクミンを含むのに対し、引用発明はクルクミンを含まない点。
[相違点2]
剤の用途について、本願発明は「消化器不全治療剤」であるのに対し、引用発明では「消化器剤」である点。


3.判断
(1)相違点2について
まず相違点2について検討する。本願発明の「消化器不全治療剤」については、当該本願発明中にも本願明細書中にも具体的な疾患名や部位等が記載されていないため、消化器全般の「不全」すなわち機能が低下した状態を正常な状態にするための治療剤であると解される。そして、引用発明の「消化器剤」は、記載事項(1c)及び(1e)?(1g)の記載から治療用途を意図したものと解され、大便量の増加や便通改善等の効果に基づき、低下した消化器機能を治療するものとして提供された剤であるといえる。よって、相違点2については、単なる表現上の差異であって、用途として実質的に相違していないといえる。また、仮に相違するとしても、引用発明が消化器機能の治療を目的とした剤であることに基づいて、これを消化器不全の治療に適用することは、当業者にとって容易に想到できる事項である。

(2)相違点1について
引用例1には、中国伝統医学の「気血水」の概念における「血の科学」に関連する作用を有するとするコール酸と、「水の科学」に関連する作用を有するとする大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体とを組み合わせることで、「血の科学」に関連する作用と「水の科学」に関連する作用とが相乗的に作用し、病気の予防、自然治癒能力の増強、病後の回復促進のみならず、大便量の増加や便通改善等の顕著な効果が示されたとする消化器剤が開示されている(記載事項(1b)及び(1e))。

一方、引用例2には、一般式(I)で表される化合物が、漢方思想の「気血水」の考え方における「津液作用」を改善する性質を有し、津液改善剤として使用できることが記載され(記載事項(2a)?(2c))、その一般式(I)に含まれるカプサイシン、シナピン又はクルクミンのそれぞれを投与した結果、胃液分泌促進、便通・排尿促進等の効果があったことが具体的に記載されている(記載事項(2f)?(2i))。

引用例1に記載された「水の科学」に関連する作用と引用例2に記載された「津液作用」とは、共に中国伝統医学の「気血水」の概念に基づくものであり、引用例1の「水の科学」に関連する作用が「血管で運ばれた機能発揮のための必要物質を更に血管のない体内各部へ供給するための手段である体内の水流を促進する作用」(記載事項(1b))とされ、引用例2の「津液作用」が「水分の体外への分泌を司る器官を刺激し、体内水分の体外への分泌を促進させる作用」(記載事項(2b))とされていることから、両者は同等の作用を有するものに対応することが明らかである。したがって、引用例2に記載された「津液改善剤」は、引用例1に記載された「水の科学」に関連する作用を有する成分に相当する。

引用例1にはコール酸、大豆イソフラボン又は大豆イソフラボン配糖体以外のその他の成分を混合してもよいことが記載されており(記載事項(1d))、一方、引用例2には「津液作用」(水の科学に関連する作用)を有する生薬が多数列挙され(記載事項(2d))、「津液改善剤」として「津液作用」を有する成分を複数併せて用いることが記載されている(記載事項(2e))。そうすると、引用例2でもなされているように、引用発明において「水の科学」に関連する作用を有する成分を複数用いることとし、その成分として引用例2で具体的な作用が確認された「津液改善剤」の有効成分であるカプサイシン、シナピン及びクルクミンの3種のうちからクルクミンを選択することは、当業者が容易になし得ることであり、格別の相違工夫を要するものではない。


4.本願発明の奏する効果について
本願発明の具体的な効果としては、消化器不全の治療に関する具体的な記載は見いだせないが、本願明細書段落【0046】において、効果として慢性疲労と精力減退の改善、だるさや無気力の改善、体力増強等が一応記載されている。
しかし、引用例1には疲労回復に加えて、大便量の増加や便通が楽になる等の具体的な効果が記載されているため(記載事項(1e))、本願発明の効果は引用発明に比べて格別に優れるものとは認められない。さらに、引用例2によれば、クルクミン等の「津液改善剤」が消化液分泌促進作用、利尿作用、便通促進作用等の津液作用を広く改善したとされている(記載事項(2i))ことも考慮すると、本願発明が奏する効果は、引用例1及び引用例2の記載に基づいて当業者が予測し得る範囲を超えるものではない。


5.小括

以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は、その出願日前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第5 むすび

以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は、その出願日前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-28 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-11-06 
出願番号 特願2012-155592(P2012-155592)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 樹理  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
佐久 敬
発明の名称 消化器不全治療剤  
代理人 熊田 和生  

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