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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1309541
審判番号 不服2014-20260  
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-07 
確定日 2016-01-04 
事件の表示 特願2010-143030「炭化珪素半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月21日出願公開,特開2010-239152〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年4月2日を出願日とする特願2008-95693号(以下「原出願」という。)の一部を,平成22年6月23日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成22年 6月23日 上申書
平成23年 2月 9日 審査請求
平成25年 2月27日 拒絶理由通知
平成25年 4月15日 面接記録
平成25年 4月30日 意見書・手続補正書
平成25年11月20日 拒絶理由通知(最後)
平成26年 1月20日 面接記録
平成26年 1月31日 意見書・手続補正書
平成26年 6月 9日 上申書
平成26年 6月27日 補正却下の決定・拒絶査定
(平成26年1月31日付け手続補正書でした補正を却下する。この出願については平成25年11月20日付け拒絶理由通知に記載した理由により,拒絶すべきものである。)
平成26年10月 7日 審判請求・手続補正書
平成27年 2月20日 上申書

第2 補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年10月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,特許請求の範囲の請求項1については,本件補正の前後で以下のとおりである。
・補正前
「【請求項1】
炭化珪素層と,
前記炭化珪素層の主面から前記炭化珪素層の内部に向けて位置しており,不純物濃度が1E19cm^(-3)以上,1E21cm^(-3)以下の範囲内にあるp型の不純物を有するp型の炭化珪素領域と,
その裏面が前記p型の炭化珪素領域の表面とオーミックコンタクトするコンタクト電極とを備えており,
前記p型の炭化珪素領域のオーミックコンタクト抵抗率が8E-4Ωcm^(2)以下であり,
前記p型の炭化珪素領域のホールキャリア濃度が前記不純物濃度の5%以上であり,
前記p型の炭化珪素領域のホール移動度が4cm^(2)/Vs以下である
ことを特徴とする,
炭化珪素半導体装置。」
・補正後
「【請求項1】
炭化珪素層と,
前記炭化珪素層の主面から前記炭化珪素層の内部に向けて位置しており,不純物濃度が1E19cm^(-3)以上,1E21cm^(-3)以下の範囲内にあるp型の不純物を有するp型の炭化珪素領域と,
その裏面が前記p型の炭化珪素領域の表面とオーミックコンタクトするコンタクト電極とを備えており,
前記p型の炭化珪素領域のオーミックコンタクト抵抗率が8E-4Ωcm^(2)以下であり,
前記p型の炭化珪素領域のホールキャリア濃度が前記不純物濃度の5%以上であり,
前記p型の炭化珪素領域のホール移動度が4cm^(2)/Vs以下であり,
前記p型の炭化珪素領域には,不純物アクセプタと,1E19cm^(-3)以上のホールキャリアの起源となるアクセプタ型結晶欠陥とが存在することを特徴とする,
炭化珪素半導体装置。」

2 補正事項の整理
本件補正による,補正前の特許請求の範囲の請求項1についての補正を整理すると次のとおりとなる。(当審注.下線は補正箇所を示し,当審で付加したもの。)
・補正事項
補正前の請求項1に,「前記p型の炭化珪素領域には,不純物アクセプタと,1E19cm^(-3)以上のホールキャリアの起源となるアクセプタ型結晶欠陥とが存在する」を追加する補正をすること。

3 本件補正の適否
以下,補正事項について,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内においてされたものであるか否かについて検討する。

(1)当初明細書等の記載
当初明細書等には,本願に係る発明における「不純物アクセプタ」及び「アクセプタ型結晶欠陥」と「ホールキャリア密度」との関係について,以下の記載がある。(当審注.下線は当審において付加した。以下同じ。)
ア「【0030】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法によって製造される,炭化珪素p型ベースオーミックコンタクト用p++領域の電気的特性及びpベースオーミックコンタクト抵抗率について,記載する。
【0031】
一方で,図27は,炭化珪素pベースオーミックコンタクト用p++領域のホールキャリア密度及びホール移動度を,Hall測定により評価するための半導体装置の構成を示す縦断面図である。図27に於いて,炭化珪素基板11上には,炭化珪素エピタキシャル層12が成長形成されており,炭化珪素エピタキシャル層12の上面から同層12の内部に向けてp++領域13が形成されている。そして,オーミック電極15がp++領域13の上面上に形成されている。・・・
・・・
【0033】
次に,実施の形態2に係るHall測定用半導体装置の製造方法を,図28?図33に基づき,記載する。
【0034】
先ず,オフ角を有する炭化珪素基板11の上面上に,熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法により,温度1500℃?1600℃,気圧250mbar,キャリアガス種はH_(2),生成ガス種はSiH_(4)及びC_(3)H_(8)の条件の下で,膜厚0.3μm以上の炭化珪素エピタキシャル層12を積層する(図28)。
【0035】
次に,炭化珪素エピタキシャル層12の上面上に選択イオン注入用マスク16を形成し(図29),選択イオン注入用マスク16を用いて,濃度が約2e20cm^(-3)のAlイオン,Bイオン,及びGaイオンの内で何れかのイオンを,炭化珪素エピタキシャル層12内に注入して,p++領域13Aを形成する(図30)。尚,上記のイオン注入は,炭化珪素(11+12)を室温?500℃の範囲内の各注入温度に保持して行われる。その後は,選択イオン注入用マスク16を除去した上で,1400℃?2000℃の範囲内の温度で以ってp++領域13Aの活性化アニール処理を行い,これにより,p++領域13が形成される(図31)。」
イ「【0039】
ここで,図34は,Hall測定から得られた,p++領域13に於けるホールキャリア密度(プロット:白丸)及びホール移動度(プロット:黒の三角形)の注入温度依存性を示す。但し,図34の測定例は,p++領域13Aの活性化アニール温度が1700℃であり,更に,既述した実施の形態1での評価結果を踏まえて,注入温度が175℃以上の場合に関するデータのみを,図示している。図34より,ホールキャリア密度は,注入温度が250℃?500℃の範囲内では殆ど注入温度に対する依存性を示さないが,注入温度が250℃以下,175℃以上の範囲内に於いては,ホールキャリア密度は急激に増大している。又,ホールキャリア密度の当該増大に対応して,ホール移動度も急激に低下している。この現象は,注入時の炭化珪素(11+12)の保持温度が250℃以下,175℃以上の範囲内では,イオン注入したp++領域13内に,アクセプタ型のエネルギー準位を有する結晶欠陥がより高密度に分布していることを示している。」
ウ「【0040】
又,図35は,Hall測定から得られた,p++領域13に於けるホールキャリア密度の活性化アニール温度及び注入温度の依存性示しており,図36は,Hall測定から得られた,p++領域13に於けるホール移動度の活性化アニール温度及び注入温度依存性を示している。尚,注入温度が400℃及び500℃の場合についても本願発明者らは同様に測定を行ったが,その測定結果は,注入温度が300℃の場合のそれと殆ど変わらなかったため,注入温度が400℃及び500℃の場合の測定データは,何れも,図35及び図36には図示されてはいない。両図35,36より,イオン注入時の炭化珪素(11+12)の保持温度(注入温度)が250℃及び300℃の各々では,Alイオンを注入したサンプルに関して,活性化アニール温度が高くなるにつれてホールキャリア密度は増大し,逆にホール移動度は活性化アニール温度が高くなるにつれて低下している。この現象は,注入されたAlイオンが炭化珪素格子サイトに配置されて電気的に活性化したことにより,ホールキャリア密度が増大すると共に,イオン化不純物散乱因子密度が増大してホール移動度が低下したことを示している。他方,注入温度が175℃及び200℃の各々では,Alイオンを注入したサンプルに関しては,ホールキャリア密度は活性化アニール温度が高くなる程に増大するが,ホール移動度は,アニール温度如何に関わらず,約3cm^(2)/Vs程度の低い値を示している。この現象は,注入されたAlイオンの活性化により増大するイオン化不純物散乱とは別の散乱機構に,ホール移動度が強く依存していることを示唆している。何れの活性化アニール温度条件下に於いても,注入温度が175℃及び200℃の各々である場合に於いてAlイオンを注入したときのサンプルのホールキャリア密度は,注入温度が250℃及び300℃の各々である注入サンプルよりも高い値を示しており,特に活性化アニール温度が低い程に,その比は顕著に大きくなっている。これらの結果から,測定されたホールキャリアの起源として,活性化アニールの高温化により増大するAlアクセプタと,Alイオン注入温度の低温化により増大するアクセプタ型結晶欠陥とが存在すると,考えられる。」
エ Hall測定から得られた,炭化珪素pベースオーミックコンタクト用p++領域におけるホールキャリア密度及びホール移動度の注入温度依存性を示す,図34には,注入温度に対するホールキャリア密度について,注入温度が250℃,200℃及び175℃の場合,ホールキャリア密度は,それぞれ,約0.6E19cm^(-3),約1.95E19cm^(-3),及び約2E19cm^(-3)であることが示されている。
オ Hall測定から得られた,炭化珪素pベースオーミックコンタクト用p++領域におけるホールキャリア密度の活性化アニール温度及び注入温度の依存性を示す,図35には,Alイオンを注入したときのサンプルのホールキャリア密度について,注入温度が175℃及び200℃の各々である場合,活性化アニール温度が1600℃以下の範囲で約1E19cm^(-3)以下であり,また,注入温度が250℃及び300℃の各々である場合,活性化アニール温度が1600℃以下の範囲で約0.2E19cm^(-3)以下であることが示されている。

(2)新規事項の追加の有無について
上記2のとおり,補正事項による補正は,補正前の請求項1に,「p型の炭化珪素領域」には,「不純物アクセプタ」と,「1E19cm^(-3)以上のホールキャリアの起源となるアクセプタ型結晶欠陥」とが存在することを追加するものである。
他方,上記(1)ア,イ及びエより,当初明細書等には,濃度が約2E20cm^(-3)のAlイオン,Bイオン,及びGaイオンの何れかを炭化珪素エピタキシャル層内へ注入した後,1700℃の温度で活性化アニール処理を行って形成した,炭化珪素pベースオーミックコンタクト用p++領域について,注入温度が250℃,200℃及び175℃の場合,ホールキャリア密度は,それぞれ,約0.6E19cm^(-3),約1.95E19cm^(-3),及び約2E19cm^(-3)となり,注入温度が250℃以下,175℃以上の範囲内でホールキャリア密度が0.6E19cm^(-3)から2E19cm^(-3)まで増大し,この現象は,イオン注入したp++領域内に,アクセプタ型のエネルギー準位を有する結晶欠陥(以下,単に「アクセプタ型結晶欠陥」という。)が,より高密度に分布していることを示している旨,記載されていると認められる。
また,上記(1)ア,ウ及びオより,当初明細書等には,注入温度が175℃及び200℃の各々では,Alイオンを注入したサンプルに関しては,炭化珪素pベースオーミックコンタクト用p++領域のホールキャリア密度は,活性化アニール温度が1600℃以下の場合,1E19cm^(-3)以下であり,活性化アニール温度が高くなる程に増大するのに対し,上記p++領域のホール移動度は,アニール温度如何に関わらず,約3cm^(2)/Vs程度の低い値を示し,この現象により,注入されたAlイオンの活性化により増大するイオン化不純物散乱とは別の散乱機構に,ホール移動度が強く依存していることが示唆されている旨,記載されていると認められる。
そして,上記(1)ア,ウ及びオより,当初明細書等には,何れの活性化アニール温度条件下においても,注入温度が175℃及び200℃の各々である場合においてAlイオンを注入したときのサンプルの,上記p++領域のホールキャリア密度は,注入温度が250℃及び300℃の各々である注入サンプルよりも高い値を示し,活性化アニール温度が1600℃以下のとき,前者は約1E19cm^(-3)以下,後者は約0.2E19cm^(-3)以下で,活性化アニール温度が低い程に,その比は顕著に大きくなることから,測定されたホールキャリアの起源として,活性化アニールの高温化により増大するAlアクセプタと,Alイオン注入温度の低温化により増大するアクセプタ型結晶欠陥とが存在すると考えられる旨,記載されていると認められる。
しかし,上記(1)より,当初明細書等には,濃度が約2E20cm^(-3)のAlイオン,Bイオン,及びGaイオンの何れかを炭化珪素エピタキシャル層内へ注入し,炭化珪素pベースオーミックコンタクト用p++領域を形成する際,注入温度を250℃以下,175℃以上の範囲内にすると,上記p++領域にアクセプタ型結晶欠陥が,より高密度に分布していると考えられることや,注入されたAlイオンの活性化により増大するイオン化不純物散乱とは別の散乱機構に,ホール移動度が強く依存していると示唆されていることや,測定されたホールキャリアの起源として,活性化アニールの高温化により増大するAlアクセプタと,Alイオン注入温度の低温化により増大するアクセプタ型結晶欠陥とが存在すると考えられることが記載されているにとどまり,上記補正事項による補正で補正前の請求項1に追加される,「p型の炭化珪素領域」には「1E19cm^(-3)以上のホールキャリアの起源となるアクセプタ型結晶欠陥」が存在することは記載されていない。
また,当初明細書等には,Hall測定から得られた,炭化珪素pベースオーミックコンタクト用p++領域におけるホールキャリア密度及びホール移動度の注入温度依存性,並びに上記p++領域におけるホールキャリア密度の活性化アニール温度及び注入温度の依存性が示されているが,これらには,注入温度を250℃以下,175℃以上の範囲内にした場合における,アクセプタ型結晶欠陥を起源として生成された上記p++領域のホールキャリアの密度や,上記p++領域のホールキャリア密度におけるアクセプタ型結晶欠陥を起源として生成されたものの割合は記載されておらず,「p型の炭化珪素領域」には「1E19cm^(-3)以上のホールキャリアの起源となるアクセプタ型結晶欠陥」が存在することは記載されていない。
そして,当該技術分野における技術常識を参酌すれば,注入温度を250℃以下,175℃以上の範囲内にした場合でも,上記p++領域のホールキャリアとして,Alアクセプタを起源として生成されるものが存在することは否定できないから,アクセプタ型結晶欠陥を起源として生成された上記p++領域のホールキャリアの密度や,上記p++領域のホールキャリア密度におけるアクセプタ型結晶欠陥を起源として生成されたものの割合は,当該技術分野における技術常識を参酌しても,当初明細書等の記載から自明とはいえない。
してみれば,「p型の炭化珪素領域」には「1E19cm^(-3)以上のホールキャリアの起源となるアクセプタ型結晶欠陥」が存在することは,当該技術分野における技術常識を参酌しても,当初明細書等の記載から自明な事項とは認められない。
そうすると,上記補正事項による補正で補正前の請求項1に追加される,「p型の炭化珪素領域」には「1E19cm^(-3)以上のホールキャリアの起源となるアクセプタ型結晶欠陥」が存在することは,当初明細書等に記載されたものとは認められない。

(3)小括
上記(2)より,上記補正事項による補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものといわざるを得ないから,上記補正事項による補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものであるとは認められない。
以上から,本件補正における上記補正事項による補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものであるとは認められないから,本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてされたものとはいえず,特許法第17条の2第3項に規定に違反するものと認める。

4 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するから,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の容易想到性について

1 本願発明について
平成26年10月7日に提出された手続補正書による手続補正は前記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし4に係る発明は,平成25年4月30日に提出された手続補正書に記載されたとおりのものであり,その請求項1の記載は,再掲すると次のとおりである。(以下,本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
「【請求項1】
炭化珪素層と,
前記炭化珪素層の主面から前記炭化珪素層の内部に向けて位置しており,不純物濃度が1E19cm^(-3)以上,1E21cm^(-3)以下の範囲内にあるp型の不純物を有するp型の炭化珪素領域と,
その裏面が前記p型の炭化珪素領域の表面とオーミックコンタクトするコンタクト電極とを備えており,
前記p型の炭化珪素領域のオーミックコンタクト抵抗率が8E-4Ωcm^(2)以下であり,
前記p型の炭化珪素領域のホールキャリア濃度が前記不純物濃度の5%以上であり,
前記p型の炭化珪素領域のホール移動度が4cm^(2)/Vs以下である
ことを特徴とする,
炭化珪素半導体装置。」

2 引用発明及び周知技術
(1)引用文献の記載と引用発明
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,原出願の出願日前に米国内において頒布された刊行物である,Y. Negoro, 外4名,"Electrical activation of high-concentration aluminum implanted in 4H-SiC",Journal of Applied Physics,米国,American Institute of Physics,2004年11月1日,Vol. 96, No. 9,p. 4916-4922(以下「引用文献」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(当審注.訳は当審で作成した。)
(ア)「I. INTRODUCTION
Silicon carbide(SiC) is an atractive semiconductor material for high-power electronic devices. ・・・ In order to form selective p-type regions in SiC, implantation of aluminium ions(Al^(+)) or boron-ions(B^(+)) is commonly used. Al is particularly attractive to form heavily doped p^(+)-regions with reasonable sheet resistance, because Al acceptors have a smaller ionization energy(190 meV, Ref.2) than B acceptors(285 meV) Ref.3 in 4H-SiC.」(4916頁左欄1行ないし14行)
(訳:I.イントロダクション
炭化珪素(SiC)は高電力電子デバイス向けの魅力的な半導体材料である。・・・SiCに選択的にp型領域を形成するために,通常,アルミニウムイオン(Al^(+))又はボロンイオン(B^(+))が用いられる。4H-SiCにおけるAlアクセプタのイオン化エネルギー(190meV)は,Bアクセプタ(285meV)よりも小さいため,Alは,シート抵抗の低い,高濃度にドープされたp^(+)領域を形成するうえで特に魅力的である。)
(イ)「II. EXPERIMENTS
The starting substrates are 8°off-axis n-type 4H-SiC(0001) and on-axis n-type 4H-SiC(11-20) purchased from Cree or Nippon Steel Co. Nitorogen-doped(n-type) 4H-SiC epilayers are grown on the substrates by chemical vapor deposition(CVD) at Kyoto University. The net donor concentration of epilayers was about 1×10^(16) cm^(-3). Multiple implantation of Al^(+) was carried out either at 500℃ or at room temperature(RT) to form a 0.2μm deep box profile of Al. The implatation energies and corresponding ratio of the doses were 160, 100, 60, 30, 10 keV and 0.51, 0.21, 0.15, 0.09, 0.04, respectively. The total dose was varied from 4×10^(15) cm^(-2) to 6×10^(16) cm^(-2), which corresponds to the Al concentration of 2×10^(20) cm^(-3)-3×10^(21 )cm^(-3). Part of the samples was coimplanted with carbon(C^(+)): the C^(+) dose was 20% or 100% dose of implanted Al^(+) dose. The coimplantation of C atoms is expected to increase the electrical activation of Al acceptors. ・・・
After forming a graphite cap on the whole surface of implanted samples, postimplantation annealing was performed in an Ar ambient at 1800℃ for 1-180 min using a CVD reactor.・・・
The electrical properties of Al^(+) -implanted regions were characterized by Hall-efect measurements in the temperature range from 180K to 830K using the van der Pauw configuration.・・・Ohmic contacts in the van der Pauw arrangement were formed by thermal evapolation of Ti(5nm) and Al(100nm) and subsequent annealing at 950℃ for 1 min. 」(4916頁右欄23行ないし4917頁左欄26行)
(訳:II.実験
開始基板として,クリ-社又は新日本製鐵から購入した,8°の軸ずれを持つn型の4H-SiC(0001)と軸ずれのないn型の4H-SiC(11-20)を用いた。京都大学において,これらの基板上に,窒素がドープされた(n型の)4H-SiCエピタキシャル層を,化学気相成長法(CVD)で成長させた。エピタキシャル層中のドナー密度は,約1×10^(16 )cm^(-3)だった。Al^(+)の多重注入が500℃又は室温で行われ,Alの深さ0.2μmの箱状のプロファイルが形成された。イオン注入エネルギーと対応するドーズ量の割合は,160,100,60,30,10keVのイオン注入エネルギーに対し,それぞれ,0.51,0.21,0.15,0.09,0.04である。総ドーズ量は,4×10^(15)cm^(-2)から6×10^(16)cm^(-2)まで変化され,これは,Alの濃度,2×10^(20)cm^(-3)?3×10^(21)cm^(-3)に相当する。一部のサンプルには,炭素(C^(+))が共に注入される。:C^(+)のドーズ量は,Al^(+)のドーズ量の20%又は100%である。炭素原子を共に注入することで,Alアクセプタの電気的活性化が増すものと予想される。・・・
イオン注入されたサンプルの全面にグラファイトキャップを形成した後,イオン注入後のアニールを,CVD装置を用いて,Ar雰囲気中,1800℃で1?180分間行った。・・・
Al^(+)が注入された領域の電気的特性は,van der Pauw 法を用いた,180Kから830Kの温度範囲でのHall効果測定によって特徴づけられる。・・・van der Pauw 法でのオーミックコンタクトは,Ti(5nm)とAl(100nm)を蒸着し,続けて950℃で1分間アニールして形成される。)
(ウ)「C. Discussion of the electrical properties in p^(+) -SiC
For the optimization of SiC-based devices, it is important to understand the difference between the experimentally determined parameters shown above and the electrical properties theoretically expected.・・・
Figure7(a) shows the acceptor-concentration dependence of the free-hole concentrations at RT. ・・・ The solid and dashed curves are calculated on the basis of the neutrality equation in Boltzman approximation.・・・
All of the experimental data(see symbols) are located above the dashed curve, indicating that the ionization energy of Al acceptors in those samples is smaller than 180 meV. Two open-square symbols indicated by arrows for C^(+) coimplanted samples(Al concentration of 2×10^(20) cm^(-3)and 5×10^(20) cm^(-3 )) take almost the same values as solid curves. The open-circle symbol (indicated by arrow) for simple Al^(+) implanted and 1 min annealed(Al concentration of 1.5×10^(21 )cm^(-3)) also shows a high free-hole concentration. ・・・
The dependence of the hole mobility μ on the free hole concentoration at RT is shown in Fig7(b). ・・・ 」(4919頁右欄9行ないし4921頁左欄6行)
(訳:C.p^(+)-SiCにおける電気的特性の検討
SiCベースのデバイスの最適化のために,上述の実験的に決定されたパラメータと,理論的に予測される電気的特性との違いを理解することが重要である。・・・
図7(a)は,室温での自由ホール濃度のアクセプタ濃度依存性を示したものである。・・・実線と破線の曲線は,ボルツマン近似の中立方程式に基づいて計算されたものである。・・・
全ての実験データ(シンボル参照。)は,破線より上に位置しており,Alアクセプタのイオン化エネルギーが180meVより小さいことを示している。C^(+)が共に注入されたサンプル(Alの濃度は,2×10^(20)cm^(-3),及び5×10^(20)cm^(-3)) である,矢印で示された2つの白四角のシンボルは,実線の曲線とほぼ同じ値をとる。Al^(+)が注入され,1分間アニールされた(Alの濃度は,1.5×10^(21)cm^(-3))である,(矢印で示された)白丸のシンボルも,自由ホール濃度が高いことを示している。・・・
室温でのホール移動度の自由ホール濃度依存性が,図7(b)に示されている。・・・)
(エ)室温での自由ホール濃度のアクセプタ濃度依存性を示す図7(a)には,実験データとして,Alの濃度が5×10^(20)cm^(-3)で,自由ホール濃度が2×10^(19)cm^(-3)より高く3×10^(19)cm^(-3)以下の値である,矢印が付された白四角のシンボルが示されている。
そして,室温でのホール移動度の自由ホール濃度依存性を示す図7(b)には,実験データとして,自由ホール濃度が2×10^(19)cm^(-3)より高く3×10^(19)cm^(-3)以下の値で,ホール移動度が4cm^(2)/Vs以下である白四角のシンボルが示されている。
イ 引用発明
上記ア(イ)より,引用文献には,4H-SiCエピタキシャル層に,Al^(+)の多重注入により,Alの箱状のプロファイルである,Al^(+)が注入された領域が形成され,当該領域にTiとAlからなるオーミックコンタクトが形成されたサンプルについて,Hall効果測定により,上記領域の電気的特性が測定されることが記載されていると認められる。
また,上記ア(ウ)及び(エ)より,上記サンプルの一つとして,上記Al^(+)が注入された領域におけるAlの濃度は5×10^(20)cm^(-3),自由ホール濃度が2×10^(19)cm^(-3)より高く3×10^(19)cm^(-3)以下のある値,ホール移動度が4cm^(2)/Vs以下であるサンプルが記載されていると認められる。
そして,上記ア(イ)より,引用文献記載のサンプルは,炭化珪素(SiC)に形成されることは明らかであり,Hall効果測定のための半導体装置といえるから,上記サンプルは,炭化珪素半導体装置ということができる。
そうすると,引用文献には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「4H-SiCエピタキシャル層と,
上記4H-SiCエピタキシャル層に形成されたAlの箱状のプロファイルであり,Alの濃度が5×10^(20)cm^(-3)である,Al^(+)が注入された領域と,
上記Al^(+)が注入された領域に形成された,TiとAlからなるオーミックコンタクト
とを備えており,
上記Al^(+)が注入された領域の自由ホール濃度が2×10^(19)cm^(-3)より高く3×10^(19)cm^(-3)以下のある値であり,
上記Al^(+)が注入された領域のホール移動度が4cm^(2)/Vs以下である,
炭化珪素半導体装置。」

(2)周知例の記載と周知技術
ア 周知例1
原査定の拒絶の理由に引用された,原出願の出願日前に日本国内及び外国において頒布された刊行物である,国際公開第97/39477号(以下「周知例1」という。)には,次の記載がある。(当審注.訳は当審で作成した。)
(ア)「EXAMPLE 1
A 6H-SiC sample with 10 micron epilayer of n = 1×10^(16)cm^(-3)on heavily doped n-type 6H-SiC substrate (off-axis, 3.5°±0.5°off {0001} toward <1120> , purchased from Cree Research, Inc., Durham, N.C.) was used as a starting wafer. The sample was cut into two pieces of equal size. One of them was used as a control sample, i.e., implanted by Al only, and is referred to here as No. 5. The other piece, referred to here as No. 6, was first implanted with C and then Al according to the technique of the present invention using a Veeco TM implantor. ・・・
Sample No. 6 was first implanted by C-12 at room temperature to create Si vacancies and the desired damage level so that the Al atoms, which will be implanted next, can more easily fill the Si vacancies that are created. ・・・
After carbon implantation, the sample was then implanted by Al-27 at room temperature. ・・・
The implanted samples are then placed into a high purity graphite compartment filled with high purity SiC powder and loaded into a high temperature furnace which is pumped to 10^(-3) Torr and annealed for 30 minutes at 1,500℃.
Transmission Line Model measurement (TLM) pattern as shown in Fig. 3(b) are then fabricated onto the implanted surface for electrical evaluation by using standard photolithography techniques. The metal used for the contact is Al and is deposited onto SiC by e-beam evaporation at a base pressure of 4 ×10^(-7)Torr. ・・・The Al contacts were then annealed at 950℃ for 5 minutes in Ar ambient.
・・・
By using the standard TLM analysis as described in the article "Obtaining the specific contact resistance from transmission line model measurements" by G.K. Reeves and H.B. Harrison published in IEEE Electron Device Letters, Vol. EDL-3, No. 5, p. 111. 1982, which is herein incorporated by reference, the sheet resistance Rg is determined to be 92.3 k-ohm/square for sample No. 5 and 15k-ohm/square for sample No. 6. The specific contact resistivity _(c) is found to be 4.3×10^(-2)ohm-cm^(2) for sample No. 5 and 3.4×10^(-4)ohm-cm^(2) for sample No.6. 」(13頁1行ないし14頁24行)
(訳:例1
クリーリサーチ社から購入した,{0001}面から<1120>方向に3.5°±0.5°の軸ずれがある,高濃度にドープされた,n型の6H-SiC基板上に,厚さ10μm,n=1×10^(16)cm^(-3)のエピタキシャル層を形成した,6H-SiCのサンプルが,開始ウェハとして用いられた。このウェハは,同じ大きさに2分割された。一方は,Alのみが注入され,コントロールサンプルとして使用されるもので,ここではサンプルNo.5と呼ぶ。他方は,Veeco(登録商標)のイオン注入機を用いて,本発明の技術に従い,はじめにCが,次にAlが注入されたもので,ここではサンプルNo.6と呼ぶ。
サンプルNo.6では,Siの空孔と次に注入されるAl原子がSiの空孔に入り込み易くなるような望ましいダメージを作るために,はじめに,室温でC-12が注入される。・・・
炭素の注入後,室温で,Al-27が注入された。・・・
注入されたサンプルは,高純度のSiC粉末で充填された,高純度のグラファイトからなる仕切り内に配置した状態で,10^(-3)Torrの圧力に保たれた高温加熱炉に導入され,1500℃で30分間,アニールされる。
図3(b)に示されたTLM測定パターンは,標準的なフォトリソグラフィー技術によって,電気的評価の対象であるイオン注入された表面に形成される。コンタクトに用いられる金属はAlであり,4×10^(-7)Torrの圧力での電子ビーム蒸着によりSiC上に堆積される。・・・Alコンタクトは,Ar雰囲気中,950℃ で5分間,アニールされる。
・・・
論文記事 "Obtaining the specific contact resistance from transmission line model measurements" (by G.K. Reeves and H.B. Harrison published in IEEE Electron Device Letters, Vol. EDL-3, No. 5, p. 111. 1982)で述べられている,標準的なTLM分析を行ったところ,シート抵抗Rgは,サンプルNo.5では92.3kΩ/□,サンプルNo.6では15kΩ/□である。コンタクト抵抗cは,サンプルNo.5では4.3×10^(-2)Ωcm^(2),サンプルNo.6では3.4×10^(-4)Ωcm^(2)となっている。)
(イ)サンプルNo.6の電流-電圧(I-V)特性を示す,図3a(FIG.3a)より,サンプルNo.6はオーミック特性を示していると認められる。
イ 周知例2
原出願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2007-066959号公報(以下「周知例2」という。)には,次の記載がある。
(ア)「【0033】
<実施の形態1>
<A.ベースコンタクト部のイオン注入濃度および製造方法>
本実施の形態1に係る炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する前に,ベースコンタクト部とソース・ベース共通電極とのコンタクト抵抗率を1e-3Ωcm^(2)以下とするために必要なベースコンタクト部のイオン注入濃度,およびベースコンタクト部の製造方法について説明する。
【0034】
<A-1.イオン注入濃度の調査>
まず,図1に示す抵抗率評価用炭化珪素半導体装置100を作製し,TLM(Transmission Line Method)によってオーミックコンタクトの抵抗率を評価する。そして,1e-3Ωcm^(-3)(当審注.「1e-3Ωcm^(2)」の誤記と認める。)以下のオーミックコンタクトの抵抗率を得るために必要なAlイオンのイオン注入濃度を調べる。
【0035】
<A-1-1.抵抗率評価用炭化珪素半導体装置の構成>
図1は,前述した抵抗率評価用炭化珪素半導体装置100の構成を示す断面図である。
【0036】
n型の炭化珪素基板1上に,n型の炭化珪素からなる炭化珪素エピタキシャル層2が形成されている。そして,炭化珪素エピタキシャル層2上にp型のホール伝導層3が形成されている。
【0037】
ホール伝導層3の表層部に,所定間隔離れて2つのベースコンタクト部4が形成されている。そして,ベースコンタクト部4上にはNi電極5が形成されている。
【0038】
以下,抵抗率評価用炭化珪素半導体装置100の製造方法について説明する。
【0039】
<A-1-2.抵抗率評価用炭化珪素半導体装置100の製造方法>
まず,炭化珪素基板1上に,熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法により,炭化珪素エピタキシャル層2を形成する。
・・・
【0042】
次に,炭化珪素エピタキシャル層2の全面に,濃度5e18cm^(-3)のAlイオンを,深さ0.7?1.0μmまで注入して,ホール伝導層3を形成する。
【0043】
次に,炭化珪素エピタキシャル層2上にマスク(図示せず)を形成して,濃度2e19?2e20cm^(-3)のAlイオンを,深さ0.25μmまで注入して,ベースコンタクト部4を形成する。
【0044】
次に,1300?1900℃のアニール処理により,ベースコンタクト部4およびホール伝導層3のAlイオンを電気的に活性化させる。
【0045】
次に,ベースコンタクト部4の上に,Ni電極5を形成する。その後,Ni電極5とベースコンタクト部4とが接触している部分において,それらを合金化する。
【0046】
合金化は,温度950?1000℃,処理時間20?60秒,昇温速度10?25℃/秒のRTA処理により行う。
【0047】
以上により,図1に示す抵抗率評価用炭化珪素半導体装置100が完成する。
【0048】
<A-1-3.オーミックコンタクト抵抗率の評価>
次に,図1の炭化珪素半導体装置100のベースコンタクト部4とNi電極5とのコンタクト抵抗率をTLMによって評価する。
【0049】
図2は,電極間距離(Ni電極5間の距離)を5μmとして,印加電圧-1?+1Vの範囲で測定したI-V特性である。
【0050】
また,図2は,ベースコンタクト部4のAl濃度を2×10^(19)cm^(-3),5×10^(19)cm^(-3),8×10^(19c)m^(-3),2×10^(20)cm^(-3)とした場合のI-V特性を図示している。
【0051】
図2に示すように,ベースコンタクト部4のAl濃度が高くなるにしたがい,I-V特性はより良好なオーミック性を示すようになり,電極間の抵抗値は低くなっている。
・・・
【0053】
また,電極間距離を50?3μmとして同様のI-V特性評価を行い,各Al濃度(横軸)に対してTLMにより算出したコンタクト抵抗率(縦軸)を図3に示す。
【0054】
図3に示されるように,ベースコンタクト部4のAl濃度を1.5e20cm^(-3)にすることで,1e-3Ωcm^(-3)(当審注.「1e-3Ωcm^(2)」の誤記と認める。)のコンタクト抵抗率が得られる。そして,ベースコンタクト部4のAl濃度をさらに上げると,コンタクト抵抗率の下がる割合は飽和する傾向を示している。」
(イ)各Al濃度(横軸)に対してTLMにより算出したコンタクト抵抗率(縦軸)を図3より,Al濃度を5e20cm^(-3)とした時に,コンタクト抵抗率が8e-4Ωcm^(2)以下であることが示されていると認められる。
ウ 周知技術
上記ア及びイより,炭化珪素層と,当該炭化珪素層の内部に向けて位置する,p型の不純物を有するp型の炭化珪素領域と,その裏面が上記p型の炭化珪素領域の表面とオーミックコンタクトするコンタクト電極とを備えている炭化珪素半導体装置において,上記p型の炭化珪素領域のオーミックコンタクト抵抗率を8E-4Ωcm^(2)以下とすることは,周知例1及び2にみられるように,原出願の出願日前,当該技術分野では周知の技術と認められる。

3 本願発明と引用発明との対比
(1)引用発明における「4H-SiCエピタキシャル層」は,本願発明の「炭化珪素層」に相当するといえる。
そして,引用発明における「Al」は,本願発明の「p型の不純物」に相当するといえるから,引用発明における「上記4H-SiCエピタキシャル層に形成されたAlの箱状のプロファイルであ」ること,「Alの濃度」,「Alの濃度が5×10^(20)cm^(-3)である」こと,及び「Al^(+)が注入された領域」は,それぞれ,本願発明の「前記炭化珪素層の主面から前記炭化珪素層の内部に向けて位置して」いること,「不純物濃度」,「不純物濃度が1E19cm^(-3)以上,1E21cm^(-3)以下の範囲内にあるp型の不純物を有する」こと,及び「p型の炭化珪素領域」にそれぞれ相当するということができる。してみれば,引用発明は,本願発明の「前記炭化珪素層の主面から前記炭化珪素層の内部に向けて位置しており,不純物濃度が1E19cm^(-3)以上,1E21cm^(-3)以下の範囲内にあるp型の不純物を有するp型の炭化珪素領域」に相当する構成を備えていると認められる。
また,引用発明における「上記Al^(+)が注入された領域に形成された,TiとAlからなるオーミックコンタクト」は,本願発明の「その裏面が前記p型の炭化珪素領域の表面とオーミックコンタクトするコンタクト電極」に相当するということができる。
さらに,引用発明における「Al^(+)が注入された領域のホール移動度が4cm^(2)/Vs以下である」ことは,本願発明の「p型の炭化珪素領域のホール移動度が4cm^(2)/Vs以下である」ことに相当するということができる。
加えて,引用発明における「Al^(+)が注入された領域の自由ホール濃度」は,本願発明の「p型の炭化珪素領域のホールキャリア濃度」に相当するということができる。

(2)以上によれば,本願発明と引用発明との一致点と相違点は,次のとおりであると認められる。
ア 一致点
「炭化珪素層と,
前記炭化珪素層の主面から前記炭化珪素層の内部に向けて位置しており,不純物濃度が1E19cm^(-3)以上,1E21cm^(-3)以下の範囲内にあるp型の不純物を有するp型の炭化珪素領域と,
その裏面が前記p型の炭化珪素領域の表面とオーミックコンタクトするコンタクト電極とを備えており,
前記p型の炭化珪素領域のホール移動度が4cm^(2)/Vs以下である,
炭化珪素半導体装置。」
イ 相違点
・相違点1
本願発明は,「p型の炭化珪素領域のオーミックコンタクト抵抗率が8E-4Ωcm^(2)以下」であるのに対し,引用発明における「Al^(+)が注入された領域」(本願発明の「p型の炭化珪素領域」に相当。)のコンタクト抵抗率は不明であり,「8E-4Ωcm^(2)以下」とは認められない点。
・相違点2
本願発明は,「p型の炭化珪素領域のホールキャリア濃度が前記不純物濃度の5%以上」であるのに対し,引用発明では,「Al^(+)が注入された領域」におけるAlの濃度(本願発明の「不純物濃度」に相当。)が5×10^(20)cm^(-3)で,自由ホール濃度(本願発明の「ホールキャリア濃度」に相当。)が2×10^(19)cm^(-3)より高く3×10^(19)cm^(-3)以下のある値と認められるが,当該領域の自由ホール濃度について,本願発明のように,Alの濃度との比率を下限として特定されていない点。

4 相違点についての検討
(1)相違点1について
上記2(2)のとおり,炭化珪素層と,当該炭化珪素層の内部に向けて位置する,p型の不純物を有するp型の炭化珪素領域と,その裏面が上記p型の炭化珪素領域の表面とオーミックコンタクトするコンタクト電極とを備えている炭化珪素半導体装置において,上記p型の炭化珪素領域のオーミックコンタクト抵抗率を8E-4Ωcm^(2)以下とすることは,周知例1及び2にみられるように,原出願の出願日前,当該技術分野では周知の技術と認められる。
そして,引用文献の記載(上記2(1)ア(ア))にみられるように,引用発明において,Alを高濃度にドープして,「Al^(+)が注入された領域」の低抵抗化を図ることは,当業者が当然に考慮するものと認められる。
そうすると,引用発明において,「Al^(+)が注入された領域」のコンタクト抵抗率を「8E-4Ωcm^(2)以下」とすることは,「Al^(+)が注入された領域」の低抵抗化を図るにあたり,上記周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものということができる。
以上から,相違点1に係る構成は,引用発明において,上記周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(2)相違点2について
引用発明の「Al^(+)が注入された領域」における自由ホール濃度は,2×10^(19)cm^(-3)より高く3×10^(19)cm^(-3)以下のある値と認められるところ,「Al^(+)が注入された領域」におけるAlの濃度(5×10^(20)cm^(-3))の5%以上となる値(2.5×10^(19)cm^(-3)以上3×10^(19)cm^(-3)以下)もこれに該当する。
そして,引用文献の記載(上記2(1)ア(ア))にみられるように,引用発明において,Alを高濃度にドープして,「Al^(+)が注入された領域」の低抵抗化を図ることは,当業者が当然に考慮するものと認められる。
他方,本願発明の「p型の炭化珪素領域のホールキャリア濃度が前記不純物濃度の5%以上」であるとの構成について,本願明細書には,「又,本炭化珪素半導体装置では,p型の炭化珪素領域35のホールキャリア濃度は当該領域の不純物濃度の5%以上であり,p型の炭化珪素領域35のホール移動度は4cm^(2)/Vs以下であり,しかも,p型の炭化珪素領域35のオーミックコンタクト抵抗率は8E-4Ωcm^(2)以下であるので,300℃を越える注入温度で以ってイオン注入してp型の炭化珪素領域を作成した場合よりも,格段にオーミックコンタクト抵抗率を低減化することが出来る。」(【0063】)との記載があるだけで,本願明細書の記載からは,p型の炭化珪素領域のホールキャリア濃度の下限を,当該領域の不純物濃度の5%とすることによる,格別の作用効果は認められないから,本願発明におけるp型の炭化珪素領域のホールキャリア濃度の数値限定に,臨界的意義があるということはできない。
そうすると,引用発明において,「Al^(+)が注入された領域」における自由ホール濃度を,当該領域におけるAlの濃度の5%以上とすることは,当業者が適宜なし得たものということができる。
以上から,相違点2に係る構成は,引用発明において,当業者が適宜なし得たものと認められる。

5 本願発明が奏する作用効果について
本願明細書の記載(【0009】,【0012】)より,本願発明は,低抵抗のp型ベースオーミックコンタクトを有する炭化珪素半導体装置を得るとの作用効果を奏すると認められる。
他方,上記4(1)のとおり,引用発明において,Alを高濃度にドープして,「Al^(+)が注入された領域」の低抵抗化を図ることは,当業者が当然に考慮するものであり,引用発明において,「Al^(+)が注入された領域」のコンタクト抵抗率を「8E-4Ωcm^(2)以下」とすることは,「Al^(+)が注入された領域」の低抵抗化を図るにあたり,周知例1及び2にみられるような周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして,本願発明が奏する上記の作用効果も,引用発明において,上記周知技術に基づいて,当業者が容易に予測し得たものと認められる。
以上から,本願発明が奏する作用効果は,格別のものということはできない。

6 まとめ
したがって,本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,引用文献記載の発明(引用発明),並びに周知例1及び2にみられるような周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

第4 結言

以上検討したとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-16 
結審通知日 2015-10-20 
審決日 2015-11-12 
出願番号 特願2010-143030(P2010-143030)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 直也  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 綿引 隆
河口 雅英
発明の名称 炭化珪素半導体装置  
代理人 倉谷 泰孝  
代理人 村上 加奈子  
代理人 稲葉 忠彦  
代理人 松井 重明  

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