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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C10L |
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管理番号 | 1309902 |
審判番号 | 不服2014-21666 |
総通号数 | 195 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-27 |
確定日 | 2016-01-15 |
事件の表示 | 特願2011-136997「メタン発酵バイオマスガスの硫化水素低減化方法及びメタン発酵バイオマスガスの硫化水素低減化装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月 7日出願公開、特開2013- 1883〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年6月21日の出願であって、出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成26年 7年17日付 拒絶理由通知 同年 7月28日 意見書・手続補正書提出 同年 8月11日付 拒絶査定 同年10月27日 審判請求書・手続補正書提出 平成27年 1月15日付 前置報告 第2 平成26年10月27日付け手続補正についての補正の却下の決定 1 補正の却下の決定の結論 平成26年10月27日付け手続補正を却下する。 2 理由 (1) 本件補正の内容 平成26年10月27日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、方法の発明に係る請求項についてする補正を含むところ、本件補正前後の当該請求項(本件補正前の請求項1、2及び本件補正後の請求項1)の記載は次のとおりである(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したもの)。 ・本件補正前の請求項1の記載 「【請求項1】 前処理した有機系廃棄物を嫌気性発酵のメタン発酵槽で発酵させメタンガス、炭酸ガス及び硫化水素を主成分とするバイオマスガスを発生させる工程と、 発生したバイオマスガスにバイオマスガス中の硫化水素の濃度に応じて酸素を供給する工程と、 酸素が供給されたバイオマスガス中の硫化水素を好気性の硫黄酸化細菌群により低減化する生物脱硫工程と、 硫化水素を低減化したバイオマスガスを搬送する工程と、を有することを特徴とするメタン発酵バイオマスガスの硫化水素低減化方法。 【請求項2】 生物脱硫工程の後に、硫化水素の量を低減化したバイオマスガスを酸化鉄や鉄等の粉末が充填された乾式脱硫手段によりより硫化水素の量をさらに低減化する乾式脱硫工程を実施することを特徴とする請求項1に記載のメタン発酵バイオマスガスの硫化水素低減化方法。」 ・本件補正後の請求項1の記載 「【請求項1】 前処理した有機系廃棄物を嫌気性発酵のメタン発酵槽で発酵させメタンガス、炭酸ガス及び硫化水素を主成分とするバイオマスガスを発生させる工程と、 発生したバイオマスガスにバイオマスガス中の硫化水素の濃度に応じて酸素を供給する工程と、 酸素供給手段の近傍に菌床を配置し前記メタン発酵槽内の好気性の硫黄酸化細菌群を増殖する工程と、 酸素が供給されたバイオマスガス中の硫化水素を好気性の硫黄酸化細菌群により低減化する生物脱硫工程と、 硫化水素の量を低減化したバイオマスガスを酸化鉄や鉄等の粉末が充填された乾式脱硫手段によりより硫化水素の量をさらに低減化する乾式脱硫工程と、 硫化水素を低減化したバイオマスガスを搬送する工程と、を有することを特徴とするメタン発酵バイオマスガスの硫化水素低減化方法。」 (2) 本件補正の目的について 上記補正は、本件補正前の請求項1、2に、発明を特定するために必要な事項(発明特定事項)として記載されていなかった、「酸素供給手段の近傍に菌床を配置し前記メタン発酵槽内の好気性の硫黄酸化細菌群を増殖する工程」を、新たな発明特定事項として直列的に付加するものである。 このような新たな発明特定事項の直列的付加は、請求項に係る発明全体からみれば、確かに特許請求の範囲の減縮に該当するといえる。 しかしながら、特許法第17条の2第5項第2号(いわゆる限定的減縮の規定)は、その括弧書きにおいてさらに、補正前の請求項に記載した発明特定事項を限定するもの(補正前の請求項に記載した発明特定事項の一つ以上を概念的に下位の発明特定事項とするもの)に限ることを要件としていることから、新たな発明特定事項の直列的付加となる上記補正は、当該要件を満たしていないといわざるを得ない。 してみると、本件補正の目的は、上記特許法第17条の2第5項第2号に規定される限定的減縮を目的とするものに該当しないし、同法同条同項各号に掲げる他のいずれの事項を目的とするものにも該当しないことも明らかであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。 3 補正の却下についてのむすび 以上検討のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法同条同項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 なお、本件補正を適法なものとして受け入れたとしても、本件補正後の請求項1に係る発明が特許性を有しないことは、後記「第6 4」のとおりである。 第3 本願発明 本件補正(平成26年10月27日付け手続補正)は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年7月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 2(1)」に示した本件補正前のものであって、再掲すると次のとおりである。 「【請求項1】 前処理した有機系廃棄物を嫌気性発酵のメタン発酵槽で発酵させメタンガス、炭酸ガス及び硫化水素を主成分とするバイオマスガスを発生させる工程と、 発生したバイオマスガスにバイオマスガス中の硫化水素の濃度に応じて酸素を供給する工程と、 酸素が供給されたバイオマスガス中の硫化水素を好気性の硫黄酸化細菌群により低減化する生物脱硫工程と、 硫化水素を低減化したバイオマスガスを搬送する工程と、を有することを特徴とするメタン発酵バイオマスガスの硫化水素低減化方法。」 第4 原査定の拒絶理由 原査定の拒絶の理由は、「平成26年 7月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由2」であって、要するに、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記引用文献1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 <<引用文献>> 1.特開2009-299048号公報 2.特開2003-277779号公報 第5 引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-299048号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 硫黄酸化細菌を有する処理材に対して、酸素濃度が0.5体積%?2.0体積%に調節され且つ燃料ガスを含む被処理ガスを接触させて脱硫することを特徴とする燃料ガスの脱硫方法。」 ・「【背景技術】 【0002】 家畜糞尿、食品残渣、下水道汚泥等を原料として嫌気性発酵によりメタンガスを主とするバイオガスを生産することは、京都議定書に規定されている地球温暖化対策のためには極めて有効な方法である。・・・ 【0003】 しかしながら、嫌気性発酵に伴い、燃料ガスとして利用できるメタンの他、二酸化炭素、硫化水素なども生成する。これらのうち、硫化水素は毒性があり、何らかの方法にて除去する必要がある。」 ・「【0013】 ここで、本明細書中における「燃料ガス」とは、消化ガス、バイオガス、発酵ガスなど有機物を微生物により分解することで発生するガスを言う。消化ガスとしては下水などから除去される汚泥が発酵する際に発生するガスである。バイオガスは生ごみなどの有機性廃棄物や家畜の糞尿などを発酵させて得られるガスである。発酵ガスは、その他、有機物を発酵することで生成するガスである。これらのガスはメタンなどの炭化水素を含み、二酸化炭素、水蒸気、窒素、酸素、硫化水素などを含みうる。」 ・「【0040】 (燃料ガスの脱硫方法) 本実施形態の燃料ガスの脱硫方法は硫黄酸化細菌を用いて燃料ガスを含む被処理ガス中に含まれる硫化水素などの含硫黄化合物を単体の硫黄にまで酸化して析出させることにより除去する方法である。硫化水素などの含硫黄化合物は燃料ガス由来である。 ・・・ 【0042】 この硫黄酸化細菌は処理材を菌床として生育された状態で使用される。処理材における硫黄酸化細菌の生育の様子としては特に限定しないが、何らかの担体上にて生育(例えば生物膜として生育できる。その場合、硫黄酸化細菌はその担体上で単体の硫黄を生成しながら生物膜を形成することになる。)したり、何らかの溶液中にて生育したりすることができる。硫黄酸化細菌を溶液内にて生育させる場合にはその溶液が処理材として作用することになり、その溶液内に被処理ガスを通過させることにより含硫黄化合物を除去することができる。 【0043】 その時の処理雰囲気は酸素濃度が大気中の濃度(20%)よりも低い条件を採用している。具体的には被処理ガスにおける酸素濃度は0.5体積%(以下、本明細書において「%」を使用する場合には特に断らない限り全体の体積を基準として算出する「体積%」を用いる)?2.0体積%にしており、望ましくは0.8体積%?1.6体積%、更に望ましくは1.0体積%?1.5体積%にする。また、処理材として水分を含有する部材を採用する場合には、被処理ガス中に含まれる硫化水素の濃度を測定乃至推測し、被処理ガス中の硫化水素濃度(及び/又は被処理ガス中の硫化水素濃度として想定される最大値、上限値)を基準として、その硫化水素濃度以上の酸素濃度になるように添加することもできる。処理材に水分が含まれることにより、硫化水素の処理材への溶解度(処理材が水であると仮定して1.66mg:40℃、1atm)が酸素の溶解度(処理材が水であると仮定して0.023mg:40℃、1atm)よりも大きいため、処理材内での濃度比を化学量論比(酸素/硫化水素=0.5)に近づけるために燃料ガス中の濃度比として酸素濃度を硫化水素濃度以上又はそれより高くすることが有効であると推測される。例えば、酸素濃度の値としては、硫化水素の濃度に対して、1.6倍、2倍、2.5倍、3倍、4倍などの値を採用することができる。被処理ガス中に含まれる硫化水素濃度の上限値として5000ppmを採用した場合、被処理ガス中の酸素濃度としては0.5体積%以上とすることができ、具体的には0.5体積%、0.8体積%、1.0体積%、1.5体積%、2.0体積%などの濃度が選択できる。空気として添加する場合にはこれらの濃度の5倍の濃度にして添加する。 ・・・ 【0046】 酸素濃度の調節は燃料ガスに酸素を導入することにより行う。酸素ガスの導入は純粋な酸素ガスを導入する方法のほか、空気(酸素濃度20%)を導入する方法を採用しても良い。・・・ 【0047】 被処理ガスは処理材に接触させるときに処理材の乾燥を防止するために湿度を高くすることが望ましい(例えば相対湿度80?100%程度、90?100%程度、100%)。特に、被処理ガス中に含まれる水分により処理材を湿潤状態にできる程度の湿度であることが更に望ましい。水分の存在により硫化水素を高濃度で処理材中に取り込むことができると共に硫黄酸化細菌の活性も上昇する。 【0048】 被処理ガスを処理材に接触させることにより、被処理ガス中の硫化水素などの含硫黄化合物を除去することができる。処理材には硫黄酸化細菌が生育されており、その硫黄酸化細菌の作用により含硫黄化合物を酸化して単体の硫黄にする。生成した単体の硫黄はそのまま処理材上(又は処理材中)に析出させることが可能なほか、何らかの流体を用いて洗浄を行うことにより処理材から取り除くことができる。・・・」 ・「【実施例】 【0054】 (燃料ガスの脱硫装置) 図1に示すように、本実施例に用いた処理手段としての発酵槽1は、上部空間(反応空間)11と発酵液が貯留される下部空間12とからなる内部空間をもつ槽体である。槽体には下部空間12内に貯留される発酵液を撹拌する撹拌装置3(31、32、33)、被処理ガス調製手段としての空気導入装置13と、外部に被処理ガスを導出する導出手段14とが配設される。発酵槽1は外部から内部に酸素が侵入することを防ぐことができるものであり、絶対的嫌気発酵を維持可能な槽体である。 【0055】 撹拌装置3の構成要素のうち、撹拌翼31は下部空間12内に挿入されている。その撹拌翼31には撹拌軸32が端部にて接続されている。撹拌軸32は駆動手段33にて回転駆動される。空気導入装置13は発酵槽1の内外を連通する管状の部材であり、発酵槽1の外部側から内部に向けて空気を導入する。空気の導入は図示しない空気ポンプにより行う。空気の導入量は発生する発酵ガスの量に応じて決定する。導出手段14は発酵槽1の内外を連通する管状の部材であり、発酵槽1の内部のガス(被処理ガス)を内部から外部に向けて取り出す手段である。ガスの取り出しはポンプなどの動力を用いても良いし、発酵槽1内外に発生する圧力差により取り出すものであっても良い。上部空間1内の下方には硫黄酸化細菌の菌床としての処理材2が配設される。処理材2は発酵液の液面から僅かに離れた位置(又は液面上に浮遊させた位置)に配設されている。 【0056】 今回の試験では発酵槽1の容量としては338m^(3)とした。そして、その発酵槽1内に日量12tの乳牛糞尿及び1.5tのパーラー排水を投入し、滞留日数25日間嫌気性発酵を行った。温度は中温帯域(35℃?38℃)に設定した。硫化水素濃度は最高3500ppmとなった。5%?7.5%の量の空気を空気導入装置13から上部空間11内に常時吹き込んだ。上部空間11の大きさは直径8m高さ1mであり、発酵液の液面には処理材2が浮く形態を採用した。硫黄酸化細菌はこの処理材又は上部空間11内の壁面上に生存、増殖していた。25日間の試験終了後、処理材2の表面及び上部空間11内の壁面上に単体の硫黄が層(硫黄層)をなして析出していた。それらのpHはアルカリ領域であった。」 ・「【0073】 (生成ガスの分析) 導出管14に乾式脱硫装置(図略)を接続し、その乾式脱硫装置の上流側及び下流側からガスをサンプリングした。・・・」 ・「【図1】 」 第6 当審の判断 1 引用発明 引用刊行物の【請求項1】には、「硫黄酸化細菌を有する処理材に対して、酸素濃度が0.5体積%?2.0体積%に調節され且つ燃料ガスを含む被処理ガスを接触させて脱硫することを特徴とする燃料ガスの脱硫方法。」が記載され、当該脱硫方法を実施するための具体的な脱硫装置(実施例)が、【図1】(その説明は段落【0054】、【0055】参照)に図示されている。そして、同図及びその説明から、当該装置を構成する主な手段として次のものが見て取れる。 ・上部空間(反応空間)11と発酵液が貯留される下部空間12とから なる内部空間を有し、絶対的嫌気発酵を維持可能な発酵槽1 ・上部空間11内に空気を吹き込む空気導入装置13 ・硫黄酸化細菌の菌床であり、発酵液の液面から僅かに離れた位置又は 液面上に浮遊させた位置に配設された処理材2 さらに、段落【0056】には、上記脱硫装置を用いた試験例が記載されており、脱硫方法の具体的な工程として、次の事項を把握することができる。 ・上記発酵槽1内に、乳牛糞尿及びパーラー排水を投入し、嫌気性発酵 を行うこと(以下、「工程A」という。) ・5%?7.5%の量の空気を上記空気導入装置13から上記上部空間 11内に常時吹き込むこと(以下、「工程B」という。) ・直径8m、高さ1mの大きさの上部空間に、発酵液の液面に浮く形態 で上記処理材2を配設すること(以下、「工程C」という。) ・硫黄酸化細菌を、上記処理材2又は上部空間11内の壁面に生存、増 殖させ、該処理材2の表面及び上部空間11内の壁面上に単体の硫黄 を析出させることにより、硫化水素を除去すること(以下、「工程D 」という。なお、段落【0040】、【0048】の記載も参照した 。) ここで、上記工程Aにおいて、発酵槽1にて乳牛糞尿などの原料を嫌気性発酵する際、そこで生成される燃料ガスが、主としてメタン、二酸化炭素、硫化水素を含むことは明らかである(【図1】、【0003】、【0013】)。また、上記工程Bは、発酵槽1にて生成された上記燃料ガス(主としてメタン、二酸化炭素、硫化水素)を含む被処理ガスの酸素濃度を、上記【請求項1】に記載された0.5体積%?2.0体積%に調節するための工程であり、上記工程Dにおいて、硫化水素を単体の硫黄として析出する硫黄酸化細菌は、上記工程Bによる空気の吹き込み環境下、すなわち、酸素存在下において生存・増殖するものであるから、好気性(微好気性)であることが理解できる。 そうすると、引用刊行物には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「硫黄酸化細菌を有する処理材に対して、酸素濃度が0.5体積%?2.0体積%に調節され且つ燃料ガスを含む被処理ガスを接触させて脱硫する燃料ガスの脱硫方法であって、次の工程AないしDを有するもの。 工程A:上部空間(反応空間)11と発酵液が貯留される下部空間12と からなる内部空間を有し、絶対的嫌気発酵を維持可能な発酵槽1 内に、乳牛糞尿及びパーラー排水を投入し、嫌気性発酵を行い、 主としてメタン、二酸化炭素、硫化水素を含む燃料ガスを生成す る工程 工程B:上記燃焼ガスを含む被処理ガス中の酸素濃度を0.5体積%?2 .0体積%に調節するため、5%?7.5%の量の空気を空気導 入装置13から上記上部空間11内に常時吹き込む工程 工程C:直径8m、高さ1mの大きさの上記上部空間に、発酵液の液面に 浮く形態で、好気性(微好気性)の硫黄酸化細菌の菌床である処 理材2を配設する工程 工程D:上記好気性(微好気性)の硫黄酸化細菌を、上記処理材2又は上 部空間11内の壁面に生存、増殖させ、当該処理材2の表面及び 上部空間11内の壁面上に単体の硫黄を析出させることにより、 硫化水素を除去する工程」 2 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の工程Aにおける「上部空間(反応空間)11と発酵液が貯留される下部空間12とからなる内部空間を有し、絶対的嫌気発酵を維持可能な発酵槽1」、「乳牛糞尿及びパーラー排水」、「主としてメタン、二酸化炭素、硫化水素を含む燃料ガス」は、それぞれ本願発明における「嫌気性発酵のメタン発酵槽」、「有機系廃棄物」、「メタンガス、炭酸ガス及び硫化水素を主成分とするバイオマスガス」に対応するものであるから、当該工程Aは、本願発明における「有機系廃棄物を嫌気性発酵のメタン発酵槽で発酵させメタンガス、炭酸ガス及び硫化水素を主成分とするバイオマスガスを発生させる工程」に相当するものといえる。 また、引用発明における工程Dは、本願発明における「バイオマスガス中の硫化水素を好気性の硫黄酸化細菌群により低減化する生物脱硫工程」に相当するものといえる。 さらに、引用発明に係る脱硫方法は、全体として、発酵槽において生成されたメタンを含む燃焼ガス(バイオマスガス)中の硫化水素を低減するものであるから、本願発明における「メタン発酵バイオマスガスの硫化水素低減化方法」に相当するものである。 これらの点を総合すると、本願発明と引用発明は、次の点で一致するものと認められる。 「有機系廃棄物を嫌気性発酵のメタン発酵槽で発酵させメタンガス、炭酸ガス及び硫化水素を主成分とするバイオマスガスを発生させる工程と、 バイオマスガス中の硫化水素を好気性の硫黄酸化細菌群により低減化する生物脱硫工程と、を有するメタン発酵バイオマスガスの硫化水素低減化方法。」 そして、両者は次の点で相違するものと認められる。 ・相違点1:本願発明においてメタン発酵槽に供される有機系廃棄物は 、「前処理した」ものであるのに対して、引用発明はこの 点の明示がない点。 ・相違点2:本願発明は、「発生したバイオマスガスにバイオマスガス 中の硫化水素の濃度に応じて酸素を供給する工程」を有し ているのに対して、引用発明は、空気として酸素を供給し ていることに加え、バイオマスガス中の硫化水素の濃度に 応じて酸素を供給する点の明示がない点(なお、本願発明 は「酸素のみ」を供給するとまでは特定しておらず、空気 として酸素を供給することを必ずしも排除しているわけで はないから、酸素か空気かという点は厳密には相違点とは ならないともいえる。) ・相違点3:本願発明は、「硫化水素を低減化したバイオマスガスを搬 送する工程」を有しているのに対して、引用発明はこの点 の明示がない点。 3 相違点の検討 (1) 相違点1について 有機系廃棄物をメタン発酵槽において発酵させるにあたり、あらかじめ異物の除去、粉砕、スラリー化といった処置を施しておくことは、普通に行われており(下記周知例1ないし3参照)、このような慣用の手法を、引用発明において採用することは当業者にとって容易なことである。 周知例1:国際公開第2011/071013号([0027]、[ 図1]には、メタン発酵槽2の上流に、前処理槽1(スラ リー調整槽)を設け、有機性廃棄物の供給源から送られて くる有機性廃棄物を粉砕、破砕、可溶化等の処理を行い、 スラリー状に調整することが記載されている。) 周知例2:特許第3064272号公報(【0027】、【0028 】、【図1】には、高温メタン発酵式バイオリアクター5 の上流に、高圧粉砕機1及び微粉砕機2を設けて、生ゴご みを液状の粉砕ペーストとし、最終的にスラリー状にする ことが記載されている。) 周知例3:特開2008-183498号公報(【0003】には、 有機性廃棄物を粉砕・スラリー化した後、このスラリーを 発酵槽に投入することが記載されている。) (2) 相違点2について 引用刊行物の段落【0046】には、「酸素濃度の調節は燃料ガスに酸素を導入することにより行う。酸素ガスの導入は純粋な酸素ガスを導入する方法のほか、空気(酸素濃度20%)を導入する方法を採用しても良い。」と記載されているから、酸素を、純粋な酸素ガスで導入か、空気として導入するかは、当業者による単なる選択事項にすぎないことが分かる。 また、引用刊行物の段落【0042】、【0047】には、「処理材における硫黄酸化細菌の生育の様子としては特に限定しないが、・・・何らかの溶液中にて生育したりすることができる。硫黄酸化細菌を溶液内にて生育させる場合にはその溶液が処理材として作用することになり、その溶液内に被処理ガスを通過させることにより含硫黄化合物を除去することができる。」、「特に、被処理ガス中に含まれる水分により処理材を湿潤状態にできる程度の湿度であることが更に望ましい。水分の存在により硫化水素を高濃度で処理材中に取り込むことができると共に硫黄酸化細菌の活性も上昇する。」との記載があることから、引用発明における処理材は、水分を含有するものをも想定していると認められるところ、この場合につき、段落【0043】には、「また、処理材として水分を含有する部材を採用する場合には、被処理ガス中に含まれる硫化水素の濃度を測定乃至推測し、被処理ガス中の硫化水素濃度(及び/又は被処理ガス中の硫化水素濃度として想定される最大値、上限値)を基準として、その硫化水素濃度以上の酸素濃度になるように添加することもできる。」と記載されているから、引用刊行物には、燃料ガスを含む被処理ガス中の硫化水素濃度の測定乃至推測の結果に応じて、酸素濃度を調節することが十分に示唆されているということができる。 そうすると、引用発明における工程Bとして、純粋な酸素ガスを用いること、さらには、当該酸素ガスを、燃料ガスを含む被処理ガス(バイオマスガス)中の硫化水素の濃度に応じて供給することは、上記引用刊行物の記載に照らして当業者が容易に想到し得るものと認められる。 (3) 相違点3について 引用発明においても、発酵槽1内において脱硫処理(硫化水素の低減化)された燃料ガスを含む被処理ガス(バイオマスガス)は、当然のことながら、次工程に搬送されるのであり、実際、引用刊行物の【図1】、【0073】を参酌すると、当該被処理ガス(バイオマスガス)は、発酵槽1の導出管14を経て、乾式脱硫装置などの次工程に搬送されている。 そうすると、相違点3に係る本願発明の技術的事項は、引用発明が既に具備するものと解するのが相当であるから、当該相違点3は実質的なものではない。 (4) 相違点の検討のまとめ 以上の検討のとおり、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 4 本件補正後の請求項1に係る発明について (1) 念のため、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について検討する。 上記「第2 2(1)」に示したとおり、本願補正発明は、上記本願発明に対して、次の工程を付加するものである。 ・「酸素供給手段の近傍に菌床を配置し前記メタン発酵槽内の好気性の 硫黄酸化細菌群を増殖する工程」(以下、「工程a」という。) ・「硫化水素の量を低減化したバイオマスガスを酸化鉄や鉄等の粉末が 充填された乾式脱硫手段によりより硫化水素の量をさらに低減化する 乾式脱硫工程」(以下、「工程b」という。) そこで、これらの工程a、bについて検討する。 ア 工程aについて 引用発明の工程Bは、発酵槽1に設けられた空気導入装置13から、空気(酸素)を上部空間11内に吹き込むものであり、工程Cは、直径8m、高さ1mの大きさの上部空間に、発酵液の液面に浮く形態で処理材2を配設するものである。 ここで、空気導入装置13及び処理材2は、それぞれ本願補正発明における酸素供給手段及び菌床に相当するものであるところ、これらはともに、発酵槽1の上部空間内に配置されるものであるから、直径8m、高さ1mの大きさの同じ空間内に配置されるという意味において既に「近傍」というべき位置関係にあるということができる。加えて、引用刊行物の【図1】より、空気導入装置13は、発酵槽1の頂部から発酵液の液面に向かって延出した形態であることが看取できること、及び、当該空気導入装置13から供給される空気(酸素)は、最終的に処理材2(菌床)に生育する硫黄酸化細菌に接触させるものであり、空気導入装置13と処理材2をあえて遠く離れた位置に配置する理由は見当たらないことを併せ考慮すると、これらの部材を「近傍」位置に設置することは単なる設計的事項にすぎず、この点に格別の創意は認められない。 したがって、引用発明において、発酵液の液面上に存在する処理材2は、当該空気導入装置13の「近傍」に既に配置されていると解するのが合理的であるか、仮にそうでないとしても、当該「近傍」位置に設置することは当業者の容易想到の範疇のことというべきである。 そして、処理材2(菌床)にて生育された硫黄酸化細菌は、好気性(微好気性)であるとともに、工程Dのとおり、当該処理材2又は上部空間11内の壁面に増殖していることは明らかであるから、引用発明も、発酵槽1内において、好気性の硫黄酸化細菌を増殖する工程を有していると解すべきである。 そうすると、本願補正発明の上記工程a、すなわち「酸素供給手段の近傍に菌床を配置し前記メタン発酵槽内の好気性の硫黄酸化細菌群を増殖する工程」は、引用発明が既に具備する事項であるか、当該引用発明から容易想到の範疇の事項といえる。 イ 工程bについて 引用発明は、発酵槽内で脱硫した燃料ガスを含む被処理ガス(バイオマスガス)の後処理について明示するものではないが、上記「第6 3(3)」にて説示したとおり、当該被処理ガス(バイオマスガス)は、実際上、発酵槽1の導出管14を経て、乾式脱硫装置に搬送されるものである。そして、当該乾式脱硫装置は、当該技術分野において常用されている、酸化鉄や鉄等の粉末が充填された乾式脱硫手段を意味するものと解するのが合理的であるから(下記周知例4ないし6参照)、本願補正発明の工程bも、引用発明が予定したものにすぎず、この点に特許性を見出すことはできない。 周知例4:特開2003-277779号公報(原査定における引用 文献2:【0007】には、バイオガス中の硫化水素を、 脱硫装置6内に収容されている鉄系吸着剤に硫化鉄として 吸着除去することが記載されている。) 周知例5:特開2006-143779号公報(本願明細書中でも引 用されている文献:【0004】には、乾式脱硫装置は、 酸化鉄などの脱硫剤を用いて脱硫を行なうものであること が記載されている。) 周知例6:特開2009-207944号公報(【0004】には、 乾式脱硫法は、脱硫塔内に酸化鉄を主成分とするペレット が充填されており、硫化水素をペレットに吸着させて硫化 鉄として除去する方法であることが記載されている。) (2) 上記のとおり、本願補正発明についてみても、引用発明及び周知の技術的事項に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第7 むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-11-17 |
結審通知日 | 2015-11-18 |
審決日 | 2015-12-04 |
出願番号 | 特願2011-136997(P2011-136997) |
審決分類 |
P
1
8・
57-
Z
(C10L)
P 1 8・ 121- Z (C10L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森 健一 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
菅野 芳男 日比野 隆治 |
発明の名称 | メタン発酵バイオマスガスの硫化水素低減化方法及びメタン発酵バイオマスガスの硫化水素低減化装置 |
代理人 | 田中 貞嗣 |
代理人 | 青木 健二 |
代理人 | 片寄 武彦 |
代理人 | 小山 卓志 |