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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02B |
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管理番号 | 1310193 |
審判番号 | 不服2015-7183 |
総通号数 | 195 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-04-16 |
確定日 | 2016-02-09 |
事件の表示 | 特願2011-280702「内燃機関の排気装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月 4日出願公開、特開2013-130133、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年12月22日の出願であって、平成26年1月29日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年3月26日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年8月5日付けで再度、拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年10月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年1月15日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年4月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成26年10月10日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「 【請求項1】 (a)内燃機関から排出された排気ガスが流通する流路を有するハウジングと、 (b)このハウジングの内部と外部とを連通するように軸線方向に延びる筒状の軸受と、 (c)前記ハウジングの内部に収容されて、前記流路を開閉するバルブと、 (d)前記軸受に回転可能に支持されて、前記バルブの回転軸であるシャフトと、 (e)このシャフトと前記軸受との間に形成される隙間をシールするシール手段と を備えた内燃機関の排気装置において、 前記シャフトは、前記軸受の内部に嵌挿される径大軸部と、この径大軸部よりも外径の小さい径小軸部と、前記径大軸部と前記径小軸部との間に設けられ、前記シャフトの回転軸方向に対して垂直な環状の座面を形成する段差とを有すると共に、 前記軸受は、前記径小軸部の外周に嵌合し、且つ前記段差を覆う環状の被覆部を有しており、 前記被覆部は、前記軸受に一体形成され、且つ内側面には前記座面に対して軸方向から当接する環状の端面が設けられており、 前記シール手段は、前記端面を前記座面に押し付ける側に付勢する弾性部材を有していることを特徴とする内燃機関の排気装置。」 第3 原査定の理由の概要 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 1.特開平5-248253号公報(以下、「引用文献1」という。) 2.特開2005-113797号公報(以下、「引用文献2」という。) 引用文献1(特に、段落【0013】ないし【0017】及び図2参照。)には、「弁軸8は、軸受9の内部に嵌挿される大径部と、この大径部よりも外径の小さい小径部8aと、大径部と小径部8aとの間に設けられ、弁軸8の回転軸方向に対して垂直な環状の座面を形成する段差8bとを有すると共に、軸受9は、小径部の外周に嵌合し、且つ段差を覆う環状の被覆部を有しており、この被覆部は、軸受9に一体形成され、且つ内側面には座面に対して軸方向からシールリング13、14を介して当接する環状の端面を設ける」構成が記載されていると認められる。 引用文献2(特に、段落【0028】及び【0029】並びに図8及び9参照。)には、シール手段が、軸受13に対して、端面を座面に押し付ける側に付勢するスプリング50と、スプリング50と端面に介装される環状のシールプレート44を有する構成が記載されている。 引用文献1のシール手段として、引用文献2の弾性部材でシールする上記構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、被覆部をシャフトの座面に対して軸方向から当接させることに格別の困難性はない。 第4 当審の判断 1 引用文献1 (1)引用文献1の記載 本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献1(特開平5-248253号公報)には、「ターボチャージャ用ウェストゲートバルブ」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブに関する。 【0002】 【従来の技術】内燃機関の排気ガスにより回転するタービンに伴って駆動されるコンプレッサの作用で、内燃機関への供給空気を加圧するターボチャージャで、タービンに流入する排気ガスの一部をウェストゲートバルブを開いて放出することにより、タービンの回転を制御してコンプレッサ吐出圧を制御することは周知で、そのようなシステムの一例を図3?5に示す。 【0003】2はタービンハウジング、3はタービン、4は排気ガスをバイパスさせるバイパスポート、5はバルブ、6はステンレス板で形成したアームで、その可動端に軸7を介してバルブ5が連結されている。 【0004】8は耐熱鋼の弁軸でアーム6の他端に溶接され、タービンハウジング2に圧入したSUS焼結材の軸受9に遊合挿入されている(図4)。10は弁軸8の一端に圧入連結されたレバーでその他端はバルブ5を開いて、前記タービンの回転を制御するウェストゲートアクチュエータに連結されている。 【0005】弁軸8は丸棒状で、アーム6は図4と図5に詳細を示すように、金属の板を弁軸8の一端部に1回だけ巻き、アームの板に明けた符号6aで示す孔の部分でアーム6を弁軸8に溶接し、一体化してある。 【0006】アーム6の弁軸8に卷いた部分以外は、図5に示すように互いに重ね合され、図4で符号6bで示す4個所で互いに点溶接されている。そしてバルブ5は、該バルブ5にかしめ付けた軸7をアーム6の2枚合せの部分の孔にゆるく嵌入することで、アーム6に連結されている(図5)。図5に示すバルブ5、アーム6、軸7及び弁軸8の組立品をバルブサブアッシーと呼んでいる。 【0007】弁軸8と軸受9のクリアランスは温度の大幅な変化による熱変形で両者が軋むことがないように、比較的大きなクリアランスが設けてある(図4)。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】上記従来の技術では、排気ガスが弁軸8と軸受9のクリアランスを通じて図4のタービン室内11からタービン室外12へ排気ガスが洩れ出るのを、タービン室内外の差圧によりアーム6の端面6cを軸受9の端面9aに押し付けることで防止するという、考え方で構造設計がされていた。 【0009】しかし、自動車や内燃機関の振動等で期待するような完全なガスシール機能が得られないという問題点があった。そこで本発明はこのようなクリアランスを通じてタービン室内からタービン室外に洩れる排気ガスの洩れ量を軽減できるターボチャージャ用ウェストゲートバルブを提供することを目的とする。 …(中略)… 【0012】 【作用】大小のシールリングが軸線方向に重ね合せて装着されるため、排気ガスの洩れ通路が曲がりくねって長くなり、洩れ量が減少する。」(段落【0001】ないし【0012】) (イ)「【0013】 【実施例】図1の第1実施例で、5はバルブ、6はアーム、7は軸、8は弁軸で、これらは従来技術と同じバルブサブアッシーを構成している。2はタービンハウジング、9はタービンハウジング8に圧入されており、図示下端部の内周に段差が設けられ、その肩9bとアーム6の端面6cとの間に小径のシールリング13と大径のシールリング14とが各2枚ずつ、交互に重ね合せて軸線方向に隣接配置されている。 【0014】これらのシールリングは、高温で耐摩耗性がよく、かつ低摩擦係数の炭化ケイ素や窒化ケイ素等のセラミックスを用いている。小径のシールリング13は、その内径が弁軸8の外径と小さなクリアランスではめあいされており、大径のシールリング14はその外径が軸受9の内周(の大径部)と小さなクリアランスではめあいされている。 【0015】10は弁軸8の一端に圧入連結されたレバーである。図2は本発明の第2実施例で弁軸8と軸受9の間に設けるセラミックス製シールリングの位置が前記第1実施例と異なっており、弁軸8と軸受9の、レバー10に近い側の端部に配置されている。 【0016】すなわち、弁軸8は図2の図示上端部に小径部8aが形成され、その下方の大径部との間に段部8bが形成されている。軸受9は弁軸8の段部8bに対向して段部9cが形成され、この段部の内周は弁軸8の小径部8aの外周に対向した小径に形成されている。 【0017】シールリング13と14は前記第1実施例の場合と同様に交互に重ね合わせて軸線方向に隣接配置されている。上述の実施例では、タービン室内11とタービン室外12との差圧が2kgf/cm^(2)で、排ガス洩れ量が0.07g/sで、従来技術の場合の洩れ量0.97g/sに比較して約7%に低減した。 【0018】 【発明の効果】本発明のターボチャージャ用ウェストゲートバルブは上述のように構成されているので、交互に重ね合わされた大径と小径のセラミックス製シールリングが排ガスの洩れをさえぎり、しかも弁軸が軽く回り、高温でも耐摩耗性がよく、耐久性の高いウェストゲートバルブが実現できる。」(段落【0013】ないし【0018】) (2)引用文献1記載の事項 上記(1)(ア)及び(イ)並びに図1及び図2の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。 (カ)上記(1)(ア)及び(イ)並びに図2の記載から、引用文献1には、内燃機関の排気ガスが流入する流路を有するタービンハウジング2と、タービン室内11とタービン室外12とを連通するように軸線方向に延びる筒状の軸受9と、タービン室内11に配置されて、排気ガスの流路を開閉するバルブ5と、軸受9に遊合挿入されて、バルブ5の回転軸である弁軸8と、弁軸8と軸受9との間に設けるセラミックス製のシールリング13,14とを備えた内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブが記載されていることが分かる。 (キ)上記(1)(ア)の段落【0005】に弁軸8は丸棒状である旨が記載されているところ、図2において、弁軸8の小径部8aとその下方の大径部との間に形成された段部8bは、弁軸8の回転軸方向に対して垂直な環状の座面を形成するものであることが分かる。このことを上記(1)(ア)及び(イ)並びに図1及び図2の記載とあわせてみると、引用文献1に記載された内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブにおいて、弁軸8は、軸受9に遊合挿入される大径部と、この大径部よりも外径の小さい小径部8aと、大径部と小径部との間に形成され、弁軸8の回転軸方向に対し垂直な環状の座面を形成する段部8bとを有することが分かる。 (ク)上記(1)(イ)の段落【0016】に、段部9cの内周は弁軸8の小径部8aの外周に対向した小径に形成されている旨が記載されているところ、図2において、軸受9の段部9cは環状に形成されていることが分かる。このことを上記(1)(ア)及び(イ)並びに図2の記載とあわせてみると、引用文献1に記載された内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブにおいて、軸受9は、弁軸8の小径部8aの外周に対向した小径に形成された内周を有し、かつ段部8bを覆う環状の段部9cを有していることが分かる。 (ケ)上記(1)(イ)の段落【0016】に、段部9cが軸受9に形成されている旨の記載があるから、引用文献1に記載された内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブにおいて、段部9cは、軸受9に一体形成されていることが分かる。 (コ)上記(1)(イ)及び図2の記載から、引用文献1に記載された内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブにおいて、段部9cの内側面には座面に対して軸方向からシールリング13,14を介して当接する環状の端面が設けられていることが分かる。 (サ)上記(1)(イ)及び図2の記載から、引用文献1に記載された内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブにおいて、シールリング13,14は、セラミックス製で、その内径が弁軸8の外径と小さなクリアランスではめあいされている小径のシールリング13と、その外径が軸受9の内周(の大径部)と小さなクリアランスではめあいされている大径のシールリング14が交互に重ね合わせて軸線方向に隣接配置されているものであることが分かる。 (3)引用発明 上記(1)及び(2)並びに図1及び図2の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「 内燃機関の排気ガスが流入する流路を有するタービンハウジング2と、 タービン室内11とタービン室外12とを連通するように軸線方向に延びる筒状の軸受9と、 タービン室内11に配置されて、排気ガスの流路を開閉するバルブ5と、 軸受9に遊合挿入されて、バルブ5の回転軸である弁軸8と、 弁軸8と軸受9との間に設けるセラミックス製のシールリング13,14とを備えた内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブにおいて、 弁軸8は、軸受9に遊合挿入される大径部と、この大径部よりも外径の小さい小径部8aと、大径部と小径部8aとの間に形成され、弁軸8の回転軸方向に対し垂直な環状の座面を形成する段部8bとを有すると共に、 軸受9は、弁軸8の小径部8aの外周に対向した小径に形成された内周を有し、かつ段部8bを覆う環状の段部9cを有しており、 段部9cは、軸受9に一体形成され、かつ内側面には座面に対して軸方向からシールリング13,14を介して当接する環状の端面が設けられており、 シールリング13,14は、セラミックス製で、その内径が弁軸8の外径と小さなクリアランスではめあいされている小径のシールリング13と、その外径が軸受9の内周(の大径部)と小さなクリアランスではめあいされている大径のシールリング14が交互に重ね合わせて軸線方向に隣接配置されている内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブ。」 2 引用文献2 (1)引用文献2の記載 本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献2(特開2005-113797号公報)には、「ターボチャージャの排気ガスシール構造」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、内燃機関を過給するターボチャージャの排気ガスシール構造に関する。特に、タービンハウジングに設けられる軸受孔に挿通され、タービンハウジング内の排気ガスの流れを制御する制御弁を駆動するシャフトを有するターボチャージャの排気ガスシール構造に関する。」(段落【0001】) (イ)「【0026】 次に、本発明の第3実施形態について図6乃至図9を用いて説明する。図6に示すように、ターボチャージャ1は、図示しないエンジンの排気ガスにより回転されるタービンロータ12を収容するタービン部10と、タービンロータ12の回転に伴って回転駆動される図示しないコンプレッサロータを収容するコンプレッサ部20と、タービンロータ12とコンプレッサロータを連結するシャフト31を支持する軸受部30から構成される。 【0027】 タービン部10は、主にタービンハウジング11と、タービンハウジング11内の内スクロール部15と外スロール部16との間に排気ガスの流れを制御するフローコントロールバルブ(制御弁)41と、排気ガスの流れをタービンロータ12を迂回するように制御するウエストゲートバルブ(制御弁)42と、排気ガスを導入して回転するタービンロータ12とから構成される。 【0028】 図8および図9に示すように、フローコントロールバルブ41は、シャフト43の一端に固定されている。シャフト43は、タービンハウジング11に設けられる軸受13の軸受孔13aに回動自在に配置されると共に、軸受孔13aを通してタービンハウジング11の外部(大気)へ挿通されている。シャフト43の他端には、レバー14が固定されている。シャフト43は、図示しない駆動装置によりレバー14を介して回動されると共に、一端に固定されるフローコントロールバルブ41を揺動させる。フローコントロールバルブ41は揺動されて、タービンハウジング11内の内スクロール部15と外スクロール部16とを連通する連通路17を開閉し、排気ガスの流路の流れを制御する。 【0029】 シールプレート(シール部材)44は、シャフト43が貫通する貫通孔44aが形成されている。貫通孔44aは、シャフト43との間にシャフト43と軸受孔13aとの隙間より小さい隙間を有するように設定されている。シールプレート44の一側44bは他側44cに配置されるスプリング(付勢部材)50により、軸受部13の外部側に形成されるシール面13bに押接され、気密性が保持される。スプリング50の一端はレバー14に形成された円環状の突起14aにより径方向の位置を規定され固定されている。このため、スプリング50とシャフト43の干渉を防止できる。スプリング50がシールプレート44を押圧する押圧力は、シャフト43と軸受孔13aとの隙間より洩れる排気ガスの圧力より大きく設定され、且つ、エンジン振動によるシールプレート44の動きを十分に押さえる荷重で設定される。シャフト43の一端は、軸受18により支持されている。フローコントロールバルブ41を保持するアーム41aは、軸受13と軸受18との間に配置されている。これにより、シャフト43の軸方向の移動が規制されている。このため、スプリング50によりシールプレート44を所定の付勢力で付勢することができ、安定したシール性を確保できる。また、シャフト43が回動する力を低減することができる。シール面13bおよびシールプレート44とスプリング50は、外部側に配置されているため、タービンハウジング11内の排気ガスの温度の影響が低減され、熱膨張・熱変形による焼き付き等を防止することができる。シールプレート44の貫通孔44aとシャフト43との隙間は、熱膨張、熱変形、シャフト42の傾き、寸法公差、幾何公差等を考慮しつつ、ゼロにならないように設定されている。上述した通り、排気ガスシール構造は、シール面13bおよびシールプレート44とスプリング50とから構成される。」(段落【0026】ないし【0029】) (2)引用文献2記載の事項 上記(1)(ア)及び(イ)並びに図8及び図9の記載から、引用文献2には、次の事項が記載されていることが分かる。 (カ)上記(1)(イ)の段落【0028】に、軸受13はシャフト43が回動自在に配置される軸受孔13aを有する旨の記載があるから、軸受13は筒状であることが分かる。このことを(1)(ア)及び(イ)並びに図8及び図9の記載とあわせてみると、引用文献2には、エンジンの排気ガスが流通する流路を有するタービンハウジング11と、タービンハウジング11の内部と外部とを連通するように軸線方向に延びる筒状の軸受13と、タービンハウジング11の内部に収容されて、排気ガスの流れを制御するフローコントロールバルブ41と、軸受13に回動自在に配置され、フローコントロールバルブ41の回転軸であるシャフト43と、シャフト43と軸受13との間に形成される隙間をシールするシールプレート44とを備えたエンジンのターボチャージャ1のフローコントロールバルブ41が記載されていることが分かる。 (キ)(1)(イ)及び図9の記載からみて、引用文献2に記載されたエンジンのターボチャージャ1のフローコントロールバルブ41において、排気ガスシール構造は、シャフト43の外部側の端部に固定されたレバー14とシールプレート43の間に配置され、シールプレート44を軸受13の外部側に形成されるシール面13bに押設するスプリング50を有することにより気密性を保持するものであることが分かる。 (3)引用文献2記載技術 上記(1)並びに図8及び図9の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されているといえる。 「エンジンの排気ガスのが流通する流路を有するタービンハウジング11と、 タービンハウジング11の内部と外部とを連通するように軸線方向に延びる筒状の軸受13と、 タービンハウジング11の内部に収容されて、排気ガスの流れを制御するフローコントロールバルブ41と、 軸受13に回動自在に配置され、フローコントロールバルブ41の回転軸であるシャフト43と、 シャフト43と軸受13との間に形成される隙間をシールする排気ガスシール構造とを備えたエンジンのターボチャージャ1のフローコントロールバルブ41において、 排気ガスシール構造は、シャフト43の外部側の端部に固定されたレバー14とシールプレート43の間に配置され、シールプレート44を軸受13の外部側に形成されるシール面13bに押設するスプリング50を有することにより気密性を保持する技術。」 3 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「内燃機関」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「排気ガス」は「排気ガス」に、「内燃機関の排気ガス」は「内燃機関から排出された排気ガス」に、「流入する」は「流通する」に、「流路」は「流路」に、「タービンハウジング2」は「ハウジング」に、「タービン室内11」は「ハウジングの内部」に、「タービン室外12」は「ハウジングの外部」及び「外部」に、「軸受9」は「軸受」に、「配置され」は「収容され」に、「バルブ5」は「バルブ」に、「弁軸8」は「シャフト」に、「大径部」は「径大軸部」に、「軸受9に遊合挿入される」は「軸受の内部に嵌挿される」に、「小径部8a」は「径小軸部」に、「段部8b」は「段差」に、「段部9c」は「被覆部」に、「座面」は「座面」に、「端面」は「端面」に、「内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブ」は「内燃機関の排気装置」に、それぞれ相当する。 また、引用発明における「セラミックス製のシールリング13,14」は、その機能からみて、本願発明における「シール手段」に相当し、引用発明において「セラミックス製のシールリング13,14」を「弁軸8と軸受9との間に設ける」ことは、その技術的意義からみて、本願発明において「シール手段」によって「シャフトと軸受との間に形成される隙間をシールする」ことに相当する。 そして、引用発明において「バルブ5の回転軸である」「弁軸8」が「軸受9に遊合挿入され」ることは、その構成からみて、本願発明において「バルブの回転軸であるシャフト」が「軸受」に「回転可能に支持され」ることに相当し、引用発明において「軸受9は、弁軸8の小径部8aの外周に対向した小径に形成された内周を有」することは、その技術的意義からみて、本願発明において「軸受は、径小軸部の外周に嵌合」することに相当する。 更に、「被覆部は、軸受に一体形成され、且つ内側面には座面に対して軸方向から対向する環状の端面が設けられ」るという限りにおいて、引用発明において「段部9cは、軸受9に一体形成され、かつ内側面には座面に対して軸方向からシールリング13,14を介して当接する環状の端面が設けられ」ることは、本願発明において「被覆部は、軸受に一体形成され、且つ内側面には座面に対して軸方向から当接する環状の端面が設けられ」ることに相当する。 引用発明における「内燃機関におけるターボチャージャ用ウェストゲートバルブ」は、本願発明における「内燃機関の排気装置」に包含される。 よって、本願発明と引用発明とは、 「(a)内燃機関から排出された排気ガスが流通する流路を有するハウジングと、 (b)このハウジングの内部と外部とを連通するように軸線方向に延びる筒状の軸受と、 (c)ハウジングの内部に収容されて、流路を開閉するバルブと、 (d)軸受に回転可能に支持されて、バルブの回転軸であるシャフトと、 (e)このシャフトと軸受との間に形成される隙間をシールするシール手段と を備えた内燃機関の排気装置において、 シャフトは、軸受の内部に嵌挿される径大軸部と、この径大軸部よりも外径の小さい径小軸部と、径大軸部と径小軸部との間に設けられ、シャフトの回転軸方向に対して垂直な環状の座面を形成する段差とを有すると共に、 軸受は、径小軸部の外周に嵌合し、且つ段差を覆う環状の被覆部を有しており、 被覆部は、軸受に一体形成され、且つ内側面には座面に対して軸方向から対向する環状の端面が設けられている内燃機関の排気装置。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> (a)「被覆部は、軸受に一体形成され、且つ内側面には座面に対して軸方向から対向する環状の端面が設けられ」ることに関し、本願発明においては「被覆部は、軸受に一体形成され、且つ内側面には座面に対して軸方向から当接する環状の端面が設けられ」るのに対し、引用発明においては「段部9cは、軸受9に一体形成され、かつ内側面には座面に対して軸方向からシールリング13,14を介して当接する環状の端面が設けられ」るものである点(以下、「相違点1」という。)。 (b)本願発明においては「シール手段は、前記端面を前記座面に押し付ける側に付勢する弾性部材を有している」のに対し、引用発明においては「シールリング13,14は、セラミックス製で、その内径が弁軸8の外径と小さなクリアランスではめあいされている小径のシールリング13と、その外径が軸受9の内周(の大径部)と小さなクリアランスではめあいされている大径のシールリング14が交互に重ね合わせて軸線方向に隣接配置されている」点(以下、「相違点2」という。)。 4 判断 まず、相違点1について検討する。 引用発明において、シールリング13,14は、段部9cと座面との間に設けることによって、「排気ガスの洩れ通路が曲がりくねって長くなり、洩れ量が減少する」(上記1(1)(ア)の【0012】)との作用を奏するものである。 したがって、「タービン室内からタービン室外に洩れる排気ガスの洩れ量を軽減できるターボチャージャ用ウェストゲートバルブを提供すること」(上記1(1)(ア)の【0009】)を目的とする引用発明にあっては、これを取り除いて、段部9cの内側面に設けられた環状の端面を座面に、直接当接させることはできない。 ゆえに、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることが容易に推考できたものであるとはいえない。 次に、相違点2について検討する。 引用文献2記載技術において、スプリング50は、レバー14とシールプレート44の間に配置され、シールプレート44を軸受13の外部側に形成されるシ-ル面13bに押設するものである。 したがって、引用発明に引用文献2記載技術を適用した場合に、スプリング50を段部9cとレバー10の間に配置することにはならないから、環状の端面を座面に対して押し付ける側に付勢する構成とはならない。 ゆえに、引用発明において、引用文献2記載技術を適用したとしても、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることが容易に推考できたものであるとはいえない。 仮に、相違点1及び2について総合的に判断することとして、引用発明における「シールリング13,14」が少なからずシール機能を奏するものであることを理由に、引用発明における「シールリング13,14」をシール手段と解釈し、このシール手段に代えて引用文献2記載技術を採用したとしても、前述のとおり、スプリング50を段部9cとレバー10との間に配置することにはならないばかりか、引用文献1及び2には、「被覆部」の「内側面には」シャフトの環状の「座面に対して軸方向から当接する環状の端面」を「座面に押し付ける側に付勢する」との事項を充足する構成は記載も示唆もない以上、シールプレート44を段部9cのレバー10側に設けたものまでしか想到することができず、相違点1及び2に係る本願発明の発明特定事項とすることに想到することはできない。 以上から、本願発明は、当業者が引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願の請求項2ないし12に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1ないし12に係る発明は、当業者が引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-01-25 |
出願番号 | 特願2011-280702(P2011-280702) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F02B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 橋本 しのぶ、赤間 充 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
中村 達之 金澤 俊郎 |
発明の名称 | 内燃機関の排気装置 |
代理人 | 碓氷 裕彦 |
代理人 | 中村 広希 |
代理人 | 大庭 弘貴 |