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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1310279
審判番号 不服2014-9468  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-21 
確定日 2016-01-22 
事件の表示 特願2011-156717「乱用が防止された剤形」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月15日出願公開、特開2011-251982〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2003年6月16日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理2002年6月17日(ドイツ)、2002年10月25日(ドイツ))を国際出願日とする特願2004-512714号(以下「原出願」という。)の一部を平成23年7月15日に新たな特許出願としたものであって、平成25年4月19日付けで拒絶理由が通知され、同年10月23日に意見書とともに手続補正書が提出され、平成26年1月15日付けで拒絶査定がなされ、同年5月21日に拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1-14に係る発明は、平成25年10月23日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「 【請求項1】
非経口的乱用が防止された固形剤形であって、乱用のおそれがある1つ以上の有効成分のほかに、25℃で10mlの水により該剤形から得られた水性抽出物が、依然として直径0.9mmの注射針を通過することができ、それ以上の量の水性液体に導入されたときに視覚的に識別可能な状態を保つゲルを形成するような量の、キサンタン、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1つの粘度上昇剤を含み、該粘度上昇剤の前記量が剤形当たり、すなわち投与単位当たり、5mg以上の量であることを特徴とする該固形剤形。」

3 原査定の理由
原査定の理由は、「この出願については、平成25年4月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、要するに、当該理由1として、本願発明は、その原出願の優先権主張日前に頒布された刊行物である特表平9-508410号公報(以下、「引用文献」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という拒絶理由を含むものである。

4 引用文献の記載事項
引用文献には、次の事項が記載されている。
(1)
「1.薬物及びゲル化剤が錠剤の別々の層に含まれていることを特徴とする1種又はそれ以上の薬物及び1種又はそれ以上のゲル化剤を含む2層又はそれ以上の層を含む錠剤。
2.ゲル化剤が約4,000cp?約100,000cpの範囲内の粘度を有する請求の範囲第1項に記載の錠剤。
3.ゲル化剤が約10,000cp?約100,000cpの範囲内の粘度を有する請求の範囲第2項に記載の錠剤。
4.ゲル化層におけるゲル化剤の重量による割合が約20?約60%である請求の範囲第1?3項のいずれかに記載の錠剤。
5.ゲル化層におけるゲル化剤の重量による割合が約30?約50%である請求の範囲第4項に記載の錠剤。
6.錠剤中のゲル化層の合計量が約50?約80重量%である請求の範囲第1?5項のいずれかに記載の錠剤。
7.ゲル化剤が修飾セルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、トラガカント、ポリアクリル酸、ならびにキサンタン、グアー、ローカストビーン及びカラヤガムから選ばれる請求の範囲第1?6項のいずれかに記載の錠剤。
8.ゲル化剤がヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース及びキサンタンガムから選ばれる請求の範囲第7項に記載の錠剤。
9.ゲル化剤がヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求の範囲第8項に記載の錠剤。
10.薬物が鎮痛薬、催眠薬及び抗不安薬から選ばれる請求の範囲第1?9項のいずれかに記載の錠剤。
11.薬物がゾピクロン、テマゼパム、ジアゼパム、ゾルピデム、コデイン、メサドン、ペチジン、フェニトイン及びフェノバルビトンから選ばれる請求の範囲第10項に記載の錠剤。
12.薬物がゾピクロンである請求の範囲第11項に記載の錠剤。
13.2層を有し、そのうちの1層が薬物を含み、他の層がゲル化剤を含む請求の範囲第1?12項のいずれかに記載の錠剤。
14.1層が薬物ゾピクロンを含み、他の層がゲル化剤を含む2層錠剤。
15.ゲル化剤がヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求の範囲第14項に記載の2層錠剤。
16.コーティングも含む請求の範囲第1?15項のいずれかに記載の錠剤。
17.活性層及びゲル化層が実質的に色及び外観において同一である請求の範囲第1?16項のいずれかに記載の錠剤。
18.別々の活性層及びゲル化層を形成し、次いで適した錠剤形成機で層を合わせ、場合により続いて従来のコーティング法を用いてコーティングを適用することを含む請求の範囲第1項に記載の錠剤の製造法。」(【特許請求の範囲】)
(2)
「本発明は乱用防止(abuse resistant)錠剤、それらの製造法、ならびに治療におけるそれらの利用に関する。さらに特定的には、本発明は複数の層を含む乱用防止錠剤に関する。
合法的経口的利用を目的とする多くの薬物が乱用の可能性を有し、それにより固体経口的投薬形態から薬物が抽出され、無許可、非管理、不法及び/又は危険な非経口的投与に用いられ得る溶液を得ることができることは既知である。薬物乱用のこの可能性を実質的に減少させる、又は除去さえする1つの方法は、薬物を含む組成物からの薬物の抽出性を抑制又は阻害することである。米国特許第4,070,494号において、他の場合なら薬剤のすべてを溶解するのに必要な量の水と合わされた時にゲルを形成するのに十分な量で存在する、ゲル化可能な水性材料を組成物中に挿入することによりこれが達成されたと報告されている。米国特許第4,070,494号は単及び二層錠剤を含む腸溶組成物を記載しており、この場合、乱用の可能性のある薬物がゲル化剤と混合され、錠剤の場合はそれが次いで従来の方法に従って圧縮される。しかしゲル化層を含むそのような錠剤は薬物の放出が重大に遅延し易い。
今回、薬物及びゲル化剤が錠剤の別々の層に存在すると、ゲル化剤を含む錠剤からの薬物の放出が増進することが見いだされた。
かくして本発明は、薬物及びゲル化剤が錠剤の別々の層に含まれることを特徴とする、1種又はそれ以上の薬物及び1種又はそれ以上のゲル化剤を含む2層又はそれ以上の層を含む錠剤に関する。
不確かさを避けるために、錠剤は1つが他の上に積み重ねられたサンドイッチ配置の別々の層を含むことができ、あるいは錠剤は1種又はそれ以上の薬物を含む1層又はそれ以上の層により囲まれたゲル化剤の芯層を含むことができることが認識されなければならない。一般にサンドイッチ配置が好ましい。
場合により錠剤はコーティングを有することができ、それは調節(modified)放出性又は徐放性コーティングであることができ、あるいはそうでないことができる。」(4頁3行-5頁1行)
(3)
「本発明の乱用防止錠剤中に挿入することができる適した薬物は、特に乱用され易い薬物、例えば鎮痛薬、催眠薬及び抗不安薬を含む。
本発明の錠剤中に挿入することができる鎮痛薬の特定の例は商業的に入手可能な鎮痛薬、例えばコデイン、ペチジン、メサドン及びモルフィンを含む。
本発明の錠剤中に挿入することができる催眠薬の特定の例はベンゾジアゼピン類、例えばテマゼパム、ニトラゼパム、フルラゼパム及びロプラゾラム、ならびに非-ベンゾジアゼピン類、例えばクロルメチアゾール、ゾピクロン及びゾルピデム、ならびにバルビツール酸塩類、例えばブトバルビトン、フェノバルビトン及びアミロバルビトンを含む。
本発明の錠剤中に挿入することができる抗不安薬の特定の例はジアゼパム、メダゼパム、オキサゼパム及びロラゼパムを含む。」(5頁2-12行)
(4)
「本明細書で用いられる「ゲル化剤」という用語は、水、あるいは有機酸(例えばクエン酸又は酢酸水溶液)、塩基(例えば重炭酸ナトリウム又はテトラ硼酸ナトリウム溶液)又はアルコール(例えば低級アルカノール水溶液、例えばエタノール又はイソプロパノール水溶液)の水溶液などの水性媒体の作用によりゲルを形成する材料を言う。
適したゲル化剤は修飾セルロース、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸、トラガカント、ポリアクリル酸、ならびにキサンタン、グアー、ローカストビーン及びカラヤガム類を含むがこれらに限られるわけではない。2種又はそれ以上のゲル化剤の混合物を用いることもできる。」(5頁13-23行)
(5)
「後文において、薬物を含む錠剤の1層又は複数の層を「活性層」と呼び、ゲル化剤を含む1層又は複数の層を「ゲル化層」と呼ぶ。
ゲル化層のゲル化剤の粘度は一般に約1000cp?約100,000cpの範囲内である。本明細書で用いられる「cp」という用語は、粘度の標準単位であるセンチポアズを言う。1センチポアズ(cp)は1ミリパスカル秒に等しい。
ゲル化剤は約4,000cp?約100,000cpの範囲内の粘度を有するのが好ましい。ゲル化剤は約10,000cp?約100,000cpの範囲内の粘度を有するのがより好ましい。
錠剤において必要なゲル化剤の量は、活性成分の性質、錠剤中の他の賦形剤の性質、錠剤の重量及びゲル化剤の粘度の等級などの特徴に依存することが認識されるであろう。ゲル化剤の存在量は、錠剤が薬物の抽出に必要な最少量の水性媒体で摩砕される時に、濾過可能な材料が実質的に残らないような量であることが好ましい。一般にゲル化層におけるゲル化剤の重量による割合は、約10?約70%、好ましくは約20?約60%、最も好ましくは約30?約50%である。錠剤中のゲル化層の合計量は活性層及びゲル化層の相対的割合に依存するが、典型的に重量により約20?約80%、好ましくは約50?約80%の範囲であることができる。
活性層における薬物の量は、従来の錠剤と同様に必要な治療的投薬量に依存する。一般に各錠剤中に挿入される薬物の量は多くの場合重量により、約0.5mg?約200mg、好ましくは約1mg?約100mg、最も好ましくは約1mg?約50mgである。ゾピクロンの場合、各錠剤中に挿入される薬物の量は好ましくは約1mg?約10mgである。」(5頁24行-6頁19行)
(6)
「実施例1
A部
ゾピクロン 6.00%w/w
ラクトース 18.52%w/w
リン酸水素カルシウム 35.12%w/w
トウモロコシ澱粉 35.12%w/w
澱粉グリコール酸ナトリウム 5.00%w/w
ステアリン酸マグネシウム 0.24%w/w
ステアリン酸マグネシウム及びトウモロコシ澱粉を除く成分を一緒に混合し、次いでトウモロコシ澱粉を含むペーストを用いて顆粒化した。顆粒を乾燥し、ふるって適した粒径分布を得、ステアリン酸マグネシウムと混合した。
B部
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(100,000cp)
30.0%w/w
リン酸水素カルシウム 59.2%w/w
クロスカルメロースナトリウム 10.0%w/w
コロイドシリカ 0.3%w/w
ステアリン酸マグネシウム 0.5%w/w
ステアリン酸マグネシウムを除く成分をブレンダーにおいて一緒に混合した。これらが十分にブレンドされたらステアリン酸マグネシウムを粉末と混合した。
錠剤プレスにおいて、プレスでB部の錠剤を形成し、次いでA部を加えて再度プレスを操作する2段階プレス法により、それぞれ7.5mgのゾピクロンを含み、重さが375mgであり、125mgのA部及び250mgのB部を含み、直径が9mmの2層錠剤を製造した。」(9頁2-24行)
(7)
「実施例3
A部
ゾピクロン 6.0%w/w
微結晶セルロース 25.0%w/w
ラクトース 67.2%w/w
澱粉グリコール酸ナトリウム 1.0%w/w
コロイド二酸化ケイ素 0.3%w/w
ステアリン酸マグネシウム 0.5%w/w
ステアリン酸マグネシウムを除く成分をブレンダーで一緒に混合した。これらが十分にブレンドされたら、ステアリン酸マグネシウムを粉末と混合した。
B部
ナトリウムカルボキシメチルセルロース(2,000cp)
35.0%w/w
ラクトース 54.2%w/w
澱粉グリコール酸ナトリウム 10.0%w/w
コロイド二酸化ケイ素 0.3%w/w
ステアリン酸マグネシウム 0.5%w/w
ステアリン酸マグネシウムを除く成分をブレンダーにおいて一緒に混合した。これらが十分にブレンドされたらステアリン酸マグネシウムを粉末と混合した。
錠剤プレスにおいて、プレスでB部の錠剤を形成し、次いでA部を加えて再度プレスを操作する2段階プレス法により、それぞれ7.5mgのゾピクロンを含み、重さが375mgであり、125mgのA部及び250mgのB部を含み、直径が9mmの2層錠剤を製造した。」(10頁23行-11頁17行)
(8)
「実施例5
A部
ゾピクロン 6.0%w/w
ラクトース 30.3%w/w
リン酸水素カルシウム 60.7%w/w
澱粉グリコール酸ナトリウム 2.5%w/w
ステアリン酸マグネシウム 0.5%w/w
ステアリン酸マグネシウムを除く成分をブレンダーで一緒に混合した。これらが十分にブレンドされたら、ステアリン酸マグネシウムを粉末と混合した。
B部
キサンタンガム 30.0%w/w
リン酸水素カルシウム 59.2%w/w
クロスカルメロースナトリウム 10.0%w/w
コロイド二酸化ケイ素 0.3%w/w
ステアリン酸マグネシウム 0.5%w/w
ステアリン酸マグネシウムを除く成分をブレンダーにおいて一緒に混合した。これらが十分にブレンドされたらステアリン酸マグネシウムを粉末と混合した。
錠剤プレスにおいて、プレスでB部の錠剤を形成し、次いでA部を加えて再度プレスを操作する2段階プレス法により、それぞれ7.5mgのゾピクロンを含み、重さが375mgであり、125mgのA部及び250mgのB部を含み、直径が9mmの2層錠剤を製造した。」(12頁11行-13頁3行)
(9)
「比較試験
試験1
表1の処方に従い、7.5mgのゾピクロンを含み、重さが165mgの従来の錠剤を簡単な湿式顆粒化法を用いて製造した。実施例1に従い、ゲル化剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(100,000cp)を含む2層ゾピクロン錠剤を製造した。試験中の錠剤を、乳棒と乳鉢を用いて粗砕し、2mlの熱水又は冷水、あるいは酢酸、クエン酸又はイソプロパノールの水溶液を用いて10分間抽出した。シリンジを用い、溶液を0.2ミクロンフィルターを通して濾過しようと試みた。成功したら、次いで濾液中のゾピクロンの濃度を、307nmにおける吸光分光測定を用いて決定した。結果を表2にまとめる。


結果は、従来の錠剤から、特に酸性媒体が用いられると実質的量のゾピクロンを抽出することができるが、ゲル化剤を含む本発明の2層ゾピクロン錠剤が同じ媒体で処理されると、濾過可能な溶液がないことを明白に示している。従って錠剤製品の乱用の可能性は非常に制限される。」(22頁末行-24頁下から10行)

5 対比
引用文献に記載された発明(以下、「引用発明」という。)について検討する。
引用発明である錠剤(上記4(1))は乱用防止を企図しており(上記4(2))、該錠剤に含まれる「薬物」が乱用され易いものと認識され、1種以上のものが示されている(上記4(3))。そして、該錠剤にはゲル化剤が含まれており(上記4(1))、該ゲル化剤としては、上記4(4)及び実施例(上記4(6)-(9))からみて、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタン等のゲル化剤が使用される。さらに、該ゲル化剤の存在量は、錠剤中のゲル化層の重量比で約20?約80%、好ましくは約50?約80%の範囲であり、ゲル化層におけるゲル化剤の重量比は、約10?約70%、好ましくは約20?約60%、最も好ましくは約30?約50%と示されている(上記4(5))。
以上の点からみて、引用発明は以下とおりのものと認められる。
「乱用され易い1種以上の薬物と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ならびにキサンタン等のゲル化剤を含有し、薬物及びゲル化剤が錠剤の別々の層に含まれた1種又はそれ以上の薬物及び1種又はそれ以上のゲル化剤を含む2層又はそれ以上の層をなし、該ゲル化剤の存在量は、錠剤中のゲル化層の重量比で約20?約80%、好ましくは約50?約80%の範囲であり、ゲル化層におけるゲル化剤の重量比は、約10?約70%、好ましくは約20?約60%、最も好ましくは約30?約50%である乱用防止錠剤」
そして、引用発明の「錠剤」は本願発明の「固形剤形」に相当し、引用発明の「乱用防止」とは、上記4(2)及び(3)からみて、本願発明でいう「非経口的乱用が防止された」ものと認められる。引用発明の「ゲル化剤」は、上記4(4)及び(5)からみて、粘度上昇剤に相当するものと認められる。
また、引用発明は薬物及びゲル化剤が錠剤の別々の層に含まれた1種又はそれ以上の薬物及び1種又はそれ以上のゲル化剤を含む2層又はそれ以上の層をなすものである。この点に関し、本願明細書【0021】には「粘度上昇剤と有効成分とを剤形において相互に空間的に分離された配置で一体化することも明らかに可能である。」と記載されていることに鑑みると、本願発明は粘度上昇剤と有効成分とを別々の層とすることを包含しているものと解される。このため、この点は本願発明と引用発明との相違点とはならない。
そうすると、本願発明と引用発明とは次の点で一致する。
(一致点)
「非経口的乱用が防止された固形剤形であって、乱用のおそれがある1つ以上の有効成分のほかに、キサンタン、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1つの粘度上昇剤を含む該固形剤形。」
一方、両者は次の点で一応相違するものと認められる。
(一応の相違点)
本願発明では「キサンタン、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1つの粘度上昇剤」の含有量を「25℃で10mlの水により該剤形から得られた水性抽出物が、依然として直径0.9mmの注射針を通過することができ、それ以上の量の水性液体に導入されたときに視覚的に識別可能な状態を保つゲルを形成するような量」であり「剤形当たり、すなわち投与単位当たり、5mg以上の量」とするのに対し、引用発明では、錠剤中のゲル化層の重量比で「約20?約80%、好ましくは約50?約80%の範囲」であり、ゲル化層におけるゲル化剤の重量比は、「約10?約70%、好ましくは約20?約60%、最も好ましくは約30?約50%」となすものである。

6 当審の判断
上記一応の相違点について検討する。
本願明細書【0018】には、本願発明の粘度上昇剤における「25℃で10mlの水により該剤形から得られた水性抽出物が、依然として直径0.9mmの注射針を通過することができ、それ以上の量の水性液体に導入されたときに視覚的に識別可能な状態を保つゲルを形成するような量」という条件を満たすには、「全製剤に対して、0.1?25重量%、好ましくは0.5?15重量%、特に好ましくは1?10重量%の粘度上昇剤で十分である。粘度上昇剤は、剤形当たり、すなわち投与単位当たり5mg以上、特に好ましくは10mg以上の量で本発明による剤形中に存在しているのが好ましい。」と記載されている。また、本願実施例では、粘度上昇剤を最大25.8重量%(例3)用いたものが記載されている。
これに対し、引用発明では、例えばカルボキシメチルセルロースをゲル化層全体に対して35.0重量%で全製剤に対して23.3重量%(剤形当たり87.5mg)(実施例3)、キサンタンをゲル化層全体に対して30.0重量%で全製剤に対して20重量%(剤形当たり75mg)(実施例5)としたものが、上記4(5)及び一応の相違点にて示した引用発明における重量比、そして一応の相違点にて示した本願発明における存在量を満たして用いられている。
そうすると、引用発明における「キサンタン、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースからなる群より選ばれる少なくとも1つの粘度上昇剤」の含有量は本願発明と同程度、すなわち、引用発明における当該含有量は「25℃で10mlの水により該剤形から得られた水性抽出物が、依然として直径0.9mmの注射針を通過することができ、それ以上の量の水性液体に導入されたときに視覚的に識別可能な状態を保つゲルを形成するような量」となるものと解するのが相当である。
したがって、本願発明と引用発明との間に発明特定事項の差異を見いだせず、本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

7 請求人の主張について
審判請求の理由において、請求人は「引用文献1には、乱用の恐れがある薬物を含む錠剤が、ゲル化剤として特定のものを「25℃で10mlの水中の該剤形から得られた水性抽出物が、依然として直径0.9mmの注射針を通過することができ、それ以上の量の水性液体に導入されたときに視覚的に識別可能な状態を保つゲルを形成するような量」で含むという本願発明の基本的思想(特徴)を示唆するヒントは全くありません。
引用文献1は、ある種の薬物の非経口乱用をいかに防止するかを教示しますが、該文献は、適当なゲル化剤を剤形に十分な量で添加すると、ゲル化した抽出物成分が注射器を通らなくなり、注射による非経口投与が不可能になる、という概念に基づきます。
従って、引用文献1は、注射器の針を通過しないほど粘度が高いゲルを形成する剤形を提供することを目的とします。実際、引用文献1の実施例6?14では、ゲル化剤として粘度100,000cpの高粘度HPMCを80mgの高量で使用しています。かかる錠剤の10mlの水での抽出物は、注射器を通らなくなり、注射による非経口投与が不可能になります。
これに対して本願発明は、別の概念に基づきます。即ち、本願発明によると、本発明の剤形から形成された10mlの水での水性抽出物は、注射器の針を通過できるが、それ以上の量の水性液体に導入されたときに視覚的に識別可能な状態を保つゲルを形成します。本願発明の剤形から得られる水性抽出物は、引用文献1による配合物から得られた抽出物と異なり、注射器に引き込むことができ、そして再び注射器から押し出すことができます。しかも本願発明の錠剤の10ml水性抽出物は、更に水性液体に導入されたときに、視覚的に識別可能な糸状物を形成します…。
本願発明の剤形から得られる水性抽出物の上記特徴は、引用文献1に示唆がなく、引用文献1からは到底想到し得ないと思料します。」と主張する。
上記4(2)に示すように、引用文献には「他の場合なら薬剤のすべてを溶解するのに必要な量の水と合わされた時にゲルを形成するのに十分な量で存在する、ゲル化可能な水性材料を組成物中に挿入することによりこれが達成されたと報告されている。…本発明は、薬物及びゲル化剤が錠剤の別々の層に含まれることを特徴とする、1種又はそれ以上の薬物及び1種又はそれ以上のゲル化剤を含む2層又はそれ以上の層を含む錠剤に関する。」との記載はあるものの、引用発明の実施例は、本願発明の「直径0.9mm」よりもはるかに細かい「0.2ミクロンフィルターを通して濾過しようと試みた」ものであり、これを通過しないからといって、「直径0.9mmの注射針」を通過することができないとはいえない。引用発明は粘度上昇剤を本願発明と同程度に含むものであるから、本願発明と同様、10mlの水での水性抽出物は「直径0.9mmの注射針」を通過することができるものとなっていると解するのが相当である。このため、上記主張は採用できない。

8 むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、そうすると、その余につき検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-21 
結審通知日 2015-08-25 
審決日 2015-09-08 
出願番号 特願2011-156717(P2011-156717)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小久保 勝伊
大熊 幸治
発明の名称 乱用が防止された剤形  
代理人 牛木 護  

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