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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1310282
審判番号 不服2014-24611  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-02 
確定日 2016-01-22 
事件の表示 特願2012-255910「多層基板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月11日出願公開、特開2013- 65876〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2007年7月12日を国際出願日とする特願2010-515332号(平成21年1月15日国際公開、WO2009/006761、平成22年10月14日国内公表、特表2010-532923)の一部を平成24年11月22日に新たな特許出願としたものであって、平成25年9月27日付けの拒絶理由の通知に対し、同年12月27日付けで手続補正がなされ、平成26年7月28日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、同年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成26年12月2日付けの手続補正書による補正についての補正却 下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年12月2日付けの手続補正書による補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容
平成26年12月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、そのうち請求項1は、
本件補正前に、
「多層基板の製造方法であって、
平坦なキャリアの表面に少なくとも一つのパッド層を形成するステップと、
前記パッド層を覆う表面誘電層を形成して、前記パッド層が前記表面誘電層に埋め込まれるようにして、前記多層基板を形成するステップと、
基板表面の付着強度減少法により前記多層基板を前記キャリアの表面から分離するステップと、を含み、
前記パッド層を覆う前記表面誘電層を形成するステップは、前記キャリアの表面に接触する前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面とが一つの共通面を備える、
ことを特徴とする多層基板の製造方法。」
とあったところを、

本件補正後に、
「【請求項1】
多層基板の製造方法であって、
平坦なキャリアの表面に少なくとも一つのパッド層を形成するステップと、
前記パッド層を覆う表面誘電層を形成して、前記パッド層が前記表面誘電層に埋め込まれるようにして、前記多層基板を形成するステップと、
基板表面の付着強度減少法により前記多層基板を前記キャリアの表面から分離するステップと、を含み、
前記パッド層を覆う前記表面誘電層を形成するステップは、前記キャリアの表面に接触する前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面とが一つの平坦な共通面を備え、
前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面との間に段差がない、
ことを特徴とする多層基板の製造方法。」
とするものである。

2.補正の適否
補正後の請求項1は、補正前の請求項1に記載された発明と特定するために必要な事項である「前記キャリアの表面に接触する前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面とが一つの共通面を備える」に関して、「平坦な」共通面を備え、「前記パッド層と前記表面誘電層との間に段差がない」ことを限定するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定の違反)について、以下に検討する。


3.本件補正発明
本件補正発明は、上記「1.本件補正の内容」に記載したとおりのものである。


4.引用文献の記載事項

(1)原査定の拒絶の理由で引用された特開2006-49819号公報(以下、「引用文献1」という)には、「半導体搭載用配線基板、その製造方法、及び半導体パッケージ」について、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0025】
このように、電極パッドを金属板等の第1及び第2の支持基板上に形成し、更に、第1及び第2の支持基板上の電極パッド上に夫々第1及び第2絶縁膜を形成した後、前記第1及び第2絶縁膜同士を貼り合わせ、その後、前記第1及び第2支持基板を除去することにより、絶縁膜を形成することができる。この場合は、平坦性が優れた第1及び第2支持基板上に電極パッドを形成するので、電極パッドの露出面の位置精度が高く、高密度化が容易になる。」

イ.「【0059】
次に、本発明の第2の実施形態に係る半導体搭載用配線基板について説明する。図5(a)、(b)は、本実施形態に係る半導体搭載用配線基板を示す断面図である。図5(a)に示すように、本実施形態に係る半導体搭載用配線基板29は、その表面に位置する第1の絶縁層21と、その裏面に位置する第2の絶縁層22と、その中間に位置する第3の絶縁層23とを少なくとも有する絶縁膜24を設け、第3の絶縁層23にはその表裏面に埋設された配線25と、更に配線25を電気的に接続するためのビア26を有し、更に絶縁膜24の表裏面に、表面を露出して設けられ、かつ側面の少なくとも一部は絶縁膜24に埋設された電極パッド27を有し、電極パッド27と配線25はビア28で電気的に接続されている。電極パッド27は、前述したように、図2(a)に示すように、絶縁膜24に埋没された電極パッドの露出した面が、絶縁膜24の表面若しくは裏面と同じ位置にあるもの、図2(b)に示すように、絶縁膜24の表面若しくは裏面よりも窪んだ位置にあるもの、又は図2(c)に示すように、絶縁膜24の表面若しくは裏面よりも突出した位置にあるもののいずれかとすることができる。」

ウ.「【0072】
次に、本発明の半導体搭載用配線基板の製造方法の実施形態について説明する。図7(a)乃至(e)、図8(a)乃至(c)は、本実施形態に係る半導体搭載用配線基板の製造方法をその工程順に示す断面図である。図7(a)に示すように、先ず支持基板61上に電極パッド62となる導電層を、例えば、めっき法などによって形成する。ここで、図7(b)に示すように、予め支持基板61にエッチングにより凹部63を形成してから導電層を埋め込み形成することにより支持基板61の表面内に一部埋め込まれた電極パッド64を形成することもできる。又は、図7(c)に示すように、支持基板61上に先ずバリア層65を設け、次にバリア層65上に導電層を形成することにより、バリア層65との2層構造の電極パッド66を形成することもできる。
【0073】
次に、図7(d)に示すように、上述の如くして形成された導電層62、64又は66を有する支持基板61上に絶縁層67aを形成し、更に絶縁層67a内にビアホール68aを形成する。その後、図7(e)に示すように、絶縁層67a上に配線69aを形成する。これにより、ビアホール68a内が導電材料で埋め込まれて上下の配線を接続するビア68bが形成される。
【0074】
なお、必要であれば、図8(a)に示すように、配線69a上に絶縁層67bを形成し、絶縁層67b内にビア68cを形成すると共に、絶縁層67b上に配線69bを形成することにより、多層化することができる。さらに、この工程を繰り返すことにより、必要な層数まで多層化することができる。
【0075】
次いで、図8(b)に示すように、最上層の配線69bを研磨して除去することにより、配線69a上に絶縁層67bとビア68cが設けられた支持基板付き配線基板73が形成される。なお、ビア68cを形成する際に、配線69bを形成して、その導体材料をビアホール内に埋め込むことにより形成することができるが、これに限らず、ビアホールのみを導体材料で埋め込むことによりビア68cを形成することとしてもよい。
【0076】
次に、図8(c)に示すように、この支持基板付き配線基板73同士を、絶縁層67b同士が接触するように重ね、更に絶縁層67bの表面に露出したビア68cが相互に接触するように面合わせして、貼り付ける。
【0077】
その後、両支持基板61を全てエッチング等により除去すると、図9(a)に示すように、電極パッド62が表裏両面で露出し、内部に多層配線構造を有する半導体搭載用配線基板75を得ることができる。」


上記から以下のことがいえる。

・上記ウの【0072】の「図7(a)乃至(e)、図8(a)乃至(c)は、本実施形態に係る半導体搭載用配線基板の製造方法をその工程順に示す断面図である。」、及び、上記ウの【0077】の「内部に多層配線構造を有する半導体搭載用配線基板75を得ることができる。」によれば、引用文献1には、内部に多層配線構造を有する半導体搭載用配線基板の製造方法が記載されている。

・上記アの【0025】の「平坦性が優れた第1及び第2支持基板」という記載によれば、「支持基板」は平坦である。

・上記イの【0059】の「本実施形態に係る半導体搭載用配線基板29は、その表面に位置する第1の絶縁層21と、その裏面に位置する第2の絶縁層22と、その中間に位置する第3の絶縁層23とを少なくとも有する絶縁膜24を設け」及び「絶縁膜24の表裏面に、表面を露出して設けられ、かつ側面の少なくとも一部は絶縁膜24に埋設された電極パッド27を有し」という記載、並びに、上記ウの【0059】において参照されている図5(a)の記載によれば、「半導体搭載用配線基板29」は、絶縁膜24の表面に位置する第1の絶縁層21に、埋設された電極パッド27を有しているものである。

・上記ウの【0073】?【0074】及び【0077】の記載によれば、「絶縁層」を形成して「半導体搭載用配線基板75」を得るものである。

・上記ウの【0077】の「両支持基板61を全てエッチング等により除去すると、図9(a)に示すように、電極パッド62が表裏両面で露出し、内部に多層配線構造を有する半導体搭載用配線基板75を得ることができる。」によれば、支持基板61を除去するものである。

・上記イの【0059】の記載によれば、図5(a)に記載された「半導体搭載用配線基板29」は、その表面に位置する第1の絶縁層21を少なくとも有する絶縁膜24を設け、更に絶縁膜24の表裏面に、表面を露出して設けられ、かつ側面の少なくとも一部は絶縁膜24に埋設された電極パッド27を有し、かつ、電極パッド27は、絶縁膜24に埋没された電極パッドの露出した面が、絶縁膜24の表面と同じ位置にあるものとすることができるから、この電極パッドの露出した面は、半導体搭載用配線基板29の表面に位置する第1の絶縁層21の表面と同じ位置にあるものである。

そうすると、引用文献1には、次の発明が記載されているものと認められる(以下「引用発明」という)。
「内部に多層配線構造を有する半導体搭載用配線基板の製造方法であって、
平坦な支持基板上に電極パッドを形成し、
電極バッドを有する支持基板上に絶縁層を形成して、電極パッドが半導体搭載用配線基板の表面に位置する絶縁層に埋め込まれ、半導体搭載用配線基板を形成し、
半導体搭載用配線基板を支持基板から除去し、
電極パッドの露出した面が、半導体搭載用配線基板の表面に位置する絶縁層の表面と同じ位置にある、
半導体搭載用配線基板の製造方法。」


(2)また、原査定で引用された特開2004-259988号公報(以下、「引用文献2」という)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

エ.「【0050】
最後に、図4(C)に示すように、熱又は光を当てて離型膜51の接着力を低下させて、キャパシタ素子20を支持体21から分離する。基材50がガラス板である場合には、光を当てるのがよい。なお、図2(A)において剥離膜51に代えてCr、Ni,Snの膜を形成した場合には、ウェットエッチングによってCr、Ni,Snの膜を除去して、キャパシタ素子20を支持体21から分離する。」

上記エによれば、引用文献2には「離型膜の接着力を低下させて、支持体を分離する」という技術事項が記載されている。

(3)また、原査定で引用された特開2007-67382号公報(以下、「引用文献3」という)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

オ.「【0059】
目的とする単層あるいは多層配線基板、表面および/または内層に電子部品を実装した単層あるいは多層配線基板は、上記により作製した配線基板形成用キャリア上の単層あるいは多層配線層、表面および/または内層に電子部品を実装した単層あるいは多層配線層から配線基板形成用キャリア部分を剥離することにより得ることができる。この剥離を行う前に配線基板形成用キャリアにあるシリコーン樹脂層を有機溶剤にて膨潤させるとシリコーン樹脂層と作製した単層あるいは多層配線層、表面および/または内層に電子部品を実装した単層あるいは多層配線層間の接着力が低下するので剥離が容易となる。」

上記オによれば、引用文献3には、「配線基板形成用キャリア部分の剥離を行う前に、配線基板形成用キャリアにあるシリコーン樹脂層を有機溶剤にて膨潤させることにより、接着力が低下するので剥離が容易となる」という技術事項が記載されている。

(4)また、原査定で引用された特開2004-63615号公報(以下、「引用文献4」という)には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

カ.「【0047】
前記本発明に用いる接着シート30は、樹脂封止工程(4)が完了するまでは半導体素子10や導電部40を確実に固着し、かつ半導体装置90から分離するときには容易に剥離できるものが好ましい。このような接着シート30は、前述のように基材層32と接着剤層31を有する。基材層32の厚みは、特に制限されないが、通常、12?100μm程度、好ましくは25?50μmである。接着剤層31の厚みは、特に制限されないが、通常、1?20μm程度、好ましくは5?10μmである。接着シートは接着テープとして用いることができる。」
・・・(中略)・・・
【0049】
接着剤層31を形成する接着剤としては、ゴム系、エチレン共重合体系、ポリイミド系等の熱可塑性接着剤、またはシリコーン系、アクリル系等の感圧性接着剤があげられる。これら接着剤は、適宜に選択可能であるが、耐熱性及び接着性の点でシリコーン系の感圧性接着剤が好適に用いられる。また前記接着剤層31は、150℃での弾性率は、前述の通り、0.1MPa以上であるのが好ましい。また、接着剤層のシリコンミラーウエハに対する接着力は、0.2?10N/10mmが好ましい。また、接着剤層31は、工程(5)での分離が容易になるように、加熱、電子線、紫外線等により接着性が低下するものを用いることができる。このような接着シートとしては、加熱発泡剥離テープ、紫外線硬化型接着シート等があげられる。」

上記カによれば、引用文献4には、「接着シートの接着剤層は、分離が容易になるように、加熱、電子線、紫外線等により接着性が低下するものを用いる」という技術事項が記載されている。


5.対比・判断
そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「内部に多層配線構造を有する半導体搭載用配線基板」は、内部に多層配線構造を有するものであるから、本件補正発明の「多層基板」に相当する。よって、引用発明の「内部に多層配線構造を有する半導体搭載用配線基板の製造方法であって」という事項は、本件補正発明の「多層基板の製造方法であって」という事項に相当する。

(2)引用発明の「支持基板」は、該支持基板上に電極パッド及び絶縁層を形成した後に除去するものであるから、本件補正発明の「キャリア」に相当する。
また、引用発明の「電極パッド」は、支持基板の表面に形成されるパッドの層であるから、本件補正発明の「パッド層」に相当する。
したがって、引用発明の「平坦な支持基板上に電極パッドを形成し」という事項は、本件補正発明の「平坦なキャリアの表面に少なくとも一つのパッド層を形成するステップ」に相当する。

(3)引用発明の「半導体搭載用配線基板の表面に位置する絶縁層」は、半導体搭載用配線基板の表面に位置し、電極パッドとなる導電層が埋め込まれるものであるから、本件補正発明の「パッド層を覆う表面誘電層」に相当する。よって、引用発明の「電極パッドを有する支持基板上に絶縁層を形成して、電極パッドが半導体搭載用配線基板の表面に位置する絶縁層に埋め込まれ、半導体搭載用配線基板を形成し」という事項は、本件補正発明の「前記パッド層を覆う表面誘電層を形成して、前記パッド層が前記表面誘電層に埋め込まれるようにして、前記多層基板を形成するステップ」に相当する。

(4)引用発明の「半導体搭載用配線基板を支持基板から除去し」は、本件補正発明の「多層基板をキャリアの表面から分離するステップ」に相当する。但し、引用発明には分離する方法が「付着強度減少法」とは特定されていない。

(5)また、引用発明の「電極パッド」及び「絶縁層」は、いずれも支持基板上に形成されるから、本件補正発明の「キャリアの表面に接触する前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面」という事項を満たすものである。
また、引用発明の「電極パッド」および「絶縁層」は、電極パッドの露出した面が、絶縁層の表面と同じ位置にあり、支持基板の表面は平坦であるから、本件補正発明の「前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面とが一つの平坦な共通面を備え、前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面との間に段差がない」という事項を満たすものである。
よって、引用発明の「電極パッドを有する支持基板上に絶縁層を形成して、電極パッドが半導体搭載用配線基板の表面に位置する絶縁層に埋め込まれ、半導体搭載用配線基板を形成し」という事項、及び「電極パッドの露出した面が、半導体搭載用配線基板の表面に位置する絶縁層の表面と同じ位置にある」という事項は、本件引用発明の「前記パッド層を覆う前記表面誘電層を形成するステップは、前記キャリアの表面に接触する前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面とが一つの平坦な共通面を備え、前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面との間に段差がない」という事項に相当する。


したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「多層基板の製造方法であって、
平坦なキャリアの表面に少なくとも一つのパッド層を形成するステップと、
前記パッド層を覆う表面誘電層を形成して、前記パッド層が前記表面誘電層に埋め込まれるようにして、前記多層基板を形成するステップと、
前記多層基板を前記キャリアの表面から分離するステップと、を含み、
前記パッド層を覆う前記表面誘電層を形成するステップは、前記キャリアの表面に接触する前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面とが一つの平坦な共通面を備え、
前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面との間に段差がない、
多層基板の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点:
本件補正発明は、基板表面の付着強度減少法により多層基板をキャリアの表面から分離するのに対して、引用発明は、付着強度減少法により分離することが特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
引用文献2の「接着力」、引用文献3及び引用文献4の「接着性」は、本件補正発明の「付着強度」に相当する。また、引用文献2の「支持体」、引用文献3の「配線基板形成用キャリア」、引用文献4の「接着シート」は、本件補正発明の「キャリア」に相当する。
すなわち、引用文献2?4に示される技術事項によれば、「基板表面の付着強度減少法」は周知技術と認められる。
してみると、引用発明において、キャリアを分離する具体的な方法として、周知技術である「基板表面の付着強度減少法」を採用し、相違点の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものである。

そして、本件補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
この点について、審判請求人は、審判請求書において、「引用文献1と2の何れもエッチング手法を利用しており、本願の分離するステップに比べ、エッチング手法では、パッド層402と表面誘電層404ともに良好な耐エッチング性が必要となりますが、本願の分離するステップにおいて、パッド層と表面誘電層ともに良好な耐エッチング性が必ずしも必要になるわけではなく、使用できる材料の種類が多くなると考えられます。」と主張しているが、エッチング手法も基板表面の付着強度減少法も当業者にとって周知である以上、それらの技術の置換による作用効果は、当業者であれば容易に予測し得る。よって、審判請求人の主張は採用できない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「本願の段落【0012】記載の「パッド層の一つの表面と表面誘電層の表面とは一つの共通面を備えて」は、本願がはんだマスク層を設けた後でもパッド層と表面誘電層の両方が表面にでている状態を表しています。(本願の図4Cからもパッド層と表面誘電層の両方が表面にでている事がわかります。)」、及び「このように、本願は『はんだマスク層を設けた後でもパッド層と表面誘電層の両方が表面にでている』ことにより、多層基板の表面がより平坦となり、パッケージの信頼性を高めることが可能です。」と主張している。しかしながら、本件補正発明は、「はんだマスク層」を設けることは特定されておらず、且つ「前記キャリアの表面に接触する前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面」という発明特定事項によって、パッド層の表面と表面誘電層の表面とが、はんだマスク層を介さずにキャリアの表面に接触するものに限定されているから、本件補正発明の「前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面とが一つの平坦な共通面を備え」という事項が、はんだマスク層を設けた後でもパッド層と表面誘電層の両方が表面にでている状態を表しているものとは認められない。よって、審判請求人の主張は、本件補正発明の記載に基づくものではなく採用できない。


6.むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明
平成26年12月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成25年12月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
多層基板の製造方法であって、
平坦なキャリアの表面に少なくとも一つのパッド層を形成するステップと、
前記パッド層を覆う表面誘電層を形成して、前記パッド層が前記表面誘電層に埋め込まれるようにして、前記多層基板を形成するステップと、
基板表面の付着強度減少法により前記多層基板を前記キャリアの表面から分離するステップと、を含み、
前記パッド層を覆う前記表面誘電層を形成するステップは、前記キャリアの表面に接触する前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面とが一つの共通面を備える、
ことを特徴とする多層基板の製造方法。」

2.引用文献の記載事項
原査定で引用された引用文献1?4は、前記「第2.平成26年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「4.引用文献の記載事項」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2.平成26年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.本件補正発明」で検討した本件補正発明における「前記キャリアの表面に接触する前記パッド層の表面と前記表面誘電層の表面とが一つの共通面を備える」事項に関して、「平坦な」共通面を備え、「前記パッド層と前記表面誘電層との間に段差がない」の限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記「第2.平成26年12月2日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「5.対比・判断」に記載したとおり、引用文献1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4.まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-18 
結審通知日 2015-08-25 
審決日 2015-09-07 
出願番号 特願2012-255910(P2012-255910)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 酒井 朋広
井上 信一
発明の名称 多層基板及びその製造方法  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 伊藤 寛之  

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