• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1310417
審判番号 不服2014-9810  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-27 
確定日 2016-01-27 
事件の表示 特願2012-133389「病原体検出バイオセンサー」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月 6日出願公開、特開2012-168199〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年11月30日(パリ条約による優先権主張日:平成17年11月30日 米国)を国際出願日とする出願(特願2008-543423号)の一部を、平成24年6月13日に新たな特許出願として出願されたものであって、平成25年6月19日付けで拒絶理由が通知され、同年12月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年1月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月27日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、それと同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1ないし13に係る発明は、本件補正により適法に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものと認める。そして、そのうち、その請求項1は以下のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)
「 【請求項1】
a)試料を固体表面上に局在化し、該固体表面を、非遠心分離法を使用して、エミッター細胞と接触させる工程、ここで、該エミッター細胞は、レセプター、および該レセプターへの試料中の標的抗原の結合に応答して光子を放出するエミッター分子を含み、該固体表面は:
1)エミッター細胞のカルシウム流動を刺激せず、
2)エミッター細胞上のレセプターが標的抗原に結合する能力を変化させることなく、標的抗原を受容および保持し得、かつ
3)エミッター細胞と接触するための物理的な操作が可能である;ならびに
b)光子放出を検出する工程、ここで、光子放出は、試料中の標的抗原を示す、
を含む、試料中の標的抗原を検出するための非遠心分離法。」

第3 引用刊行物及びその記載事項
1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の原出願の優先権主張日前に頒布された特表2004-527736号公報(以下、「刊行物1」という。)には、光電子による検出システムについて、次の事項が図面とともに記載されている。(下線は、段落【0008】を除いて、当審で付与。)

ア「【0008】
発明の概要
多様なおよび稀な標的粒子または抗原を検出するために抗体の多様性を利用している装置は、米国特許第6,087,114号および1998年10月9日に出願され、現在、継続中の米国特許出願第09/169,196号に記載されている。
【0009】
これらの装置には一般的に、センサー細胞(例えば、B細胞または繊維芽細胞)を含む液体培地、光学検出器、および検出対象の標的粒子を受ける液体培地が含まれる。細胞の各々は、その表面上に発現したおよび検出対象の抗原に特異的な受容体(例えば、キメラまたは一本鎖抗体)を有する。受容体への抗原の結合により、化学的または生化学的変化(例えば、カルシウム濃度の増加)を伴うシグナル伝達経路が引き起こされる。細胞はまた、シグナル伝達経路(例えば、サイトゾル中のカルシウム濃度の増加)に応答して光子を放出できる放出体(emitter)分子(例えば、エクオリンまたはindo-1)をそのサイトゾル中に含む。検出器は光子透過性のカバー(例えば、ガラス)により細胞を含む培地から分離できる。このようなカバーは培地を支える、検出器の脆弱な表面を保護する、またはレンズとして使用される役割を果たすことができる。光学検出器、例えば、電荷結合素子(CCD)は受容体が媒介するシグナル伝達経路に応答して細胞から放出される光子を検出することができ、および検出対象の抗原が存在していることを使用者に知らせることができる。」

イ「【0023】
本発明による別の局面は以下の段階を含む空気試料中の標的粒子の検出法である:
a. 空気試料由来の標的粒子を、衝突捕集(impacting)、静電引力、または静止大気(still air)からの沈降により試験槽の表面またはその内部表面上に局在化させる段階;
b. 混合物を形成させるため、標的粒子との相互作用に適した1つまたはそれ以上の受容体(例えば、抗体)、および標的粒子と相互作用する1つまたはそれ以上の受容体に応答して光子を放出(例えば、発光または蛍光により)する放出体分子、を含む放出細胞を添加する段階;
c. (選択的に)混合物中の放出体細胞を局在化させる(例えば、ろ過もしくはウィッキングによる流動体除去、遠心、誘電泳動、重力による沈降、または粒子と同じ場所に細胞を高濃縮させるための他の手段により)段階;
d. 混合物中の細胞由来の光子放出を測定する(例えば、発光または蛍光により)段階。
【0024】
その他の局面において、方法は試料が空気または液体である;放出細胞がB細胞である;放出細胞には標的粒子に対する抗体が含まれる;放出細胞には抗体をコードする発現プラスミドが含まれる;放出細胞にはエクオリンをコードする核酸が含まれる;放出細胞にはカルシウム移動の誘発に適した繊維芽細胞が含まれる;測定には光電子増倍管、光電子増倍管アレイチューブ、または光電子増倍管アレイの使用が含まれる;測定には電荷結合素子、アバランシェフォトダイオードもしくはアバランシェフォトダイオードアレイ、CMOSイメージャ、または画像増強型電荷結合素子(ICCD)の使用が含まれる、本明細書のいずれかの方法である。」

ウ「【0049】
別の態様としては、反応槽は二次元配列のウェル、例えばマイクロタイタープレート、または図に示されているようなテープに沿ったスポットもしくはウェルである。」

エ「【0123】
図13?図14は遠心を必要としない本発明の異なる態様を説明している。図13の概略図はこの態様の種々の構成要素を示している。バイオエアロゾル警告センサー(BAWS)は例えば、予め決定したサイズ範囲内で、粒子の存在を検出する。BAWSの実施例はPrimmerman, Lincoln Laboratory Journal 12:3-32, 2000に説明されている。BAWSは、規格を満たす粒子が検出されれば、特定のサイズ範囲の粒子を収集しおよび第1の測点で標本テープ上の一部のウェル(反応槽)に堆積させるような空気対空気型濃縮器(米国特許第5,932,795に記載されているような標本収集器)を始動させる。この別図が図14に示されている。候補粒子がテープに堆積された後、テープは放出体細胞の貯蔵所下およびPMT上の第2の測点へ進む。標的粒子の特定抗原に特異的な放出体細胞をウェルに堆積させ、それからウェルからの光子放出を監視する。」

オ 図13として以下の図面が記載されている。


図13には、上記ウの記載に対応して、一方のロールに巻回されたテープが、他方のロールへ巻き取られることにより、移動できるテープを含む「センサー概念:直接空気衝突捕集装置」が図示されている。
そして、上記左右のロールの間にあるテープの左側の第1の位置では、その上方に配置された「●適応性のある捕集持続期間」と併記されている「空気対空気型濃縮器」から試料である空気が下方のテープへ送り出され、上記ウの記載にもあるように、「衝突またはろ過による抗原捕捉」が行われることが記載されていると理解される図示があり、「●流体中の抗原搬送に関連する問題を削減」と併記されている。
また、前記第1の位置の右側に進んだ前記テープの第2の位置においては、上記ウの記載にもあるように、その上方に「試料スポット上にセンサー細胞を堆積する」ことが、「●細胞接着なし」、「●供給B細胞の交換が容易」、「●消耗品の削減」、「●細胞汚染を排除する」という記載と共に併記され、かつ上記第2の位置のテープの下方には、「光子検出」することが、「●簡便な光子捕集」という記載と共に併記されていると理解できる。
さらに、図13の右端の巻き取りロールの上方には、「化学処理された保護用紙」、「●試料固定および保存」という記載とともに、巻き取られたテープの上面を覆う保護用紙のローラが図示されている。

2 刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1の図13に記載された態様(以下、単に「図13態様」ということがある。)におけるテープの表面には、上記1のイ、エにも記載されているように、試料が局在化されているものと認められる。

イ また、図13態様では、上記2のエに「遠心を必要としない本発明の異なる態様を説明している。」と記載されているように、試料空気中の「候補粒子がテープに堆積された後、」「放出体細胞の貯蔵所下およびPMT上の第2の測点へ進」み、「標的粒子の特定抗原に特異的な放出体細胞をテープ表面上の候補粒子の堆積箇所に堆積させ、それからの光子放出を監視する」という工程において、遠心を必要とするものではないし、この位置で下方に設けられた光検出器であるPMTで光子を検出している以上、この工程は候補粒子を堆積するテープ表面を当然、放出体細胞と接触させる工程を含むものであると認められる。

ウ そして、図13態様における「試料スポット上にセンサー細胞を堆積する」と記載された「センサー細胞」は、上記2のアに記載されているように、その表面上に発現したおよび検出対象の抗原に特異的な受容体を有し、受容体への抗原の結合により、化学的または生化学的変化(例えば、カルシウム濃度の増加)を伴うシグナル伝達経路が引き起こされ、シグナル伝達経路(例えば、サイトゾル中のカルシウム濃度の増加)に応答して光子を放出できる放出体(emitter)分子を含む細胞であると認められる。

エ そうすると、図13態様における光子放出を検出する工程における光子放出は、試料中の標的抗原を示すものに他ならないし、図13態様で行われている方法は、試料中の標的抗原を検出するための方法であることは、明らかである。

オ 上記アないしエを勘案して、遠心を必要としない態様である図13態様で行われている試料中の標的抗原を検出するための方法を、本願発明の記載に倣って整理すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。

「a)試料をテープ表面上に局在化し、該テープ表面を、一方のロールに巻回されたテープが他方のロールへ巻き取られる方法で、センサー細胞が上方から落下して堆積させる位置へと移動させて、センサー細胞と接触させる工程、ここで、該センサー細胞は、その表面上に発現したおよび検出対象の抗原に特異的な受容体を有し、受容体への抗原の結合により、化学的または生化学的変化(例えば、カルシウム濃度の増加)を伴うシグナル伝達経路が引き起こされ、シグナル伝達経路(例えば、サイトゾル中のカルシウム濃度の増加)に応答して光子を放出できる放出体(emitter)分子を含み、該テープ表面は、
センサー細胞と接触するために一方のロールに巻回されたテープが他方のロールへ巻き取られることにより移動が可能である;ならびに
b)光子放出を検出する工程、ここで光子放出は、試料中の標的抗原を示す、
ことを含む、試料中の標的抗原を検出するための遠心を必要としない方法。」(以下、「刊行物1発明」という。)

第4 対比・判断
1 対比
そこで、本願発明と刊行物1発明とを対比する。
ア 刊行物1発明の「テープ表面」は、テープが固体であるから、本願発明の「固体表面」に相当する。

イ 刊行物1発明における「該テープ表面を、一方のロールに巻回されたテープが他方のロールへ巻き取られる方法で、センサー細胞が上方から落下して堆積させる位置へと移動させて、センサー細胞と接触させる工程」においては、上記第3のイにおいても指摘したように「遠心を必要としない方法を用いている」と認められるし、「遠心を必要としない方法」は、「非遠心分離法」に含まれる方法であることは明らかである。

ウ また、刊行物1発明の「その表面上に発現したおよび検出対象の抗原に特異的な受容体を有し、受容体への抗原の結合により、化学的または生化学的変化(例えば、カルシウム濃度の増加)を伴うシグナル伝達経路が引き起こされ、シグナル伝達経路(例えば、サイトゾル中のカルシウム濃度の増加)に応答して光子を放出できる放出体(emitter)分子を含」む「センサー細胞」は、受容体、すなわちレセプター、および該受容体(レセプター)への試料中の検出対象の抗原、すなわち標的抗原の結合に応答して光子を放出する放出体(emitter)分子、すなわちエミッター分子を含む細胞であるから、本願発明の「エミッター細胞」に相当する。

エ そして、刊行物1発明のテープ表面の「センサー細胞と接触するために一方のロールに巻回されたテープが他方のロールへ巻き取られることにより移動が可能である」ということは、空間的な移動、すなわち「物理的な操作」が可能であることにほかならない。

オ したがって、本願発明と刊行物1発明とは、次の一致点で一致し、次の相違点において一応相違する:
(一致点)
「a)試料を固体表面上に局在化し、該固体表面を、非遠心分離法を使用して、エミッター細胞と接触させる工程、ここで、該エミッター細胞は、レセプター、および該レセプターへの試料中の標的抗原の結合に応答して光子を放出するエミッター分子を含み、該固体表面は:
エミッター細胞と接触するための物理的な操作が可能である;ならびに
b)光子放出を検出する工程、ここで、光子放出は、試料中の標的抗原を示す、
を含む、試料中の標的抗原を検出するための非遠心分離法。」である点。

(相違点)
該固体表面が、本願発明では、さらに
「1)エミッター細胞のカルシウム流動を刺激せず、
2)エミッター細胞上のレセプターが標的抗原に結合する能力を変化させることなく、標的抗原を受容および保持し得」るものであるのに対して、刊行物1発明では、固体表面であるテープ表面が、そのようなものであることは、特定されていない点。

2 判断
上記相違点について検討するに、受容体への抗原の結合により、化学的または生化学的変化(例えば、カルシウム濃度の増加)を伴うシグナル伝達経路が引き起こされ、シグナル伝達経路(例えば、サイトゾル中のカルシウム濃度の増加)に応答して光子を放出できるエミッター分子を含むセンサー細胞(エミッター細胞)では、レセプターへの抗原の結合によりカルシウム濃度の増加のようなシグナル伝達経路が引き起こされ、またサイトゾル中のカルシウム濃度の増加に応答して光子を放出できることから、試料中の標的抗原を光子放出により検出する場合には、レセプターへの抗原の結合以外に、光子の放出を招くエミッター細胞のカルシウム流動を刺激する要因は当然避けるべきことであることは、当然の技術的要請であるから、エミッター細胞と接触する固体表面が、エミッター細胞のカルシウム流動を刺激しないものであることは、技術常識からみて当然の条件である。
また、エミッター細胞上のレセプターに標的抗原が結合し、化学的または生化学的変化(例えば、カルシウム濃度の増加)を伴うシグナル伝達経路が引き起こされ、シグナル伝達経路(例えば、サイトゾル中のカルシウム濃度の増加)に応答して、エミッター分子が光子を放出できるのであるから、エミッター細胞に接触する固体表面が、エミッター細胞上のレセプターが標的抗原に結合する能力を低下させ、標的抗原を受容および保持し得るなくなるように変化させることがあってはならないことも、当然の技術的要請であるから、エミッター細胞に接触する固体表面であるテープ表面が、エミッター細胞上のレセプターが標的抗原に結合する能力を変化させることなく、標的抗原を受容および保持し得るような条件を満たすべきことも、当然のことにすぎない。
そうすると、刊行物1発明においても、固体表面であるテープ表面が、「1)エミッター細胞のカルシウム流動を刺激せず、 2)エミッター細胞上のレセプターが標的抗原に結合する能力を変化させることなく、標的抗原を受容および保持し得」るという要件を満たしているものであることは、刊行物1に記載されているに等しい事項であり、上記相違点は、実質的相違点とは認められないから、本願発明は、刊行物1に記載された発明に該当する。

仮に、上記相違点が実質的な相違点であるとしても、当業者であれば、固体表面であるテープ表面を選ぶ際に、テープ表面が、1)エミッター細胞のカルシウム流動を刺激せず、 2)エミッター細胞上のレセプターが標的抗原に結合する能力を変化させることなく、標的抗原を受容および保持し得るという要件をも満たすように材質等を選択することは、当業者であれば、当然考慮すべき条件にすぎないので、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の原出願の優先権主張日前に頒布された上記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないか、又は、上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-28 
結審通知日 2015-08-31 
審決日 2015-09-14 
出願番号 特願2012-133389(P2012-133389)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 裕美廣田 健介  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 三崎 仁
尾崎 淳史
発明の名称 病原体検出バイオセンサー  
代理人 細田 芳徳  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ