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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1310428
審判番号 不服2014-14402  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-24 
確定日 2016-01-27 
事件の表示 特願2009-520023「可変の光学および/またはエネルギー特性を有するガラスタイプの電気化学的な/電気的に制御可能な素子」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月24日国際公開、WO2008/009850、平成21年12月17日国内公表、特表2009-544987〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年7月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2006年7月21日、仏国)を国際出願日とする出願であって、平成22年6月17日に手続補正及び誤訳訂正がなされ、平成24年12月6日及び平成25年9月11日付けで手続補正がなされ、平成26年3月20日付けの補正の却下の決定により平成25年9月11日付け手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年7月24日になされた手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成26年7月24日になされた手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
平成26年7月24日になされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするものである。
(1)特許請求の範囲についての本件補正は、平成24年12月6日になされた手続補正によって補正された(以下、「本件補正前」という。)特許請求の範囲に、
「 【請求項1】
可変の光学および/またはエネルギー特性を有し、エレクトロクロミック層の第1のスタックと結合される導電性層を備える第1のキャリア基板と、エレクトロクロミック層の第2のスタックと結合される導電性層を備える第2のキャリア基板とを含む、電気化学的な/電気的に制御可能な素子であって、前記第1および第2のスタックが、それらの表面の少なくとも一部分の上で、前記第1および第2のスタックの両方を光が通過するように積層され、かつ積層挿入体である電気的に絶縁する手段によって分離されることを特徴とする、素子。
【請求項2】
第1および第2のスタックが、同じ供給部から電気を供給されることを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
第1および第2のスタックが、直列に電気を供給されることを特徴とする、請求項2に記載の素子。
【請求項4】
第1および第2のスタックが、並列に電気を供給されることを特徴とする、請求項2に記載の素子。
【請求項5】
積層挿入体のそれぞれの面が、第1および第2のスタックとそれぞれ結合される導電性層と結合されることを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項6】
第1のスタックおよび第2のスタックが、TC1/EC1/EL/EC2/TC2構造を有する「全固体」エレクトロクロミックスタックであることを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項7】
電解質機能を有する層ELが、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化アンチモン、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化コバルト、酸化チタン、酸化スズ、酸化ニッケル、アルミニウムと任意選択で合金された酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、アルミニウムと任意選択で合金された酸化ケイ素、アルミニウムまたはホウ素と任意選択で合金された窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミニウムと任意選択で合金された酸化バナジウム、酸化スズ亜鉛、任意選択で水素化され、または窒化されたこれらの酸化物のうちの少なくとも1つから選択された材料ベースの少なくとも1つの層を含むことを特徴とする、請求項6に記載の素子。
【請求項8】
エレクトロクロミック層EC1またはEC2それぞれが、以下の化合物のうちの少なくとも1つ、タングステンW、ニオブNb、スズSn、ビスマスBi、バナジウムV、ニッケルNi、イリジウムIr、アンチモンSb、タンタルTaの酸化物を、単独でまたは混合物として含み、任意選択でチタン、レニウム、コバルトなどの追加の金属を含むことを特徴とする、請求項6に記載の素子。
【請求項9】
導電性層TC1またはTC2が、金属タイプ、もしくはIn_(2)O_(3):Sn(ITO)、SnO_(2):F、ZnO:Alで形成されているTCO(透明導電性酸化物)タイプであり、または金属が、具体的には銀、金、白金、銅から選択されるTCO/金属/TCOタイプの複数層であり、もしくは金属が同様に、銀、金、白金、銅から選択されるNiCr/金属/NiCrタイプの複数層であることを特徴とする、請求項6に記載の素子。
【請求項10】
積層挿入体の各面が、導電性ストリップおよび/または導電性ワイヤ(6)を含む少なくとも1つの導電性層と結合されることを特徴とする、請求項5に記載の素子。
【請求項11】
得られるコントラスト値が、3800、550、または14であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の素子。
【請求項12】
具体的には、可変の光学ならびに/またはエネルギー透過部および/もしくは反射部を備え、プラスチックで形成されている基板、または透明もしくは部分的に透明な基板のうちの少なくとも一部を有し、好ましくは、複数および/もしくは積層グレイジングとして、またはダブルグレイジングとして組み立てられる、請求項1から11のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック素子を含むことを特徴とする、エレクトロクロミックグレイジング。
【請求項13】
電気化学的素子の層のうちの少なくとも1つが、任意選択で磁場によりアシストされるカソードスパッタリングなど、真空を含む技術によって、熱蒸発もしくは電子ビームによりアシストされる蒸発によって、レーザアブレーションによって、任意選択でプラズマもしくはマイクロ波によりアシストされるCVDによって、または大気圧技術によって、具体的には、ディップタイプ、スプレイコーティングもしくはローラコーティングの、具体的には、ゾル-ゲル合成を使用して層を付着することによって、付着されることを特徴する、請求項1から11に記載の電気化学的素子。
【請求項14】
建物向けグレイジング、自動車向けグレイジング、工業用または公共用輸送の鉄道車両、海洋船、航空機向けグレイジング、具体的には、窓、サイドミラー、ミラー、ディスプレイおよびモニタ、画像取得装置のためのシャッタとして、請求項12に記載のグレイジングの使用。」とあったものを、

「 【請求項1】
可変の光学および/またはエネルギー特性を有し、エレクトロクロミック層の第1のスタックと結合される導電性層を備える第1のキャリア基板と、エレクトロクロミック層の第2のスタックと結合される導電性層を備える第2のキャリア基板とを含む、電気化学的な/電気的に制御可能な素子であって、前記第1および第2のスタックが、それらの表面の少なくとも一部分の上で、前記第1および第2のスタックの両方を光が通過するように積層され、積層挿入体である電気的に絶縁する手段によって分離され、
第1および第2のスタックが、同じ供給部から電気を供給され、
電気的に絶縁する手段が、積層挿入体であって、積層挿入体のそれぞれの面が、第1および第2のスタックとそれぞれ結合される導電性層と結合され、
第1のスタックおよび第2のスタックが、TC1/EC1/EL/EC2/TC2構造を有する「全固体」エレクトロクロミックスタックであることを特徴とする、素子。
【請求項2】
第1および第2のスタックが、直列に電気を供給されることを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
第1および第2のスタックが、並列に電気を供給されることを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項4】
電解質機能を有する層ELが、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化アンチモン、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化コバルト、酸化チタン、酸化スズ、酸化ニッケル、アルミニウムと任意選択で合金された酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、アルミニウムと任意選択で合金された酸化ケイ素、アルミニウムまたはホウ素と任意選択で合金された窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミニウムと任意選択で合金された酸化バナジウム、酸化スズ亜鉛、任意選択で水素化され、または窒化されたこれらの酸化物のうちの少なくとも1つから選択された材料ベースの少なくとも1つの層を含むことを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項5】
エレクトロクロミック層EC1またはEC2それぞれが、以下の化合物のうちの少なくとも1つ、タングステンW、ニオブNb、スズSn、ビスマスBi、バナジウムV、ニッケルNi、イリジウムIr、アンチモンSb、タンタルTaの酸化物を、単独でまたは混合物として含み、任意選択でチタン、レニウム、コバルトなどの追加の金属を含むことを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項6】
導電性層TC1またはTC2が、金属タイプ、もしくはIn_(2)O_(3):Sn(ITO)、SnO_(2):F、ZnO:Alで形成されているTCO(透明導電性酸化物)タイプであり、または金属が、具体的には銀、金、白金、銅から選択されるTCO/金属/TCOタイプの複数層であり、もしくは金属が同様に、銀、金、白金、銅から選択されるNiCr/金属/NiCrタイプの複数層であることを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項7】
積層挿入体の各面が、導電性ストリップおよび/または導電性ワイヤ(6)を含む少なくとも1つの導電性層と結合されることを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項8】
得られるコントラスト値が、3800、550、または14であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の素子。
【請求項9】
具体的には、可変の光学ならびに/またはエネルギー透過部および/もしくは反射部を備え、プラスチックで形成されている基板、または透明もしくは部分的に透明な基板のうちの少なくとも一部を有し、好ましくは、複数および/もしくは積層グレイジングとして、またはダブルグレイジングとして組み立てられる、請求項1から8のいずれか一項に記載のエレクトロクロミック素子を含むことを特徴とする、エレクトロクロミックグレイジング。
【請求項10】
電気化学的素子の層のうちの少なくとも1つが、任意選択で磁場によりアシストされるカソードスパッタリングなど、真空を含む技術によって、熱蒸発もしくは電子ビームによりアシストされる蒸発によって、レーザアブレーションによって、任意選択でプラズマもしくはマイクロ波によりアシストされるCVDによって、または大気圧技術によって、具体的には、ディップタイプ、スプレイコーティングもしくはローラコーティングの、具体的には、ゾル-ゲル合成を使用して層を付着することによって、付着されることを特徴とする、請求項1から8に記載の電気化学的素子。
【請求項11】
建物向けグレイジング、自動車向けグレイジング、工業用または公共用輸送の鉄道車両、海洋船、航空機向けグレイジング、具体的には、窓、サイドミラー、ミラー、ディスプレイおよびモニタ、画像取得装置のためのシャッタとして、請求項9に記載のグレイジングの使用。」と補正するものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)特許請求の範囲についての本件補正は、次のアないしエの補正からなるものである。
ア 本件補正前の請求項1を削除するとともに、本件補正前の請求項2を引用形式から他の請求項の記載を引用しない書き下した形にして新たな請求項1とする補正。
イ 新たな請求項1(本件補正前の請求項2)の「積層挿入体」について、本件補正前の請求項5の「積層挿入体のそれぞれの面が、第1および第2のスタックとそれぞれ結合される導電性層と結合される」ことを限定するとともに、本件補正前の請求項5を削除する補正。
ウ 新たな請求項1(本件補正前の請求項2)の「第1のスタック」及び「第2のスタック」について、本件補正前の請求項6の「TC1/EC1/EL/EC2/TC2構造を有する「全固体」エレクトロクロミックスタックである」ことを限定するとともに、本件補正前の請求項6を削除する補正。
エ 上記アないしウの補正に伴い、本件補正前の請求項3、4、7ないし14をそれぞれ新たな請求項2ないし11とする補正。

2 本件補正の目的
(1)上記1(2)アないしウの補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる「請求項の削除」を目的とするものである。
(2)上記1(2)イの補正は、本件補正前の請求項2において本件補正前の請求項1の記載を引用して記載されていた「積層挿入体」について、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の【請求項5】の記載に基づいて、「積層挿入体のそれぞれの面が、第1および第2のスタックとそれぞれ結合される導電性層と結合される」ことを限定するものである。
(3)上記1(2)ウの補正は、本件補正前の請求項2において本件補正前の請求項1の記載を引用して記載されていた「第1のスタック」及び「第2のスタック」について、当初明細書等の【請求項6】の記載に基づいて「TC1/EC1/EL/EC2/TC2構造を有する「全固体」エレクトロクロミックスタックである」ことを限定するものである。
(4)上記(1)ないし(3)からみて、本件補正後の請求項1は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たし、また、本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が補正の前後において同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 引用例
(1)本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、平成26年3月20日付けの補正の却下の決定の理由に引用文献2として引用された刊行物である実願平3-58024号(実開平5-11131号)のCD-ROM(審決注:原査定あるいは補正の却下の決定では「実願平3-58024号(実開平5-11131号)のマイクロフィルム」としているが、「実願平3-58024号(実開平5-11131号)のCD-ROM」の明らかな誤記である。なお、審判請求人も審判請求書で「実願平3-58024号(実開平5-11131号)」で特定されるCD-ROM公開公報(明細書全文掲載)の記載事項に対して反論している。)(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は自動車用の防眩ミラーに係り、特にEC式の防眩ミラーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用のミラー類(インサイドミラー,アウトサイドミラー,ドアミラー)は、後方視界を確認して安全運転を行う為に不可欠のものであるが、後続車のライトなどの強い光が反射されると眩惑を感じるという支障を生じる。
この眩惑を軽減させるため、夜間においてはミラーの反射率を減少させることが有効である。
こうした目的で、反射率を2段階に変化せしめ得る構造の防眩ミラーが用いられる。
従来一般に、プリズム式防眩ミラー、及び、液晶式防眩ミラーが実用化されており、更にエレクトロクロミズム(以下、ECと略称する)を利用したEC式防眩ミラーが開発され、実用化されようとしている。
図2は従来例のEC式防眩ミラーの断面を描いた説明図であって、読図の便宜上その厚さ寸法を拡大してあり、図の上方がミラーの背面である。
ガラス基板1の上に第1電極として透明導電層2を設ける。材質としては、例えばITO(インヂュウム・スズ・酸化物),SnO_(2)が用いられる。
更にその上に、還元反応によって着色するEC(例えばWO_(3),MoO_(3))の第1EC層3,電解質層(例えばTa_(2)O_(5),ZrO_(2),SiO_(2))4、酸化反応によって着色するEC(例えばCr_(2)O_(3),NiO,IrO_(2))の第2EC層5、第2電極兼反射層(材質はAl,Agなど)6が順次に成層され、その上を電気絶縁性の接着兼保護層7及びガラス製保護基板8で覆われている。なお第1のEC層の材料と第2のEC層の材料とを入れ替えて構成されることもある。
前記の第1電極2と第2電極6との間に直流電圧(0.5?2.0V程度)を印加し、その極性を切り替えると、第1,第2EC層内で電気化学的に酸化,還元反応が行われて、第1EC層3および第2EC層5が着色したり消色したりする。
上記の着,消色反応は、製造の過程で第1EC層3,電解質層4,第2EC層5に封じ込められた水分と、第1,第2EC層との間で行われる次記の電気化学的反応である。
WO_(3)+xH+xe←→Hx・WO_(3 ) ……(1)
Ir+xOH-xe←→Ir(OH)x ……(2)
上記(1)式左辺のWO_(3)は透明、右辺のHx・WO_(3)は青色である。
また(2)式左辺のIrは3価イオンで透明、右辺のIr(OH)xは灰色である。
この着色,消色によって通過光の吸収率が変化し、ミラーとしての機能について見ると反射率が変化する。
上記の着色,消色を制御するため、透明導電層2,2′に対して、ハンダ9により配線10a,10bが接続され、切替スイッチ11を介して直流電源12に接続される。
第1電極と第2電極との間に電圧を印加するため、ガラス基板1上に成膜した透明導電層に、エッチングを施してエッチング帯(エッチングによって透明導電層が除去された帯状部分)2cを構成し、第1電極としての透明導電層2aと、第2電極取出用透明電極層2bとに区分される。
切替スイッチ11を操作して前掲の(1),(2)式の可逆反応を左方へ進行させて消色させると、図3の(A)に示したように高反射率の(通常の)ミラーとなる。
また、前記切替スイッチ11を操作して(1),(2)式の可逆反応を右方へ進行させて消色させると、図3の(B)に示したように低反射率の防眩状態となる(防眩状態であることを、図に描いたミラーの反射面に斑点を付して示してある)。」

イ 「【0003】
【考案が解決しようとする課題】
以上に説明した従来例のEC防眩ミラーにおいては、第1EC層と第2EC層とにおいて、前記の(1),(2)式のごとく着色,消色反応が行われるが、発色を濃くしようとすると高電圧を印加しなければならない。
しかし、高電圧を印加するとEC素子の耐久性が低下する。
本考案は上述の事情に鑑みて為されたもので、高電圧を印加しなくても濃い発色(強度の防眩)が得られ、スイッチ操作によって濃淡多段の発色(強弱多段の防眩)が得られる、しかも発色,消色にむらを生じない自動車用のEC防眩ミラーを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための構成として、本考案に係るEC防眩ミラーは、
透明な基板を挟んでその両面にそれぞれ成層した第1の透明導電層と、
上記それぞれの透明導電層の上にそれぞれ成層した第1のEC層と、
上記それぞれのEC層の上にそれぞれ成層した電解質層と、
上記それぞれの電解質層の上にそれぞれ成層した第2のEC層と、
上記それぞれの第2EC層の上にそれぞれ成層された第2の導電層と、を具備しており、
前記透明な基板の両側にそれぞれ設けられている各対の第1透明導電層と第2導電層とに対して、相互に独立に直流電圧を印加し得るスイッチ機構が設けられていて、
上記の構成における1対の第1透明電極層を挟みつける第1のクリップと、それぞれの第2の導電層の片方を挟みつける第2のクリップと、該第2の導電層の他方を挟みつける第3のクリップとを設け、
上記第1,第2,第3のクリップを等長に構成して透明基板の周囲に配設したことを特徴とする。
【0005】
【作用】
上記の構成によれば、透明な基板(例えばガラス板)を挟んで対称に1対の電解質層が配置され、かつ、それぞれの電解質層の両側に第1,第2のEC層が配設されている。
要するに、従来形のEC防眩ミラーの構成要素(EC素子)が二つ重ね合わされている。
このため、二つ重ね合わされたそれぞれのEC素子に比較的低電圧を加えて弱い着色を行わせても、これらが重なり合っているため強い防眩効果(低い反射率)が得られる。
かつ、第1,第2,第3のクリップが等長なので、防眩ミラーの発色むらや消色むらを生じるおそれが無い。」

ウ 「【0006】
【実施例】
図4は本考案に係るEC防眩ミラーの1実施例を示す模式的な断面図である。
【0007】
外部の光は矢印eのように入射し、反射して矢印fのように出射する。従って、図の上方がミラーとして裏側であり、図の下方が表側である。
透明ガラス基板20を挟んで、ほぼ対称に、裏側EC素子21と表側EC素子31とが配置されている。
裏側EC素子21だけを抽出して観察すると、図2に示した従来例のEC防眩ミラーと類似の構造である。
すなわち、透明ガラス基板20の裏側に、第1透明導電層22,第1EC層23,電解質層24,第2電極兼反射層26,接着剤よりなる保護層27,および保護基板28が順次に成層されて裏側EC素子21を構成している。
そして、前記透明ガラス基板20の表側には、第1透明導電層32,第1EC層33,電解質層34,第2EC層35,第2透明導電層36,接着剤よりなる保護層37,および透明保護基板38が順次に成層されて表側EC素子31を構成している。
前記表,裏のEC素子31,21はほぼ対称の構成であるが、次のように異っている。
第2電極兼反射層26は光学的に反射性の部材であるが、第2透明導電層36は透明な部材であって、矢印eの入射光および矢印fの反射光を通過させる機能を有している。
保護基板28は透明体であっても不透明体であっても良いが、透明保護基板38は透明な部材であって、矢印eの入射光および矢印fの反射光を通過させる機能を有している。
スイッチSWは単極4接点形の切替スイッチであって、固定接点a,b,c,dを有している。
第2電極兼反射層26はダイオードD_(1)を逆方向に介して固定接点dに、該ダイオードD_(1)を介せず直接的に固定接点cに、それぞれ接続されている。
第2透明導電層36はダイオードD_(2)を逆方向に介して固定接点dに、該ダイオードD_(2)を介せず直接的に固定接点bに、それぞれ接続されている。
第2電極兼反射層26と第1透明導電層22とは固定抵抗R_(1)を介して接続され、第2透明導電層36と第1透明導電層32とは固定抵抗R_(2)を介して接続されている。
第1透明導電層22および第1透明導電層32は直流電源41の陰極側に接続され、該直流電源41の陽極はスイッチSWの可動接片に接続されている。
本実施例においては、裏側EC素子21と表側EC素子31とに同一電圧を印加した場合、表側EC素子31よりも裏側EC素子21の方が強い防眩効果を生じるように(透過率が低くなるように)構成してある。
以上のように構成された本例のEC防眩ミラーの作用について次に述べる。

・・・略・・・

さらに図7のようにスイッチSWを固定接点dに操作すると、裏側EC素子21に対してはダイオードD_(1)を順方向に介して駆動電圧が印加され、表側EC素子31に対してはダイオードD_(2)を順方向に介して駆動電圧が印加され、双方のEC素子21,31がともに発色するので強い防眩状態(反射率最小の状態)となる。
以上説明したように本実施例のEC防眩ミラーは、直流電源41のみを駆動源として別段の高電圧を用いず、しかもスイッチ操作によって防眩状態を、消色・弱・中・強の4段階に切り替えることができる。
図8は、図1に示した実施例における第1透明導電層22,32の接続部分の概要を模式的な実体配線図として描いたものである。
導電性材料(例えば燐青銅)製のクリップ50を構成して、透明ガラス基板20の両面に成層されている1対の第1透明導電層22,同32を挟みつけて導通させる。
上記クリップ50を直流電源41の陰極に接続するとともに、該クリップ50と第2電極兼反射層26との間に固定抵抗R_(1)を接続し、かつ、該クリップ50と第2透明導電層36との間に固定抵抗R_(2)を接続する。
前掲の図4とこの図8とは電気的な接続導通関係が同じであるが、1対の第1透明導電層22,32のそれぞれに個別に電線を接続することなく、同一のクリップ50で一緒に挟みつけて、このクリップ50を介して配線すると、該1対の第1透明導電層22,32の取出口における接触導通条件が同じになり、発,消色の色ムラや時間ムラを生じるおそれなく、安定してバランスの良い発,消色作用が遂行される。
さらに、図4の配線状態に比して図8の配線状態は配線の本数が少なく、構造が簡単で配線作業が容易である。その結果として組立コストが低減されるのみでなく、万一の配線ミスの発生確率が少なくなる。・・・」

エ 「【図7】



オ 上記エの図7は、スイッチSWを固定接点dに操作すると、裏側EC素子21に対してはダイオードD_(1)を順方向に介して駆動電圧が印加され、表側EC素子31に対してはダイオードD_(2)を順方向に介して駆動電圧が印加され、双方のEC素子21,31がともに発色するので強い防眩状態(反射率最小の状態)となった状態を示す図であり、当該図7の記載及び上記ウの【0007】の下線部の記載からみて、裏側EC素子21及び表側EC素子31は、直流電源41のみを駆動源とし別段の高電圧を用いないで、駆動電圧が印加されていること、及び、電解質層24と第2電極兼反射層26との間に第2EC層25が存在することが見て取れる。

カ 上記アないしオから、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「従来、エレクトロクロミズム(以下、ECと略称する)を利用したEC式防眩ミラーは、ガラス基板1の上に第1電極として透明導電層2を設け、材質としては、例えばITO(インヂュウム・スズ・酸化物)、SnO_(2)が用いられ、更にその上に、還元反応によって着色するEC(例えばWO_(3)、MoO_(3))の第1EC層3、電解質層(例えばTa_(2)O_(5)、ZrO_(2)、SiO_(2))4、酸化反応によって着色するEC(例えばCr_(2)O_(3)、NiO、IrO_(2))の第2EC層5、第2電極兼反射層(材質はAl、Agなど)6が順次に成層され、その上を電気絶縁性の接着兼保護層7及びガラス製保護基板8で覆われており、前記の第1電極2と第2電極6との間に直流電圧(0.5?2.0V程度)を印加し、その極性を切り替えると、第1、第2EC層内で電気化学的に酸化、還元反応が行われて、第1EC層3および第2EC層5が着色したり消色したりし、この着色、消色によって通過光の吸収率が変化し、ミラーとしての機能について見ると反射率が変化するものであり、この従来例は、発色を濃くしようとすると高電圧を印加しなければならないが、高電圧を印加するとEC素子の耐久性が低下するという問題があったので、
高電圧を印加しなくても濃い発色(強度の防眩)が得られ、スイッチ操作によって濃淡多段の発色(強弱多段の防眩)が得られ、しかも発色、消色にむらを生じない自動車用のEC防眩ミラーを提供することを目的として、
透明な基板を挟んでその両面にそれぞれ成層した第1の透明導電層と、
上記それぞれの透明導電層の上にそれぞれ成層した第1のEC層と、
上記それぞれのEC層の上にそれぞれ成層した電解質層と、
上記それぞれの電解質層の上にそれぞれ成層した第2のEC層と、
上記それぞれの第2EC層の上にそれぞれ成層された第2の導電層と、を具備し、
前記透明な基板の両側にそれぞれ設けられている各対の第1透明導電層と第2導電層とに対して、相互に独立に直流電圧を印加し得るスイッチ機構を設け、
上記の構成における1対の第1透明電極層を挟みつける第1のクリップと、それぞれの第2の導電層の片方を挟みつける第2のクリップと、該第2の導電層の他方を挟みつける第3のクリップとを設け、
上記第1、第2、第3のクリップを等長に構成して透明基板の周囲に配設することにより、上記目的を達成した、EC式防眩ミラーであって、
具体的には、透明ガラス基板20を挟んで、ほぼ対称に、裏側EC素子21と表側EC素子31とが配置され、
透明ガラス基板20の裏側に、第1透明導電層22、第1EC層23、電解質層24、第2EC層25、第2電極兼反射層26、接着剤よりなる保護層27、および保護基板28が順次に成層されて裏側EC素子21が構成され、
前記透明ガラス基板20の表側には、第1透明導電層32、第1EC層33、電解質層34、第2EC層35、第2透明導電層36、接着剤よりなる保護層37、および透明保護基板38が順次に成層されて表側EC素子31が構成され、
裏側EC素子21及び表側EC素子31は、直流電源41のみを駆動源とし別段の高電圧を用いないで、駆動電圧が印加されている、
EC式防眩ミラー。」(以下、「引用発明」という。)

(2)本願の優先日前に頒布され平成26年3月20日付けの補正の却下の決定の理由に引用文献1として引用された刊行物である特表平4-507006号公報(以下、「引用例2」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「本発明の他の態様として、図2に具体的に示すように、エレクトロクロミック素子28は、インジウム錫酸化物又はフッ素ドープ錫酸化物である第1透明導電電極30、WO_(3)、MoO_(3)又はTiO_(2)である第1無機エレクトロクロミック層32、エチレンオキシド、ブチレンオキシド及びアリルグリシジルエーテルのターポリマー並びに少くとも1つのイオン化できる塩を含む固体重合体電解質又はポリウレタンゲル、及び少くとも1つのイオン化できる塩を含む固体重合体電解質である電解質の第1イオン導電性層34、図1の第2無機エレクトロクロミック層18と同じ遷移元素化合物である第1非晶質無機エレクトロクロミックカウンター電極層36、インジウム錫酸化物又はフッ素ドープ錫酸化物である第2透明導電電極38、ガラス又はプラスチックである透明支持体40、インジウム錫酸化物又はフッ素ドープ錫酸化物である第3透明導電性電極42、図1の第2無機エレクトロクロミック層1Bと同じ遷移元素化合物である第2非晶質無機エレクトロクロミックカウンター電極層44、層34と同じ物質である電解質の第2イオン導電性層46、WO_(3)、Mob、又はTiO_(2)である第2無機エレクトロクロミック層48、及び透明又は反射性である第4導電性電極50、を有している。
第1及び第2無機エレクトロクロミック層32及び48は、好ましくは第1及び第2非晶質無機エレクトロクロミックカランター電極層36及び44と異なるものである。
第1及び第2無機エレクトロクロミック層32及び48、並びに第1及び第2非晶質無機エレクトロクロミックカウンター電極層36及び44は、好ましくは本発明において既に述べたような、イオンを注入することによって、エレクトロクロミック特性を示すことのできるものである。
第1及び第2無機エレクトロクロミック層32及び48のエレクトロクロミック特性は、好ましくは第1及び第2非晶質無機エレクトロクロミックカウンター電極層36及び44のエレクトロクロミック特性の補色である。
本発明の範囲においては、エレクトロクロミック素子28は、ガラス又はプラスチックの如き透明支持体物質22及び24の2つの層の間に置かれる。
本発明によると、エレクトロクロミック素子28は、第1透明支持体22又は24の上に導電性電極物質の層をスパッターして第1透明導電性電極30を形成し、次いで第1透明導電性電極30の上に第1無機エレクトロクロミック物質の層をスパッターして第1無機エレクトロクロミック層32を形成する。
同様に、第4導電性電極50及び第2無機エレクトロクロミック層48は、第2ガラス支持体22又は24の上に形成することができる。
第3ガラス支持体40は、第2透明導電性電極38及び第1非晶質無機エレクトロクロミックカウンター電極層36を一面にスパッターし、そして第3透明導電性電極42及び第2非晶質無機エレクトロクロミックカウンター電極層44を他の面にスパッターする。
電解質の第1イオン導電性層34は、第1ガラス支持体22又は24のスパッター面、及び第3ガラス支持体40のいづれかの面との間で組み合わせる。
電解質46の第2イオン導電性層は、第2ガラス支持体22又は24のスパッター面、及び第3ガラス支持体40の他の面との間で組み合せてエレクトロクロミック素子28を形成する。
第2無機エレクトロクロミック層18における遷移金属としてのNi及び送入イオンとしてのLiイオンを用いる本発明のエレクトロクロミック素子は、20?25mC/cm^(2)のイオン交換を達成する。本発明のエレクトロクロミック素子は、無色及び着色の各工程を完全に繰り返しながら、苛酷の条件のもとで10,000工程以上の耐久性があることを示した。
図1の素子を使用した場合、本発明のエレクトロクロミック素子の伝送における変化は、30?35%から約85%の範囲の可視光の伝達を行い、そしてまた図2の素子を使用した場合、3?5%から55?60%の範囲の可視光の伝達を行った。
本発明のエレクトロクロミック素子の変化時間、例えば着色状態から無色状態への要する時間は、1から10分の範囲である。」(10頁右下欄2行?11頁右上欄23行)
イ 上記アから、引用例2には次の事項が記載されているものと認められる。
「ガラス又はプラスチックの如き透明支持体物質22及び24の2つの層の間に置かれ、
インジウム錫酸化物又はフッ素ドープ錫酸化物である第1透明導電電極30、第1無機エレクトロクロミック層32、エチレンオキシド、ブチレンオキシド及びアリルグリシジルエーテルのターポリマー並びに少くとも1つのイオン化できる塩を含む固体重合体電解質又はポリウレタンゲル、及び少くとも1つのイオン化できる塩を含む固体重合体電解質である電解質の第1イオン導電性層34、第1非晶質無機エレクトロクロミックカウンター電極層36、インジウム錫酸化物又はフッ素ドープ錫酸化物である第2透明導電電極38、ガラス又はプラスチックである透明支持体40、インジウム錫酸化物又はフッ素ドープ錫酸化物である第3透明導電性電極42、第2非晶質無機エレクトロクロミックカウンター電極層44、電解質の第2イオン導電性層46、WO_(3)、Mob、又はTiO_(2)である第2無機エレクトロクロミック層48、及び透明又は反射性である第4導電性電極50、を有する、
エレクトロクロミック素子。」(以下、「引用例2の記載事項」という。)

(3)周知の事項
ア 上記引用例2(特表平4-507006号公報)の記載
引用例2には次の記載がある。
(ア)「図1に具体的に示した如き本発明に従えば、イオン導電層20は、第1及び第2無機エレクトロクロミック層16及び18の間に重ねて置かれる。
イオン導電層20は、好ましくは固体重合体電解質であって、エチレンオキシド及びメチルグリシジルエーテルの共重合体、並びにイオン化できる塩を含む非晶質固体溶液である。」(9頁右上欄9行?13行)
(イ)「本発明に従えば、イオン導電層20は、LiClO_(4)-プロピレンカーボネートの如き液状電解質を使用しても良い。
しかしながら、固体重合体は、エレクトロクロミック装置を組み立てるには、その扱いがずっと容易であり、また組み立てられた装置において、潜在的な漏に関して極めて安全であることからして、イオン導電性層20に固体重合体電解質を用いることは、液状電解質より好ましい。」(9頁左下欄14行?20行)

イ 国際公開第2006/018568号の記載
国際公開第2006/018568号(以下、「周知例1」という。)は、本願の優先日前に頒布された刊行物であって、当該周知例1には次の記載がある。なお、周知例1の日本語ファミリー文献である特表2008-506998号公報の記載を援用して、日本語訳を記載した。
「Lorsque tous les elements constituants le systeme electrochrome sont de nature inorganique on parle de systemes 'tout-solide', tels que ceux decrits dans le brevet EP-0 867 752. 」(3頁3?5行)
(日本語訳)
「エレクトロクロミックシステムを作成する全要素が無機の性質であるとき、これらは、特許EP-0867752において記載されているものなど、「全固体」システムと呼ばれる。」(特表2008-506998号公報の【0008】)

ウ 特表2002-540459号公報の記載
特表2002-540459号公報(以下、「周知例2」という。)は、本願の優先日前に頒布された刊行物であって、当該周知例2には次の記載がある。
(ア)「【0009】
・・・略・・・
・ 電解質が、イオン伝導性であるが電気的に絶縁性である無機層; これらのシステムは「全固体」("all-solid")エレクトロクロミックシステムといわれる。エレクトロクロミックシステムの文献に記載された「全固体」の記述については、ヨーロッパ特許出願EP867 752および831 360がある。」
(イ)「【0038】
・・・略・・・
実施例2
図2は、本発明によるエレクトロクロミックガラスの1つの態様を示す:これは、積層構造およいガラスペーン2枚を有するエレクトロクロミックガラスであり、たとえば自動車のサンルーフにおけるガラスに用いられるために適用される形状である:2枚の透明ガラス21および22かが示され、続く機能性層の積み重ねにより形成される「全固体」型のエレクトロクロミック機能性システム23およびポリウレタンPU24を有する(PUシートはエチレン酢酸ビニルEVAもしくはポリビニルブチラールPVBのシートで置換されうる):・・・・」

エ 引用例2、周知例1及び2から把握される周知の事項
上記アないしウからみて、本願の優先日前に、エレクトロクロミックシステムにおいて、全固体型のものは周知(以下、「周知技術」という。)であったと認められる。

4 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「『第1透明導電層』、『第2透明導電層』又は『第2電極兼反射層』」、「『第1EC層』又は『第2EC層』」、「電解質層」及び「『第1EC層』、『電解質層』及び『第2EC層』」は、それぞれ本願補正発明の「『導電性層』、『TC1』又は『TC2』」、「『EC1』又は『EC2』」、「EL」及び「『エレクトロクロミック層の第1のスタック』又は『エレクトロクロミック層の第2のスタック』」に相当する。

(2)本願補正発明の「素子」は、「グレイジングタイプ」の「具体的には、窓、サイドミラー、ミラー、ディスプレイおよびモニタ、画像取得装置のためのシャッタ」として使用される「素子」である(本願明細書【0001】、【0023】)ことに照らせば、エレクトロクロミズム(EC)を利用したEC式防眩ミラーである引用発明のミラーが「素子」であるといえるから、引用発明の「EC式防眩ミラー」は、本願補正発明の「素子」に相当する。

(3)引用発明は、第1電極と第2電極との間に直流電圧を印加し、その極性を切り替えると、第1、第2EC層内で電気化学的に酸化、還元反応が行われて、第1EC層および第2EC層が着色したり消色したりするものであり、この着色、消色によって通過光の吸収率が変化し、ミラーとしての機能について見ると反射率が変化するものであるから、引用発明の「素子(EC式防眩ミラー)」と、本願補正発明の「素子」とは、「可変の光学および/またはエネルギー特性を有」し、「電気化学的な/電気的に制御可能な」ものである点で一致する。

(4)引用発明は、透明ガラス基板20を挟んで、ほぼ対称に、裏側EC素子21と表側EC素子31とが配置され、透明ガラス基板20の裏側に、「導電性層(第1透明導電層22)」、「エレクトロクロミック層の第1のスタック(第1EC層23、電解質層24、第2EC層25)」、「導電性層(第2電極兼反射層26)」、接着剤よりなる保護層27、および保護基板28が順次に成層されて裏側EC素子21が構成されており、前記透明ガラス基板20の表側には、「導電性層(第1透明導電層32)」、「エレクトロクロミック層の第2のスタック(第1EC層33、電解質層34、第2EC層35)」、「導電性層(第2透明導電層36)」、接着剤よりなる保護層37、および透明保護基板38が順次に成層されて表側EC素子31が構成されるものである。
してみると、引用発明の各「導電性層」は、「エレクトロクロミック層の第1のスタック」又は「エレクトロクロミック層の第2のスタック」と電気的且つ物理的に結合されていることは当業者に自明であり、引用発明の「保護基板」及び「透明保護基板」は、「エレクトロクロミック層の第1のスタック」又は「エレクトロクロミック層の第2のスタック」と結合される「導電性層」を備える「基板」といえるから、引用発明の「保護基板」及び「透明保護基板」と、本願補正発明の「第1キャリア基板」及び「第2キャリア基板」とは、それぞれ「第1の基板」及び「第2の基板」である点で一致する。
そうすると、引用発明の「素子(EC式防眩ミラー)」と、本願補正発明の「素子」とは、「エレクトロクロミック層の第1のスタックと結合される導電性層を備える第1の基板と、エレクトロクロミック層の第2のスタックと結合される導電性層を備える第2の基板とを含む」点で一致するといえる。

(5)引用発明は、第1EC層および第2EC層が着色したり消色したりし、この着色、消色によって通過光の吸収率が変化するもので、且つ、透明ガラス基板20を挟んで、ほぼ対称に、「エレクトロクロミック層の第1のスタック(第1EC層23、電解質層24、第2EC層25)」を含む裏側EC素子21と「エレクトロクロミック層の第2のスタック(第1EC層33、電解質層34、第2EC層35)」を含む表側EC素子31とが配置されているものであり、透明ガラス基板20が「エレクトロクロミック層の第1のスタック」と「エレクトロクロミック層の第2のスタック」との間に挿入されて積層されている状態で位置し、両「スタック」を電気的に絶縁且つ分離していることは明らかであるから、引用発明の「透明ガラス基板20」が、本願補正発明の「積層挿入体」に相当し、また、引用発明の「素子(EC式防眩ミラー)」と、本願補正発明の「素子」とは、「第1および第2のスタックが、それらの表面の少なくとも一部分の上で、前記第1および第2のスタックの両方を光が通過するように積層され、積層挿入体である電気的に絶縁する手段によって分離され」ている点で一致する。

(6)引用発明は、「エレクトロクロミック層の第1のスタック(第1EC層23、電解質層24、第2EC層25)」を含む裏側EC素子21及び「エレクトロクロミック層の第2のスタック(第1EC層33、電解質層34、第2EC層35)」を含む表側EC素子31は、直流電源41のみを駆動源とし別段の高電圧を用いないで、駆動電圧が印加されているから、引用発明の「素子(EC式防眩ミラー)」と、本願補正発明の「素子」とは、「第1および第2のスタックが、同じ供給部から電気を供給され」ている点で一致する。

(7)引用発明は、上記(4)でも示したように、透明ガラス基板20を挟んで、ほぼ対称に、裏側EC素子21と表側EC素子31とが配置され、透明ガラス基板20の裏側に、「導電性層(第1透明導電層22)」、「エレクトロクロミック層の第1のスタック(第1EC層23、電解質層24、第2EC層25)」、「導電性層(第2電極兼反射層26)」、接着剤よりなる保護層27、および保護基板28が順次に成層されて裏側EC素子21が構成されており、前記透明ガラス基板20の表側には、「導電性層(第1透明導電層32)」、「エレクトロクロミック層の第2のスタック(第1EC層33、電解質層34、第2EC層35)」、「導電性層(第2透明導電層36)」、接着剤よりなる保護層37、および透明保護基板38が順次に成層されて表側EC素子31が構成されるものである。
そうすると、引用発明において、各「導電性層(第1透明導電層22、第1透明導電層32)」が「エレクトロクロミック層の第1のスタック(第1EC層23、電解質層24、第2EC層25)」及び「エレクトロクロミック層の第2のスタック(第1EC層33、電解質層34、第2EC層35)」のそれぞれと電気的且つ物理的に結合されていることは明らかであり、「積層挿入体(透明ガラス基板20)」が電気的に絶縁する手段であることから、各「導電性層」が「積層挿入体」と電気的に結合することはないものの、「積層挿入体」の両面がそれぞれ各「導電性層」と少なくとも物理的に結合していることは明らかである。
してみると、引用発明の「素子(EC式防眩ミラー)」と、本願補正発明の「素子」とは、「電気的に絶縁する手段が、積層挿入体であって、積層挿入体のそれぞれの面が、第1および第2のスタックとそれぞれ結合される導電性層と結合され」ている点で一致する。

(8)引用発明は、「TC1(第1透明導電層22)」、「EC1(第1EC層23)」、「EL(電解質層24)」、「EC2(第2EC層25)」、「TC2(第2電極兼反射層26)」、接着剤よりなる保護層27、および保護基板28が順次に成層されて裏側EC素子21が構成され、「TC1(第1透明導電層32)」、「EC1(第1EC層33)」、「EL(電解質層34)」、「EC2(第2EC層35)」、「TC2(第2透明導電層36)」、接着剤よりなる保護層37、および透明保護基板38が順次に成層されて表側EC素子31が構成され、「エレクトロクロミック層の第1のスタック(第1EC層23、電解質層24、第2EC層25)」及び「エレクトロクロミック層の第2のスタック(第1EC層33、電解質層34、第2EC層35)」は「TC1」及び「TC2」と一体的な構造をなしているから、引用発明の「素子(EC式防眩ミラー)」と、本願補正発明の「素子」とは、「第1のスタックおよび第2のスタックが、TC1/EC1/EL/EC2/TC2構造を有するエレクトロクロミックスタックである」点で一致する。

(9)上記(1)ないし(8)からみて、本願補正発明と引用発明とは、
「可変の光学および/またはエネルギー特性を有し、エレクトロクロミック層の第1のスタックと結合される導電性層を備える第1の基板と、エレクトロクロミック層の第2のスタックと結合される導電性層を備える第2の基板とを含む、電気化学的な/電気的に制御可能な素子であって、前記第1および第2のスタックが、それらの表面の少なくとも一部分の上で、前記第1および第2のスタックの両方を光が通過するように積層され、積層挿入体である電気的に絶縁する手段によって分離され、
第1および第2のスタックが、同じ供給部から電気を供給され、
電気的に絶縁する手段が、積層挿入体であって、積層挿入体のそれぞれの面が、第1および第2のスタックとそれぞれ結合される導電性層と結合され、
第1のスタックおよび第2のスタックが、TC1/EC1/EL/EC2/TC2構造を有するエレクトロクロミックスタックである、素子。」である点(以下、「一致点」という。)で一致し、次の点で相違する。

・相違点1:
「第1の基板」及び「第2の基板」が、
本願補正発明では、「キャリア基板」であるのに対し、
引用発明では、保護基板である点。

・相違点2:
「第1のスタック」及び「第2のスタック」が、
本願補正発明では、「全固体」エレクトロクロミックスタックであるのに対し、
引用発明では、「全固体」エレクトロクロミックスタックかどうかが不明である点。

5 判断
(1)上記相違点1について検討する。
ア 引用発明は、透明ガラス基板20の裏側に、第1透明導電層22、第1EC層23、電解質層24、第2EC層25、第2電極兼反射層26、接着剤よりなる保護層27、および保護基板28が順次に成層されて裏側EC素子21が構成され、前記透明ガラス基板20の表側には、第1透明導電層32、第1EC層33、電解質層34、第2EC層35、第2透明導電層36、接着剤よりなる保護層37、および透明保護基板38が順次に成層されて表側EC素子31が構成されているものであるところ、要するに、引用発明において、透明ガラス基板20の両面にエレクトロクロミック層のスタックが成層されていることから、該透明ガラス基板20が、前記スタックを支持する支持基板、すなわちキャリア基板であるとも解される。
しかしながら、引用例2の記載事項(上記3(2)イ参照。)は、ガラス又はプラスチックの如き透明支持体22、24及び40の各支持体の間に、エレクトロクロミック層のスタックを設けたものにおいて、透明支持体22及び24がエレクトロクロミック層のスタックを支持しているものを開示しており、当該透明支持体22,24はスタックの支持だけでなく保護することも明らかであるところ、当該引用例2の記載事項をも考慮すれば、引用発明の「素子(EC式防眩ミラー)」の保護基板28又は透明保護基板38は、「導電性層(第1透明導電層、第2透明導電層、第2電極兼反射層)」を保護するとともに支持しているということができる。
してみると、引用発明の保護基板28又は透明保護基板38は、「導電性層」を支持する支持基板、すなわちキャリア基板ということができるから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 仮に保護基板をキャリア基板といえないとしても、引用発明において、保護基板28又は透明保護基板38をキャリア基板となすこと、すなわち相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が引用例2の記載事項に基づいて容易になし得たことである。

(2)上記相違点2について検討する。
ア 引用発明は、ガラス基板1の上に第1電極として透明導電層2を設け、材質としては、例えばITO(インヂュウム・スズ・酸化物)、SnO_(2)が用いられ、更にその上に、還元反応によって着色するEC(例えばWO_(3)、MoO_(3))の第1EC層3、電解質層(例えばTa_(2)O_(5)、ZrO_(2)、SiO_(2))4、酸化反応によって着色するEC(例えばCr_(2)O_(3)、NiO、IrO_(2))の第2EC層5、第2電極兼反射層(材質はAl、Agなど)6が順次に成層されているものであり、電解質層が無機酸化物からなるものであるところ、本願の明細書(【0010】)に「電解質が、無機性層であるもの。このカテゴリは、用語「全固体(all solid)」システムで呼ばれることが多く」と記載されていることに照らせば、引用発明の「第1のスタック」及び「第2のスタック」は「全固体」エレクトロクロミックスタックであるといえるから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
イ 仮に引用発明の「第1のスタック」及び「第2のスタック」は「全固体」エレクトロクロミックスタックであるとはいえないとしても、上記3(3)エのとおり、本願の優先日前に、エレクトロクロミックシステムにおいて、全固体型のものは周知であるから、引用発明において、「第1のスタック」及び「第2のスタック」を「全固体」エレクトロクロミックスタックとなすこと、すなわち上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が周知技術に基づいて適宜なし得たことである。

(3)なお、審判請求人は審判請求書において、
「引用文献2は、自動車用EC(エレクトロクロミック)防眩ミラーを開示する。・・・さらに、本願請求項1に係る発明は、「電気的に絶縁する手段が、積層挿入体であって、積層挿入体のそれぞれの面が、第1および第2のスタックとそれぞれ結合される導電性層と結合され」る構成を備え、2つのエレクトロクロミック層のスタックは、積層挿入体を介してともに積層されるものである。積層挿入体上の電気接続自体は知られているが、本願請求項1に係る発明が備える上記構成の組み合わせは何ら知られていないものである。
明細書の段落0015に記載されるように、2つのエレクトロクロミック装置を並置することは米国特許第5076673号明細書から知られているが、当該米国特許は、2つの異なる独立したキャリア基板が、2つの異なる電源とともに使用されるべきであることを教示する。本願請求項1に係る発明において、2つの異なるキャリア基板が使用されるが、当該2つのキャリア基板をともに積層し、さらに積層挿入体が各スタックの頂部層の電気接続に使用されるため、本願請求項1に係る発明は、引用文献2にも米国特許第5076673号明細書にも教示されていないものである。」(審判請求書3頁23行?43行)などと主張する。
要するに、審判請求人は、本願補正発明において、「積層挿入体のそれぞれの面」と「導電性層」との「結合」が「電気接続」であると主張している。
しかしながら、上記4(7)でも言及したように、本願補正発明では、「積層挿入体」はそもそも「電気的に絶縁する手段」であるから、「積層挿入体のそれぞれの面」が「導電性層」と電気的に結合することはあり得ない。
そして、本願明細書の記載を参酌しても、「積層挿入体のそれぞれの面」と「導電性層」とが物理的に結合しているのは明らかであり、本願補正発明において、物理的な「結合」を排除したものではないから、審判請求人の前述の主張は本願補正発明の記載に基づいた主張ではない。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することはできない。

(4)本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、引用例2の記載事項の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(5)よって、本願補正発明は、当業者が引用例1に記載された発明、引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
本願補正発明は、当業者が引用例1に記載された発明、引用例2の記載事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし14に係る発明は、平成24年12月6日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項によって特定されるものであるところ、そのうち請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項2として記載したとおりのものである。

2 引用例
引用例及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」に記載したとおり、本願補正発明から、「積層挿入体」の「それぞれの面が、第1および第2のスタックとそれぞれ結合される導電性層と結合される」との限定事項、並びに、「第1のスタック」及び「第2のスタック」が「TC1/EC1/EL/EC2/TC2構造を有する「全固体」エレクトロクロミックスタックである」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、上記「第2〔理由〕4(9)」に記載した相違点1で相違する。
そして、引用発明において、相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、上記「第2〔理由〕5(1)」に記載したとおり、当業者が容易になし得たものであるから、本願発明は、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-25 
結審通知日 2015-09-01 
審決日 2015-09-14 
出願番号 特願2009-520023(P2009-520023)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣田 かおり  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 鉄 豊郎
山村 浩
発明の名称 可変の光学および/またはエネルギー特性を有するガラスタイプの電気化学的な/電気的に制御可能な素子  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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