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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1310620
審判番号 不服2014-24014  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-26 
確定日 2016-02-04 
事件の表示 特願2010-512037「有機エレクトロルミネッセンス素子」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月19日国際公開、WO2009/139475〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年 5月15日(優先権主張 平成20年 5月16日 平成20年 7月 2日)を国際出願日とする出願であって、平成25年 1月22日付けで拒絶理由が通知され、同年 3月27日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月 4日付けで拒絶理由が通知され、平成26年 2月 3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年 8月21日付けで拒絶査定がなされたところ、同年11月26日拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
平成26年11月26日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成26年 2月 3日に提出された手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲を補正しようとするものであって、その内容は次のとおりである(下線は補正に関連する箇所を示し、当審で付加したものである。)。
(1)本件補正前の請求項1
「【請求項1】
少なくとも陽極電極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び陰極電極をこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記正孔注入層が下記一般式(2)で表されるアリールアミン化合物を含有し、前記正孔輸送層が下記一般式(3)で表されるアリールアミン化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(式中、R_(12)?R_(23)は同一でも異なってもよく水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基であって、これらの置換基が同一のベンゼン環に複数個結合している場合は互いに環を形成していても良い。r_(12)?r_(23)は1?4の整数を表し、A_(1)、A_(2)、A_(3)は同一でも異なってもよく、下記構造式(B)?(F)で示される2価基、または単結合を表す。)
【化2】

(式中、n2は1?3の整数を表す。)
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

(式中、R_(24)?R_(29)は同一でも異なってもよく水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基であって、これらの置換基が同一のベンゼン環に複数個結合している場合は互いに環を形成していても良い。r_(24)?r_(29)は1?4の整数を表し、A_(4)は下記構造式(B)?(F)で示される2価基、または単結合を表す。)
【化8】

(式中、n2は1?3の整数を表す。)
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】



(2)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
少なくとも陽極電極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び陰極電極をこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記正孔注入層が下記一般式(2)で表されるアリールアミン化合物を含有し、前記正孔輸送層が下記一般式(3)で表されるアリールアミン化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

(式中、R_(12)?R_(23)は同一でも異なってもよく水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基であって、これらの置換基が同一のベンゼン環に複数個結合している場合は互いに環を形成していても良い。r_(12)?r_(23)は1?4の整数を表し、A_(1)、A_(2)、A_(3)は同一でも異なってもよく、下記構造式(B)?(F)で示される2価基、または単結合を表す。)
【化2】

(式中、n2は1?3の整数を表す。)
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

(式中、R_(24)?R_(29)は同一でも異なってもよく水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基であって、これらの置換基が同一のベンゼン環に複数個結合している場合は互いに環を形成していても良い。r_(24)?r_(29)は1?4の整数を表し、A_(4)は下記構造式(B)?(F)で示される2価基、または単結合を表す。)
【化8】

(式中、n2は1?3の整数を表す。)
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】



2 新規事項の追加の有無及び補正の目的について
(1)補正事項
本件補正は、以下の補正事項からなるものである。
ア 本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「一般式(2)で表されるアリールアミン化合物」の「同一でも異なってもよく水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基であって、これらの置換基が同一のベンゼン環に複数個結合している場合は互いに環を形成していても良い」「R_(12)?R_(23)」において、選択肢の一部を削除し、「同一でも異なってもよく水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基であって、これらの置換基が同一のベンゼン環に複数個結合している場合は互いに環を形成していても良い」「R_(12)?R_(23)」と限定する。

イ 本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「一般式(3)で表されるアリールアミン化合物」の「同一でも異なってもよく水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基であって、これらの置換基が同一のベンゼン環に複数個結合している場合は互いに環を形成していても良い」「R_(24)?R_(29)」において、選択肢の一部を削除し、「同一でも異なってもよく水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基であって、これらの置換基が同一のベンゼン環に複数個結合している場合は互いに環を形成していても良い」「R_(24)?R_(29)」と限定する。

(2)新規事項の追加の有無
ア 上記(1)ア及びイの補正事項は、「一般式(2)で表されるアリールアミン化合物」の「R_(12)?R_(23)」及び「一般式(3)で表されるアリールアミン化合物」の「R_(24)?R_(29)」において、それぞれ選択肢の一部を削除するものであるから、新規事項を追加するものではない。

イ したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされた補正であるから、特許法17条の2第3項の規定に適合する。

(3)補正の目的
上記(1)ア及びイの補正事項は、「一般式(2)で表されるアリールアミン化合物」の「R_(12)?R_(23)」及び「一般式(3)で表されるアリールアミン化合物」の「R_(24)?R_(29)」において、それぞれ選択肢の一部を削除するものであり、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、本件補正の前後で当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められるから、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件を満たすか否かの検討
本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項からなるものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(2)に記載のとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献6として引用された、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2006-278004号公報(以下「引用例」という。)には、「有機膜製造方法、有機ELパネル」(発明の名称)に関して、図面とともに、次の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。
ア 「【0019】
有機EL素子100は、バリア膜12側から陽極14/有機固体層16/陰極18とから構成されている。
・・(略)・・
【0022】
有機固体層16は、陽極14側から正孔注入層162/正孔輸送層164/発光層166/電子輸送層168とから構成されている。
【0023】
正孔注入層162は、陽極14と発光層166との間に設けられ、陽極14からの正孔の注入を促進させる層である。正孔注入層162により、有機EL素子100の駆動電圧は低電圧化することができる。また、正孔注入を安定化し素子を長寿命化するなどの役割を担ったり、陽極14の表面に形成された突起などの凹凸面を被覆し素子欠陥を減少させる、などの役割を担う場合もある。
【0024】
正孔注入層162の材質については、そのイオン化エネルギーが陽極14の仕事関数と発光層166のイオン化エネルギーの間になるように適宜選択すればよい。例えば、トリフェニルアミン4量体(TPTE)、銅フタロシアニンなどを用いることができる。
【0025】
正孔輸送層164は、正孔注入層162と発光層166の間に設けられ、正孔の輸送を促進させる層であり、正孔を発光層166まで適切に輸送する働きを持つ。
【0026】
正孔輸送層164の材質については、そのイオン化エネルギーが正孔注入層162と発光層166の間になるように適宜選択すればよい。例えば、TPD(トリフェニルアミン誘導体)を採用することができる。」

イ 上記アからみて、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「陽極/有機固体層/陰極とから構成されている有機EL素子であって、
前記有機固体層は、陽極側から正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層とから構成されているものであり、
前記正孔注入層の材質は、トリフェニルアミン4量体(TPTE)または銅フタロシアニンであり、
前記正孔輸送層の材質は、TPD(トリフェニルアミン誘導体)である、有機EL素子。」(以下「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「陽極」、「正孔注入層」、「正孔輸送層」、「発光層」、「電子輸送層」、「陰極」及び「有機EL素子」は、それぞれ本願補正発明における「陽極電極」、「正孔注入層」、「正孔輸送層」、「発光層」、「電子輸送層」、「陰極電極」及び「有機エレクトロルミネッセンス素子」に相当する。

イ 引用例には、「TPD(トリフェニルアミン誘導体)」の具体的な構造式は明示されていないが、特開2002-237384号公報の【0039】にトリフェニルアミン二量体(化合物P(TPD))として示された下記式(12)

等を参照すると、引用発明における「TPD(トリフェニルアミン誘導体)」は、本願補正発明における「一般式(3)で表されるアリールアミン化合物」(一般式(3)中、R_(24)、R_(26)、R_(27)及びR_(29)が水素原子であり、R_(25)及びR_(28)が炭素原子数1のアルキル基であり、r_(24)?r_(29)が1であり、A_(4)が単結合である。)に相当する。

ウ 引用発明において、「正孔輸送層の材質は、TPD(トリフェニルアミン誘導体)である」ものであり、上記イのとおり、引用発明における「TPD(トリフェニルアミン誘導体)」は、本願補正発明における「一般式(3)で表されるアリールアミン化合物」に相当するから、引用発明は、本願補正発明のように「正孔輸送層が一般式(3)で表されるアリールアミン化合物を含有する」ものといえる。

エ 上記アないしウから、本願補正発明と引用発明とは、
「少なくとも陽極電極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び陰極電極をこの順に有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記正孔輸送層が下記一般式(3)で表されるアリールアミン化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化7】

(式中、R_(24)?R_(29)は同一でも異なってもよく水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基であって、これらの置換基が同一のベンゼン環に複数個結合している場合は互いに環を形成していても良い。r_(24)?r_(29)は1?4の整数を表し、A_(4)は下記構造式(B)?(F)で示される2価基、または単結合を表す。)
【化8】

(式中、n2は1?3の整数を表す。)
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点:
本願補正発明においては、「正孔注入層」が「下記一般式(2)で表されるアリールアミン化合物」を含有しているのに対し、引用発明においては、「正孔注入層」の材質が、「トリフェニルアミン4量体(TPTE)」または「銅フタロシアニン」である点。
【化1】

(式中、R_(12)?R_(23)は同一でも異なってもよく水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基であって、これらの置換基が同一のベンゼン環に複数個結合している場合は互いに環を形成していても良い。r_(12)?r_(23)は1?4の整数を表し、A_(1)、A_(2)、A_(3)は同一でも異なってもよく、下記構造式(B)?(F)で示される2価基、または単結合を表す。)
【化2】

(式中、n2は1?3の整数を表す。)
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

(4)相違点の判断
ア 上記相違点について判断すると、引用発明においては、「正孔注入層」の材質が、「トリフェニルアミン4量体(TPTE)」または「銅フタロシアニン」であるところ、両材質のうち、「トリフェニルアミン4量体(TPTE)」を選択することは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ そして、引用例には、「トリフェニルアミン4量体(TPTE)」の具体的な構造式は明示されていないが、原査定の拒絶の理由において引用文献8として引用された特開2005-285471号公報の【0048】及び【0051】にトリフェニルアミンテトラマー(TPTE)の分子構造として示された下記式(3)

、特開2007-158337号公報の【0017】にTPTEとして示された下記化学式23

、特開2007-46098号公報の【0023】及び【0024】にトリフェニルアミンの4量体(TPTE)として示された下式(1)

、特開2003-317934号公報の【0103】及び【0104】にTPTEとして示された下記化2
【化2】

、上記特開2002-237384号公報の【0039】にトリフェニルアミン四量体(化合物Q(TPTE))として示された下記式(13)

、特開2008-50308号公報の【0081】及び【0082】にTPTE(triphenylamine tetramer)として示された下記式(g)

、及び、国際公開第2006/046416号の[0088]及び[0090]にトリフェニルアミン四量体(TPTE)として示された下記化学式20
化学式20:

等を参照すると、有機エレクトロルミネッセンス素子の技術分野において、正孔注入輸送材料に用いる「トリフェニルアミン4量体(TPTE)」としては、上記特開2005-285471号公報の上記式(3)、上記特開2007-158337号公報の上記化学式23、上記特開2007-46098号公報の上式(1)及び上記特開2003-317934号公報の上記化2で示される化合物と、上記特開2002-237384号公報の上記式(13)、上記特開2008-50308号公報の上記式(g)及び上記国際公開第2006/046416号の上記化学式20で示される化合物の2種類の化合物が本願の優先日前に知られており、当該2種類の化合物は、いずれも本願補正発明における「一般式(2)で表されるアリールアミン化合物」(一般式(2)中、R_(12)、R_(13)、R_(22)及びR_(23)が同一であって炭素原子数1のアルキル基または水素原子であり、R_(14)?R_(21)が水素原子であり、r_(12)?r_(23)が1であり、A_(1)、A_(2)、A_(3)が単結合である。)であるから、引用発明における「トリフェニルアミン4量体(TPTE)」は、本願補正発明における「一般式(2)で表されるアリールアミン化合物」に相当する。

ウ 請求人は平成26年11月26日付け審判請求書において、本願補正発明は正孔輸送層を100nm以上の膜厚としても駆動電圧が低く抑えられるという顕著な効果が得られる旨を主張している。

エ しかしながら、本願補正発明においては、一般式(2)で表されるアリールアミン化合物及び一般式(3)で表されるアリールアミン化合物として、非常に多数のアリールアミン化合物が含まれるところ、請求人の主張する効果が確認されたのは、本願明細書に実施例として記載された、化合物2-1、2-4、2-6、2-10または2-14からなる正孔注入層と化合物3-1からなる正孔輸送層を組み合わせた有機エレクトロルミネッセンス素子、及び、化合物2-1からなる正孔注入層と化合物3-4、3-6、3-10または3-15からなる正孔輸送層を組み合わせた有機エレクトロルミネッセンス素子のみであり、しかも、化合物が有する置換基の種類等によって、当該化合物のキャリア移動度等の物性が大きく影響を受けることは、本願の優先日前における当業者の技術常識であるから、非常に多数のアリールアミン化合物が含まれる、一般式(2)で表されるアリールアミン化合物と一般式(3)で表されるアリールアミン化合物の全ての組み合わせについて、請求人の主張する効果が得られるか否か不明であり、請求人の主張する効果を本願補正発明の効果として認めることはできない。

オ また、そもそも本願補正発明においては、正孔輸送層の膜厚について何ら特定されておらず、正孔輸送層の膜厚が100nm未満のものについても本願補正発明に含まれるから、請求人の上記主張は請求項に記載された事項に基づくものとは認められない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記「第2」での本件補正についての補正の却下の決定の結論のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、本件補正前の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に記載のとおりのものである。

2 引用例の記載事項
引用例の記載事項については、上記第2の3(2)のとおりである。

3 対比・判断
上記第2の2(1)で検討したように、本願補正発明は、本願発明の発明特定事項を限定したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、上記第2の3において検討したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-27 
結審通知日 2015-12-01 
審決日 2015-12-15 
出願番号 特願2010-512037(P2010-512037)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 佳美  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 清水 康司
本田 博幸
発明の名称 有機エレクトロルミネッセンス素子  
代理人 特許業務法人 信栄特許事務所  

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