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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1310629
審判番号 不服2015-665  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-13 
確定日 2016-02-04 
事件の表示 特願2010-245418「太陽電池モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月24日出願公開、特開2012- 99613〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年11月1日の出願であって、平成25年10月25日付けで手続補正がなされ、平成26年7月25日付けで拒絶理由が通知され、同年9月26日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、同年10月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年1月13日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年1月13日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、補正前(平成26年9月26日付け手続補正書によるもの)の特許請求の範囲の請求項1、請求項2及び請求項4を引用する請求項8につき、
「耐候層と、発電部材と、ポリカーボネート基材とがこの順に積層された太陽電池モジュールであって、前記発電部材が発電素子と発電素子基材から構成され、前記発電部材と前記ポリカーボネート基材との間に熱可塑性樹脂が積層され、」(請求項1)
「前記発電素子が薄膜太陽電池素子であり、」(請求項2)
「前記ポリカーボネート基材の厚さが、太陽電池モジュールの厚さの30?90%であり、」(請求項4)
「前記ポリカーボネート基材の厚さが0.5mm以上であることを特徴とする太陽電池モジュール。」(請求項8)
とあったものを、
「耐候層と、発電部材と、ポリカーボネート基材とがこの順に積層された太陽電池モジュールであって、
前記発電部材が薄膜太陽電池素子と発電素子基材から構成され、
前記発電部材と前記ポリカーボネート基材との間に熱可塑性樹脂が積層されており、
前記発電素子基材が金属箔、樹脂フィルム、または金属箔/樹脂フィルムの積層体であり、
前記ポリカーボネート基材の厚さが、太陽電池モジュールの厚さの40?80%であり0.7mm以上であることを特徴とする太陽電池モジュール。」
に補正する内容を含むものである(下線は請求人が付したとおりである。なお、補正前の請求項8は従属形式であったものを独立形式とした。)。

2 補正の目的
本件補正は、補正前の請求項8において、「発電素子基材」に係り、「金属箔、樹脂フィルム、または金属箔/樹脂フィルムの積層体」と特定し、さらに、「ポリカーボネート基材の厚さ」に係り、「太陽電池モジュールの厚さの30?90%であり」、「0.5mm以上であ」ったものを「太陽電池モジュールの厚さの40?80%であり0.7mm以上である」と補正して、より数値範囲を限定するものであるから、上記1の本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。
(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記1において、本件補正後のものとして記載したとおりのものと認める。

(2)引用文献の記載及び引用発明
ア 原査定における拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された引用文献である国際公開2010/048369号(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。日本語訳を記載する。なお、日本語訳は対応する公表公報の特表2012-507149号公報の記載を参照したものである。)
(ア)「Similarly, the thin film solar cells are further laminated to other encapsulant and protective layers to produce a weather resistant and environmentally robust module. Depending on the sequence in which the multi-layer deposition is carried out, the thin film solar cells may be deposited on a superstrate that ultimately serves as the incident layer in the final module, or the cells may be deposited on a substrate that ends up serving as the backing layer in the final module. Therefore, a solar cell module derived from thin film solar cells may have one of two types of construction. The first type includes, in order of position from the front sun-facing side to the back non-sun-facing side, (1 ) a solar cell layer comprising a superstrate and a layer of thin film solar cell(s) deposited thereon at the non-sun-facing side, (2) a (back) encapsulant layer, and (3) a backing layer. The second type may include, in order of position from the front sun-facing side to the back non-sun-facing side, (1 ) an incident layer, (2) a (front) encapsulant layer, (3) a solar cell layer comprising a layer of thin film solar cell(s) deposited on a substrate at the sun-facing side thereof. 」(2頁15?30行)
(同様に、薄膜太陽電池を、さらに他の封止材および保護層に積層して、環境において頑丈な耐候性のモジュールを製造する。多層蒸着を実行する順序に応じて、薄膜太陽電池を、最終モジュールにおいて最終的に入射層として用いられる表板上に蒸着するか、あるいは、セルを、最終モジュールにおいて結局裏面層として用いられる基板上に蒸着することができる。従って、薄膜太陽電池から作製される太陽電池モジュールは、2つのタイプの構造のいずれかを有することになる。第1のタイプは、太陽側の前面から非太陽側の裏面への位置的な順序で、(1)表板と、その非太陽側に蒸着された薄膜太陽電池の層とを含む太陽電池層、(2)(裏面の)封止層、および(3)裏面層を包含する。第2のタイプは、太陽側の前面から非太陽側の裏面への位置的な順序で、(1)入射層、(2)(前面の)封止層、(3)基板の太陽側に蒸着された薄膜太陽電池の層を含む太陽電池層を包含することができる。

(イ)「The solar cell module may further comprise an incident layer and/or a backing layer serving as the outermost layer or layers of the module at the sun- facing side and the non-sun-facing side of the solar cell module, respectively. The outer layers of the solar cell modules, i.e., the incident layer and the backing layer, may be derived from any suitable sheets or films. Suitable sheets may be glass or plastic sheets, such as polycarbonates, acrylics, polyacrylates, cyclic polyolefins (e.g., ethylene norbornene polymers), polystyrenes (preferably metallocene-catalyzed polystyrenes), polyamides, polyesters, fluoropolymers, or combinations of two or more thereof. In addition, metal sheets, such as aluminum, steel, galvanized steel, or ceramic plates may be utilized in forming the backing layer.
・・・途中省略・・・
Suitable film layers comprise polymers that include but are not limited to, polyesters (e.g., poly(ethylene terephthalate) and poly(ethylene naphthalate)), polycarbonate, polyolefins (e.g., polypropylene, polyethylene, and cyclic polyolefins), norbornene polymers, polystyrene (e.g., syndiotactic polystyrene), styrene-acrylate copolymers, acrylonitrile-styrene copolymers, polysulfones (e.g., polyethersulfone, polysulfone, etc.), nylons, poly(urethanes), acrylics, cellulose acetates (e.g., cellulose acetate, cellulose triacetates, etc.), cellophane, silicones, polyvinyl chlorides) (e.g., poly(vinylidene chloride)), fluoropolymers (e.g., polyvinyl fluoride, polyvinylidene fluoride, polytetrafluoroethylene, and ethylene- tetrafluoroethylene copolymers), and combinations of two or more thereof. The polymeric film may be non-oriented, or uniaxially oriented, or biaxially oriented. Some specific exemplary films that may be used in the solar cell module outer layers (e.g., the incident layer or the backing layer) include, but are limited to, polyester films (e.g., poly(ethylene terephthalate) films), fluoropolymer films (e.g., Tedlar R(丸付きRの上付き文字), Tefzel R(丸付きRの上付き文字), and Teflon R(丸付きRの上付き文字) films available from DuPont). Metal films, such as aluminum foil, may also be used as the backing layers. Further the films used in the solar cell module outer layers may be in the form of multilayer films, such a fluoropolymer/polyester/fluoropolymer ("TPT") multilayer film.」
(太陽電池モジュールは、さらに、太陽電池モジュールのそれぞれ太陽側および非太陽側における最外層となる入射層および/または裏面層を含むことができる。
太陽電池モジュールの最外層、すなわち入射層および裏面層は、任意の適切なシートまたはフィルムから形成することができる。適切なシートは、ガラス、あるいはプラスチックシート、例えば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリアクリレート、環状ポリオレフィン(例えば、エチレンノルボルネンポリマー)、ポリスチレン(好ましくはメタロセン触媒によるポリスチレン)、ポリアミド、ポリエステル、フルオロポリマー、またはこれらの2つ以上の組合せとすることができる。さらに、アルミニウム、鋼、電気めっき鋼のような金属シート、またはセラミックプレートも裏面層の形成に用いることができる。
・・・途中省略・・・
適切なフィルム層は、次のようなものを包含するがこれに限定されるわけではないポリマーを含む。すなわち、ポリエステル(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)およびポリ(エチレンナフタレート))、ポリカーボネート、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンおよび環状ポリオレフィン)、ノルボルネンポリマー、ポリスチレン(例えば、シンジオタクチックポリスチレン)、スチレン-アクリレートコポリマー、アクリロニトリル-スチレンコポリマー、ポリスルホン(例えば、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ナイロン、ポリ(ウレタン)、アクリル樹脂、セルロースアセテート(例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテートなど)、セロハン、シリコーン、ポリ(塩化ビニル)(例えば、ポリ(塩化ビニリデン))、フルオロポリマー(例えば、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンおよびエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー)、およびこれらの2つ以上の組合せである。ポリマーフィルムは、非配向または一軸配向または二軸配向のものとすることができる。太陽電池モジュールの外層(例えば、入射層または裏面層)に用いることができるフィルムのいくつかの具体的な例として、ポリエステルフィルム(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)フィルム)、フルオロポリマーフィルム(例えば、DuPontから入手できるTedlar(登録商標)、Tefzel(登録商標)およびTeflon(登録商標)フィルム)が含まれるがこれに限定されるわけではない。アルミニウム箔のような金属フィルムも裏面層として用いることができる。さらに、太陽電池モジュールの外層に用いるフィルムは、例えばフルオロポリマー/ポリエステル/フルオロポリマー(「TPT」)多層フィルムのような多層フィルムの形態のものでもよい。)

(ウ)「In a further embodiment (now referring to Figure 2), where the solar cells are derived from thin film solar cells, the solar cell module (30) may comprise, in order of position from the front sun-facing side to the back non-sun-facing side, (a) a solar cell layer (14a) comprising a superstrate (24) and a layer of thin film solar cell(s) (22) deposited thereon at the non-sun-facing side, (b) a (back) encapsulant layer (16), and (c) a backing layer (18). In such an embodiment, both the backing layer (18) and the superstrate (24) may be formed of glass sheets and the back encapsulant layer (16) may comprise the thermoplastic polymer (e.g., an acid copolymer, ionomer of an acid copolymer, or mixture thereof) as disclosed above.」
(【0066】太陽電池が薄膜太陽電池から作製される別の実施形態(この場合、図2を参照している)においては、太陽電池モジュール(30)が、太陽側の前面から非太陽側の裏面への位置的な順序で、(a)表板(24)と、その表板(24)の非太陽側の面に蒸着された薄膜太陽電池(22)の層とを含む太陽電池層(14a)、(b)(裏面の)封止層(16)、および(c)裏面層(18)を含むことができる。この実施形態においては、裏面層(18)および表板(24)を両者共ガラスシートから形成することができ、裏面封止層(16)は、上記のような熱可塑性ポリマー(例えば、酸のコポリマー、酸のコポリマーのアイオノマー、またはこれらの組合せ)を含むことができる。)

(エ)図2は次のものである。


(オ)引用発明
上記(ア)ないし(エ)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「太陽側の前面から非太陽側の裏面への位置的な順序で、表板(24)と、その表板(24)の非太陽側の面に蒸着された薄膜太陽電池(22)の層とを含む太陽電池層(14a)、裏面封止層(16)及び裏面層(18)からなるものであって、前記裏面封止層(16)は、熱可塑性ポリマーを含み、
前記表板(24)は、入射層として用いられ、
最外層の入射層及び裏面層(18)は、任意の適切なシートまたはフィルムから形成され、前記適切なシートは、ポリカーボネートとすることができ、
さらに、太陽電池モジュールの外層に用いるフィルムである表板(24)は、多層フィルムの形態のものでもよい、
太陽電池モジュール。」

イ 本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平9-92848号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0031】導電性基体上に形成された薄膜太陽電池はかなり薄くすることができる。特に薄膜太陽電池の中でもアモルファスシリコン系太陽電池は0.1mm程度の厚みまで薄くすることができる。
・・・途中省略・・・
【0045】(実施例1)本例では、図2に示したアモルファスシリコン(a-Si)系太陽電池素子を作製し、図1に示した太陽電池モジュールを形成する方法を述べる。
【0046】以下では、工程手順に従って説明する。
(1)洗浄したステンレス基板201の上に、スパッタ法で裏面反射層202としてAl層(膜厚500nm)とZnO層(膜厚500nm)を順次形成した。
【0047】(2)上記裏面反射層202の上に、半導体光活性層203として、プラズマCVD法により、SiH_(4)とPH_(3)とH_(2)の混合ガスからn型a-Si層を、SiH_(4)とH_(2)の混合ガスからi型a-Si層を、SiH_(4)とBF_(3)とH_(2)の混合ガスからp型微結晶μc-Si層を形成した。
【0048】作製した半導体光活性層203はタンデム型であり、その層構成は、n層(15nm)/i層(400nm)/p層(10nm)/n層(10nm)/i層(80nm)/p層(10nm)とした。但し、括弧内の数字は、各層の膜厚を示す。
【0049】(3)上記半導体光活性層203の上に、透明導電層204として、In_(2)O_(3)薄膜(膜厚70nm)を、O_(2)雰囲気下でInを抵抗加熱法で蒸着して形成した。
(4)上記透明導電層204には、集電電極205を、銀ペーストをスクリーン印刷機によりパターン印刷し、乾燥を行うことにより形成した。
・・・途中省略・・・
【0053】以下では、上述した太陽電池モジュールの作製方法について説明する。
(5)裏面被覆材104、充填材106、充填材保持材102、太陽電池素子103、充填材保持材102、充填材106、表面被覆材101の順に積層した。
【0054】この時、充填材保持材は太陽電池素子103よりも大きいサイズとし、積層時には長手方向の2辺が完全にはみ出しているようにした。表面被覆材には5mm厚のポリカーボネート(ユーピロン NF2000U、三菱ガス化学製)、充填材には460μm厚のEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合ポリマー、耐候性グレード、Mobay社製)裏面被覆材には5mm厚のポリカーボネート(ユーピロン NF2000U、三菱ガス化学製)、充填材保持材には127μm厚のガラス不織布(クレーンガラス230 グレードコード50-30、クレーンガラス社製)を使用した。
【0055】(6)120℃のオーブンに4時間放置したポリカーボネートをオーブンから取り出し、すぐに上記(5)のように積層した。
(7)この積層した材料を真空引きし、そして真空引きした状態で150℃のオーブンに投入した。この状態を30分間保持した後、冷却し、シースルー型太陽電池モジュールを作製した。
【0056】その結果、本例の太陽電池モジュールは、気泡残りがなく、外観が良いことが分かった。」

(イ)上記(ア)によれば、引用文献2には、下記の技術的手法(以下「引用文献2に記載の技術的手法」という。)が記載されているものと認められる。
「5mm厚のポリカーボネートの裏面被覆材104、460μm厚のEVAの充填材106、127μm厚のガラス不織布の充填材保持材102、0.1mm程度の厚みの太陽電池素子103、127μm厚のガラス不織布の充填材保持材102、460μm厚のEVAの充填材106、5mm厚のポリカーボネートの表面被覆材101の順に積層した太陽電池モジュール。」

ウ 本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-228141号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0044】
実施例3
裏面の太陽電池用基材として、PETフィルムの代わりに厚さ1mmのポリカーボネート基板を用いること以外は、実施例1と同様にして、薄膜太陽電池を得た。
得られた薄膜太陽電池モジュールは、従来品より軽量なものであった。また、電池性能については、従来品と同等であった。」

(イ)上記(ア)によれば、引用文献3には、下記の技術的手法(以下「引用文献3に記載の技術的手法」という。)が記載されているものと認められる。
「裏面の太陽電池用基材として、厚さ1mmのポリカーボネート基板を用いた薄膜太陽電池モジュール。」

エ 上記イ(イ)の「引用文献2に記載の技術的手法」及び上記ウ(イ)の「引用文献3に記載の技術的手法」によれば、本願の出願当時には、太陽電池モジュールの裏面被覆材ないし裏面の太陽電池用基材として、5mm厚のポリカーボネート及び厚さ1mmのポリカーボネート基板を用いることが周知の技術的事項であったと認められる。

オ また、上記イ(イ)の「引用文献2に記載の技術的手法」によれば、引用文献2には、「5mm厚のポリカーボネートの裏面被覆材104」の厚さの、「5mm厚のポリカーボネートの裏面被覆材104、460μm厚のEVAの充填材106、127μm厚のガラス不織布の充填材保持材102、0.1mm程度の厚みの太陽電池素子103、127μm厚のガラス不織布の充填材保持材102、460μm厚のEVAの充填材106、5mm厚のポリカーボネートの表面被覆材101の順に積層した太陽電池モジュール」の全ての厚さ(11.274mm)に対する割合を44.3%(5/11.274)とすることが記載されていたと認められる。

(3)対比・判断
ア 対比
(ア)本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「『表板(24)』及び『入射層』」、「薄膜太陽電池(22)の層」、「(熱可塑性ポリマーを含む)裏面封止層(16)」、「(ポリカーボネートのシートまたはフィルムから形成する)裏面層(18)」及び「太陽電池モジュール」は、本願補正発明の「耐候層」、「発電部材」、「熱可塑性樹脂」、「ポリカーボネート基材」及び「太陽電池モジュール」にそれぞれ相当する。

(イ)引用発明の「太陽電池モジュール」は「太陽側の前面から非太陽側の裏面への位置的な順序で、表板(24)と、その表板(24)の非太陽側の面に蒸着された薄膜太陽電池(22)の層とを含む太陽電池層(14a)、裏面封止層(16)及び裏面層(18)からなる」ものであるから、表板(24)と、薄膜太陽電池(22)の層と、裏面層(18)とがこの順に積層されているといえる。
そうすると、引用発明の「太陽側の前面から非太陽側の裏面への位置的な順序で、表板(24)と、その表板(24)の非太陽側の面に蒸着された薄膜太陽電池(22)の層とを含む太陽電池層(14a)、裏面封止層(16)及び裏面層(18)からなる」「太陽電池モジュール」は、本願補正発明の「耐候層と、発電部材と、ポリカーボネート基材とがこの順に積層された太陽電池モジュールであって、前記発電部材が薄膜太陽電池素子と発電素子基材から構成され、前記発電部材と前記ポリカーボネート基材との間に熱可塑性樹脂が積層されて」いる「太陽電池モジュール」と、「耐候層と、発電部材と、ポリカーボネート基材とがこの順に積層された太陽電池モジュールであって、前記発電部材と前記ポリカーボネート基材との間に熱可塑性樹脂が積層されて」いる点で一致する。

イ 一致点
上記ア(ア)及び(イ)によれば、本願補正発明と引用発明は、
「耐候層と、発電部材と、ポリカーボネート基材とがこの順に積層された太陽電池モジュールであって、
前記発電部材と前記ポリカーボネート基材との間に熱可塑性樹脂が積層されている太陽電池モジュール。」
である点で一致し、以下の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)本願補正発明の「発電部材」は、「薄膜太陽電池素子と発電素子基材から構成され」、「前記発電素子基材が金属箔、樹脂フィルム、または金属箔/樹脂フィルムの積層体であ」るのに対して、引用発明の「薄膜太陽電池(22)の層」は、このように特定されない点(以下「相違点1」という。)。

(イ)本願補正発明の「ポリカーボネート基材」は「厚さが、太陽電池モジュールの厚さの40?80%であり0.7mm以上である」のに対して、引用発明の「(ポリカーボネートのシートまたはフィルムから形成する)裏面層」は、厚さが特定されない点(以下「相違点2」という。)。

エ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
引用発明の表板(24)は、「太陽電池モジュールの外層に用いるフィルム」であるところ、当該表板(24)は「多層フィルムの形態のものでもよい」ものであるから、表板(24)を、多層フィルムの形態のものであって、当該「多層フィルム」の太陽側の層を、「太陽電池モジュールの外層に用いるフィルム」となし、また、当該「多層フィルム」の非太陽側の層を、「薄膜太陽電池(22)の層」が「蒸着され」る薄膜太陽電池(22)の層の基材となしてよいといえる。
また、当該「多層フィルム」は上記(2)ア(イ)の記載に照らせば、樹脂フィルムであると認められる。
そうすると、引用発明の「多層フィルムの形態」の表板(24)は、本願補正発明の耐候層に相当するものであるところ、太陽側の層と非太陽側の層から構成されるから、当該太陽側の層は特に本願補正発明の耐候層として機能する層と認められ、また、当該非太陽側の層は本願補正発明の樹脂フィルムである発電素子基材として機能する層と認められ、さらに、引用発明の「薄膜太陽電池(22)の層」と、「薄膜太陽電池(22)の層」が「蒸着され」る薄膜太陽電池(22)の層の基材をなす「多層フィルム」の非太陽側の層とから構成されるものが、本願補正発明の「薄膜太陽電池素子と発電素子基材から構成され」る「発電部材」として機能する部材と認められるから、引用発明において、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)上記相違点2について検討する。
本願の出願当時には、太陽電池モジュールの裏面被覆材ないし裏面の太陽電池用基材として、5mm厚のポリカーボネート及び厚さ1mmのポリカーボネート基板を用いることが周知の技術的事項であった(上記(2)エ)から、引用発明において、太陽電池モジュールの(ポリカーボネートのシートまたはフィルムから形成する)裏面層の厚さを0.7mm以上の適宜の厚さとなすことは、設計的事項であり、また、引用文献2には、5mm厚のポリカーボネートの裏面被覆材の厚さの、太陽電池モジュールの全ての厚さに対する割合を44.3%とすることが記載されている(上記(2)オ)。
したがって、引用発明において、(ポリカーボネートのシートまたはフィルムから形成する)裏面層の厚さを0.7mm以上の適宜の厚さとし、あわせて、太陽電池モジュールの厚さの44.3%の厚さとすることにより、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定についてのむすび
上記3の検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の各請求項に係る発明は、平成26年9月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「耐候層と、発電部材と、ポリカーボネート基材とがこの順に積層された太陽電池モジュールであって、前記発電部材が発電素子と発電素子基材から構成され、前記発電部材と前記ポリカーボネート基材との間に熱可塑性樹脂が積層されていることを特徴とする太陽電池モジュール。」

2 引用文献の記載及び引用発明
上記第2、[理由]3(2)アのとおりである。

3 対比・判断
(1)対比
上記「第2、[理由]3(3)アないしウでの検討を踏まえて、本願発明と引用発明を対比すると、本願発明の「発電部材」は、「薄膜太陽電池素子と発電素子基材から構成され」るのに対して、引用発明の「薄膜太陽電池(22)の層」は、このように特定されない点(以下「相違点3」という。)で相違し、その余の点で一致する。

(2)判断
上記相違点3について検討するに、上記「第2、[理由]3(3)エ(ア)での検討によれば、引用発明の表板(24)は、「太陽電池モジュールの外層に用いるフィルム」であるところ、当該表板(24)は「多層フィルムの形態のものでもよい」ものであるから、表板(24)を、多層フィルムの形態のものであって、当該「多層フィルム」の太陽側の層を、「太陽電池モジュールの外層に用いるフィルム」となし、また、当該「多層フィルム」の非太陽側の層を、「薄膜太陽電池(22)の層」が「蒸着され」る薄膜太陽電池(22)の層の基材となしてよいといえる。
そうすると、上記「第2、[理由]3(3)エ(ア)での検討と同様に、引用発明の「多層フィルムの形態」の表板(24)は、本願発明の耐候層に相当するものであるところ、太陽側の層と非太陽側の層から構成されるから、当該太陽側の層は特に本願発明の耐候層として機能する層と認められ、また、当該非太陽側の層は本願発明の発電素子基材として機能する層と認められ、さらに、引用発明の「薄膜太陽電池(22)の層」と、「薄膜太陽電池(22)の層」が「蒸着され」る薄膜太陽電池(22)の層の基材をなす「多層フィルム」の非太陽側の層とから構成されるものが、本願発明の「薄膜太陽電池素子と発電素子基材から構成され」る「発電部材」として機能する部材と認められるから、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。
よって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-11-30 
結審通知日 2015-12-01 
審決日 2015-12-14 
出願番号 特願2010-245418(P2010-245418)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 徹  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 松川 直樹
今浦 陽恵
発明の名称 太陽電池モジュール  
代理人 川口 嘉之  
代理人 高田 大輔  
代理人 丹羽 武司  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 下田 俊明  

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