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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1310694
審判番号 不服2014-25864  
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-18 
確定日 2016-02-03 
事件の表示 特願2013-518965「適応方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月19日国際公開、WO2012/007085、平成25年 8月 1日国内公表、特表2013-531173〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年6月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年7月15日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成25年1月11日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年3月11日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出されるとともに手続補正書が提出され、同年11月21日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月26日付けで拒絶査定がされ、同年12月18日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年12月18日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年12月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年12月18日付けの手続補正の内容
平成26年12月18日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正により補正される前の(すなわち、平成26年2月20日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載へ補正するものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
フューエルインジェクタの電気制御の適応方法であり、前記フューエルインジェクタによって燃料が計量されて内燃機関の燃焼室へ送られ、前記内燃機関の現在の作動状態がモニタされ、前記作動状態に応じて前記電気制御の適応が行われる方法であって、
‐現在の前記作動状態がそれぞれの前記燃焼室内で生じる圧力を用いてモニタされ、
‐測定された前記圧力に応じて実際仕事値が検出され、
‐検出された前記実際仕事値が、現在の前記作動状態に割り当てられている目標仕事値と比較され、
‐それぞれの前記燃焼室の現在の前記目標仕事値と実際仕事値との比較に応じて、それぞれの前記フューエルインジェクタの前記電気制御の適応が行われ、
‐前記目標仕事値と実際仕事値との比較に応じて、ノズルニードルのストロークが修正されることを特徴とする方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
フューエルインジェクタの電気制御の適応方法であり、前記フューエルインジェクタによって燃料が計量されて内燃機関の燃焼室へ送られ、前記内燃機関の現在の作動状態がモニタされ、前記作動状態に応じて前記電気制御の適応が行われる方法であって、
前記内燃機関は、燃料が計量されて直接燃焼室に送られる直噴式インジェクションシステムを備え、
前記システムはスプレーガイド式燃焼方法を採用し、前記スプレーガイド式燃焼方法において、前記燃焼室内に噴射される燃料はその少なくとも一部が点火装置の方向に移動するように噴射され、
‐現在の前記作動状態がそれぞれの前記燃焼室内で生じる圧力を用いてモニタされ、
‐測定された前記圧力に応じて実際仕事値が検出され、
‐検出された前記実際仕事値が、現在の前記作動状態に割り当てられている目標仕事値と比較され、
‐それぞれの前記燃焼室の現在の前記目標仕事値と実際仕事値との比較に応じて、それぞれの前記フューエルインジェクタの前記電気制御の適応が行われ、
‐前記目標仕事値と実際仕事値との比較に応じて、ノズルニードルのストロークが修正されることを特徴とする方法。」
(なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。)

2 本件補正の適否
2-1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「フューエルインジェクタの電気制御の適応方法であり、前記フューエルインジェクタによって燃料が計量されて内燃機関の燃焼室へ送られ、前記内燃機関の現在の作動状態がモニタされ、前記作動状態に応じて前記電気制御の適応が行われる方法であって、」という記載の次に「前記内燃機関は、燃料が計量されて直接燃焼室に送られる直噴式インジェクションシステムを備え、
前記システムはスプレーガイド式燃焼方法を採用し、前記スプレーガイド式燃焼方法において、前記燃焼室内に噴射される燃料はその少なくとも一部が点火装置の方向に移動するように噴射され」という記載を追加するものであって、「内燃機関」を「燃料が計量されて直接燃焼室に送られる直噴式インジェクションシステムを備え」たものに限定し、且つ「燃焼方法」として「燃焼室内に噴射される燃料はその少なくとも一部が点火装置の方向に移動するように噴射され」る「スプレーガイド式燃焼方法」を採用することに限定したものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものといえ、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2-2 独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、さらに検討する。

(1)引用文献1の記載等
ア 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2004-251208号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「燃料噴射システム」に関して、図面とともに概ね次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1d」という。)がある。

1a 「【0006】
【発明の目的】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、噴射系の機差のバラツキや経時変化等に係わらずに、制御装置が求める最適な噴射量を、高い精度で実際にエンジンへ噴射供給できる燃料噴射システムの提供にある。」(段落【0006】)

1b 「【0007】
【課題を解決するための手段】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段を採用する燃料噴射システムは、噴射時目標圧推定手段が燃料を噴射した場合の噴射時目標圧を求め、噴射量補正手段によって噴射時目標圧と実際の筒内圧とを比較し、両者に圧差がある場合、この圧差を無くす方向に噴射量を補正するものである。
このように、筒内圧を実際に検出して、その時の噴射量に対応して求められる噴射時目標圧と直接比較するため、実際に噴射される噴射量と、制御装置が求めた噴射量とに差がある場合、その差を高精度に検出できる。このため、高精度の噴射量補正が可能になり、制御装置が求める最適な噴射量を、高い精度で実際にエンジンへ噴射供給できる。
即ち、噴射系の機差のバラツキや経時変化等によって、実際に噴射される噴射量が、制御装置で求めた噴射量からズレる方向に変化しても、制御装置が求める最適な噴射量(狙い値)を実際にエンジンへ噴射供給できる。
このため、高い精度の空燃比制御が可能となり、燃費を極限まで向上させたり、排気ガス性能を極限まで向上させることが可能になる。」(段落【0007】)

1c 「【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、3つの実施例と変形例を用いて説明する。
[第1実施例の構成]
本発明をコモンレール式燃料噴射システムに適用した実施例を図1?図4を参照して説明する。まず、コモンレール式燃料噴射システムの構成を図1を参照して説明する。
【0015】
コモンレール式燃料噴射システムは、例えばディーゼルエンジン(以下、エンジン)1に燃料噴射を行うシステムであり、コモンレール2、インジェクタ3、サプライポンプ4、ECU5(エンジン・コントロール・ユニットの略:制御装置に相当する)等から構成される。
・・・(略)・・・
【0017】
インジェクタ3は、エンジン1の各気筒毎に搭載されて燃料を各気筒内に噴射供給するものであり、コモンレール2より分岐する複数の分岐管の下流端に接続されて、コモンレール2に蓄圧された高圧燃料を各気筒に噴射供給する燃料噴射ノズル、およびこの燃料噴射ノズル内に収容されたニードルのリフト制御を行う開弁用アクチュエータ(電磁弁、ピエゾ素子等)を搭載している。
そして、インジェクタ3の開弁用アクチュエータは、ECU5から与えられるインジェクタ開弁信号(後述する開弁信号Q1 ?Q4 )によって噴射時期および噴射量が制御されるものであり、インジェクタ開弁信号が開弁用アクチュエータに与えられることにより高圧燃料を気筒内に噴射供給し、インジェクタ開弁信号がOFF することで燃料噴射が停止するものである。
・・・(略)・・・
【0023】
[第1実施例の特徴]
従来技術の項でも説明したように、インジェクタ等の部品精度を極限まで高めたとしても、インジェクタ等の部品精度のバラツキや経時変化等によってECU5が求めた現運転状態の噴射量Qibと、実際の噴射量(実噴射量)とに差が生じる可能性がある。
この差を無くす従来の技術は、エンジン1が安定した運転状態にある時(例えばエンジン1の暖機完了後のアイドリング時)における回転数の偏差から目標噴射量のズレ量を推定し、その推定値を基に学習補正値gQiを求め、現運転状態の噴射量Qibに学習補正値gQiを反映させて目標噴射量Qiを求めるものであった。
【0024】
しかし、従来の技術では、回転数の偏差から間接的に噴射量のズレ量を推測して学習補正値gQiを求める手探りの補正技術であったため、補正精度に限界があり、高精度な補正が困難であった。
これに対し、この実施例は、実際にインジェクタ3から噴射される噴射量(実噴射量)を筒内圧として直接的に検出し、その筒内圧に基づいて現運転状態の噴射量Qibを補正することで、高精度な噴射量補正を実現するものである。この高精度な補正を実現する技術を以下に説明する。
【0025】
この実施例は、エンジン1の筒内圧を検出する筒内圧センサ26を備える。この実施例の筒内圧センサ26は、略グロープラグのような形状を呈するものであり、先端に配置されたセンサ部がエンジン1の各燃焼室内にそれぞれ挿し入れられて、各筒内圧を直接的に検出する圧力センサであり、各気筒毎の筒内圧を高い精度で監視できる。
・・・(略)・・・
【0042】
[第1実施例の効果]
この実施例のコモンレール式燃料噴射システムは、上述したように、燃料の噴射時において実際の筒内圧Pgfri(実際の噴射量に対応した値)を検出して、その時の噴射量に対応して求められる噴射時目標圧Pgfti’(ECU5が算出する噴射量に対応した値)と直接比較するため、高精度の噴射量補正が可能になる。即ち、ECU5が求める最適な噴射量(目標噴射量Qi)を、高い精度でエンジン1へ実際に噴射供給できる。
このため、噴射系の機差のバラツキや経時変化等によって、インジェクタ3から気筒内に噴射される実際の噴射量が、ECU5の求める噴射量からズレる方向にあっても、高い精度の学習補正値gQiを求め、この値によって噴射量を補正するため、ECU5が求める最適な噴射量(目標噴射量Qi)を、高い精度で実際にエンジン1へ供給できる。
この結果、高い精度の空燃比制御が可能となり、燃費を極限まで向上させたり、排気ガス性能を極限まで向上させることが可能になる。」(段落【0014】ないし【0042】)

1d 「【0063】
上記の実施例では、本発明をコモンレール式燃料噴射システムに適用した例を示したが、コモンレールを用いない燃料噴射システムに本発明を適用しても良い。つまり、ディーゼルエンジン以外の例えばガソリンエンジン等に用いられる燃料噴射システムに本発明を適用して噴射量を補正するように設けても良い。」(段落【0063】)

イ 引用文献1の記載事項
記載1aないし1d及び図面の記載から、引用文献1には、次の事項(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2j」という。)が記載されていると認める。

2a 記載1a、記載1b及び記載1cの「インジェクタ3は、エンジン1の各気筒毎に搭載されて燃料を各気筒内に噴射供給するものであり」(段落【0017】)並びに図面によると、引用文献1には、燃料を噴射供給するインジェクタ3の噴射系の機差のバラツキや経時変化等によって、実際に噴射される噴射量が、制御装置で求めた噴射量からズレる方向に変化しても、制御装置が求める最適な噴射量を実際にエンジン1へ噴射供給できるように噴射量補正する方法が記載されている。

2b 記載1b及び記載1cの「インジェクタ3は、エンジン1の各気筒毎に搭載されて燃料を各気筒内に噴射供給するものであり、コモンレール2より分岐する複数の分岐管の下流端に接続されて、コモンレール2に蓄圧された高圧燃料を各気筒に噴射供給する燃料噴射ノズル、およびこの燃料噴射ノズル内に収容されたニードルのリフト制御を行う開弁用アクチュエータ(電磁弁、ピエゾ素子等)を搭載している。
そして、インジェクタ3の開弁用アクチュエータは、ECU5から与えられるインジェクタ開弁信号(後述する開弁信号Q1 ?Q4 )によって噴射時期および噴射量が制御されるものであり、インジェクタ開弁信号が開弁用アクチュエータに与えられることにより高圧燃料を気筒内に噴射供給し、インジェクタ開弁信号がOFF することで燃料噴射が停止するものである。」(段落【0017】)並びに図面を記載事項2aとあわせてみると、引用文献1には、燃料を噴射供給するインジェクタ3によって燃料が最適な噴射量に制御されてエンジン1の気筒に供給されることが記載されている。

2c 記載1b及び記載1cの「この実施例は、エンジン1の筒内圧を検出する筒内圧センサ26を備える。この実施例の筒内圧センサ26は、略グロープラグのような形状を呈するものであり、先端に配置されたセンサ部がエンジン1の各燃焼室内にそれぞれ挿し入れられて、各筒内圧を直接的に検出する圧力センサであり、各気筒毎の筒内圧を高い精度で監視できる。」(段落【0025】)並びに図面を記載事項2a及び2bとあわせてみると、引用文献1には、エンジン1の気筒の実際の筒内圧が検出されることが記載されている。

2d 記載1b及び記載1cの「これに対し、この実施例は、実際にインジェクタ3から噴射される噴射量(実噴射量)を筒内圧として直接的に検出し、その筒内圧に基づいて現運転状態の噴射量Qibを補正することで、高精度な噴射量補正を実現するものである。この高精度な補正を実現する技術を以下に説明する。」(段落【0024】)並びに図面を記載事項2aないし2cとあわせてみると、引用文献1には、気筒の実際の筒内圧に基づいて噴射系の機差のバラツキや経時変化等によって、実際に噴射される噴射量が、制御装置で求めた噴射量からズレる方向に変化しても、制御装置が求める最適な噴射量を実際にエンジン1へ噴射供給できるように噴射量補正する方法が記載されている。

2e 記載1cの「インジェクタ3は、エンジン1の各気筒毎に搭載されて燃料を各気筒内に噴射供給するものであり、コモンレール2より分岐する複数の分岐管の下流端に接続されて、コモンレール2に蓄圧された高圧燃料を各気筒に噴射供給する燃料噴射ノズル、およびこの燃料噴射ノズル内に収容されたニードルのリフト制御を行う開弁用アクチュエータ(電磁弁、ピエゾ素子等)を搭載している。
そして、インジェクタ3の開弁用アクチュエータは、ECU5から与えられるインジェクタ開弁信号(後述する開弁信号Q1 ?Q4 )によって噴射時期および噴射量が制御されるものであり、インジェクタ開弁信号が開弁用アクチュエータに与えられることにより高圧燃料を気筒内に噴射供給し、インジェクタ開弁信号がOFF することで燃料噴射が停止するものである。」(段落【0017】)及び記載1d並びに図面を記載事項2aないし2dとあわせてみると、引用文献1には、エンジン1は、燃料が最適な噴射量に制御されて直接気筒に供給される直噴式インジェクションシステムを備えることが記載されている。

2f 記載1d及び図面を記載事項2aないし2eとあわせてみると、ガソリンエンジンが点火装置を備えることは技術常識であるから、引用文献1には、直噴式インジェクションシステムは点火装置を備えることが記載されている。

2g 記載1cの「この実施例は、エンジン1の筒内圧を検出する筒内圧センサ26を備える。この実施例の筒内圧センサ26は、略グロープラグのような形状を呈するものであり、先端に配置されたセンサ部がエンジン1の各燃焼室内にそれぞれ挿し入れられて、各筒内圧を直接的に検出する圧力センサであり、各気筒毎の筒内圧を高い精度で監視できる。」(段落【0025】)及び図面を記載事項2aないし2fとあわせてみると、引用文献1には、実際の筒内圧がそれぞれの気筒内の筒内圧を用いて検出されることが記載されている。

2h 記載1b及び記載1cの「この実施例のコモンレール式燃料噴射システムは、上述したように、燃料の噴射時において実際の筒内圧Pgfri(実際の噴射量に対応した値)を検出して、その時の噴射量に対応して求められる噴射時目標圧Pgfti’(ECU5が算出する噴射量に対応した値)と直接比較するため、高精度の噴射量補正が可能になる。即ち、ECU5が求める最適な噴射量(目標噴射量Qi)を、高い精度でエンジン1へ実際に噴射供給できる。」(段落【0042】)並びに図面を記載事項2aないし2gとあわせてみると、引用文献1には、検出された実際の筒内圧が、噴射時目標圧と比較されることが記載されている。

2i 記載1b、記載1cの「インジェクタ3は、エンジン1の各気筒毎に搭載されて燃料を各気筒内に噴射供給するものであり、コモンレール2より分岐する複数の分岐管の下流端に接続されて、コモンレール2に蓄圧された高圧燃料を各気筒に噴射供給する燃料噴射ノズル、およびこの燃料噴射ノズル内に収容されたニードルのリフト制御を行う開弁用アクチュエータ(電磁弁、ピエゾ素子等)を搭載している。
そして、インジェクタ3の開弁用アクチュエータは、ECU5から与えられるインジェクタ開弁信号(後述する開弁信号Q1 ?Q4 )によって噴射時期および噴射量が制御されるものであり、インジェクタ開弁信号が開弁用アクチュエータに与えられることにより高圧燃料を気筒内に噴射供給し、インジェクタ開弁信号がOFF することで燃料噴射が停止するものである。」(段落【0017】)及び「この実施例のコモンレール式燃料噴射システムは、上述したように、燃料の噴射時において実際の筒内圧Pgfri(実際の噴射量に対応した値)を検出して、その時の噴射量に対応して求められる噴射時目標圧Pgfti’(ECU5が算出する噴射量に対応した値)と直接比較するため、高精度の噴射量補正が可能になる。即ち、ECU5が求める最適な噴射量(目標噴射量Qi)を、高い精度でエンジン1へ実際に噴射供給できる。」(段落【0042】)並びに図面を記載事項2aないし2hとあわせてみると、引用文献1には、それぞれの気筒内の噴射時目標圧と実際の筒内圧との比較に応じて、それぞれの燃料を噴射供給するインジェクタ3の噴射系の機差のバラツキや経時変化等によって、実際に噴射される噴射量が、制御装置で求めた噴射量からズレる方向に変化しても、制御装置が求める最適な噴射量を実際にエンジン1へ噴射供給できるように噴射量補正が行われることが記載されている。

2j 記載1b、記載1cの「インジェクタ3は、エンジン1の各気筒毎に搭載されて燃料を各気筒内に噴射供給するものであり、コモンレール2より分岐する複数の分岐管の下流端に接続されて、コモンレール2に蓄圧された高圧燃料を各気筒に噴射供給する燃料噴射ノズル、およびこの燃料噴射ノズル内に収容されたニードルのリフト制御を行う開弁用アクチュエータ(電磁弁、ピエゾ素子等)を搭載している。
そして、インジェクタ3の開弁用アクチュエータは、ECU5から与えられるインジェクタ開弁信号(後述する開弁信号Q1 ?Q4 )によって噴射時期および噴射量が制御されるものであり、インジェクタ開弁信号が開弁用アクチュエータに与えられることにより高圧燃料を気筒内に噴射供給し、インジェクタ開弁信号がOFF することで燃料噴射が停止するものである。」(段落【0017】)及び「この実施例のコモンレール式燃料噴射システムは、上述したように、燃料の噴射時において実際の筒内圧Pgfri(実際の噴射量に対応した値)を検出して、その時の噴射量に対応して求められる噴射時目標圧Pgfti’(ECU5が算出する噴射量に対応した値)と直接比較するため、高精度の噴射量補正が可能になる。即ち、ECU5が求める最適な噴射量(目標噴射量Qi)を、高い精度でエンジン1へ実際に噴射供給できる。」(段落【0042】)並びに図面を記載事項2aないし2iとあわせてみると、引用文献1には、噴射時目標圧と実際の筒内圧との比較に応じて、インジェクタ3の燃料噴射ノズル内に収容されたニードルのリフト制御を行うことが記載されている。

ウ 引用発明
記載1aないし1d、記載事項2aないし2j及び図面の記載を整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「燃料を噴射供給するインジェクタ3の噴射系の機差のバラツキや経時変化等によって、実際に噴射される噴射量が、制御装置で求めた噴射量からズレる方向に変化しても、制御装置が求める最適な噴射量を実際にエンジン1へ噴射供給できるように噴射量補正する方法であり、前記燃料を噴射供給するインジェクタ3によって燃料が最適な噴射量に制御されてエンジン1の気筒に供給され、前記エンジン1の気筒の実際の筒内圧が検出され、前記気筒の実際の筒内圧に基づいて噴射系の機差のバラツキや経時変化等によって、実際に噴射される噴射量が、制御装置で求めた噴射量からズレる方向に変化しても、制御装置が求める最適な噴射量を実際にエンジン1へ噴射供給できるように噴射量補正する方法であって、
前記エンジン1は、燃料が最適な噴射量に制御されて直接気筒に供給される直噴式インジェクションシステムを備え、
前記システムは点火装置を備え、
実際の筒内圧がそれぞれの気筒内の筒内圧を用いて検出され、
検出された実際の筒内圧が、噴射時目標圧と比較され、
それぞれの前記気筒内の噴射時目標圧と実際の筒内圧との比較に応じて、それぞれの燃料を噴射供給するインジェクタ3の噴射系の機差のバラツキや経時変化等によって、実際に噴射される噴射量が、制御装置で求めた噴射量からズレる方向に変化しても、制御装置が求める最適な噴射量を実際にエンジンへ噴射供給できるように噴射量補正が行われ、
前記噴射時目標圧と実際の筒内圧との比較に応じて、インジェクタ3の燃料噴射ノズル内に収容されたニードルのリフト制御を行う方法。」

(2)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開平9-68082号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「ディーゼルエンジンの燃料噴射量制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載(以下、「引用文献2の記載」という。なお、下線は当審で付したものである。)がある。

・「【0005】
【課題を解決するための手段】このため、請求項1に係る発明では、図1(a)に示すように、ディーゼルエンジンのシリンダ内の燃焼圧力を検出する燃焼圧力検出手段と、検出される燃焼圧力に基づいてエンジンの実トルクを算出する実トルク算出手段と、エンジン運転条件に基づいてエンジンの要求トルクを算出する要求トルク算出手段と、前記実トルクが前記要求トルクに一致するように燃料噴射ポンプによる燃料噴射量をフィードバック制御する燃料噴射量フィードバック制御手段とを設けて、ディーゼルエンジンの燃料噴射量制御装置を構成する。
【0006】すなわち、シリンダ内の燃焼圧力を検出し、これに基づいてエンジンの実トルクを算出する。そして、この実トルクがエンジン運転条件に基づいて算出される要求トルクと一致するように、燃料噴射ポンプによる燃料噴射量をフィードバック制御する。このような燃料噴射量のフィードバック制御により、常に要求トルクを得ることができる。」(段落【0005】及び【0006】)

(3)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明における「燃料を噴射供給するインジェクタ3」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願補正発明における「フューエルインジェクタ」に相当し、以下、同様に、「噴射系の機差のバラツキや経時変化等によって、実際に噴射される噴射量が、制御装置で求めた噴射量からズレる方向に変化しても、制御装置が求める最適な噴射量を実際にエンジン1へ噴射供給できるように噴射量補正する方法」は「電気制御の適応方法」及び「電気制御の適応が行われる方法」に、「最適な噴射量に制御されて」は「計量されて」に、「エンジン1」は「内燃機関」に、「気筒」は「燃焼室」に、「実際の筒内圧」は「現在の作動状態」に、「基づいて」は「応じて」に、「供給される」は「送られる」に、「気筒内の筒内圧」は「燃焼室内で生じる圧力」に、「検出」は「モニタ」及び「測定」に、「インジェクタ3の燃料噴射ノズル内に収容されたニードルのリフト制御を行う」は「ノズルニードルのストロークが修正される」に、それぞれ、相当する。
また、引用発明における「前記システムは点火装置を備え」と本願補正発明における「前記システムはスプレーガイド式燃焼方法を採用し、前記スプレーガイド式燃焼方法において、前記燃焼室内に噴射される燃料はその少なくとも一部が点火装置の方向に移動するように噴射され」は、「前記システムは点火装置を備え」という限りにおいて、一致する。
さらに、引用発明における「検出された実際の筒内圧が、噴射時目標圧と比較され、
それぞれの前記気筒内の噴射時目標圧と実際の筒内圧との比較に応じて」及び「前記噴射時目標圧と実際の筒内圧との比較に応じて」と本願補正発明における「‐測定された前記圧力に応じて実際仕事値が検出され、
‐検出された前記実際仕事値が、現在の前記作動状態に割り当てられている目標仕事値と比較され、
‐それぞれの前記燃焼室の現在の前記目標仕事値と実際仕事値との比較に応じて」及び「‐前記目標仕事値と実際仕事値との比較に応じて」は、「検出された実際の値が、目標値と比較され、
それぞれの気筒内の目標値と実際の値との比較に応じて」及び「目標値と実際の値との比較に応じて」という限りにおいて、一致する。

したがって、両者は、
「フューエルインジェクタの電気制御の適応方法であり、前記フューエルインジェクタによって燃料が計量されて内燃機関の燃焼室へ送られ、前記内燃機関の現在の作動状態がモニタされ、前記作動状態に応じて前記電気制御の適応が行われる方法であって、
前記内燃機関は、燃料が計量されて直接燃焼室に送られる直噴式インジェクションシステムを備え、
前記システムは点火装置を備え、
現在の前記作動状態がそれぞれの前記燃焼室内で生じる圧力を用いてモニタされ、
検出された実際の値が、目標値と比較され、
それぞれの気筒内の目標値と実際の値との比較に応じて、それぞれの前記フューエルインジェクタの前記電気制御の適応が行われ、
前記目標値と実際の値との比較に応じて、ノズルニードルのストロークが修正される方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「前記システムは点火装置を備え」に関して、本願補正発明においては、「前記システムはスプレーガイド式燃焼方法を採用し、前記スプレーガイド式燃焼方法において、前記燃焼室内に噴射される燃料はその少なくとも一部が点火装置の方向に移動するように噴射され」であるのに対し、引用発明においては、「前記システムは点火装置を備え」である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
「検出された実際の値が、目標値と比較され、
それぞれの気筒内の目標値と実際の値との比較に応じて」及び「目標値と実際の値との比較に応じて」に関して、本願補正発明においては、「‐測定された前記圧力に応じて実際仕事値が検出され、
‐検出された前記実際仕事値が、現在の前記作動状態に割り当てられている目標仕事値と比較され、
‐それぞれの前記燃焼室の現在の前記目標仕事値と実際仕事値との比較に応じて」及び「‐前記目標仕事値と実際仕事値との比較に応じて」であるのに対し、引用発明においては、「検出された実際の筒内圧が、噴射時目標圧と比較され、
それぞれの前記気筒内の噴射時目標圧と実際の筒内圧との比較に応じて」及び「前記噴射時目標圧と実際の筒内圧との比較に応じて」である点(以下、「相違点2」という。)。

(4)相違点についての判断
そこで、相違点1及び2について、以下に検討する。

ア 相違点1について
燃焼室内に噴射される燃料はその少なくとも一部が点火装置の方向に移動するように噴射されるスプレーガイド式燃焼方法は、本願の優先日前に周知(必要であれば、下記ア-1を参照。以下、「周知技術」という。)である。
したがって、引用発明において、周知技術を適用し、システムがスプレーガイド式燃焼方法を採用するようにし、スプレーガイド式燃焼方法において、燃焼室内に噴射される燃料はその少なくとも一部が点火装置の方向に移動するように噴射されるようにして、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ア-1 特開2008-151000号公報の記載
本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2008-151000号公報には、「内燃機関」に関して、図面とともに概ね次の記載(なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。)がある。

・「【0002】
筒内噴射式の火花点火内燃機関にあっては、燃費を向上させるために、点火プラグの火花放電部の周辺に層状の混合気(以下、成層混合気と記す)を形成し、これを燃焼させる、いわゆる成層燃焼を行うことが知られている。点火プラグの近傍に成層混合気を形成する手法として、従来から、エアガイド式、スプレーガイド式、及びウォールガイド式等が知られている。
【0003】
スプレーガイド式は、点火プラグの火花放電部に向けて燃料を噴射することで、燃料噴霧による層状混合気を点火プラグの火花放電部に形成している。また、エアガイド式は、さらにスキッシュ等の筒内ガス流動を利用することで、低貫徹力の燃料噴霧を点火プラグの火花放電部に導き、ここに成層混合気を形成している。一方、ウォールガイド式は、高貫徹力の燃料噴霧を、ピストン頂面にあるキャビティ壁に沿わせることで点火プラグの火花放電部に導き、ここに成層混合気を形成している。」(段落【0002】及び【0003】)

イ 相違点2について
引用文献2の記載及び図面を整理すると、引用文献2には、検出された燃焼室内で生じる圧力に応じて実際仕事値に相当する実トルクを検出し、検出された実トルクが現在の作動状態に割り当てられている目標仕事値に相当する要求トルクと比較され、その比較に応じて燃料噴射量を制御するという技術(なお、同様の技術は周知でもある。必要であれば、下記イ-1を参照。以下、「引用技術」という。)が記載されている。
そして、引用発明及び引用技術は、燃焼室内で生じる圧力に応じて燃料噴射量を制御する技術である点で共通するから、引用発明において、引用技術を適用し、「実際の筒内圧」及び「噴射時目標圧」に代えて、「実際の筒内圧」に応じて検出される「実際仕事値」及び「現在の作動状態に割り当てられている目標仕事値」を用いるようにして、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ-1 特開2005-147025号公報の記載
本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2005-147025号公報には、「内燃機関の燃料噴射制御装置」に関して、図面とともに概ね次の記載がある。

・「【0008】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の運転状態に応じて要求トルクを決定する要求トルク決定手段と、前記要求トルクに応じて燃料噴射量を算出する燃料噴射量算出手段と、算出された燃料噴射量に応じて燃料噴射弁を駆動する燃料噴射手段とを備える内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記機関の筒内圧を検出する筒内圧検出手段と、該筒内圧検出手段の出力に応じて実トルクを算出する実トルク算出手段と、前記要求トルク及び実トルクに基づいて、逐次型統計アルゴリズムを用いて補正量を算出する補正量算出手段と、前記補正量に応じて前記燃料噴射量を補正する補正手段とを備えることを特徴とする。」(段落【0008】)

・「【0031】
また上述した実施形態では、4気筒のディーゼル内燃機関の例を示したが、これに限るものではなく、気筒数の異なるディーゼル内燃機関、あるいはガソリン内燃機関にも、本発明は適用可能である。
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。」(段落【0031】)

ウ 効果について
そして、本願補正発明を全体としてみても、本願補正発明は、引用発明、周知技術及び引用技術からみて、格別顕著な効果を奏するともいえない。

(5)むすび
したがって、本願補正発明は、引用発明、周知技術及び引用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

2-3 むすび
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明は、平成26年2月20日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)のとおりである。

2 引用文献の記載等
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である引用文献1の記載等は、上記第2[理由]2 2-2(1)のとおりであり、原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に日本国内において、頒布された刊行物である引用文献2の記載は、上記第2[理由]2 2-2(2)のとおりである。

3 対比・判断
上記第2[理由]2 2-1で検討したように、本願補正発明は本願発明の発明特定事項に限定を加えたものである。そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えた本願補正発明は、上記第2[理由]2 2-2(3)及び(4)のとおり、引用発明、周知技術及び引用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、周知技術は、本件補正により加えられた限定事項に対して引用されたものであるから、本願発明は、引用発明及び引用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
上記のとおり、本願発明は、引用発明及び引用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-02 
結審通知日 2015-09-08 
審決日 2015-09-24 
出願番号 特願2013-518965(P2013-518965)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02D)
P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 恭司竹下 和志  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
加藤 友也
発明の名称 適応方法  
代理人 赤澤 日出夫  

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