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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1311000 |
審判番号 | 不服2014-15291 |
総通号数 | 196 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-08-04 |
確定日 | 2016-02-24 |
事件の表示 | 特願2011-510047「センサー」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月26日国際公開、WO2009/141637、平成23年 8月18日国内公表、特表2011-523702〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年3月31日(パリ条約による優先権主張 2008年5月21日 英国(GB)、2008年5月22日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成25年8月29日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月27日に意見書が提出されたが、同年3月31日付けで拒絶査定がなされ、その謄本は同年4月4日に請求人に送達された。これに対し、平成26年8月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし14に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。 「焦電または圧電ポリマー基板と、該基板の表面上における透明電極層とを有する変換器、 透明電極層上におけるパリレンの層、および 変換器に固定された試薬(試薬は分析物または分析物の誘導体と結合しうる結合部位を有する)、 を含んでなる、サンプル中の分析物の検出に用いるためのセンサー。」 (当審注:例えば特開平11-218942号公報の段落【0062】に記載されているように、「パリレン」はパラキシリレンの商品名であるから、「パリレン」を「パリレン(商品名)」として、以下検討することとする。) 第3 原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶理由の概要は, 「本願発明1?14に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用例1:特開2006-522930号公報 引用例2:特開2001-233977号公報 引用例3:特開2003-202341号公報 引用例4:特開平2-147861号公報 引用例5:Kerstin Lange et al., Chemical modification of parylene C coating for SAW biosensors, Sensors and Actuators B, Vol.125, p.441-446, 2007 というものである。 ここで,「引用例1:特開2006-522930号公報」とあるのは、「特表2006-522930号公報」の誤記であることは明らかであって、請求人は、誤記に関して特段の意見は主張していないものの、意見書において「特表2006-522930号公報」に基づいて意見を述べていることから、以降、引用例1を特表2006-522930号公報とする。 第4 引用例の記載事項及び引用例に記載された発明 1 本願の優先権主張日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された「特表2006-522930号公報」(以下、「引用例」という。)には、つぎの事項が記載されている。(下線は当審により付加したもの。) (1)引用例に記載の事項 (引1-1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 一連の電磁線パルスを生じるように適合された線源と、 物質により生じたエネルギーを電気シグナルへ変換可能な焦電または圧電素子および電極を有した変換器と、 変換器により生じた電気シグナルを検出可能な検出器とを備えてなり、 該検出器が、線源からの電磁線の各パルスと電気シグナルの発生との時間遅れを測定するように適合されている、電磁線の照射で物質の非放射性崩壊により生じたエネルギーを検出するための装置。」 (引1-2)「【0008】 図1は、電磁線での物質2の照射に際する物質2の発熱に依存した、本発明による化学感知装置1を示している。図1は、物質2の存在下で化学感知装置1を示している。装置1は、電極コーティング4、5を有した焦電または圧電変換器3を含んでなる。変換器3は、好ましくは分極ポリフッ化ビニリデン膜である。電極コーティング4、5は、好ましくは、約35nmの厚さを有した酸化インジウムスズから形成されるが、導電率が低くなりすぎる1nmの下限から、光透過性が低くなりすぎる100nmの上限まで(それは95%T未満にはすべきでない)、ほぼいかなる厚さでも可能である。物質2はいずれか適切な技術を用いて圧電変換器3の近くに置かれ、ここでは上部電極コーティング4に付着して示されている。物質はいかなる適切な形でもよく、複数の物質が置ける。好ましくは、物質2は上部電極に吸着され、例えばイオン結合、水素結合またはファンデルワールス力のような分子間力でカップリングまたは結合されている。本発明の重要な特質は、光、好ましくは可視光のような電磁線源6で照射されたときに、物質2が発熱することである。光源は、例えばLEDである。光源6は適切な波長の光(例えば、補色)で物質2を照射する。理論に拘束されるつもりはないが、物質2が光を吸収して励起状態となり、次いで非放射性崩壊を生じて、図1の曲線で示されたエネルギーを発生する、と考えられている。このエネルギーは主に熱(即ち、環境中で熱運動)の形をとるが、他の形のエネルギー、例えば衝撃波も発生させてよい。しかしながら、エネルギーは変換器で検出され、電気シグナルへ変換される。本発明の装置は測定すべき具体的物質に合わせて変更されるため、非放射性崩壊で生じたエネルギーの正確な形は定める必要がないのである。別記されない限り、“熱”という用語は非放射性崩壊で生じたエネルギーを意味するためにここでは用いられている。光源6は、物質2を照射するように設置される。好ましくは、光源6は変換器3および電極4、5の下に置かれ、物質2は変換器3および電極4、5を通して照射される。光源は変換器内の内部光源でもよく、その場合に光源は誘導波系である。導波管が変換器自体でもよく、または導波管は変換器へ付着された別の層でもよい。」 (引1-3)「【実施例】 【0034】 酸化インジウムスズで被覆された分極ポリフッ化ビニリデンバイモルフを、下記例で感知装置として用いた。 【0035】 例1?4および比較例1?3では、感知装置をポリスチレン溶液で浸漬被覆し、酸化インジウムスズの上にポリスチレン層を形成した。内径5mmおよび高さ5mmの円形ポリスチレン“ワッシャー”を(感圧接着剤を用いて)ポリスチレン表面へ付着させ、感知装置の表面上に液体を有効に留められる反応ウェルを形成した。該ウェルは総容量100μL以内の液体を入れられる。反応ウェルの壁でタンパク質分子の非特異的結合を妨げるために、ポリスチレンワッシャーを牛血清アルブミン(BSA)およびTween(RTM)20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)の溶液で処理した。」 (引1-4)「【0041】 例2 ウサギ抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)免疫グロブリンG(Sigma cat.No.P7899)(IgG)のpH7.2 100mMリン酸緩衝液中1:30希釈液30μLを反応ウェル中室温で1時間インキュベートし、ポリスチレンの表面に抗体を吸着させた。次いで溶液をすすぎ、リン酸緩衝液(30μL)中牛血清アルブミン(1%)およびTween(RTM)20(0.05%)で処理して、ポリスチレン表面上の残留吸着部位を遮蔽した。ウェルを脱イオン水ですすぎ、乾燥させた。次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼ溶液(100mMリン酸緩衝液中125μg/mL)30μLを反応ウェルへ加え、1時間インキュベートし、次いですすいだ。金標識ヤギ(Fab′)2抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(British Biocell)(100mMリン酸緩衝液中1:10希釈)30μLを室温で1時間かけて加えた。次いで、ウェルを脱イオン水ですすいだ。次いで、銀エンハンサー溶液(使用直前に前混合された溶液A20μLおよび溶液B20μLからなるSigma SE-100)を反応ウェルへ加え、センサーの表面上における金属銀染色の展開を、高エネルギー青色LED(470nmで発光する)からの断続光(10Hz)を用いたセンサー膜の照射によりモニターした。センサーに生じた電圧をロックイン増幅器を用いて測定し、次いで任意のデジタルシグナルへ変換し、PCに保管する。」 (2)引用例に記載された発明 ア 段落【0008】に記載された化学感知装置1と段落【0034】以降に記載された実施例とは、ともに、(引1-1)で摘記した請求項1に係る発明を具体化したものであり、段落【0008】には、「装置1は、電極コーティング4、5を有した焦電または圧電変換器3を含んでなる。変換器3は、好ましくは分極ポリフッ化ビニリデン膜である。」と記載されていることから、段落【0034】に記載された「酸化インジウムスズで被覆された分極ポリフッ化ビニリデンバイモルフ」は、変換器であるといえる。 イ 段落【0008】に記載された化学感知装置1と段落【0034】以降に記載された実施例とは、ともに、(引1-1)で摘記した請求項1に係る発明を具体化したものであり、段落【0008】には、「電極コーティング4、5は、好ましくは、約35nmの厚さを有した酸化インジウムスズから形成されるが、導電率が低くなりすぎる1nmの下限から、光透過性が低くなりすぎる100nmの上限まで(それは95%T未満にはすべきでない)、ほぼいかなる厚さでも可能である。」と記載されていることから、段落【0034】に記載された「酸化インジウムスズ」は、透明電極であるといえる。 ウ 以上のことから、例2(引1-4)に上記ア及びイに示した事項を補足して整理すると、引用例には、つぎの発明が記載されていると認められる。 「透明電極である酸化インジウムスズで被覆された分極ポリフッ化ビニリデンバイモルフを有する変換器を用いた感知装置であって、 当該感知装置をポリスチレン溶液で浸漬被覆し、酸化インジウムスズの上にポリスチレン層を形成し、 内径5mmおよび高さ5mmの円形ポリスチレン“ワッシャー”を(感圧接着剤を用いて)ポリスチレン表面へ付着させ、感知装置の表面上に液体を有効に留められる反応ウェルを形成し、 ウサギ抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)免疫グロブリンG(Sigma cat.No.P7899)(IgG)のpH7.2 100mMリン酸緩衝液中1:30希釈液30μLを反応ウェル中室温で1時間インキュベートし、ポリスチレンの表面に抗体を吸着させ、 次いで溶液をすすぎ、リン酸緩衝液(30μL)中牛血清アルブミン(1%)およびTween(RTM)20(0.05%)で処理して、ポリスチレン表面上の残留吸着部位を遮蔽し、ウェルを脱イオン水ですすぎ、乾燥させ、 次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼ溶液(100mMリン酸緩衝液中125μg/mL)30μLを反応ウェルへ加え、1時間インキュベートし、次いですすいだ感知装置。」(以下、「引用発明」という。) 2 本願の優先権主張日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に周知技術として引用した「特開2001-233977号公報」(以下、「周知例1」という。)には、つぎの事項が記載されている。(下線は当審により付加したもの。) (1)周知例1に記載の事項 (周1-1)「【0003】本発明は固相イムノアッセイにおいて特に有用である。・・・(略)・・・」 (周1-2)「【0015】米国特許第4,980,299号に、ポリスチレンや他のプラスチックで構築された「チューブレット」の壁面に免疫反応体を吸着させることが記載されている。吸着量のばらつきが大きい原因はプラスチック表面の不純物にある。その著者は、添加剤を最小限に抑えた純度の極めて高いモノマーを使用して物品を製造すると、免疫反応体を均一に被覆することができる担体表面が得られると述べている。 【0016】 【発明が解決しようとする課題】多くの場合、支持体の製造において純粋なモノマーを使用することはできない(例、支持体の着色や不透明化のために充填剤化合物が必要な場合)。また、外部汚染源による表面汚染が避けられない状況もあり得る。さらに、吸着過程又は共有結合過程に適合しない材料から支持体を製造することが望まれる場合もあり得る。こうした場合、脱着や吸着のばらつきを抑えるのに十分な手段は、利用することができない。 【0017】 【課題を解決するための手段】上述の問題は、p-キシリレン及び/又は環ハロゲン化p-キシリレン及び/又はp-フルオロメチルキシリレンのモノマーを含む、一般にパリレンとして知られているポリマーを使用することによって解決された。支持体表面に存在する本発明のポリマーは、それに巨大分子を吸着させることができる。このように、本発明は、アナライトのアッセイを行うための表面に関係し、当該表面はパリレンで被覆されており、そこに巨大分子が吸着しており、当該巨大分子には本明細書で定義する特異的バインディングパートナーが含まれる。」 3 本願の優先権主張日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に周知技術として引用した「特開平2-147861号公報」(以下、「周知例2」という。)には、つぎの事項が記載されている。(下線は当審により付加したもの。) (1)周知例2に記載の事項 (周2-1)「(発明が解決しようとする課題) 本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、その目的の一つは、抗原、抗体又は生理活性物質を固定化して免疫反応に用いられる用途に優れた性質を有する抗体等の固相化用の担体を提供するところにある。 また本発明の別の目的は、製造が容易で、容易かつ安価に提供できる抗体等の固定化用の担体を提供するところにある。 (課題を解決するための手段) 上記目的を実現するためになされた本発明の特徴は、抗原、抗体又は生理活性物質(以下「抗体等」という)の固定化用表面に、ポリパラキシリレン又はその誘導体(以下これらを総称して「ポリパラキシリレン等」という)からなる被覆層を設けて、抗体等の固定化表面を提供するところにある。」(第3頁右上欄第7行-第3頁左下欄第4行目) (周2-2)「実施例2 (各種ろ紙(当審注:「ろ紙」の「ろ」は、さんずいに戸の漢字を表す。以下、同様である。)による免疫測定) セルロース製ろ紙(ワットマン社製、ET31)と、ガラス繊維ろ紙(ワットマン社製、GF-B)をジモノクロロパラキシリレンで0.5μmの膜厚に被覆した。被覆の条件等は実施例1と同じである。 前記の操作においてはセルロース製ろ紙を加熱することなく、ジモノクロロバラキシリレンの被膜を形成できる。 上記ポリパラキシリレン被覆ろ紙を直径6mmに打抜いたものを、抗プロゲステロン抗体を含む0.1Mリン酸緩衝液pH8.0に5時間浮遊させた。打抜き片(以下「ディスク」という)1個あたりの抗体量は10μgであった。ついで抗体溶液を捨ててから0.5%BSAを含む0.1Mリン酸緩衝液pH8.0に浮遊させ一晩放置した。 比較のためにポリパラキシリレンで被覆されていないろ紙を同様に処理した。 上記各ディスク1枚づつを試験管に入れ、プロゲステロン-アルカリ性フォスファターゼを含む0.5%BSA・ 0.1Mリン酸緩衝液pH8.0、500μl(当審注:「μl」の「l」は、筆記体の「l」を表す。以下、「ml」の「l」についても同様である。)を加え、室温で1時間反応させた。0.1%ツイーン20 (Tween20)リン酸緩衝液で3回洗浄した後、10mMパラニトロフェニルリン酸溶液pH10.0を0.5ml加えて37℃で30分間放置した。ついで、1MのEDTAを含むリン酸緩衝液を2ml加えて反応を停止させ、溶液の405nmの吸光度を測定した。 その結果を下記表1に示す。 グループ1と2の比較で、グループ1の方が高い吸光度であることは、ポリパラキシリレン被覆ろ紙が高い抗体の固定化能力をもつことを示している。また、グループ3はポリパラキシリレン処理したろ紙に抗体を結合させないでブロッキングし、グループ1、2と同様に測定したものであり、ポリパラキシリレン被覆ろ紙の非特異的吸着が極めて低いことを示している。 この結果は、ポリパラキシリレン被覆ろ紙に抗体を吸着させたものが免疫測定用の担体として好適に利用できることを示す。」(第5頁右下欄第17行-第6頁右上欄第19行目) (周2-3)表1 第5 本願発明と引用発明との対比 1 (1)引用発明の「透明電極である酸化インジウムスズ」は、「分極ポリフッ化ビニリデンバイモルフ」を「被覆する」ものであるから、本願発明の「透明電極層」に一致する。 (2)引用発明の「分極ポリフッ化ビニリデン」は、強誘電性のポリマーであって、圧電性または焦電性を有する材料であり、「酸化インジウムスズ」及び「ポリスチレン層」を介して「抗体」を吸着させるものであるから、基板であるといえる。また、引用発明の「バイモルフ」とは、2枚の圧電素子を貼り合わせた構造を意味するものであるから、引用発明の「分極ポリフッ化ビニリデンバイモルフ」は、2枚の「分極ポリフッ化ビニリデン」を貼り合わせたものである。 (3)したがって、引用発明の「透明電極である酸化インジウムスズで被覆された分極ポリフッ化ビニリデンバイモルフを有する変換器」は、本願発明の「焦電または圧電ポリマー基板と、該基板の表面上における透明電極層とを有する変換器」に一致する。 2 (1)引用発明の「ポリスチレン」と、本願発明の「パリレン(商品名)」とは、ともに「ポリマー」である点で共通する。 (2)よって、上記1(1)も踏まえると、引用発明の「酸化インジウムスズの上に」「形成」された「ポリスチレン層」と、本願発明の「透明電極層上におけるパリレン(商品名)の層」とは、「透明電極層上におけるポリマー層」という点で共通する。 3 (1)引用発明の「抗体」は、「ウサギ抗西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)免疫グロブリンG」であって、「西洋ワサビペルオキシダーゼ」と結合するものであるから、引用発明の「西洋ワサビペルオキシダーゼ」は、本願発明の「分析物」に相当する。 (2)また、引用発明の「抗体」は、「ポリスチレンの表面に」「吸着」されるものであり、「ポリスチレン」は、「酸化インジウムスズの上に」「形成」されるものである。 (3)よって、上記1(3)も踏まえると、引用発明の「ポリスチレン」を介して「酸化インジウムスズ」上に固定された「抗体」と、本願発明の「変換器に固定された試薬(試薬は分析物または分析物の誘導体と結合しうる結合部位を有する)」とは、「部材に固定された試薬(試薬は分析物と結合しうる結合部位を有する)」という点で共通する。 4 (1)引用発明の「西洋ワサビペルオキシダーゼ溶液(100mMリン酸緩衝液中125μg/mL)」は、「分析物」である「西洋ワサビペルオキシダーゼ」を含むものであるから、本願発明の「サンプル」に相当する。 (2)よって、上記1ないし3も踏まえると、引用発明の「西洋ワサビペルオキシダーゼ溶液(100mMリン酸緩衝液中125μg/mL)」中の「西洋ワサビペルオキシダーゼ」の検出に用いる「感知装置」は、本願発明の「サンプル中の分析物の検出に用いるためのセンサー」に相当する。 5 してみると、本願発明と、引用発明とは、つぎの一致点で一致し、各相違点において相違する。 <一致点> 「焦電または圧電ポリマー基板と、該基板の表面上における透明電極層とを有する変換器、 透明電極層上におけるポリマー層、および 変換器に固定された試薬(試薬は分析物と結合しうる結合部位を有する) を含んでなる、サンプル中の分析物の検出に用いるためのセンサー。」である点 <相違点> 「ポリマー層」が、本願発明においては、「パリレン(商品名)の層」であるのに対して、引用発明においては、「ポリスチレン層」である点。 第6 当審の判断 1 相違点について (1)抗体と抗原との反応を利用した免疫測定法において、抗体の固定化に用いられる担体として、パリレン(ポリパラキシリレンの商品名)を用いると、ポリスチレンに比して、吸着量を改善することができることは、上記周知例1に記載されているように、周知技術である。例えば、上記周知例1は「固相イムノアッセイ」(周1-1)に関するものであり、「ポリスチレンや他のプラスチックで構築された「チューブレット」の壁面に免疫反応体を吸着させることが記載されている。吸着量のばらつきが大きい原因はプラスチック表面の不純物にある。」(周1-2)と記載されているように、ポリスチレンには免疫反応体を吸着する際に、吸着量のばらつきの原因となる不純物があり、その問題点が「p-キシリレン及び/又は環ハロゲン化p-キシリレン及び/又はp-フルオロメチルキシリレンのモノマーを含む、一般にパリレンとして知られているポリマーを使用することによって解決された。」(周1-2)と記載されている。 このように、ポリスチレンにかえて、パリレン(商品名)を採用しようとする強い動機があるといえる。 (2)よって、引用発明において、抗体の固定化に用いられる「ポリスチレン」にかえて、上記周知技術に基づいて、パリレン(商品名)を適用することは当業者が容易に為し得るものである。 2 本願発明の効果について (1)本願発明の「強いシグナルと大きな再現性」という効果のうち、「強いシグナル」について検討する。 上記周知例2には、「抗原、抗体又は生理活性物質(以下「抗体等」という)の固定化用表面」(周2-1)に関する技術において、実験がなされ、実施例2(周2-2)において、「セルロース製ろ紙(ワットマン社製、ET31)と、ガラス繊維ろ紙(ワットマン社製、GF-B)をジモノクロロパラキシリレンで0.5μmの膜厚に被覆した。」ものと、「比較のためにポリパラキシリレンで被覆されていないろ紙を同様に処理した。」ものの比較の結果、表1(周2-3)が示されている。 そして、この結果について「グループ1と2の比較で、グループ1の方が高い吸光度であることは、ポリパラキシリレン被覆ろ紙が高い抗体の固定化能力をもつことを示している。」とポリパラキシレン、すなわち、パリレン(商品名)処理したグループ1が、未処理のグループ2より吸光度が高く、多くの抗体が固定化されていることが示されている。 このように、パリレン(商品名)の抗体固定化能力が高いことは周知の技術事項であり、抗体が多く固定化されるのであれば、上記「第6 1 相違点について」で述べたごとく、引用発明において、抗体の固定化に用いられる「ポリスチレン」にかえて、上記周知技術に基づいて、パリレン(商品名)を適用すれば、多くの抗体が固定化され、シグナルが大きくなることは予想し得ることといえる。 (2)また、「大きな再現性」という効果も、上記(周1-2)における、「第6 1(1)」で述べたように、ポリスチレンに比して、吸着量のばらつきを改善することができるという周知技術に照らし、ばらつきが抑えられれば再現性も大きくなることは予測できることである。 (3)さらに、本願発明の効果は、格別顕著なものとはいえない。 3 小括 してみると、本願発明は、本願の優先権主張日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、本願の優先権主張日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 |
審理終結日 | 2015-09-18 |
結審通知日 | 2015-09-25 |
審決日 | 2015-10-15 |
出願番号 | 特願2011-510047(P2011-510047) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 黒田 浩一 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
麻生 哲朗 藤田 年彦 |
発明の名称 | センサー |
代理人 | 浅野 真理 |
代理人 | 反町 洋 |
代理人 | 藤井 宏行 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 中村 行孝 |