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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1311070
審判番号 不服2014-24595  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-02 
確定日 2016-02-08 
事件の表示 特願2009-264927「印刷インキ用ドライヤー」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 2日出願公開、特開2011-105904〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯

本願は、平成21年11月20日の出願であって、平成25年11月19日付けの拒絶理由通知に対し、平成26年1月14日付けに意見書が提出されるとともに同日付で手続補正がなされたが、同年9月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願に係る発明について

本願に係る発明は、平成26年1月14日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
脂肪酸金属塩(A)及び下記一般式(1)
【化1】

(式中、R^(1)は炭素原子数5?11のアルキル基であり、R^(2)は炭素原子数1?3のアルキル基である。)
で表される脂肪酸エステル(B)を、含有する印刷インキ用ドライヤーであって、前記脂肪酸酸金属塩(A)と前記脂肪酸エステル(B)との配合比が質量基準で(A):(B)=70:30?10:90の範囲であることを特徴とする印刷インキ用ドライヤー。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由は、要は、
「請求項1ないし5に係る発明は、特開2004-244519号公報(引用文献1)、特開2000-351944号公報(引用文献2)、特開2007-284473号公報(引用文献3)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。」
というものである。

第4 当審の判断

(1)引用文献に記載の事項
(1-a)引用例に記載の事項
本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開2004-244519号公報(原査定の引用文献1:以下、「引用例A」という。)には、以下の記載がされている。

(a1)
「【請求項1】
一般式がR_(1)COOR_(2)(ただし、式中、R_(1)は炭素数10?18のアルキル基又はアルケニル基を表し、R_(2)は炭素数が1?4のアルキル基を表す。)で示される脂肪酸エステル及び/又は一般式がR_(3)OR_(4)(ただし、式中、R_(3)は炭素数6?22のアルキル基又はアルケニル基を表し、R_(4)は炭素数が1?22のアルキル基を表す。)で表されるエーテルと、n-ヘプタントレランスが10ml?25mlであるロジン変性フェノール樹脂とを含有し、かつ石油系溶剤を5?30%含有することを特徴とする平版印刷インキ組成物。」

(a2)
「【0002】
【従来の技術】ヒートセットオフ輪印刷は紙に転写されたインキに熱を加えることでインキ中の溶剤分を蒸発させる加熱乾燥方式である。従って、インキに使用する溶剤の沸点は低い方が乾燥性は優れており、印刷物の乾燥不良による印刷機上での擦れや結束後のブロッキングに関して優位である。一方、枚葉印刷においては空気中の酸素とインキ成分である植物油とが結合し、酸化重合皮膜を形成することで乾燥する。よって石油系溶剤の沸点よりはヨウ素化の高い植物油の方が乾燥面で有利である。
【0003】オフセットインキ業界はこれまでも地球環境や作業環境の改善に取り組んできた。従来のインキ溶剤にはその構成成分として芳香族系炭化水素が含まれていたが、現在ではパラフィン,ナフテンを主成分とした芳香族成分が1%以下のAF(アロマフリー)ソルベントの使用が一般的である。AFソルベントは低臭気,低皮膚刺激性,生分解性に優れているが、原料は従来の溶剤と同じ石油であることには変わりはない。
【0004】一方でオフセットインキには植物油成分としてアマニ油,桐油,大豆油等が用いられている。これらは乾性油,半乾性油と呼ばれるもので、インキそのものの流動性や印刷物の光沢,酸化重合による皮膜強度を維持する目的で添加されている。インキ中の石油系溶剤の全部または一部を大豆油に替えたものは大豆油インキとしてアメリカ大豆協会から認定を受けることができる。近年、環境問題,VOC規制,大豆農業振興を背景として大豆油インキが主流になりつつある。現在、枚葉インキでは揮発成分である石油系溶剤を全く含まない植物油100%のノンVOCインキが開発されている。だが加熱乾燥方式であるヒートセットオフ輪印刷においては揮発成分である石油系溶剤の一部または全てをこれらの植物油に置換することは実用上不可能であった。
特許文献1にロジン変性フェノール樹脂と植物エステルを溶剤主成分とし、従来のインキに比べてVOCを削減し、かつ高速セット性を備えた印刷インキ組成物が提案されているが、枚葉インキにおいてはセット性が十分でなくヒートセットオフ輪インキでは乾燥性が大幅に悪く実用することは不可能であった。」

(a3)
「【0009】
脂肪酸エステルに使用される脂肪酸としてはパーム核油、ヤシ油、綿実油、落花生油、パーム油、コーン油、オリーブ油、オウリキーリ、ツカン種子油、亜麻仁油、コーン油、大豆油、サフラワー油など植物油由来のものが例示でき、鯨油、鮫油、抹香鯨体油、抹香鯨脳油などの動物油由来のものも使用できる。これらの油脂由来の脂肪酸は通常複数の脂肪酸から構成されるのでカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などに分離精製し単独乃至混合して使用することがより好ましい。ヒートセットオフ輪インキとしてはR_(1)の炭素数が10?16のアルキル基又はアルケニル基である一般式がR_(1)COOR_(2)のエステルを使用することがより好ましい。乾燥性を維持する為には植物油の中でもヤシ油、パーム核油の脂肪酸エステルが好ましい。なぜならヤシ油やパーム核油の主な脂肪酸の構成成分はカプリン酸(C_(10)),ラウリン酸(C_(12)),ミリスチル酸(C_(14)),パルミチン酸(C_(16))等、他の植物油と比較し短鎖の飽和脂肪酸から成り、揮発性、臭気、溶解性、酸化安定性などの面で有利であるからである。また脂肪酸エステルのアルキル基としては炭素数1?4のメチル,エチル,プロピル,イソプロピル,ブチル,イソブチル,tert-ブチルエステル等が例示できる。アルキル基も炭素数は少ない方が揮発性は増すが、通常平版印刷に用いられるブランケットでは膨潤、ポジタイプのPS版では耐刷性不良の問題がある。
【0010】
更に、インキの乾燥性向上と臭気の低減の為には、これらの脂肪酸エステルは精製分離して臭気の原因となる低沸点物質を除去して使用するのが望ましい。本発明に係わる印刷インキ組成物で用いられるヤシ油由来の肪酸エステルとしてはラウリン酸メチルエステル,ラウリン酸イソプロピルエステル,ラウリン酸イソブチルエステルを用いるのが最も好ましい。これらは単独で、または2種以上を併用できる。これらの脂肪酸エステルは、平版印刷インキ組成物中好ましくは15?55重量%含有する。」

(a4)
「【0018】本発明のオフセットインキ組成物には必要に応じて、顔料、植物油、ゲル化剤,耐摩擦剤,ドライヤー等の印刷インキ用の添加剤を適宜使用することができる。ゲル化剤としてはアルキルアセトアセテート、アルミニウムジイソプロピレート等の一般的にアルミニウムキレートと呼ばれるもので、耐摩擦剤はポリエチレンワックス、PTFEワックス、固形パラフィンワックスが例として挙げられる。
【0019】本発明のオフセットインキ組成物を製造するには、従来公知の方法で実施することができる。一例としてロジン変性フェノール樹脂、及び植物油エステル、またはエーテル、必要に応じてゲル化剤を加え200℃前後で1時間加熱してワニスを得る。このワニスに顔料を3本ロール,ビーズミル等で練肉分散させたインキベースに耐摩擦剤等の添加剤を配合し、追加のワニスと植物油エステルまたはエーテルで調製する。」

(a5)
「【0022】
【実施例】
以下、実施例によって本発明のオフセットインキ組成物を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の記述において「部」は重量部を示す。
【0023】(ロジン変性フェノール樹脂Aの製造例)省略
【0024】(ロジン変性フェノール樹脂Bの製造例)省略
【0025】(ロジン変性フェノール樹脂Cの製造例)省略
【0026】[ワニス調製例]
(実施例ワニスAの調整)省略
【0027】(実施例ワニスBの調整)省略
【0028】(実施例ワニスCの調整)省略
【0029】(実施例ワニスDの調整)省略
【0030】(比較例ワニスEの調整)省略
【0031】(比較例ワニスFの調整)省略
【0032】(比較例ワニスGの調整)省略
【0033】(比較例ワニスHの調整)省略
以上ワニスA?Hの組成について、表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】[インキ調製例](実施例1?5)上記ワニスA?D及びフタロシアニンブルー(東洋インキ製造株式会社製 LIONOLBLUE FG7330)をそれぞれ表2に示す配合で混合した後、3本ロールで練肉して各インキベースを得た。次いで各インキベースに対し表2の配合で耐摩擦剤、金属ドライヤーなどを加え調製を行い、実施例1?5のオフセットインキ組成物を得た。尚、実施例1?3は脂肪酸エステルにおけるアルキル基部分の炭素数が異なり、4はロジン変性樹脂の溶解性が異なり、5はエーテル含有のインキ組成物である。実施例1、2、4、5はオフ輪用、3は枚葉用インキ組成物である。
【0036】(比較例1?4)上記ワニスD?F及びフタロシアニンブルー(東洋インキ製造株式会社製LIONOLBLUE FG7330)をそれぞれ表2に示す配合で混合した後、3本ロールで練肉して各インキベースを得た。次いで各インキベースに対し表2の配合で耐摩擦剤、金属ドライヤーなどを加え調製を行い、比較例1?4のオフセットインキ組成物を得た。尚、比較例6、7は夫々従来型のオフ輪、枚葉用オフセットインキ組成物である。
【0037】
【表2】

【0038】
各例で得られたインキの特性及び評価結果を表3に示した。評価測定方法は、以下の通りである。
【0039】
【表3】



(a6)
「【0047】
【発明の効果】本発明により石油系溶剤を減量し、植物油脂肪酸エステルまたはエーテルを溶剤成分として含有するが、乾燥性を始めとする印刷適性・印刷効果は従来の石油系溶剤を使用したインキとなんら遜色ない環境対応型の平版インキ組成物を提供することができる。」

(1-b)本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開2007-284473号公報(原査定の引用文献3:以下、「引用例B」という。)には、以下の記載がされている。

(b1)
「【0022】
本発明のドライヤーは、印刷インキに添加する前に、予め植物油類又は脂肪酸エステル類などの希釈剤で希釈しておくことが、取扱容易性と均一混合性の点から好ましい。印刷インキの製造は、ワニス、顔料、本発明のドライヤー、更に、必要に応じてワックス等の添加剤を三本錬肉ロール等の錬肉機で錬肉することにより行うことができる。」

(b2)
「【0027】
<実施例>
合成例1、2で得られた金属石鹸(a)、(b)及び「ネオデカン酸コバルト(コバルト含有量14%)」、「ネオデカン酸マンガン(マンガン含有量13%)」、「ナフテン酸コバルト(コバルト含有量12%)」、「ナフテン酸マンガン(マンガン含有量8%)」を用いて実施例1,2及び比較例1?3の液状ドライヤーを調整した。
実施例1(ドライヤー(Da)の調整)
ネオデカン酸コバルトホウ素金属塩(a)10%とネオデカン酸マンガンホウ素金属塩(b)30%に大豆油60%を分散させて液状ドライヤー(Da)を得た。
【0028】
実施例2(ドライヤー(Db)の調整)
ネオデカン酸コバルトホウ素金属塩(a)10%とネオデカン酸マンガン金属塩50%に大豆油40%を分散させて液状ドライヤー(Db)を得た。」

(1-c)本願出願前の脂肪酸エステル、植物油に関する周知の知見を参照するために引用する刊行物である、社団法人日本油化学会編、「油化学便覧-脂質・界面活性剤-」、丸善株式会社、2001年11月20日発行、第4版、262?264頁(以下、「参考文献」という。)には、以下の記載がされている。

(c1)




(c2)




(2)引用例記載の発明

(A)上記(a4)の【0018】に、「オフセットインキ用組成物には必要に応じて、・・耐摩耗剤,ドライヤー等の印刷インキ用の添加剤を適宜使用することができ」ることが、【0019】に、「オフセットインキ用組成物を製造するには、・・インキベースに耐摩耗剤等の添加剤を配合し、追加のワニスと植物油エステルまたはエーテルで調整する」ことが、上記(a5)の【0035】に、「上記ワニスA?D及びフタロシアニンブルー・・をそれぞれ表2に示す配合で混合した後、3本ロールで練肉して各インキベースを得た。次いで各インキベースに対し表2の配合で耐摩擦剤、金属ドライヤーなどを加え調製を行い、実施例1?5のオフセットインキ組成物を得た」ことがそれぞれ記載されている。そして、上記(a5)の【0037】の【表2】によれば、引用例Aの実施例では、ナフテン酸マンガンドライヤーが用いられている。
したがって、引用例Aには、「オフセットインキ用組成物を製造するためにインキベースに配合するナフテン酸マンガン等のドライヤー」が記載されているといえる。

(B)上記(a1)には、「一般式がR_(1)COOR_(2)(ただし、式中、R_(1)は炭素数10?18のアルキル基又はアルケニル基を表し、R_(2)は炭素数が1?4のアルキル基を表す。)で示される脂肪酸エステル・・を含有し、かつ、石油系溶剤を5?30%含有する・・平板印刷インキ組成物」(オフセット印刷インキ用組成物)が記載されているところ、当該脂肪酸エステルについて、上記(a3)の【0009】に、「乾燥性を維持する為には植物油の中でもヤシ油、パーム核油の脂肪酸エステルが好ましい。なぜならヤシ油やパーム核油の主な脂肪酸の構成成分はカプリン酸(C_(10)),ラウリン酸(C_(12)),ミリスチル酸(C_(14)),パルミチン酸(C_(16))等、他の植物油と比較し短鎖の飽和脂肪酸から成り、揮発性、臭気、溶解性、酸化安定性などの面で有利であるからである」ことが、【0010】に、「本発明に係わる印刷インキ組成物で用いられるヤシ油由来の肪酸エステルとしてはラウリン酸メチルエステル,ラウリン酸イソプロピルエステル,ラウリン酸イソブチルエステルを用いるのが最も好ましい。」ことがそれぞれ記載され、更に、上記(a5)の実施例では、脂肪酸エステルとして、具体的に、「カプリン酸エチルエステル」、「ラウリン酸イソプロピルエステル」等が用いられている。そして、脂肪酸をR^(1)CO_(2)Hで表したとき、カプリン酸はR^(1)が炭素数9のアルキル基であり、ラウリン酸はR^(1)が炭素数11のアルキル基である。〔ということは、引用例Aの請求項1の、「一般式がR_(1)COOR_(2)(ただし、式中、R_(1)は炭素数10?18のアルキル基又はアルケニル基を表し」との記載は、「式中、R_(1)は炭素数9?17のアルキル基」の誤記と解される。〕
したがって、引用例Aには、「一般式がR_(1)COOR_(2)(ただし、式中、R_(1)は炭素数9?11のアルキル基を表し、R_(2)は炭素数が1?4のアルキル基を表す。)で示される脂肪酸エステルを含有し、かつ、石油系溶剤を5?30%含有するオフセット印刷インキ用組成物」が記載されているといえる。

上記(A)、(B)の検討事項より、引用例Aには、
「一般式がR_(1)COOR_(2)(ただし、式中、R_(1)は炭素数9?11のアルキル基を表し、R_(2)は炭素数が1?4のアルキル基を表す。)で示される脂肪酸エステルを含有し、かつ、石油系溶剤を5?30%含有するオフセット印刷インキ用組成物を製造するためにインキベースに配合するナフテン酸マンガン等のドライヤー。」(以下、「引用例A記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比・判断

本願発明と引用例A記載の発明とを比較する。

○引用例A記載の発明の「ナフテン酸マンガン」は本願発明の「脂肪酸金属塩(A)」に相当する。

○引用例A記載の発明の「オフセット印刷インキ用組成物を製造するため・・のドライヤー」は本願発明の「印刷インキ用ドライヤー」に相当する。

よって、本願発明と引用例A記載の発明とは、
「脂肪酸金属塩(A)を含有する印刷インキ用ドライヤー。」である点で、一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明では、「一般式(1)
【化1】

(式中、R^(1)は炭素原子数5?11のアルキル基であり、R^(2)は炭素原子数1?3のアルキル基である。)
で表される脂肪酸エステル(B)を、脂肪酸酸金属塩(A)と脂肪酸エステル(B)との配合比が質量基準で(A):(B)=70:30?10:90の範囲で」用いることが特定されているのに対し、引用例A記載の発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点>について
引用例A記載の発明では、ドライヤーを脂肪酸エステルを用いて希釈してから用いることが特定されていないが、例えば、上記(b1)に「ドライヤーは、印刷インキに添加する前に、予め植物油類又は脂肪酸エステル類などの希釈剤で希釈しておくことが、取扱容易性と均一混合性の点から好ましい」ことが記載されているように、印刷用ドライヤーを予め脂肪酸エステル等で希釈して用いることは、本願出願前周知技術にすぎないから(この点、審判請求人も平成26年1月14日付け意見書において、『ドライヤーをインキ組成物に添加する際に「予め少量の溶剤成分に溶解させておくこと」は確かに当業者が行う操作であるかもしれません』と述べて、当該技術の周知性について否定していない。)、引用例A記載の発明の印刷インキ用ドライヤーを「インキベースに配合」し易くするために、脂肪酸エステル等で希釈しておくことは、当業者が容易になし得ることである。
そして、その際、どのような希釈液を用いるかについて検討すると、引用例A記載の発明の印刷用ドライヤーは、「一般式がR_(1)COOR_(2)(ただし、式中、R_(1)は炭素数9?11のアルキル基を表し、R_(2)は炭素数が1?4のアルキル基を表す。)で示される脂肪酸エステルを含有し、かつ、石油系溶剤を5?30%含有するオフセット印刷インキ用組成物を製造するために」用いられるものであるから、許容される溶媒は、「一般式がR_(1)COOR_(2)(ただし、式中、R_(1)は炭素数9?11のアルキル基を表し、R_(2)は炭素数が1?4のアルキル基を表す。)で示される脂肪酸エステル」と「石油系溶剤」とこれらの混合液のいずれかである。そして、上記(a2)の【0003】、【0004】に、「オフセットインキ業界はこれまでも地球環境や作業環境の改善に取り組んできた。・・現在ではパラフィン,ナフテンを主成分とした芳香族成分が1%以下のAF(アロマフリー)ソルベントの使用が一般的である。AFソルベントは低臭気,低皮膚刺激性,生分解性に優れているが、原料は従来の溶剤と同じ石油であることには変わりはない。一方でオフセットインキには植物油成分としてアマニ油,桐油,大豆油等が用いられている。これらは乾性油,半乾性油と呼ばれるもので、インキそのものの流動性や印刷物の光沢,酸化重合による皮膜強度を維持する目的で添加されている。インキ中の石油系溶剤の全部または一部を大豆油に替えたものは大豆油インキとしてアメリカ大豆協会から認定を受けることができる。近年、環境問題,VOC規制,大豆農業振興を背景として大豆油インキが主流になりつつある。現在、枚葉インキでは揮発成分である石油系溶剤を全く含まない植物油100%のノンVOCインキが開発されている。」と記載され、技術的流れが、石油系溶剤から植物油(非石油系溶剤)を用いる方向に向かってきていることが理解される。また、上記(a6)に、「本発明により石油系溶剤を減量し、植物油脂肪酸エステルまたはエーテルを溶剤成分として含有する」と記載されており、引用例A記載の発明は、石油系溶剤をできるだけ使わず、その代わりに植物油脂肪酸エステルを用いようとするものであることが理解される。そして、引用例Bには、上記(b1)に「印刷インキに添加する前に、予め植物油類又は脂肪酸エステル類などの希釈剤で希釈しておくことが、取扱容易性と均一混合性の点から好ましい」ことが記載されており、上記(b2)によれば、実施例として、具体的にはドライヤーを植物油類(大豆油)に希釈して用いる例が示されているように、本願出願前、ドライヤーを予め「植物油類又は脂肪酸エステル類」で希釈してから用いることは、公知技術でしかない。
とするならば、上記のような技術的背景を有する引用例A記載の発明において、引用例B記載の技術事項を参照し、印刷用ドライヤーを希釈するために用いる溶媒として、石油系溶剤ではなく、「一般式がR_(1)COOR_(2)(ただし、式中、R_(1)は炭素数9?11のアルキル基を表し、R_(2)は炭素数が1?4のアルキル基を表す。)で示される脂肪酸エステル」を用いることは、当業者にとって容易に想到しうる選択である。
また、その際、印刷用ドライヤーと脂肪酸エステルをどのような比率で用いるかは、脂肪酸エステルに対する印刷用ドライヤーの溶解のしやすさ等によって適宜決定しうる事項といえるところ、例えば、上記(b2)では、脂肪酸金属塩合計:植物油類または植物油脂肪酸エステル(大豆油)=40?60:60?40の配合比率で用いられていることからして、引用例A記載の発明において、希釈液として脂肪酸エステルを用いる場合も、この程度の割合で用いられるものと解される。

<効果>について
本願発明の効果の顕著性について検討すると、本願明細書の【0011】に「本発明の印刷インキ用ドライヤーは、石油系溶剤を使用せず、トルエン、キシレン等の芳香族成分を含有しないため人体への影響が低減でき、粘度が低く取り扱いが容易であり、かつ従来のドライヤーを使用したインキと同等の印刷インキ皮膜の乾燥性を維持することができる。したがって、平版印刷用インキのドライヤー(乾燥促進剤)として有用である」旨記載されている。
しかし、石油系溶剤を用いないことで人体への影響を低減することは明らかである〔例えば、特開2004-204049号公報の【0002】には、「これまで塗料や印刷インキで大量に使用されてきたベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶剤は、人体への有害物質であることから法的規制を受けてきた。そこで、これらの芳香族系有機溶剤を含まずに、エステル/アルコール系溶剤からなる、所謂、ノントル系印刷インキが求められている」ことが記載されている。〕。
また、植物油よりも脂肪酸エステルの方が粘性率(粘度)が小さく、また、脂肪酸エステル同士の場合、炭素数が少ないほど粘性率(粘度)が小さいことは技術常識であるから〔必要であれば、上記(d1)、(d2)参照。〕、炭素原子数5?11のアルキル基である脂肪酸エステルを用いた場合に、オレイン酸エステルや大豆油脂(ともに本願明細書の比較例で使用)を用いた場合と比較して、ドライヤーの粘度が低くなることは自明である。しかも、上記(a5)の【0039】【表3】を参照すると、カプリン酸イソプロピルエステルやラウリン酸イソプロピルエステルを用いている引用例Aの実施例1、2が、リノール酸イソブチルエステルを用いている実施例3よりも低粘度であることが示されているから、「粘度が低く取り扱いが容易」との効果は、引用例A記載の発明が有しているものでしかない。
さらに、引用例Aには、「カプリン酸(C_(10)),ラウリン酸(C_(12)),ミリスチル酸(C_(14)),パルミチン酸(C_(16))等、他の植物油と比較し短鎖の飽和脂肪酸から成り、揮発性・・などの面で有利であるからである」ことが記載されているが、揮発性が良好であれば、乾燥性も良好となると推測されるから、「従来のドライヤーを使用したインキと同等の印刷インキ皮膜の乾燥性を維持する」ことも予期し得ないものでない。
したがって、本願発明の効果は当業者であれば十分に予期し得た範囲である。

(4)結論
以上のとおり、本願発明は、引用例A記載の発明及び引用例B記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 まとめ

したがって、本願は、他の請求項に係る各発明につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-07 
結審通知日 2015-12-08 
審決日 2015-12-21 
出願番号 特願2009-264927(P2009-264927)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 橋本 栄和
岩田 行剛
発明の名称 印刷インキ用ドライヤー  
代理人 河野 通洋  

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