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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1311122
審判番号 不服2014-14188  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-22 
確定日 2016-02-10 
事件の表示 特願2010-115196「トナーおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日出願公開、特開2010-271715〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年 5月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年 5月20日、米国)の出願であって、平成26年 2月10日に手続補正がなされ、同年 3月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年 7月22日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明1
1 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成26年 2月10日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。
「【請求項1】
分散液の形態で、少なくとも1種の非晶性樹脂を結晶性樹脂と接触させる工程;
前記分散液を、少なくとも1種の界面活性剤と接触させて、小粒子を形成する工程;
前記小粒子を凝集させてコアを形成する工程;
前記コアを、少なくとも1種の非晶性樹脂及び少なくとも1種の帯電制御剤を含むエマルションと接触させて、前記コアを覆うシェルを形成する工程;
前記シェルを有する前記コアを合一させてトナー粒子を形成する工程;および 前記トナー粒子を回収する工程
を含む、トナーの作製方法であって、前記少なくとも1種の帯電制御剤を前記少なくとも1種の非晶性樹脂と共乳化し前記エマルションを作製する、トナーの作製方法。」(以下「本願発明1」という。)

2 刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である特開2008-40319号公報(以下「刊行物1」という。)」には、「静電荷現像用トナー及びその製造方法、静電荷現像用現像剤、画像形成方法」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、着色剤、及び離型剤を含むコア層と、該コア層を被覆し、非晶性ポリエステル樹脂を含むシェル層と、を有する静電潜像現像用トナーであって、
平均円形度が0.970以上であり、かつ算術平均高さ分布の中央値が0.005μm以上0.050μm未満であることを特徴とする静電潜像現像用トナー。
・・(略)・・
【請求項3】
請求項1に記載の静電潜像現像用トナーの製造方法であって、
第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液、着色剤を分散した着色剤分散液、離型剤を分散した離型剤分散液、及び結晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を少なくとも混合した混合分散液に、凝集剤を添加し、加熱することにより凝集粒子を形成する凝集工程と、
前記凝集粒子が形成された混合分散液に、第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を添加して、前記凝集粒子の表面に、前記第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂粒子を付着させて付着樹脂凝集粒子を形成する付着工程と、
前記付着樹脂凝集粒子を、前記第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度以上に加熱することにより融合する融合工程と、
前記融合した付着樹脂凝集粒子を、-20℃/min以上の冷却速度で急冷する冷却工程と、を有することを特徴とする静電潜像現像用トナーの製造方法。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法などにおいて、静電潜像を現像するために使用する静電潜像現像用トナー及びその製造方法、該静電潜像現像用トナーを含む静電荷像現像用現像剤、該静電潜像現像用トナーを用いる画像形成方法に関する。」

ウ 「【0016】
また、近年、電子写真法においても省エネルギー化の要求がますます高まり、複写機・プリンターにおいてもエネルギー使用量を少なくするために、より低エネルギーでトナーを定着する技術、より低温で定着し得るトナーが強く求められている。
トナーの定着温度を低くする手段としては、トナーを構成する樹脂(結着樹脂)のガラス転移温度を低くする技術が従来よリ一般的に知られている。しかし、ガラス転移温度を低くすると低温定着性に優れるが、トナー粉体の凝集(ブロッキング)が起こり易くなり、白筋・ぼた落ち・トナーこぼれ筋等の画質欠陥等が生じてしまう。
【0017】
このため実用上、従来のトナーに用いられる結着樹脂のガラス転移温度の下限値の限界は、50℃程度である。これに加えて、ガラス転移温度が50℃の結着樹脂を使用したトナーを用いた場合の最低定着温度は、定着機の種類にもよるが140℃程度が限界となっている。これに対して、最低定着温度をより下げるためにはトナーに可塑剤を使用することが挙げられる。しかし、この場合も結着樹脂のガラス転移温度を低くする技術と同様に、トナーの保存性が悪化してしまうという問題があった。
【0018】
このような問題を解決するために、ブロッキング防止と、低温定着性とを両立させる手段として、トナーを構成する結着樹脂として結晶性樹脂を用いる方法が古くから知られている(例えば、特許文献4参照)。しかし、これら技術では、使用する結晶性樹脂の融点が低すぎる為にブロッキング性に問題があったり、紙に対する定着性能が十分でないなどの問題があった。
【0019】
このため、紙に対する定着性の改善目的として、結晶性ポリエステル樹脂を用いる技術が提案されている。例えば、結着樹脂として非結晶性ポリエステル樹脂と、結晶性ポリエステル樹脂とを混合して用いたトナーが提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、この技術では結晶性ポリエステル樹脂の融点が高いために、これ以上の低温定着性は達成できないという問題があった。
【0020】
更にこれら結晶性樹脂はその結晶化度が高いために電気抵抗が低い。このため、結晶性樹脂を用いたトナーを用いて画像を形成した場合、特に高温高湿環境においては、注入かぶりや転写不良のような画質欠陥が発生する。更に、このトナーは、紙との接着性においても劣る為に、定着後に形成された画像の強度も不充分である。
これらの問題は、結晶性樹脂に対して非結晶性樹脂を混合して使用した場合でも改善することができない。即ち、トナーに用いる結着樹脂中の結晶性樹脂の比率が高い場合、低温定着性には優れるものの、耐ブロッキング性、画像強度(紙との接着性)、帯電性(抵抗)に劣り、一方、非結晶性樹脂の比率が高い場合、耐ブロッキング性、画像強度、帯電性(抵抗)は改善されるが、肝心の低温定着性は不充分となる。
以上の様に、未だ低温定着性と保存性(耐ブロッキング性)とを十分に両立させたトナーは得られていない。」

エ 「【0025】
一方、乳化重合凝集法は、粒度分布がシャープである上に、トナーの形状を球形からポテト形状まで制御できる。このため、高画質且つ安価なクリーニングシステムを使用する画像形成装置に用いるトナーとして特に最近は好んで使用されて、数多く上市されてきている。
この乳化重合凝集法は、乳化重合等の重合法により樹脂粒子の分散液を作製し、他方、溶媒に着色剤を分散させた着色剤分散液を作製し、これらを混合した後、加熱、pH制御、および/または、凝集剤の添加などにより上記の樹脂粒子と着色剤とを所望の粒子径になるまで凝集させて凝集粒子を形成し、その後、この凝集粒子を所望の粒子径まで成長させ、最後に、凝集粒子を樹脂粒子のガラス転移温度以上の温度に加熱して融合させることによりトナーを作製する方法である。
【0026】
混錬粉砕法ではなし得ることができなかった乳化重合凝集法の利点は、トナーの構造を制御する上での自由度が高いことにある。
例えば、オイルレス定着に用いるトナーには、その内部にワックス等の離型剤が含まれる。ここで、従来の混錬粉砕法で得られたトナーは、高画質化に対応するためにトナーの粒径を小さくした場合、流動性が極端に悪化し、トナー同士の凝集による黒筋・ぼた汚れなどが発生したり、トナーの供給性能が悪化し画像濃度のコントロールができなくなるなどの不具合が出てしまう。これは混練溶融物の粉砕が、マトリックス中のワックス相が分散した界面で生じる為に、得られたトナーの表面にワックス成分が多く存在しやすいためである。
これに対して、乳化重合凝集法で得られるトナーでは、離型剤を内包させる構造;すなわち離型剤を含むコア層を、結着樹脂からなるシェル層で被覆するいわゆるコアシェル構造も可能であるため、流動性の悪化等を混練粉砕法に対しては引き起こしにくくなる。
【0027】
これら乳化重合凝集法を利用して低温定着性に優れたトナーを得る試みが、数多く提案されている(例えば、特許文献9参照)。具体的には、コア層の結着樹脂として、低温定着に適したガラス転移温度の低い結着樹脂を使用し、このコア層を被覆するシェル層を構成する結着樹脂に比較的ガラス転移温度の高い結着樹脂を用いたコアシェル構造を有するトナーが提案されている。
【0028】
このコアシェル構造を有するトナーでは、コア層とシェル層とに用いる結着樹脂の種類・物性を異なるものとすることができるため、各々の層に特定の機能を分担させることが容易である。このようにトナーの構造をコアシェル構造とすることにより、トナーに求められる2以上の機能を、コア層とシェル層とに分離して分担させるという効果(以下、「機能分担効果」と称す場合がある)が得られるが、従来の混練粉砕法により作製されたような単層構造からなるトナーでは、機能分担効果を得ることは不可能である。
【0029】
従って、従来の混練粉砕法により作製されたような単層構造からなるトナーでは、例えガラス転移温度の異なる2種類の結着樹脂を用いたとしても、トナー中で両者が相溶した状態で存在するため、低温定着性と高温環境下でのトナーの保存性とを両立させることができないが、コアシェル構造を有するトナーでは低温定着性と保存性とを両立させることが容易とされていた。
【0030】
しかし、更なる環境保護/省エネルギー化、高速化に対応するために、トナーには、従来よりも更に低温で定着できる性能(低温定着性)が求められ始めている。しかしながら、前述の様な方法では低温定着性と保存性とを両立させることが困難となってきた。また、近年の高画質化、特に写真画質の様な高光沢な画質を実現するために、トナーに高光沢機能が求められている。光沢をもたせる為の一般的な手段として、トナーに使用する結着樹脂のガラス転移点や分子量を調整する方法が一般的に知られているが、低温定着を行う場合、即ち定着エネルギーが少ない場合においては、低温定着性能不十分であるが故、高光沢を得ることができないというのが現状であった。
・・(略)・・
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明は、低温定着性、高光沢な画質が得られ、優れた現像性、転写性、流動性、及び保管性を長期に渡り満足する静電潜像現像用トナー及びその製造方法、該静電潜像現像用トナーを含む静電荷像現像用現像剤、該静電潜像現像用トナーを用いる画像形成方法を提供することを目的とする。」

オ 「【0080】
-凝集工程-
まず、凝集工程で用いられる各種分散液を、所定の割合で混合して混合分散液を準備する。ここで、分散液としては、既述の非晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液(第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液)、既述の着色剤を分散した着色剤分散液、既述の離型剤を分散した離型剤分散液、及び既述の結晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液が少なくとも用いられるが、必要に応じて帯電制御剤の如く他の分散液を混合することもできる。
・・(略)・・
【0084】
第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液及び結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製は、樹脂を、水等の水系媒体中にイオン性界面活性剤、高分子酸、高分子塩基等の高分子電解質と共に分散した後、樹脂の融点以上の温度で加熱し、強い剪断力を印加可能なホモジナイザーや圧力吐出型分散機を用いて処理することにより得ることができる。また、溶剤に溶かした後、イオン性界面活性剤と水の中でホモジナイザーの様なもので分散乳化後、脱溶媒して作製することもできる。更に溶剤に溶かした後、中和処理を行った後、攪拌のもと水を添加して転相、その後脱溶剤を行う転相乳化により得る事ができる。」

カ 「【0113】
-洗浄/乾燥工程-
融合工程、冷却工程を経て得られた融合粒子は、ろ過などの固液分離や、洗浄、乾燥を実施する。これにより外添剤が添加されない状態のトナーが得られる。」

キ 「【0120】
また、上述した外添剤以外にも、内添剤、帯電制御剤、有機粒体、滑剤、研磨剤などのその他の成分(粒子)を添加させることが可能である。
内添剤としては、例えば、フェライト、マグネタイト、還元鉄、コバルト、マンガン、ニッケル等の金属、合金、またはこれら金属を含有する化合物などの磁性体などが挙げられ、トナー特性としての帯電性を阻害しない程度の量が使用できる。
【0121】
帯電制御剤としては、特に制限はないが、特にカラートナーを用いた場合、無色または淡色のものが好ましく使用できる。例えば、4級アンモニウム塩化合物、ニグロシン系化合物、アルミニウム、鉄、クロムなどの錯体からなる染料、トリフェニルメタン系顔料などが挙げられる。」

ク 上記アないしキから、刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。
「結晶性ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、着色剤、及び離型剤を含むコア層と、該コア層を被覆し、非晶性ポリエステル樹脂を含むシェル層と、を有し、
平均円形度が0.970以上であり、かつ算術平均高さ分布の中央値が0.005μm以上0.050μm未満である静電潜像現像用トナーの製造方法であって、
第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液、着色剤を分散した着色剤分散液、離型剤を分散した離型剤分散液、及び結晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を少なくとも混合した混合分散液に、凝集剤を添加し、加熱することにより凝集粒子を形成する凝集工程と、
前記凝集粒子が形成された混合分散液に、第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を添加して、前記凝集粒子の表面に、前記第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂粒子を付着させて付着樹脂凝集粒子を形成する付着工程と、
前記付着樹脂凝集粒子を、前記第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度以上に加熱することにより融合する融合工程と、
前記融合した付着樹脂凝集粒子を、-20℃/min以上の冷却速度で急冷する冷却工程と、
前記融合工程、冷却工程を経て得られた融合粒子に、ろ過などの固液分離や、洗浄、乾燥を実施することによりトナーを得る洗浄/乾燥工程と、を有し、
前記凝集工程においては、必要に応じて帯電制御剤の如く他の分散液を混合することができ、前記第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液及び前記結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液の調製は、樹脂を、溶剤に溶かした後、イオン性界面活性剤と水の中でホモジナイザーの様なもので分散乳化後、脱溶媒して作製する静電潜像現像用トナーの製造方法。」(以下「引用発明1」という。)

(2)原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-209212号公報(以下「刊行物2」という。)」には、「静電荷現像用トナー及びその製造方法」(発明の名称)に関して以下の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも樹脂粒子が分散されてなる分散液中で凝集粒子を形成させ、次いで凝集粒子を構成樹脂のガラス転移点(Tg)より20?80℃高い温度に加熱し、融着させてトナー粒子を形成させ、更にその表面に樹脂微粒子を付着させ、カプセルトナーを形成することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。
・・(略)・・
【請求項7】 トナー粒子表面に樹脂微粒子に加えて更に帯電制御剤を付着させる請求項1ないし6のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。」

イ 「【0031】また、トナー粒子表面に樹脂微粒子を付着させてカプセルトナーを形成する方法については、一般に知られている方法をとることができるが、各々の表面荷電が異なるように乳化剤等を選択し、加熱、pH調整、塩添加等の処理によって行う方法が好ましい。この際、樹脂微粒子の凝集が起こらないような条件にすることが均一に分散して付着するため好ましい。pHの値は、使用する乳化剤の種類、量、目標とするトナーの粒径によって変わるため一義的には定義できないが、樹脂粒子の乳化又は乳化重合の際にアニオン系界面活性剤を主として用いる場合は、カプセルトナーを形成する工程を酸性条件下で行うことが好ましい。
・・(略)・・
【0033】このようにして製造されたカプセルトナーは、濾過、洗浄、乾燥してトナー粒子として得られる。ここで、高画質なトナーを得るためには体積平均粒径が3?9μmであることが好ましく、特に4?8μmであることが好ましい。また、体積平均粒径/個数平均粒径は1.01?1.25であることが好ましく、特に1.01?1.20であることが好ましい。更に、樹脂微粒子を付着させる工程時に同時に帯電制御剤を付着させることが、得られるトナーの帯電性及び帯電安定性を向上させるため好ましい。この際、帯電制御剤は乳化分散して用いる。本発明で用いられる帯電制御剤の乳酸分散液は、主として水中に帯電制御剤を乳化分散したものである。乳化分散した帯電制御剤を用いることで、粒径の制御された帯電制御剤を均一に分散して付着することができる。このような制御は、粉末で外添するような場合、即ち、乾式では不可能である。
【0034】帯電制御剤としては、公知の任意のものを単独ないしは併用して用いることができる。カラートナー適応性(帯電制御剤自体が無色ないしは淡色でトナーへの色調障害がないこと)を勘案すると、正荷電性としては四級アンモニウム塩化合物が、負荷電性としてはサリチル酸もしくはアルキルサリチル酸のクロム、亜鉛、アルミニウム等との金属塩、金属錯体や、ベンジル酸の金属塩、金属錯体、アミド化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物、フェノールアミド化合物等が好ましい。例えばこれらの帯電制御剤を乳化剤等を用いて乳化分散液とする。乳化剤としては、例えば上記のようなものが用いられる。これらの中でアニオン系及び/又はノニオン系界面活性剤が好ましい。これらを用いた場合、帯電制御剤が付着しやすく、得られるトナーの帯電性及び帯電安定性が良好となる。」

ウ 上記アおよびイから、刊行物2には、
「トナー粒子表面に樹脂微粒子を付着させてカプセルトナーを形成する方法について、樹脂粒子の乳化又は乳化重合を行うとともに、
乳化分散した帯電制御剤を用いることで、粒径の制御された帯電制御剤を均一に分散して付着することができ、
樹脂微粒子を付着させる工程時に同時に帯電制御剤を付着させることが、得られるトナーの帯電性及び帯電安定性を向上させるため好ましいこと」(以下「刊行物2の記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

3 対比
(1)引用発明1の「第1の非晶性ポリエステル樹脂」、「結晶性ポリエステル樹脂」、「イオン性界面活性剤」、「コア層」、「シェル層」及び「トナー」は、それぞれ、本願発明1の「非晶性樹脂」、「結晶性樹脂」、「界面活性剤」、「コア」、「シェル」及び「トナー粒子」に相当する。

(2)引用発明1の「凝集工程」においては、「第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液、着色剤を分散した着色剤分散液、離型剤を分散した離型剤分散液、及び結晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を少なくとも混合」して「混合分散液」を調製しており、当該「混合分散液」において、分散液の形態で、「第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子」と「結晶性ポリエステル樹脂粒子」が接触していることは明らかであるので、引用発明1の「凝集工程」は、本願発明1における「分散液の形態で、少なくとも1種の非晶性樹脂を結晶性樹脂と接触させる工程」を有しているといえる。

(3)引用発明1の「凝集工程」において、「第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液」及び「結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液」の調製は、「樹脂を、溶剤に溶かした後、イオン性界面活性剤と水の中でホモジナイザーの様なもので分散乳化後、脱溶媒して作製する」ものであるので、「第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液」、「結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液」、及び、「第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液、着色剤を分散した着色剤分散液、離型剤を分散した離型剤分散液、及び結晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を少なくとも混合した混合分散液」は、イオン性界面活性剤と接触して「第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子」及び「結晶性ポリエステル樹脂粒子」を形成しているものであり、引用発明1の「凝集工程」は、本願発明1における「分散液を、少なくとも1種の界面活性剤と接触させて、小粒子を形成する工程」を有しているといえる。

(4)引用発明1の「凝集工程」においては、「第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液、着色剤を分散した着色剤分散液、離型剤を分散した離型剤分散液、及び結晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した結晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を少なくとも混合した混合分散液に、凝集剤を添加し、加熱する」ことにより「凝集粒子」を形成しており、引用発明1の「静電潜像現像用トナー」は、「結晶性ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、着色剤、及び離型剤を含むコア層」を有するものであるから、「凝集粒子」は「コア層」となるものと認められるので、引用発明1の「凝集工程」は、本願発明1における「小粒子を凝集させてコアを形成する工程」を有しているといえる。

(5)引用発明1の「付着工程」は、「凝集粒子が形成された混合分散液に、第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂粒子を分散した第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液を添加して、前記凝集粒子の表面に、前記第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂粒子を付着させて付着樹脂凝集粒子を形成する」ものであり、「第1の非晶性ポリエステル樹脂粒子分散液」の調製は、「樹脂を、溶剤に溶かした後、イオン性界面活性剤と水の中でホモジナイザーの様なもので分散乳化後、脱溶媒して作製する」ものであるところ、引用発明1の「静電潜像現像用トナー」は、「非晶性ポリエステル樹脂を含むシェル層」を有するものであるので、引用発明1の「付着工程」は、本願発明1と「コアを、少なくとも1種の非晶性樹脂を含むエマルションと接触させて、前記コアを覆うシェルを形成する工程を含み、前記少なくとも1種の非晶性樹脂を乳化し前記エマルションを作製する」点で一致する。

(6)引用発明1の「付着樹脂凝集粒子」は、本願発明1の「シェルを有するコア」に相当し、引用発明1の「融合工程」は、「付着樹脂凝集粒子を、第1又は第2の非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移温度以上に加熱することにより融合」させて「融合した付着樹脂凝集粒子」を形成する工程であるところ、本願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)の【0064】には、「所望の粒子サイズへの凝集および上記シェル樹脂の付与後、粒子を所望の最終的な形状へと合一させてよく、該合一は、例えば混合物を好適な温度に加熱することで達成される。この温度は、或る実施形態では、コアに使用する結晶性ポリエステル樹脂の融解開始点(onset melting point)より約0?約50℃高くてよく、別の実施形態ではコアに使用する結晶性ポリエステル樹脂の融解開始点より約5?約30℃高くてもよい。」との記載があり、本願発明1における「合一」の技術的意味は、「加熱して融合させる」ことであると認められるので、引用発明1における「融合工程」は、本願発明1における「シェルを有するコアを合一させてトナー粒子を形成する工程」に相当する。

(7)引用発明1の「洗浄/乾燥工程」は、「融合工程、冷却工程を経て得られた融合粒子に、ろ過などの固液分離や、洗浄、乾燥を実施することによりトナーを得る」ものであるので、本願発明1における「トナー粒子を回収する工程」に相当する。

(8)上記(1)ないし(7)から、本願発明1と引用発明1とは、
「分散液の形態で、少なくとも1種の非晶性樹脂を結晶性樹脂と接触させる工程;
前記分散液を、少なくとも1種の界面活性剤と接触させて、小粒子を形成する工程;
前記小粒子を凝集させてコアを形成する工程;
前記コアを、少なくとも1種の非晶性樹脂を含むエマルションと接触させて、前記コアを覆うシェルを形成する工程;
前記シェルを有する前記コアを合一させてトナー粒子を形成する工程;および 前記トナー粒子を回収する工程
を含む、トナーの作製方法であって、前記少なくとも1種の非晶性樹脂を乳化し前記エマルションを作製する、トナーの作製方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
「コアを覆うシェルを形成する工程」において、本願発明1では、コアを、少なくとも1種の非晶性樹脂及び少なくとも1種の帯電制御剤を含むエマルションと接触させており、少なくとも1種の帯電制御剤を少なくとも1種の非晶性樹脂と共乳化しエマルションを作製しているのに対し、引用発明1では、そのような特定がなされていない点。

4 判断
(1)刊行物1の【0080】に、凝集工程で用いられる各種分散液として、必要に応じて帯電制御剤の如く他の分散液を混合することができる旨が記載されていることからも分かるように、トナー粒子に帯電制御剤を含有させることは、本願の優先日前に一般的に行われていたことである。

(2)刊行物2の記載事項(上記第2 2(2)ウ参照。)は、カプセルトナーを製造する際に、トナー粒子表面に付着させる樹脂微粒子及び帯電制御剤を乳化して同時に付着させることにより、得られるトナーの帯電性及び帯電安定性を向上させるものである。

(3)トナーの帯電性及び帯電安定性の向上は、トナーの技術分野において本願の優先日前における周知の課題であり、引用発明1において、トナーの耐電性及び帯電安定性を向上させるために、刊行物2の記載事項に基づいて、非晶性樹脂だけでなく帯電制御剤も乳化して同時に付着させてコアを覆うシェルを形成することは、当業者が容易になし得たことである。

(4)本願発明1における「共乳化」について、本願の当初明細書においては、明確に定義されていないところ、請求人は平成26年 7月22日に提出された審判請求書の7頁20?23行において、「本願発明における「共乳化」は、本願明細書段落[0055]及び、実施例にあるように、帯電制御剤および樹脂を有機溶媒に溶解した後、均質化しながら脱イオン水に入れて、転相乳化し、前記有機溶媒を除去して水性乳化物を得ることをいう。」と主張しているが、本願の当初明細書の【0011】には、「溶媒フラッシュ法または転相法を用いて帯電制御剤と非晶性シェル樹脂とを共乳化した後で、溶媒を蒸発させてもよい。」と記載されており、当該記載から、「共乳化」とは、少なくとも「溶媒フラッシュ法または転相法を用いて複数の材料を同時に乳化すること」を包含する概念であると認めることができるものの、請求人が主張するような限定解釈を行うことはできない。

(5)そして、上記第2 4(2)に記載のとおり、刊行物2の記載事項は、樹脂微粒子及び帯電制御剤を乳化して同時に付着させるというものであり、また、転相法を用いて樹脂と帯電制御剤を同時に乳化する、すなわち、転相法を用いて帯電制御剤を樹脂と共乳化することは、特開平5-66600号公報の【請求項2】、【請求項8】、【0087】、【0088】、特開平10-293419号公報の【請求項2】、【0119】、【0120】、特開2008-89918号公報の【0127】?【0129】、【0146】及び特開2008-257182号公報の【0012】に記載されているように、トナーの技術分野における本願優先日前の周知技術(以下「周知技術1」という。)であるので、引用発明1において、刊行物2の記載事項に基づいて、非晶性樹脂だけでなく帯電制御剤も乳化して同時に付着させてコアを覆うシェルを形成するにあたり、その乳化方法として、転相法を採用することは技術の具体的適用に伴う設計上の事項である。

(6)本願発明1の奏する効果は、刊行物1及び2の記載及び周知技術1に基づいて、当業者が予測できた程度のものである。

(7)以上のとおりであるから、本願発明1は、当業者が引用発明1、刊行物2の記載事項及び周知技術1に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 小括
本願発明1は、以上のとおり、当業者が引用発明1、刊行物2の記載事項及び周知技術1に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 本願発明2
1 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成26年 2月10日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項4に記載されたとおりの次のものと認める。
「【請求項4】
少なくとも1種の非晶性樹脂と、少なくとも1種の結晶性樹脂と、を含むコア;および
少なくとも1種の非晶性シェル樹脂と共乳化された少なくとも1種の帯電制御剤を含むシェル、を含むトナーであって、
前記帯電制御剤は、カルボン酸の金属錯体から選択される少なくとも1種である、トナー。」(以下「本願発明2」という。)

2 刊行物の記載事項
(1)上記第2 2(1)アないしキから、刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。
「結晶性ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、着色剤、及び離型剤を含むコア層と、該コア層を被覆し、非晶性ポリエステル樹脂を含むシェル層と、を有し、
平均円形度が0.970以上であり、かつ算術平均高さ分布の中央値が0.005μm以上0.050μm未満である静電潜像現像用トナーであって、
帯電制御剤などのその他の成分(粒子)を添加させることが可能であり、
帯電制御剤としては、4級アンモニウム塩化合物、ニグロシン系化合物、アルミニウム、鉄、クロムなどの錯体からなる染料、トリフェニルメタン系顔料などが挙げられる静電潜像現像用トナー。」(以下「引用発明2」という。)

(2)刊行物2には、上記第2 2(2)ウに摘記した事項が記載されている。

3 対比
(1)引用発明2の「非晶性ポリエステル樹脂」、「結晶性ポリエステル樹脂」、「コア層」、「非晶性ポリエステル樹脂」、「シェル層」、「帯電制御剤」及び「静電潜像現像用トナー」は、それぞれ、本願発明2の「非晶性樹脂」、「結晶性樹脂」、「コア」、「非晶性シェル樹脂」、「シェル」、「帯電制御剤」及び「トナー」に相当する。

(2)引用発明2における「結晶性ポリエステル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、着色剤、及び離型剤を含むコア層」は、本願発明2における「少なくとも1種の非晶性樹脂と、少なくとも1種の結晶性樹脂と、を含むコア」に相当する。

(3)引用発明2における「シェル層」は、本願発明2における「シェル」と、「少なくとも1種の非晶性シェル樹脂」を含む点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)から、本願発明2と引用発明2とは、
「少なくとも1種の非晶性樹脂と、少なくとも1種の結晶性樹脂と、を含むコア;および
少なくとも1種の非晶性シェル樹脂を含むシェル、を含むトナー。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
「シェル」について、本願発明2は、少なくとも1種の非晶性シェル樹脂と共乳化された少なくとも1種の帯電制御剤を含むのに対し、引用発明2は、そのような特定がなされていない点。

相違点2:
「帯電制御剤」について、本願発明2は、カルボン酸の金属錯体から選択される少なくとも1種であるのに対し、引用発明2は、そのような特定がなされていない点。

4 判断
(1)相違点1について
ア 本願発明2は、「共乳化された」という製造方法によりシェル層を特定しようとしているが、引用発明2において、トナーの耐電性及び帯電安定性を向上させるために、刊行物2の記載事項に基づいて、非晶性シェル樹脂だけでなく帯電制御剤も乳化して同時に付着させてコアを覆うシェルを形成したトナーと、本願発明2のトナーとの間に、上記相違点2を除いて構造上の差異を見出すことができない。

イ また、上記第2 4(1)ないし(5)の記載と同様の理由により、引用発明2において、刊行物2の記載事項に基づいて、非晶性シェル樹脂だけでなく帯電制御剤も乳化して同時に付着させてシェルを形成するにあたり、その乳化方法として、転相法を採用することは技術の具体的適用に伴う設計上の事項である。

(2)相違点2について
ア 引用発明2においては、帯電制御剤として、4級アンモニウム塩化合物、ニグロシン系化合物、トリフェニルメタン系顔料に加えて、「アルミニウム、鉄、クロムなどの錯体」からなる染料が挙げられており、また、トナーにおける帯電制御剤として、カルボン酸の金属錯体を用いることは、刊行物2の【0034】、特開2008-165177号公報の【0069】、特開2008-89918号公報の【0045】、【0127】に記載されているように本願の優先日前の周知技術(以下「周知技術2」という。)であるので、引用発明2において上記周知技術2を適用し、帯電制御剤としてカルボン酸の金属錯体を用いることにより上記相違点2にかかる構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(3)本願発明2の奏する効果は、刊行物1及び2の記載及び周知技術1、2に基づいて、当業者が予測できた程度のものである。

(4)以上のとおりであるから、本願発明2は、当業者が引用発明1、刊行物2の記載事項及び周知技術1、2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 小括
本願発明2は、以上のとおり、当業者が引用発明1、刊行物2の記載事項及び周知技術1、2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
前記第2及び第3のとおり、本願発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-07 
結審通知日 2015-09-08 
審決日 2015-09-25 
出願番号 特願2010-115196(P2010-115196)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 清水 康司
本田 博幸
発明の名称 トナーおよびその製造方法  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  

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