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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1311175
審判番号 不服2014-26162  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-22 
確定日 2016-02-12 
事件の表示 特願2010-222948「組電池」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月19日出願公開、特開2012- 79523〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年9月30日を出願日とする出願であって、平成26年3月25日付けで拒絶理由が通知され、同年6月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月22日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。
その後、平成27年8月10日付けで当審から拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年10月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成27年10月7日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
複数の電池を直列接続した組電池であって、
前記電池として、正極活物質の主材料としてリン酸鉄リチウム化合物を含む非水電解質二次電池で構成される第1の電池と、正極活物質の主材料としてリン酸鉄リチウム化合物以外の材料を含む非水電解質二次電池で構成される第2の電池とが備えられ、
前記第1の電池に、密閉式の電池筐体内の流体圧が設定圧力に達するに伴って前記電池筐体内の発電要素から電極端子に至る電流路を遮断する電流遮断装置が備えられ、
前記第2の電池に、前記電流遮断装置が備えられておらず、
正極活物質の主材料としてリン酸鉄リチウム化合物を含む非水電解質二次電池で構成される前記第1の電池は、満充電付近で残存電池容量の増加に対して電池電圧が急激に立ち上がる特性を有し、
前記第1の電池についての、残存電池容量に対する電池電圧の変化特性における満充電付近において電池電圧が急激に上昇する位置の残存電池容量が、電池電圧が満充電電圧のときの前記第2の電池の残存電池容量よりも大きくなるように設定されている組電池。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審は、平成27年8月10日付けで拒絶理由を通知したが、通知した拒絶理由のうち、請求項6に係る発明に対する拒絶理由の概要は、特開2008-192437号公報(以下「引用例1」という。)及び特開2008-277106号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

なお、上記第2において示された本願発明1は、平成27年10月7日付けの手続補正書による補正前の請求項6に係る発明、すなわち、当審拒絶理由において拒絶理由が存在するとの判断が示された請求項6に係る発明に対応している。

第4 引用例1の記載事項
当審の拒絶理由通知において引用例1として引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された特開2008-192437号公報には、「電池ユニット」(発明の名称)について、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。

1ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の非水電解質二次電池が直列に接続された電池ユニットに関するものであり、特に、電池ユニットの出力を高い状態で維持させながら、直列に接続された非水電解質二次電池が過充電状態になるのを簡単に抑制して、高い安全性が得られるようにした点に特徴を有するものである。」

1イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、複数の非水電解質二次電池が直列に接続された電池ユニットにおける上記のような問題を解決することを課題とするものであり、高出力及び高容量を必要とする電動工具や電気自動車やハイブリッド自動車の電源等に利用する場合において、電池ユニットの出力を高い状態で維持させながら、直列に接続された非水電解質二次電池が過充電状態になるのを簡単に抑制して、高い安全性が得られるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては、上記のような課題を解決するため、複数の非水電解質二次電池が直列に接続されてなる電池ユニットにおいて、充電時に正極活物質からリチウムが放出されて電気抵抗が上昇する電位が異なる少なくとも2種類の非水電解質二次電池を直列に接続させるようにしたのである。
【0013】
ここで、上記の2種類の非水電解質二次電池としては、充電時に正極活物質からリチウムが放出されて電気抵抗が上昇する電位が高い第1非水電解質二次電池と、充電時に正極活物質からリチウムが放出されて電気抵抗が上昇する電位が低い第2非水電解質二次電池とを用いるようにする。
【0014】
そして、充電時に正極活物質からリチウムが放出されて電気抵抗が上昇する電位が高い第1非水電解質二次電池においては、その正極活物質に、高出力が得られる層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、例えば、コバルト酸リチウムLiCoO_(2)やニッケル酸リチウムLiNiO_(2)等のコバルトとニッケルとの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物を用いることが好ましい。
【0015】
一方、充電時に正極活物質からリチウムが放出されて電気抵抗が上昇する電位が低い第2非水電解質二次電池においては、正極活物質に、一般式LiMPO_(4)(式中、Mは、Fe,Ni,Mnから選択される少なくとも1種である。)で表わされるオリビン型リン酸リチウム化合物又はスピネル型リチウムマンガン複合酸化物が含まれるようにすることが好ましい。
【0016】
ここで、上記の第2非水電解質二次電池において、その正極活物質に用いるオリビン型リン酸リチウム化合物としては、例えばオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)を・・・を用いることができる。
・・・
【0019】
また、上記の第2非水電解質二次電池に、電池の内圧上昇により作動する電流遮断弁を設けることが好ましい。」

1ウ 「【発明の効果】
【0021】
本発明における電池ユニットにおいては、上記のように充電時に正極活物質からリチウムが放出されて電気抵抗が上昇する電位が異なる少なくとも2種類の非水電解質二次電池を直列に接続させるようにしたため、このような電池ユニットを充電させた場合、正極活物質からリチウムが放出されて電気抵抗が上昇する電位が低い第2非水電解質二次電池の電気抵抗が大きく上昇し、正極活物質からリチウムが放出されて電気抵抗が上昇する電位が高い第1非水電解質二次電池が過充電状態になるのが抑制され、高い安全性が得られるようになる。」

1エ 「【0023】
これに対して、上記の第2非水電解質二次電池において、正極活物質にオリビン型リン酸リチウム化合物又はスピネル型リチウムマンガン複合酸化物を含ませると、これらの正極活物質の場合、一般の非水電解質二次電池における上限充電電圧4.2V(リチウム参照極電位に対して4.3V)程度まで充電すると、結晶中のLiイオンが全て放出されて電気抵抗が大きく上昇し、この第2非水電解質二次電池を流れる電流が大きく低下するようになる。
【0024】
このため、上記の第1非水電解質二次電池と第2非水電解質二次電池とを直列に接続させた電池ユニットを、非水電解質二次電池における上限充電電圧4.2V(リチウム参照極電位に対して4.3V)程度まで充電させると、上記のように第2非水電解質二次電池における電気抵抗が大きく上昇して、電池ユニットを流れる電流が大きく低下し、第1非水電解質二次電池が過充電状態になるのが抑制されて、高い安全性が得られるようになる。」

1オ 「【0028】
さらに、上記の第2非水電解質二次電池に、電池の内圧上昇により作動する電流遮断弁を設けると、電圧上昇により非水電解液が分解してガスが発生し、電池内の圧力が上昇した場合にも、この電流遮断弁が作動して電流が遮断され、過充電状態になるのがより一層抑制されて、より高い安全性が得られるようになる。」

1カ 「【0042】
(非水電解質二次電池A2)
非水電解質二次電池A2においては、下記のようにして作製した正極と負極と非水電解液とを用いるようにした。
【0043】
[正極の作製]
正極活物質に層状構造を有するLiNi_(0.3)Co_(0.3)Mn_(0.3)O_(2)からなるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を用い、この正極活物質と、導電剤の人工黒鉛粉末と、結着剤のポリフッ化ビニリデンとを94:3:3の質量比にしてN-メチル-2-ピロリドン溶媒中で混合させて正極合剤スラリーを調製し、この正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延させて正極を作製した。
【0044】
[負極の作製]
負極活物質の黒鉛と、結着剤のスチレン・ブタジエンゴムと、増粘剤のカルボキシメチルセルロースとを98:1:1の質量比にして、これらを水中において混合させて負極合剤スラリーを調製し、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延させて負極を作製した。
・・・
【0046】
そして、この非水電解質二次電池A2においては、図3に示すように、上記のようにして作製した正極11と負極12との間に、セパレータ13としてリチウムイオン透過性のポリエチレン製の微多孔膜を介在させ、これらをスパイラル状に巻いて電池缶14内に収容させ、上記の正極11を正極タブ15によって正極蓋16に取り付けられた正極外部端子19に接続させると共に、上記の負極12を負極タブ17によって電池缶14に接続させた後、この電池缶14内に上記の非水電解液を注液し、電池缶14と正極蓋16とを絶縁パッキン18により電気的に分離させて封口し、設計容量が1300mAhである円筒型の非水電解質二次電池A2を得た。」

1キ 「【0047】
(非水電解質二次電池B2)
非水電解質二次電池B2においては、下記のようにして作製した正極を用いるようにし、それ以外は、上記の非水電解質二次電池A2と同様にして、設計容量が1300mAhである円筒型の非水電解質二次電池B2を得た。
【0048】
ここで、この非水電解質二次電池B2においては、正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)を用い、この正極活物質と、導電剤の人工黒鉛粉末と、結着剤のポリフッ化ビニリデンとを85:10:5の質量比にしてN-メチル-2-ピロリドン溶媒中で混合させて正極合剤スラリーを調製し、この正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延させて正極を作製した。」

1ク 「【0050】
また、実施例3の電池ユニットにおいては、図7に示すように、上記の円筒型の非水電解質二次電池A2と非水電解質二次電池B2とを直列に接続させ、比較例2の電池ユニットにおいては、図8に示すように、上記の円筒型の非水電解質二次電池A2を2つ直列に接続させるようにした。
【0051】
そして、実施例1,2及び比較例1の電池ユニットについては2340mAh(780mAh×3)の充電電流で、また実施例3及び比較例2の電池ユニットについては3900mAh(1300mAh×3)の充電電流で、それぞれ電圧が24Vになるまで充電させた後、24Vの定電圧で電流が流れなくなるまで定電圧充電させるようにして、それぞれ5つの電池ユニットについて過充電試験を行い、電池温度が大きく上昇して内部短絡が発生した電池ユニットの数を求め、その結果を下記の表1に示した。なお、上記の過充電試験においては、各非水電解質二次電池における過充電の状態を確認するため、市販の非水電解質二次電池とは異なり、セパレータのシャットダウン機構、電流遮断弁及び保護素子を除く、他の安全性確保のための手段を排除した。
・・・
【0054】
これに対して、・・・正極活物質に層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物であるLiNi_(0.3)Co_(0.3)Mn_(0.3)O_(2)を用いた非水電解質二次電池A2と、正極活物質にオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)を用いた非水電解質二次電池B2とを直列に接続させた実施例3の電池ユニットにおいては、5つの電池ユニット全てが過充電状態になるのが防止され、電池温度が大きく上昇して内部短絡が発生するということはなかった。」

1ケ 上記1カの段落【0046】記載を参照すると、図3には、非水電解質二次電池A2において、正極タブ15は、正極タブ15の上方に配置された正極蓋16に接続されていることが、見て取れる。

第5 当審の判断
1 引用例1に記載された発明
(1)実施例3についての記載事項
ア 上記1クの段落【0050】の記載事項から、実施例3の電池ユニットは、円筒形の非水電解質二次電池B2と非水電解質二次電池A2とを直列に接続したものである。

イ 上記1キの段落【0048】の記載事項から、非水電解質二次電池B2は正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)を用いている。

ウ 上記1カの段落【0042】?【0043】の記載事項から、非水電解質二次電池A2は正極活物質としてLiNi_(0.3)Co_(0.3)Mn_(0.3)O_(2)からなるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を用いている。

エ 上記1カの段落【0046】の記載事項によれば、非水電解質二次電池A2は、正極と負極との間にセパレータを介在させスパイラル状に巻いたものを電池缶内に収容し、上記正極を正極タブによって正極蓋に取り付けられた正極外部端子に接続させると共に、上記負極を負極タブによって電池缶に接続させた後、電池缶と正極蓋とを電気的に分離させて封口して得られたものであるところ、上記1キの段落【0047】の記載事項から、非水電解質二次電池A2と非水電解質二次電池B2とは、正極以外は、同様にして得られたものであるから、非水電解質二次電池B2も、正極と負極との間にセパレータを介在させスパイラル状に巻いたものを電池缶内に収容し、上記正極を正極タブによって正極蓋に取り付けられた正極外部端子に接続させると共に、上記負極を負極タブによって電池缶に接続させた後、電池缶と正極蓋とを電気的に分離させて封口して得られたものであるといえる。
そうすると、非水電解質二次電池B2は、封口された電池缶、前記電池缶内の正極と負極との間にセパレータを介在させスパイラル状に巻いたもの、正極外部端子、及び、前記正極を前記正極外部端子に接続させる正極タブ及び正極蓋を備えているものといえる。

オ 上記1クの段落【0051】には、実施例3を含む5つの電池ユニットにおいて、過充電試験を行うに際して、「各非水電解質二次電池における過充電の状態を確認するため、市販の非水電解質二次電池とは異なり、セパレータのシャットダウン機構、電流遮断弁及び保護素子を除く、他の安全性確保のための手段を排除した」と記載されていることから、実施例3の電池ユニットを構成する電池には、他の安全性確保の手段は排除されているが、市販の非水電解質二次電池に標準的に備えられている、セパレータのシャットダウン機構や保護素子と同様に、電流遮断弁が備えられているものといえる。また、上記電流遮断弁とは、上記1イの段落【0019】及び上記1オの段落【0028】の記載事項から、直列に接続された2種類の非水電解質二次電池のうち、第2非水電解質二次電池に設けられるものであり、「電圧上昇により非水電解液が分解してガスが発生し、電池内の圧力が上昇した場合に作動して電流を遮断するもの」である。そして、電流遮断弁が設けられる第2非水電解質二次電池とは、上記1エの段落【0023】の記載から、正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)等を用いた非水電解質二次電池のことであり、実施例3の電池ユニットにおいては、非水電解質二次電池B2に相当する。

カ 上記1エの段落【0023】の記載事項から、正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)を用いた非水電解質二次電池においては、一般の非水電解質二次電池における上限充電電圧4.2V程度まで充電すると、結晶中のLiイオンが全て放出されて電気抵抗が大きく上昇し、この第2非水電解質二次電池を流れる電流が大きく低下する特性を有しているから、実施例3の正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)を用いた非水電解質二次電池B2も同様の特性を有している。

キ 上記1キの段落【0047】の記載事項から、非水電解質二次電池A2と非水電解質二次電池B2とは、正極以外は、同様にして得られたものであることを勘案すれば、上記1ケの視認事項から、非水電解質二次電池B2においても、正極タブ15は、正極タブ15の上方に配置された正極蓋16に接続されているものと認められる。

(2)引用発明
上記(1)の記載事項に基づくと、引用例1には、実施例3として、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「非水電解質二次電池B2と非水電解質二次電池A2とを直列に接続した電池ユニットであって、
正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)を用いた非水電解質二次電池B2と、正極活物質としてLiNi_(0.3)Co_(0.3)Mn_(0.3)O_(2)からなるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を用いた非水電解質二次電池A2を用い、
前記非水電解質二次電池B2に、封口された電池缶、前記電池缶内の正極と負極との間にセパレータを介在させスパイラル状に巻いたもの、正極外部端子、及び、前記正極を前記正極外部端子に接続させる正極タブ及び正極蓋が備えられ、
前記二つの非水電解質二次電池のうち、前記非水電解質二次電池B2に、電圧上昇により非水電解液が分解してガスが発生し、電池内の圧力が上昇した場合に作動して電流を遮断する、電流遮断弁が備えられており、
正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)を用いた前記非水電解質二次電池B2は、一般の非水電解質二次電池における上限充電電圧4.2V程度まで充電すると、結晶中のLiイオンが全て放出されて電気抵抗が大きく上昇する特性を有する電池ユニット。」

2 本願発明1と引用発明との対比
(1)本願発明1と引用発明との対比
ア 引用発明の「非水電解質二次電池B2と非水電解質二次電池A2」は、本願発明1の「複数の電池」に相当する。また、本願発明1の「組電池」は「複数の電池を直列接続した」ものであるところ、引用発明の「電池ユニット」は、「非水電解質二次電池B2と非水電解質二次電池A2とを直列に接続した」ものであるから、本願発明1の「組電池」に相当する。

イ 引用発明は、「非水電解質二次電池B2」の「正極活物質」として、「オリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)」のみを用いるものである。一方、本願明細書の段落【0018】には「電池Bは、正極活物質の主材料としてリン酸鉄リチウム化合物を使用している。より具体的には、正極活物質をリン酸鉄リチウム化合物のみで構成している。」と記載されていることから、正極活物質の「主材料」としてリン酸鉄リチウム化合物を使用することには、正極活物質をリン酸鉄リチウム化合物のみで構成することを、を含んでいる。したがって、引用発明の「非水電解質二次電池B2」における唯一の正極活物質である「オリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)」は、「正極活物質の主材料として」含まれているといえる。

ウ また、本願発明1の「第1の電池」において、正極活物質の主材料として使用されている「リン酸鉄リチウム化合物」とは、本願明細書の表1の左端欄の通し番号が、例えば、「1」の試験の欄に記載されているように、化学式では「LiFePO_(4)」と記載される物質のことであるから、引用発明の「オリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)」は、本願発明1の「リン酸鉄リチウム化合物」に相当する。

エ 上記イとウの検討から、引用発明の「正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)を用いた非水電解質二次電池B2」は、本願発明1の「正極活物質の主材料としてリン酸鉄リチウム化合物を含む非水電解質二次電池で構成される第1の電池」に相当する。

オ 引用発明は、「非水電解質二次電池A2」の「正極活物質」として、「LiNi_(0.3)Co_(0.3)Mn_(0.3)O_(2)からなるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物」のみを用いるものである。そして、本願明細書の段落【0018】の記載「電池Aは、正極活物質の主材料としてリン酸鉄リチウム化合物以外の化合物を使用している。電池Aの正極活物質に使用するリン酸鉄リチウム化合物以外の化合物としては、コバルト、ニッケルおよびマンガンのうちの少なくとも一つとリチウムとを有する複合酸化物で良い。」を参照すれば、引用発明の「非水電解質二次電池A2」における唯一の正極活物質である「LiNi_(0.3)Co_(0.3)Mn_(0.3)O_(2)からなるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物」は、本願明細書でいうところの「リン酸鉄リチウム化合物以外の化合物」である「コバルト、ニッケルおよびマンガンのうちの少なくとも一つとリチウムとを有する複合酸化物」に相当しており、「正極活物質の主材料として」含まれているといえる。

カ 上記オの検討から、引用発明の「正極活物質としてLiNi_(0.3)Co_(0.3)Mn_(0.3)O_(2)からなるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物を用いた非水電解質二次電池A2」は、本願発明1の「正極活物質の主材料としてリン酸鉄リチウム化合物以外の材料を含む非水電解質二次電池で構成される第2の電池」に相当する。

キ 引用発明において、「電池ユニット」が「非水電解質二次電池B2」と「非水電解質二次電池A2」を「用い」ることは、本願発明1において、「組電池」が「電池として」、「第1の電池」と「第2の電池」とが「備えられ」ていることに相当する。

ク 引用発明において、「非水電解質二次電池B2」の「電池缶」が「封口された」ものであることは、上記「電池缶」が密閉されていることを表すから、引用発明の「封口された電池缶」は、本願発明1の「密閉式の電池筐体」に相当する。また、引用発明の「正極と負極との間にセパレータを介在させスパイラル状に巻いたもの」及び「正極外部端子」は、それぞれ、本願発明1の「発電要素」及び「電極端子」に相当する。さらに、引用発明の「正極」は「正極と負極との間にセパレータを介在させスパイラル状に巻いたもの」を構成するものであり、「正極タブ」は「正極」と「正極外部端子」を電気的に接続するものであることは明らかであるから、引用発明の「前記正極を前記正極外部端子に接続させる正極タブ」は、本願発明1の「発電要素から電極端子に至る電流路」に相当する。

ケ 引用発明の「電流遮断弁」は、「電圧上昇により非水電解液が分解してガスが発生し、電池内の圧力が上昇した場合に作動して電流を遮断する」ものであるから、電池内の圧力が上昇するのは、非水電解液が分解してガスが発生することが原因である。そして、上記電池内の圧力とは、封口により密閉された電池缶内における、水電解液が分解して発生したガスの圧力であることは明らかである。一方、本願明細書の段落【0016】には、「電流遮断装置1は、詳細な説明を省略するが、流体圧によって変位する弁体等の動きと連動させて、操作対象の電気回路の通電を遮断する装置であり、密閉式の電池筐体5内の流体圧(具体的には、気圧)が設定圧力に達するに伴って、発電要素3から電極端子5aに至る電流路を遮断する。」と記載されていることからわかるように、本願発明1の「電池筐体内の流体圧」とは、電池筺体内の気圧のことであり、電池筺体内で発生するガスの圧力を意味するものであることは明らかである。したがって、引用発明の「電池内の圧力」は、本願発明1の「電池筐体内の流体圧」に相当する。

コ また、引用発明の「電流遮断弁」は、封口された電池缶内の圧力の上昇によって電流を遮断するものであるところ、電池缶内の圧力が予め設定された値に達したときに電流を遮断するように製造されていることは明らかである。そうすると、引用発明の「電流遮断弁」は、密閉された電池内の圧力、すなわち、流体圧が設定圧力に達するに伴って電流路を遮断する弁を備えたものであるといえる。
一方、本願発明1の「電流遮断装置」とは、本願明細書の段落【0016】の記載「電流遮断装置1は、詳細な説明を省略するが、流体圧によって変位する弁体等の動きと連動させて、操作対象の電気回路の通電を遮断する装置であり」から明らかなように、流体圧によって変位する弁体を備えているものである。
したがって、上記ケの検討も勘案すると、引用発明の「電圧上昇により非水電解液が分解してガスが発生し、電池内の圧力が上昇した場合に作動して電流を遮断する、電流遮断弁」と本願発明1の「密閉式の電池筐体内の流体圧が設定圧力に達するに伴って前記電池筐体内の発電要素から電極端子に至る電流路を遮断する電流遮断装置」とは、「密閉式の電池筐体内の流体圧が設定圧力に達するに伴って」「電流路を遮断する電流遮断装置」である点で共通する。
また、引用発明において、「電流遮断弁」が「前記二つの非水電解質二次電池のうち、前記非水電解質二次電池B2に」備えられていることは、上記エとカの検討を参照すると、本願発明において、「電流遮断装置」が、「前記第1の電池に」「備えられ」、「前記第2の電池に」「備えられて」いないことに相当する。

サ 上記ウとエの検討から、引用発明の「非水電解質二次電池B2」と本願発明1の「第1の電池」は、いずれも、「リン酸鉄リチウム化合物」という同じ正極活物質を用いており、また、引用発明の「非水電解質二次電池B2」は負極活物質として黒鉛を用いており(上記1カの段落【0044】、上記1キの【0047】参照)、本願発明1の「第1の電池」は負極活物質としてグラファイトを用いている(段落【0020】参照)ので、負極活物質も同じであるから、引用発明と本願発明1において同様の電池反応が生じるといえる。したがって、本願発明1の「第1の電池」が「満充電付近で残存電池容量の増加に対して電池電圧が急激に立ち上がる特性」を有するのであれば、引用発明の「非水電解質二次電池B2」も同様の特性を有するものと認められる。

シ なお、引用発明の「非水電解質二次電池B2」と本願発明1の「第1の電池」が、上記サのように同様の特性を有することは、次の検討からも理解することができる。
引用発明の「非水電解質二次電池B2」は、「正極活物質」として「オリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)」を用いているので、上記1エの段落【0023】に記載されているように、「一般の非水電解質二次電池における上限充電電圧4.2V程度まで充電すると、結晶中のLiイオンが全て放出されて電気抵抗が大きく上昇する特性を有する」ものである。ここで、「上限充電電圧」において、正極活物質中のLiイオンが全て放出されているということは、「非水電解質二次電池B2」の正極活物質中にそれ以上放出できるLiイオンが存在せず、負極活物質である黒鉛内にインターカレートされたLiイオンがほとんど増加しない状況にあるということであるから、「非水電解質二次電池B2」がほぼ満充電の状態にあることを意味している。そして、非水電解質二次電池における標準的な充電方法として、定電流充電後に定電圧充電を行う方法が採用されていることを考慮すれば(例えば、上記1オの段落【0051】において、定電流充電の後定電圧充電している。)、定電流充電の末期に「電気抵抗が大きく上昇」すれば、当該電気抵抗に比例するように、電池電圧が急激に立ち上がることが観察されると考えることが合理的である。したがって、この検討からも、引用発明の「非水電解質二次電池B2」は、本願発明1の「第1の電池」と同様に、「満充電付近で残存電池容量の増加に対して電池電圧が急激に立ち上がる特性」を有しているということができる。

(2)本願発明1と引用発明の一致点と相違点
上記(1)の検討から、本願発明1と引用発明との一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「複数の電池を直列接続した組電池であって、
前記電池として、正極活物質の主材料としてリン酸鉄リチウム化合物を含む非水電解質二次電池で構成される第1の電池と、正極活物質の主材料としてリン酸鉄リチウム化合物以外の材料を含む非水電解質二次電池で構成される第2の電池とが備えられ、
前記第1の電池に、密閉式の電池筐体内の流体圧が設定圧力に達するに伴って電流路を遮断する電流遮断装置が備えられ、
前記第2の電池に、前記電流遮断装置が備えられておらず、
正極活物質の主材料としてリン酸鉄リチウム化合物を含む非水電解質二次電池で構成される前記第1の電池は、満充電付近で残存電池容量の増加に対して電池電圧が急激に立ち上がる特性を有している、組電池。」

≪相違点1≫
「電流遮断装置」が遮断する電流路について、本願発明1では、「第1の電池」の「前記電池筐体内の発電要素から電極端子に至る電流路」であるのに対し、引用発明では、「非水電解質二次電池B2」のどこの電流路であるか特定されていない点。
≪相違点2≫
本願発明1においては、「前記第1の電池についての、残存電池容量に対する電池電圧の変化特性における満充電付近において電池電圧が急激に上昇する位置の残存電池容量が、電池電圧が満充電電圧のときの前記第2の電池の残存電池容量よりも大きくなるように設定されている」のに対して、引用発明ではどのように設定されているか特定されていない点。

3 相違点についての判断
(1)相違点1についての検討
ア 「電流遮断弁」が遮断する電流路について検討する。
当審の拒絶理由通知において引用例2として引用され、本願の出願日前に日本国内において頒布された、特開2008-277106号公報には、「非水電解質電池及び電池システム」(発明の名称)について、図1とともに、以下の記載がある。

2ア「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
過充電に対する安全性に優れた非水電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、負極、過充電状態の正極電位においてガスを発生しうる化合物を含有する正極合剤を備えた正極及びビフェニルを含有する非水電解質が外装容器内に収納されてなる非水電解質電池である。
【0013】
また、本発明の非水電解質電池は、前記外装容器内の内圧上昇に応じて作動する電流遮断手段を備えたことを特徴としている。」

2イ 「【実施例】
【0036】
(実施例1)
・・・
【0039】
セパレータとして帯状のポリエチレン製微多孔膜を介して前記帯状正極及び帯状負極を偏平に捲回することにより極群を作製し、外装容器である角形電槽に収容し、前記非水電解質を注液、含浸し、初期充放電サイクル工程を経て、設計容量6Ahの非水電解質電池を作製した。
【0040】
なお、前記角形電槽には、正極端子及び負極端子の他、内圧が300?900kPaの範囲のときに電槽に設けられた電極端子と電槽内の発電要素との電気的接続を遮断しうる電流遮断手段が設けられ、さらに、内圧が900kPaを超えた場合に電槽内のガスを外部へ排気しうる圧力解放弁が設けられている。正極端子は、前記電流遮断手段を介して正極と電気的に接続され、負極端子は電流遮断手段を介することなく負極と電気的に接続されている。前記電流遮断手段は、正極と電気的に接続された部材とその上方に設置された金属薄膜とがスポット溶接されてなり、内圧上昇によって前記金属薄膜が上方に膨れ上がることにより、前記スポット溶接部が断絶され、これによって正極と正極端子との導通が遮断されるものである。」

2ウ 「【0055】
図1は、本発明電池の外装容器5内部の接続状態及び本発明電池を用いた電池システムの構成を示す概念図である。図1には、電池部が非水電解質電池を一個備えた場合の電池システムを例示した。前記したように、正極端子1が、電池の状態を検知して電気的導通を遮断しうる電流遮断手段4を介して発電要素6を構成している正極と電気的に接続されていると共に、前記正極は、前記電流遮断手段4を介することなく補助端子3と電気的に接続されている。なお、本実施例においては、負極端子2は前記電流遮断手段4を介することなく発電要素6を構成している負極と電気的に接続されている。なお、本実施例電池はHEV用であるため、正極はアルミニウム製の外装容器5とも電気的に接続されている。」

イ したがって、上記2ア?2ウの記載事項によれば、引用例2には、非水電解質電池の電槽内に、発電要素を構成している正極と、電槽に設けられた正極端子との電気的接続を遮断しうる電流遮断手段を設けることにより、非水電解質電池の外装容器である角形電槽内の内圧上昇によって電池の過充電を停止させる技術が記載されている。

ウ また、電流遮断手段の具体的な構成としては、上記2イの段落【0040】に、電槽内において、発電要素の正極と電気的に接続された部材と、金属薄膜とをスポット溶接することにより実現できることが記載されている。なお、そのような電流遮断手段は、いずれも本願の出願日前に日本国内において頒布された、特開2010-192438号公報(「周知文献1」という。図3A,3B,7A,7Bとその説明を参照。)、特開2010-157451号公報(「周知文献2」という。図9,10とその説明を参照。)に記載されているように、当業者には周知の構造である。

エ そして、上記2ウの記載事項によれば、正極端子1と、発電要素6を構成している正極とは、電流遮断手段4を介して接続されているものであり、上記2イの段落【0040】によれば、電流遮断手段4は、正極と電気的に接続された部材とその上方に設置された金属薄膜とがスポット溶接されてなるものであるから、電流遮断手段4を構成する上記金属薄膜は、正極端子1と電気的に接続されているということができる。

オ 一方、引用発明の「電流遮断弁」は、引用例1から摘記した上記1オの段落【0028】に記載されているように、電池内の圧力が上昇した場合に作動して電流を遮断し、過充電状態になることを抑制するために、「非水電解質二次電池B2」に備えられるものであるが、上記「電流遮断弁」を備えるべき設置箇所や具体的な構造については引用例1に記載されておらず、不明である。ところが、引用例2には、上記ア?エで確認したように、電槽内の内圧が上昇した時に電池の過充電を停止させるために電気的接続を遮断するという、引用発明の「電流遮断弁」と同様の機能を有する電流遮断手段を設けることが記載されているから、引用発明の第2非水電解質二次電池に備えられる「電流遮断弁」を実際に設けるにあたり、引用例2に記載された電流遮断手段に関する技術を参照することは、当業者が容易に想到し得ることである。

カ そこで、電流遮断手段が記載された引用例2に接した当業者であれば、引用発明の「非水電解質二次電池B2」に備えられる「電流遮断弁」を、どのように設けるかについて検討する。
まず、引用発明の「非水電解質二次電池B2」を構成する「正極タブ」が、引用例2に記載された「正極と電気的に接続された部材」に相当することは、当業者にとって、明らかである。
そして、上記1(1)キで検討したように、引用発明の「非水電解質二次電池B2」において、「正極タブ」は、「正極タブ」の上方に配置された「正極蓋」に接続されているものであるから、引用例2において、「金属薄膜」が、「正極と電気的に接続された部材」とスポット溶接するために、「正極と電気的に接続された部材」の上方に配置されるとの記載に接した当業者であれば、引用発明の「非水電解質二次電池B2」において、「電流遮断弁」を設けるにあたり、「正極タブ」の上方にある「正極蓋」に「金属薄膜」を設けて、当該「金属薄膜」を「正極外部端子」に接続するものとするとともに、「正極タブ」と当該「金属薄膜」をスポット溶接することによって、「電流遮断弁」を「電池缶」内の「正極」から「正極外部端子」に至る電流路に設けること、すなわち、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(2) 相違点2についての検討
以下の(2-1)?(2-5)を順次検討することによって、上記相違点2は、引用発明と本願発明1の実質的な相違点ではないこと、また、仮に実質的な相違点であったとしても、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであることを説明する。
すなわち、(2-1)では、正極活物質として「オリビン型リン酸リチウム化合物」であるLiFePO_(4) を用いた「非水電解質二次電池」において、「上限充電電圧」である4.2Vよりも低い、「通常時充電電圧」である3.5?3.8V程度において充電を行うことが周知の技術であることを示し、(2-2)では、「非水電解質二次電池B2」において、「通常時充電電圧」で充電した満充電容量は、「上限充電電圧」で充電した満充電容量よりも小さくなっていることを示し、(2-3)では、「非水電解質二次電池B2」及び「非水電解質二次電池A2」とを直列に接続した電池ユニットにおいて、「非水電解質二次電池B2」の満充電容量と、「非水電解質二次電池A2」の満充電容量とが、同じ容量になっていることを示し、(2-4)では、以上の検討から、「上限充電電圧」で充電した場合の「非水電解質二次電池B2」の満充電容量は、「通常時充電電圧」で充電した場合の「非水電解質二次電池A2」の満充電容量よりも大きくなっていることを示し、(2-5)では、結論として、(2-4)の検討により示された事項に基づくと、相違点2は、引用発明と本願発明1の実質的な相違点ではいこと、もしくは、仮に実質的な相違点であったとしても、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者によって容易であることを説明する。

(2-1)「非水電解質二次電池B2」の充電電圧についての検討
ア 引用例1から摘記した上記1エの段落【0023】と【0024】によれば、正極活物質にオリビン型リン酸リチウム化合物を含ませた第2非水電解質二次電池において、結晶中のLiイオンが全て放出されて電気抵抗が大きく上昇する、上限充電電圧4.2V程度まで充電することができるし、上限充電電圧4.2V程度まで充電させたとしても、電気抵抗が大きく上昇して電流が大きく低下するので、過充電状態になるのが抑制されて、高い安全性が得られるようになる、と記載されている。

イ また、引用例1から摘記した上記1クの段落【0051】によれば、正極活物質としてLiFePO_(4)を用いた非水電解質二次電池B2と、正極活物質としてLiNi_(0.3)Co_(0.3)Mn_(0.3)O_(2)を用いた非水電解質二次電池A2を直列接続した実施例3の電池ユニットに対して、3900mAh(1300mAh×3)の充電電流で、それぞれ電圧が24Vになるまで充電させた後、24Vの定電圧で電流が流れなくなるまで定電圧充電させるという条件での過充電試験を行っても、同段落【0054】に記載されているように、過充電状態になるのが防止される、と記載されている。

ウ 上記アとイに記載のとおり、正極活物質にオリビン型リン酸リチウム化合物を含ませた第2非水電解質二次電池に対して、上限充電電圧4.2V程度まで充電したり、実施例3の電池ユニットに対して、過充電試験として24Vになるまで充電したりしているのは、引用例1に記載の電池が、通常充電で使用する電圧よりも大きい電圧を印加しても過充電状態にならない、安全性が高い電池であることを説明するためであると解される。つまり、上記上限充電電圧4.2Vや過充電試験の充電電圧24Vは、実際に使用する際に設定される充電電圧ではないと考えられる。

エ そこで、正極活物質にオリビン型リン酸リチウム化合物を含ませた非水電解質二次電池に対して、通常の使用時にどの程度の充電電圧を印加しているかについて検討する。以下に示す周知文献3?5には、引用発明において非水電解質二次電池B2で用いられる正極活物質と同じLiFePO_(4 )を用いた非水電解質二次電池が記載されており、周知文献3?5のいずれにおいても、充電電圧は、上限充電電圧4.2Vよりも低い電圧である、3.5?3.8V程度に設定されている。また、周知文献3には、4.5V以上の充電電圧とすると電解液の分解を引き起こすことになるので、4.0V以上に電圧を上げることは好ましくない旨の記載があり、安全マージンを考慮して充電電圧を設定することが記載されているものと認められる。
したがって、正極活物質としてLiFePO_(4) を用いた非水電解質二次電池において、安全マージンを考慮して、上限充電電圧である4.2Vよりも低い電圧において充電を行うことは、当業者によって普通に行われている周知の技術であるといえる。

(ア)本願の出願日前に日本国内において頒布された、特開2007-87801号公報(「周知文献3」という。)には次の記載がある。

「【0026】
本発明は、このような問題を鑑みて、ラミネートフィルムを外装材として用い、特に電池容量が5Ah以上で、正極及び負極の1cm^(2)当たりの電気容量が10mAh以上の大型リチウムイオン二次電池において、安全性に優れたリチウムイオン二次電池を提案することを目的としている。」

「【0030】
又、本発明のリチウムイオン二次電池は、前記正極活物質がオリビン型LiFePO_(4)であることを特徴とする。
【0031】
このようなリチウムイオン二次電池は、これまでに正極に用いられてきた通常用いられるLiCoO_(2)などの正極材料のように温度上昇に伴い酸素が放出され、電解液が燃焼し激しく発熱することがない。」

「【0057】
又、これまでに正極に用いられてきた通常用いられるLiCoO_(2)などの正極材料は温度上昇に伴い、酸素が放出され、電解液が燃焼し激しく発熱する。又、コバルト(Co)を含むLiCoO_(2)は、Coが鉄(Fe)やマンガン(Mn)と比較して埋蔵量が少なく、使用し続けるには問題がある。
【0058】
それに対して、鉄を主成分とした正極材料は、低環境負荷・低コストであることから好ましい。中でも、オリビン型LiFePO_(4)が注目されている。このLiFePO_(4)は高電位・高エネルギー密度と高い安全性・安定性という双方の要素を両立できるという特徴がある。又、LiFePO_(4)は全ての酸素が強固な共有結合によって燐と結合しているため、上述したLiCoO_(2)などの他の正極材料のような発熱もなく、温度上昇による酸素放出が非常に起こりにくく、安全性の観点から好ましい。また、燐を含んでいるため、正極が発熱し、電解液が漏れた際にも、消炎作用も期待でき、好ましい。このため、本実施形態の正極は、鉄系正極材料、特にオリビン型LiFePO_(4)を正極活物質1として用いるものとする。
【0059】
このようにオリビン型LiFePO_(4)を正極活物質1に用いたリチウムイオン二次電池は、その充電電圧が3.5V程度であり、3.8Vでほぼ充電が完了するため、電解液の分解を引き起こす電圧である略4.5Vまでには、余裕がある。尚、充電電圧が4.0V以上に達する正極材料を正極活物質1に用いた場合は、それ以上に充電電圧を上げると電解液の分解が起こりやすくなるため、好ましくない。」

「【実施例1】
【0074】
正極活物質1にオリビン型LiFePO_(4)を用い、導電材としてアセチレンブラックを20重量部、バインダーとしてPVdFを10重量部加え、溶剤にNMPを用い正極のペーストを作製する。得られたペーストを集電体3aとして用いる発泡状アルミ(サイズ:10cm×20.5cm、厚さ4mm、空隙率92%)に5mm×10cmの未充填部を残して10cm×20cmにわたり充填し、充分に乾燥した後、油圧プレスを用いてプレスし、厚さ3.0mmの電極を得る。このようにして得られた電極の面積当たりの活物質重量は210mg/cm^(2)で、正極の空隙率は55%であった。残しておいた未充填部に、厚さ100μmのアルミニウムリボンを溶接し、リード端子7aとする。
・・・
【0078】
実施例1のようにして20個の電池を作製し、以下の条件にて充放電試験を行った。充電するときは、充電電流が1.5Aで電圧が3.8Vになるまで充電し、その後電圧3.8Vで15時間経過するか、又は、充電電流が0.1Aになると充電終了とする。これらの電池を放電電流が1.5Aで電圧が2.25Vになるまで放電する。」

以上、周知文献3には、リチウムイオン二次電池の正極活物質としてLiFePO_(4)を用いた場合には、充電電圧が3.5V程度であり、3.8Vでほぼ充電が完了すること、そして、実施例1においては、3.8Vで充電することが記載されている。また、充電電圧が4.5Vになると電解液の分解を引き起こすことになり、充電電圧が4.0V以上に達する正極材料は、それ以上に充電電圧を上げることは好ましくない、とも記載されている。

(イ)本願の出願日前に日本国内において頒布された、国際公開第2010/018814号(「周知文献4」という。)には、段落[0001]及び[0057]を参照すると、正極活物質としてLiFePO_(4)を用いた非水電解液を用いたリチウム電池に対して、充電終了電圧を3.6Vとして充電することが記載されている。

(ウ)本願の出願日前に日本国内において頒布された、特開2010-118175号公報(「周知文献5」という。)には、段落【0056】、【0084】を参照すると、正極活物質としてLiFePO_(4)を用いた、非水電解液を使用する二次電池に対して、電池電圧3.6Vで充電することが記載されている。

オ したがって、引用例1には、「正極活物質にオリビン型リン酸リチウム化合物を含ませた非水電解質二次電池」に対して、上限充電電圧4.2V程度まで充電することや、実施例3の電池ユニットに対して、過充電試験として24Vになるまで充電することが記載されているが、上記周知文献3?5に記載された周知の技術を参照すれば、「正極活物質にオリビン型リン酸リチウム化合物を含ませた非水電解質二次電池」を通常に使用する際には、上限充電電圧4.2Vよりも低い電圧である、3.5?3.8Vにおいて充電されるといえる。

カ ここで、通常使用時の充電電圧を「通常時充電電圧」と呼ぶことにすると、上記オの検討内容は、次のように言い換えることができる。すなわち、「正極活物質にオリビン型リン酸リチウム化合物を含ませた非水電解質二次電池」の充電において、通常時充電電圧は、上限充電電圧4.2Vよりも低い3.5?3.8V程度に設定されているといえる。

(2-2)非水電解質二次電池B2の、通常時充電電圧と上限充電電圧における充電容量についての検討
ア 引用発明の「非水電解質二次電池B2」とは、正極活物質としてオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)を用いた非水電解質二次電池であるから、「正極活物質にオリビン型リン酸リチウム化合物を含ませた非水電解質二次電池」である。したがって、上記(2-1)のカの検討によれば、「非水電解質二次電池B2」の充電において、通常時充電電圧は、上限充電電圧4.2Vよりも低い3.5?3.8V程度に設定されているということができる。

イ そして、充電電圧が上限充電電圧に近いほど電池に蓄積される充電容量が大きくなることは自明の事項であるから、上記アに記載したように、通常時充電電圧が、上限充電電圧よりも電圧が低い電圧に設定されているということは、通常時充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池B2」の満充電容量は、上限充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池B2」の満充電容量よりも小さくなっているということができる。

(2-3)非水電解質二次電池B2の充電容量と非水電解質二次電池A2の充電容量についての検討
ア 引用発明は、「非水電解質二次電池B2の充電容量と非水電解質二次電池A2とを直列に接続した電池ユニット」であるから、引用発明の電池ユニットに対して充電を行う際には、直列接続した「非水電解質二次電池B2」と「非水電解質二次電池A2」には、全く同じ大きさの充電電流が流れ、充電時間も全く同じとなる。したがって、充電期間中に「非水電解質二次電池B2」と「非水電解質二次電池A2」に蓄積される容量は全く同じ値となる。なお、このことは、引用例1に記載された、2つの電池が直列接続されている、実施例1?3及び比較例1?2において、当該2つの電池の設計容量が全く同じ(実施例1、2のいずれも2つの電池の容量は780mAh、実施例3と比較例1、2のいずれも2つの電池の容量は1300mAh)になっていることからも確認することができる。

イ 上記アの検討に基づくと、引用発明の電池ユニットにおいて充電を行ったとき、充電開始時を基準にして容量を測定すると、「非水電解質二次電池B2」の満充電容量と、「非水電解質二次電池A2」の満充電容量とは、同じ大きさになっている、ということができる。

(2-4)電池A2の満充電容量と上限充電電圧における電池B2の充電容量についての検討
ア 上記(2-2)のイの検討から、上限充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池B2」の満充電容量は、通常時充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池B2」の満充電容量よりも大きくなっているということができる。

イ 上記(2-3)のイの検討から、通常時充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池B2」の満充電容量と「非水電解質二次電池A2」の満充電容量は同じ大きさとなっている。

ウ 上記アとイの検討から、上限充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池B2」の満充電容量は、通常時充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池A2」の満充電容量よりも大きくなっているということができる。

(2-5)相違点2についての検討の結論
ア 引用発明において、「非水電解質二次電池B2」充電の際に設定される「上限充電電圧」とは、「結晶中のLiイオンが全て放出されて電気抵抗が大きく上昇」してそれ以上充電が進まない状態、すなわち、満充電付近の充電電圧のことであり、定電流充電時の末期に「電気抵抗が大きく上昇」すれば、電池電圧の大きな上昇として観測されるものであることは明らかである。したがって、引用発明における「上限充電電圧」は、本願発明1の「第1の電池についての、残存電池容量に対する電池電圧の変化特性における満充電付近において電池電圧が急激に上昇する位置」なる記載を参照すれば、本願発明1において、電池電圧が急激に上昇する位置であるところの、満充電付近における電池電圧に相当する。
また、本願発明1における第1及び第2の電池の「残存電池容量」とは、充電時に第1及び第2の電池のそれぞれに蓄積されている容量のことを意味しているものと認められる。
したがって、上記2(1)のエにおいて検討したように、引用発明の「非水電解質二次電池B2」は、本願発明1の「第1の電池」に相当するから、上記(2-4)のウに記載した、『上限充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池B2」の満充電容量』とは、本願発明1における「前記第1の電池についての、残存電池容量に対する電池電圧の変化特性における満充電付近において電池電圧が急激に上昇する位置の残存電池容量」に相当する。

イ また、上記2(1)のキにおいて検討したように、引用発明の「非水電解質二次電池A2」は、本願発明1の「第2の電池」に相当するから、上記(2-4)のウに記載した、『通常時充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池A2」の満充電容量』とは、本願発明1における「電池電圧が満充電電圧のときの前記第2の電池の残存電池容量」に相当する。

ウ そして、上記(2-4)ウに記載したように、引用発明において『上限充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池B2」の満充電容量は、通常時充電電圧で充電した場合の「非水電解質二次電池A2」の満充電容量よりも大きくなっている』ということは、上記アとイの検討を勘案すれば、引用発明が、「前記第1の電池についての、残存電池容量に対する電池電圧の変化特性における満充電付近において電池電圧が急激に上昇する位置の残存電池容量が、電池電圧が満充電電圧のときの前記第2の電池の残存電池容量よりも大きくなるように設定されている」ものであることを表している。

エ したがって、上記周知の技術を勘案すると、上記相違点2は、引用発明と本願発明1の実質的な相違点ではない。

オ また、上記(2-2)アでは、『「非水電解質二次電池B2」の充電において、通常時充電電圧は、上限充電電圧4.2Vよりも低い3.5?3.8V程度に設定されているということができる。』と記載したが、仮に、上記「非水電解質二次電池B2」の充電が、上限充電電圧4.2Vにおいて行われるものであったとしても、上記(2-1)エに記載したように、正極活物質としてLiFePO_(4) を用いた非水電解質二次電池において、安全マージンを考慮して、上限充電電圧である4.2Vよりも低い電圧において充電を行うことは、当業者によって普通に行われている周知の技術であるといえるから、引用発明においても、安全マージンを考慮して充電電圧を設定すべきであることは当業者にとって明らかである。したがって、引用発明において、「非水電解質二次電池B2」を充電する際の設定電圧として、上限充電電圧4.2Vよりも低い、3.5?3.8Vの通常時充電電圧とすることは、当業者が容易になし得ることである。そして、引用発明において、「非水電解質二次電池B2」を上限充電電圧4.2Vよりも低い電圧である3.5?3.8Vの通常時充電電圧で充電する場合には、上記(2-1)?(2-4)及び(2-5)ア?ウで検討したとおり、引用発明は「前記第1の電池についての、残存電池容量に対する電池電圧の変化特性における満充電付近において電池電圧が急激に上昇する位置の残存電池容量が、電池電圧が満充電電圧のときの前記第2の電池の残存電池容量よりも大きくなるように設定」したもの、すなわち、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を有するものとなっている。
したがって、仮に、上記相違点2が実質的な相違点であったとしても、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(3)相違点についての判断のまとめ
上記(1)の検討から、引用発明において、引用例2の記載事項に基づいて、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。
また、上記(2)の検討から、上記周知の技術を勘案すると、上記相違点2は、引用発明と本願発明1の実質的な相違点ではなく、仮に実質的な相違点であったとしても、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4)請求人の意見について
(4-1)相違点2に関して
ア 請求人は、平成27年10月7日付けの意見書の(2-4)(イ)において、引用例1に記載された発明について、『これは、換言しますと、「第1非水電解質二次電池」が満充電に達したときには、既に、「(LiFePO_(4)等を正極活物質とする)第2非水電解質二次電池」の電池電圧が急激に立ち上がっていることを意味し、「第2非水電解質二次電池」の電池電圧が急激に立ち上がる位置の残存電池容量が、「第1非水電解質二次電池」における「満充電電圧のときの残存電池容量」よりも小さいということになります。』と主張している。

イ しかしながら、引用例1に記載された発明において、「第2非水電解質二次電池」の電池電圧が急激に立ち上がる位置の残存電池容量が、「第1非水電解質二次電池」における「満充電電圧のときの残存電池容量」よりも小さくなることは考え難い。以下、この点について説明する。

ウ 上記(2-3)イに記載したように、2つの電池が直列接続された引用発明の電池ユニットにおいて充電を行ったとき、充電開始時を基準にして容量を測定すると、「非水電解質二次電池B2」の満充電容量と、「非水電解質二次電池A2」の満充電容量とは、同じ容量になる。
そして、「非水電解質二次電池B2」において電池電圧が急激に立ち上がるということは、満充電に近くなってそれ以上充電が進まなくなること、すなわち、充電電流が流れなくなることを意味する。このとき、「非水電解質二次電池B2」に直列接続された「非水電解質二次電池A2」においても充電電流は流れなくなるから、2つの電池の充電は同時に終了することとなる。
したがって、「非水電解質二次電池A2」(「第1非水電解質二次電池」)に充電される容量は、最大でも、「非水電解質二次電池B2」(「第2非水電解質二次電池」)の電池電圧が急激に立ち上がる位置の残存電池容量と同じ大きさにしかならず、当該残存電池容量を超える大きさとなることはない。
よって、上記アの主張は失当であり、採用できない。

エ なお、上記ウの事項は、次の点からも説明することができる。仮に、「非水電解質二次電池A2」の最大充電容量を、「非水電解質二次電池B2」の最大充電容量よりも大きく設定した状態で充電を行ったとすると、「非水電解質二次電池B2」において、電池電圧が急激に立ち上がり、満充電に近くなるが、このとき、「非水電解質二次電池A2」も同時に充電が止まるので、最大充電容量まで充電されない状態で「非水電解質二次電池A2」の充電が終了することとなる。
つまり、「非水電解質二次電池A2」の最大充電容量を「非水電解質二次電池B2」の最大充電容量よりも大きく設定しても、「非水電解質二次電池B2」の最大充電容量を超える「非水電解質二次電池A2」の容量は使われないこととなり、無駄となる。
当業者であれば、そのような無駄なことはコスト増や性能低下の要因となるので行わないといえるから、「非水電解質二次電池A2」の最大充電容量を、「非水電解質二次電池B2」の最大充電容量よりも大きく設定することはない。
したがって、請求人が主張するような、「第2非水電解質二次電池」(「非水電解質二次電池B2」)の電池電圧が急激に立ち上がる位置の残存電池容量が、「第1非水電解質二次電池」(「非水電解質二次電池A2」)における「満充電電圧のときの残存電池容量」よりも小さいということになる、ということはない。

(4-2)効果に関して
ア 請求人は、平成27年10月7日付けの意見書の(2-2)において、本願発明の効果について、「『i)複数の非水電解質二次電池を直列接続して組電池を構成する場合、その非水電解質二次電池の中に、上記電流遮断装置を備えると共に、活物質の主材料をリン酸鉄リチウム化合物とした非水電解質二次電池を含めることで、他のリチウム化合物を活物質とする非水電解質二次電池と直列に接続して組電池を構成すれば、組電池全体として極めて安定して電流遮断装置を動作させ得ることとなり、電池温度の上昇も抑制できる。
ii)第2の電池には電流遮断装置を備えないようにすることによって電池の内部抵抗を低減することができるとともに、部品点数削減によって製造コストを低減することができる。
iii)第2の電池の満充電電圧は、所望の仕様に応じて適宜設定される電圧であり、通常は、目的の充放電容量が得られるように設定される。例えば、電池電圧4V?4.3Vである。そのほか、電池の劣化を考慮して、高温条件下で使用される場合には、残存電池容量が減少するというデメリットがあるものの、いくらか低めの満充電電圧が設定されることもある。つまり、上記の発明は、第2の電池が通常の方法で設定された充電および放電のセットを設計の通りに繰り返している場合には、第1の電池の電流遮断装置が遮断作動しないようにするというものである。
従って、上記第2の電池の電池電圧が例えば4.3Vとなってほぼ満充電の状態となったときでも、上記第1の電池は、それの電池電圧が急激に立ち上がる状態には至っておらず、上記第2の電池容量を確実に活用しながら、満充電時の容量を越えて充電反応が進んでしまった時、上記第1の電池によって過充電状態等の場合に的確に電流遮断させることができる。』という点に特有の作用効果を奏するものです。」と主張している。

イ しかしながら、引用発明においても、活物質の主材料をオリビン型リン酸鉄リチウムLiFePO_(4)とした非水電解質二次電池を含む直列接続した非水電解質二次電池からなる電池ユニットを構成している点で、本願発明1と共通しているので、上記i)と同様の効果を奏しているといえる。

ウ また、引用発明においても、「二つの非水電解質二次電池のうち、前記非水電解質二次電池B2に、・・・電流遮断弁が備えられて」いるということは、非水電解質二次電池A2には電流遮断弁が備えられていないということを意味するから、「第2の電池には電流遮断装置を備えない」という点で、本願発明1と共通しているので、上記ii)と同様の効果を奏しているといえる。

エ さらに、引用発明は、「非水電解質二次電池B2」と「非水電解質二次電池A2」とを直列に接続した電池ユニットであるところ、上記(2-2)アで検討したように、『「非水電解質二次電池B2」の充電において、通常時充電電圧は、上限充電電圧4.2Vよりも低い3.5?3.8V程度に設定されている』から、「非水電解質二次電池B2」を通常時充電電圧で充電するときに「非水電解質二次電池A2」も同時に充電されるので、「非水電解質二次電池A2」の電池容量は確実に活用されているということができ、仮に、充電反応が進んで「非水電解質二次電池B2」の充電電圧が上限充電電圧に達した場合には、電気抵抗が大きく上昇するので、「非水電解質二次電池B2」によって的確に電流が遮断されるものである。したがって、引用発明においても、「上記第2の電池容量を確実に活用しながら、満充電時の容量を越えて充電反応が進んでしまった時、上記第1の電池によって過充電状態等の場合に的確に電流遮断させることができる。」という上記iii)と同様の効果を奏しているといえる。

オ もしくは、上記(2-5)オで検討したように、引用発明において、『「非水電解質二次電池B2」を充電する際の設定電圧として、上限充電電圧4.2Vよりも低い、3.5?3.8Vの通常時充電電圧とすることは、当業者が容易になし得る』から、上記エと同様の理由によって、引用発明において、「上記第2の電池容量を確実に活用しながら、満充電時の容量を越えて充電反応が進んでしまった時、上記第1の電池によって過充電状態等の場合に的確に電流遮断させることができる。」という上記iii)と同様の効果を奏するものとすることができるといえる。

カ したがって、本願発明1の奏する効果は、引用発明の奏する効果に比べて格別のものであるとはいえない。

(5)判断のまとめ
本願発明1は、引用例1に記載された発明、引用例2の記載事項及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当審拒絶理由で示したとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-04 
結審通知日 2015-12-08 
審決日 2015-12-25 
出願番号 特願2010-222948(P2010-222948)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 河本 充雄
池渕 立
発明の名称 組電池  
代理人 前井 茂樹  

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