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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05C |
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管理番号 | 1311190 |
審判番号 | 不服2015-9159 |
総通号数 | 196 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-05-18 |
確定日 | 2016-02-12 |
事件の表示 | 特願2013-212590「ロールコータ式塗装装置及び塗装方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月 6日出願公開、特開2014- 39929〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年3月15日に出願した特願2012-59258号(以下、「原出願」という。)の一部を平成25年10月10日に新たな特許出願としたものであって、同日に上申書が提出され、平成26年7月9日付けで拒絶理由が通知され、同年9月8日に意見書が提出されたが、平成27年3月19日付けで拒絶査定がされ、同年5月18日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 塗料を収容する塗料パンと、 前記塗料パンから前記塗料を汲み上げるピックアップロールと 前記ピックアップロールが汲み上げた前記塗料を被塗物に塗布するアプリケータロールとを備えるロールコータ式塗装装置において、 前記アプリケータロールが前記ピックアップロールの表面の前記塗料を取った後から前記ピックアップロールが前記塗料パンから再度前記塗料を汲み上げるまでの期間に、前記ピックアップロールの表面に対して転がり抵抗を与えることによって、前記ピックアップロールの表面に残留する前記塗料を除去する除去部をさらに備えることを特徴とするロールコータ式塗装装置。」 第3 引用文献の記載等 1 引用文献の記載 原査定の拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に日本国内において、頒布された刊行物である実願平3-7232号(実開平4-98462号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献」という。)には、「ロールコート装置」に関して、図面とともにおおむね次の記載(以下、順に「記載1a」ないし「記載1d」という。)がある。 1a 「【0005】 本考案はかかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、ウェブに対して溶剤系の塗工液を表面が平滑になるように塗布することが可能なロールコート装置を提供することを目的とする。 【0006】 また、本考案は、ウェブに対してのりカスを混入させることなくエマルジョン系接着剤を塗布することの可能なロールコート装置を提供することを目的とする。」(段落【0005】及び【0006】) 1b 「【0007】 【課題を解決するための手段】 本考案者等は上記問題点を解決すべく鋭意検討の結果、これらの問題点がファニッシャーロールやコーティングロール上に残留した塗工液によって生じていることを見出した。すなわち、図4において、ファニッシャーロール4やコーティングロール3上には、コーティングロールとの接触部A、ウェブとの接触部Bを通過した後も一部の塗工液が残留する。溶剤系の塗工液を用いる場合、ファニッシャーロールやコーティングロール上の残留塗工液には外見上ほとんど変化は見られず、例えばのりカス等の固形分はほとんど生じないが、乾燥による粘度上昇が生じたり,接触部A、Bで混練されることによって物性が変化しており、この変化した残留塗工液がウェブ1に塗布される塗工液中に混入することにより、塗布膜表面に凹凸が生じていた。また、エマルジョン系塗工液を用いる場合には、ファニッシャーロールやコーティングロール上の残留塗工液が乾燥して、固形化したカス(のりカス)が生じやすく、そののりカスがウェブに塗布されたり、ファニッシャーロールとコーティングロールとの接触部Aに引っ掛かって、コーティングロールへの塗工液付与を部分的に妨げ、これにより製品品質不良が生じていた。 【0008】 本考案はかかる知見に基づいてなされたもので、コーティングロールとファニッシャーロールとを備えたロールコート装置において、前記ファニッシャーロールに、そのファニッシャーロールと前記コーティングロールとの接触部の下流において接触し、残留塗工液をかき取るドクターブレードを設けたことを特徴とする。 【0009】 また、本考案はコーティングロールに、そのコーティングロールとウェブとの接触部の下流において接触し、残留塗工液をかき取るドクターブレードを設けたことを特徴とする。なお、この場合にはコーティングロールに塗工液を付与する手段はファニッシャーロールでも良いし、その他の手段を用いてもよい。 【0010】 本考案を、コーティングロールとファニッシャーロールとを備えたロールコート装置に適用する場合において、ドクターブレードはコーティングロールとファニッシャーロールのいずれか一方のみに設ける場合に限らず、両者に設けてもよい。」(段落【0007】ないし【0010】) 1c 「【0012】 【実施例】 図1は本考案の一実施例によるロールコート装置の概略側面図であり、図4の従来例と同一部品には同一符号を付けて示している。図1において、1は塗工液を塗布されるべきウェブ、2は塗工液、3はコーティングロール、4はファニッシャーロール、5は塗工液タンク、6は押圧ロールである。8はファニッシャーロール4に接触するように設けられたドクターブレードである。このドクターブレード8は、ファニッシャーロール4とコーティングロール3との接触部Aよりも下流側に配置されている。ドクターブレード8の材質としては、ファニッシャーロールを傷つけることがなく、かつ塗布剤に耐えるものであれば、金属、プラスチック等任意である。 【0013】 上記構成のロールコート装置では、塗工液タンク5内の塗工液2がファニッシャーロール4の周面に付着し、接触部Aでコーティングロール3に一定厚みに移され、接触部Bでウェブ1に塗布される。一方、接触部Aを通過したファニッシャーロール4表面には塗工液が少量残留しているが、その残留塗工液はドクターブレード8によってかき取られる。このため、ファニッシャーロール4は残留塗工液がほとんど無い状態で再び塗工液2内に入り、新鮮な塗工液を汲み上げ、コーティングロール3に付与する。かくして、コーティングロール3は常時、ファニッシャーロールから新鮮な塗工液2を付与され、それをウェブ1に塗布することができる。なお、ドクターブレード8でファニッシャーロール4上の残留塗工液をかき取るが、そのかき取られた残留塗工液はドクターブレード8の両端から塗工液タンク5内に戻される。使用する塗工液の種類によっては、乾燥が早く固形化したのりカスが生じやすい場合がある。その場合には、ドクターブレード8の両端の下にかき取った塗工液を受ける樋を設け、適当なフィルタを通して塗工液タンク5或いは塗工液循環タンク(図示せず)に戻すようにすることが好ましい。 【0014】 図2は本考案の他の実施例を示す概略側面図、図3はその概略斜視図である。同図において、コーティングロール3の、ウェブ1に対する接触部Bの下流側に、ドクターブレード9が配置され,コーティングロール3上の残留塗工液をかき取るように構成している。更に、図3に示すように、そのドクターブレード9の両端下方には、かき取った塗工液を回収するための樋10が設けられ、この樋10は、循環タンク(図示せず)に接続されている。かくして、この実施例では、コーティングロール3上に付与された塗工液がウェブ1との接触部Bでウェブ1に塗布された後、そのコーティングロール3上に残留した塗工液がドクターブレード9でかき取られ、樋10を介して循環タンクに回収される。このため、コーティングロール3は、その周面上に残留塗工液がほとんど無い状態でファニッシャーロール4から新鮮な塗工液2を付与され、それをウェブ1に塗布することができる。 【0015】 図1、図2に示した実施例のロールコート装置は、ラミネート装置における接着剤塗布装置として好適に使用できる。その場合、塗工液としては、溶剤系の接着剤でも或いはエマルジョン系の接着剤でもよい。溶剤系の接着剤を用いた場合には、コーティングロール3或いはファニッシャーロール4上に残留して変質した塗工液が除去され、新鮮な塗工液がウェブに塗布されることにより、ウェブ1上に塗布された塗工液表面はきわめて平滑で凹凸があまり生じない。そのため、その上に他のウェブを貼り合わせて得られたラミネート製品は極めて外観が良い。また、エマルジョン系の接着剤を用いた場合にも、コーティングロール3或いはファニッシャーロール4上に残留して乾燥、固形化したのりカスが除去されるので、こののりカスがウェブに塗布されることがなく、また、のりカスがコーティングロール3とファニッシャーロール4の接触部に引っ掛かってコーティングロールへの塗工液の供給を妨げるということがない。かくして、ウェブへの良好な塗布が行われ、製品品質の向上を図ることができる。」(段落【0012】ないし【0015】) 1d 「【0016】 なお、上記実施例では本考案のロールコート装置をラミネート装置における接着剤塗布に用いた場合を説明したが、本考案は必ずしもこの場合に限らず、他の塗工液の塗布に用いてもよいことは言うまでもない。」(段落【0016】) 2 引用文献の記載事項 記載1aないし1d及び図面の記載から、引用文献には、次の事項(以下、順に「記載事項2a」ないし「記載事項2e」という。)が記載されていると認める。 2a 記載1cの「図1において、1は塗工液を塗布されるべきウェブ、2は塗工液、3はコーティングロール、4はファニッシャーロール、5は塗工液タンク、6は押圧ロールである。」(段落【0012】)及び図面によると、引用文献には、塗工液2を収容する塗工液タンク5が記載されている。 2b 記載1cの「上記構成のロールコート装置では、塗工液タンク5内の塗工液2がファニッシャーロール4の周面に付着し、接触部Aでコーティングロール3に一定厚みに移され、接触部Bでウェブ1に塗布される。一方、接触部Aを通過したファニッシャーロール4表面には塗工液が少量残留しているが、その残留塗工液はドクターブレード8によってかき取られる。このため、ファニッシャーロール4は残留塗工液がほとんど無い状態で再び塗工液2内に入り、新鮮な塗工液を汲み上げ、コーティングロール3に付与する。かくして、コーティングロール3は常時、ファニッシャーロールから新鮮な塗工液2を付与され、それをウェブ1に塗布することができる。」(段落【0013】)及び図面を記載事項2aとあわせてみると、引用文献には、塗工液タンク5から塗工液2を汲み上げるファニッシャーロール4が記載されている。 2c 記載1cの「上記構成のロールコート装置では、塗工液タンク5内の塗工液2がファニッシャーロール4の周面に付着し、接触部Aでコーティングロール3に一定厚みに移され、接触部Bでウェブ1に塗布される。一方、接触部Aを通過したファニッシャーロール4表面には塗工液が少量残留しているが、その残留塗工液はドクターブレード8によってかき取られる。このため、ファニッシャーロール4は残留塗工液がほとんど無い状態で再び塗工液2内に入り、新鮮な塗工液を汲み上げ、コーティングロール3に付与する。かくして、コーティングロール3は常時、ファニッシャーロールから新鮮な塗工液2を付与され、それをウェブ1に塗布することができる。」(段落【0013】)及び図面を記載事項2a及び2bとあわせてみると、引用文献には、ファニッシャーロール4が汲み上げた塗工液2をウェブ1に塗布するコーティングロール3が記載されている。 2d 記載1a及び記載1cの「図1は本考案の一実施例によるロールコート装置の概略側面図であり、図4の従来例と同一部品には同一符号を付けて示している。」(段落【0012】)並びに図面を記載事項2aないし2cとあわせてみると、引用文献には、ロールコート装置が記載されている。 2e 記載1cの「8はファニッシャーロール4に接触するように設けられたドクターブレードである。このドクターブレード8は、ファニッシャーロール4とコーティングロール3との接触部Aよりも下流側に配置されている。」(段落【0012】)及び「一方、接触部Aを通過したファニッシャーロール4表面には塗工液が少量残留しているが、その残留塗工液はドクターブレード8によってかき取られる。このため、ファニッシャーロール4は残留塗工液がほとんど無い状態で再び塗工液2内に入り、新鮮な塗工液を汲み上げ、コーティングロール3に付与する。」(段落【0013】)並びに図面を記載事項2aないし2dとあわせてみると、引用文献には、コーティングロール3がファニッシャーロール4の表面の塗工液を付与された後からファニッシャーロール4が塗工液タンク5から再度塗工液2を汲み上げるまでの期間に、ファニッシャーロール4の表面に残留する塗工液2をかき取るドクターブレード8が記載されている。 3 引用発明 記載1aないし1d、記載事項2aないし2e及び図面を整理すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「塗工液2を収容する塗工液タンク5と、 前記塗工液タンク5から前記塗工液2を汲み上げるファニッシャーロール4と 前記ファニッシャーロール4が汲み上げた前記塗工液2をウェブ1に塗布するコーティングロール3とを備えるロールコート装置において、 前記コーティングロール3が前記ファニッシャーロール4の表面の前記塗工液2を付与された後から前記ファニッシャーロール4が前記塗工液タンク5から再度前記塗工液2を汲み上げるまでの期間に、前記ファニッシャーロール4の表面に残留する前記塗工液2をかき取るドクターブレード8をさらに備えるロールコート装置。」 第4 対比 本願発明と引用発明を対比する。 引用発明における「塗工液2」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「塗料」と、「塗られる液」という限りにおいて一致する。 また、引用発明における「塗工液タンク5」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「塗料パン」に、「パン」という限りにおいて一致する。 さらに、引用発明における「ファニッシャーロール4」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「ピックアップロール」に相当し、以下、同様に、「ウェブ」は「被塗物」に、「コーティングロール3」は「アプリケータロール」に、「ロールコート装置」は「ロールコータ式塗装装置」に、「付与された」は「取った」に、「かき取る」は「除去する」に、それぞれ、相当する。 さらにまた、上記相当関係を踏まえると、引用発明における「前記ファニッシャーロール4の表面に残留する前記塗工液2をかき取るドクターブレード8」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明における「前記ピックアップロールの表面に対して転がり抵抗を与えることによって、前記ピックアップロールの表面に残留する前記塗料を除去する除去部」と、「前記ピックアップロールの表面に残留する前記塗られる液を除去する除去部」という限りにおいて一致する。 したがって、両者は、以下の点で一致する。 「塗られる液を収容するパンと、 前記パンから前記塗られる液を汲み上げるピックアップロールと 前記ピックアップロールが汲み上げた前記塗られる液を被塗物に塗布するアプリケータロールとを備えるロールコータ式塗装装置において、 前記アプリケータロールが前記ピックアップロールの表面の前記塗られる液を取った後から前記ピックアップロールが前記パンから再度前記塗られる液を汲み上げるまでの期間に、前記ピックアップロールの表面に残留する前記塗られる液を除去する除去部をさらに備えるロールコータ式塗装装置。」 そして、以下の点で相違する。 <相違点1> 「塗られる液」及び「パン」に関して、本願発明においては、「塗料」及び「塗料パン」であるのに対し、引用発明においては、「塗工液2」及び「塗工液タンク5」である点(以下、「相違点1」という。)。 <相違点2> 「前記ピックアップロールの表面に残留する前記塗られる液を除去する除去部」に関して、本願発明においては、「前記ピックアップロールの表面に対して転がり抵抗を与えることによって、前記ピックアップロールの表面に残留する前記塗料を除去する除去部」であるのに対し、引用発明においては、「前記ファニッシャーロール4の表面に残留する前記塗工液2をかき取るドクターブレード8」である点(以下、「相違点2」という。)。 第5 相違点に対する判断 そこで、相違点1及び2について、以下に検討する。 1 相違点1について 記載1dによると、引用発明における「塗工液2」は、接着剤に限らず他の塗工液でもよく、ロールコート装置の塗工液として塗料があることは、原出願の出願前に周知(必要であれば、下記1-1等を参照。以下、「周知技術1」という。)である。 したがって、引用発明において、周知技術1を適用し、「塗工液2」として塗料を選択し、「塗工液タンク」を「塗料パン」とすることによって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 1-1 特開平7-96238号公報の記載 原出願の出願前に日本国内において、頒布された刊行物である特開平7-96238号公報には、「ロールコータ式塗装装置」に関して、図面とともにおおむね次の記載がある(なお、下線は当審で付したものである。他の文献も同様。)。 ・「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ロールコータ式塗装装置、特に塗工液に分離・沈降し易い成分が含まれている場合でも、均一な塗膜で帯状体を塗装することができるロールコータ式塗装装置に関する。」(段落【0001】) ・「【0021】この図2は、凝収タイプのシリカを含有する有機溶剤系の塗料を、前記図3、図4に示した従来の塗装装置と、本実施例の塗装装置(本発明)とで、それぞれ鋼板Sに塗装して得られた塗膜について分析したシリカ含有率を、実験的に沈降等のない理想的な状態で塗装した場合(実験材)の塗膜のそれとを比較して示したグラフである。」(段落【0021】) 2 相違点2について 記載1bの「本考案はかかる知見に基づいてなされたもので、コーティングロールとファニッシャーロールとを備えたロールコート装置において、前記ファニッシャーロールに、そのファニッシャーロールと前記コーティングロールとの接触部の下流において接触し、残留塗工液をかき取るドクターブレードを設けたことを特徴とする。」(段落【0008】)及び記載1cの「ドクターブレード8でファニッシャーロール4上の残留塗工液をかき取る」(段落【0013】)によると、引用発明における「ドクターブレード8」は、残留塗工液をかき取るものであるから、除去ブレードであるといえる。 他方、ピックアップロールではないものの、ロール上に残留する塗工液や塗料等の液体を除去する手段として、除去ブレード(以下、「前者」という。)及び周速を設定可能な除去ローラ、すなわちロールの表面に対して転がり抵抗を与えることによって、液体を除去するローラ(以下、「後者」という。)があること、前者及び後者の双方が置換可能であること並びに前者を用いるよりも後者を用いることによってロールに印加するストレスを低減できることは、原出願の出願前に周知(必要であれば、下記2-1等を参照。以下、「周知技術2」という。なお、ロール上に残留する塗工液や塗料等の液体を除去する手段として、ロールの表面に対して転がり抵抗を与えることによって、液体を除去するローラがあることは、原出願の出願前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2009-95739号公報の段落【0020】ないし【0035】及び図面並びに特開2010-179591号公報の段落【0025】ないし【0029】及び図面にも記載されている。)である。 また、記載1bの「本考案者等は上記問題点を解決すべく鋭意検討の結果、これらの問題点がファニッシャーロールやコーティングロール上に残留した塗工液によって生じていることを見出した。すなわち、図4において、ファニッシャーロール4やコーティングロール3上には、コーティングロールとの接触部A、ウェブとの接触部Bを通過した後も一部の塗工液が残留する。溶剤系の塗工液を用いる場合、ファニッシャーロールやコーティングロール上の残留塗工液には外見上ほとんど変化は見られず、例えばのりカス等の固形分はほとんど生じないが、乾燥による粘度上昇が生じたり,接触部A、Bで混練されることによって物性が変化しており、この変化した残留塗工液がウェブ1に塗布される塗工液中に混入することにより、塗布膜表面に凹凸が生じていた。また、エマルジョン系塗工液を用いる場合には、ファニッシャーロールやコーティングロール上の残留塗工液が乾燥して、固形化したカス(のりカス)が生じやすく、そののりカスがウェブに塗布されたり、ファニッシャーロールとコーティングロールとの接触部Aに引っ掛かって、コーティングロールへの塗工液付与を部分的に妨げ、これにより製品品質不良が生じていた。」(段落【0007】)及び「本考案はかかる知見に基づいてなされたもので、コーティングロールとファニッシャーロールとを備えたロールコート装置において、前記ファニッシャーロールに、そのファニッシャーロールと前記コーティングロールとの接触部の下流において接触し、残留塗工液をかき取るドクターブレードを設けたことを特徴とする。」(段落【0008】)によると、引用発明は、ファニッシャーロール4上の残留塗工液をかき取ることを目的とし、そのためにドクターブレード8を設けたものであるから、ドクターブレード8と同様の機能を有するものである限り、ファニッシャーロール4上の残留塗工液をかき取るという引用発明の目的に反することはなく、引用発明に周知技術2が適用されると機能しなくなることもないし、引用文献中に周知技術2の適用を排除する記載もないし、引用文献中に周知技術2が劣る例として記載されてもいないので、引用発明に周知技術2を適用することを阻害する事情はない。 したがって、引用発明において、周知技術2を適用し、「前記ファニッシャーロール4の表面に残留する前記塗工液2をかき取るドクターブレード8」に代えて、「前記ファニッシャーロール4の表面に対して転がり抵抗を与えることによって、前記ピックアップロールの表面に残留する前記塗料を除去する除去部」とすることによって、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 なお、請求人は、審判請求書において、多数の実例が存在することが進歩性の判断に必要である旨主張するが、特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節3.進歩性の具体的な判断に「審査官は、先行技術の中から、論理付けに最も適した一の引用発明を選んで主引用発明とし、以下の(1)から(4)までの手順により、主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否かを判断する。」(http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/tukujitu_kijun/03_0202.pdf)と記載されているとおり、進歩性の判断は、主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否かを判断することにより行われるものであって、多数の実例が存在することは進歩性の判断に必ずしも必要なものではない。 2-1 特開2000-279863号公報の記載 原査定の拒絶の理由で引用され、原出願の出願前に日本国内において、頒布された刊行物である特開2000-279863号公報には、「液体塗布装置」に関して、図面とともにおおむね次の記載がある。 ・「【0040】現像ローラ2には、その回転方向における上記ニップよりも下流側で、且つ、塗布ローラ4との当接部よりも上流側において、残留液除去部材としての除去ブレード3a、3b、3cが当接している。 【0041】以上の構成の現像装置12においては、現像ローラ2の回転方向の最上流に位置する除去ブレード3aで除去しきれなかった現像ローラ2上の残留現像液を、下流側に位置する除去ブレード3bで除去することができる。更に、除去ブレード3bで除去しきれなかった残留現像液を除去ブレード3cで除去することができる。従って、除去ブレード3を1つしか設けていない場合よりも、除去ブレード3と現像ローラ2との当接圧力を低減しながら、現像ローラ2上の残留現像液を確実に除去することができる。」(段落【0040】及び【0041】) ・「【0043】 図2は本第1実施形態の現像装置の変形例装置を示す模式図である。図示のように、この変形例装置においては、除去ブレード3a、3b、3cの代わりに、残留液除去部材としての除去ローラ3a-1、3b-1、3c-1が現像ローラ2に当接している。このように、残留液除去部材として、エッジのあるブレード状部材ではなく、エッジのないローラ状部材を用いるように構成したことで、ブレード状部材を用いる場合よりも、現像ローラ2に印加するストレスを低減することができる。 ・・・(略)・・・ 【0049】また、本変形例装置においては、各除去ローラの周速を現像ローラ2の周速よりも速く設定することが望ましい。このように設定することで、残留現像液の除去効率をより向上させることができる。」(段落【0043】ないし【0049】) 3 効果について そして、記載1aの「本考案は、ウェブに対してのりカスを混入させることなく」(段落【0006】)及び記載1cの「また、エマルジョン系の接着剤を用いた場合にも、コーティングロール3或いはファニッシャーロール4上に残留して乾燥、固形化したのりカスが除去されるので、こののりカスがウェブに塗布されることがなく、また、のりカスがコーティングロール3とファニッシャーロール4の接触部に引っ掛かってコーティングロールへの塗工液の供給を妨げるということがない。かくして、ウェブへの良好な塗布が行われ、製品品質の向上を図ることができる。」(段落【0015】)からみて、引用発明は、ウェブに対してのりカスという異物を混入させないという効果を奏するものであるから、請求人が審判請求書において主張する「異物の混入を抑制する」という本願発明の効果は、引用発明からみて格別顕著なものとはいえない。 したがって、本願発明を全体としてみても、本願発明が、引用発明並びに周知技術1及び2からみて、格別顕著な効果を奏するとはいえない。 第6 むすび 上記第5のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-12-04 |
結審通知日 | 2015-12-08 |
審決日 | 2015-12-21 |
出願番号 | 特願2013-212590(P2013-212590) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B05C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大野 明良、土井 伸次、大谷 光司 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 槙原 進 |
発明の名称 | ロールコータ式塗装装置及び塗装方法 |
代理人 | 吉村 哲郎 |
代理人 | 鈴江 正二 |