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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1311400
審判番号 不服2015-4566  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-09 
確定日 2016-02-18 
事件の表示 特願2011- 38730「インプリント用硬化性組成物およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月10日出願公開、特開2012-175071〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成23年2月24日の出願であって、平成26年5月29日付けで拒絶理由が通知され、同年7月31日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたが、同年12月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成27年3月9日に該拒絶査定を不服として審判請求がなされ、同時に手続補正書が提出され、同年5月12日に上申書が提出されたものである。


第2 本願発明について
本願請求項1ないし5に係る発明は、平成27年3月9日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものであると認められる。

「(A)重合性単量体および(B)重合開始剤を含有する組成物に対して、1気圧25℃の液中における溶存気体量が150ppm以下で、かつ、脱気前後の溶存気体の差が50ppm以上となるように脱気することを特徴とする、インプリント用硬化性組成物の製造方法。」


第3 引用刊行物
1 引用刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2010/102471号明細書(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。訳は当審にてなした。)。

(1)「[0003]An exemplary nano-fabrication technique in use today is commonly referred to as imprint lithography. Exemplary imprint lithography processes are described in detail in numerous publications, such as U.S. Patent Publication No. 2004/0065976, U.S. Patent Publication No. 2004/0065252, and U.S. Pat. No. 6,936,194, all of which are hereby incorporated by reference.」
(当審訳)
今日用いられる典型的なナノ-製造技術は、一般にインプリントリソグラフィとして示されるものである。典型的なインプリントリソグラフィ技術の方法は、米国特許出願公開第2004/0065976号明細書、米国特許出願公開第2004/0065252号明細書及び米国特許第6936194号明細書のような数多くの刊行物に詳細に記述されるものであり、ここでは参考文献によりすべてが組み入れられる。

(2)「[0029]・・・Polymerizable material 134 may comprise a monomer as described in U.S. Pat. No. 7,157,036 and U.S. Patent Publication No. 2005/0187339, all of which are hereby incorporated by reference.」
(当審訳)
重合性材料134は、米国特許第7157036号明細書、米国特許第2005/187339号明細書に記載される単量体を含むものとしてもよく、ここでは参考文献によりすべてが組み入れられる。

(3)「[0031]Either imprint head 130 , stage 106 , or both vary a distance between mold 120 and substrate 102 to define a desired volume therebetween that is filled by polymerizable material 134 . For example, imprint head 130 may apply a force to template 108 such that mold 120 contacts polymerizable material 134 . For example, as illustrated in FIG. 2 , after the desired volume is filled with polymerizable material 134 , source 138 produces energy 140 , e.g., broadband ultraviolet radiation, causing polymerizable material 134 to solidify and/or cross-link conforming to shape of a surface 144 of substrate 102 and patterning surface 122 , defining a patterned layer 202 on substrate 102 . ・・・」
(当審訳)
インプリントヘッド130、ステージ106、又はその両者は、重合性材料134によって満たされたそれらの間にある望まれた量を限定するように、モールド120と基板102との間の距離を変化させる。例えば、インプリントヘッド130はモールド120が重合性材料134と接触するように、力をテンプレート108に与えてもよい。例えば、図2に示されるように、望まれる量が重合性材料134で満たされた後、光源138は、重合性材料134を基板102の表面144の型となるように固化及び/又は架橋して、基板102上にパターン化された層202を形成するようにする、エネルギー140、例えばブロードバンドの紫外線を生じさせる。

(4)「[0034]As described above, polymerizable material 134 may be positioned upon substrate 102 . Fluid dispensing system 132 may be used to deposit polymerizable material 134 or other fluids. FIG. 3 illustrates a fluid dispensing system 132 comprising a dispense head 302 and a dispense system 304 for depositing polymerizable material 134 on substrate 102 . ・・・」
(当審訳)
上述したように、重合性材料134は、基板102上に配置される。液体滴下システム133は、重合性材料134又は他の液体を滴下するために用いられる。図3は、基板102上に重合性材料134を滴下するための滴下ヘッド302及び滴下システム304からなる液体滴下システム132を示す。

(5)「[0050]Transport system 1500 may include degassers for removing dissolved gases. Removal of gasses by degassers may reduce the occurrences of bubbles within the dispense head 302 and/or reduce gases being dispensed by dispense head 302 that may result in defects in the imprinting process. Generally, degassers may be located between reservoirs 1502 and/or 1504 and dispense head 302 . Additionally, tubing may include bubble sensors for identifying air pockets. For example, bubble sensors may be capacitive sensors, laser sensors, and/or the like.」
(当審訳)
輸送システム1500は、溶存気体を除去する脱気装置を含めてもよい。脱気装置によって気体を除去することにより、滴下ヘッド302内のバブルの発生を減じるようにし、及び/又はインプリンティングプロセスにおける欠陥となる滴下ヘッド302により滴下される気体を減じるようにしてもよい。一般に、脱気装置は容器1502及び/又は1504と滴下ヘッド302との間に位置されるものである。さらに、管はエアポケットを特定するためのバブルセンサを含んでもよい。例えば、バブルセンサは、静電センサ、レーザセンサ、及び/又はそのようなものでもよい。

(6)図1

(7)図2


(8)図3


(9)図15

2 引用発明
(1)上記「1」の(2)ないし(4)の重合性材料134が、上記「1」の(1)のインプリント用であることは、明らかである。

(2)上記「1」の(4)、(6)、(8)、(9)の液体滴下システム132における滴下ヘッド302と重合性材料134の記載により、上記(5)の滴下ヘッド302が重合性材料134を滴下するものであることは明らかであるから、上記(5)の脱気装置によって気体を除去することは、滴下ヘッド302内の重合性材料134中の溶存気体を除去することであり、また、重合性材料134の製造方法であるといえる。

(3)上記「1」の(1)ないし(9)、上記(1)及び(2)から、引用文献1には、
「ブロードバンドの紫外線により、基板102の表面144の型となるように固化及び/又は架橋され、基板102上にパターン化された層202を形成する、単量体を含む重合性材料134中の溶存気体を除去する脱気装置によって気体を除去することにより、インプリンティングプロセスにおける欠陥となる前記滴下ヘッド302により滴下される気体を減じるようにする、インプリント用重合性材料の製造方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。


第4 本願発明と引用発明との対比
1 引用発明の「ブロードバンドの紫外線により、基板102の表面144の型となるように固化及び/又は架橋され、基板102上にパターン化された層202を形成する、単量体を含む重合性材料134」は、本願発明の「(A)重合性単量体」「を含有する組成物」及び「硬化性組成物」に相当する。

2 引用発明の「前記重合性材料134中の溶存気体を除去する脱気装置によって気体を除去することにより、インプリンティングプロセスにおける欠陥となる前記滴下ヘッド302により滴下される気体を減じるようにする」ことは、本願発明の「(A)重合性単量体」「を含有する組成物に対して、」「脱気すること」に相当する。

上記1及び2より、本願発明と引用発明とは、
「(A)重合性単量体を含有する組成物に対して、脱気する、インプリント用硬化性組成物の製造方法。」である点で一致し、以下の相違点1、2で相違する。

<相違点1>
「組成物」が、本願発明では、「(B)重合開始剤を含有する」のに対して、引用発明では、重合開始剤を含有することが明らかでない点。

<相違点2>
「脱気する」ことについて、本願発明では、「1気圧25℃の液中における溶存気体量が150ppm以下で、かつ、脱気前後の溶存気体の差が50ppm以上となるように脱気する」のに対して、引用発明では、「溶存気体量」及び「脱気前後の溶存気体の差」は明らかでない点。


第5 当審の判断
1 相違点1についての検討
引用発明の「単量体を含む重合性材料134」は、「ブロードバンドの紫外線により、基板102の表面144の型となるように固化及び/又は架橋され、基板102上にパターン化された層202を形成する」ものであるところ、「ブロードバンドの紫外線により、固化及び/又は架橋され」る「単量体を含む重合性材料134」が重合開始剤を含有することは慣用手段であるから、引用発明の「単量体を含む重合性材料134」が重合開始剤を含有するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

2 相違点2についての検討
(1)引用発明は「前記重合性材料134中の溶存気体を除去する脱気装置によって気体を除去することにより、インプリンティングプロセスにおける欠陥を生じる前記滴下ヘッド302により滴下される気体を減じるようにする」ものであるから、引用発明において、重合性材料134中の溶存気体量を少なくするほど、また、脱気前後の溶存気体の差を大きくするほど、インプリンティングプロセスにおける欠陥を少なくすることができることは、当業者にとって明らかである。
(2)そして、特開2000-317210号公報(当審注:原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前に頒布された刊行物である。以下「文献2」という。)の表1の実施例3の脱気以前の溶存酸素濃度、脱気以前の溶存窒素濃度はそれぞれ130ppm、190ppmであり、脱気効率(酸素除去効率)、脱気効率(窒素除去効率)はそれぞれ95%、94%である。
すると、130×0.05+190×0.06=17.9であるから、フォトレジスト液等の溶存気体量は17.9ppmで、脱気前後の溶存気体の差は302.1ppmである。
引用発明の「インプリント用重合性材料」及び文献2の「フォトレジスト液」は、リソグラフィという技術分野において脱気するという共通する課題を有する。
そして、上記(1)で述べたように、引用発明において、重合性材料134中の溶存気体量を少なくするほど、また、脱気前後の溶存気体の差を大きくするほど、インプリンティングプロセスにおける欠陥を少なくすることができるものであるから、引用発明の「単量体を含む重合性材料134」の溶存気体量及び脱気前後の溶存気体の差を、相違点2にかかる構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

3 本願発明の奏する作用・効果に関する検討
インプリント法のパターン形成における欠陥は、インプリント用硬化性組成物の溶存気体のみならず、インプリント用硬化性組成物の組成、インプリント法における温度や圧力等の雰囲気にも依存するものであるから、本願発明の「溶存気体量」の上限及び「脱気前後の溶存気体の差」の下限を規定したのみでは、本願発明の「溶存気体量」及び「脱気前後の溶存気体の差」の数値について、「溶存気体量」を少なくすること及び「脱気前後の溶存気体の差」を大きくすること以上の格別の技術的意義は認められない。
そして、上記「2」「(1)」で述べたように、引用発明において、重合性材料134中の溶存気体量を少なくするほど、また、脱気前後の溶存気体の差を大きくするほど、インプリンティングプロセスにおける欠陥を少なくすることができるものである。
したがって、本願発明によってもたらされる作用・効果は、引用発明から当業者が予測し得る程度のものであって、格別なものではない。

4 平成27年5月12日付けで提出された上申書について
(1)請求人は、上申書の「(2)」において「本発明では、当業者が通常考慮しないレベルの溶存気体量がパターン形成性に寄与していることを見出した点に技術的意義があります。」と主張している。
しかしながら、上記「2」「(2)」で述べたように、フォトレジスト液等の溶存気体量は17.9ppmで、脱気前後の溶存気体の差は302.1ppmであり、引用発明の「インプリント用重合性材料」及び文献2の「フォトレジスト液」は、リソグラフィという技術分野において脱気するという共通する課題を有するから、インプリント用重合性材料の溶存気体量が数十ppm以下で、かつ、脱気前後の溶存気体の差が数十ppm以上であることは、当業者が考慮しない数値であるとはいえない。
よって、請求人の上記主張は、採用することができない。

(2)請求人は、上申書の「(3)」において、「請求項2および4の要件を請求項1に組み込む補正を行う用意があります。」と補正案を提示している。
しかしながら、請求項2に係る発明の「(A)重合性単量体と(B)重合開始剤のうち、少なくとも一種が1気圧25℃で固体である」ことは、特開2010-239121号公報(当審注:原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願前に頒布された刊行物である。以下「文献3」という。)の表1の実施例2、14に記載されている。また、請求項4に係る発明の「前記脱気を、中空糸膜を用いて行うこと」は、文献2の実施例2、3に記載されている。
そして、引用発明の「単量体を含む重合性材料134」の一部に固体であるものを選択することや、引用発明の「脱気する」方法として中空糸膜を用いることは、当業者にとって適宜選択可能な設計事項にすぎない。
したがって、請求項1に請求項2及び4の要件を組み込む補正を行ったとしても、引用発明及び文献2、3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、補正案のとおり補正する機会を与える必要を認めない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、上記の通り、審決する。
 
審理終結日 2015-12-18 
結審通知日 2015-12-22 
審決日 2016-01-05 
出願番号 特願2011-38730(P2011-38730)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 智也今井 彰  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 井口 猶二
伊藤 昌哉
発明の名称 インプリント用硬化性組成物およびその製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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