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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16F
管理番号 1311418
審判番号 不服2015-9976  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-28 
確定日 2016-03-15 
事件の表示 特願2011-85608「コロイダルダンパー」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月12日出願公開、特開2012-219900、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月7日の出願であって、平成26年9月17日付けの拒絶理由通知に対して、同年11月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年3月9日付け(発送日:同年3月17日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、平成26年11月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。
「シリンダと、
このシリンダに往復動自在に案内支持され、シリンダと協働して密閉空間を形成するピストンと、
多数の細孔を有し、前記密閉空間内に収容される多孔質体と、
前記多孔質体とともに前記密閉空間内に収容され、加圧時に前記多孔質体の細孔へ流入する一方、減圧時に前記多孔質体の細孔から流出する作動液体と、
前記密閉空間内に設置され、環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電すると同時に、内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電する二方向加圧の圧電素子であり、アキシアル圧力により得られる発電圧の圧電係数g_(zz)およびラジアル圧力により得られる発電圧の圧電係数g_(zr)に対して内直径と外直径との比d_(i)/d_(o)が、
【数1】
d_(i)/d_(o)=1-g_(zr)/g_(zz)
である圧電素子と
を有するコロイダルダンパー。」

第3 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1
・引用文献等 1,2
・・・

引 用 文 献 等 一 覧
1.国際公開第2008/029501号
2.特許第4359901号公報

第4 当審の判断
1.刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2008/029501号(以下「刊行物1」という。)には、「コロイダルダンパ」に関する発明が記載されており、その実施の形態1(図1参照。)を総合して、本願発明に則って整理すると、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリンダ2と、
このシリンダ2に往復動自在に案内支持され、シリンダ2と協働して密閉空間3を形成するピストン4と、
多数の細孔8aを有し、前記密閉空間3に収容される多孔質体8と、
前記多孔質体8とともに前記密閉空間3に収容され、加圧時に前記多孔質体8の細孔8aへ流入する一方、減圧時に前記多孔質体8の細孔8aから流出する液体7と
を有するコロイダルダンパ1。」

(2)同じく引用された特許第4359901号公報(以下「刊行物2」という。)には、「発電装置」に関し、次の事項が図面(特に図2参照)と共に記載されている。なお、下線は当審が付した。

ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸上走行車輌に於ける車体側固定部(1)と、車輪の上下運動によって振動が発生する振動部(2)との間に介装する振動緩和装置(3)に於いて、前記振動緩和装置(3)は、車体本体へ接合される接合部と、ピストンシリンダーに内包されるピストンを備え、前記ピストンシリンダー内に、上下運動可能なフリーピストンと、流体である気層部またはガス層部と油層部を備え、前記フリーピストンの下部の室には流体である気層部又はガス層部を配し、その上部の室には油層部を配し、前記フリーピストンとピストンシリンダーのピストン作動範囲外の部位に圧電素子を配置し、或いは、前記ピストンシリンダー内に、上下運動可能なフリーピストンと、流体である気層部またはガス層部と油層部を備え、前記油層部の外周に油層部に繋がる別室を備え、この別室に圧電素子を配置し、前記フリーピストンの下部の室には流体である気層部またはガス層を配し、その上部の室には油層部を配し、車輌走行時の車輪の上下運動によって生ずる前記流体の圧力変動を衝撃として圧電素子に与えて発電し、発生する微弱な電力をバックアップ電源によって被充電バッテリーへ充電することを特徴とする発電装置。」

イ.「【0024】
図3は、請求項1に関連する。 単筒式ショックアブソーバーへの適用を示す。 (16)は別室へのオイル通過口、(18)は油層部別室を示す。 本適用例では、ピストンシリンダー(23)の外側に、油層部(22)の別室(18)を設置し、その上部に気層部を設け、ここに圧電素子(4)を設置する。」

ウ.「【0027】
図5は、請求項2に関連する。 複筒式ショックアブソーバーに対する適用を示す。…(略)…
【0029】
本適用例は、その外筒(27)の気層(29)の上部に圧電素子(4)を設置し、気層(22)の圧力の変動を衝撃として圧電素子(4)に与え、発電させるものである。」

エ.「【0030】
図6は、請求項2に関連する。 複筒式ショックアブソーバーに対する別の適用例を示す。前述の複筒式のショックアブソーバーに於いては、外筒気層(29)の圧力変動を圧電素子(4)に与えている。
【0031】
本適用例は、(22)の液層に直結する別室(18)を外筒(27)を取り巻く状態で設置し、ピストン(20)の上下による1次液層(22)の圧力変化をこの別室(18)へ(16)の通過口を通して導く。 別室(18)の上部に気層を設け、ここに圧電素子(4)を設置する。 ピストンロッド(7)の上下運動による1次液層(22)の圧力変化の衝撃を直接圧電素子(4)に与え発電させるものである。前適用例と比較すれば、本適用例の方が圧電素子への衝撃力は強い。」

上記記載事項からみて、刊行物2には、次の技術事項が記載されていると認められる。
「振動緩和装置において、ピストンシリンダーに内包されるピストンを備え、ピストンシリンダー内に、上下運動可能なフリーピストンと、流体である気層部またはガス層部と油層部を備え、前記流体内に圧電素子を配置して、流体の圧力変動を衝撃として圧電素子に与えて発電させること。」

2.対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「シリンダ2」はその機能・構造からみて、本願発明1の「シリンダ」に相当し、以下同様に、「密閉空間3」は「密閉空間」に、「ピストン4」は「ピストン」に、「細孔8a」は「細孔」に、「多孔質体8」は「多孔質体」に、「液体7」は「作動液体」に、「コロイダルダンパ1」は「コロイダルダンパー」に、それぞれ相当する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、
「シリンダと、
このシリンダに往復動自在に案内支持され、シリンダと協働して密閉空間を形成するピストンと、
多数の細孔を有し、前記密閉空間内に収容される多孔質体と、
前記多孔質体とともに前記密閉空間内に収容され、加圧時に前記多孔質体の細孔へ流入する一方、減圧時に前記多孔質体の細孔から流出する作動液体と、
を有するコロイダルダンパー。」

の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本願発明1は、「前記密閉空間内に設置され、環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電すると同時に、内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電する二方向加圧の圧電素子であり、アキシアル圧力により得られる発電圧の圧電係数g_(zz)およびラジアル圧力により得られる発電圧の圧電係数g_(zr)に対して内直径と外直径との比d_(i)/d_(o)が、
【数1】
d_(i)/d_(o)=1-g_(zr)/g_(zz)
である圧電素子」を有しているのに対して、引用発明は、圧電素子を有していない点。

3.判断
上記相違点について検討する。
本願発明1の「圧電素子」は「環状筒形」のものであって、「環状筒形の端表面でアキシアル圧力により圧縮されて発電すると同時に、内部筒形の側面でラジアル圧力により加圧されて発電する二方向加圧の圧電素子」であり、さらに、「アキシアル圧力により得られる発電圧の圧電係数g_(zz)およびラジアル圧力により得られる発電圧の圧電係数g_(zr)に対して内直径と外直径との比d_(i)/d_(o)」が、数式「d_(i)/d_(o)=1-g_(zr)/g_(zz)」と特定されるものである。
そして、環状筒形の内直径と外直径との比「d_(i)/d_(o)」を「1-g_(zr)/g_(zz)」と特定することにより、「このような二方向加圧を使用した圧電素子の場合、アキシアル圧力により得られる発電圧と、ラジアル圧力により得られる発電圧とが等しくなった設計条件の上で発電力が2倍大きくなる」という効果を奏するものである(本願明細書の段落【0037】参照)。

これに対して、刊行物2に記載された圧電素子は、上記記載事項ア?エのとおり、シリンダー内の流体内に配置され、流体の圧力変動に応じて発電するものではあるが、刊行物2には圧電素子の形状についてはなんら記載されていない。
圧電素子の形状に関し、刊行物2の図3、5、6を参酌すると、当該図面に記載される圧電素子(4)は、シリンダー内に配置される筒状のようにも見受けられる。
しかしながら、記載事項イ?エのとおり、当該図面の説明には、単に「圧電素子」と記載されているだけであり、形状は明らかでない。仮に、その形状が円筒状であるとしても、圧電素子の具体的な構成、特に、内直径と外直径との関係が不明である以上、本願発明1のように内直径と外直径の関係と圧電係数の関係を特定することは、当業者にとって、容易とはいえない。
そして、本願発明1は上記相違点の構成を備えることにより、明細書に記載された作用効果を奏するものである。

したがって、本願発明1は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

また、本願発明2ないし本願発明4は、本願発明1の発明特定事項のすべてをその構成の一部とするものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし本願発明4は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-02-29 
出願番号 特願2011-85608(P2011-85608)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩田 健一  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 森川 元嗣
小関 峰夫
発明の名称 コロイダルダンパー  
代理人 遠坂 啓太  
代理人 加藤 久  

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