• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1311429
審判番号 不服2014-14545  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-25 
確定日 2016-02-24 
事件の表示 特願2011-500811「ワックスを含有する持続放出性製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成21年9月24日国際公開、WO2009/117130、平成23年5月19日国内公表、特表2011-515400〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年3月18日(パリ条約に基づく優先権主張:2008年3月21日(米国))を国際出願日とする出願であって、平成26年3月18日付けで拒絶査定がなされたのに対して、平成26年7月25日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年7月25日付け手続補正についての補正の却下の決定
<補正の却下の決定の結論>
平成26年7月25日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

<理由>
1 補正の内容
本件補正は特許請求の範囲を補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前の
「持続放出性部分と即時放出性部分とを含む持続放出性医薬組成物であって、前記持続放出性部分がワックスとシプロフロキサシンとを含む持続放出性医薬組成物。」を
「持続放出性部分と即時放出性部分とを含む持続放出性医薬組成物であって、前記持続放出性部分がワックスとシプロフロキサシンとを含み、
前記持続放出性部分が、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、ステアリン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルコン酸、酢酸、ギ酸、塩酸、硫酸、リン酸、親水性ポリマー、ポリエチレングリコール、pH依存性のアクリレートポリマーまたはアクリレートコポリマー、および孔形成剤からなる群から選択されるマトリックス形成成分をさらに含み、
前記即時放出性部分が、シプロフロキサシンを含む、持続放出性医薬組成物。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。

2 補正の目的
補正事項1は、当該補正前の請求項1に、その従属項である請求項10の規定
「前記持続放出性部分が、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、ステアリン酸、コハク酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルコン酸、酢酸、ギ酸、塩酸、硫酸、リン酸、親水性ポリマー、ポリエチレングリコール、pH依存性のアクリレートポリマーまたはアクリレートコポリマー、および孔形成剤からなる群から選択されるマトリックス形成成分をさらに含む、請求項1?9のいずれかに記載の持続放出性医薬製剤。」、
同じく請求項12の規定
「前記即時放出性部分が、プロプラノロール、メトプロロール、酒石酸メトプロロール、ガランタミン、ブプロピオン、ジルチアゼム、オキシブチニン、ヒドロクロロチアジド、メトホルミン、オパミン、シプロフロキサシン、バンコマイシン、ノルバンコマイシン、ダウノルビシン、ビンカアルカロイド類、セチリジン、ベンラファキシン、オピオイド系鎮痛剤、テオフィリン、ベラパミル、アムロジピン、トラマドール、ジルチアゼム、チモロール、トロスピウム、プラミペキソール、およびそれらの製薬学的に許容可能な塩、水和物、または溶媒和物からなる群から選択される医薬品有効成分を含む、請求項1?11のいずれかに記載の持続放出性医薬製剤。」、
同じく請求項13の規定
「前記即時放出性部分が、シプロフロキサシンを含む、請求項12に記載の持続放出性医薬製剤。」
により限定されたものである。
このため、補正事項1は新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。また、補正の前後で産業上の利用分野および解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項1は特許法第17条の2第3項および第5項に規定する要件を満たしている。

3 独立特許要件
補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合しているか否かを検討する。

(1)補正事項1による本願請求項に係る発明
補正事項1による本願請求項1に記載される発明(以下、「補正発明」という。)は次のとおりである。
「持続放出性部分と即時放出性部分とを含む持続放出性医薬組成物であって、前記持続放出性部分がワックスとシプロフロキサシンとを含み、
前記持続放出性部分が、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、ステアリン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルコン酸、酢酸、ギ酸、塩酸、硫酸、リン酸、親水性ポリマー、ポリエチレングリコール、pH依存性のアクリレートポリマーまたはアクリレートコポリマー、および孔形成剤からなる群から選択されるマトリックス形成成分をさらに含み、
前記即時放出性部分が、シプロフロキサシンを含む、持続放出性医薬組成物。」

(2)引用刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物は、次の刊行物A-Fである。
A 国際公開第2008/011169号
B 国際公開第2008/008434号
C 特開平11-209306号公報
D 特開平8-333259号公報
E 特開2004-504278号公報
F 国際公開第02/100438号
また、平成25年8月22日付け拒絶理由通知には、次の刊行物Gが挙げられている。
G 国際公開第2006/116247号

(3)引用刊行物の記載事項
刊行物A、B、D-Gには、次の事項が記載されている。なお、刊行物A、B、F、Gは英語で記載されているところ、下記摘示はその訳である。
ア 刊行物Aの記載事項
a 「結合剤は、製剤からの活性薬剤の制御放出特性にさらに寄与する賦形剤を含んでよい。結合剤は、固形の投薬用製剤において粉末粒子の結合をもたらすために使用される物質を含んでよい。そのような化合物の限定されない例として、アカシア、トラガカント、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリ(ビニルピロリドン)、圧縮糖(例、NuTab)、ブドウ糖、コーン甘味料、エチルセルロース、ゼラチン、アルブミン、コラーゲン、液状ブドウ糖、メチルセルロース、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリプロピレン共重合体、ポリエチレンエステル、ポリエチレンソルビタンエステル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ワックス類、ポロキサマー(例、PLURONIC(登録商標)F68、PLURONIC(登録商標)F127)、ポビドン、イオン交換樹脂(例えば架橋アクリル酸およびスチレン系イオン交換樹脂)、およびアルファ化デンプン、ならびに当該技術分野で既知のその他の材料が含まれる。」(21頁5-15行)
b 「実施例1
以下は、10/500mgヒドロコドン酒石酸水素塩/アセトアミノフェン錠の処方例である。下記に例示される各部分は個別に処方され、図1に示す構造を有する単一の三層錠に圧縮される。錠剤は、2つの持続放出性アセトアミノフェン層の間に配置される持続放出性ヒドロコドン層を含む。


1.最終的な剤形の平均重量の合計として存在する各成分の割合(%)
2.それぞれの中間体の合計平均重量として存在する各成分の割合(%)


1.最終的な剤形の平均重量の合計として存在する各成分の割合(%)
2.それぞれの中間体の合計平均重量として存在する各成分の割合(%)。」(24頁18行-25頁9行)
c 「実施例6
表5は、図3に示される構造を持つように製造されたヒドロコドン酒石酸水素塩/APAPの製剤を示す。


表6は、図1に示される構造を持つように製造されたヒドロコドン酒石酸水素塩/APAPの製剤を示す。


」(28頁6行-30頁1行)
d 「1.持続放出性経口投薬錠剤であって、該錠剤は、
第1の活性薬剤を有する第1の層を含み、該第1の層は2つの隣接する制御放出層の間に配置され、該隣接層の少なくとも1つは、少なくとも1つの第2の活性薬剤を含み、該2つの隣接層は該第1の層の一部を覆う、錠剤。」(請求の範囲)

イ 刊行物Bの記載事項
a 「本明細書中に開示される製剤は、活性薬剤、ワックス賦形剤、及び任意選択のさらなるコア賦形剤を含むコアを含む。
コアで使用するためのワックス賦形剤は、周囲温度で固体のワックス、例えば、固体疎水性物質(すなわち、非水溶性)又は固体親水性物質(例えば、ポリエチレングリコールは水溶性である)であり得るが、具体的には固体疎水性物質であり得る。
ワックス賦形剤の例としては、ワックス賦形剤及びワックス様賦形剤、例えば、カルナバワックス(ヤシCopernicia Cerifera由来)、植物ワックス、果実ワックス、マイクロクリスタリンワックス(「石油ワックス」)、蜜蝋(白又は漂白及び黄)、炭化水素ワックス、パラフィンワックス、セチルエステルワックス、非イオン性乳化ワックス、アニオン性乳化ワックス、カンデリラワックス、又は上記ワックスのうち少なくとも1つを含む組合せが挙げられる。他の好適なワックス賦形剤としては、例えば、脂肪アルコール(例えば、ラウリル、ミリスチル、ステアリル、セチル、又は具体的にはセトステアリルアルコール)、硬化植物油、硬化ヒマシ油、ステアリン酸のような脂肪酸類、脂肪酸グリセリド(モノ-、ジ-、及びトリ-グリセリド)を含む脂肪酸エステル類、分子量が約3000超の数平均分子量(Mn)であるポリエチレングリコール(PEG)(例えば、PEG3350、PEG4000、PEG4600、PEG6000、及びPEG8000)、又は上記ワックス賦形剤の少なくとも1つを含む組合せが挙げられる。ワックス賦形剤の任意の組合せも考慮される。

コア中に存在するワックス賦形剤の量は、選択される特定のワックス又はワックスの組合せ及び得られる製剤に望まれる目的とする放出プロファイルに基づいて決定され得る。」([0061]-[0065])
b 「実施例1.塩酸プソイドエフェドリン長期放出錠剤コア、240mgの調製:
下記表1に列記する構成成分を有する、長期放出塩酸プソイドエフェドリン錠剤コア(薬物コア及び長期放出コーティング)を調製する。


塩酸プソイドエフェドリン及びカルナバワックスを、混合/造粒機で5分間造粒することによって、錠剤コアを調製する。ステアリン酸を、混合し且つ穏やかに温めながら変性アルコールに溶解させる。ステアリン酸混合物を活性薬剤/ワックス混合物に添加し、混合することにより、顆粒が形成される。得られた顆粒を乾燥及び粉砕する。粉砕した顆粒を、篩い分けしたヒドロキシルプロピルセルロース及び二酸化ケイ素を加えたGemco Blenderに入れ、混合する。その後、篩い分けしたステアリン酸マグネシウムを添加、混合することにより、混合物を得る。次いで、得られた混合物を圧縮して錠剤にする。圧縮した錠剤を、Surelease(登録商標)、Opadry(登録商標)Clear及び水の懸濁液から調製したコアコーティングでコーティングすることにより、長期放出プソイドエフェドリン錠剤コアを形成する。
表1の製剤A?製剤Dの長期放出錠剤コアを、37℃±0.5℃の溶出媒体900mL及びパドル速度50回転/分(rpm)を使用するUSP26,711に記載の試験法プロトコルを使用して、in vitroでの溶出に関して分析した。溶出分析の結果を、実施例1の非コーティングコア及びALLEGRA-D(登録商標)24 HOUR試料の試験結果を含めて、下記表2(上段の表2a及び下段の表2b)にまとめる。


表2a及び図1?図2の溶出結果が示す通り、製剤A?製剤Cの長期放出プソイドエフェドリン錠剤コアは、実質的に0次又は0次に近い放出プロファイルを示す。」([0097]-[0100])

ウ 刊行物Dに記載された発明
a 「【請求項1】 スクラルファートと他の薬物が同一製剤中に配合され、薬物がスクラルファートに吸着・トラップされることなく速やかに溶出される製剤。
【請求項2】 スクラルファートが他の薬物と同一製剤中に分離して配合され、他の薬物が含まれる速放部とスクラルファートを含有する遅放部より構成される請求項1記載の製剤。」(【特許請求の範囲】)
b 「本発明は、遅放部に含有される成分をスクラルファートに限定するものであって、遅放部に使用される崩壊遅延のための技術・添加物、あるいは速放部に使用される崩壊促進のための製剤技術・添加物の種類と配合量を限定するものではない。
例えば、遅放部を得るための製剤技術として、硬化油、脂肪酸に代表されるワックス等の油性基剤、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体に代表される水溶性高分子等のゲル形成性基剤、エチルセルロース、アクリル酸共重合体等の疎水性基剤等に代表されるマトリックス基剤の添加による方法や先の水溶性高分子等のフィルムコーティングによる方法等がある。速放部を得るには重曹、クエン酸等に代表される発泡性基剤の添加、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ等の澱粉誘導体あるいはカルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体をはじめとする崩壊剤の添加、製剤技術としては凍結乾燥製剤、流動層造粒法等が考えられる。また、これらの速放部と遅放部の構成あるいは剤形を限定するものではない。」(【0009】-【0010】)
c 「[実施例3]
(二層錠)
遅放部 スクラルファート 1500g
D-マンニトール 187g
硬化油 300g
ケイ酸カルシウム 8g
ステアリン酸カルシウム 5g
速放部 塩酸ラニチジン 84g
カルボキシメチルスターチ
ナトリウム 240g
無水リン酸カルシウム 669g
硬化油 3g
ステアリン酸カルシウム 4g
遅放部、速放部各々の粉末を秤量、混合し直接打錠法にて二層錠を製した。

[試験例]実施例1の顆粒1927mg(速放部800mg、遅放部1127mgの二顆粒混合製剤)及び比較例1の顆粒1583mgをそれぞれ日局第1液900mlを用いて日局溶出試験、回転バスケット法にて試験を実施した…。
実施例3?実施例7の製剤についても同様な試験を行った。これら製剤の水による日局崩壊試験の結果も下記の表に示す。
表:水による崩壊試験結果
製剤 崩壊(溶解)時間

実施例3 2分(速放層) 14分(遅放層)
…」(【0020】-【0031】)

エ 刊行物Eの記載事項
a 「【請求項1】
37℃で50回転/分におけるUSP XXIV パドル試験においてpH4.5で1?4時間中に0.1N塩酸中及び酢酸塩緩衝液中の両方において活性化合物の80%を放出することを特徴とする、キノロン活性化合物を含んでなる経口投与可能な抗生物質マトリックス製剤。

【請求項6】
キノロン抗生物質がシプロフロキサシンであることを特徴とする請求項1?5に記載の製剤。
【請求項7】
2つの誘導体がシプロフロキサシン塩酸塩及びシプロフロキサシンベタインであることを特徴とする請求項1?6に記載の製剤。

【請求項10】
製剤が迅速放出(IR)部と遅延放出(CR)部を含んでなる組み合わせ製剤であることを特徴とする請求項1?9に記載の製剤。」(【特許請求の範囲】)
b 「本発明に従う製剤の特定の態様はマトリックス錠剤に関する。好ましいマトリックス錠剤は遅延放出部(delayed-release part)(CR部)と迅速放出部(rapid-release part)(IR部)を含有する。マトリックスのための適当な放出遅延性ポリマーは、水で膨潤可能なポリマー、例えば、多糖、例えば、デンプン及びデンプン誘導体(トウモロコシ、小麦、米及びジャガイモデンプン、カルボキシメチルデンプン、ナトリウムデンプングリコレート)、セルロースエーテル、例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース及びそれらのアルカリ金属塩(メチル-、ヒドロキシメチル-、ヒドロキシエチル-、ヒドロキシプロピル-及びナトリウムカルボキシメチルセルロース、架橋したカルボキシメチルセルロース)、デキストリン、デキストラン、ペクチン、ポリオース、アラビアゴム、トラガカント、カラジーナン、ガラクトマンナン、例えば、グアーゴム(guar gum)、アルギン、アルギン酸及びアルギネート、ポリペプチド及びタンパク質、例えば、ゼラチン及びカゼイン、更に、キチン誘導体、例えば、キトサン、完全に合成のポリマー、例えば、(メト)アクリル酸コポリマー(メチルメタクリレートコポリマー、ヒドロキシメチルメタクリレートコポリマー)、ポリビニルアルコール、架橋されていないポリビニルピロリドン及びビニルピロリドンコポリマー、及び上記した化合物の混合物である。」(【0018】)
c「小腸においてすら投与形態からの活性化合物の放出を保証するため及び製剤の外層及び環境のpHを酸性範囲に保つため、そしてそれにより小腸流体のより高いpHにおける活性化合物の沈殿の危険をできるかぎり十分に阻止するために、製剤に有機酸を導入する(incorporated)ことができ(もし存在するならば、遅延放出部に)、このようにして、活性化合物はより吸収されやすい形態において調製される。この目的で、好ましい有機酸は、例えば、酢酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸及びクエン酸の如く、2?10個のC原子及び1?4個のカルボキシル基を有する。」(【0023】)
d 「

」(【0035】-【0041】)

オ 刊行物Fの記載事項
a 「従来の持続放出性処方は、ワックスや親水性ガムを活性成分の放出を延長するための主要な薬物単体として使用している。従来のワックス基質錠剤処方において、薬剤は溶融状態のワックス基質中に分散されている。製薬処方に使用される従来のワックス及びワックス様材料としては、カルナバワックス、鯨蝋、カンデリラワックス、ココアバター、セトステリルアルコール、蜜蝋、部分硬化植物油、セレシン、パラフィン、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール及びステアリン酸がある。」(2頁21行-3頁1行)
b 「実施例16:二層錠
シプロフロキサシンの二層錠はこの系により用意され、溶解プロファイルを検討した。

成分 mg/tab 百分率
即時放出性部分
シプロフロキサシン塩基 400.00 33.39
クロスカルメロースナトリウム 10.00 0.83
ステアリン酸マグネシウム 5.00 0.42
タルク 5.00 0.42
遅延放出性部分
シプロフロキサシン塩基 600.00 50.08
コショウソウ外皮 150.00 12.52
キサンタンガム 15.00 1.25
ステアリン酸マグネシウム 7.00 0.58
タルク 6.00 0.50

溶解はUSP XXIVに従い、装置1を用い、1.0リットル、0.1N塩酸、100RPM、37℃で実施した。溶解プロファイルは下記のとおりである:
時間 %薬剤溶解
1 54.85
2 66.14
3 78.43
4 90.41」(36頁11行-37頁5行)

カ 刊行物Gの記載事項
a 「一実施形態において、上記ワックスベースの持続放出性材料は、カルナバワックス、蜜蝋またはそれらの組み合わせである。好ましくは、このワックスベースの持続放出性材料は、上記顆粒の総重量の約1重量%?約50重量%の量で存在する。より好ましくは、このワックスベースの持続放出性材料は、この顆粒の総重量の約5重量%?約25重量%の量で存在する。なおより好ましくは、このワックスベースの持続放出性材料は、この顆粒の総重量の約8重量%?約16重量%の量で存在する。」([0013])
b 「本発明は、水溶性の乏しい活性成分およびワックスベースの持続放出性材料を含む持続放出性処方物に関し、このワックスベースの持続放出性材料は活性成分の持続性放出を提供する。このような処方物は、例えば、熱溶融顆粒化によって形成され得る。

本発明の実施に使用するために意図される水溶性の乏しい活性成分は、以下が挙げられれるが、これらに限定されない:

抗細菌薬(例えば、硫酸アミカシン、アズトレオナム、クロラムフェニコール、パルミチン酸クロラムフェニコール、コハク酸クロラムフェニコールナトリウム、塩酸シプロフロキサシン、塩酸クリンダマイシン、パルミチン酸クリンダマイシン、リン酸クリンダマイシン、メトロニダゾール、塩酸メトロニダゾール、硫酸ゲンタマイシン、塩酸リンコマイシン、硫酸ポリミキシンB、コリスチメタートナトリウム、および硫酸コリスチンなど);」([0021]-[0053])
c 「1.水溶性の乏しい活性成分とワックスベースの持続放出性材料とを含む複数の顆粒を含有する持続放出性処方物であって、篩分析を用いて特徴付けられる場合に、該複数の顆粒が、約10メッシュ?約100メッシュの平均の大きさを有する、処方物。

4.水溶性の乏しい活性成分とワックスベースの持続放出性材料とを含む複数の顆粒を含有する持続放出性処方物であって、篩分析によって特徴付けられる場合に、該顆粒の約40%?80%が60メッシュの篩に保持される、処方物。

9.前記ワックスベースの持続放出性材料が、カルナバワックス、蜜蝋またはそれらの組み合わせである、請求項1または4に記載の処方物。」(請求の範囲)
(4)刊行物Eに記載された発明
刊行物Eには、迅速放出(IR)部と遅延放出(CR)部を含んでなる組み合わせ製剤(上記(3)エa)において、両部における薬剤としてシプロフロキサシン(上記(3)エa、d)を、遅延放出部に「酢酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸及びクエン酸」等の有機酸(上記(3)エc、d)や、多糖、ポリペプチド及びタンパク質、キチン誘導体、完全に合成のポリマーのような「放出遅延性ポリマー」(上記(3)エb)を含有することが記載されている。
そうすると、刊行物Eには以下の発明(以下、「引用発明E」という。)が記載されているものと認められる。
「遅延放出部と迅速放出部とを含む製剤であって、前記遅延放出部が多糖、ポリペプチド及びタンパク質、キチン誘導体、完全に合成のポリマーのような放出遅延性ポリマーとシプロフロキサシンとを含み、
前記遅延放出部が、酢酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸及びクエン酸等の有機酸からなる群から選択されるマトリックス形成成分をさらに含み、
前記迅速放出部が、シプロフロキサシンを含む、製剤。」

(5)対比
補正発明と引用発明Eを対比する。
引用発明Eにおける「遅延放出部」及び「迅速放出部」は、それぞれ本願発明でいう「持続放出性部分」及び「即時放出性部分」に相当し、「製剤」は当然「医薬組成物」であり、「遅延放出部」及び「迅速放出部」を有しているのであるから、「持続放出性医薬組成物」となっている。また、引用発明Eで使用される「有機酸」は「遅延放出部」のマトリックス形成成分となっている。
そうすると、補正発明と引用発明Eとは
「持続放出性部分と即時放出性部分とを含む持続放出性医薬組成物であって、前記持続放出性部分がシプロフロキサシンとを含み、
前記持続放出性部分が、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、ステアリン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルコン酸、酢酸、ギ酸、塩酸、硫酸、リン酸、親水性ポリマー、ポリエチレングリコール、pH依存性のアクリレートポリマーまたはアクリレートコポリマー、および孔形成剤からなる群から選択されるマトリックス形成成分をさらに含み、
前記即時放出性部分が、シプロフロキサシンを含む、持続放出性医薬組成物。」
の点で一致し、次の点で相違する。
相違点:補正発明は、持続放出性成分の持続放出性発現のためにワックスが用いられているのに対し、引用発明Eでは、多糖、ポリペプチド及びタンパク質、キチン誘導体、完全に合成のポリマーのような放出遅延性ポリマーが用いられている点。

(6)判断
上記相違点について検討する。
刊行物Aには、制御放出層を含む錠剤(上記(3)アd)において、制御放出特性にさらに寄与する賦形剤である結合剤を添加しうること、該結合剤として、ブドウ糖、コーン甘味料、エチルセルロース、液状ブドウ糖、メチルセルロース、アルファ化デンプンのような多糖や、ゼラチン、アルブミン、コラーゲンのようなポリペプチド及びタンパク質や、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリプロピレン共重合体、ポリエチレンエステル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポビドン、イオン交換樹脂のような完全に合成のポリマーと並んで、「ワックス類」が開示されており(上記(3)アa)、実施例では制御放出層である持続放出層がカルナバワックスを含有することが記載されている(上記(3)アb、c)。そうすると、刊行物Aにおいて、ワックス類が、多糖、ポリペプチド及びタンパク質、完全に合成のポリマーのように医薬組成物の持続放出性を奏させることが認識されているものと認められる。
刊行物Bには、「活性薬剤、ワックス賦形剤、及び任意選択のさらなるコア賦形剤を含むコアを含む」製剤において、「コア中に存在するワックス賦形剤の量は、選択される特定のワックス又はワックスの組合せ及び得られる製剤に望まれる目的とする放出プロファイルに基づいて決定され得る」こと、(上記(3)イa)、実施例では該ワックス賦形剤としてカルナバワックスを用いることが記載されている(上記(3)イb)。ここで、上記(3)イaより、製剤の放出プロファイルに基づいてワックス賦形剤の量を決定することに鑑みると、ワックス賦形剤が持続放出性に関与するものと解される。そうすると、刊行物Bにおいて、ワックス賦形剤が医薬組成物の持続放出性を奏させることが認識されているものと認められる。
刊行物Dには、速放部と遅放部より構成される製剤(上記(3)ウa)において、「遅放部を得るための製剤技術として、硬化油、脂肪酸に代表されるワックス等の油性基剤、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体に代表される水溶性高分子等のゲル形成性基剤、エチルセルロース、アクリル酸共重合体等の疎水性基剤等に代表されるマトリックス基剤の添加による」こと(上記(3)ウb)、実施例では遅放部に硬化油を含有することが記載されている(上記(3)ウc)。ここで、「遅放部」とは、本願発明でいう「持続放出性部分」に相当するものと解される。そうすると、刊行物Dにおいて、ワックスが、多糖や完全に合成のポリマーのように医薬組成物の持続放出性を奏させることが認識されているものと認められる。
刊行物Fには、従来の持続放出性処方は「ワックスや親水性ガムを活性成分の放出を延長するための主要な薬物単体として使用している」ことや、製薬処方に使用される従来のワックス及びワックス様材料としては、「カルナバワックス、鯨蝋、カンデリラワックス、ココアバター、セトステリルアルコール、蜜蝋、部分硬化植物油、セレシン、パラフィン、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール及びステアリン酸」があることが記載されている(上記(3)オa)。そうすると、刊行物Fにおいて、ワックスが医薬組成物の持続放出性を奏させることが認識されているものと認められる。
なお、参考までに、刊行物Gには、シプロフロキサシンのような抗細菌薬を含有する持続放出性処方物(上記(3)カb)において、持続放出性材料としてカルナバワックスや蜜蝋を用いることが記載されている(上記(3)カa、c)。そうすると、刊行物Gにおいて、ワックスが医薬組成物の持続放出性を奏させることが認識されているものと認められる。
すなわち、持続放出性を有する医薬組成物において、持続放出性の発現のためにワックスを使用することは、本願出願前(本願優先日前)に当業者において認識されていたことであり、また、多糖、ポリペプチド及びタンパク質、完全に合成のポリマーと同様に持続放出性成分として使用することも、本願出願前(本願優先日前)に当業者において認識されていたことと認められる。
してみると、引用発明Eにおける「遅延放出部」(「持続放出性部分」)において、多糖、ポリペプチド及びタンパク質、キチン誘導体、完全に合成のポリマーのような放出遅延性ポリマーの代わりにワックスを使用してみることは、当業者が容易になしうるものといえる。
また、補正発明の持続放出性についても、各刊行物(例えば、刊行物B表2aの「Uncoated Cores, Example 1」、刊行物F実施例16、刊行物G実施例の各処方)には、本願実施例と同程度の放出速度を有する実施例が示されており、本願発明の持続放出性において、格別のものは見いだせない。
そうすると、補正発明は、引用発明E及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4 請求人の主張について
請求人は審判請求の理由において「文献5、6に記載のシプロフロキサシンを主薬とする持続放出製剤において、当業者がシプロフロキサシンとワックスとを持続放出性部分に含有させることに想到することは、当業者にとって容易ではなかったと思料いたします。何故ならば、上記3においてご説明した文献の多くは、薬物放出を制御するために、ワックスではなく、ポリマーなどの別の素材を使用することを教示しており、ワックスを使用することの動機づけが存在しないためです。
…文献1では、明らかにワックスは放出プロファイルを作るために使用されていません。さらに、文献1の実施例は、いずれも膨潤性ポリマーまたは浸食性ポリマーを必ず含んでおり、活性薬剤の持続放出のためにワックスのみを含ませた例は記載されていません。…文献1には、活性薬を徐放性とするためにワックスを用いることが記載されていません。
…文献2に記載される制御放出製剤において、活性薬剤の放出遅延は、放出遅延コーティングにより提供されており、ワックスは、活性薬剤の放出速度に影響を与えるものではありません。…文献2には、コア活性薬剤の放出を制御するためにワックスを用いることは記載されていません。
文献5は、シプロフロキサシンの遅延放出のために、膨潤性ポリマーを使用することを記載しており、ワックスの使用については全く記載していません。
…本願の出願日前において、シプロフロキサシンを含むキノロン類の、十分に高い抗生物質作用が長く持続する持続放出性製剤を開発することは難しいという認識を当業者は有していました。
よって、当業者は、たとえ、キノロン類とは異なる活性薬剤に関する文献1?4において持続放出性部分がワックスを含有することが記載されていたとしても、キノロン類の持続放出性製剤にワックスをそのまま適用しようとは考えなかったと思料いたします。また、文献6では、従来は活性成分の放出を延長するために、ワックスを薬物担体として使用することを記載しているにもかかわらず、膨潤性およびゲル化性のあるコショウソウの種子由来のもみ殻パウダーを使用しています。よって、文献6は、シプロフロキサシンの持続放出性製剤にワックスを当業者が適用することをむしろ妨げているとも考えられます。
従って、たとえこれらの文献にワックスを含有させることが記載されていたとしても、文献5に記載のシプロフロキサシンを主薬として含有し、遅延放出技術として膨潤性ポリマーを使用する持続放出性製剤において、膨潤性ポリマーの代わりにワックスを適用しようと当業者が動機づけられることはなかったと思料いたします。同様に、文献6に記載のシプロフロキサシンを主薬として含有し、コショウソウの種子由来のもみ殻パウダーを用いて薬物放出プロファイルを調整している制御放出薬物送達システムにおいて、該もみ殻パウダーの代わりにワックスを、持続放出のために適用しようと当業者は動機付けられなかったと思料いたします。」と主張する。なお、上記主張において示された文献1-6は、それぞれ上記3(2)の刊行物A-Fと同一である。
しかし、刊行物A、B、D、F、さらには参考として挙げたGの各々において、ワックスが医薬組成物の持続放出性を奏させることが認識されていることに鑑みると、引用発明Eにおける持続放出性の発現のためにワックスを使用してみることは、当業者であれば容易に想到しうることと認められる。また、上記のとおり、その持続放出性についても、本願実施例と同程度の放出速度を有する実施例が各刊行物において示されており、格別のものは見いだせない。このため、上記主張を勘案することができない。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反しているものと認められるので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2で結論したとおり平成26年7月25日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願に係る発明は平成26年2月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-16にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「持続放出性部分と即時放出性部分とを含む持続放出性医薬組成物であって、前記持続放出性部分がワックスとシプロフロキサシンとを含む持続放出性医薬組成物。」

2 進歩性の判断
本願発明は、上記第2で検討した補正発明における「前記持続放出性部分が、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、ステアリン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルコン酸、酢酸、ギ酸、塩酸、硫酸、リン酸、親水性ポリマー、ポリエチレングリコール、pH依存性のアクリレートポリマーまたはアクリレートコポリマー、および孔形成剤からなる群から選択されるマトリックス形成成分をさらに含み、
前記即時放出性部分が、シプロフロキサシンを含む、」との特定事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する補正発明が、上記第2 3(6)に記載したとおり、引用発明E及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明E及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願については、他の請求項について検討するまでもなく上記理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-29 
結審通知日 2015-10-02 
審決日 2015-10-15 
出願番号 特願2011-500811(P2011-500811)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 淺野 美奈杉江 渉  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 大熊 幸治
齊藤 光子
発明の名称 ワックスを含有する持続放出性製剤  
代理人 松島 鉄男  
代理人 角田 恭子  
代理人 河村 英文  
代理人 有原 幸一  
代理人 奥山 尚一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ