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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 B60K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1311605
審判番号 不服2015-16562  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-09 
確定日 2016-03-15 
事件の表示 特願2011-219965「ハイブリッド車両及び内燃機関の排気還流装置故障診断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 2日出願公開、特開2013- 78995、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年10月4日の出願であって、平成27年2月6日付けで拒絶理由が通知されたの対し、平成27年3月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年6月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年9月9日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成27年12月25日に上申書が提出されたものである。

第2 平成27年9月9日付けの手続補正の適否
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成27年9月9日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の(すなわち、平成27年3月31日提出の手続補正書によって補正された)特許請求の範囲の請求項1ないし3の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3の下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3
「 【請求項1】
スロットルバルブが開閉されるとともに燃料供給量が制御され、駆動輪に連結された駆動軸及び発電機に駆動力を出力可能な内燃機関と、
前記発電機により発電された電力を蓄電する蓄電池と、
前記発電機又は前記蓄電池からの電力によって駆動され、前記駆動軸に駆動力を出力可能な電動機と、
前記内燃機関からの排気を該内燃機関の吸気系に供給する排気供給手段と、
前記内燃機関から前記駆動軸への駆動力伝達を断切するクラッチ機構と、
前記吸気系の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記クラッチ機構により前記内燃機関から前記駆動軸への駆動力伝達が遮断されて前記電動機で前記駆動輪を駆動していると共に前記スロットルバルブが開いて燃料供給が行われることで前記発電機が発電している際に、前記圧力測定手段の測定結果に基づいて前記排気供給手段の異常診断を行う故障診断手段とを備えていることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記スロットルバルブが所定時間以上開いている時に前記異常診断を行うことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
スロットルバルブが開閉されるとともに燃料供給量が制御され、駆動輪に連結された駆動軸及び発電機に駆動力を出力可能な内燃機関と、前記発電機により発電された電力を蓄電する蓄電池と、前記発電機又は前記蓄電池からの電力によって駆動され、前記駆動軸に駆動力を出力可能な電動機と、前記内燃機関からの排気を該内燃機関の吸気系に供給する排気供給手段と、前記内燃機関から前記駆動軸への駆動力伝達を断切するクラッチ機構と、前記吸気系の圧力を測定する圧力測定手段とを有する内燃機関の排気還流装置故障診断方法において、
前記クラッチ機構により前記内燃機関から前記駆動軸への駆動力伝達が遮断されて前記電動機で前記駆動輪を駆動していると共に前記スロットルバルブが開いて燃料供給が行われることで前記発電機が発電している際に前記排気供給手段の故障診断を実効するか否かを判断する診断開始判断工程と、
前記診断開始判断工程により、前記排気供給手段の故障診断を実効すると判断された場合に、前記圧力測定手段の測定結果に基づいて前記排気供給手段の異常診断を行う故障診断工程とを備えていることを特徴とする内燃機関の排気還流装置故障診断方法。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3
「 【請求項1】
スロットルバルブが開閉されるとともに燃料供給量が制御され、駆動輪に連結された駆動軸及び発電機に駆動力を出力可能な内燃機関と、
前記発電機により発電された電力を蓄電する蓄電池と、
前記発電機又は前記蓄電池からの電力によって駆動され、前記駆動軸に駆動力を出力可能な電動機と、
前記内燃機関からの排気を該内燃機関の吸気系に供給する排気供給手段と、
前記内燃機関から前記駆動軸への駆動力伝達を断切するクラッチ機構と、
前記吸気系の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記クラッチ機構により前記内燃機関から前記駆動軸への駆動力伝達が遮断されて前記電動機で電力を消費して前記駆動輪を駆動していると共に前記スロットルバルブが開いて燃料供給が行われることで前記発電機が発電している際に、前記圧力測定手段の測定結果に基づいて前記排気供給手段の異常診断を行う故障診断手段とを備えていることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記スロットルバルブが所定時間以上開いている時に前記異常診断を行うことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
スロットルバルブが開閉されるとともに燃料供給量が制御され、駆動輪に連結された駆動軸及び発電機に駆動力を出力可能な内燃機関と、前記発電機により発電された電力を蓄電する蓄電池と、前記発電機又は前記蓄電池からの電力によって駆動され、前記駆動軸に駆動力を出力可能な電動機と、前記内燃機関からの排気を該内燃機関の吸気系に供給する排気供給手段と、前記内燃機関から前記駆動軸への駆動力伝達を断切するクラッチ機構と、前記吸気系の圧力を測定する圧力測定手段とを有する内燃機関の排気還流装置故障診断方法において、
前記クラッチ機構により前記内燃機関から前記駆動軸への駆動力伝達が遮断されて前記電動機で電力を消費して前記駆動輪を駆動していると共に前記スロットルバルブが開いて燃料供給が行われることで前記発電機が発電している際に前記排気供給手段の故障診断を実効するか否かを判断する診断開始判断工程と、
前記診断開始判断工程により、前記排気供給手段の故障診断を実効すると判断された場合に、前記圧力測定手段の測定結果に基づいて前記排気供給手段の異常診断を行う故障診断工程とを備えていることを特徴とする内燃機関の排気還流装置故障診断方法。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項である「クラッチ機構により内燃機関から駆動軸への駆動力伝達が遮断されて電動機で前記駆動輪を駆動していると共に前記スロットルバルブが開いて燃料供給が行われることで前記発電機が発電している際」について、「電動機で電力を消費して駆動輪を駆動している」旨を限定することを含むものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.独立特許要件についての判断
本件補正における本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

2.-1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2007-239468号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「エンジンの排気浄化装置」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0001】
本発明は、エンジンの排気浄化装置に関し、詳細には、排気後処理用の触媒としてNOxトラップ触媒を備えるエンジンにおいて、エンジンの再始動に伴い低温の排気が流入することによるこの触媒の活性低下を、再始動後におけるこの触媒の浄化能力を考慮しつつ抑制することで、エンジンの排気性能を向上させる技術に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0003】
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排気浄化触媒の劣化に応じてエンジンの間欠運転を禁止する前掲特許文献1に記載の技術は、ハイブリッド車において、再始動後、通常の点火及び燃焼が行われるまでの空転期間にエンジンから掃出される酸素過剰なガスの流入による触媒劣化の進行を回避するものである。すなわち、この技術によれば、エンジンの間欠運転に起因した触媒劣化の進行、及びこれに伴う排気性能の悪化を回避することができる。また、この技術によれば、ハイブリッド車に限らず、車両の状態に応じて間欠運転を行う、いわゆるアイドルストップ車において、再始動後、燃焼が不安定となりがちなエンジンから排出される排気有害成分の浄化不良の発生を回避することができる。
【0005】
ところで、近時、燃料電池車に並ぶほどの高い二酸化炭素削減効果を期待し得るものとして、機械駆動源にディーゼルエンジンを採用したハイブリッド車が着目されている。このハイブリッド車では、ディーゼルエンジンの排気が本来低温であり、機関運転中に触媒の温度がガソリンエンジンを採用したものにおけるほど上昇しないことに加え、機関停止中に受ける走行風等により排気管内の排気が冷却され、再始動後、この低温の排気が流入することにより触媒が冷却されることから、触媒の不活性化により排気性能が悪化するという問題がある。このような排気冷却による触媒の不活性化の問題は、ディーゼルエンジン型のものに限らず、ガソリンエンジンを採用したハイブリッド車でも問題となり得るところである。しかしながら、ガソリンエンジン型のものでは、機関運転中に触媒が高温に保たれ、また、再始動後直ちに高温の排気が触媒に流入することから、現実にはこれが問題となることはなかった。
【0006】
ディーゼルエンジンの運転が主に酸素過剰な状態で行われることから、NOxトラップ触媒は、ハイブリッド車の複合駆動源を構成するものを含め、ディーゼルエンジン全般に亘り広く採用される。NOxトラップ触媒についても、他の触媒と同様に再始動時における不活性化が問題となるところであるが、NOxトラップ触媒には、この触媒がNOxのトラップ及び放出、還元による浄化プロセスをとるものであり、かつトラップしたNOxを蓄積しておくことのできる量に限界があることから、他の触媒にはない特別な問題がある。すなわち、再始動時にNOxトラップ触媒がトラップしているNOxの量が限界に達している場合は、例え再始動に際して触媒の活性低下を抑制し、活性状態を速やかに回復し得たとしても、NOxトラップ量が既に限界に達していることから、再始動後に浄化能力を確保することができず、NOxを未浄化のまま放出させてしまうことである。
【0007】
本発明は、排気浄化触媒としてNOxトラップ触媒を備えるエンジン、特に、排気が比較的に低温であるディーゼルエンジンにおいて、エンジンの再始動に伴う低温の排気の流入に起因する触媒の活性低下に対し、再始動後の浄化能力を考慮しつつこれを抑制することで、触媒の不活性化を回避し、又はその活性状態の速やかな回復を図るとともに、再始動後の浄化能力を確保して、エンジンの排気性能を向上させることを目的とする。
…(後略)…」(段落【0003】ないし【0007】)

(ウ)「【0010】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」という。)1を適用したハイブリッド車の動力伝達系の構成を示しており、二点鎖線は、要素間の機械的な結合を、点線は、要素間の電気的な結合を示している。この動力伝達系は、機械駆動源としてエンジン1を備えるとともに、電気駆動源として2つのモータジェネレータ2,3を備えており、モータジェネレータ2,3は、いずれも電動機としての機能と、発電機としての機能とを兼ね備えている。エンジン1及びモータジェネレータ2,3により、パラレル型の複合駆動源が構成される。
【0011】
この動力伝達系において、エンジン1のクランクシャフトと、モータジェネレータ2のロータとが直結されるとともに、モータジェネレータ2,3のロータが無段変速機4を介して互いに連結されている。無段変速機4は、電磁クラッチ4aを含んで構成され、電磁クラッチ4aにより、エンジン1(及びモータジェネレータ2)の車輪6,6に対する接続及び遮断が切り換えられる。モータジェネレータ3の出力、及び電磁クラッチ4aの締結時において、エンジン1及びモータジェネレータ2,3の出力がディファレンシャルギヤ5を介して車輪6,6に伝達され、車両を推進させる。モータジェネレータ2は、エンジン1からの出力を受けて発電機として動作する一方、エンジン1の始動時(再始動時を含む。)には、バッテリ81からの電力を受けて電動機として動作し、エンジン1のクランキングを行うものである。他方、モータジェネレータ3は、主に低負荷域での走行に際して、バッテリ81からの電力を受けて電動機として動作し、車両の駆動力を発生させる一方、減速時には、発電機として動作し、制動エネルギを回生して発電を行うものである。モータジェネレータ2,3により生成された電力は、バッテリ81の充電に用いられる。モータジェネレータ2,3の動作、及び電磁クラッチ4aの締結及び開放の切換えは、電子制御ユニットとして構成されるハイブリッドコントロールモジュール(以下「HCM」という。)41からの指令信号に基づいて行われる。HCM41は、後述するエンジンコントロールモジュール51と接続されており、このエンジンコントロールモジュール51との間で制御情報を相互に授受する。
【0012】
図2は、エンジン1の構成を示している。エンジン1は、副室型のディーゼルエンジンであり、高負荷域における車両の駆動源として採用される。なお、エンジン1は、直噴型のものであってもよい。
吸気通路11の導入部には、図示しないエアクリーナが取り付けられており、このエアクリーナにより吸入空気中の粉塵が除去される。吸気通路11には、ターボチャージャ12のコンプレッサ12aが設置されており、コンプレッサ12aにより吸入空気が圧縮されて送り出される。圧縮された吸入空気は、サージタンク13に流入し、マニホールド部で各気筒に分配される。
【0013】
エンジン本体において、シリンダヘッドには、燃料噴射弁21が気筒毎に設置されている。燃料噴射弁21は、各気筒において、シリンダヘッドに形成された副室に臨ませて設置されており、電子制御ユニットとして構成されるエンジンコントロールモジュール(以下「ECM」という。)51からの指令信号に基づいて作動する。図示しない燃料ポンプにより送り出された燃料は、コモンレール22を介して燃料噴射弁21に供給され、燃料噴射弁21により副室内に噴射される。本実施形態では、主に冷態始動時における着火安定のため、グロープラグ(図示せず。)が副室に臨ませて設置されている。
…(中略)…
【0015】
また、排気通路31は、EGR管35により吸気通路11(ここでは、サージタンク13)と接続されており、タービン12bに対する流入前の排気がEGR管35を介して吸気通路11に還流される。EGR管35には、EGR弁36が介装されており、EGR弁36により還流される排気の流量が制御される。EGR弁36は、アクチュエータ37により開度が制御される。」(段落【0010】ないし【0015】)

(エ)「【0019】
以下、ECM51が行う制御について、フローチャートを参照して説明する。
図3は、始動制御ルーチンのフローチャートである。このルーチンは、スタートキー62の操作による電源のオンにより起動され、その後所定の時間毎に実行される。
…(中略)…
【0030】
…(中略)…
S406では、再始動時において、NOxトラップ触媒32の活性状態に応じて強制加熱を実施する。本実施形態では、この強制加熱は、触媒32に流入する排気の温度を上昇させることにより行う。このため、本実施形態では、機関出力の形成を目的とした通常の燃料噴射とは別に追加の燃料噴射を実施することとし、たとえば、この追加の燃料噴射を通常の燃料噴射よりも遅らせて膨張行程中に行うことで、後燃えを生じさせ、排気の温度を上昇させる。追加で行われる燃料噴射による噴射量をλにより異ならせ、λlにより排気を酸素過剰な状態に調整するのを原則とする一方、NOxトラップ量NOXが限界トラップ量に達しているときは、吸気絞り弁14により吸入空気量を減少させるとともに、λsにより噴射量を増大させて、排気の空燃比を理論値又はこれよりも低い値に調整する。」(段落【0019】ないし【0030】)

(2)引用文献1記載の事項
上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図1及び図2の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。

(カ)上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図1及び図2の記載から、引用文献1には、ハイブリッド車が記載されていることが分かる。

(キ)上記(1)(エ)に摘記したとおり、引用文献1には、再始動時に行う強制加熱において、吸気絞り弁14により吸入空気量を減少させるとともに、噴射量を増大させる旨が記載されているから、引用文献1に記載されたハイブリッド車において、エンジン1は吸気絞り弁14が開閉されるとともに燃料噴射量が制御されるものであることが分かる。

(ク)図1において、ディファレンシャルギヤ5を介して車輪6,6の間に駆動軸があることが看取され、上記(1)(ウ)の段落【0011】に、「モータジェネレータ3の出力、及び電磁クラッチ4aの締結時において、エンジン1及びモータジェネレータ2,3の出力がディファレンシャルギヤ5を介して車輪6,6に伝達され、車両を推進させる。」及び「モータジェネレータ2は、エンジン1からの出力を受けて発電機として動作する」と記載されているから、引用文献1に記載されたハイブリッド車は、車輪6,6に連結された駆動軸及びモータジェネレータ2に駆動力を出力可能なエンジン1を備えることが分かる。

(ケ)上記(1)(ウ)の段落【0011】に、「モータジェネレータ2,3により生成された電力は、バッテリ81の充電に用いられる。」と記載されているから、引用文献1に記載されたハイブリッド車は、モータジェネレータ2により生成された電力を充電するバッテリ81を備えることが分かる。

(コ)上記(1)(ウ)の段落【0011】に、「モータジェネレータ3は、主に低負荷域での走行に際して、バッテリ81からの電力を受けて電動機として動作し、車両の駆動力を発生させる」と記載されているから、引用文献1に記載されたハイブリッド車は、バッテリ81からの電力を受けて動作し、駆動軸に駆動力を出力可能なモータジェネレータ3を備えることが分かる。

(サ)上記(1)(ウ)の段落【0015】に、「排気通路31は、EGR管35により吸気通路11(ここでは、サージタンク13)と接続されており、タービン12bに対する流入前の排気がEGR管35を介して吸気通路11に還流される。EGR管35には、EGR弁36が介装されており、EGR弁36により還流される排気の流量が制御される。EGR弁36は、アクチュエータ37により開度が制御される。」と記載されているから、「EGR管35」、「EGR弁36」及び「アクチュエータ37」からなる装置を、以下、便宜上「EGR装置」と呼ぶこととすれば、引用文献1に記載されたハイブリッド車は、エンジン1からの排気を吸気通路11に還流するEGR装置を備えることが分かる。

(シ)上記(1)(ウ)の段落【0011】に、「無段変速機4は、電磁クラッチ4aを含んで構成され、電磁クラッチ4aにより、エンジン1(及びモータジェネレータ2)の車輪6,6に対する接続及び遮断が切り換えられる。」と記載されているから、引用文献1に記載されたハイブリッド車は、エンジン1から駆動軸への駆動力を接続と遮断を切り換える電磁クラッチ4aを含む無段変速機4を備えることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1及び図2の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「吸気絞り弁14が開閉されるとともに燃料噴射量が制御され、車輪6,6に連結された駆動軸及びモータジェネレータ2に駆動力を出力可能なエンジン1と、
モータジェネレータ2により生成された電力を充電するバッテリ81と、
バッテリ81からの電力を受けて動作し、駆動軸に駆動力を出力可能なモータジェネレータ3と、
エンジン1からの排気を吸気通路11に還流するEGR装置と、
エンジン1から駆動軸への駆動力を接続と遮断を切り換える電磁クラッチ4aを含む無段変速機4を備えるハイブリッド車。」

2.-2 引用文献2
本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2010-196684号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「EGRバルブの検査方法」に関し、図面とともに、例えば、次のような記載がある。

(ア)「【0001】
本発明は、動力源としてエンジン及びモータジェネレータを備えたハイブリッド車両において、エンジンのEGR(排気ガス再循環)バルブの異常を検査するためのEGRバルブの検査方法に関するものである。
【背景技術】
…(中略)…
【0003】
従来、自動車の製造工程等において、EGRバルブの異常を検査する場合、例えば、次のように行なわれている。…(後略)…」(段落【0001】ないし【0003】)

(イ)「【0012】
…(中略)…
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態に係るEGRバルブの検査方法が適用されるハイブリッド車両及び検査機器であるEGRバルブ検査装置の概略構成を図1に示す。図1に示すように、検査されるハイブリッド車両1は、エンジン2と、モータジェネレータ3と、ハイブリッドトランスアクスル4と、ハイブリッドバッテリ5(バッテリ)と、ハイブリッドコントローラ6(コントローラ)と、エンジンコントローラ7(コントローラ)とを備えている。
【0014】
エンジン2は、ガソリン、ディーゼル等の内燃機関であり、エンジンコントローラ7によって運転を制御する。モータジェネレータ3は、モータ及び発電機を兼ねており、高圧電源ケーブル8によってハイブリッドバッテリ5に接続されている。…(中略)…
【0016】
エンジン2には、吸気マニホールド内の吸気圧力を検出する圧力センサ9(センサ手段)が設けられている。エンジンコントローラ7は、例えば、圧力センサ9によって検出した吸気圧力及び他の車載センサ手段によって検出したエンジン回転数、アクセルペダル変位量、冷却水温度等の車両の運転状態を表すパラメータに基づいて、スロットル開度、空燃比、燃料噴射量等を決定して、エンジンの運転を制御する。
【0017】
また、エンジン2には、排気マニホールドと吸気マニホールドとを接続するERG通路を開閉するEGRバルブ10が設けられている。そして、エンジンコントローラ7によって、エンジン2の運転状態に応じて、適宜EGRバルブ10を開いて、排気ガスの一部を吸気マニホールドに再循環することにより、エンジン2の燃焼室内の燃焼温度を低下させて窒素酸化物(NOX)の生成を抑制する。
【0018】
ハイブリッド車両1は、上述の車載機器を含む各種車載機器間で入出力信号を授受するため、所定のプロトコルに適合した車載通信ネットワークシステムを備えている。この車載通信ネットワークシステムには、外部コネクタ11が設けられている。そして、この外部コネクタ11に、車載通信ネットワークシステムの通信プロトコルに適合した各種検査機器等の外部機器を接続することができ、これにより、外部機器と車載機器との間で、入
出力信号の授受を行うことができるようになっている。
【0019】
次に、本実施形態に係るEGRバルブの検査方法を実行するためのEGRバルブ検査システムについて説明する。
ハイブリッドコントローラ6及びエンジンコントローラ7は、通常の車両運転時に、これらに接続されたエンジン2、モータジェネレータ3、ハイブリッドトランスアクスル4等の各種車載機器を制御するための各種制御モードの他、こられの車載機器及び各種センサ等の異常診断を行なうための選択可能な各種検査モードを備えている。
【0020】
ハイブリッドコントローラ6は、検査モードとして、「EGRバルブ検査モード」を備えている。そして、ハイブリッドコントローラ6は、EGRバルブ検査モードが選択されたとき、アイドリング状態のエンジン2によってモータジェネレータ3を駆動してハイブリッドバッテリ5の充電を開始し、このとき、エンジン2に対する負荷が一定となるように、モータジェネレータ3のハイブリッドバッテリ5への充電量、すなわち、発電量を一定に制御する。また、ハイブリッドバッテリ5への充電量データを読出し可能にする。
【0021】
エンジンコントローラ7は、EGRバルブ検査モードとして、「EGRバルブ強制開閉モード」を備えている。そして、エンジンコントローラ7は、EGRバルブ強制開閉モードが選択されたとき、EGRバルブの自動制御を中止し、開閉指令信号に応答して、EGRバルブ10を強制的に開閉する。また、圧力センサ9からの吸気圧力データを読出し可能にする。
【0022】
EGRバルブ検査装置12は、通信ケーブル13によってハイブリッド車両1の外部コネクタ11に接続され、車載通信ネットワークを介してハイブリッドコントローラ6及びエンジンコントローラ7と通信可能なハードウエア機器であり、本実施形態では、汎用のコンピュータシステムを用いて、ソフトウエアによって所定のEGRバルブ検査プログラムを実行するようにしている。なお、EGRバルブ検査装置12は、同様のEGR検査プログラムを実行する専用のハードウエアとしてもよい。
【0023】
EGRバルブ検査装置12は、通信ケーブル13をハイブリッド車両1の外部コネクタ11に接続して、EGRバルブ検査プログラムを実行すると、ハイブリッドコントローラ6及びエンジンコントローラ7に指令信号を出力して、EGRバルブ検査モード及びEGRバルブ強制開閉モードを選択する。そして、図2に示すように、圧力センサ9からの吸気圧力データを読み出して監視し、エンジンコントローラ7にEGRバルブ強制閉指令信号を出力して、EGRバルブ10を一旦閉じた後、EGRバルブ強制開指令信号を出力してEGRバルブ10を開く。このとき、EGRバルブ10の閉から開への作動前後の吸気圧力の変化ΔP1を一定の閾値と比較し、吸気圧力の変化ΔP1が閾値よりも大きい場合、EGRバルブ10の閉から開への作動を正常と判断し、閾値より小さい場合、異常と判断する。これにより、EGRバルブ10の閉弁状態での固着による異常を診断する。
【0024】
次いで、エンジンコントローラ7に、EGRバルブ強制閉指令信号を再度出力して、EGRバルブ10を閉じる。このとき、EGRバルブの開から閉への作動前後の吸気圧力の変化ΔP2を一定の閾値と比較し、吸気圧力の変化ΔP2が閾値よりも大きい場合、EGRバルブ10の開から閉への作動を正常と判断し、閾値より小さい場合、異常と判断する。これにより、EGRバルブ10の開弁状態での固着による異常を診断する。
【0025】
このようにして、EGRバルブ10の閉から開及び開から閉への作動の異常を診断して検査を終了する。EGRバルブ検査モードでは、モータジェネレータ3による充電量、すなわち、発電によるエンジン負荷を一定に制御することにより、エンジン負荷による吸気圧力の変動が最小限に抑えられるので、EGRバルブ10の開閉による吸気圧力の変化を確実に検知することができる。
【0026】
なお、EGRバルブ検査モードにおいて、モータジェネレータ3のハイブリッドバッテリ5への充電量が0となるように制御することによってもエンジン負荷を一定にすることができるが、ハイブリッド車両1の完成車を出荷する際には、ハイブリッドバッテリ5は、できるだけ満充電に近い状態とすることが望まれるので、モータジェネレータ3による充電量を一定として、ハイブリッドバッテリ5の充電を行うことが望ましい。」(段落【0012】ないし【0026】)

2.-3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「吸気絞り弁14」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「スロットルバルブ」に相当し、以下同様に、「燃料噴射量」は「燃料供給量」に、「車輪6,6」は「駆動輪」に、「駆動軸」は「駆動軸」に、「エンジン1」は「内燃機関」に、「生成された」は「発電された」に、「電力」は「電力」に、「充電する」は「蓄電する」に、「バッテリ81」は「蓄電池」に、「電力を受けて動作し」は「電力によって駆動され」に、「駆動力」は「駆動力」に、「排気」は「排気」に、「吸気通路11」は「吸気系」に、「環流する」は「供給する」に、「EGR装置」は「排気供給手段」に、「駆動力を接続と遮断を切り換える」は「駆動力伝達を断切する」に、「ハイブリッド車」は「ハイブリッド車両」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「モータジェネレータ2」は、「発電機」という限りにおいて本願補正発明における「発電機」に相当するほか、引用発明における「モータジェネレータ3」は、「電動機」という限りにおいて本願補正発明における「電動機」に相当する
さらに、「ハイブリッド車両」が「内燃機関から前記駆動軸への駆動力伝達を断切するクラッチ機構」を備えるという限りにおいて、引用発明において「ハイブリッド車」が「エンジン1から駆動軸への駆動力を接続と遮断を切り換える電磁クラッチ4aを含む無段変速機4を備える」ことは、本願補正発明において「ハイブリッド車両」が「内燃機関から前記駆動軸への駆動力伝達を断切するクラッチ機構」を備えることに相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
「 スロットルバルブが開閉されるとともに燃料供給量が制御され、駆動輪に連結された駆動軸及び発電機に駆動力を出力可能な内燃機関と、
発電機により発電された電力を蓄電する蓄電池と、
発電機又は蓄電池からの電力によって駆動され、駆動軸に駆動力を出力可能な電動機と、
内燃機関からの排気を内燃機関の吸気系に供給する排気供給手段と、
内燃機関から駆動軸への駆動力伝達を断切するクラッチ機構と、
を備えるハイブリッド車両。」
である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
本願補正発明においては「吸気系の圧力を測定する圧力測定手段と、クラッチ機構により内燃機関から駆動軸への駆動力伝達が遮断されて電動機で電力を消費して駆動輪を駆動していると共にスロットルバルブが開いて燃料供給が行われることで発電機が発電している際に、圧力測定手段の測定結果に基づいて排気供給手段の異常診断を行う故障診断手段とを備えている」のに対し、引用発明においては、そのような構成を有しない点(以下、「相違点」という。)。

2.-4 判断
上記相違点について検討する。
内燃機関を備える車両において、排気環流装置の故障診断を行うことは、一般的な技術課題であるから、引用発明においても、内在する課題であるということができる。
そして、引用文献2には、上記2.-2の記載からみて、「ハイブリッド車両において、吸気マニホールド内の吸気圧力を検出する圧力センサ9を備え、モータジェネレータ3による充電量、すなわち、発電によるエンジン負荷を一定に制御した状態で、EGRバルブ10を開閉させたときの圧力センサ9からの吸気圧力データに基づいて、EGRバルブ10の閉弁状体又は開弁状体での固着による異常を診断する技術」(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されていると認める。
しかし、引用文献2記載技術は、走行と発電によるエンジン負荷を一定に制御した状態でEGRバルブ10の異常を診断するものではないから、自動車の製造工程等において(上記2.-2の記載中(ア)段落【0003】及び(イ)段落【0020】の記載参照。)、通信ケーブル13によってハイブリッド車両1の外部コネクタ11にEGRバルブ検査装置12を接続して実施する技術(上記2.-2の記載中(イ)段落【0022】の記載参照。)であって、車両を停止させた状態で実施するものであることは明らかである。
そうすると、引用発明において、引用文献2記載技術を用いてEGR装置の故障診断を行った場合には、モータジェネレータ3で電力を消費して車輪6,6を駆動しているときに該故障診断を行うことにはならない。
したがって、引用発明において、引用文献2記載技術を採用することにより、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることが容易であったということはできない。
よって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえない。

2.-5 まとめ
本願補正発明は、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえず、また、他に本願補正発明が特許を受けることができない理由もないから、本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についての補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
また、本件補正のその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合し、適法になされたものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし3に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項(上記第2 1.(1)(イ)の【請求項1】ないし【請求項3】)により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-02-29 
出願番号 特願2011-219965(P2011-219965)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (B60K)
P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 中村 達之
梶本 直樹
発明の名称 ハイブリッド車両及び内燃機関の排気還流装置故障診断方法  
代理人 特許業務法人スズエ国際特許事務所  

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