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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E03D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E03D
管理番号 1311719
審判番号 無効2013-800238  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-12-20 
確定日 2016-03-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第5057192号発明「大便器装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5057192号(請求項の数[3]、以下、「本件特許」という。)は、平成13年3月28日に出願した特願2001-93420号の一部を平成22年12月24日に新たな特許出願とした特願2010-288117号に係るものであって、その請求項1?3に係る発明について、平成24年8月10日に特許権の設定登録がなされた。

これに対して、平成25年12月20日に、本件特許の請求項1?3に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人(以下「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2013-800238号〕が請求されたものであり、本件無効審判被請求人(以下「被請求人」という。)により指定期間内の平成26年3月24日付けで審判事件答弁書が提出されたものである。

また、平成26年6月18日付けで請求人、被請求人より口頭審理陳述要領書、同年7月2日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書(2)が提出され、同年7月2日に口頭審理が行われ、同年7月16日付けで請求人より上申書、同年7月18日付けで被請求人より上申書が提出されたものである。


第2 当事者の主張

1.請求人の主張、及び提出した証拠の概要
請求人は、特許第5057192号発明の特許請求の範囲の請求項1、2及び3に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、審判請求書、平成26年6月18日付け口頭審理陳述要領書、同年7月16日付け上申書、同年7月2日の口頭審理において、甲第1?11号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

[無効理由その1]
本件特許の請求項1乃至請求項3に係る各発明は、その出願前に頒布された甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当して無効とすべきである。
具体的には、
ア.構成要件A、B、C、D2、E、F、及びD1に類似するD1’、並びにIを開示する甲第1号証記載の発明を引用発明として、構成要件D1を開示する甲第2号証に接した当業者が、本件発明1及び本件発明3に想到することは容易。
加えて、甲第1号証記載の発明を引用発明として、構成要件Gを開示する甲第2号証に接した当業者が、本件発明2に想到することは容易。
イ.構成要件A、B、C、D1、E、Fを開示する甲第3号証記載の発明を引用発明として、構成要件D2を開示する甲第2号証に接した当業者が、本件発明1に想到することは容易。
加えて、甲第3号証記載の発明を引用発明として、構成要件Gを開示する甲第2号証に接した当業者が、本件発明2に想到することは容易。
ウ.構成要件A、B、C、D1、E、Fを開示する甲第3号証記載の発明を引用発明として、構成要件D2を開示する甲第1号証に接した当業者が、本件発明1に想到することは容易。
加えて、甲第3号証記載の発明を引用発明として、構成要件Iを開示する甲第1号証に接した当業者が、本件発明3に想到することは容易。
である。

[無効理由その2]
本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下ア.?ウ.に関して、特許を受けようとする発明が明確でなく、また発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許法第36条第6項第1号並びに第2号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当して無効とすべきである。
ア.請求項1、2及び3の「略水平」と「傾斜」にかかる記載。
イ.請求項1の「略一周」にかかる記載。
ウ.請求項2の「棚」とその「幅」にかかる記載。

[証拠方法]
甲第1号証:国際公開WO98/16696号公報
甲第2号証:実公平2-45334号公報
甲第3号証:米国特許第3538518号公報
甲第4号証:特開平8-177112号公報
甲第5号証:特開平8-120740号公報
甲第6号証:特開平9-125502号公報
甲第7号証:特開平9-125504号公報
甲第8号証:実開平5-61272号公報のCD-ROM
甲第9号証;特開平4-254630号公報
甲第10号証;英国特許出願公開第2045311号公報
甲第11号証:独国特許出願公開第2104884号公報

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、平成26年3月24日付け審判事件答弁書、平成26年6月18日付け口頭審理陳述要領書、平成26年7月2日付け口頭審理陳述要領書(2)、同年7月18日付け上申書、同年7月2日の口頭審理において、乙第1?3号証を提示し、請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

[無効理由に対する反論]
本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。

[証拠方法]
乙第1号証:特開2007-315044号公報
乙第2号証:特開平10-237929号公報
乙第3号証:三村量一「進歩性」ジェリスト、2012年11月p78-86


第3 本件に係る発明
本件特許の請求項1?3に係る発明は特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。(「A:」?「J:」の文字は当審で付与。)
「【請求項1】
A:大便器のリム直下でボウル内面に沿って略水平にボウル部の後方側部より前方に洗浄水を供給する1つのノズルと、
B:洗浄水をボウル全周に導くボウル内面に沿った棚と、この棚の上方に設けられたリム部と、を備えた大便器装置において、
C:前記リム部は前記棚から上方に向けて内側に張り出すオーバーハング形状となっており、
D1:前記棚は、前記ボウル部の側部では略水平で
D2:且つ前記ボウル部の前方部ではボウル部中央に向かって下方に傾斜し、
E:前記ノズルから噴出した洗浄水が前記棚に沿って略一周を旋回するように構成されている
F:ことを特徴とする大便器装置。
【請求項2】
G:前記棚は前記ボウル部の側部で略水平で、前記棚の幅が前記ボウル部の前方側で最少である
H:請求項1に記載の大便器装置。
【請求項3】
I:前記棚は、前記ボウル部の後方部ではボウル部中央に向かって下方に傾斜している
J:請求項1又は2に記載の大便器装置。」(以下、本件発明1等という。)

第4 無効理由1についての当審の判断
1.甲第1?甲第3号証の記載事項
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許出願の原出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、水洗便器に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「技術分野
この発明は、洗い落とし式、サイホン式、サイホンゼット式などの水洗便器に関するものである。」(明細書第1頁第3?5行)
(イ)「また、本発明は、上記特長に加えて、洗浄水がボウル部導水路から便器外に飛び出すことがない水洗便器を提供することを目的とする。」(明細書第3頁第4?5行)
(ウ)「本発明はまた、上記特長に加えて、吐水部から吐出された洗浄水が吐水部から離れるにしたがって広がっても、ボウル部の曲率の最も大きい個所がオーバーハング面形状となっているので洗浄水が便器外へ飛び出すおそれがない水洗便器を提供することを目的とする。」(明細書第3頁第10?13行)
(エ)「前記ボウル部1の上部開口13の周縁には、一定の幅でリム部14を形成している。」(明細書第9頁第8?9行)
(オ)「上記構成の水洗便器Aにおいて、本発明の特徴となるのは、ボウル部1の汚物受け面10と、同ボウル部1の上部開口13の周縁に形成したリム部内側壁面15とを連続させて湾曲面を形成するとともに、同リム部内側壁面15を洗浄水のボウル部導水路16としたことにある。」(明細書第9頁第20?23行)
(カ)「本実施例では、前記ボウル部導水路16を、前記リム部内側壁面15の全周、あるいはその一部をボウル部1内側方に向けて覆い被されるように傾斜させたオーバーハング面形状としている。」(明細書第9頁第24?26行)
(キ)「すなわち、オーバーハング面形状としたボウル部導水路16は、図1及び図3に示すように、汚物受け面10の乾燥面12から連続して鋭角状に滑らかに立上がっており、・・・」(明細書第9頁第27行?第10頁第1行)
(ク)「横向吐水開口5からの洗浄水は、前記ボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3における流れを主流とする周回流路fを旋回しながら、乾燥面12を含む汚物受け面を洗浄するとともに、溜水部Wに旋回流を発生させ、同溜水部Wの略中心部に渦を形成して浮遊する汚物を溜水部Wの中心に引き寄せる方向に作用する。」(明細書第11頁第4?8行)
(ケ)「したがって、洗浄水はボウル部1のリム部14の付近を含む内側面全体を洗浄することができて水洗便器Aを清潔に保つことができ、しかも、洗浄水による旋回流は、ボウル部導水路16により上方より押さえられた状態となっているので、便器外へ飛び出したりすることがない。」(明細書第11頁第9?12行)
(コ)「すなわち、吐水部となる下向吐水開口4及び横向吐水開口5を形成した膨出部17を、第1実施例と同様にボウル部1の奥部側に設ける一方、・・・ボウル部1の奥部に設けられた横向吐水開口5から吐出された洗浄水は、横向吐水開口5から離れるにしたがって広がるが、ボウル部1内で、洗浄水が便器外へ飛び出すおそれがあると考えられる曲率の最も大となる個所、すなわち、前記したボウル部1の先端側にボウル部導水路16を設けて洗浄水の便器外への飛び出しを防止している。」(明細書第12頁第10?19行)
(サ)「1.便器上縁の内側壁面に沿って便器上縁の略全体に行きわたらせるよう主洗浄水を吐出する吐出手段と、
該吐出手段からの前記主洗浄水を案内する洗浄水導水路(16)と、
この導水路(16)と滑らかに連続して形成された前記主洗浄水から分かれた分流洗浄水をボール内面全体に行きわたらせる導水部(10)とを備えてなる水洗便器。
2.ボウル部(1)の汚物受け面(10)と、同ボウル部(1)の上部開口(13)の周縁に形成したリム部内側壁面(15)とを連続させて彎曲面を形成するとともに、同リム部内側壁面(15)を洗浄水のボウル部導水路(16)としたことを特徴とする水洗便器。
・・・」(請求の範囲)
(シ)図1?図3には、ボウル部導水路16、リム部14が図示されている。
(ス)図1?図4及び図9?図11には、水洗便器A、リム部14、ボウル部1、横向吐水開口5が図示されている。
(セ)図1、図5、図6、図7、図9及び図14には、ボウル部導水路16の境界部3より上の部分が図示されている。
(ソ)図1?図3には、水洗便器Aが図示され、そのうち図3には、ボウル部1の側部におけるボウル部導水路16が図示され、この図3に側部のボウル部導水路16の傾斜角度が図示されている。図1に前方部のボウル部導水路16の傾斜角度も図示されている。
(タ)図1、図5、図6、図7、図9、図12、図14、図15及び図17には、ボウル部導水路16の前方側の底面部が下方に向かって傾斜されている構成が記載されている。
(チ)図2には、横向吐水開口5からの洗浄水の旋回について図示されている。
(ツ)図1、図5、図6、図7、図9、図12、図14、図15、図17、図21及び図24には、大便器装置として、ボウル部1の奥部側のボウル部導水路16の後方部が下方に向かって傾斜されている構成が記載されている。

上記記載事項から、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「便器上縁の内側壁面に沿って便器上縁の略全体に行きわたらせるよう主洗浄水を吐出する吐出手段と、
該吐出手段からの前記主洗浄水を案内するボウル部導水路16と、
この導水路16と滑らかに連続して形成された前記主洗浄水から分かれた分流洗浄水をボール内面全体に行きわたらせる導水部10とを備えてなる水洗便器であって、
水洗便器Aは、リム部14、ボウル部1、横向吐水開口5を有し、
吐出手段は、横向吐水開口5であり、
横向吐水開口5からの洗浄水は、主洗浄水として前記ボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3における流れを主流とする周回流路fを旋回しながら、乾燥面12を含む汚物受け面を洗浄するものであり、
ボウル部導水路16を、リム部内側壁面15の全周、あるいはその一部をボウル部1内側方に向けて覆い被されるように傾斜させたオーバーハング面形状としたものであり、
ボウル部導水路16の前方側の底面部が下方に向かって傾斜されている、
水洗便器。」(以下、これを「甲第1号証記載の発明」という。)

(2)甲第2号証の記載事項
本件特許出願の原出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、水洗便器に関して次の事項が記載されている。
(ア)「従来のオープンリムタイプの水洗便器においては、便器奥側から通水路内に吐出された洗浄水のうち多くの部分が便器奥側ないしは該奥側に近い部分にて鉢内に流れ落ちてしまい、便器手前側へ到達する洗浄水量が不足し易く、鉢内面の均等な洗浄を行いにくいという問題があつた。」(第2欄第8?11行)
(イ)「本考案においては、通水路から鉢内面に流れ落ちる洗浄水量が、鉢の全周に亙つて均等化され、従つて鉢内面の洗浄水量が均一化され、鉢内全面の効率的な洗浄が行えるようになる。」(第2欄第25行?第3欄第3行)
(ウ)「この水洗便器1は、その内部に鉢2を有し、鉢2の上端内周には段状の通水路3が鉢2の全周を周回するように設けれている。通水路3の上側の部分には便座載置部4がせり出すように設けれており、この便座載置部4の上面に便座(図示せず)が倒伏時に載置される。第2図の符号5は、便座取付孔である。」(第3欄第8?14行)
(エ)「導水部8の手前側の部分には水の吐出口9が左右及び下の3ケ所に開設されており(第6図参照)、水タンクからの洗浄水がこの吐出口9を通つて通水路3の奥側に吐出可能とされている。」(第3欄第21?25行)
(オ)「また第5図(第1図のV部の断面図)に示すように、便器手前側では、通水路の鉢2側の部分が、その反対側の部分よりも低レベルとなる勾配となつている。また、便器奥側と手前側の中間部分では、第4図(第1図のIV部の断面図)に示すように、通水路は幅方向に水平勾配となつている。かかる通水路3の鉢2内方向への傾斜構成とすることにより、通水路3の奥側に供給された洗浄水は、鉢2の全周に亙つて均等量ずつ鉢2内に流れ落ちるようになり、水洗便器1の奥側の部分で多量に鉢2内に流れ落ちるという弊害が解消される。」(第3欄第33?44行)
(カ)「また、本実施例では、通水路3の幅は便器奥側の部分から手前側の部分にかけて次第に狭まるようにとられており(第2図?第5図参照)、洗浄水が便器手前側に到達するほど、鉢2内に流れ落ち易くなつている。」(第4欄第5?9行)
(キ)第1図、第2図及び第6図には、水洗便器1、便座載置部4、鉢2、吐出口9が図示されている。
(ク)第1図、第2図には、通水路3、便座載置部4が図示されている。
(ケ)第1図には、便座載置部4の下部が、通水路3から上方に向けて内側に張り出す形状となっていることが図示されている。
(コ)第1図、第4図及び第5図には、側部では水平で、且つ前方部では下方に傾斜する通水路3が図示されている。

(3)甲第3号証の記載事項
本件特許出願の原出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、携帯トイレ用洗浄用マニフォールドに関して次の事項が記載されている。
なお、()内は、請求人が提示した訳。
(ア)「In an improved flushing manifold for a toilet, flushing liquid is introduced into the flushing manifold tangentially and flows through a continuous slot surrounding the toilet bowl so that the liquid circulates around and through the manifold and flows downwardly and around the bowl thereby increasing the distance through which the liquid moves while in contact with the bowl to provide improved cleansing action.」
(トイレ用の改善された水洗用マニフォールドであって、洗浄液は、水洗用マニフォールドヘ接線方向から導入され、便器を囲む連続的なスロットを通じて流れ、洗浄液は、マニフォールド周囲を流れるとともにそのマニフォールドを通じて流れ、かつ、便器を下方へ向けてかつ周囲に流れるようにされており、これにより、便器に接触した状態で流れる距離を長くして優れた洗浄作用を提供する。)(第1欄「ABSTRACT OF THE DISCLOSURE」)
(イ)「A flushing manifold 20 includes a generally horizontally disposed upper surface 21 of the member 15. This surface 21 extends completely around the outer periphery of the bowl 13. As shown in FIG. 4, an inverted U-shaped member 23 has a horizontal surface 24 spaced vertically from the surface 21, and an outer downwardly extending portion 25 which engages the outer circumferential surface 26 of the bowl 13 in watertight relation. The outer surface of the housing 12 is so formed that the downwardly extending portion 25 of the U-shaped member fits flush therewith to give a smooth appearance to the exterior of the toilet. An inner downwardly extending portion 27 of the U-shaped member is spaced from the bowl 13 and extends below the top surface to form an open slot 28 which extends continuously around the bowl 13.
The U-shaped member 23 fits closely against the upper section 12 and the member 15, and sealing means, such as epoxy, insures that no flushing liquid will seep between these parts.
Flushing liquid from the hose 18 is directed into an entrance chamber 30, shown in detail in FIGS. 5 and 6. The shape of this chamber is designed to minimize turbulence in the flushing liquid as it transitions from the hose 18 to the flushing manifold 20. The chamber 30 includes an upwardly sloping surface 31 formed on the upper section 12 to direct the liquid upwardly so that all of the liquid from the pipe flows tangentially into the area between the surface 21 and the U-shaped member 23. Since the liquid flows tangentially around the manifold 20,centrifugal force tends to force the liquid against the outer downwardly extending portion 25, however, some liquid will flow downwardly through the slot 23 throughout the entire circumference of the manifold. Thus, all of the liquid is not directed downwardly into the bowl at any particular location, but rather a small amount of liquid will flow downwardly at an angle through the slot 28 completely around the bowl 13. Since this liquid has a forward velocity, it will flow downwardly across the bowl at a substantial angle thus increasing its effective cleaning action since it travels a longer distance than the liquid which exits from prior art type manifolds. 」
(水洗用マニフォールド20は、部材15の水平に配置された上部表面21を有する。この表面21は、完全に便器13の外周の周りに延びる。図4で示されるように、逆U宇型の部材23は、表面21から垂直方向に離間した水平面24と、便器13の外周面26と水密な関係において係合する外側下方延伸部25を有する。ハウジング12の外側表面は、U字型部材の下方延伸部25が、トイレに滑らかな外観を与えるように、そこにあるフラッシュとフィットするように形成される。U宇型部材の内側下方延伸部27は、便器13から離間されて、便器13のまわりに連続的に伸びるオープンスロット28を形成するように天面下方に延びる。
U字型部材23は、上方セクション12及び部材15に対して緊密にフィットし、かつ、エポキシ樹脂のような封印手段により、これらのパーツ間で洗浄液が漏洩しないことが保証される。ホース18からのブラッシング液は、図5及び6に詳細に示される入口チャンバ30へと導入される。このチャンバの形は、ホース18から洗浄用マニフォールド20へと洗浄液が流れる際の乱流を最小化する形状に設計される。チャンバ30は、液体を上方へ流すために上方セクション12上に形成された、上方傾斜表面31を有し、パイプからのすべての液体が、表面21とU字型部材23との間の領域内に折線方向から流れるようにされている。
液体がマニフォールド20のまわりで接線方向に流れることから、遠心力は、下方延伸部25に対して液体を向かわせる傾向を有するが、しかしながら、液体の幾分かは、マニフォールドの全周にわたって、スロット23を通じて下方へ向けて流れる。従って、いずれの特定のロケーションにおいても、液体のすべてが便器へと下方へ向けて流されるわけではなく、むしろ、少量の液体は、スロット28を通じて便器13の周全体を、ある角度で下方へ向けて流れるものである。この液体は、前方へと進む速度を有するので、実質的に角度をもって便器を横切って下方へ向けて流れ、従来のタイプのマニフォールドからの液体よりも長距離を移動することから、実効的なクリーニング動作を増加させる。)(第3欄第28?69行)
(ウ)図1、図2において、洗浄水は、便器13の後方側に配置された入口チャンバ30から、表面21に沿って図2の破線矢印のように全周を流れるとともに、U字型部材23と表面21との間のスロット28から図1、図2の実線矢印のように、便器内面に流下するものとして記載されている。
(エ)図4で、U字型部材23は、表面21上方を覆う形状となっている。
(オ)図4において、表面21は、水平に記載されている。

上記記載事項から、甲第3号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「水洗用マニフォールドであって、
水洗用マニフォールド20は、部材15の水平に配置された上部表面21を有し、
この表面21は、完全に便器13の外周の周りに延び、
逆U宇型の部材23は、表面21から垂直方向に離間した水平面24と、便器13の外周面26と水密な関係において係合する外側下方延伸部25を有し、
ハウジング12の外側表面は、U字型部材の下方延伸部25が、トイレに滑らかな外観を与えるように、そこにあるフラッシュとフィットするように形成され、
U宇型部材の内側下方延伸部27は、便器13から離間されて、便器13のまわりに連続的に伸びるオープンスロット28を形成するように天面下方に延び、
U字型部材23は、上方セクション12及び部材15に対して緊密にフィットし、かつ、エポキシ樹脂のような封印手段により、これらのパーツ間で洗浄液が漏洩しないことが保証され、
ホース18からのブラッシング液は、入口チャンバ30へと導入され、
このチャンバの形は、ホース18から洗浄用マニフォールド20へと洗浄液が流れる際の乱流を最小化する形状に設計され、
チャンバ30は、液体を上方へ流すために上方セクション12上に形成された、上方傾斜表面31を有し、パイプからのすべての液体が、表面21とU字型部材23との間の領域内に折線方向から流れるようにされ、
液体がマニフォールド20のまわりで接線方向に流れることから、遠心力は、下方延伸部25に対して液体を向かわせる傾向を有するが、しかしながら、液体の幾分かは、マニフォールドの全周にわたって、スロット23を通じて下方へ向けて流れ、
従って、いずれの特定のロケーションにおいても、液体のすべてが便器へと下方へ向けて流されるわけではなく、むしろ、少量の液体は、スロット28を通じて便器13の周全体を、ある角度で下方へ向けて流れるもので、
この液体は、前方へと進む速度を有するので、実質的に角度をもって便器を横切って下方へ向けて流れ、従来のタイプのマニフォールドからの液体よりも長距離を移動することから、実効的なクリーニング動作を増加させ、
洗浄水は、便器13の後方側に配置された入口チャンバ30から、表面21に沿って全周を流れるとともに、U字型部材23と表面21との間のスロット28から便器内面に流下するものであり、
U字型部材23は、表面21上方を覆う形状となっている、
水洗用マニフォールド」(以下、これを「甲第3号証記載の発明」という。)


2.無効理由その1-ア.(本件発明1、2、3に対し甲第1、2号証)の検討
(1)本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比
本件発明1と甲第1号証記載の発明を対比する。
(a)甲第1号証記載の発明の「便器」は、本件発明1の「大便器」に相当し、以下同様に、
「リム部14」は、「大便器のリム」に、
「ボウル部1」は、「ボウル」に、
「横向吐水開口5」は、「1つのノズル」に相当する。
そして、甲第1号証記載の発明の「横向吐水開口5」は、「横向吐水開口5からの洗浄水は、主洗浄水として前記ボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3における流れを主流とする周回流路fを旋回しながら、乾燥面12を含む汚物受け面を洗浄」するものであるので、本件発明1の「大便器のリム直下でボウル内面に沿って略水平にボウル部の後方側部より前方に洗浄水を供給する1つのノズル」に相当する。
(b)甲第1号証記載の発明の「ボウル部導水路16」は、「横向吐水開口5からの洗浄水は、主洗浄水として前記ボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3における流れを主流とする周回流路fを旋回しながら、乾燥面12を含む汚物受け面を洗浄」するものであるので、洗浄水をボウル全周に導くものといえ、また、その配置場所はボウル部1の内面といえる。
そうすると、甲第1号証記載の発明の「ボウル部導水路16」と、本件発明1の「洗浄水をボウル全周に導くボウル内面に沿った棚」とは、洗浄水をボウル全周に導くボウル内面の洗浄水導水路である点で共通する。
(c)甲第1号証記載の発明の「リム部14」は、図1においてボウル部導水路16の上方に記載されたものであるので、甲第1号証記載の発明の「リム部14」と、本件発明1の「この棚の上方に設けられたリム部」とは、洗浄水導水路の上方に設けられたリム部で共通する。
さらに、甲第1号証記載の発明の「ボウル部導水路16を、リム部内側壁面15の全周、あるいはその一部をボウル部1内側方に向けて覆い被されるように傾斜させたオーバーハング面形状とした」位置関係と、本件発明1の「リム部は前記棚から上方に向けて内側に張り出すオーバーハング形状となって」いる位置関係とは、リム部は洗浄水導水路から上方に向けて内側に張り出すオーバーハング形状となっている点で共通する。
(d)甲第1号証記載の発明の「ボウル部導水路16の前方側の底面部が下方に向かって傾斜されている」ことと、本件発明1の「棚は、前記ボウル部の側部では略水平で且つ前記ボウル部の前方部ではボウル部中央に向かって下方に傾斜し、前記ノズルから噴出した洗浄水が前記棚に沿って略一周を旋回するように構成されている」こととは、洗浄水導水路は、ボウル部の前方部でボウル部中央に向かって下方に傾斜し、ノズルから噴出した洗浄水が洗浄水導水路に沿って略一周を旋回するように構成されている点で共通する。

一致点:
そうすると、両者は、
「大便器のリム直下でボウル内面に沿って略水平にボウル部の後方側部より前方に洗浄水を供給する1つのノズルと、
洗浄水をボウル全周に導くボウル内面の洗浄水導水路と、
洗浄水導水路の上方に設けられたリム部と、を備えた大便器装置において、
前記リム部は洗浄水導水路から上方に向けて内側に張り出すオーバーハング形状となっており、
前記洗浄水導水路は、ボウル部の前方部でボウル部中央に向かって下方に傾斜し、ノズルから噴出した洗浄水が洗浄水導水路に沿って略一周を旋回するように構成されている大便器装置。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点1:ボウル内面の洗浄水導水路が、本件発明1は、「ボウル内面に沿った棚」であり、「棚は、前記ボウル部の側部では略水平で且つ前記ボウル部の前方部ではボウル部中央に向かって下方に傾斜」するのに対し、甲第1号証記載の発明は、そうでない点。

(2)相違点1についての判断
ア.両当事者の主張
(ア)請求人は、(a)審判請求書「7.(4)(4-2)[1]ウ(イ)」で、「ボウル部導水路16は、洗浄水を保持しつつボウル部内周面に洗浄水を導く機能を有するものとされていることは明らかであって、本件発明1の構成要件Bにおける『棚』に相当するものと認められる。」と、
(b)同じく「(4-3)[1]ア」「(イ)」?「(ウ)」で、「甲第2号証の第1図、第4図及び第5図の通水路3(棚)のボウル部(鉢2)の前方部で傾斜を大きくするとの本件発明1の構成要件D2に相当する構成と、側部について、その第3欄36行?39行には、棚(通水路3)は、ボウル部(鉢2)の側部では水平であることが記載され、本件特許発明1の構成要件D1に相当する構成が記載されている。すなわち、D1+D2の構成が示されている。・・・甲第1号証の構成D1’には、ボウル部の前方部と側部で棚の傾斜角度を変更すること、つまりボウル側部では棚の傾斜をより小さく、ゆるやかにすることにより洗浄水のボウル部全周への導水とボウル部内面の均一で効率的な洗浄を図ろうとする技術的な思想が示されていることがわかる。・・・本件特許発明と技術分野並びに課題が共通する、甲第1号証記載の発明に対し、同様に技術分野や課題が共通する甲第2号証記載の発明のボウル部側部での棚を水平にするとの知見、思想を適用し、ボウル部側部の棚(ボウル部導水路)の傾斜をより小さくし、よりゆるやかな水平にまで変更してみることは、当業者にとって動機づけもあり容易に想到し得ることである。そして、この適用による効果も、当業者にとっては予期される範囲を出るものではない。」と主張するとともに、
(c)平成26年6月18日付け口頭審理陳述要領書「第3 1 (1)エ」で、「本件明細書の記載からすれば、本件発明において『棚』とは、広く『ボウル内面上部に設けられ、ノズルより吐出された洗浄水をボウル部の全周に導く経路』といった意味に解するほかない。」と、
(d)同じく「(2)」で、「境界部3は、図1等において、ボウル部全周にわたって図示されており、どの下側の部分が洗浄水をボウル部全周に導く経路として機能していることは明らかである。・・・したがって、『リム部内壁側面15のうち境界部3より下側のボウル部導水路16部分』は、本件発明の『棚』に相当する」と、
(e)同じく「2 (2)」で、「甲第1号証の図3には、ボウル部の側部において、『棚』に相当する『リム部内壁側面15のうち境界部3より下側のボウル部導水路16部分』につき、ボウル部の前方部分よりも傾斜角が小さい構成が開示されている。」と、
(f)同じく「第4 1 (2)ア」で、「甲第2号証に記載の考案の課題も、
『従来のオープンリムタイプの水洗便器においては、便器奥側から通水路内に吐出された洗浄水のうち多くの部分が便器奥側ないしは該奥側に近い部分にて鉢内に流れ落ちてしまい、便器手前側へ到達する洗浄水量が不足し易く、鉢内面の均等な洗浄を行いにくいという間題があった」(甲第2号証第2欄8行目以下)
というものであり、ここでは、吐出口1つタイプ及び同2つタイプの区分は存在しない。」と、同じく「ウ」で、「特に、洗浄水を汚物受け面全体に行き渡らせてボウルの洗浄性能を向上させることを課題とする甲第1号証を前提として、甲第2号証における『洗浄水のうち多くの部分が便器奥側ないしは該奥側に近い部分にて鉢内に流れ落ちてしまい、便器手前側へ到達する洗浄水量が不足し易く、鉢内面の均一な洗浄を行いにくい』(第2欄10行?13行)という課題と、『本考案においては、通水路から鉢内面に流れ落ちる洗浄水量が、鉢の全周に互って均等化され、従って鉢内面の洗浄水量が均一化され、鉢内全面の効率的な洗浄が行えるようになる。』(第2欄25行?第3欄3行)という作用効果に接した当業者が、その解決手段である甲第2号証のD1+D2の構成を適用しようと試み、これらを組み合わせて本件発明に至ることには動機付けがある。」と、同じく「エ」で、「このように、甲第1号証のように洗浄水が一周するものであろうと、甲第2号証のように洗浄水が一周するものではなく『奥側』から『左右』に分かれて『手前側』まで到達するものであろうと、それらに関わらず、上記の技術的意義は共通しているのであるから、このことを踏まえると、通水路3の便器奥側と手前側の角度によって、鉢内面に流れ落ちる水量を調整し、これにより洗浄水の飛び出し・飛び散りを防止したり、洗浄水を流下し易くしたりする点において、甲第2号証記載の発明に開示される構成要件D1+D2という知見、思想に接した当業者が、甲第1号証記載の発明においてもD1+D2という構成を適用しようと試みる動機付けがあり、このような構成を適用することは、当業者であれば容易に想到し得る。」
と主張している。
(イ)一方、被請求人は、(a)平成26年3月24日付け審判事件答弁書「第3 (1)(1-1)(1-1-1)」で、「甲第1号証における『ボウル部導水路16』は、鉛直面乃至ボウル部の内方に向けて傾斜したオーバーハング面であり、『棚』として機能しないことは明らかである。
ここで、広辞苑第五版には、『棚』が次のように定義されている。
『たな【棚】 板を平らにかけ渡して物をのせる装置。戸棚・茶棚。書巻のように移動し得るものは置棚と称する。』
ここに定義されているとおり、『棚』の用語の意味を参酌しても、甲第1号証の鉛直面乃至ボウル部の内方に向けて傾斜したオーバーハング面である『ボウル部導水路16』は『棚』に相当しないことは自明である。
本件発明は『棚」を有することで、例えば洗浄水量も少なく、洗浄性能における水圧変動の影響をうけにくい水洗便器を実現するものであり、甲第1号証の『ボウル部導水路16』とは洗浄水を導く技術思想が明らかに異なるものである。」と、
(b)同じく「第3 (1)(1-5)」で、「本件発明の構成要件B、C、D1、D2、E、G、及びIは何れにも記載されていない・・・甲第1号証記載の発明は、『内壁面導水路』タイプの水洗便器に関するものであり、・・『オープンリム』タイプの水洗便器である甲第2号証記載の発明を組み合わせるとは考えられない。・・・
加えて、甲第1号証記載の発明は、横向吐水開口5から吐出された洗浄水をボウル部導水路16に沿ってボウル前方へと旋回させるものであるのに対し、甲第2号証記載の発明は、各吐出口9から左右方向に向けて夫々吐出された洗浄水が、通水路3を通って水洗便器の前方側で合流させるものである。従って、甲第1号証、第2号証記載の発明を、当業者が容易に組み合わせることはできない。」
と主張している。

イ.相違点1の容易想到性の検討
(a)まず、甲第1号証記載の発明の主洗浄水を案内するボウル部導水路16は、平らで物をのせる機能を有する、所謂「棚」の構成を有するものではないので、特許発明の構成要件Bにおける「棚」に相当するものとはいえない。
(b)また、甲第1号証記載の発明の主洗浄水を案内するボウル部導水路16は、上記した如く、所謂「棚」の構成を有さず「横向吐水開口5からの洗浄水は、主洗浄水として前記ボウル部導水路16と乾燥面12との境界部3における流れを主流とする周回流路fを旋回しながら、乾燥面12を含む汚物受け面を洗浄するもの」である一方、甲第2号証記載の水洗便器の洗浄水を案内する部位は、所謂「オープンリム」タイプであって、基本構成が異なるものであり、さらに、洗浄水が流れる経路も、甲第1号証記載の発明は旋回させるものであるのに対し、甲第2号証記載のものは、各吐出口9から左右方向に向けて夫々吐出された洗浄水が、通水路3を通って水洗便器の前方側で合流させるものであって、洗浄水が流れる経路も異なるものである。
(c)そして、甲第1号証記載の発明と、甲第2号証記載の水洗便器とは、洗浄水が流れる経路が異なるものであり、甲第1号証記載の発明では水流が旋回して、ボウル部の後方側部に向かう場面においては、甲第2号証記載の通水路3の水流の向きと全く逆方向となっているものであるので、甲第2号証記載の「水洗便器1の奥側の部分で多量に鉢2内に流れ落ちるという弊害が解消される。」ための構成を採用する動機自体否定されるものとなって、請求人が主張する様な、甲第1号証記載の発明に対し、甲第2号証記載の発明のボウル部側部での棚を水平にするとの知見、思想を適用し、ボウル部側部の棚の傾斜をより小さくし、よりゆるやかな水平にまで変更してみることは、当業者にとって容易に想到し得ることであるとはいえない。
(d)そうすると、甲第1号証、甲第2号証に基づいて、本件発明1の相違点1に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできない。

(3)本件発明2,3に係る判断
本件発明2は、本件発明1にさらに
「G:前記棚は前記ボウル部の側部で略水平で、前記棚の幅が前記ボウル部の前方側で最少である」との限定を付したした発明であり、本件発明3は、本件発明1にさらに
「I:前記棚は、前記ボウル部の後方部ではボウル部中央に向かって下方に傾斜している」との限定を付したした発明であるので、本件発明2、3と甲第1号証記載の発明とは、少なくとも上記相違点1で相違するものである。
そして、上記(2)の如く、請求人が具体的に主張した理由を検討しても、甲第1号証、甲第2号証に基づいて、本件発明1の相違点1に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできないので、本件発明2、3も同様に、甲第1、2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)まとめ
したがって、本件特許の請求項1乃至請求項3に係る各発明は、その出願前(原出願日前)に頒布された甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.無効理由その1-イ.(本件発明1、2に対し甲第3、2号証)の検討
(1)本件発明1と甲第3号証記載の発明との対比
本件発明1と甲第3号証記載の発明を対比する。
(a)甲第3号証記載の発明の「便器13」は、本件発明1の「大便器」に相当し、以下同様に、
「U字型部材23」は、「大便器のリム」に、
「洗浄水」が「スロット28から便器内面に流下する」「便器内面」は、「ボウル内面」及び「ボウル部」に、
「入口チャンバ30」は、「1つのノズル」に相当する。
そして、甲第3号証記載の発明の「入口チャンバ30」と、本件発明1の「大便器のリム直下でボウル内面に沿って略水平にボウル部の後方側部より前方に洗浄水を供給する1つのノズル」とは、前者の「洗浄水」が「便器13の後方側に配置された入口チャンバ30から、表面21に沿って全周を流れる」ものであるので、大便器のリム直下で(ボウル内面に沿って)略水平にボウル部の後方側部より前方に洗浄水を供給する1つのノズルである点で共通する。
(b)甲第3号証記載の発明の「表面21」は、「洗浄水」が「便器13の後方側に配置された入口チャンバ30から、表面21に沿って全周を流れるとともに、U字型部材23と表面21との間のスロット28から便器内面に流下するもの」するものであるので、洗浄水をボウル全周に導くものといる。
そうすると、甲第3号証記載の発明の「表面21」と、本件発明1の「洗浄水をボウル全周に導くボウル内面に沿った棚」とは、洗浄水をボウル全周に導く流路の面である点で共通する。
(c)甲第3号証記載の発明の「U字型部材23」は、図4において表面21の上方に記載されたものであるので、甲第3号証記載の発明の「U字型部材23」と、本件発明1の「この棚の上方に設けられたリム部」とは、流路の面の上方に設けられたリム部で共通する。
さらに、甲第3号証記載の発明の「U字型部材23」の「表面21上方を覆う形状」と、本件発明1の「リム部は前記棚から上方に向けて内側に張り出すオーバーハング形状」であることとは、リム部は流路の面の上方に位置する形状である点で共通する。
(d)甲第3号証記載の発明の「部材15の水平に配置された上部表面21を有し、
この表面21は、完全に便器13の外周の周りに延び」「洗浄水は、便器13の後方側に配置された入口チャンバ30から、表面21に沿って全周を流れる」ことと、本件発明1の「棚は、前記ボウル部の側部では略水平で且つ前記ボウル部の前方部ではボウル部中央に向かって下方に傾斜し、前記ノズルから噴出した洗浄水が前記棚に沿って略一周を旋回するように構成されている」こととは、流路の面は、略水平で、ノズルから噴出した洗浄水が流路の面に沿って略一周を旋回するように構成されている点で共通する。

一致点:
そうすると、両者は、
「大便器のリム直下で略水平にボウル部の後方側部より前方に洗浄水を供給する1つのノズルと、洗浄水をボウル全周に導く流路の面と、流路の面の上方に設けられたリム部と、を備えた大便器装置において、前記リム部は流路の面の上方に位置する形状となっており、前記流路の面は、略水平で、ノズルから噴出した洗浄水が流路の面に沿って略一周を旋回するように構成されている大便器装置。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点2:ノズルが、本件発明1は「ボウル内面に沿って」洗浄水を供給するものであるのに対して、甲第3号証記載の発明は、入口チャンバ30が「洗浄水は、・・・表面21に沿って全周を流れるとともに、U字型部材23と表面21との間のスロット28から便器内面に流下する」ようにするものである点。

相違点3:本件発明1は、洗浄水をボウル全周に導く流路の面が「ボウル内面に沿った棚」であり、リム部が「棚から上方に向けて内側に張り出すオーバーハング形状」となっているのに対して、甲第3号証記載の発明は、流路の面が「部材15の水平に配置された上部表面21」であり、リム部が表面21の上方に記載された「U字型部材23」である点。

相違点4:洗浄水をボウル全周に導く流路の面が、本件発明1は、「ボウル内面に沿った棚」であり、「棚は、前記ボウル部の側部では略水平で且つ前記ボウル部の前方部ではボウル部中央に向かって下方に傾斜」するのに対し、甲第3号証記載の発明は、そうでない点。

(2)相違点2?4についての判断
ア.両当事者の主張
(ア)請求人は、(a)審判請求書「7.(4)(4-2)[3]ウ」で、「『surface 21 (表面21)」は、・・本件特許発明における・・『棚』に相当する。」と、
(b)同じく「ウ」で、「洗浄水は、表面21、つまり棚に沿って図2(Fig.2)の破線矢印のように全周を流れるとともに、『U字型部材23』と『表面21』との間の『スロット28』から図1(Fig.1)、図2(Fig.2)の実線矢印のように、便器内面に流下する構成とされている。
『U字型部材23』、つまり『リム部』は、『表面21』、すなわち『棚』上方でオーバーハング形状となっている。
そして、『表面21』、つまり『棚』は、図4(Fig.4)のように、『水平』に配置されている(horizontally disposed upper surface 21 of the member15)(カラム3の第28行?29行)。
以上のことから、甲第3号証には、本件特許発明の構成要件A?C、D1、E及びFの構成が開示されていることがわかる。」と、
(c)同じく「(4-3)[2]ア」「(イ)?(ウ)」で、「甲第2号証記載の発明では、通水路、つまり棚は、鉢(便器ボウル)の側部では水平とし、かづ、前方部では傾斜させている。すなわち、甲第2号証には、ボウル内面の全体的な均一な洗浄という洗浄性能の向上のために、上記相違点(本件特許発明の構成要件D2の手段を採用すること)が開示されている。」「甲第3号証記載の発明及び甲第2号証記載の発明は、その技術分野(いずれも水洗便器)、課題・作用効果(いずれも本件特許発明の課題2と同じく、洗浄水量をボウル内全面に行き渡らせ、洗浄性能を向上させる)が共通している。
甲第3号証記載の発明においては、水平の棚、すなわち前記の表面21の別の実施形態として、表面43は、3°の角度で便器の方へと傾斜されている。これは、洗浄液が残らないようにすることを考慮したものである。
このことからは、甲第3号証は、水平の『表面』、つまり『棚』については、洗浄性能等の観点から、便器の方へ傾斜させることも実際的には考慮されてよいこと、考慮すべきことを教示している。
してみると、甲第3号証記載の発明において、便器ボウル内面の全体的に均一な洗浄という効果をより大きなものとするとの観点から、通水路としての棚についてボウル側部では水平とし、かつ前方部では傾斜させるとの甲第2号証の知見、思想を適用してみることは、当業者が容易に想到し得ることである。
この適用の効果は、予測の範囲を出るものではない。」と主張するとともに、
(d)平成26年6月18日付け口頭審理陳述要領書「第4 2」「ア?イ」で、「ア 甲第3号証では、第1頁カラム1の要約(ABSTRACT)に記載されているように、洗浄液が便器ボウル面との接触の時を長くしてより洗浄効果を向上させるように、マニフフォールド(水洗導水路)を改善することを課題としている。
この甲第3号証記載の課題は、甲第2号証の課題と共通していると言える。甲第3号証記載の発明及び甲第2号証記載の発明は、その技術分野(いずれも水洗便器)、課題・作用効果(いずれも本件特許発明の課題2と同じく、洗浄水量をボウル内全面に行き渡らせ、洗浄性能を向上させる)が共通している。
してみると、甲第3号証記載の発明において、便器ボウル内面の全体的に均一な洗浄という効果をより大きなものとするとの観点から、通水路としての棚についてボウル側部では水平とし、かつ前方部では傾斜させるとの甲第2号証の知見、思想を適用してみることは、当業者が容易に想到し得ることである。
イ また、甲第2号証の技術的意義は、上記1のとおり、通水路3の便器奥側と手前側の角度によって、鉢内面に流れ落ちる水量を調整し、これにより洗浄水の飛び出し・飛び散りを防止したり、洗浄水を流下し易くしたりすることであるが、上記1の場合と同様に、甲第3号証のように洗浄水が一周するものであろうと、甲第2号証のように洗浄水が一周するものではなく『奥側』から『左右』に分かれて『手前側』まで到達するものであろうと、この技術的意義を考慮すべきものであることにおいては、それらに関わらず共通するものである。そうすると、棚の便器奥側と手前側の角度によって、鉢内面に流れ落ちる水量を調整し、これにより洗浄水の飛び出し・飛び散りを防止したり、洗浄水を流下し易くしたりする点において、甲第2号証記載の発明に開示される構成要件D1+D2という知見、思想に接した当業者が、洗浄液が便器ボウル面との接触の時を長くしてより洗浄効果を向上させるように、マニフォールド(水洗導水路)を改善することを課題としている甲第3号証記載の発明においてもD1+D2という構成を適用しようと試みる動機付けがあり、このような構成を適用することは、当業者であれば容易に想到し得る。」
と主張している。
(イ)一方、被請求人は、(a)平成26年3月24日付け審判事件答弁書「第3 (2)(2-1)(2-1-1)」で、「請求人が『棚』に相当する、と主張している部分は『水洗用マニフォールド』の一部分であって、『棚』ではない。よって、甲第3号証にも『棚』が開示されていないことは明らかである。」と、
(b)同じく「(2-3)」で、「甲第1号証、甲第2号証には何れも『棚』に相当する構成は開示されていないから、当業者が甲第1号証又は甲第2号証記載の発明に基づいて、相違点2乃至6を容易に想到することはできない。」と主張するとともに、
(c)平成26年7月2日付け口頭審理陳述要領書(2)「第3 (3)(3-4)」で、「通水路内を流れる洗浄水の流速、流量が全く異なる2つ吐出口タイプの水洗便器と1つ吐出口タイプの水洗便器は、甲第2号証発明の技術思想にとって本質的に異なるもので・・・2つ吐出口タイプの甲第2号証と、1つ吐出口タイプの甲第3号証の組み合わせを、当業者が容易に想到することはない。」
と主張している。

イ.相違点2?4の容易想到性の検討
1つ吐出口タイプの甲第3号証記載の発明と、2つ吐出口タイプの甲第2号証記載の水洗便器とは、洗浄水が流れる経路が異なるものであり、甲第3号証記載の発明では水流が旋回して、ボウル部の後方側部に向かう場面においては、甲第2号証記載の通水路3の水流の向きと全く逆方向となっているものであるので、甲第2号証記載の「水洗便器1の奥側の部分で多量に鉢2内に流れ落ちるという弊害が解消される。」ための構成を採用する動機自体否定されるものとなって、請求人が主張する「甲第3号証記載の発明において、便器ボウル内面の全体的に均一な洗浄という効果をより大きなものとするとの観点から、通水路としての棚についてボウル側部では水平とし、かつ前方部では傾斜させるとの甲第2号証の知見、思想を適用してみることは、当業者が容易に想到し得ることである。」とはいえない。
そうすると、甲第3号証、甲第2号証に基づいて、本件発明1の相違点2?4に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできない。

(3)本件発明2に係る判断
本件発明2は、本件発明1にさらに
「G:前記棚は前記ボウル部の側部で略水平で、前記棚の幅が前記ボウル部の前方側で最少である」との限定を付したした発明であるので、本件発明2と甲第3号証記載の発明とは、少なくとも上記相違点2?4で相違するものである。
そして、上記(2)の如く、請求人が具体的に主張した理由を検討しても、甲第3号証、甲第2号証に基づいて、本件発明1の相違点2?4に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできないので、本件発明2も同様に、甲第3、2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)まとめ
したがって、本件特許の請求項1乃至請求項2に係る各発明は、その出願前(原出願日前)に頒布された甲第3号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.無効理由その1-ウ.(本件引用発明1、3に対し甲第3、1号証)の検討
(1)本件発明1に係る判断
ア.本件発明1と甲第3号証記載の発明との対比は、上記「3.(1)」記載のとおりである。
イ.請求人は、上記「3.(2)ア.(ア)」の主張に加えて、審判請求書「(4-3)[2]ア (エ)」で、「甲第3号証記載の発明及び甲第1号証記載の発明は、その技術分野(いずれも水洗便器)、課題・作用効果(いずれも本件特許発明の課題2と同じく、洗浄水をボウル内の全体に行き渡らせ、洗浄性能を向上させる)が共通している。
そして、洗浄水の飛び出しや飛散の抑制を内容とする本件特許発明の課題1は、甲第3号証における「リム部(U字型部材23)」は、「棚(表面21)」上方でオーバーハング形状となっていることから、実質的に解決される効果としで常識的に当業者に理解される。しかも、甲第1号証の記載から、前方部の「棚」の傾斜によりさらにその課題は容易に解決され、その効果も示唆されており自明とさえ言える。」
と主張している。
ウ.相違点2?4の容易想到性の検討
上記「2.(1)」に記載した様に、甲第1号証記載の発明は、本件発明13の「ボウル内面に沿った棚」及び「棚は、前記ボウル部の側部では略水平で且つ前記ボウル部の前方部ではボウル部中央に向かって下方に傾斜」するに相当する構成を備えたものでないので、請求人が具体的に主張した理由を検討しても、甲第3号証、甲第1号証に基づいて、本件発明1の相違点2?4に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできない。

(2)本件発明3に係る判断
本件発明3は、本件発明1にさらに
「I:前記棚は、前記ボウル部の後方部ではボウル部中央に向かって下方に傾斜している」との限定を付したした発明であるので、本件発明3と甲第3号証記載の発明とは、少なくとも上記相違点2?4で相違するものである。
そして、上記「(1)ウ.」記載の如く、請求人が具体的に主張した理由を検討しても、甲第3号証、甲第1号証に基づいて、本件発明1の相違点2?4に係る発明特定事項とすることが当業者が容易に想到し得たということはできないので、本件発明3も同様に、甲第3、1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本件特許の請求項1及び請求項3に係る各発明は、その出願前(原出願日前)に頒布された甲第3号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5 無効理由2についての当審の判断
1.請求項1、2及び3の「略水平」と「傾斜」にかかる記載に関して
(1)両当事者の主張
ア.請求人は、(a)審判請求書「7.(5)(5-2)」で、「本件特許発明においては、棚に関する前記構成要件D1及びD2における『水平』と『傾斜』との用語は、ボウル部側部と前方部との関係として明瞭に対比されて用いられている。このことから、対比の関係として、『水平』と『傾斜』の用語を区別して用いるという本件特許発明での特許権者(発明者)の意志の存在が明瞭に認められる。この明瞭な区別への意志が認められる『水平』の用語に付された『略』の意義の説明は、本来的に特許を受けようとする『発明』として必須であると言える。そうすると、『水平』でもなく『傾斜』でもない『略水平』の意義の説明は必須である。それにもかかわらず、本件特許明細書には一切説明されていない。
してみると、特許請求の範囲の請求項1において、特許を受けようとする発明は明確でなく、結局、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」
と主張している。
イ.一方、被請求人は、(a)平成26年3月24日付け審判事件答弁書「第4 (1)」で、「『水平』の語に付した『略』なる用語は、請求項の記載において慣用的に使用されている用語であり、何ら不明確なことはない。『略水平』の用語は、請求人も自認しているとおり(審判請求書32頁15?16行)、『おおよそ水平』を意味するものとして理解することができる。
また、請求人は『略水平』と『傾斜』の関係についても論じているが、『略水平』の意義は『傾斜』と対比することにより、より明確になっている。」
と主張している。

(2)判断
「水平」の語に付した「略」なる用語は、請求項の記載において慣用的に使用されている用語であり、本件請求項記載の「傾斜」と対比しても、「略水平」なる表現により、請求項記載の発明が不明確となるほどのものではなく、また、発明の詳細な説明に記載されたものではないともいえない。

2.請求項1の「略一周」にかかる記載に関して
(1)両当事者の主張
ア.請求人は、(a)審判請求書「7.(5)(5-3)」で、「イ 本件明細書には『略水平』そして『略一周』の意義に係る技術的事項として、段落【0005】に、『このように構成された本発明においては、棚が、ボウル部の側部では略水平で、ボウル部の前方部ではボウル部中央に向かって下方に傾斜し、1つのノズルから噴出した洗浄水が棚に沿って略一周を旋回するので、ボウル部の前方部で洗浄水の遠心力が大きく、ボウルに洗浄水が流下し難い場合であっても、洗浄水が流下し易くなり、洗浄水のボウル外への飛び出しおよび飛散りをなくし、ボウル洗浄性能を改善できる。』と記載されている。
しかしながら、前記構成要件Eのように、『洗浄水が前記棚に沿って略一周を旋回するように構成されている』とのことは、『略水平』『略一周』の意義が不明であって、『構成されている』ことの技術的要件は明瞭ではない。本件特許発明の課題1:洗浄水のボウル外への飛び出しおよび飛散りをなくすこと、及び課題2:ボウルの洗浄性能を向上させることがどのようにして解決されるのかは不明である。例えば、課題2のボウル各部位を十分に洗えるようにボウルの洗浄性能を向上させることを達成するために、側部において棚からボウル面を伝って落水することを抑制し、ノズルから噴出した洗浄水が棚に沿って略一周を旋回することを期待して、側部において棚の傾斜を小さくすることの有効性が期待されているとしても、このことは、『略一周』の動作が明瞭であることが前提となる。側部の『略水平』の度合いのみでなく、洗浄水の流量、流速との関係から、側部の『略水平』と前方部の『傾斜』との両者の兼ね合いで決まるものである。
つまり、期待の表明はなされていても、技術としての構成は何ら明瞭でないと言わねばならない。
『略一周』の用語の意義は、前述の『略水平』の用語の意義とともに不明瞭であって、しかも、これらの用語の意義をサポートする本件特許発明の構成、効果に係る技術的事項は本件特許の明細書、図面には記載されていない。
してみると、特許請求の範囲の請求項1記載での特許を受けようとする発明は明確でなく、結局、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」
と主張している。
イ.一方、被請求人は、(a)平成26年3月24日付け審判事件答弁書「第4 (2)」で、「『略一周』の意義も、『おおよそ一周』を意味するものであり、何ら不明確なことはない。
即ち、ノズルから噴出した洗浄水が『おおよそ一周』するように、『棚』の各部を『略水平』又は『傾斜』して構成すれば良いのであって、当業者には、本件発明を容易に理解することができる。従って、『略一周』の用語によって特定された本件発明は明確であると共に、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。」
と主張している。

(2)判断
「略一周」の意義も、「おおよそ一周」を意味するものであり、「略」なる表現により、請求項記載の発明が不明確となるほどのものではなく、また、発明の詳細な説明に記載されたものではないともいえない。

3.請求項2の「棚」とその「幅」にかかる記載に関して
(1)両当事者の主張
ア.請求人は、(a)審判請求書「7.(5)(5-4)」で、「請求項2においては、構成要件Gとして、『棚の幅が前記ボウル部の前方側で最少である』と規定されているが、この『最少』の用語も不明である。明細書の段落【0018】では、図5、図6のように、前方部で棚を『なくした構成』が説明されるとともに、棚の幅が『最小』になるとも記載されており、常識的に矛盾している。
してみると、本件特許の『棚』の意義そのものが不明であるとも言える。
請求項3記載の本件特許発明3の『棚』に係る構成要件Iにおいても請求項1と同様にボウル部の後方部ではボウル部中央に向かって下方に『傾斜』と規定されているが、この「『傾斜』との関係においても側部で『略水平』の棚の意義は以上に説明した理由と同様にして明瞭でない。
してみると、特許請求の範囲の請求項2および3記載での特許を受けようとする発明は明確でなく、結局、発明の詳細な説明に記載されたものではない。」と、
(b)平成26年7月16日付けで請求人より上申書「第5 2」で、「被請求人は,本件明細書図5ないし図7に係る構成は,本件発明の実施形態ではない旨主張しているが,これによれば,特許請求の範囲・請求項2『棚の幅が前記ボウル部の前方側で最少』(本件発明2の構成要件G)との構成は,本件明細書での説明を全く欠くこととなり,また,『ボウル部の前方側』とは具体的にどこからどこまでの範囲なのか,『最少』とは具体的に棚のどの部分のどの幅が最少なのか不明確となる。」
と主張している。
イ.一方、被請求人は、(a)平成26年3月24日付け審判事件答弁書「第4 (3)」で、「本件発明は、各請求項に明記されているように、『棚』を有する大便器装置に関するものであり、『棚』を備えていない図5、図7に係る構成は、本件発明の実施形態ではない。従って、本件発明2は明確であり、請求人の主張には根拠がない。・・・『略水平」、『傾斜の意義は、対比されることにより、より明確になっている。」
と主張している。

(2)判断
図5、図7に係る構成は、本件明細書【0018】の「棚14を図5の如く、前方部でなくした構成」「図7に示す・・棚14をなくして構成」したものであって、「棚」を備えていないものであり、本件発明の実施形態ではない。
そして、「棚」「幅」「前方側」「最少」も、日本語として普通に理解されるものであるので、本件明細書に本件発明の実施形態でないものが記載されていたとしても、その結果、請求項2記載の「棚の幅が・・・最少である」なる表現により、請求項記載の発明が不明確となるほどのものではなく、また、発明の詳細な説明に記載されたものではないともいえない。

第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1?3の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-10 
結審通知日 2014-09-16 
審決日 2014-10-08 
出願番号 特願2010-288117(P2010-288117)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E03D)
P 1 113・ 537- Y (E03D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 俊久  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 竹村 真一郎
住田 秀弘
登録日 2012-08-10 
登録番号 特許第5057192号(P5057192)
発明の名称 大便器装置  
代理人 山本 泰史  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 山崎 道雄  
代理人 弟子丸 健  
代理人 渡邊 誠  
代理人 西澤 利夫  
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