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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1311756
審判番号 不服2014-17675  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-05 
確定日 2016-03-03 
事件の表示 特願2011-534556「燐光性イリジウム錯体」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月 6日国際公開、WO2010/051100、平成24年 3月29日国内公表、特表2012-507526〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2009年 9月 8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年10月29日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年 4月 8日に手続補正がなされ、平成26年 4月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年 9月 5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成26年 9月 5日になされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項によりそれぞれ特定されるものであるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「次式IAの金属錯体から誘導される構造又は末端単位を有するポリマー。
【化4】

式中、
MはIrであり、
【化5】

はシクロメタル化リガンドであって、該シクロメタル化リガンドはフェニルピリジン又はジフルオロフェニルピリジンであり、
R^(1a)は以下の式のものから選択されるものであり、
【化6】

R^(2a)は水素である。」

3 引用例
(1)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である、Li, Wen-Ying et al., 'Synthesis, Characterization and Luminescent Property of New Iridium(III) Complexes Bearing Pyrrylimine Ligands', 2008.10.14, ACTA CHIMICA SINICA, Vol.66, No.19, pp.2141?2145(以下「引用例」という。)には、次の事項が図とともに記載されている(なお、下線は、当審で付したものである。以下同様。)。
















ア「

」(2141頁左欄1行?2142頁左欄16行)
(日本語訳)
「Forrestなど^([1,2])により、重金属配合物が高い効率を有する有機エレクトロルミネッセンス燐光発光材料とすることができることが発見されて以降、新型の金属有機配合物材料の研究と開発が大きな注目を集めるようになっている。d^(6)とd^(8)電子構造の重金属原子、例えばプラチナ(Pt)、イリジウム(Ir)錯体が相次いで合成され、エレクトロルミネッセンス燐光発光装置に応用されている^([3?5])。その内、金属Ir(III)錯体については、比較的高い発光効率及び室温下において高い燐光を有していることから研究の注目ポイントとなっている^([6])。
金属有機錯体中の有機リガンドの構造は、発光効率及び発射波長に大きな影響を及ぼす^([7])。ホモレプティック型金属イリジウム錯体[例えば、(ppy)_(3)Ir]中においては、三つのC^Nリガンドの配置原子の空間における配列順序が異なり、(fac-)型及び(mer-)型といった二種類の異なるタイプの異性体が発生することから、光物理及び電気化学的性能の面についてそれぞれ研究を行った。但し、ホモレプティック型錯体の場合には、単一の構造型の化合物を制御することが非常に難しく、かつ分離及び抽出の面においても非常に大きな困難が伴う^([8?11])。関連する研究によれば、混合型の金属イリジウム錯体[例えば、(ppy)_(2)Ir(acac)]の場合、発光性能の面においてそのホモレプティック型錯体と非常に似通っており^([12])、また合成手法がよりシンプルで、有効であることから、ますます多くの研究が二つのリング金属化リガンドと一つの二座のモノアニオン性リガンドを含む混合型金属イリジウム錯体に集中し、異なるリング金属化リガンド及び補助リガンドを変更することを通じて、機器の性能を向上させ、全色光を完備する面において若干の成果を上げている^([13?15])。
本論文では、一連のピロールイミンを含むリガンドの金属イリジウム錯体(ppy)_(2)Ir(N^N)(Scheme 1)を合成し、配合物の紫外線吸光スペクトル及びエレクトロフォトルミネッセンススペクトルを研究すると共に、それらを比較した。リガンド構造を変更することを通じて、錯体の発光波長を変更することが可能で、この分野において若干の成果を上げている。これは異なる発光カラーの燐光発光材料の開発に対しても、一定の意義を有している。我々が知る限りでは、ピロールイミンをリガンドとして用いて金属イリジウム錯体を合成したという報告はまだない。」

















イ 「

」(2142頁左欄17行?2143頁左欄5行)
(日本語訳)
「1 実験部分
1.1 試薬及び装置
塩化イリジウム(III)水和物(IrCl_(3)・3H_(2)O、Ir含有量58%、上海久岳化工有限公司)、2-フェニルピリジン(Aldrich)、醋酸ナトリウム、ジクロロメタン、2-エトキシエタノール、ピロール、アニリン、4-メチルアニリン、4-メトキシアニリン、4-フルオロアニリン、ベンジルアミン、シクロへキシルアミン、ブチルアミンがいずれも分析純試薬となる。
Varian AM-300、Bruker AM-400MHz型磁気共鳴装置、HP5989A質量スペクトル測定装置、Finnigan MAT 8430高解像度質量スペクトル装置、Carlo-ERBA1106型元素分析装置、Perkin-Elmer Lambda 35型紫外線-可視光スペクトル装置、Perkin-Elmer LS 50B蛍光光スペクトル装置。
1.2 ピロールイミンリガンドL1?L8の合成
文献^([16])の手法を参照する。50mLのビーカーに、2-ピロールイミン(または2-アセチルピロール)(5 mmol)及び一級アミン(5 mmol)を無水エタノール中に加え、室温下で72 h反応させる。反応が終了した後、回転蒸発装置を用いて溶剤を取り除き、未加工のプロダクトをN-ヘキサン/醋酸エチル(V:V=9:1)カラムクロマトグラフィーにかけた後、N-ヘキサンを用いて再結晶させる。リガンドL1?L8の合成収率はそれぞれ66%,63%,54%,46%,84%,63%,67%,32%であった。
1.3 イリジウム錯体1?8の合成
文献^([12])を参照して塩素架橋イリジウムダイマーパウダーを合成し、明るい黄色色の固体を得る。収率は78%であった。上述のダイマー(150 mg, 0.14 mmol), NaOAc(23 mg, 0.28 mmol),リガンド(0.35 mmol)を取り出し50 mLの反応釜に入れ、空気を何度も抜き、Arガスを注入した後、15 mLのCH_(2)Cl_(2)を注入し、Arガスで保護する。混合物を室温下で12 h反応させる。TLCを用いて反応終了を追跡した後、水で洗浄する。CH_(2)CL_(2)を用いて抽出し(3×10 mL)、有機相と一緒にし、無水Mg_(2)SO_(4)で乾燥させ、カラムクロマトグラフィー[V(CH_(2)Cl_(2)):V(PE)=1:1]にかけて粉末固体を得る。(当審注:Scheme 1の訳は省略)」

ウ 引用例の「Scheme 1」からは、下記式で表されるイリジウム錯体7が合成されていることが見て取れる。


エ 「

」(2143頁右欄32?38行)
(日本語訳)
「1.4 光スペクトルによる測定
それぞれ一定量の金属イリジウム錯体(ppy)_(2)Ir(N^N)をビーカーの中に入れ、ジクロロメタンを用いてメモリ値まで希釈して、濃度が0.1 mmol/Lの溶液を得る。紫外線-可視光スペクトル装置、蛍光光スペクトル装置を用いて、金属イリジウム錯体の吸光スペクトルとフォトルミネッセンススペクトルを測定する。紫外線及びフォトルミネッセンススペクトルについては、いずれも室温下で測定する。紫外線光スペクトルのスキャン波長の範囲については250?800nmで、フォトルミネッセンススペクトル測定のスリット幅は5nmとなる。」

オ 「

」(2144頁左欄22行?2145頁左欄11行))
(日本語訳)
「2.3 量子効率及びフォトルミネッセンススペクトル
イリジウム錯体の蛍光量子効率はいずれもジクロロメタン溶液において、室温下(空気中)で測定することができた(表1)。(ppy)_(2)Ir(acac)溶液(2-フェニル4塩化フラン溶液、φ=0.34)を参照とする^([12])。全てのイリジウム錯体は溶液中で比較的高い量子効率(0.25?0.95)を示し、蛍光発射も強かった。
錯体1?8の発光スペクトルのデータについては、表1を参照されたい。図2は錯体1,3,5及び6のジクロロメタン溶液中の発光スペクトルを示している。表から錯体1?8の発光波長が507?606 nmの間であることが分かる。リガンドのピロールイミンの構造を変化させることを通じて、錯体の発光波長を調節することができる。関連する文献によれば^([6])、これは当該錯体のトリプレット燐光発射によるものである。当該錯体と関連する文献に報告^([14])されている錯体(ppy)_(2)Irpic(λmax=501 nm) を比べた場合、いずれも赤方偏移が発生している。その内の錯体1?4と文献に報告されている(ppy)_(2)Ir(acac)(λmax=516 nm)とFIrpca(λmax=574 nm)と比べた場合においても、異なる程度の赤方偏移が発生している。これはリガンドのピロールイミン共役程度が高いことと関連していると考えられる。エネルギーギャップ(Eg)を低くすることを通じて、それにより偏移に必要なエネルギーを減らし、赤方偏移を発生させることが可能となる。
光スペクトルデータから、フェニル基が電子供与体を有する錯体と結合した場合が電子吸収体を有する錯体と結合した場合よりも赤方偏移を発生し易いことを示している。その内の錯体3の赤方偏移の程度が最大で、これはOCH_(3)中のO上の弧の電子に対する分子の共役程度が増加することによるものと考えられる。錯体5(λmax=511 nm)の場合、CH_(3)を用いてオレフィン結合上のHと置換するが、錯体1(λmax=584 nm)と比べた場合(図2に示される)、発光波長が73 nm青方偏移している。これはCH_(3)の空間効率が分子全体の共平面性を低下させ、電子偏移におけるエネルギーを増加させ、青方偏移が実現したことを示している。錯体6?8の発射波長はそれぞれ505 nm前後であり、置換基の変更が発光波長に大きな影響を及ぼしていないことが分かる。錯体1?4と比べた場合、いずれも青方偏移が発生している。これはメタン基で置換され、分子の共役が短縮された場合でも、青方偏移が発生することを示している。(当審注:表1の訳は省略)」

カ 引用例の上記「表1」からは、イリジウム錯体7の発光波長が508nmであることが見て取れる。

(2)上記(1)の記載事項ア?カによれば、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「発光波長が508nmであり、下記式で表されるイリジウム錯体7。



4 対比
(1)本願発明と引用発明とを以下に対比する。
引用発明の「イリジウム錯体7」は、本願発明の「次式IAの金属錯体
【化4】


において、
式中、
MはIrであり、
【化5】

はシクロメタル化リガンドであって、該シクロメタル化リガンドはフェニルピリジンであり、
R^(1a)は【化6】のうち

であり、
R^(2a)は水素であるもの」に相当する。

(2)上記(1)によれば、本願発明と引用発明とは、
「次式IAの金属錯体
【化4】

式中、
MはIrであり、
【化5】

はシクロメタル化リガンドであって、該シクロメタル化リガンドはフェニルピリジンであり、
R^(1a)は【化6】のうち

であり、
R^(2a)は水素である。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願発明は、「上式IAの金属錯体から誘導される構造又は末端単位を有するポリマー」であるのに対し、引用発明は、「上式IAの金属錯体」であり、当該金属錯体から誘導される構造又は末端単位を有するポリマーは明示されていない点。

5 相違点の判断
(1)上記相違点について検討すると、有機発光素子の発光層に用いることにより、低駆動電圧、高輝度、高発光効率、大面積の有機発光素子を構成するために、燐光発光性化合物である金属錯体において、1つ以上の水素原子を重合性基で置換し、当該重合性基を有する燐光発光性化合物から導かれる構造単位を含む燐光発光性高分子化合物を合成することは、特開2007-165606号公報の【0019】、【0025】?【0037】、特開2005-171123号公報の【0020】?【0030】、【0083】?【0107】、【0110】、【0111】、特開2003-321546号公報の【0042】?【0045】、【0086】、国際公開第2008/014037号の59頁1行?64頁20行、70頁29行?71頁5行に記載されているように本願の優先日前の周知技術である。
また、引用発明は燐光発光材料としてイリジウム錯体7を合成しており、有機発光素子の発光層にイリジウム錯体7を含有させることを想定していることは明らかであるので、引用発明において、低駆動電圧、高輝度、高発光効率、大面積の有機発光素子を構成するために、上記周知技術に基づいて、イリジウム錯体7の水素原子を重合性基で置換し、当該重合性基を有する燐光発光性化合物から導かれる構造単位を含む燐光発光性高分子化合物を合成することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、水素原子が重合性基で置換された引用発明のイリジウム錯体7から導かれる構造単位を含む燐光発光性高分子化合物と、本願発明のポリマーとの間に、化学構造上の差異は認められない。

(2)本願発明の作用効果は、引用発明及び上記周知技術に比して、格別のものとはいえない。

(3)したがって、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-29 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-19 
出願番号 特願2011-534556(P2011-534556)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中山 佳美  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 本田 博幸
山村 浩
発明の名称 燐光性イリジウム錯体  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  
代理人 田中 拓人  
代理人 黒川 俊久  

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