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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02N
管理番号 1311781
審判番号 不服2015-5480  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-24 
確定日 2016-03-03 
事件の表示 特願2010-282715「カーボンナノチューブとポリフッ化ビニリデンポリマーおよびイオン液体から構成される導電性薄膜、アクチュエータ素子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年7月12日出願公開、特開2012-135074号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年12月20日の出願であって、平成27年2月6日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、同年3月24日に本件審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「カーボンナノチューブ、ポリフッ化ビニリデンポリマーおよびイオン液体から構成される導電性薄膜。」

2.引用刊行物とその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2009-5536号公報(以下「刊行物1」という。)には、カーボンナノチューブを用いた高強度、高導電性薄膜およびアクチュエータ素子製造方法に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、導電性薄膜を有する導電体及びアクチュエータ素子に関する並びにその製造法に関する。ここでアクチュエータ素子は、電気化学反応や電気二重層の充放電などの電気化学プロセスを駆動力とするアクチュエータ素子である。」
(イ)「【0008】
本発明において、アクチュエータ素子の電極層に使用する導電性薄膜には、カーボンナノチューブ、ポリマーおよびイオン液体が使用される。」
(ウ)「【0022】
本発明に用いられるポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。」
(エ)「【0047】
表1 ベースポリマーの代表的性質
ポリマー/特性 融点(℃) 曲げ強度(MPa) 曲げ弾性率(MPa) 誘電率
K-2801 140-145 25 500-700 8.6
K-2851 155-160 46 1100-1300 9.4
(オ)「【0048】・・実施例1 HIPCO-CNT50mg、EMIBF_(4)100mgを遊星ミル用容器にはかりとり、DMAc1mlを加え、ジルコニアボール数個をいれて200回転で30分間、撹拌を行った。その後、K-2801 80mgをDMAc2mlに溶解した溶液を上記分散液に加え、さらに500回転で30分間、撹拌を行った。・・
【0052】
実施例4 実施例1においてHIPCO-CNTとEMIBF_(4)のミルでの撹拌の回転数(前半回転数)を変えたもの、およびその後の工程であるポリマー溶液を加えた時のミル撹拌の回転数(後半回転数)を変えたもの、および比較例としてミルを使わずに、ミルで撹拌を行う工程を、ガラス棒でカーボンナノチューブを粉砕する工程に置き換えた工程をもちいて作成した電極フィルムの導電率とヤング率を表4に示す。
【0053】・・
資料名 ミル使用 前半回転数 後半回転数 導電率 ヤング率
・・・
S-1 ○ 200 1000 10.6 9.2
・・・
【0054】
実施例5 実施例4で作成した電極フィルムにより、実施例2、3と同様、アクチュエータ素子を作成して、変位、発生力を測定した。その結果を表5、6に示す。」
(カ)「【0055】
表5 実施例4のアクチュエータ素子の変位特性
・・・
S-1 0.69 2.18 5.51
・・・
(単位:mm)(素子厚み・・S-1:82μm・・)」
(キ)「【0056】
表6 実施例4のアクチュエータ素子の発生圧特性
・・・
S-1 191 456 691 1058 1250
・・・
(単位:Pa)(素子厚み・・S-1:397μm・・)」
(ク)「【0057】
実施例6 表7に示す様な組成で、ベースポリマーをK-2801からK-2851に変えた場合について、実施例1と同様に試料を作成し(アクチュエータ素子作製のプレス温度は90℃)、電極フィルムの導電率、ヤング率を測定し、実施例2、3と同様に変位、発生力測定を行った結果を表8、9、10にしめす。表9、10に示す変位、発生圧特性で、K-2801のものより優れた特性をしめした。これは、ポリマーの機械特性が影響しているものと考えられる。
(ケ)「【0058】
表7 実施例6における電極フィルムの組成、および、ミルの回転条件
資料名 HIPCO-CNT EMIBF_(4) K-2851 HIPCO-CNT含量 前半回転数 後半回転数
・・・
S-4 50 100 80 22 200 500
・・・
【0059】
表8 実施例6で作成した電極フィルムの導電率およびヤング率
資料名 導電率(S/cm) ヤング率(MPa)
・・・
S-4 8.7 261」
(コ)「【0060】
表9 実施例6で作成したアクチュエータ素子の変位特性
S-4 1.58 4.47 7.41
・・・
(単位:mm)(素子厚み S-4:79.5μm・・)」
(サ)「【0061】
表10 実施例6で作成したアクチュエータ素子の発生圧特性
S-4 348 828 1250 1387 1872
・・・
(単位:Pa)(素子厚み S-4:456μm・・)」

すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているものと認める。
「カーボンナノチューブ、ポリマーおよびイオン液体が使用される、導電性薄膜であって、
ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる導電性薄膜。」

3.本願発明と引用発明との対比
(1)両発明の発明特定事項の対応関係
引用発明の「カーボンナノチューブ、ポリマーおよびイオン液体が使用される、アクチュエータ素子の電極層に使用する導電性薄膜」と、本願発明の「カーボンナノチューブ、ポリフッ化ビニリデンポリマーおよびイオン液体から構成される導電性薄膜」とは、「カーボンナノチューブ、ポリマーおよびイオン液体から構成される導電性薄膜」である点で共通するものである。

(2)両発明の一致点
「カーボンナノチューブ、ポリマーおよびイオン液体から構成される導電性薄膜。」

(3)両発明の相違点
本願発明は、ポリマーが「ポリフッ化ビニリデンポリマー」であるのに対して、引用発明の「ポリマー」は、「ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる」ものである点。

4.相違点に係る検討
(1)引用発明は「ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリ-2-ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる」としたものであり、当業者は引用発明においてポリマーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とした発明を当然認識し得るものである。
そして、引用発明の「ポリフッ化ビニリデン(PVDF)」は、ホモポリマーであるので、本願発明の「ポリフッ化ビニリデンポリマー」に相当するものである。
そうすると、相違点は実質的なものではなく、本願発明と引用発明とは、その発明特定事項において相違しないので、本願発明は、引用発明である。

(2)仮に、本願発明と引用発明の関係を上記のように理解しないとしても、以下の事項を指摘することができる。
(a)引用発明において、ポリマーとしてその選択肢の中からPVDFを採用しようとすること自体に何ら困難性は存在しない。
(b)本願の明細書及び図面記載の限りでは、導電性薄膜自体に係るものである本願発明によって格別の効果が奏されたと確認できるものではない。
(c)本願発明は「カーボンナノチューブ、ポリフッ化ビニリデンポリマーおよびイオン液体から構成される導電性薄膜。」であって、アクチュエータと特定したものではないので、「アクチュエータの性能」は直ちに本願発明の評価に結びつくものではない。
(d)仮に、アクチュエータの性能という観点に着目したとしても、刊行物1記載事項(ク)に「ベースポリマーをK-2801からK-2851に変えた場合・・変位、発生圧特性で、K-2801のものより優れた特性をしめした。これは、ポリマーの機械特性が影響しているものと考えられる。」と記載されているように、ポリマー等の材料が製品の特性に影響を及ぼすことは技術常識であるから、当業者にとって、引用発明のポリマーを、例えばポリマーの機械特性の違いにより変位、発生圧特性を変えるべく、例示されたいずれかに特定することは、普通に着想し得ることである。
刊行物1には、刊行物1記載事項(ク)でいう「ポリマーの機械特性」に関して、刊行物1記載事項(エ)には「ベースポリマーの代表的性質」としてK-2801の曲げ弾性率500-700(MPa)に対して、K-2851は1100-1300(MPa)であることが記載されているとともに、刊行物1記載事項(ク)でいう「変位・・特性」に関して、刊行物1記載事項(カ)及び(コ)にはS-1(K-2801)の変位特性0.69 2.18 5.51(mm)に対してS-4(K-2851)は1.58 4.47 7.41(mm)であることが、刊行物1記載事項(ク)でいう「発生圧特性」に関して、刊行物1記載事項(キ)及び(サ)にはS-1(K-2801)の発生圧特性191、456、691、1058、1250(MPa)に対して、S-4(K-2851)は348、828、1250、1387、1872(MPa)であることが、それぞれ記載されており、曲げ弾性率が大きくなると変位、発生圧特性が優れたものになることが示されている。
そして、引用発明のポリフッ化ビニリデン(PVDF)に属するKynar741(本願発明の「ポリフッ化ビニリデンポリマー」の一例として提示されたもの)の曲げ弾性率は1660-2310(MPa)(本願明細書に記載された数値で記載したが、Kynar741の曲げ弾性率は周知であって、他の文献に記載されている曲げ弾性率の数値もほぼ同じである。なお、Kynarという商標名が付されて販売している種々のPVDFは、ほぼ同程度の曲げ弾性率を有している。)であり、引用発明のポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]に属するS-1(K-2801)(本願明細書比較例1のKynar Flex2801)の曲げ弾性率が500-700(MPa)(本願明細書に記載された数値では620-830(MPa))であることを考慮すると、ポリマーの選択肢の中から曲げ弾性率が相対的に高いPVDFの一例であるKynar741を選択し、Kynar Flex2801よりも変位、発生圧特性が優れたものを得ようとすることは、当業者にとって容易に着想し得た範囲内の事項であり、また、本願発明の発明特定事項によってもたらされる効果も、当業者にとって格別のものと言うことはできない。
なお、刊行物1記載事項(ウ)の「PVDF(HFP)」と「PVDF」とが、択一的に選択可能であることは、例えば、特開2008-34268号公報【0022】、特開2007-204682号公報【0012】【0030】【0142】、特開2009-203304号公報【0020】等、多くの特許文献にも記載されており、当業者に周知の事項でもある。
(e)したがって、仮に、本願発明と引用発明との間に実質的な相違点があると扱ったとしても、本願発明は、引用発明、及び、本願出願前に周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、仮に、本願発明と引用発明との間に実質的な相違点があると扱ったとしても、本願発明は、引用発明、及び、本願出願前に周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-04 
結審通知日 2016-01-05 
審決日 2016-01-19 
出願番号 特願2010-282715(P2010-282715)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H02N)
P 1 8・ 121- Z (H02N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮地 将斗  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 松永 謙一
中川 真一
発明の名称 カーボンナノチューブとポリフッ化ビニリデンポリマーおよびイオン液体から構成される導電性薄膜、アクチュエータ素子  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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