ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L |
---|---|
管理番号 | 1311797 |
異議申立番号 | 異議2015-700097 |
総通号数 | 196 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-10-15 |
確定日 | 2015-12-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5710388号「ポリアニリン導電性組成物」の請求項1ないし10,12ないし15に係る特許に対する特許異議の申立てについて,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5710388号の請求項1ないし10,12ないし15に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5710388号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし15に係る発明についての特許は,平成23年 6月 3日(優先権主張 平成22年 8月17日)に特許出願され,平成27年 3月13日に特許の設定の登録がなされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人:井戸篤史(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1ないし15に係る発明は,それぞれ,特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明15」という。)。 第3 申立て理由の概要 申立人は,証拠として,特開平8-253755号公報(以下,「甲第1号証」という。)を提出し,請求項1?3,6,8,9,13?15に係る特許は特許法第29条第1項又は同第2項の規定に違反してなされたものであり,また,国際公開2008/018420号(以下,「甲第2号証」という。)及び特開平9-31222号公報(以下,「甲第3号証」という。)を提出し,請求項1?10,12?15に係る特許は同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,請求項1?10,12?15に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 第4 刊行物の記載 1.甲第1号証 甲第1号証には,プロトン酸,非極性又は極性が低い有機溶媒及びポリアニリンを含む導電性ポリアニリン組成物と感圧粘着剤組成物とからなる導電性感圧粘着剤組成物が記載され(特許請求の範囲),また,実施例2に「合成例7で得られた感圧粘着剤組成物2 100gに,合成例3で得られた溶液2 6gを加え,乳鉢で良く混合した以外は,実施例1と同様の方法で感圧粘着剤組成物を塗布した導電性感圧粘着テープ2を得た。」と記載されている(段落【0047】)。そして,実施例2が参照する合成例7には,アクリル系共重合体を含む感圧粘着組成物が記載され(段落【0044】),同じく合成例3には,カンファースルホン酸をドーパントにしたポリアニリンのm-クレゾール溶液が記載され(段落【0040】),同じく実施例1には,乳鉢中でよく混合した溶液を,厚み25μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)にアプリケータを使用して塗布した後,乾燥し,導電性感圧粘着剤組成物を塗布した導電性感圧粘着テープを得たことが記載されている(段落【0046】)。 そうすると,甲第1号証には,申立人が特許異議申立書で「甲1発明」と称する,以下の発明が記載されているといえる。 「アクリル系共重合体を含む感圧粘着剤組成物に,カンファースルホン酸をドーパントにしたポリアニリンのm-クレゾール溶液を加え,乳鉢中でよく混合して得られた,導電性感圧粘着剤組成物」 2.甲第2号証 甲第2号証には,実質的に水と混和しない有機溶剤に溶解している,プロトネーションされた置換又は未置換ポリアニリン複合体と,芳香環を2個以上有し,かつフェノール性水酸基を有する化合物と,を含む導電性ポリアニリン組成物が記載され(特許請求の範囲),また,実施例1に「製造例1で得た,導電性ポリアニリン複合体1gを20mlのトルエンに再度溶解し,均一な導電性ポリアニリン複合体溶液を調製した。この溶液に,3-フェノキシフェノール6.22mmolを添加して,3-フェノキシフェノール濃度が約0.30mol/Lの均一な導電性ポリアニリン組成物を得た。」とと記載されている(段落【0046】)。そして,実施例1が参照する製造例1には,プロトネーションされたポリアニリン複合体の製造例として,ジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウムをトルエンに溶解し,原料アニリンを加え,撹拌溶解して製造したこと,複合体中のポリアニリンのモノマーユニット/スルホコハク酸エステルのモル比は2.2であったことが記載されている(段落【0043】?【0045】)。 そうすると,甲第2号証には,申立人が特許異議申立書で「甲2発明」と称する,以下の発明が記載されているといえる。 「複合体中のポリアニリンのモノマーユニット/スルホコハク酸エステルのモル比が2.2である導電性ポリアニリン複合体をトルエンに溶解し,均一な導電性ポリアニリン複合体溶液を調製し,この溶液に,3-フェノキシフェノールを添加した,導電性ポリアニリン組成物」 3.甲第3号証 甲第3号証(とくに特許請求の範囲,段落【0050】,【0054】,【0055】,【0076】,【0082】)には,申立人が特許異議申立書で「甲3発明」と称する,制電性重合体(ポリチオフェン)とアクリル樹脂などのバインダー樹脂との組成物を調製することや,バインダー樹脂として,アクリル酸を共重合させることが記載されている。 第5 判断 1.本件発明1 (1)甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると,後者の「アクリル系共重合体を含む感圧粘着剤組成物」は前者の「(4)アクリル系ポリマー」に,後者の「カンファースルホン酸をドーパントにしたポリアニリン」は前者の「(1)プロトネーションされた置換又は非置換ポリアニリン」に各々相当する。また,後者の「m-クレゾール溶液」は,溶媒を形成していることよりみて,前者の「(3)含酸素有機溶剤」に相当する。 よって,甲1発明は,本件発明1における「(2)フェノール性化合物」を開示していない点で相違する(申立人は,甲第1号証の段落【0018】に4-ヘキシルエチルフェノールなどの界面活性剤を添加することができる旨記載されているから,本件発明1は甲1発明である旨主張しているが,甲第1号証の実施例2において,具体的に4-ヘキシルエチルフェノールを添加しているものではないから,この点が甲1発明として記載されているものとは認められない。)。 前記相違点について検討するに,甲2発明は,導電性ポリアニリン組成物において,「3-フェノキシフェノール」を添加している。しかしながら,甲2発明の組成物は,溶剤がトルエンであって,このものは,本件発明1における「(3)含酸素有機溶剤」ではない。また,甲2発明の組成物には,アクリル系ポリマーの併用も示されていない。すると,甲1発明と甲2発明とは,組成物の構成成分において相違するから,甲2発明におけるフェノール性化合物の開示を,甲1発明に組み合わせる動機づけがあるとまではいえない。 また,甲3発明は,制電性重合体とアクリル樹脂との組成物を開示するに止まり,本件発明における「(2)フェノール性化合物」の開示がないだけでなく,「(1)プロトネーションされた置換又は非置換ポリアニリン」や「(3)含酸素有機溶剤」の開示もない。 そうすると,本件発明1は,甲1発明でないことはもちろん,甲1発明に基いて当業者が容易に想到できたものでもないから,新規性及び進歩性を有する。 (2)甲2発明との対比 本件発明1と甲2発明とを対比すると,前記(1)で検討のとおり,甲2発明は,本件発明1における「(3)含酸素有機溶剤」を開示していない点で相違している。そして,この点は,甲3発明には示されておらず,また,甲1発明には一応示されているものの,甲1発明と甲2発明とは組成物の構成成分において相違するから,両者を組み合わせる動機づけがあるとまではいえないことも,前記(1)で検討のとおりである。 そうすると,本件発明1は,甲2発明に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものではないから,新規性及び進歩性を有する。 (3)甲3発明との対比 甲3発明は制電性重合体とアクリル樹脂との組成物を開示するに止まり,本件発明における「(2)フェノール性化合物」の開示がないだけでなく,「(1)プロトネーションされた置換又は非置換ポリアニリン」や「(3)含酸素有機溶剤」の開示もないことは,前記(1)及び(2)で検討したとおりである。 そうすると,本件発明1は,甲3発明に基いて当業者が容易に想到できたものではないから,新規性及び進歩性を有する。 2.本件発明2?10 本件発明2?10は,本件発明1を引用して,本件発明1の発明特定事項をさらに特定したものである。 そして,本件発明1が,前記1.(1)?(3)のとおり新規性及び進歩性を有するものであるから,本件発明2?10も,同様に新規性及び進歩性を有するものである。 3.本件発明12?15 本件発明12?15は,本件発明1?11を引用して,その具体的用途を特定したものである。 そして,本件発明1?10が,前記1.(1)?(3)及び2.のとおり新規性及び進歩性を有するものであるから,本件発明12?15も,同様に新規性及び進歩性を有するものである。 第6 むすび 以上のとおり,申立人が主張する特許異議申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし10,12ないし15に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に請求項1ないし10,12ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2015-12-15 |
出願番号 | 特願2011-125599(P2011-125599) |
審決分類 |
P
1
652・
113-
Y
(C08L)
P 1 652・ 121- Y (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 久保 道弘 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
前田 寛之 平塚 政宏 |
登録日 | 2015-03-13 |
登録番号 | 特許第5710388号(P5710388) |
権利者 | 出光興産株式会社 |
発明の名称 | ポリアニリン導電性組成物 |
代理人 | 佐藤 猛 |
代理人 | 渡辺 喜平 |
代理人 | 田中 有子 |