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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1311798
異議申立番号 異議2015-700037  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-09-29 
確定日 2015-12-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第5691261号「偏光板形成用光硬化性接着剤及び偏光板」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5691261号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5691261号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成22年6月25日に特許出願され、平成27年2月13日に特許の設定登録がされ、平成27年9月29日にその特許に対し、特許異議申立人鈴木宏和から特許異議の申立てがされたものである。



第2 本件発明

特許第5691261号の請求項1ないし3に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。
以下、特許第5691261号の請求項1ないし3に係る発明を、それぞれ、本件発明1ないし3という。



第3 異議申立の概要

特許異議申立人鈴木宏和は、主たる証拠として特開2008-233874号公報(以下、「刊行物1」という。)及び特開2009-197116号公報(以下、「刊行物2」という。)並びに従たる証拠として特開平6-207152号公報(以下、「刊行物3」という。)を提出し、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求項1ないし3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
なお、刊行物1及び刊行物2は、本件の特許審査において既に検討されていた文献であり、本件の特許公報に参考文献として記載されているものである。



第4 刊行物の記載及び刊行物に記載された発明

1.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、【請求項1】、段落【0005】、【0006】、【0009】?【0012】、【0021】、【0026】?【0028】及び【0050】?【0055】の記載を総合すれば、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

「(A)脂環式エポキシ化合物、(B)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の数平均分子量が500以上であり、かつ、水酸基を少なくとも1つ含有する化合物、(C)光酸発生剤、及び(D)脂肪族エポキシ化合物を含む放射線硬化性組成物の接着剤であって、
(A)脂環式エポキシ化合物は、1分子中に2個以上の脂環式エポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物であり、放射線硬化性組成物中の(A)脂環式エポキシ化合物の含有率が20?80質量%であり、
放射線硬化性組成物中の(D)脂肪族エポキシ化合物の含有率が0?50質量%であり、
放射線硬化性組成物の粘度(25℃)が、300mPa・s以下であり、
溶剤を含まない、
放射線硬化性組成物の接着剤。」

2.刊行物2に記載された発明
刊行物2には、【請求項1】、段落【0009】?【0012】、【0025】?【0029】、【0030】?【0031】、【0032】及び【0054】?【0058】の記載を総合すれば、次の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているといえる。

「(A)脂環式エポキシ化合物、(B)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の数平均分子量が400以上であり、かつ、水酸基を2個以上含有する化合物、(C)25℃における粘度が10mPa・s以下であり、かつ、水酸基を1個含有する化合物、(D)光酸発生剤、及び(E)脂肪族エポキシ化合物を含む接着剤用放射線硬化性組成物であって、
(A)脂環式エポキシ化合物は、1分子中に2個以上の脂環式エポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物であり、放射線硬化性組成物中の(A)脂環式エポキシ化合物の含有率が20?80質量%であり、
放射線硬化性組成物中の(E)脂肪族エポキシ化合物の含有率が0?50質量%であり、
放射線硬化性組成物の粘度(25℃)が、50mPa・s以下10mPa・s以上であり、
溶剤を含まない、
接着剤用放射線硬化性組成物。」

3.なお、特許異議申立人鈴木宏和は、同人が提示した刊行物1及び2には、「脂肪族エポキシ化合物」として「脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類」が例示されているから、刊行物1及び2に記載された発明として「脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類」を認定できる旨主張している。
確かに、刊行物1及び2には、「脂肪族エポキシ化合物」として「脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類」が例示されているものの、当該「脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類」は、多数例示されている内の1つにすぎないし、それら例示されているものの中で特に好ましいものとして記載されている訳でもないから、かかる多数例示されている内から、ことさら「脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類」を採り上げて、「脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類」を発明特定事項とする発明を認定できるとまではいえない。



第5 対比・判断

1.本件発明1について
(1)刊行物1発明との対比・判断
ア 本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「1分子中に2個以上の脂環式エポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物」は、本件発明1の「多官能脂環式エポキシ化合物(A)が、脂環構造に直接結合したエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物」に相当し、以下同様に、「放射線硬化性組成物の接着剤」は「光硬化性接着剤」に、それぞれ相当する。
そして、刊行物1発明の「(C)光酸発生剤」は、「光を受けることによりルイス酸を放出する光カチオン重合開始剤である」(段落【0021】)から、本件発明1の「光重合開始剤」に相当する。

イ そうすると、本件発明1と刊行物1発明とは、
「多官能脂環式エポキシ化合物(A)を含むカチオン重合性成分及び光重合開始剤を含有する光硬化性接着剤であって、
実質的に有機溶剤を含有しない、
光硬化性接着剤。
ただし、(1)である。
(1)多官能脂環式エポキシ化合物(A)が、脂環構造に直接結合したエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物である。」の点で一致し、以下の相違点1-1?1-3で相違する。
[相違点1-1]
本件発明1は、「単官能グリシジル化合物(B)」を含み、「単官能グリシジル化合物(B)が、式(1)
【化1】

式(1)において、Rは、芳香環、アルキル基、脂肪族エーテル、芳香族エーテル、脂肪族エステルまたは芳香族エステルである。(以下、式及び式の説明を省略する。)に示すグリシジル基を1個有する化合物」であり、「カチオン重合性成分100重量部中に、前記単官能グリシジル化合物(B)由来のエポキシ基を0.01?0.2個」含むと特定しているのに対し、刊行物1発明は、「(D)脂肪族エポキシ化合物」を含み、「放射線硬化性組成物中の(D)脂肪族エポキシ化合物の含有率が0?50質量%」と特定している点。
[相違点1-2]
多官能脂環式エポキシ化合物(脂環式エポキシ化合物)の含有割合に関して、本件発明1は、「前記カチオン重合性成分100重量%中に、前記多官能脂環式エポキシ化合物(A)を50重量%以上」含むと特定しているのに対し、刊行物1発明は、「放射線硬化性組成物中の(A)脂環式エポキシ化合物の含有率が20?80質量%」と特定している点。
[相違点1-3]
光硬化性接着剤について、本件発明1は、「粘度が10?150mPa・s」と特定しているのに対し、刊行物1発明は、「粘度(25℃)が、300mPa・s以下」と特定している点。

ウ 以下、相違点1-1について検討する。
(ア)相違点1-1に係る構成(式(1)に示すグリシジル基を1個有する化合物である単官能グリシジル化合物(B)を、カチオン重合性成分100重量部中に、前記単官能グリシジル化合物(B)由来のエポキシ基を0.01?0.2個含むと特定する点)の本件発明1における技術的意義は、本件の特許明細書の記載(段落【0022】?【0026】及び実施例と比較例との対比)からみて、低粘度であることと、巻き癖がないこととを両立するというものであり、式(1)に示すグリシジル基を1個有する化合物である単官能グリシジル化合物(B)の使用量が少なければ、粘度が大きくなり、逆に、式(1)に示すグリシジル基を1個有する化合物である単官能グリシジル化合物(B)の使用量が多すぎれば、巻き癖が発生するという関係にあることが理解される。
(イ) 他方、刊行物1発明は、「(D)脂肪族エポキシ化合物」を含むものであって、その具体例として、刊行物1には「脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類」が例示されている(段落【0026】)。そして、当該「脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類」が、本件発明1における「単官能グリシジル化合物(B)」として本件の特許明細書(段落【0024】)で例示されている「2エチルへキシルグリシジルエーテル」や「C_(12)?_(13)混合アルキルグリシジルエーテル」などの「脂肪族アルコールのグリシジルエーテル」に包含されるものであると認められるものの、刊行物1発明における「脂肪族エポキシ化合物」は、「接着剤層の機械的強度等をコントロールするために添加される」(段落【0026】)ものであり、本件発明1とはその構成の技術的意義が相違するものである。
そして、刊行物1発明は、接着剤の粘度に関して、「放射線硬化性組成物の粘度(25℃)が、300mPa・s以下」と特定するものの、刊行物1においては、低粘度であることと、巻き癖がないこととを両立するという点については記載も示唆もされていない。
そうすると、刊行物1発明において、低粘度であり、かつ、巻き癖がないことを両立するという課題を認識し、かかる課題を解決しようとする動機があるとはいえない。
(ウ) 本件発明1における相違点1-1に係る効果は、上記(イ)で述べたとおり、低粘度であることと巻き癖がないことを両立するというものであり、そのような効果は、たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
(エ) そうである以上、仮に、刊行物3に、請求人が主張するような技術の開示(低粘度無溶媒の一液型エポキシ樹脂接着性組成物において、n-ブチルグリシジルエーテル、C_(12)?C_(14)アルキルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル等の低粘度、低分子量の1官能性エポキシ化合物は、粘度が非常に低く希釈効果がもっとも大きく、エポキシ樹脂の粘度をかなり低い水準に効果的に低下させることができること)があったとしても、当該証拠に開示の技術を刊行物1発明に組み合わせる動機がないし、仮に、組み合わせたとしても、特に、刊行物3における「低粘度、低分子量の1官能性エポキシ化合物」(刊行物1における「脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類」)の使用量が多すぎると巻き癖が発生する欠点があるためにその使用量の上限を特定の値とする必要があることについて、いずれの刊行物にも開示されていないことから、相違点1-1に係る構成とすることは、たとえ当業者であっても到底容易であるとはいえない。
(オ) 相違点1-1についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点1-1は想到容易とはいえない。

エ 小括
以上のとおり、本件発明1は刊行物1発明と相違点1-1?1-3において相違するものであり、これらの相違点のうち相違点1-1は想到容易とはいえないのであるから、相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、刊行物1発明及び刊行物3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)刊行物2発明との対比・判断
ア 本件発明1と刊行物2発明とを対比すると、刊行物2発明の「1分子中に2個以上の脂環式エポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物」は、本件発明1の「多官能脂環式エポキシ化合物(A)が、脂環構造に直接結合したエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物」に相当し、以下同様に、「接着剤用放射線硬化性組成物」は「光硬化性接着剤」に、「放射線硬化性組成物の粘度(25℃)が、50mPa・s以下10mPa・s以上」は「粘度が10?150mPa・sである」に、それぞれ相当する。
そして、刊行物2発明の「(D)光酸発生剤」は、「光を受けることによりルイス酸を放出する光カチオン重合開始剤である」(段落【0025】)から、本件発明1の「光重合開始剤」に相当する。

イ そうすると、本件発明1と刊行物2発明とは、
「多官能脂環式エポキシ化合物(A)を含むカチオン重合性成分及び光重合開始剤を含有する光硬化性接着剤であって、
実質的に有機溶剤を含有せず、粘度が10?150mPa・sである、
光硬化性接着剤。
ただし、(1)である。
(1)多官能脂環式エポキシ化合物(A)が、脂環構造に直接結合したエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物である。」の点で一致し、以下の相違点2-1?2-2で相違する。
[相違点2-1]
本件発明1は、「単官能グリシジル化合物(B)」を含み、「単官能グリシジル化合物(B)が、式(1)に示すグリシジル基を1個有する化合物」であり、「カチオン重合性成分100重量部中に、前記単官能グリシジル化合物(B)由来のエポキシ基を0.01?0.2個」含むと特定しているのに対し、刊行物2発明は、「(E)脂肪族エポキシ化合物」を含み、「放射線硬化性組成物中の(E)脂肪族エポキシ化合物の含有率が0?50質量%」と特定している点。
[相違点2-2]
多官能脂環式エポキシ化合物(脂環式エポキシ化合物)の含有割合に関して、本件発明1は、「前記カチオン重合性成分100重量%中に、前記多官能脂環式エポキシ化合物(A)を50重量%以上」含むと特定しているのに対し、刊行物2発明は、「放射線硬化性組成物中の(A)脂環式エポキシ化合物の含有率が20?80質量%」と特定している点。

ウ 相違点2-1について検討すると、上記相違点1-1について検討したことと同じ理由により、刊行物2発明の「脂肪族エポキシ化合物」について、「脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類」を特に選択し、その使用量を「カチオン重合性成分100重量部中に、前記単官能グリシジル化合物(B)由来のエポキシ基を0.01?0.2個」含むとすることは、当業者といえども容易になし得ることではない。
したがって、本件発明1は刊行物2発明と相違点2-1?2-2において相違するものであり、これらの相違点のうち相違点2-1は想到容易とはいえないのであるから、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、刊行物2発明及び刊行物3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明1と同様に、刊行物1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。



第7 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2015-12-09 
出願番号 特願2010-144355(P2010-144355)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 須藤 康洋
小野寺 務
登録日 2015-02-13 
登録番号 特許第5691261号(P5691261)
権利者 東洋インキSCホールディングス株式会社
発明の名称 偏光板形成用光硬化性接着剤及び偏光板  

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