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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04H
管理番号 1311808
異議申立番号 異議2015-700134  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-30 
確定日 2016-01-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第5710042号「機械式立体駐車場の制御方法およびこの制御方法により制御される機械式立体駐車場」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5710042号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5710042号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成22年7月21日に出願した特願2010-164155号の一部を平成26年3月24日に新たな特許出願としたものであって、平成27年3月13日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人松田純一により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第5710042号の請求項1ないし11に係る特許は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として、請求項1に係る発明について、特開2003-328577号公報(以下「刊行物1」という。)、特開2002-194914号公報(以下「刊行物2」という。)を提出し、
従たる証拠として、請求項2ないし11に係る発明について、特開2004-169506号公報、特開2005-194733号公報、特開2003-97076号公報及び特開2009-91799号公報(以下、それぞれ、「刊行物3」「刊行物4」「刊行物5」「刊行物6」という。)を提出し、請求項1ないし11に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、該特許は取り消されるべきものである旨主張している。

4 刊行物に記載された事項
(1)刊行物1に記載された事項
刊行物1には、以下の記載がある。

ア 「本発明は機械式駐車設備およびその遠隔操作装置に関する。さらに詳しくは、機械式駐車設備と、この機械式駐車設備においてたとえば車両搭載用パレットの昇降、水平移動、循環等、駐車設備の扉の開閉等の操作をするための遠隔操作装置とに関する。」(段落0001)

イ 「従来、機械式駐車設備の利用者は、この駐車設備に入庫するときおよび出庫するときには駐車設備の操作盤を操作することによって車両搭載用パレットの搬送、駐車設備の扉の開閉等を行っている。」(段落0002)

ウ 「しかしながら、この駐車設備の利用者は自動車のキーと上記リモートコントローラとを携帯する必要がある。リモートコントローラを置き忘れて来れば、駐車設備を利用し得ない事態も生じる。」(段落0006)

エ 「本発明はかかる課題を解決し、さらに利便性を高めた機械式駐車設備の遠隔操作装置、および、遠隔操作装置が好適に用いられる機械式駐車設備を提供することを目的としている。」(段落0007)

オ 「リモコン1によって駐車設備10の運転操作を行う場合は、利用者がまずリモコン1の「スタート」入力部2のボタンを操作して、利用者IDが付加されたスタート信号を受信器24に向けて発信する。制御装置23においては、予め設定されている複数の利用者IDと上記発信された利用者IDとが照合され、一致するものがあれば当該駐車設備の契約者による操作であるとみなされる。そして、その利用者が駐車設備に未入庫であれば空パレットを呼び出し、入庫済みであればその入庫したパレットを呼び出す。呼び出されたパレットが入出庫階に到着すれば自動的に入出庫口の扉が開き、利用者は入庫時であれば車両を当該パレット上に進入させ、また、出庫時であれば当該パレットから車両を退出させる。」(段落0023)

カ 「ついで、退出した車両の利用者がリモコン1によって「扉閉」入力部3のボタン操作により、利用者IDが付加された扉閉信号を受信器24に向けて発信することで、上記と同様に予め設定されている複数の利用者IDと今回発信された利用者IDとが照合される。さらには、前回スタート操作時に受け付けられた利用者IDとも照合され、全てが一致すれば扉開閉用のモータが作動して扉が閉まる。ここで、車両が退出したのではなく進入した場合には同乗者の降り残しという事態が発生する可能性があるため、センサ27との組み合わせの判定によってリモコンの扉閉操作を無効にするようにしても良い。」(段落0024)

上記アないしカの事項を踏まえると、刊行物1には、「利便性を高めた機械式駐車設備の遠隔操作装置、および、遠隔操作装置が好適に用いられる機械式駐車設備を提供すること」を目的とした、下記の発明が記載されているといえる。

「入出庫口の扉を開く前に、利用者がまずリモコン1の「スタート」入力部2のボタン操作により、利用者IDが付加されたスタート信号を発信し、該利用者IDと予め登録されている複数の利用者IDとの照合が行われ、利用者IDが一致した場合に、空パレットの呼び出しが行われ、空パレットの到着後に入出庫口の扉が開き、
入出庫口の扉を閉じる前に、利用者がリモコン1によって「扉閉」入力部3のボタン操作により、利用者IDが付加された扉閉信号を発信し、該利用者IDと入出庫口の扉を開く際に発信された利用者IDとが照合され、一致していた場合に、扉が閉まる、機械式駐車設備」

(2)刊行物2に記載された事項
刊行物2には、以下の記載がある。

ア 「本発明は、機械式駐車装置に係わり、更に詳しくは、機械式駐車装置のリモコン操作による入出庫方法及び装置に関する。」(段落0001)

イ 「本発明の目的は、運転者が一旦車から降りる必要がなく、かつ暗証番号等を忘れた場合でも、車の入出庫操作を利用者自身が安全に行うことができるリモコン操作による入出庫方法及び装置を提供することにある。」(段落0006)

ウ 「操作盤8は、機械式駐車装置9の入出庫扉9aの近傍に設置される。この操作盤8には、制御装置(例えばマイコン又はPC)が内蔵されており、予め決められた複数の暗証番号を記憶する暗証番号メモリ8aと駐車中の車両の暗証番号と駐車パレット番号を記憶する駐車番号メモリ8bと、操作ボタン8cを備えている。」(段落0019)

エ 「入庫する利用者は所定の前面空地に停車(S1)し、次いで入出庫扉9aを目視確認し(S2)、閉じている場合には、車に乗ったまま発信機2(リモコン)の発信ボタンをおしてリモコン操作(S3)をする。また、扉が開いているか半開きの場合には、前の利用者が使用中の場合があるので、そのまま閉じるのを待つか、車から降り操作盤8の扉閉ボタンを押す(S6)。次いで、扉が閉じた後に車に戻ってリモコン操作(S3)をするか、そのまま操作盤の操作ボタン8cで暗証番号を入力する(S7)。」(段落0021)

オ 「上記のステップにより、機械側では、在車センサー6により所定位置の車両を検出し(T1)、扉閉をリミットスイッチ等で検出し(T2)、受信機4で暗証番号を受信し、或いは操作盤8に暗証番号が入力される(T3)。次いで、機械側では、受信又は入力された暗証番号と暗証番号メモリ8a内の暗証番号とを照合し(T4)、これが一致する場合には、自動運転を開始して空パレットを入出庫位置まで移動させ(T5,T6)、その着床後に入出庫用の扉を開いて(T7)、入庫状態で待機する。」(段落0022)

カ 「入庫する利用者は入出庫扉が開いたのを確認した後、車を入庫し(S4)、車から降りて退室する(S5)。また、この退出の際に、リモコン(発信機2)を携帯して発信ボタンを押すか、退出後に操作盤で扉閉ボタンを押す(S8)。」(段落0023)

キ 「上記のステップにより、機械側では、車が入庫し利用者が退室したことが確認され、扉を閉じ(T8)、駐車した車の暗証番号と駐車パレット番号を駐車番号メモリ8bに記憶して(T9)、入庫動作を完了する(T10)。」(段落0024)

ク 「また、入出庫用の扉が開いている場合には、そのまま待機して自動運転により閉じるのを待つか、操作盤の扉閉ボタンを押すことで扉を閉じるので、扉の全閉を利用者が必ず目視確認することになり、入庫操作を利用者自身が安全に行うことができる。」(段落0026)

上記アないしクの事項を踏まえると、刊行物2には、「入庫する利用者は、入出庫扉を目視確認し、扉が開いているか半開きの場合には、前の利用者が使用中の場合があるので、車から降り操作盤8の扉閉ボタンを押すことにより閉扉指示が入力され、閉扉指示に従って入出庫扉9aを閉じる閉扉処理が行われる」点及び「認証操作が、利用者が暗証番号を操作盤8に入力することによって行われる」点が記載されているといえる。

(3)刊行物3ないし刊行物6に記載された事項
刊行物3ないし刊行物6には下記の事項が記載されている(申立人の主張に基づく。)。

ア 刊行物3に記載された事項
閉扉処理の前に、「入出庫口の安全を確認して下さい」と操作者に格納建築物12内(入出庫口12a内)の安全確認を促す安全確認報知処理が行われる点。
安全確認報知処理の後に、操作者に格納建築物12内(入出庫口12a内)の安全確認が取れたら(安全確認釦がONされたら)「駐車場扉を閉めて下さい」と閉扉操作を行うように促す閉扉操作指示処理が行われる点。

イ 刊行物4に記載された事項
利用者から入力された情報と駐車装置1に記憶された情報との照合結果が不一致の場合には、操作盤23の表示部29にエラー表示を行うエラー表示処理が行われる点。
認証操作が、利用者が自己所持のICカード91を操作盤23のカード読取部25に認識させることによって行われる点。

ウ 刊行物5に記載された事項
開扉処理が実行され、車両の入庫が行われた後、所定の時間が経過した時に、立体駐車装置100Aの監視センタに通知する通知処理が行われる点。

エ 刊行物6に記載された事項
運転操作盤10が、入出庫口5の外部、つまり、建物2(入出庫部7)の外部で、且つ、建物2(入出庫部7)の内部を目視可能な位置に設けられる点。

5 判断
(1)請求項1に係る発明について
ア 対比・判断
請求項1に係る発明と、特許異議申立人が提出した刊行物1に記載の発明又は刊行物2に記載された事項とを対比すると、当該刊行物1、刊行物2のいずれにも、「(前記第1の認証処理における認証情報と前記第2の認証処理における認証情報とが一致しているか否かを照合する)照合処理における照合結果が一致した後に、前記車庫装置の外部に設けられた操作盤がユーザーによって操作されることにより閉扉指示が入力され、該閉扉指示に従って前記入出庫扉を閉じる」点が記載されていない。この点は、刊行物3ないし6にも記載されていない。
そして、請求項1に係る発明は、「前記第1の認証処理における認証情報と前記第2の認証処理における認証情報とが一致しているか否か」の「照合処理」に加え、「(照合処理における照合結果が一致した後に)前記車庫装置の外部に設けられた操作盤がユーザーによって操作される」点を有することによって、「車庫装置内に人が取り残された状態で入出庫扉が閉じられてしまうことを防止して安全に運行することのできる」との効果を奏するものである。
したがって、本件請求項1記載の発明は、当業者が上記刊行物1及び2に記載の発明に基いて容易になし得たものではないし、刊行物1ないし6に記載の発明に基いて容易になし得たものでもない。

イ 申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、「利用者の目視確認により安全性を高めるために、車庫装置の外部に設けられた操作盤がユーザーによって操作されることにより閉扉指示が入力され、この閉扉指示に従って入出庫扉を閉じる閉扉処理が行われる点」は、刊行物2(段落0026)に記載されており、自動閉扉に代えて操作盤の扉閉ボタン操作により手動で閉扉してよいことを明示しているから、刊行物2に記載の「機械式駐車装置9の外部に設けられた操作盤8の扉閉ボタンが利用者によって操作されることにより閉扉指示が入力され、閉扉指示に従って入出庫扉9aを閉じる閉扉処理が行われる点」を刊行物1に記載の発明に適用することは、容易になし得る旨主張する。
(イ)しかしながら、刊行物1に記載の発明は、「利便性を高めた機械式駐車設備の遠隔操作装置」(前記4(1)エ(段落0007))を提供することを課題としており、このような発明において、「(前記第1の認証処理における認証情報と前記第2の認証処理における認証情報とが一致しているか否かを照合する)照合処理」(認証情報である利用者IDの一致)という、安全手段が講じられているにもかかわらず、さらに「車庫装置の外部に設けられた操作盤がユーザーによって操作される」点(ユーザーによる確認・操作)を組み合わせることは、煩雑な処理を必須とすることになり、「遠隔操作装置」が有する利便性を損なうことになる。
また、刊行物1には「車両が退出したのではなく進入した場合には同乗者の降り残しという事態が発生する可能性があるため、センサ27との組み合わせの判定によってリモコンの扉閉操作を無効にするようにしても良い。」(前記4(1)カ(段落0024))との記載があるように、照合処理とセンサによる検知とを組み合わせて安全性は十分高められているので、「ユーザーによる確認・操作」を必要とするものではない。
したがって、刊行物1は、「照合処理」(認証情報の一致)に、「車庫装置の外部に設けられた操作盤がユーザーによって操作される」点(ユーザーによる確認・操作)を組み合わせることは示唆していないというべきである。
(ウ)刊行物2には「また、入出庫用の扉が開いている場合には、そのまま待機して自動運転により閉じるのを待つか、操作盤の扉閉ボタンを押すことで扉を閉じるので、扉の全閉を利用者が必ず目視確認することになり、入庫操作を利用者自身が安全に行うことができる。」(前記4(2)ク(段落0026))との記載があるものの、「入庫する利用者は、入出庫扉を目視確認し、扉が開いているか半開きの場合には、前の利用者が使用中の場合があるので、車から降り操作盤8の扉閉ボタンを押すことにより閉扉指示が入力され、閉扉指示に従って入出庫扉9aを閉じる閉扉処理が行われる」ものであって、照合処理のような安全手段を有していない。このため、前の利用者がいたとしても、「閉扉指示が入力され」れば閉扉されるから、「車庫装置内に人が取り残された状態で入出庫扉が閉じられてしまう」ことを生じさせるものといえる。
また、刊行物2には、照合処理などの安全手段に加えて、安全性を高めるためにユーザーに目視確認と操作を求めることは示唆されていない。
したがって、刊行物2に記載された事項は、「(前記第1の認証処理における認証情報と前記第2の認証処理における認証情報とが一致しているか否かを照合する)照合処理の結果が一致した後」に「車庫装置の外部に設けられた操作盤がユーザーによって操作される」ものではないし、「照合処理」に加えて、さらに「安全性を高める」ために「車庫装置の外部に設けられた操作盤がユーザーによって操作される」ことを示唆するものではない。
(エ)以上のとおり、「安全性を高める」ために「(前記第1の認証処理における認証情報と前記第2の認証処理における認証情報とが一致しているか否かを照合する)照合処理」(認証情報の一致)に加え、さらに、「車庫装置の外部に設けられた操作盤がユーザーによって操作される」点(ユーザーによる確認・操作)を組み合わせることは、刊行物1及び刊行物2には記載も示唆もないから、異議申立人の上記主張は根拠がない。

(2)請求項2ないし11に係る発明について
請求項2ないし11に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、当業者が刊行物1ないし6に記載の発明に基いて容易になし得たものではない。
以上のとおり、請求項1ないし11に係る発明は、当業者が刊行物1ないし6に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-01-04 
出願番号 特願2014-60668(P2014-60668)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土屋 真理子  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
赤木 啓二
登録日 2015-03-13 
登録番号 特許第5710042号(P5710042)
権利者 三菱重工メカトロシステムズ株式会社
発明の名称 機械式立体駐車場の制御方法およびこの制御方法により制御される機械式立体駐車場  
代理人 上田 邦生  
代理人 藤田 考晴  

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