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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  A61B
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61B
管理番号 1311824
異議申立番号 異議2015-700043  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-09-30 
確定日 2016-01-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第5692389号「生体センサ」の請求項8、9、11ないし13及び15に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5692389号の請求項8、9、11ないし13及び15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5692389号(以下,「本件特許」という。)の請求項8,請求項9,請求項11?請求項13及び請求項15に係る特許についての出願は,平成24年8月9日(優先権主張 平成23年8月19日)に特許出願され,平成27年2月13日に特許の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人より特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項8,請求項9,請求項11?請求項13及び請求項15に係る発明(以下,それぞれの発明を「本件発明8」などと,本件発明と請求項の番号を組合わせていうこととする。)は,次の事項により特定される発明である。
「【請求項8】
配線基板と,
前記配線基板の主面に,所定の間隔を空けて配置される発光素子及び受光素子と,
前記配線基板の主面に形成され,前記発光素子を封止する透光性を有する発光素子封止部と,
前記配線基板の主面に形成され,前記受光素子を封止する透光性を有する受光素子封止部と,
前記発光素子封止部と前記受光素子封止部との間に設けられる遮光部と,
前記遮光部を介して前記配線基板と平行に設けられる透光性を有するカバーと,を備え,
前記カバーの底面及び/又は上面は,該カバーの中を通る光が散乱されるように粗く形成されていることを特徴とする生体センサ。
【請求項9】
配線基板と,
前記配線基板の主面に,所定の間隔を空けて配置される発光素子及び受光素子と,
前記配線基板の主面に形成され,前記発光素子を封止する透光性を有する発光素子封止部と,
前記配線基板の主面に形成され,前記受光素子を封止する透光性を有する受光素子封止部と,
前記発光素子封止部と前記受光素子封止部との間に設けられる遮光部と,
前記遮光部を介して前記配線基板と平行に設けられる透光性を有するカバーと,を備え,
前記カバーは,少なくとも一部が前記発光素子側と前記受光素子側とに分断されていることを特徴とする生体センサ。
【請求項11】
前記カバーは,前記発光素子側と前記受光素子側とに完全に分断されていることを特徴とする請求項9又は10に記載の生体センサ。
【請求項12】
配線基板と,
前記配線基板の主面に,所定の間隔を空けて配置される発光素子及び受光素子と,
前記配線基板の主面に形成され,前記発光素子を封止する透光性を有する発光素子封止部と,
前記配線基板の主面に形成され,前記受光素子を封止する透光性を有する受光素子封止部と,
前記発光素子封止部と前記受光素子封止部との間に設けられる遮光部と,
前記遮光部を介して前記配線基板と平行に設けられる透光性を有するカバーと,を備え,
前記カバーの底面及び/又は上面は,該カバーを通り前記発光素子と前記受光素子とを結ぶ直線と平行な仮想直線と交わる向きに,複数の溝が形成されていることを特徴とする生体センサ。
【請求項13】
前記溝と溝との間の領域のアスペクト比は,1以上に設定されていることを特徴とする請求項12に記載の生体センサ。
【請求項15】
配線基板と,
前記配線基板の主面に,所定の間隔を空けて配置される発光素子及び受光素子と,
前記配線基板の主面に形成され,前記発光素子を封止する透光性を有する発光素子封止部と,
前記配線基板の主面に形成され,前記受光素子を封止する透光性を有する受光素子封止部と,
前記発光素子封止部と前記受光素子封止部との間に設けられる遮光部と,
前記遮光部を介して前記配線基板と平行に設けられる透光性を有する基材と,
前記基材と,前記遮光部,及び/又は,前記発光素子封止部,前記受光素子封止部との間に設けられ,前記基材と,前記遮光部,及び/又は,前記発光素子封止部,前記受光素子封止部とを接着する透光性を有する接着層と,を備え,
前記接着層は,少なくとも一部が前記発光素子側と前記受光素子側とに分断されていることを特徴とする生体センサ。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は,証拠として次の甲各号証(以下,甲第1号証を「甲1」のように甲と番号を組合わせていうこととする。)を提出した。
甲1:特開2011-96203号公報
甲2:特願2011-134864号(特開2013-378号)
甲3:国際公開第2009-139028号
甲4:特開2011-49473号公報
そして,特許異議申立書の14頁「(5)結び」の項に記載された条文に鑑み,申立理由を整理すると,次の(申立理由1)及び(申立理由2)を特許異議申立人は主張している。

(申立理由1)
本件発明8,本件発明12及び本件発明13は,甲1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,その特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,取り消すべきものである。

(申立理由2)
本件発明9,本件発明11及び本件発明15は,本件特許に係る出願の優先日前の特許出願であって,その出願の後に出願公開がされた甲2の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願の優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,その特許は,特許法第29条の2の規定により,取り消すべきものである。

第4 甲各号証記載の事項
1 甲1記載の事項
(甲1ア)「【請求項1】
被写体に光を照射する光源と,該被写体からの反射光を反射させて内部を導光させる導光型光学部材と,該導光型光学部材によって導光された光を受光する撮像素子とを備えた光ポインティング装置であって,
上記導光型光学部材は,導光される光を上記撮像素子に導く結像反射部を有し,
さらに,上記光源および撮像素子が設けられる上記導光型光学部材の裏面に,上記光源から出射された光が結像反射部を経ずに撮像素子に入射する光の経路を変える迷光防止部を備えることを特徴とする光ポインティング装置。
【請求項2】
上記導光型光学部材は,上記結像反射部と,上記被写体が接触する接触面と,上記被写体からの反射光の方向を変換させて上記結像反射部に導く光路変換部とが一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ポインティング装置。
【請求項3】
上記迷光防止部は,導光された光を屈折させるプリズムであることを特徴とする請求項1または2に記載の光ポインティング装置。
【請求項4】
上記迷光防止部は,導光された光を散乱させる屈折面からなることを特徴とする請求項1または2に記載の光ポインティング装置。
【請求項5】
上記迷光防止部は,遮光された光を遮光する遮光部材からなることを特徴とする請求項1または2に記載の光ポインティング装置。
【請求項6】
上記迷光防止部は,上記接触面,結像反射部,光路変換部と共に,一体に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の光ポインティング装置。
【請求項7】
上記プリズム表面に,導光された光を反射する反射膜が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の光ポインティング装置。
【請求項8】
上記結像反射部は,球面,非球面,または,導光方向の面の曲率と導光方向と直交する面の曲率とが互いに異なるトロイダル面を有することを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の光ポインティング装置。
【請求項9】
上記光路変換部は,上記被写体からの反射光を屈折させるプリズム,上記被写体からの反射光を偏向させる反射型回折素子,反射型フレネルレンズ,または反射型ホログラムレンズのいずれかからなることを特徴とする請求項2に記載の光ポインティング装置。
【請求項10】
上記導光型光学部材は,上記被写体が接触する接触面以外の表面領域に,外部からの光を遮光する遮光膜を備えることを特徴とする請求項1?9のいずれか1項に記載の光ポインティング装置。
【請求項11】
上記撮像素子は,基板上に設けられていると共に,透明樹脂により樹脂封止されており,
上記導光型光学部材が,上記透明樹脂の表面および側面に当接していることを特徴とする請求項1?10のいずれか1項に記載の光ポインティング装置。
【請求項12】
請求項1?11のいずれか1項に記載の光ポインティング装置を備えることを特徴とする電子機器。」

(甲1イ)「【0005】
そこで,携帯情報端末に搭載可能なポインティング装置として,ポインティング装置に接触する被写体(例えば,指先等)を撮像素子で観察し,接触面における被写体の模様(例えば,指紋等)の変化を抽出することによって,被写体の動きを検知する光ポインティング装置が提案されている。つまり,被写体にて反射された光によって形成された被写体の像をイメージセンサ等の撮像素子で連続的に撮像し,撮像した画像データにおける直前に撮影した画像データに対する変化量を抽出し,該変化量に基づいて被写体の動きを算出し,電気信号として出力する光ポインティング装置が提案されている。この光ポインティング装置を用いることによって,ディスプレイ上に示されたカーソル等を被写体の動きに合わせて移動させることができる。」

(甲1ウ)「【0021】
本発明の光ポインティング装置では,上記迷光防止部は,導光された光を散乱させる屈折面からなっていてもよい。」

(甲1エ)「【0048】
まず,基板部26の構成について説明する。本実施形態では,1つの回路基板21上に光源16と撮像素子15を搭載している。光源16および撮像素子15は,ワイヤボンドまたはフリップチップ実装にて回路基板21と電気的に接続されている。回路基板21には,回路が形成されている。当該回路は,光源16の発光タイミングを制御したり,撮像素子15から出力された電気信号を受けて,被写体の動きを検知したりするものである。回路基板21は,同一材料からなる平面状のものであり,例えば,プリント基板やリードフレーム等から成る。」

(甲1オ)「【0053】
光源16および撮像素子15は,透光性樹脂からなる透明樹脂20によって樹脂封止されている。透明樹脂20の形状は,略直方体である。透明樹脂20の底面は,回路基板21の上表面と密着して接しており,光源16および撮像素子15にそれぞれ密着する凹部が形成されている。透光性樹脂として,例えば,シリコーン樹脂もしくはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂またはアクリルやポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が用いられる。
【0054】
このように,回路基板21上に搭載された光源16および撮像素子15がそれぞれ透明樹脂20によって樹脂封止されているため,回路基板21,光源16,撮像素子15および透明樹脂20が一体となっている基板部26が形成されている。そのため,光ポインティング装置30の部品点数を減らすことができ,組み立て工程数も減らすことができる。よって,光ポインティング装置30の製造コストを削減することができると共に,被写体の検知精度の高い光ポインティング装置30を実現することができる。次に,カバー部24の構成について説明する。カバー部24は,光源16および撮像素子15などの光ポインティング装置30を構成する各部・各素子を保護するものである。カバー部24は,基板部26の上側に位置し,基板部26の側面および上表面に密着して接している。カバー部24のZ軸の負側の表面であって,基板部26上に搭載され光ポインティング装置30として形成されているときに外部に露出していない表面部分を,カバー部24の裏面と称する。すなわち,カバー部24の裏面における一部の当接面(当接面24A,24B,24C)は,基板部26の側面および上表面と密着して接している。カバー部24の底面(当接面24C)は,基板部26の底面と同一平面を形成している。カバー部24の上表面とカバー部24の底面(当接面24C)および基板部26の底面とは平行となっており,カバー部24の両側面がカバー部24の上表面,並びに,カバー部24の底面(当接面24C)および基板部26の底面に対してある角度を持つ面で形成されている。つまり図1に示すように,光ポインティング装置30の断面図において,台形状となっている。ただし,この形状に限るものではなく前記側面が底面に対して垂直になっていても構わない。」

(甲1カ)「【0060】
図3(a)は,図1の光ポインティング装置30において迷光防止プリズム19Aが無い場合の光ポインティング装置300であり,図3(b)は図1の光ポインティング装置30である。なお,アパーチャ19Bも,同様の微細構造を用いて結像素子14のX軸方向における有効径外からの迷光・外乱光が撮像素子15に入らずある特定方向に導くための構造であるが,迷光防止プリズム19Aと作用・効果は同じため,ここでは迷光防止プリズム19Aのみの説明を行う。一方,光源16の光は光源の発光点からある拡がりを持って出射する。その出射光のうち,光Mは被写体10で散乱反射されて,反射光Lとなって,撮像素子15に入射する。しかし,M以外の光N1や光N2は,迷光防止プリズムが形成されていない図3(a)では,図示するがごとく,結像素子14による光路を通らず迷光となって撮像素子15に入射する。この場合,光路Lを通る光により撮像素子15上に撮像された像を回路基板21により画像処理された信号成分は,被写体10が動いた場合,動いた量や方向に関する信号情報が得られる。これに対して,光路N1や光路N2を通る光による同様の像は,被写体10が動いたとしても,動かない像しか得られないため,信号情報が得られないだけでなく,動く像に対して動かない像が重なり,像の動きを隠してしまうため,正確な信号情報が得られなくなる。(ここで,以下信号情報が得られる光路Lを通る光を信号光,信号光以外をノイズ光と称する。また,光ポインティング装置内部の光源で発生するノイズ光を迷光,光ポインティング装置外部から入射する光により発生するノイズ光を外乱光と定義する。)一方,迷光防止プリズム19Aを設けた図3(b)では,図3(a)で発生していた迷光N1・N2が,N1’・N2’に変化して,カバー部24外に反射され,回路基板21等で吸収されてしまうため,ノイズ光とならない。この迷光防止プリズム19Aやアパーチャ19Bは,図3に示した光源16のN1・N2の角度の光以外にも効果があり,また光ポインティング装置30内部に設けた光源16からの迷光だけではなく,装置外からの外乱光にも効果がある。」

(甲1キ) 【図3】


2 甲2記載の事項
(甲2ア)「【請求項1】
基板の一方の面に形成され,前記基板とは反対側の生体に向けて光を照射する発光素子と,
前記基板の一方の面に前記発光素子と離間して形成され,前記生体からの光を受光して,当該受光に応じた信号を出力する受光素子と,
光透過性を有し,前記発光素子を覆うように設けられた第1導光部材と,
光透過性を有し,前記受光素子を覆うように,前記第1導光部材とは離間して設けられた第2導光部材と,
を具備することを特徴とする生体センサー。」

(甲2イ)「【背景技術】
【0002】
近年,発光素子によって生体に光を照射する一方,脈拍数や酸素飽和度などの生体情報を反映した光を受光素子によって受光し,電気信号に変換して出力する生体センサーが知られている。当該生体センサーから出力された信号を処理すると,生体情報を非侵襲で検出することができる。
生体センサーを構成する発光素子と受光素子とは,物理的に異なる素子であるので,互いに離間した状態で配置せざるを得ない。この状態において発光素子からの光が受光素子に直接入射してしまうと,直接入射光は,生体情報を反映した光に対してノイズとなってしまう。
そこで,発光素子と受光素子とを光遮蔽性を有するホルダーによって隔てて収納するとともに,生体センサーの密着性を向上させるために被験者との接触面に板状の透明板を設ける技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-360530号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで,生体情報を反映した光は,例えば血管内の血液によって反射した光であるために,照射した光に対して微弱である。このため,被験者との接触面に透明板を設けた技術では,発光素子から射出された光の一部が透明板の内部反射によって受光素子に入射し,微弱な光成分を精度良く検出することができない,という問題があった。
本発明は,上述した課題に鑑みてなされたもので,その目的の一つは,微弱な光成分を精度良く検出することが可能な生体センサーおよび生体情報検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明に係る生体センサーにあっては,基板の一方の面に形成され,前記基板とは反対側の生体に向けて光を照射する発光素子と,前記基板の一方の面に前記発光素子と離間して形成され,前記生体からの光を受光して,当該受光に応じた信号を出力する受光素子と,光透過性を有し,前記発光素子を覆うように設けられた第1導光部材と,光透過性を有し,前記受光素子を覆うように,前記第1導光部材とは離間して設けられた第2導光部材と,を具備することを特徴とする。本発明によれば,発光素子を覆う第1導光部材と受光素子を覆う第2導光部材とは互いに離間して設けられるので,発光素子から受光素子に直接入射してノイズとなる成分が抑えられる。このため,生体情報を反映した微弱な光成分を精度良く検出することができる。
【0006】 本発明において,前記基板は不透明である態様が好ましい。この態様によれば,基板の他方の面側から入射する迷光の影響を抑えることができる。
また,本発明において,前記発光素子は,前記基板から向かって順に,第1電極層,発光層,第2電極層および第1封止層を少なくとも含んだ積層体である構成も好ましい。この構成によれば,基板側とは反対方向に光を出射するトップエミッション構造の発光素子を,薄膜技術を用いて形成することができる。
同様に本発明において,前記受光素子は,前記基板から向かって順に,第3電極層,受光層,第4電極層および第2封止層を少なくとも含んだ積層体である構成も好ましい。この構成によれば,基板側とは反対方向から光を入射する構造の受光素子を,薄膜技術を用いて形成することができる。」

(甲2ウ)「【0013】図5は,生体センサー20の構造を示す模式図である。図に示されるように,生体センサー20では,発光素子24および受光素子26が,シリコンなどのような不透明な基板22のうち,装着側(図において上側)の面において種々の薄膜を積層することによって形成される。
詳細には,発光素子24は,例えば有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode)であり,基板22を起点として順に,反射層241,電極層242,有機層243,電極層244および封止層245を積層した構造となっている。
・・・
【0017】・・・
封止層245は,酸素や水分の侵入による発光素子が劣化するのを防ぐための第1封止層であり,電極層244から反射層241までの積層構造を覆うように設けられている。封止層245は,光透過性を有する例えば硬質のシリコン酸窒化膜(SiON)で,軟質の有機膜を挟持した積層体からなる。積層体で構成された封止層245は,素子劣化を防止する機能に加えて,第1導光部材25を取り付ける際の緩衝材として機能することにもなる。
・・・
【0021】・・・
封止層265は,受光素子が劣化するのを防ぐための第2封止層であり,電極層264から反射層261までの積層構造を覆うように設けられている。封止層265は,封止層245と同様に例えば硬質のシリコン酸窒化膜(SiON)で軟質の有機膜を挟持した積層体からなる。
・・・
【0024】
このように形成された発光素子24には第1導光部材25が,受光素子26には第2導光部材27が,それぞれ取り付けられる。詳細には,内面25bが発光素子24の外形に合わせた形状となるように加工された第1導光部材25は,当該第1導光部材25に近い屈折率を有する接着剤によって発光素子24の全体を覆うように基板22に接着される。同様に,内面27bが受光素子26の外形に合わせた形状となるように加工された第2導光部材27は,当該第2導光部材27に近い屈折率を有する接着剤によって受光素子26の全体を覆うように基板22に接着される。
【0025】図6は,生体センサにおける光の出射・入射を示す図である。・・・」

(甲2エ) 【図5】


(甲2オ)【図6】


1 甲3記載の事項
(甲3ア)「請求の範囲
[1] 基板と,
該基板上に配置され,光を被検体に照射する照射部と,
前記基板上に配置され,前記照射された光に起因する前記被検体からの光を検出する受光部と,
前記照射部及び前記被検体間と前記被検体及び前記受光部間との少なくとも一方に配置され,前記照射部から出射される光及び前記被検体からの光の少なくとも一方の光を散乱させる光散乱部と
を備えることを特徴とする自発光型センサ装置。
・・・
[6] 前記基板上における前記照射部及び前記受光部間に設けられており,前記照射部及び前記受光部間を遮光する遮光部を更に備えることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の自発光型センサ装置。」

(甲3イ)「[0001] 本発明は,例えば血流速度等を測定することが可能な自発光型センサ装置の技術分野に関する。」

4 甲4記載の事項
(甲4ア)「【請求項1】
透光板と,
該透光板を介して被検出物に光を照射する発光素子と,
該被検出物において反射した該光を該透光板を介して受光する受光素子とを備えており,
該透光板と,該発光素子および該受光素子のうち少なくとも一つとの間に,回折格子が設けられていることを特徴とする光検出装置。
・・・
【請求項5】
上記発光素子を封止する第1の透光樹脂と,
上記受光素子を封止する第2の透光樹脂と,
第1の透光樹脂と,第2の透光樹脂とを分断する遮光樹脂とをさらに備えており,
上記回折格子が,第1の透光樹脂,第2の透光樹脂および該遮光樹脂の少なくとも何れかに設けられていることを特徴とする請求項1?4の何れか一項に記載の光検出装置。」

(甲4イ)「【背景技術】
【0002】
近年,携帯電話などに代表される画面付きモバイル機器が広く利用されている。モバイル機器には,電池寿命を延長して利便性を高めることが求められている。例えば,通話中は携帯電話の画面を見ることがないため,液晶バックライトを消灯させ,液晶パネルの消費電力を低減させることによりバッテリを長時間持たせることが可能となる。
【0003】
更に,近年の携帯電話では,タッチパネル機能付き画面が採用され,入力ヒューマンインターフェースが向上されている。しかし,タッチパネル機能付きの携帯電話では,通話中にタッチパネル機能が人の肌を検出することがあり,タッチパネル機能が誤作動する問題が生じる恐れがある。
【0004】
このような背景から,被検出物としての人の肌(主に頬)を検出し,画面の点灯,消灯を自動調整するための近接センサを搭載することが求められている。例えば,光学式で小型の物体検出センサを,近接センサとして用いることが提案されている。」

第5 申立理由1についての検討
1 本件発明8について
(1) 本件発明8の「生体センサ」について
本件発明8の「生体センサ」とは,本件特許明細書に「本発明は,生体信号を取得する生体センサに関する。」(【0001】)とあるように,生体信号を取得するセンサである。
具体的には,「指等の生体を透過,又は生体に反射した光の強度変化を光電脈波信号として取得する脈拍計やパルスオキシメータ」(【0002】)や「生体用電極とオキシメータプローブの両方の機能を持たせた生体情報測定用センサ」(【0003】)のような生体情報を得るものであると理解される。

(2) 甲1記載の発明について
特許異議申立人が甲1に(甲1ウ)?(甲1キ)の記載を枠で囲む等しているところ,この記載から把握される発明は,甲1の特許請求の範囲(甲1ア)をみても明らかなように,光ポインティング装置に関する発明である。
甲1の光ポインティング装置とは,「ポインティング装置に接触する被写体(例えば,指先等)を撮像素子で観察し,接触面における被写体の模様(例えば,指紋等)の変化を抽出する」(甲1イ)ことで「被写体の動きを検知」(甲1イ)し「ディスプレイ上に示されたカーソル等を被写体の動きに合わせて移動させる」(甲1イ)装置であり,指紋等の変化により動きを検知する装置であるから,生体情報を取得する装置では無く,本件発明8でいう「生体センサ」とはいえないことは明白である。

加えて,甲1には,甲1の光ポインティング装置を用いて,生体情報を得ることができるような記載も無ければ示唆もない。

(3) 甲3及び甲4記載の発明について
特許異議申立人は,周知技術の例として甲3及び甲4を提出している。
甲3には,請求項1を引用する請求項3(甲3ア)のごとくの「血流速度等を測定することが可能な自発光型センサ装置」(甲3イ)に関する発明が記載されている。
甲4には,請求項1を引用する請求項5(甲4ア)のごとくの「被検出物としての人の肌(主に頬)を検出」する「光学式で小型の物体検出センサ」(甲4イ)としての光検出装置に係る発明が記載されている。

(4) 本件発明8についての申立理由1の判断
甲1に記載の発明は,「ディスプレイ上に示されたカーソル等を被写体の動きに合わせて移動させる」(甲1イ)「光ポインティング装置」に係るものであり,これを本件発明8のごとくの「生体センサ」とする動機がない。
また,甲3には「血流速度等を測定することが可能な自発光型センサ装置」(甲3イ)が記載されているが,甲1に記載の「光ポインティング装置」の発明において,全く異なる装置である甲3記載の事項を適用して,「生体センサ」とする動機がない。
さらに,甲4は,「被検出物としての人の肌(主に頬)を検出」する「光学式で小型の物体検出センサ」に関する発明であり,甲1に記載の「光ポインティング装置」の発明において,甲4に係る発明を適用しても,本件発明8のごとくの「生体センサ」とはならないことは明白である。

よって,本件発明8は,甲1並びに甲3及び甲4に記載されている周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。

2 本件発明12及び本件発明13について
本件発明12は,「生体センサ」に係る発明であり,上記「1(1)エ 本件発明8についての申立理由1の判断」に記した理由と同様の理由で,本件発明12のごとくの「生体センサ」とはならないことは明白である。
よって,本件発明12は,甲1並びに甲3及び甲4に記載されている周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとすることはできない。

また,請求項12を引用する本件発明13は,本件発明12をさらに限定した発明であるから,上記と同様の理由で甲1並びに甲3及び甲4に記載されている周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとすることはできない。

第6 申立理由2についての検討
甲2の公開特許公報に係る出願は,本件特許の出願の優先日前の特許出願であって,その後に出願公開がされたものであり,発明者が本件特許の発明をした者と同一ではなく,出願人が本件特許の出願人と同一ではないものである。

1 甲2(先願明細書)記載の発明
甲2の公開特許公報に係る出願の願書に最初に添付された明細書又は図面には,以下のような事項が記載されていると理解される。

(1)甲2の図5に記載の実施例
甲2の(甲2ウ)は,甲2の請求項1(甲2ア)の一実施例である図5(甲2エ)の構造に関する一連の説明である。

(2)封止層について
ここに記載の発光素子を封止する第1封止層は,(甲2ウ)によると,「酸素や水分の侵入による発光素子が劣化するのを防ぐための第1封止層」(【0017】)が設けられており,「光透過性例えば硬質のシリコン酸窒化膜(SiON)で,軟質の有機膜を挟持した積層体」(【0017】)であるとされている。

また,受光素子を封止する第2封止層は(甲2ウ)によると,「封止層265は,受光素子が劣化するのを防ぐための第2封止層であり,」(【0021】)「硬質のシリコン酸窒化膜(SiON)で軟質の有機膜」(【0021】)からなるとされている。第2封止層の光透過性については明記されていないが,受光素子で光が検出される必要があることからすれば,受光素子を封止する第2封止層が光透過性を有することは自明なことといえる。

(3) 積層体構造について
甲2の(甲2イ)の【0006】には,発明の一般的な態様として,
「前記発光素子は,前記基板から向かって順に,第1電極層,発光層,第2電極層および第1封止層を少なくとも含んだ積層体である構成も好ましい。」
とされ,
「前記受光素子は,前記基板から向かって順に,第3電極層,受光層,第4電極層および第2封止層を少なくとも含んだ積層体である構成も好ましい。」
と記載されており,実施例(甲2ウ)おいても,図5(甲2エ)からみて,上記(甲2イ)に記載のとおりの順番で構成されている。

(4) 小括
甲2の請求項1(甲2ア)に,(甲2ウ)に下線を付した事項及び,及び,上記(1)?(3)で整理した事項を加えて整えると,甲2の公開特許公報に係る出願の願書に最初に添付された明細書又は図面には,次の発明(以下,「先願明細書記載の発明1」という。)が記載されていると認められる。
「(a) 基板の一方の面に形成され,前記基板とは反対側の生体に向けて光を照射する発光素子と,
(a-1) ここで,前記発光素子は,前記基板から向かって順に,第1電極層,発光層,第2電極層および第1封止層を少なくとも含んだ積層体で構成され,
(a-2) 前記第1封止層は,酸素や水分の侵入による発光素子が劣化するのを防ぐ光透過性を有する例えば硬質のシリコン酸窒化膜(SiON)で形成され,発光素子の前記積層構造を覆うように設けられ,
(b) 前記基板の一方の面に前記発光素子と離間して形成され,前記生体からの光を受光して,当該受光に応じた信号を出力する受光素子と,
(b-1) ここで,前記受光素子は,前記基板から向かって順に,第3電極層,受光層,第4電極層および第2封止層を少なくとも含んだ積層体で構成され,
(b-2) 前記第2封止層は,酸素や水分の侵入による受光素子が劣化するのを防ぐ光透過性を有する例えば硬質のシリコン酸窒化膜(SiON)で形成され,受光素子の前記積層構造を覆うように設けられ,
(c) 前記発光素子と前記受光素子は,基板上の同じ面に設けられ,
(d) 光透過性を有し,前記発光素子を覆うように設けられた第1導光部材と,
(e) 光透過性を有し,前記受光素子を覆うように,前記第1導光部材とは離間して設けられた第2導光部材と,
を具備することを特徴とする生体センサー。」

2 本件発明9について
(1) 本件発明9の特定事項
本件発明9の特定事項を(A)?(H)に分説して整理すると,次のようになる。
「【請求項9】
(A) 配線基板と,
(B) 前記配線基板の主面に,所定の間隔を空けて配置される発光素子及び受光素子と,
(C) 前記配線基板の主面に形成され,前記発光素子を封止する透光性を有する発光素子封止部と,
(D) 前記配線基板の主面に形成され,前記受光素子を封止する透光性を有する受光素子封止部と,
(E) 前記発光素子封止部と前記受光素子封止部との間に設けられる遮光部と,
(F) 前記遮光部を介して前記配線基板と平行に設けられる透光性を有するカバーと,を備え,
(G) 前記カバーは,少なくとも一部が前記発光素子側と前記受光素子側とに分断されていることを特徴とする
(H) 生体センサ。」

(2) 本件発明9と先願明細書記載の発明1との対比
ア 本件発明9の(A) の特定事項について
先願明細書記載の発明1の「発光素子」及び「受光素子」は「基板」以外に接触する部位は無く,「発光素子」及び「受光素子」に給電する何らかの回路が「基板」形成されていると理解するのが自然であるから,先願明細書記載の発明1の(a)?(c)の「基板」は,本件発明9の「(A)配線基板」に相当する。

イ 本件発明9の(B) の特定事項について
先願明細書記載の発明1の「発光素子」と「受光素子」は,「(b) 前記基板の一方の面に前記発光素子と離間して形成され,前記生体からの光を受光して,当該受光に応じた信号を出力する受光素子」「(c) 前記発光素子と前記受光素子は,基板上の同じ面に設けられ」との規定からみて,本件発明9の「(B)前記配線基板の主面に,所定の間隔を空けて配置される発光素子及び受光素子」に相当する。

ウ 本件発明9の(C) の特定事項について
先願明細書記載の発明1の(a-1)の特定事項によれば「第1封止層」は,「光透過性を有」し,「前記基板から向かって順に・・・発光層,・・・第1封止層」という順に並ぶものであるから,発光素子と第1封止層は基板の同じ面に形成されていることは自明なことであって,この基板の面を主面とすれば,本件発明9の「(C)前記配線基板の主面に形成され,前記発光素子を封止する透光性を有する発光素子封止部」に相当する。

エ 本件発明9の(D) の特定事項について
先願明細書記載の発明1の(b-1)の特定事項によれば「第2封止層」は,「光透過性を有」し,「前記基板から向かって順に・・・受光層,・・・第2封止層」という順に並ぶものであるから,受光素子と第2封止層は基板の同じ面に形成されていることは自明なことであって,この基板の面を主面とすれば,本件発明9の「(D)前記配線基板の主面に形成され,前記受光素子を封止する透光性を有する受光素子封止部」に相当する。

オ 本件発明9の(F)の特定事項について
先願明細書記載の発明1の「(d) 光透過性を有し,前記発光素子を覆うように設けられた第1導光部材」「(e) 光透過性を有し,前記受光素子を覆うように,前記第1導光部材とは離間して設けられた第2導光部材」は,覆う,すなわち,カバーする機能を有するものであり,その機能,構造からみて,本件発明9の(F)の「透光性を有するカバー」に相当する。

また,先願明細書記載の発明1の発光素子及び受光素子は,「(a-1) ここで,前記発光素子は,前記基板から向かって順に,第1電極層,発光層,第2電極層および第1封止層を少なくとも含んだ積層体で構成され」及び「(b-1) ここで,前記受光素子は,前記基板から向かって順に,第3電極層,受光層,第4電極層および第2封止層を少なくとも含んだ積層体で構成され」ているものであり,積層という手段を用いることから,発光素子及び受光素子の上面は基板と平行であると理解される。そして,基板と傾きが異なるように設ける特段の事情も考えられないことから,発光素子と受光素子の上に設けられた「第1導光部材」及び「第2導光部材」もまた,基板と平行に設けられていると理解するのが自然である。
これを裏付けるように,甲2の【図6】(甲2オ)にも基板22と第1導光部材25及び第2導光部材27は平行なものとして図示されている。

以上のことを踏まえれば,先願明細書記載の発明1の「(d) 光透過性を有し,前記発光素子を覆うように設けられた第1導光部材」及び「(e) 光透過性を有し,前記受光素子を覆うように,前記第1導光部材とは離間して設けられた第2導光部材」と,本件発明9の「(F)前記遮光部を介して前記配線基板と平行に設けられる透光性を有するカバー」とは,「前記配線基板と平行に設けられる透光性を有するカバー」という点で共通する。

カ 本件発明9の(G)の特定事項について
本件発明9の(G)「カバー」は,「少なくとも一部が前記発光素子側と前記受光素子側とに分断されている」ものであるが,本件特許明細書の「【0031】本発明に係る生体センサでは,カバーが,発光素子側と受光素子側とに完全に分断されていることが好ましい。」との記載に照らし,完全に分断されることを包含するものと解される。
これを踏まえると,先願明細書記載の発明1の「(e) 光透過性を有し,前記受光素子を覆うように,前記第1導光部材とは離間して設けられた第2導光部材」は,本件発明9の「前記カバーは,少なくとも一部が前記発光素子側と前記受光素子側とに分断されている」ことに相当する。

キ 本件発明9の(H)の特定事項について
先願明細書記載の発明1の「生体センサー」は,本件発明9の「(H)生体センサ」に相当する。

ク 小括
以上のことを総合すると,両発明の間には,次の(一致点)並びに(相違点1)及び(相違点2)がある。

(一致点)
(A) 配線基板と,
(B) 前記配線基板の主面に,所定の間隔を空けて配置される発光素子及び受光素子と,
(C) 前記配線基板の主面に形成され,前記発光素子を封止する透光性を有する発光素子封止部と,
(D) 前記配線基板の主面に形成され,前記受光素子を封止する透光性を有する受光素子封止部と,
(F) 前記配線基板と平行に設けられる透光性を有するカバーと,を備え,
(G) 前記カバーは,少なくとも一部が前記発光素子側と前記受光素子側とに分断されていることを特徴とする
(H) 生体センサ。

(相違点1)
本件発明9が「(E) 前記発光素子封止部と前記受光素子封止部との間に設けられる遮光部」を有するのに対して,先願明細書記載の発明1では係る事項を具備していない点。

(相違点2)
透光性を有するカバーが,本件発明9では「前記遮光部を介して」設けられているのに対して,先願明細書記載の発明1では,遮光部を介して設けられていない点。

(3)検討
ア 先願明細書記載の発明1について
(ア) 先願明細書記載の発明1の背景
甲2には,「生体センサーを構成する発光素子と受光素子とは,物理的に異なる素子であるので,互いに離間した状態で配置せざるを得ない。この状態において発光素子からの光が受光素子に直接入射してしまうと,直接入射光は,生体情報を反映した光に対してノイズとなってしまう。」((甲2イ)の【0002】)という課題が記載されている。
その対策として,従来の技術では,次の(i)と(ii)の手段が用いられていた。
(i)「発光素子と受光素子とを光遮蔽性を有するホルダーによって隔てて収納する」((甲2イ)の【0002】)
(ii),特許文献1のような「生体センサーの密着性を向上させるために被験者との接触面に板状の透明板を設ける技術」(甲2イ)

(イ) 先願明細書記載の発明1の解決しようとする課題
「発光素子からの光が受光素子に直接入射してしまうと,直接入射光は,生体情報を反映した光に対してノイズとなってしまう。」((甲2イ)の【0002】)という課題に対応する従来の技術の上記(ii)の対策には「生体情報を反映した光は,例えば血管内の血液によって反射した光であるために,照射した光に対して微弱である。このため,被験者との接触面に透明板を設けた技術では,発光素子から射出された光の一部が透明板の内部反射によって受光素子に入射し,微弱な光成分を精度良く検出することができない,という問題があった。」((甲2イ)の【0004】)とされ,上記課題を完全に解決できていないという問題があったことが理解される。

(ウ)先願明細書記載の発明1の課題を解決するための手段
上記(ii)の対策に内在する上記解決しようとする課題を解決するために「本発明によれば,発光素子を覆う第1導光部材と受光素子を覆う第2導光部材とは互いに離間して設けられるので,発光素子から受光素子に直接入射してノイズとなる成分が抑えられる。」((甲2イ)の【0005】)ことが理解される。

イ 相違点1について
発光素子から漏れた光が受光素子に直接入射すると正確な測定ができないことは自明なことであり,これを解決するため,発光素子と受光素子との間に遮光部材を設けることは本件特許の出願の優先日前から周知技術となっている。
例えば,甲2においても,従来の技術として上記(i)の「発光素子と受光素子とを光遮蔽性を有するホルダーによって隔てて収納する」((甲2イ)の【0002】)が示されているところであるし,また,甲3に記載のように,「血流速度等を測定することが可能な自発光型センサ装置」(甲3イ)のような生体センサーにおいても,「前記基板上における前記照射部及び前記受光部間に設けられており,前記照射部及び前記受光部間を遮光する遮光部を更に備え」(甲3ア)られているものも知られている。

甲2には,上記(i)の周知技術が明記されているところ,「発光素子からの光が受光素子に直接入射してしまうと,直接入射光は,生体情報を反映した光に対してノイズとなってしまう。」((甲2イ)の【0002】)という課題を解決するという先願明細書記載の発明1の課題と,軌を一にする課題の下で,先願明細書記載の発明1において,上記(i)の周知技術を付加し,相違点1に記した本件発明9の特定事項のごとくした発明も,先願明細書に記載されていると当業者であれば認識できるところである。
よって,相違点1は課題解決のための具体は手段における微差にすぎない。

ウ 相違点2について
本件発明9の「カバー」は,「(F) 前記遮光部を介して前記配線基板と平行に設けられる」ものである。
「遮光部を介」するのだから,カバーは,下方にある遮光部の上を覆うように設けられていると解されるし,本件特許明細書の【図1】,【図2】,【図4】,【図5】,【図9】,【図11】,【図13】及び【図15】に記載のいずれも,そのように設けられていることからも明らかである。

他方,先願明細書記載の発明1は,
「(d) 光透過性を有し,前記発光素子を覆うように設けられた第1導光部材と,
(e) 光透過性を有し,前記受光素子を覆うように,前記第1導光部材とは離間して設けられた第2導光部材」
を有するものであり,第1導光部材及び第2導光部材は各々独立して発光素子及び受光素子を覆っているものである(【図6】(甲2オ)参照) 。
上記「イ 相違点1について」で検討したように,先願明細書記載の発明1に上記(i)の周知技術を付加した場合,【図6】(甲2オ)の第1導光部材及び第2導光部材の間に遮光部が設けられるだけであり,第1導光部材及び第2導光部材は遮光部を覆うように設けられることはない。

そうすると,先願明細書記載の発明1に上記のように周知技術を付加したとしても,第1導光部材及び第2導光部材は遮光部を介して設けられることとにはならないし,該部材が遮光部を介して設けられることが甲2の先願明細書に記載されていると当業者が認識することもできないから,両発明は相違点2において相違することは明白であって,本件発明9は,先願明細書記載の発明1と同一であるとはいえない。

エ 小括
したがって,本件発明9ついての特許を,特許法第29条の2の規定により,取り消すことはできない。

3 本件発明11について
請求項9を引用する本件発明11は,本件発明9をさらに限定した発明であるから,上記と同様の理由で甲2の先願明細書記載の発明1と同一であるとはいえず,本件発明11についての特許を,特許法第29条の2の規定により,取り消すことはできない。

4 本件発明15について
(1) 本件発明15の特定事項
本件発明15の特定事項を下記のように符号を付して分説して整理する。その際,符号は本件発明9と一致する特定事項については同じ(A)?(E)及び(H)を付し,本件発明9にない特定事項については,(F’),(I)及び(J)という符号を付すこととした。
「【請求項15】
(A) 配線基板と,
(B) 前記配線基板の主面に,所定の間隔を空けて配置される発光素子及び受光素子と,
(C) 前記配線基板の主面に形成され,前記発光素子を封止する透光性を有する発光素子封止部と,
(D) 前記配線基板の主面に形成され,前記受光素子を封止する透光性を有する受光素子封止部と,
(E) 前記発光素子封止部と前記受光素子封止部との間に設けられる遮光部と,
(F’) 前記遮光部を介して前記配線基板と平行に設けられる透光性を有する基材と,
(I) 前記基材と,前記遮光部,及び/又は,前記発光素子封止部,前記受光素子封止部との間に設けられ,前記基材と,前記遮光部,及び/又は,前記発光素子封止部,前記受光素子封止部とを接着する透光性を有する接着層と,を備え,
(J) 前記接着層は,少なくとも一部が前記発光素子側と前記受光素子側とに分断されていることを特徴とする
(H)生体センサ。」

(2) 甲2(先願明細書)記載の発明
先願明細書記載の発明1に,甲2の(甲2ウ)の【0024】に付した下線の記載を(f)及び(g)として加えて整理すると,甲2の公開特許公報に係る出願の願書に最初に添付された明細書又は図面には,次の発明(以下,「先願明細書記載の発明2」という。)が記載されていると認められる。
「(a) 基板の一方の面に形成され,前記基板とは反対側の生体に向けて光を照射する発光素子と,
(a-1) ここで,前記発光素子は,前記基板から向かって順に,第1電極層,発光層,第2電極層および第1封止層を少なくとも含んだ積層体で構成され,
(a-2) 前記第1封止層は,酸素や水分の侵入による発光素子が劣化するのを防ぐ光透過性を有する例えば硬質のシリコン酸窒化膜(SiON)で形成され,発光素子の前記積層構造を覆うように設けられ,
(b) 前記基板の一方の面に前記発光素子と離間して形成され,前記生体からの光を受光して,当該受光に応じた信号を出力する受光素子と,
(b-1) ここで,前記受光素子は,前記基板から向かって順に,第3電極層,受光層,第4電極層および第2封止層を少なくとも含んだ積層体で構成され,
(b-2) 前記第2封止層は,酸素や水分の侵入による受光素子が劣化するのを防ぐ光透過性を有する例えば硬質のシリコン酸窒化膜(SiON)で形成され,受光素子の前記積層構造を覆うように設けられ,
(c) 前記発光素子と前記受光素子は,基板上の同じ面に設けられ,
(d) 光透過性を有し,前記発光素子を覆うように設けられた第1導光部材と,
(e) 光透過性を有し,前記受光素子を覆うように,前記第1導光部材とは離間して設けられた第2導光部材と,
(f) 内面25bが発光素子24の外形に合わせた形状となるように加工された第1導光部材25は,当該第1導光部材25に近い屈折率を有する接着剤によって発光素子24の全体を覆うように基板22に接着され,
(g) 内面27bが受光素子26の外形に合わせた形状となるように加工された第2導光部材27は,当該第2導光部材27に近い屈折率を有する接着剤によって受光素子26の全体を覆うように基板22に接着される
ことを具備することを特徴とする生体センサー。」

(3) 本件発明15と先願明細書記載の発明2との対比
ア 本件発明15の(A)?(D) の特定事項について
上記「第6 2(2) 本件発明9と先願明細書記載の発明1との対比」のア?エに記したように,本件発明15の(A)?(D) の特定事項は先願明細書記載の発明2も具備するものである。

イ 本件発明15の(F’)の特定事項について
先願明細書記載の発明2の「第1導光部材」及び「第2導光部材」は,本件発明15の「透光性を有する基材」に相当する。

そして,先願明細書記載の発明2の「(d) 光透過性を有し,前記発光素子を覆うように設けられた第1導光部材」及び「(e) 光透過性を有し,前記受光素子を覆うように,前記第1導光部材とは離間して設けられた第2導光部材」と,本件発明15の「(F’)前記遮光部を介して前記配線基板と平行に設けられる透光性を有する基材」とは,「前記配線基板と平行に設けられる透光性を有する基材」という点で共通する。

ウ 本件発明15の(I)の特定事項について
先願明細書記載の発明2の「(f)・・・第1導光部材25に近い屈折率を有する接着剤」及び「(g)・・・当該第2導光部材27に近い屈折率を有する接着剤」は,屈折率を有するから透光性を有することは自明なことであって,本件特許発明の「透光性を有する接着層」に相当する。

先願明細書記載の発明2の「発光素子」は,甲2の【図5】(甲2エ)からみても明らかなように最も外側を「第1封止層」で被覆されている。
また,先願明細書記載の発明2の「受光素子」も最も外側を「第2封止層」で被覆されている。
先願明細書記載の発明2の「(f)・・・第1導光部材25は,当該第1導光部材25に近い屈折率を有する接着剤によって」「第1封止層」で被覆された,「発光素子24の全体を覆うように基板22に接着」
されること,及び
先願明細書記載の発明2の「(g)第2導光部材27は,当該第2導光部材27に近い屈折率を有する接着剤によって」「第2封止層」で被覆された,「受光素子26の全体を覆うように基板22に接着される」
ことは,本件発明15の
「(I) 前記基材と,前記発光素子封止部,前記受光素子封止部との間に設けられ,前記基材と,前記発光素子封止部,前記受光素子封止部とを接着する透光性を有する接着層」に相当する。

以上のことを総合すると,両発明の間には,次の相違点3及び相違点4があり,その他の点で一致する。

(相違点3)
本件発明15が「(E) 前記発光素子封止部と前記受光素子封止部との間に設けられる遮光部」を有するのに対して,先願明細書記載の発明2では係る事項を具備していない点。

(相違点4)
透光性を有する基材が,本件発明15では「前記遮光部を介して」設けられているのに対して,先願明細書記載の発明2では,遮光部を介して設けられていない点。

(4) 検討
ア 相違点3について
上記「第6 2(3)イ 相違点1について」で述べたのと同じ理由で,相違点3は課題解決のための具体は手段における微差にすぎない。

イ 相違点4について
本件発明15の「基材」は,「遮光部を介」するのだから,下方にある遮光部の上を覆うように設けられていると解される。

上記「第6 2(3)ウ 相違点2について」で述べた理由と同様の理由で,先願明細書記載の発明2に上記(i)の周知技術を付加して遮光部を設けたとしても,第1導光部材及び第2導光部材は遮光部を介して設けられることとはならないし,該部材が遮光部を介して設けられることが甲2の先願明細書に記載されていると当業者が認識することもできないから,両発明は相違点4において相違することは明白であって,本件発明15は,先願明細書記載の発明2と同一であるとはいえない。
よって,本件発明15についての特許を,特許法第29条の2の規定により,取り消すことはできない。

第7 結語
上記のとおりであるから,本件発明8,本件発明12及び本件発明13並びに本件発明9,本件発明11及び本件発明15の特許は,特許異議申立理由および証拠によっては取り消すことはできない。
また,他に本件発明8,本件発明12及び本件発明13並びに本件発明9,本件発明11及び本件発明15の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2015-12-17 
出願番号 特願2013-529860(P2013-529860)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (A61B)
P 1 652・ 161- Y (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 湯本 照基  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 郡山 順
藤田 年彦
登録日 2015-02-13 
登録番号 特許第5692389号(P5692389)
権利者 株式会社村田製作所
発明の名称 生体センサ  
代理人 上田 和弘  

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