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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1311877
異議申立番号 異議2015-700352  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-24 
確定日 2016-03-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第5739383号「易裂性延伸フィルム,易裂性ラミネートフィルム,易裂性袋,及び易裂性延伸フィルムの製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 特許第5739383号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5739383号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は,平成18年6月26日(優先権主張 平成17年6月27日)に出願された特願2006-175776号の一部を新たな特許出願として平成24年7月24日に特許出願され,平成27年5月1日に特許の設定登録がされ,平成27年12月24日にその特許に対し,特許異議申立人野中恵から特許異議の申立てがされたものである。



第2 本件発明

特許第5739383号の請求項1ないし4に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものである。
以下,特許第5739383号の請求項1ないし4に係る発明を,それぞれ,本件発明1ないし4という。



第3 異議申立の概要

特許異議申立人野中恵は,証拠として特許第2876675号公報(以下,「刊行物1」という。),眞田隆ほか「リアクティブプロセッシング技術による高性能高分子材料の構造制御と構造解析」(住友化学,2003-II)(以下,「刊行物2」という。),大浦純一ほか「ナイロン6/芳香族ポリアミドブレンドフィルムの力学物性と構造」(高分子論文集,Vol.53,No.7,pp.453-460,1996年7月)(以下,「刊行物3」という。)及びM.Takashige,et al“Easy Tear Film of Biaxially Oriented PA6/MXD6 Blend by Double Bubble Tubular Film Process”(International Polymer Processing XIX(2004)2,May 2004)(以下,「刊行物4」という。)を提出し,請求項1ないし4に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから,取り消すべきものである旨主張している。



第4 刊行物の記載及び刊行物に記載された発明

1.刊行物1に記載された発明
刊行物1の【請求項1】には,次の発明(以下,「刊行物1発明」という。)が記載されている。

「ナイロン-6 97?75(重量)%,およびメタキシリレンジアミンと,もしくはメタキシリレンジアミンおよび全量の30%以下のパラキシリレンジアミンを含む混合キシリレンジアミンと,炭素数6?10のα,ω脂肪族ジカルボン酸の1種以上からなるジカルボン酸とから得られる構成単位を分子鎖中に少なくとも70モル%以上含有するポリアミド3?25(重量)%とを含有する混合ポリアミドからなる二軸延伸混合ポリアミドフイルムの屈折率Nzの値が,下式範囲内である,接着性に優れたポリアミドフイルム。
8.15×10^(-4)x+1.5050≦Nz≦
8.15×10^(-4)x+1.5092
x;ナイロン-6中のMXD-6の配合比(重量)%」

2.刊行物2?4の記載
刊行物2には,非相溶系ポリマーアロイを相溶化するために種々の相溶化剤が開発検討されてきており,AポリマーとBポリマーの混合において,A-Bブロックコポリマーが典型的な例であることが記載されている。
刊行物3には,ナイロン6(Ny6)と芳香族ポリアミドであるポリメタキシレンアジパミド(MXD)の両成分の融点以上の高温で数十分から数時間の熱処理を行うことによって,分子鎖中のアミド基の切断・再結合が起こり,試料の一部またはほぼ全体がコポリマー化することが記載されている。
刊行物4には,ポリメタキシレンアジパミド(MXD)の融点が238℃であり,PA6とMXD6との混合系の溶融混練のレベルを変化させることによりMDXの融点233?238℃において引張応力との関係が示されており,MXD6の融点が236.6℃のときに得られたフィルムの直線カット性が良好であることが記載されている。



第5 対比・判断

1.本件発明1について
(1)刊行物1発明との対比・判断
ア 本件発明1と刊行物1発明とを対比すると,刊行物1発明の「ナイロン-6」は,本件発明1の「ナイロン6(以後,Ny6という)」に相当し,以下同様に,「メタキシリレンジアミンと,もしくはメタキシリレンジアミンおよび全量の30%以下のパラキシリレンジアミンを含む混合キシリレンジアミンと,炭素数6?10のα,ω脂肪族ジカルボン酸の1種以上からなるジカルボン酸とから得られる構成単位を分子鎖中に少なくとも70モル%以上含有するポリアミド」は「メタキシリレンアジパミド(以後,MXD6という)」に,それぞれ相当し,両者の配合割合も重複一致する部分を包含する。
そして,刊行物1発明の「二軸延伸混合ポリアミドフイルム」は,本件発明1の「延伸フィルム」に相当する。

イ そうすると,本件発明1と刊行物1発明とは,
「ナイロン6と,メタキシリレンアジパミドとを原料として含む延伸フィルムであって,
前記原料は,Ny6が60?85質量部,MXD6が15?40質量部からなるバージン原料を含む,
延伸フィルム。」の点で一致し,以下の相違点1及び2で相違する。
[相違点1]
本件発明1は,「Ny6及びMXD6を溶融混練して,MXD6の融点を233?238℃とした熱履歴品」を含み,「前記熱履歴品におけるNy6とMXD6の配合割合は,Ny6:MXD6=60?85質量部:15?40質量部」であり,「前記熱履歴品の含有量が前記原料全量基準で5?40質量%」であると特定しているのに対し,刊行物1発明は,そのような事項を特定していない点。
[相違点2]
延伸フィルムについて,本件発明1は,「易裂性」と特定しているのに対し,刊行物1発明は,そのような事項を特定していない点。

ウ 以下,相違点1について検討する。
(ア)相違点1に係る構成の本件発明1における技術的意義は,本件の特許明細書の記載(段落【0005】及び実施例と比較例との対比)からみて,優れた直線カット性を有すると共に,延伸フィルム層において層内剥離を引き起こすことがないというものであり,これらの要件を全て満たすことで,延伸成形性,衝撃強度,直線カット性,層内剥離防止効果及び引裂強度のいずれについても優れていることであると理解される。
(イ) 他方,刊行物1には,「屈折率Nz,すなわちフイルムの厚さ方向の配向を向上させる事により,フイルムの凝集力が向上し,結果的にラミネート加工した際フイルム表面で発生する,凝集破壊が防止され,接着強度が向上するのである。」(4欄4?8行)と記載されているものの,層内剥離防止については記載も示唆もされていない。
(ウ) そうすると,刊行物1発明において,層内剥離を防止するという課題を認識し,かかる課題を解決しようとする動機があるとはいえない。
(エ) 本件発明1における相違点1に係る効果は,上記(ア)で述べたとおり,優れた直線カット性を有すると共に,延伸フィルム層において層内剥離を引き起こすことがないというものであり,そのような効果は,たとえ当業者であっても予測し得るものではない。
(オ) 仮に,刊行物1における「凝集破壊」が本件発明1における「層内剥離」と同じことを意味するものであるとしても,刊行物1発明においては,かかる凝集破壊を防止するために,屈折率Nz,すなわちフイルムの厚さ方向の配向を向上させる事により解決するものであって,当該屈折率Nzを所定範囲とするための具体的な解決手段として,刊行物1には,「この製膜工程の中でNzは,縦あるいは横倍率,熱固定温度等によりコントロールする事が出来る。」(4欄11?13行)と記載されているのであって,熱履歴品を含有させるという本件発明1の解決手段については記載も示唆もされていない。
(カ) そうである以上,たとえ,刊行物2?4に,第4 2.で述べたような技術の開示があったとしても,屈折率Nzを所定範囲とするための具体的な解決手段として,刊行物1に記載された解決手段に代えて,あるいはさらに加えて,刊行物2?4に開示の技術を刊行物1発明に組み合わせる動機がないことから,相違点1に係る構成とすることは,たとえ当業者であっても到底容易であるとはいえない。
(キ) 相違点1についてのまとめ
以上のとおりであるから,相違点1は想到容易とはいえない。

エ 小括
以上のとおり,本件発明1は刊行物1発明と相違点1及び2において相違するものであり,これらの相違点のうち相違点1は想到容易とはいえないのであるから,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,刊行物1発明及び刊行物2?4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本件発明2及び3について
本件発明2及び3は,本件発明1に係る易裂性延伸フィルムを直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから,本件発明1と同様に,刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本件発明4について
本件発明4は,概略,本件発明1に係る原料をMD方向(フィルムの移動方向)及び/又はTD方向(フィルムの幅方向)に2.8倍以上の延伸倍率で延伸してなる易裂性延伸フィルムの製造方法に係るものである。
そうすると,仮に,刊行物1において,刊行物1発明に係る「二軸延伸混合ポリアミドフイルム」の製造方法に係る発明を認定できたとしても,本件発明4と当該認定された発明との対比において,上記相違点1と同じような相違点が存在するといえ,かかる相違点は,上記1.ウで述べたとおり,想到容易とはいえない。
したがって,本件発明4は,本件発明1と同様に,刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。



第7 むすび

以上のとおりであるから,特許異議申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-03-07 
出願番号 特願2012-163837(P2012-163837)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩田 行剛  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 田口 昌浩
小野寺 務
登録日 2015-05-01 
登録番号 特許第5739383号(P5739383)
権利者 出光ユニテック株式会社
発明の名称 易裂性延伸フィルム、易裂性ラミネートフィルム、易裂性袋、及び易裂性延伸フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人樹之下知的財産事務所  

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