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審判番号(事件番号) データベース 権利
判定2014600031 審決 特許
判定2015600021 審決 特許
判定2016600042 審決 特許
判定2016600027 審決 特許
判定2015600032 審決 特許

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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A23L
管理番号 1311888
判定請求番号 判定2015-600034  
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2016-04-28 
種別 判定 
判定請求日 2015-10-29 
確定日 2016-03-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第5130396号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書に示す「伊右衛門 麦茶 500ml」は、特許第5130396号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号説明書に示す「伊右衛門 麦茶 500ml」(以下「イ号製品」という。)は、特許第5130396号発明(請求項1)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、構成要件毎(以下「構成要件A」等という。)に分説すると次のとおりである。

(本件特許発明)
A デンプン量とβグルカン量とを合わせた多糖類量(mg/100mL)が80?220であり、
B マルトース量(mg/L)が1.00?4.00であり、
C 麦由来可溶性固形分(%)が0.25?0.70であり、
D 懸濁固形物の平均粒子径が10.0μm未満である
E 容器詰麦茶飲料。

3 当事者の主張
(1) 請求人
ア イ号製品
請求人は、判定請求書添付「イ号説明書」において、イ号製品の分析結果(甲4、7、8、10号証)に基づき、イ号製品を次のとおり特定している。

商品名:伊右衛門 麦茶
内容量:500ml
構成:
a.デンプン量とβグルカン量とを合わせた多糖類量が91 mg/100mLであり、
b.マルトース量が2.7mg/Lであり、
c.麦由来可溶性固形分が0.38%であり、
d.懸濁固形物の平均粒子径が10.0μm未満である
e.ペットボトル詰麦茶飲料。

イ 充足性
イ号製品の構成a?eは、本件特許発明の構成要件A?Eを充足する。

(2) 被請求人
ア 理由1
(ア) イ号製品
a 主張立証
請求人が測定数値に関する書面等として提出するのは自らが作成した甲4号証、甲7号証及び甲8号証のみである。甲4号証は、「検体名:サントリー伊右衛門麦茶」と、甲7号証は、パソコンの画面の写真であるが、表に「伊右衛門麦茶2016年06月/T×1/10-1」と、甲8号証は、サンプル名を請求人が手書きにて「伊右衛門右茶2016年06月/T」と、それぞれ記載しているにすぎず、測定対象が何であるのかの事実は客観的に立証されていない。
b 測定値
デンプン量、マルトース量などの測定結果は、イ号説明書には、どのように算出されたものであるかが示されておらず、そのような数値に基づいて「技術的範囲に属する」との認定は為しえない。
c 麦由来可溶性固形分
イ号製品には、ビタミンCなど他の成分が添加されており、イ号製品のBriX値を測定した場合にはそれら他の成分量による固形分量も含まれた測定値が得られる。つまり、容器詰麦茶飲料の麦由来可溶性固形分の含量を特定している構成要件Cの充足性をイ号製品のBrix値で判断することができず、そのような数値に基づいて「技術的範囲に属する」との認定は為しえない。

イ 理由2
被請求人の分析によれば、イ号製品は、本件特許発明の構成要件Aを充足せず、本件特許発明の技術的範囲に属しない(乙1号証)。

4 当審の判断
(1) 本件特許発明の用語について
ア 本件特許発明の構成要件C及びDに係る「麦由来可溶性固形分(%)」及び「懸濁固形物の平均粒子径」について、本件特許明細書には、以下の記載がある。
(ア) 「・・・なお、麦由来可溶性固形分とは、原料麦から抽出して得られた抽出液の可溶性固形分をショ糖換算したときの値をいう。」(段落【0019】)
(イ) 「本容器詰麦茶飲料は、懸濁固形物の平均粒子径が10.0μm未満である。
この範囲であることにより、残粒感やえぐ味などを調整することができる。
かかる観点から、懸濁固形物の平均粒子径は、好ましくは0を超え5.0μm未満、特に好ましくは0を超え2.50μm未満である。また、下限値は、特に限定するものではないが、好ましくは0.001μm以上である。」(段落【0021】)
(ウ) 「なお、本発明における懸濁固形物とは、多糖類、たんぱく質などからなる不溶性固形分や、麦の炭化物、および抽出残渣などを示す。」(段落【0022】)
(エ) 「なお、上記各成分量、麦由来可溶性固形分の測定は、例えば、後述の実施例で示す測定方法により測定することができる。
また、平均粒子径は、例えば、レーザ回折・散乱法による粒子分布測定により測定することができる。」(段落【0047】)
(オ) 「<麦由来可溶性固形分>
麦由来可溶性固形分(%)は、示差濃度計『DD-7』(アタゴ社製)で測定した。」(段落【0079】)
(カ) 「<平均粒子径>
平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置『SALD2100』(島津製作所製)で測定した。」(段落【0080】)

イ 以上の記載によれば、次のことがわかる。
まず、本件特許発明における「麦由来可溶性固形分(%)」とは、「原料麦から抽出して得られた抽出液の可溶性固形分をショ糖換算したときの値」であって、「示差濃度計『DD-7』(アタゴ社製)」で測定できるものである。
次に,本件特許発明における「懸濁固形物」とは、「多糖類、たんぱく質などからなる不溶性固形分や、麦の炭化物、および抽出残渣などを示」し、その「平均粒子径」は、「レーザ回折式粒度分布測定装置『SALD2100』(島津製作所製)」で測定できるものである。
そうすると、イ号製品の属否の判断は、麦由来可溶性固形分(%)については、示差濃度計で測定されたイ号製品の値と本件特許発明の「0.25?0.70」とを比較することにより、また、懸濁固形物の平均粒子径については、レーザ回折式粒度分布測定装置で測定されたイ号製品の値と本件特許発明の「10.0μm」とを比較することにより行うことができるものである。

(2) イ号製品
ア イ号製品は、商品名が「伊右衛門 麦茶」であるペットボトルに詰められた麦茶飲料であって(甲1号証、甲3号証)、原材料が大麦、発芽大麦、ビタミンC、内容量が500mlのものである(甲3号証)。
そして、甲3号証?甲11号証からみて、請求人が分析を行ったイ号製品は、「伊右衛門 麦茶」(賞味期限:2016年6月/T)1本(以下「イ号検体」という。)のみであるので、以下においては、イ号製品の一製品であるイ号検体を特定する。
また、請求人は、測定に用いた機器・条件について主張するが(イ号説明書「(1)分析測定方法について(1-3)測定に用いた機器・条件」の欄。)、甲5号証ないし甲10号証によると、イ号検体のデンプン量は、本件特許明細書の段落【0073】に、同じくβグルカン量は、本件特許明細書の段落【0074】に、同じくマルトース量は、本件特許明細書の段落【0075】?【0078】に、同じく麦由来可溶性固形分は、本件特許明細書の段落【0079】に、同じく懸濁固形物の平均粒子径は、本件特許明細書の段落【0080】に記載のとおり測定されたものと認められる。

イ 分析試験報告書(甲4号証)には、「サントリー伊右衛門麦茶」についての分析結果として、「デンプン」、「βグルカン」が、それぞれ「90」、「1.3」(mg/100ml)とされていることからみて、イ号検体の「デンプン量」が「90mg/100ml」、「βグルカン量」が「1.3mg/100ml」と認められる。
また、マルトース量については、甲7号証によると、「同一製品から得た3サンプルを用い、各1回ずつ実施した。
その結果、マルトース量(mg/L)は、2.889(サンプル1)、2.672(サンプル2)、2.616(サンプル3)との結果が得られ、平均2.7 mg/Lと算出された。」(イ号説明書4ページ11?15行)ものといえ、イ号検体のマルトース量は、「2.7mg/L」と認められる。
さらに、麦由来可溶性固形分について、甲8号証及び甲9号証によると、「アタゴ社製の測定機(DD-7)を用いて測定した。」(イ号説明書3ページ9行)ものであり、「Brix値(%、麦由来可溶性固形分に相当)は、0.379 % (1回目)、0.378%(2回目)、0.385%(3回目)、0.380%(4回目)、0.379%(5回目)との結果が得られ、平均0.38 %と算出された。」(イ号説明書4ページ下から6行?下から3行)ものといえ、イ号検体のアタゴ社製の測定機(DD-7)を用いて測定したBrix値は、0.38%と認められる。
また、甲10号証は、「レーザ回折式粒度分布測定装置にプリンターを接続して出力した結果」(イ号説明書5ページ12?13行)であって、懸濁固形物の相対粒子量について、甲10号証には、「Shimadzu SALD-2300」及び「平均径4211.844」と記載され、また、粒子径2500.000?0.017μmのすべてにおいて、積算%、頻度%が0.000%であることが記載されていることからみて、イ号検体の懸濁固形物のレーザ回折式粒度分布測定装置「Shimadzu SALD-2300」(島津製作所製)での測定結果が、「懸濁固形物の相対粒子量が測定範囲である粒子径2500.000?0.017μmのすべてにおいて、積算%、頻度%が0.000%であり、平均径が4211.844μmである」と認められる。

ウ 以上によれば、イ号検体は、構成要件毎(以下「構成要件a」等という。)に分説すると次のとおりである。

「a.デンプン量が90mg/100ml、βグルカン量が1.3mg/100mlであり、
b.マルトース量が2.7mg/Lであり、
c.示差濃度計「DD-7」(アタゴ社製)で測定した、Brix値が0.38%であり、
d.懸濁固形物のレーザ回折式粒度分布測定装置「Shimadzu SALD-2300」(島津製作所製)での測定結果が、相対粒子量が測定範囲である粒子径2500.000?0.017μmのすべてにおいて、積算%、頻度%が0.000%であり、平均径が4211.844μmである、
e.ペットボトル詰麦茶飲料。」

(3) イ号検体の充足性
ア 構成要件Aについて
イ号検体の構成aからすると、デンプン量(90mg/100ml)とβグルカン量(1.3mg/100ml)とを合わせた多糖類量(mg/100ml)は、91.3mg/100mlとなり、本件特許発明の構成要件Aを充足する。
したがって、イ号検体は構成要件Aを充足する。

イ 構成要件Bについて
イ号検体の構成bからすると、本件特許発明の構成要件Bを充足する。
したがって、イ号検体は構成要件Bを充足する。

ウ 構成要件Cについて
イ号検体は、「麦由来」以外の「可溶性固形分」として、イ号検体の原材料からみて、ビタミンCを含んでいる(甲3号証)。
しかしながら、イ号検体は、ビタミンCが増強等のために多量に添加された容器詰麦茶飲料であるとは、甲3号証からは認めることはできず、ビタミンCの添加は酸化防止等の容器詰飲料の通常の目的で加えられていると認められるので、イ号検体の構成cの「Brix値が0.38%」は、おおよそ麦由来可溶性固形分に基づくものといえ、また、その値も構成要件Cの上下限値からかなり余裕のある値であるので、本件特許発明の構成要件C「麦由来可溶性固形分(%)が0.25?0.70であり」を充足するものといえる。
したがって、イ号検体は構成要件Cを充足する。

エ 構成要件Dについて
懸濁固形物を定義する「本発明における懸濁固形物とは、多糖類、たんぱく質などからなる不溶性固形分や、麦の炭化物、および抽出残渣などを示す。」(上記記載事項(ウ))との記載からみて、イ号検体の「デンプン量が90mg/100ml、βグルカン量が1.3mg/100ml」であることから、イ号検体が懸濁固形物を含むといえ、また、イ号検体には、「・お茶の成分が浮遊・沈殿する場合があります。品質には問題ありませんので、よくふってお飲みください。」(甲3号証)と注意書きがなされていることからも、イ号検体が懸濁固形物を含んだものであることは常識的に明らかといえるので、イ号検体の懸濁固形物のレーザ回折式粒度分布測定装置「Shimadzu SALD-2300」(島津製作所製)での測定結果が、「相対粒子量が測定範囲である粒子径2500.000?0.017μmのすべてにおいて、積算%、頻度%が0.000%」であることは不自然であり、さらに、平均径の「4211.844μm」は明らかに異常値であるといえるので、結局、イ号検体中に懸濁固形物の平均粒子径を特定することができない。
そうすると、イ号検体が、構成要件Dの「懸濁固形物の平均粒子径が10.0μm未満である」ことを充足するものとすることはできない。
したがって、イ号検体は構成要件Dを充足するものとはいえない。
なお、請求人は、懸濁固形物の平均粒子径の測定結果について、「サンプル中の懸濁固形物の粒子径が小さすぎるか、または濃度が低すぎるため、相対粒子量が積算%、頻度%において0.000%との結果が得られた。」(イ号説明書5ページ9?11行)と主張しているが、懸濁固形物の粒子径がすべてレーザ回折式粒度分布測定装置「Shimadzu SALD-2300」(島津製作所製)の測定限界値の0.0017μm以下であることや、懸濁固形物の濃度が低いことが具体的に立証されていなく、上記主張は、単なる推測にすぎず、採用できない。

オ 構成要件E
イ号検体の構成eからすると、本件特許発明の構成要件Eを充足する。
したがって、イ号検体は構成要件Eを充足する。

以上のとおり、イ号検体の構成が本件特許発明の構成要件を充足しないから、文言上、イ号検体は本件特許発明の技術的範囲に属しない。

(4) イ号検体以外のイ号製品の充足性
ア イ号検体以外のイ号製品についても、構成要件Dの充足を立証する証拠はないことより、構成要件Dを充足するものとすることはできない。

イ 上記「(3)ア」のとおり、イ号検体が充足するとされた構成要件Aについて、イ号検体以外のイ号製品についても充足するといえるかを以下に検討する。
本件特許発明の構成要件Aのデンプン量についてみると、被請求人による、イ号製品(イ号検体とは異なるものである。)に係るデンプン量の分析結果0.04g/100ml(40mg/100ml)(乙1号証)と、請求人による、イ号検体の90mg/100ml(イ号説明書3ページ下から4行)との間には大きな差があるなど、イ号製品のデンプン量の数値には製品によって相当程度のばらつきがあると解する余地がある。
また、麦茶飲料において、デンプン量とβグルカン量とを合わせた多糖類量に対するデンプン量の割合は、極めて大きく(イ号検体:99%(=90/(90+1.3))、本件特許明細書の実施例1?16、比較例1?14
:81?98%)、βグルカン量を考慮したとしても、イ号検体1本の分析結果のみをもって、イ号製品が構成要件Aを充足するとすることはできない。

ウ 以上のことから、イ号検体以外のイ号製品は、少なくとも本件特許発明の構成要件A及びDを充足しないことは明らかである。

5 むすび
以上のとおり、イ号製品は本件特許発明の構成要件A及びDを充足しないから、イ号製品は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2016-03-01 
出願番号 特願2011-261050(P2011-261050)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名和 大輔  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 山崎 勝司
紀本 孝

登録日 2012-11-09 
登録番号 特許第5130396号(P5130396)
発明の名称 容器詰麦茶飲料  
代理人 山本 修  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  
代理人 田岡 洋  

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