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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1312306
審判番号 不服2013-19399  
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-04 
確定日 2016-03-09 
事件の表示 特願2009-525652「薬物動態が改善された化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月28日国際公開、WO2008/024494、平成22年 1月21日国内公表、特表2010-501577〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は,2007年8月23日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2006年8月24日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成24年10月17日付け 拒絶理由通知
平成25年 4月23日 意見書提出・手続補正
平成25年 5月30日付け 拒絶査定
平成25年10月 4日 審判請求・手続補正
平成25年11月21日 手続補正(方式)
平成27年 2月26日付け 審尋
平成27年 9月 3日 回答書提出

第2 平成25年10月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年10月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正

平成25年10月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という)は,本件補正前の請求項1である
「以下の式A:
【化1】

{式中,
R^(1)は,C_(1)-C_(2)アルキルから選ばれ;
R^(2)は,C_(1)-C_(6)アルキル,C_(2)-C_(6)アルケニル及びC_(2)-C_(6)アルキニルから選ばれ,ここで当該C_(1)-C_(6)アルキル,C_(2)-C_(6)アルケニル,及びC_(2)-C_(6)アルキニルは,場合により1又は複数のハロゲン,C_(1)-C_(6)アルコキシ,ヒドロキシ,CN,NO_(2),アミノ,アシルアミノ,アミド,カルボニル,及びアルキルチオで置換されてもよく;
R^(3)は,C_(1)-C_(4)アルキル,C_(2)-C_(6)アルケニル及びC_(2)-C_(6)アルキニルから選ばれ,ここで当該C_(1)-C_(4)アルキル,C_(2)-C_(6)アルケニル,及びC_(2)-C_(6)アルキニルは,場合により1又は複数のハロゲン,C_(1)-C_(6)アルコキシ,ヒドロキシ,CN,NO_(2),アミノ,アシルアミノ,アミド,カルボニル,及びアルキルチオで置換されてもよく;
Aは,N又はC-Hであり;
Bは,N,C-H,C-(SO_(2)-R^(4)),又はC-CO-R^(4)であり;
Dは,N,C-H,C-(SO_(2)-R^(4))又はC-CO-R^(4)であり;
Eは,N又はC-Hであり;
ここで,A,B又はEのうちの1つのみが,Nであってもよく,かつB又はDのうちの1つが,C-(SO_(2)-R^(4))又はC-CO-R^(4)であり;
R^(4)は,以下の式:
-NH-R^(41),
-N(R^(42))(R^(43)),
【化2】

-N(R^(42))_(2);
を有する基であり;
R^(41)は,直鎖C_(3)-C_(6)アルキル,分岐鎖C_(3)-C_(6)アルキル,C_(2)-C_(3)アルキル-OH,-(CH_(2))_(α)-N(H)(R^(51))及び-(CH_(2))_(α)-N(R^(52))(R^(53))から選ばれ;
R^(51)は,C_(4)-C_(6)アルキル,シクロアルキル,シクロアルケニル,アルキル-O-アルキル,アルキル-O-アリール,アルケニル,アルキニル,アラルキル,アリール及び複素環基から選ばれ;
R^(52)及びR^(53)は,それらが結合する窒素と一緒になって,5?7員環を形成し,当該環は環炭素において1又は2のオキソ基で置換され,そして当該環は場合によりさらなるヘテロ原子を含んでもよく,そして場合によりハロ,CN,NO_(2),オキソ,アルキル,シクロアルキル,アルケニル,アルキニル,アラルキル,アリール,及び複素環基から選ばれる最大3の置換基で場合により置換されてもよく,
αが4?6であり;
R^(42)は,直鎖アルキル,分岐鎖アルキル,及びC_(2)-C_(6)アルキル-O-C_(2)-C_(6)アルキルから選ばれ;
R^(43)は,C_(4)-C_(6)アルキル,C_(2)-C_(6)アルキル-NH-アルキル,C_(4)-C_(6)アルキル-O-アルキル,アルキル-CO_(2)H,C_(2)-C_(6)アルキル-CH(O-アルキル)(O-アルキル),C_(2)-C_(6)アルキル-CH_(2)(O-アルキル)-アルキル-O-アルキル,-(CH_(2))α-N(H)(R^(51))及び-(CH_(2))α-N(R^(52))(R^(53))からなる群から選ばれ;
R^(44)は,以下の:-(CH_(2))_(q)-N(R^(12))(R^(13)),-(CH_(2))_(r)-N(R^(11))-(CH_(2))_(S)C(O)R^(14),-(CH_(2))_(q)-C(O)R^(14),-(CH_(2))_(r)-C(O)-(CH_(2))_(s)OR^(11),-(CH_(2))_(r)-C(O)-(CH_(2))_(s)N(R^(12))(R^(13)),及び-(CH_(2))_(r)O-(CH_(2))_(s)-C(O)R^(14)からなる群から選ばれ,
各R^(11)は,独立して,H,アルキル,アルキル-O-アルキル,アルキル-O-アリール,アルケニル,アルキニル,シクロアルキル,シクロアルケニル,アラルキル,アリール及び複素環基から選ばれ;
各R^(12)及びR^(13)は,独立して,H,C_(2)-C_(6)アルキル,シクロアルキル,シクロアルケニル,アルキル-O-アルキル,アルキル-O-アリール,アルケニル,アルキニル,アラルキル,アリール及び複素環基から選ばれるか;又はR^(12)及びR^(13)は,それらが結合する窒素原子と一緒になって5?7員環を形成してもよく,当該環は場合により更なるヘテロ原子を含んでもよく,そしてハロ,CN,NO_(2),オキソ,アルキル,シクロアルキル,アルケニル,アルキニル,アラルキル,アリール,及び複素環基から選ばれる最大3の置換基で場合により置換されてもよく;
各R^(14)は,独立して,H,アルキル,-OH,-O-アルキル,-O-アリール,-O-アラルキル,-アルキル-O-アルキル,-アルキル-O-アリール,アルケニル,アルキニル,シクロアルキル,シクロアルケニル,アラルキル,アリール及び複素環基から選ばれ;
qは,1?6であり;
rは,0?6であり;
sは,0?6であり;
R^(45)は,以下の:-(CH_(2))_(v)-N(R^(25))(R^(26)),-(CH_(2))_(v)-N(R^(21))-(CH_(2))_(w)-C(O)R^(24),-(CH_(2))_(v)-C(O)R^(24),-(CH_(2))_(t)-C(O)-(CH_(2))_(w)OR^(21),-(CH_(2))_(t)-C(O)(CH_(2))_(w)-N(R^(22))(R^(23)),-(CH_(2))_(v)-O-(CH_(2))_(w)-C(O)R^(24)からなる群から選ばれ;
各R^(21)が,独立して,H,C_(5)-C_(6)アルキル,アルキル-O-アルキル,アルキル-O-アリール,アルケニル,アルキニル,シクロアルキル,シクロアルケニル,アラルキル,アリール及び複素環基から選ばれ;
各R^(22)及びR^(23)が,独立して,H,アルキル,シクロアルキル,シクロアルケニル,アルキル-O-アルキル,アルキル-O-アリール,アルケニル,アルキニル,アラルキル,アリール及び複素環基から選ばれるか;又はR^(22)及びR^(23)は,それらが結合する窒素原子と一緒になって5?7員環を形成してもよく,当該環は場合により更なるヘテロ原子を含んでもよく,そしてハロ,CN,NO_(2),オキソ,アルキル,シクロアルキル,アルケニル,アルキニル,アラルキル,アリール,及び複素環基から選ばれる最大3の置換基で場合により置換されてもよく,
各R^(24)は,独立して,H,アルキル,-OH,-O-アルキル,-O-アリール,-O-アラルキル,-アルキル-O-アルキル,-アルキル-O-アリール,アルケニル,アルキニル,シクロアルキル,シクロアルケニル,アラルキル,アリール及び複素環基から選ばれ;
R^(25)及びR^(26)は,それらが結合する窒素と一緒になって5?7員環を形成し,当該環は場合により更なるヘテロ原子を含んでもよく,そしてハロ,CN,NO_(2),オキソ,アルキル,シクロアルキル,アルケニル,アルキニル,アラルキル,アリール,及び複素環基から選ばれる最大3の置換基で亜場合により置換されてもよく;
tは,0?6であり;
vは,1?6であり;
wは,0?6であり;
xは1又は2であり;
yは1又は2であり;そして
R^(46)は,ともに,C_(2)-C_(6)アルキル-OH,及びC_(2)-C_(6)アルキル-O-C_(2)-C_(6)アルキルから選ばれる}
で表される化合物,又はその医薬として許容される塩,立体異性体,又は水和物。」を,

補正後の請求項1である,
「以下の式:
【化1】

で表される化合物,又はその医薬として許容される塩,立体異性体,又は水和物。」とする補正を含むものである。

2 本件補正の適否

(1)補正の目的の適否

本件補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「化合物」について,補正前の請求項1の式Aで表される化合物(マーカッシュ形式で表されている化合物)から,補正前の請求項9に化学構造式を示して記載されており,補正前の請求項1の式Aで表される化合物の一つである[式Aにおいて,R^(1)がC_(2)アルキルであるエチル,R^(2)がC_(1)アルキルであるメチル,R^(3)がC_(3)アルキルであるn-プロピル,AがC-H,BがC-H,DがC-(SO_(2)-R^(4)),EがC-H,R^(4)が-N(R^(42))(R^(43)),R^(42)が直鎖アルキルであるメチル,R^(43)がC_(2)アルキル-O-アルキルであるメトキシエチルの化合物],すなわち,


」に限定する補正を含むものである。
そして,その補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,補正後の請求項1についての補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について

そこで,本件補正後の上記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて以下検討する。

ア 本願補正発明

本願補正発明は,上記1において補正後の請求項1に係る発明として記載したとおりである。

イ 刊行物

刊行物1:特表2001-522851号公報(原査定における引用文献2)

ウ 刊行物の記載事項

本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物1には,以下の事項が記載されている。

1a「【請求項1】一般式(I)
【化1】

[式中,
R^(1)は水素又は炭素数が最高で4の直鎖状もしくは分枝鎖状アルキルを示し,
R^(2)は炭素数が最高で4の直鎖状アルキルを示し,
R^(3)及びR^(4)は同一もしくは異なり,それぞれ水素を示すか,あるいはそれぞれ炭素数が最高で8の直鎖状もしくは分枝鎖状アルケニル又はアルコキシを示すか,あるいは
炭素数が最高で10であり,場合により酸素原子により中断されていることができ,場合によりトリフルオロメチル,トリフルオロメトキシ,ヒドロキシル,ハロゲン,カルボキシル,ベンジルオキシカルボニル,炭素数が最高で6の直鎖状もしくは分枝鎖状アルコキシカルボニルから成る群より選ばれる同一もしくは異なる置換基により及び/又は式-SO_(3)H,-(A)_(a)-NR^(7)R^(8),-O-CO-NR^(7’)R^(8’),-S(O)_(b)-R^(9),-P(O)(OR^(10))(OR^(11)),
【化2】

の基により単-もしくは多置換されていることができる直鎖状もしくは分枝鎖状アルキル鎖を示し,
ここで
a及びbは同一もしくは異なり,それぞれ0もしくは1の数を示し,
Aは基CO又はSO_(2)を示し,
R^(7),R^(7’),R^(8)及びR^(8’)は同一もしくは異なり,それぞれ水素を示すか,あるいは
炭素数が3?8のシクロアルキル,炭素数が6?10のアリール,S,N及びOより成る群からの最高で3個の複素原子を有し,場合によりベンゾ-縮合していることができる5-?6-員の不飽和,部分的不飽和もしくは飽和複素環を示し,ここで上記の環系は場合によりヒドロキシル,ニトロ,トリフルオロメチル,トリフルオロメトキシ,カルボキシル,ハロゲン,それぞれ炭素数が最高で6の直鎖状もしくは分枝鎖状アルコキシもしくはアルコキシカルボニルより成る群から選ばれる同一もしくは異なる置換基により又は式-(SO_(2))_(c)-NR^(12)R^(13)の基により単-もしくは多置換されていることができ,
ここで
cは0又は1の数を示し,
R^(12)及びR^(13)は同一もしくは異なり,それぞれ水素又は炭素数が最高で5の直鎖状もしくは分枝鎖状アルキルを示すか,
あるいは
R^(7),R^(7’),R^(8)及びR^(8’)はそれぞれ炭素数が最高で6の直鎖状もしくは分枝鎖状アルコキシを示すか,あるいは
炭素数が最高で8であり,場合によりヒドロキシル,ハロゲン,炭素数が6?10のアリール,それぞれ炭素数が最高で6の直鎖状もしくは分枝鎖状アルコキシもしくはアルコキシカルボニルより成る群から選ばれる同一もしくは異なる置換基により又は式-(CO)_(d)-NR^(14)R^(15)の基により単-もしくは多置換されていることができる直鎖状もしくは分枝鎖状アルキルを示し,
ここで
R^(14)及びR^(15)は同一もしくは異なり,それぞれ水素又は炭素数が最高で4の直鎖状もしくは分枝鎖状アルキルを示し,
dは0もしくは1の数を示すか,
あるいは
R^(7)とR^(8)及び/又はR^(7’)とR^(8’)は窒素原子と一緒になって場合によりS及びOより成る群からのさらなる複素原子又は式-NR^(16)の基を含有することができる5-?7-員の飽和複素環を形成し,
ここでR^(16)は水素,炭素数が6?10のアリール,ベンジル,S,N及びOより成る群からの最高で3個の複素原子を有し,場合によりメチルにより置換されていることができる5-?7-員の芳香族もしくは飽和複素環を示すか,あるいは
炭素数が最高で6であり,場合によりヒドロキシルで置換されていることができる直鎖状もしくは分枝鎖状アルキルを示し,
R^(9)は炭素数が6?10のアリールを示すか,あるいは
炭素数が最高で4の直鎖状もしくは分枝鎖状アルキルを示し,
R^(10)及びR^(11)は同一もしくは異なり,それぞれ水素又は炭素数が最高で4の直鎖状もしくは分枝鎖状アルキルを示し,
ならびに/あるいはR^(3)/R^(4)の下に上記で挙げたアルキル鎖は場合により炭素数が3?8のシクロアルキル,炭素数が6?10のアリールにより又はS,N及びOより成る群からの最高で4個の複素原子もしくは式-NR^(17)の基を含有することができ,場合によりベンゾ-縮合していることができる5-?7-員の部分的不飽和,飽和もしくは不飽和複素環により置換されていることができ,
ここで
R^(17)は水素,ヒドロキシル,ホルミル,トリフルオロメチル,それぞれ炭素数が最高で4の直鎖状もしくは分枝鎖状アシルもしくはアルコキシを示すか,
あるいは炭素数が最高で6であり,場合によりヒドロキシル及び炭素数が最高で6の直鎖状もしくは分枝鎖状アルコキシより成る群から選ばれる同一もしくは異なる置換基により単-もしくは多置換されていることができる直鎖状もしくは分枝鎖状アルキルを示し,
そしてここでアリール及び複素環は場合によりニトロ,ハロゲン,-SO_(3)H,それぞれ炭素数が最高で6の直鎖状もしくは分枝鎖状アルキルもしくはアルコキシ,ヒドロキシル,トリフルオロメチル,トリフルオロメトキシより成る群から選ばれる同一もしくは異なる置換基により及び/又は式-SO_(2)-NR^(18)R^(19)の基により単-もしくは多置換されていることができ,
ここでR^(18)及びR^(19)は同一もしくは異なり,それぞれ水素又は炭素数が最高で6の直鎖状もしくは分枝鎖状アルキルを示し,
・・・・・
R^(5)及びR^(6)は同一もしくは異なり,それぞれ水素,炭素数が最高で6の直鎖状もしくは分枝鎖状アルキル,ヒドロキシルを示すか,あるいは
炭素数が最高で6の直鎖状もしくは分枝鎖状アルコキシを示す]
の2-フェニル-置換イミダゾトリアジノン類ならびにその塩,水和物,N-オキシド及び異性体。」

1b「【0001】本発明は2-フェニル-置換イミダゾトリアジノン類,その製造法ならびに薬剤として,特にcGMP-代謝性ホスホジエステラーゼの阻害剤としてのその使用に関する。
・・・・・
【0004】本発明に従う化合物はサイクリックグアノシン3’,5’-モノホスフェート(cGMP-PDEs)を代謝するホスホジエステラーゼの1つもしくはそれより多くの有力な阻害剤である。Beavo及びReifsnyder(Trends in Pharmacol.Sci.11,150-155,1990)の命名法に従うと,これらはホスホジエステラーゼアイソエンザイムPDE-I,PDE-II及びPDE-Vである。」

1c「【0131】本発明に従う一般式(I)の化合物は予期し得ぬ有用な薬理学的活性範囲を有する。
【0132】それらはcGMP-代謝性ホスホジエステラーゼの1つもしくはそれより多く(PDE I,PDE II及びPDE V)を阻害する。これはcGMPを増加させる。・・・
・・・・・
【0134】従って,それを心臓血管障害の処置のため,例えば高血圧,ニューロン緊張亢進,安定及び不安定狭心症,末梢及び心臓血管病,不整脈の処置のため,血栓塞栓障害及び虚血,例えば心筋梗塞,発作,一過性及び虚血性発作,狭心症,末梢循環の閉塞の処置のため,血栓崩壊治療,経皮経管動脈形成(PTA),経皮経管冠動脈形成(PTCA)及びバイパスの後の再狭窄の予防のための薬剤において用いることができる。さらに,それらは脳血管障害のためにも重要であり得る。平滑筋に対するその弛緩作用の故に,それらは尿生殖系の障害,例えば前立腺の肥大,失禁の処置に,特に勃起機能障害及び女性の性的機能障害の処置に適している。
ホスホジエステラーゼ(PDEs)の活性
cGMP-刺激PDE II,cGMP-阻害PDE III及びcAMP-特異的PDE IVをブタ又はウシ心臓心筋から単離した。Ca^(2+)-カルモジュリン-刺激PDE Iをブタ大動脈,ブタ脳又は好ましくはウシ大動脈から単離した。cGMP-特異的PDE Vをブタ小腸,ブタ大動脈,ヒト血小板及び好ましくはウシ大動脈から得た。本質的にM.Hoey and Miles D.Houslay,Biochemical Pharmacology,Vol.40,193-202(1990)及びC.Lugman et al.,Biochemical Pharmacology,Vol.35,1743-1751(1986)の方法に従い,MonoQ^(R) Pharmacia上のアニオン交換クロマトグラフィーにより精製を行った。
【0135】5mMのMgCl_(2),0.1mg/mlのウシ血清アルブミン及び800Bq[^(3)H]cAMP又は[^(3)H]cGMPのいずれかを含有する20mMトリス/HCl-緩衝液pH7.5中の100mlの試験混合物を用いて酵素活性を決定する。問題のヌクレオチドの最終的濃度は10^(-6)モル/lである。酵素の添加により反応を開始させ,酵素の量は,30分のインキュベーションの間に基質の約50%が転換される量である。cGMP-刺激PDE IIの試験には[^(3)H]cAMPを基質として用い,10^(-6)モル/lの非-標識cGMPを混合物に加える。Ca^(2+)-カルモジュリン-依存性PDE Iの試験には1mMのCaCl_(2)及び0.1mMのカルモジュリンを反応混合物に加える。1mMのcAMP及び1mMのAMPを含有する100mlのアセトニトリルの添加により反応をクエンチングする。100mlの反応混合物をHPLCにより分離し,開裂生成物を連続シンチレーションカウンターを用いてオン-ラインで定量的に決定する。測定される物質濃度は,反応速度が50%低下する濃度である。さらに,Amersham Life Scienceからの「ホスホジエステラーゼ[^(3)H]cAMP-SPA酵素アッセイ」及び「ホスホジエステラーゼ[^(3)H]cGMP-SPA酵素アッセイ」を試験のために用いた。製造者の試験案にしたがって試験を行った。PDE IIの活性の決定のためには,[^(3)H]cAMP SPAアッセイを用い,酵素の活性化のために10^(-6)MのcGMPを反応混合物に加えた。PDE Iの測定のためには,10^(-7)Mのカルモジュリン及び1mMのCaCl_(2)を反応混合物に加えた。PDE Vは[^(3)H]cGMP SPAアッセイを用いて測定した。
試験官内におけるホスホジエステラーゼの阻害
【0136】


【0137】一般原則として,この型の1種もしくはそれより多いホスホジエステラーゼの阻害はcGMP濃度を増加させる。かくして該化合物はcGMP濃度の増加が有益であると思われるすべての治療のために興味深いものである。」

1d「【0276】実施例16
2-[2-エトキシ-5-(4-メチル-ピペラジン-1-スルホニル)-フェニル]-5-メチル-7-プロピル-3H-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-4-オン
【0277】【化112】

【0278】1.23g(3ミリモル)の4-エトキシ-3-(5-メチル-4-オキソ-7-プロピル-3,4-ジヒドロ-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-2-イル)-ベンゼンスルホニルクロリドを40mlのジクロロメタン中に溶解し,0℃に冷却する。スパチュラの先のDMAPを加えた後,0.90g(9.00ミリモル)のN-メチルピペラジンを加え,反応混合物を室温で終夜撹拌する。混合物をジクロロメタンで希釈し,有機相を水で2回洗浄し,硫酸ナトリウム上で乾燥し,溶媒を減圧下で除去する。エーテルからの結晶化は1.25g(88%)の無色の固体を与える。
200MHz^(1)H-NMR(CDCl_(3)):1.01,t,3H;1.59,t,3H;1.88,hex,2H;2.29,s,3H;2.51,m,4H;2.63,s,3H;3.00,t,2H;3.08,m,4H;4.33,quart.,2H,7.17,d,,1H;7.88,dd,1H;8.44,d,1H;9.75,s,1H。
・・・・・
【0285】実施例19
2-[2-エトキシ-5-(4-エチル-ピペラジン-1-スルホニル)-フェニル]-5-メチル-7-プロピル-3H-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-4-オン
【0286】【化115】

【0287】470mg(1.14ミリモル)の4-エトキシ-3-(5-メチル-4-オキソ-7-プロピル-3,4-ジヒドロ-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-2-イル)-ベンゼンスルホニルクロリドを20mlのジクロロメタン中に溶解し,0℃に冷却する。390mg(3.42ミリモル)のN-エチルピペラジンを加え,反応混合物を室温で終夜撹拌する。混合物をジクロロメタンで希釈し,有機相を水で2回洗浄し,硫酸ナトリウム上で乾燥し,溶媒を減圧下で除去する。エーテルからの結晶化は370mg(66%)の無色の固体を与える。
400MHz^(1)H-NMR(CDCl_(3)):1.01,t,3H;1.59,t,3H;1.88,hex,2H;2.42,quart.,2H;2.56,m,4H;2.63,s,3H;3.00,t,2H;3.10,m,4H;4.33,quart.,2H,7.17,d,,1H;7.88,dd,1H;8.44,d,1H;9.75,s,1H。
・・・・・
【0324】実施例32
N,N-ジエチル-4-エトキシ-3-(5-メチル-4-オキソ-7-プロピル-3,4-ジヒドロ-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-2-イル)ベンゼンスルホンアミド
【0325】【化128】

【0326】同じ方法により,400mg(0.97ミリモル)の4-エトキシ-3-(5-メチル-4-オキソ-7-プロピル-3,4-ジヒドロ-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-2-イル)-ベンゼンスルホニルクロリド及び210mg(2.92ミリモル)のジエチルアミンを用いて出発し,398mg(89%)のN,N-ジエチル-4-エトキシ-3-(5-メチル-4-オキソ-7-プロピル-3,4-ジヒドロ-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-2-イル)ベンゼンスルホンアミドが得られる。
R_(f)=0.49(ジクロロメタン/メタノール=20:1)
200MHz^(1)H-NMR(CDCl_(3)):1.02,t,3H;1.20,t,6H;1.49,t,1.61,t,3H;1.88,sex.,2H;2.30,s,ブロード,1H;2.62,s,3H;2.99,t,2H;3.32,m,4H;3.78,t,2H;3.80,m,2H;4.37,quart.,2H;7.15,d,1H;7.98,dd,1H;8.56,d,1H;9.70,s,1H。
【0327】実施例33
N-(2-メトキシエチル)-3-(5-メチル-4-オキソ-7-プロピル-3,4-ジヒドロ-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-2-イル)-4-エトキシ-ベンゼンスルホンアミド
【0328】【化129】

【0329】同じ方法により,1.23g(3ミリモル)の4-エトキシ-3-(5-メチル-4-オキソ-7-プロピル-3,4-ジヒドロ-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-2-イル)-ベンゼンスルホニルクロリド及び680mg(9ミリモル)の2-メトキシエチルアミンを用いて出発し,900mg(67%)のN-(2-メトキシエチル)-3-(5-メチル-4-オキソ-7-プロピル-3,4-ジヒドロ-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-2-イル)-4-エトキシ-ベンゼンスルホンアミドが得られる。
R_(f)=0.25(ジクロロメタン/メタノール=95:5)
400MHz^(1)H-NMR(CDCl_(3)):1.01,t,3H;1.58,t,3H;1.88,sex.,2H;2.62,s,3H;3.01,t,2H;3.18,quart.,2H;3.30,s,3H;3.45,t,2H;4.32,quart.,2H;5.12,t,1H;7.13,d,1H;7.97,dd,1H;8.53,d,1H;9.82,s,1H。」

1e「



1f「





エ 刊行物1に記載された発明

刊行物1は,「cGMP-代謝性ホスホジエステラーゼの阻害剤」として使用し得る「2-フェニル-置換イミダゾトリアジノン類」に関し記載するものであり(1b),請求項1の一般式(I)の2-フェニル-置換イミダゾトリアジノン類(1a)の具体例として,刊行物1の実施例33には,化学構造式,製造法及びNMRスペクトルの示された化合物「N-(2-メトキシエチル)-3-(5-メチル-4-オキソ-7-プロピル-3,4-ジヒドロ-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-2-イル)-4-エトキシ-ベンゼンスルホンアミド」が記載されている(1d)。

そうすると,刊行物1には,
「以下の式

で表わされる化合物」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

オ 本願補正発明と引用発明との対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると,両者は刊行物1の一般式(I)

[式中,R^(1)がメチル基,R^(2)がn-プロピル基,3-ベンゼンスルホンアミドにおいて,R^(4)が2-メトキシエチル基,R^(5)が水素,R^(6)が4-エトキシ基]で表される化合物である点で,共通する。

そうすると,両者は,以下の一般式(I)


[式中,R^(1)がメチル基,R^(2)がn-プロピル基,3-ベンゼンスルホンアミドにおいて,R^(4)が2-メトキシエチル基,R^(5)が水素,R^(6)が4-エトキシ基]で表される化合物である点で一致し,以下の点で相違するといえる。

相違点:前記一般式(I)で表される化合物におけるR^(3)が,本願補正発明ではメチル基であるのに対し,引用発明では水素である点

カ 判断

(ア)相違点について
引用発明は,cGMP-代謝性ホスホジエステラーゼ阻害剤として使用し得る(1b),刊行物1の請求項1の一般式(I)の2-フェニル-置換イミダゾトリアジノン類(1a)の具体例として,実施例33(1d)に記載された化合物であり,当該一般式(I)において,R^(1)がメチル基,R^(2)がn-プロピル基,3-ベンゼンスルホンアミドにおける,R^(3)が水素,R^(4)が2-メトキシエチル基,R^(5)が水素,R^(6)が4-エトキシ基の化合物である。

当該一般式(I)の化合物につき,R^(3)及びR^(4)については,その選択肢として,請求項1には「R^(3)及びR^(4)は同一もしくは異なり,それぞれ水素を示すか,・・あるいは炭素数が最高で10であり,場合により酸素原子により中断されていることができ,場合により・・ヒドロキシル・・置換基により・・置換されていることができる直鎖状・・アルキル基を示し」(1a)と記載され,R^(3)及びR^(4)は異なって,それぞれ水素,あるいは,炭素数が最高で10であり,場合により酸素原子により中断されていることができ,場合によってヒドロキシル基により置換されていることができる直鎖状のアルキル基を適用し得ることが記載されている。

そして,刊行物1には,当該一般式(I)の化合物のさらなる具体例として,実施例32,118,275に,刊行物1の一般式(I)のうちR^(3)及びR^(4)以外は引用発明と同じ化学構造の化合物において,R^(3)が,エチル基(1d 実施例32),メチル基(1e 実施例118),プロピル基(1f 実施例275)であり,R^(4)が,エチル基(1d 実施例32),3-ヒドロキシプロピル基(1e 実施例118),2-ヒドロキシエチル基(1e 実施例275)である化合物をそれぞれ製造して得たことが記載され,これらのうち実施例32,275の化合物は,共にホスホジエステラーゼ5(PDEV)阻害活性のあることが確認されている(1c【表10】)。

そうすると,刊行物1の一般式(I)のうちR^(3)及びR^(4)以外は引用発明と同じ化学構造の化合物について,R^(3)及びR^(4)は異なって,それぞれ水素,あるいは,炭素数が最高で10であり,場合により酸素原子により中断されていることができ,場合によってヒドロキシル基により置換されていることができる直鎖状アルキル基を選択し得るものであり,且つ,R^(3)がエチル基やプロピル基,R^(4)がエチル基や2-ヒドロキシエチル基の前記化合物はPDEV阻害活性を有するので,当該R^(3)として,エチル基やプロピル基と同じく代表的なアルキル基であるメチル基や,R^(3)の選択肢としてアルキル基と並列して記載されている水素を適用し,当該R^(4)として,エチル基や2-ヒドロキシエチル基と類似する,炭素数が最高で10であり酸素原子により中断された直鎖状アルキル基である2-メトキシエチル基を適用した場合も,同様に,PDEV阻害活性を有するものと推測されるから,PDEV阻害活性を有する他の化合物を得ようとして,引用発明において,当該一般式(I)の化合物のR^(3)に相当する置換基として,水素に代えて,R^(3)の前記選択肢の範囲の中から直鎖状のアルキル基の代表例であるメチル基を適用することは,当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)本願補正発明の効果について
a 本願補正発明の効果は,本願明細書の従来技術の記載(【0001】ないし【0006】)を踏まえて記載された「【発明の概要】【0007】本発明は,改善された非特異的結合特性及び薬理性質を有するサルコシン官能基を有する2-フェニル置換インミダゾトリアジノン(審決注:イミダゾトリアジノンの誤訳と認める。)化合物に関する・・」との記載や,当該化合物の生物学的及び薬理学的性質の試験結果である【表1】ないし【表3】(【0191】ないし【0193】)から総合的に判断すると,改善された非特異的結合性及び改善された高い薬理活性すなわちPDEV阻害活性を有する,2-フェニル置換イミダゾトリアジノン化合物の一つである本願補正発明の化合物を提供できることであると認められる。

b 刊行物1の段落【0134】ないし【0136】(1c)には,刊行物1の一般式(I)のうちR^(3)及びR^(4)以外は引用発明と同じ化学構造の化合物である,実施例32,実施例275,実施例16(Sildenafil)及び実施例19(Valdenafil)の各化合物について,試験管内におけるホスホジエステラーゼの阻害活性試験を行いその結果が示されている。
この試験は,蛋白質であるウシ血清アルブミンを含有する試験混合物を用いて酵素活性を試験しており(1c【0135】),その試験結果である【表10】には,実施例32,実施例275,実施例16(Sildenafil)及び実施例19(Valdenafil)の全ての化合物は高いPDEV阻害活性を有することが示されていることから,実施例32,実施例275,実施例16(Sildenafil)及び実施例19(Valdenafil)の各化合物は,非特異的蛋白質結合性は低く,高いPDEV阻害活性を有する化合物であると理解される。
そうすると,刊行物1の一般式(I)のうちR^(3)及びR^(4)以外は引用発明と同じ化学構造の化合物につき,R^(3)がエチル基やプロピル基の化合物(実施例32,275)が,非特異的蛋白質結合性は低く,高いPDEV阻害活性を有する化合物と理解されることから,当該R^(3)としてエチル基やプロピル基と同じく代表的なアルキル基であるメチル基を適用した場合も,同様に,非特異的蛋白質結合性は低く,高いPDEV阻害活性を有する化合物であると推測される。

したがって,前記(ア)で述べた,引用発明において,当該一般式(I)の化合物のR^(3)に相当する置換基として,水素に代えて,メチル基を適用した化合物は,非特異的蛋白質結合性は低く,高いPDEV阻害活性を有する化合物と推測されるものである。

c 本件請求人は,平成25年11月21日付けの審判請求書の手続補正書(方式)で示した,本願補正発明(化合物5)と,市販のPDEV阻害剤である刊行物1の実施例16の化合物(Sildenafil)及び実施例19の化合物(Valdenafil)との阻害活性の比較実験結果を,平成27年9月3日付け回答書に再度【表2】として示し,本願補正発明は刊行物1の実施例16,19に記載の各化合物よりも優れたPDEV阻害活性を有すること,さらにこの結果を踏まえると,本願補正発明は刊行物1の実施例32,275に記載の化合物よりも優れたPDEV阻害活性を有することが分かること,それ故,本願補正発明の効果は,刊行物1の記載事項から予測し得ない顕著な効果である旨主張している。

しかしながら,請求人は,引用発明と本願補正発明とを対比し,本願補正発明の効果は当業者の予測し得ない顕著なものであることを示していないので,本願補正発明は当業者が予測し得ない顕著な効果があるとはいえない。
また,前記回答書に示された,本願補正発明と刊行物1の実施例16,19に記載の各化合物との阻害活性の比較実験結果である【表2】を検討すると,PDEV阻害活性が示されている「PDE-5 IC_(50)(nM)」値につき,実施例19の化合物(Valdenafil)は「0.18」(nM),実施例16の化合物(Sildenafil)は「1.6」(nM)と記載されており,実施例19の化合物(Valdenafil)のPDEV阻害活性は実施例16の化合物(Sildenafil)のPDEV阻害活性より約10倍も高いことが示されているが,刊行物1の実施例16,19,32,275の各化合物のPDEV阻害活性が示されている刊行物1の【表10】(1c)には,実施例16の化合物と実施例19の化合物の各「PDEV IC_(50)[nM]」は,共に「2」(nM)であり,両者は同程度のPDEV阻害活性を有するものであることが示されている。そうすると,前記回答書に【表2】として示された,本願補正発明と刊行物1の実施例16,19に記載の各化合物との阻害活性の比較実験結果は,刊行物1の記載と整合性がなく,実験によってこの程度の誤差が生じるものといえるから,この請求人が示した比較実験結果を直ちに参酌し本願補正発明は格別顕著な効果があるとすることはできない。
仮に,前記回答書の【表2】を参酌したとしても,「PDE-5 IC_(50)(nM)」につき,本願補正発明(化合物5)と刊行物1の実施例19の化合物(Valdenafil)とは,0.15と0.18の違いであって,実質的に同程度のPDEV阻害活性を有するものであるといえる。そして,刊行物1の【表10】(1c)より,刊行物1の実施例32,275の化合物のPDEV阻害活性は,刊行物1の実施例16,19の化合物のPDEV阻害活性と同程度であることを踏まえると,本願補正発明(化合物5)と,刊行物1の実施例16,19,32,275の各化合物とは,同程度のPDEV阻害活性を有するものと理解される。
そうすると,刊行物1の一般式(I)のうちR^(3)及びR^(4)以外は引用発明と同じ化学構造の化合物について,R^(3)及びR^(4)は異なって,それぞれ水素,あるいは,炭素数が最高で10であり,場合により酸素原子により中断されていることができ,場合によってヒドロキシル基により置換されていることができる直鎖状アルキル基を選択し得るものであり,且つ,R^(3)がエチル基やプロピル基,R^(4)がエチル基や2-ヒドロキシエチル基の前記化合物はPDEV阻害活性を有するので,当該R^(3)として,エチル基やプロピル基と同じく代表的なアルキル基であるメチル基や,R^(3)の選択肢としてアルキル基と並列して記載されている水素を適用し,当該R^(4)として,エチル基や2-ヒドロキシエチル基と類似する,炭素数が最高で10であり酸素原子により中断された直鎖状アルキル基である2-メトキシエチル基を適用した場合も,同様に,PDEV阻害活性を有するものと推測されるから,前記(ア)で述べた,引用発明において,当該一般式(I)の化合物のR^(3)に相当する置換基として,水素に代えて,メチル基を適用した化合物も,本願補正発明と,同程度のPDEV阻害活性を有するものと推測される。

d さらに,平成27年2月26日付け審尋において,「本願明細書に記載されている本願発明の上記効果が,刊行物1の実施例32,33,118,275(実施例277の化合物は実施例33の化合物と同じ)に記載の化合物の効果と比較して,当業者が予測し得ない顕著な効果であることを,本願明細書の記載から推認できる範囲において説明ないし裏付けることができるのであれば説明され原則として本願発明の効果として示された本願明細書に記載の上記実験データ(【表1】(【0191】),【表2】(【0192】),【表3】(【0193】))と同じ項目について,刊行物1の実施例32,33,118,275に記載の化合物の比較実験データを示されたい。」と伝え,請求人からの本願補正発明の効果が刊行物1記載の前記各化合物の効果と比較し当業者が予測し得ない顕著な効果であることを,本願明細書の記載から推認できる範囲において説明ないし裏付ける根拠を示す機会を与えたが,本願明細書に記載の実験データ(【表1】(【0191】),【表2】(【0192】),【表3】(【0193】))と同じ項目につき,刊行物1の実施例32,33,118,275に記載の化合物で行った比較実験データの提出等,該裏付ける根拠の提出はなされなかった。

e なお,前記審尋で述べたように,前記審判請求書の手続補正書(方式)に示され添付書類1,2として提出されている比較実験結果について,本願補正発明が,本願優先日前公知の2-フェニル-置換イミダゾトリアジノン類と比較し,低用量で長期間の優れた血圧低下活性を有することや,血圧低下に関連する大動脈,心臓,血漿,血液への分布が高いという特徴を有していることは,本願明細書の記載から推認できる効果とは認められず,参酌することはできない。

f 以上より,本願補正発明の効果は,刊行物1の記載事項から予測される範囲内のものであり,格別顕著なものとは認められない。

キ 独立特許要件のまとめ

したがって,本願補正発明は,その優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,請求項1についての補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものである。

3 補正の却下の決定のむすび

以上のとおり,請求項1についての補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから,本件補正は,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成25年10月4日付けの手続補正は,上記第2に記載されたとおり却下されたので,この出願の発明は,平成25年4月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記第2 1に本件補正前の請求項1に係る発明として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要

本願発明についての原査定の拒絶の理由は,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された引用文献2(特表2001-522851号公報(引き続き「刊行物1」という。))に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。

3 刊行物

刊行物1:特表2001-522851号公報(第2 2(2)イに示した刊行物1と同じ。)

4 刊行物の記載事項

前記第2 2(2)ウに記載したとおりである。

5 刊行物1に記載された発明

前記第2 2(2)エに記載したとおりである。

6 対比・判断

本願発明は,上記第2 2(2)オ,カで検討した本願補正発明に記載の化合物も含まれる発明であるから,本願補正発明を包含する発明である。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を減縮したものに相当する本願補正発明が,前記第2 2(2)オ,カに記載したとおり,この優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,この優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

以上のとおり,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,この出願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-29 
結審通知日 2015-10-06 
審決日 2015-10-21 
出願番号 特願2009-525652(P2009-525652)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
P 1 8・ 575- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 齊藤 真由美
木村 敏康
発明の名称 薬物動態が改善された化合物  
代理人 津田 英直  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 福本 積  
代理人 武居 良太郎  

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